MOTOKA 第8章




 あれは小学校6年の時、優里が幼馴染みの玲子ちゃんの家族と一緒にスキーに行った時のことだった。
 高速道路が渋滞し始めてノロノロ運転が始まった時、優里はいやな予感がした。
 実はさっきからトイレに行きたかった。

 家を出て高速に乗ってから3時間あまりが経っていた。たった今までは車は順調に走ってきていて、隣に座っている玲子ちゃんと、持ってきたお菓子を食べたりジュースを飲んだりしながら楽しくお喋りをしていた。前の席の母親たちも何だか話が盛り上がっているようで、とってもにぎやかな車内だった。
 車が渋滞にはまって、止まったりノロノロ動いたりを繰り返すようになってしばらくした時、前を走っている男性陣の車を運転しているはずの父親から助手席に座っている優里の母親の携帯に電話があった。どうやらこの先の大きな峠を抜ける長いトンネルの先が大雪のためチェーン規制になっていて、渋滞はそこからずっと続いているらしい。
「あらまあ、まいったわねー、まあ、しょうがないわね」とため息をついた優里の母親は、後部座席に向って振返ると「あんたたち、おトイレだいじょうぶ?」と聞いてきた。
「はい、わたしはだいじょうぶです」とすぐに隣に座っている玲子ちゃんが答えた。
「あっ、お母さん。わたしちょっとおトイレ行きたい、、、」と優里は母親にむかって言った。母親は「あら、そう、じゃあとにかく次のサービスエリアで止まりましょう」と言い、高速道路マップを開いて運転している玲子ちゃんの母親と相談をしている。
 不安な気持ちで曇った窓ガラスを少し手でこすって外を覗き込むと、山の間にどんよりと重い灰色の空が見える。今にも雪が降り出しそうな冬の曇り空だ。
「あと7キロくらい先にサービスエリアがあるから、そこまで我慢してね」と母親が言った。「あと何分くらい?」「うーん、ちょっとわからないわねえ、、、」
 優里は心配になった。もうすでに結構トイレに行きたかったからだ。自分はあとどれくらいトイレを我慢できるのだろうか?サービスエリアまで我慢できなかったらどうしよう、でもきっとあと15分とか20分あればサービスエリアに着くだろう、それくらいは何とか我慢できるだろう。

 車は相変わらずノロノロと止まったり動いたりを繰り返している。さっきまでにぎやかだった車内の会話もだんだん減ってきて、隣の玲子ちゃんは窓際によりかかってウトウトしはじめた。前の席の母親たちは相変わらず世間話で盛り上がっている。車はさっきからほとんど進まない。優里はけっこう心配になってきた、さっきから確かにどんどんトイレに行きたくなってきている。玲子ちゃんみたいに寝てしまおう、そうすればトイレの事はしばらく忘れる事ができるかもしれない、と思って優里も窓際によりかかった。曇った窓ガラスをもう一度拭って外を覗いてみると、相変わらずどんよりとした空からは小さな白い雪の粒が舞いはじめている。眠ってしまおうと 目を閉じてみたが、トイレに行きたい感覚がどんどん強くなってきてとても眠るどころではない。ああどうしよう、おトイレ行きたい、、車が動いたり止まったりする時のシートの揺れが下腹部をたまらなく刺激する、体を起こしてハンドルの横のフロントパネルの時計を覗き込んだ、さっきからもう30分以上経っている。
「お母さん、あとどれくらい?」
 優里の質問に運転席の玲子ちゃんのお母さんが答えた。
「そうねえ、さっきからまだ2キロしか進んでないわねえ、、、優里ちゃん、おトイレだいじょうぶ?」
「あのー、もうけっこうダメなんですけど、、、」
「困ったわねえ、男の人みたいに外でする訳にもいかないし、、、どうしましょう、あと30分くらい我慢できない?」
 えー、そんな、あと30分なんて絶対に無理だ、どうしよう、、、
 その時、止まっていた車がソロソロと動き出した。今まではちょっと動くとまた止まっての繰り返しだったのだが、今度はノロノロながらも何とか止まらずに走っている。
「あっ、動き出したかしら」と優里の母親が言った。「優里、もうちょっと我慢してね、動き出したみたいだから」
 確かに車は少しずつ動き出している、だけどあと30分なんてやっぱりとても我慢出来そうもなかった。ノロノロと動き出したのはいいのだけれど、今度は路面の継ぎ目の上を通るときの「ボスッ」という振動が一定の間隔でおしっこでいっぱいになっている優里の下腹部を刺激する。
 ああ、どうしよう、やっぱりもうこれ以上我慢できないかもしれない、ジーンズのファスナーを開けてタオルか何かをあそこに当てて少ずつそれにおしっこをしみ込ませれば、今より少しは楽になるだろうか、確かリュックの中にタオルが入っているはずだ、でも今の状態で少しだけおしっこを出して止められるかしら、けれどもこの満タンの下腹部の苦痛を少しでも和らげるにはそれしか方法は思いつかない、どうしよう、一滴ずつすればだいじょうぶかなあ、ああ、とにかくもう我慢できない、、。
 優里は座席の後ろの荷台から自分のリュックを取ると、中からガサゴソとタオルを探し出した。もう膀胱は限界までふくらんでいてパンパンだ、これ以上の液体を追加注入されたら確実に溢れてしまう。こうしている間にも少しずつ新しいおしっこが体の中で作られて一滴ずつどんどん満タンの貯水池に送り込まれているにちがいない、何とかして新たに注ぎ込まれるおしっこのためのスペースを作らないと本当に大変な事になってしまう。
 隣に座っている玲子ちゃんは、スヤスヤと寝息をたてている。優里はジーンズのファスナーを降ろすと、折りたたんだタオルを下着の中に入れてあそこにそっと押し当てた。もうすでに限界状態の貯水池に新たに注ぎ込まれるおしっこの量の分だけでも少しずつ排出して、車がサービスエリアに着くまでに何とかお漏らしだけは避けなければ。とにかく今の状態を何とかするには、こうする以外に他に方法は考えられない。
 しばらくソロソロと動いていた車の流れが再び止まってしまった。ゴソゴソという優里の気配に母親が後部座席を振り返る。ジーンズを少し降ろして股間にタオルを当てている優里を見ると「優里、あんた何やってんの、漏らしちゃったの」と慌てて聞いてきた。
 優里は赤くなって「えっ、ちがうちがう、もうこれ以上我慢できないからこうやって少しずつ出して溜められる量を増やそうと思って、、、」と何だかもっともらしく説明したのを今でもよく憶えている。
「ばかねえ、そんな事できるわけないでしょう、いったん出始めちゃったら途中で止められないのよ、女の人は」
 その母親のひと言で車内は一気にパニック状態になった。優里がまだお漏らしこそしていないけど、もう我慢の限界状態だとわかった母親たちは、慌てて何か優里のおしっこを溜められる物を探し始めた。この騒ぎでウトウトしていた玲子ちゃんも目を覚ましてしまった。
「優里ちゃん、だいじょうぶ?」心配そうに優里の方を見る。優里は股間にあてたタオルに思いっきり力をこめながらギュッと目を閉じて固まった状態だ。
 母親達は渋滞で止まっている車の中を何かないかとキョロキョロ見回している、後部座席にさっきまで飲んでいたジュースの空のペットボトルがあったが、男性ならいざしれず女性にはペットボトルの小さな口におしっこを注ぎ込む事はまず無理だ、助手席の足元のバッグにお茶の入っているステンレス製の水筒があった、この中のお茶を窓から捨ててしまえば何とか使えるんじゃない?と玲子ちゃんの母親が言った時には優里はもう限界だった、 股間を押さえているタオルに少しずつおしっこが染み始めている。
「お母さん、もうダメだ、、、出てきちゃってる、、」
 その時、「優里、これにしちゃいなさい!」と言って母親がバッグの中から見つけたコンビニの袋の口を開いて急いで優里に手渡した。優里は慌ててジーンズと下着を膝まで降ろしながらスニーカーを履いたまま座席の上にしゃがみこんでコンビニの袋の口を股間に当てた。と同時におしっこがバタバタと音を立てて袋の中に弾き出された。玲子ちゃんがコンビニの袋からおしっこがはみださないように、股間に当てられた袋の口を広げるのを手伝ってくれた。優里は、玲子ちゃんの前で恥ずかしい音をたててコンビニの袋におしっこをしている自分が、恥ずかしさを通り越して情けなかった。

 その事件はもちろん男性陣には内緒であったが、それ以降優里の家の車には「携帯トイレ」が常備されるようになった。
 そんな事を思い出したりした優里は、さっそく夏休みを使っておしっこを我慢する練習をすることにした。

 とりあえず自分で「夏休みの訓練メニュー」を考えてみた。
 まず、朝起きてすぐにコップ2杯のミネラルウォーターを飲む。
 朝食の時に大きなマグカップでコーヒーを2杯飲む。
 そして午前中は夏休みの宿題など部屋で勉強をする事になっているので、そのまま部屋にはいってトイレに行かないようにする。勉強をしながらも、ミネラルウォーターや麦茶をなるべく飲むようにする。


 今日で訓練開始からちょうど1週間だ。
 毎日朝から相当の水分と利尿作用のあるコーヒーを摂っているので、もちろん昼までトイレを我慢することはまったく無理だったが、優里は毎日とにかく午前中は1分でも長くトイレに行くのを我慢するように努力している。
 今朝も8時過ぎに朝食を終えて、部屋に入ってから1時間ほど経つと、下腹部が溜まってきたおしっこのせいでだんだんジンジンしてきた。
 今まではいつも心のどこかで警戒していたこの感覚が、不思議とここ数日間は何だか妙に愛おしく感じるようにさえなってきている。
 今日は朝から母親が出かけて留守だった。大学生の兄も今週はサークルの夏合宿で家にいない。
(今日は家に誰もいないから、我慢したおしっこの量をはかってみようかな、1週間の訓練で少しは増えたかなあ、、、)
 優里と素香の通っている学校は中等部から大学まで一貫教育なので高校入試がない、そのかわりに中3の夏休みの宿題の量はけっこうすごかった。
(あーあ、ずるいなー、素香はこんなのスラスラなんだろうな)
 優里は机の上の英文を読みながら素香のことを思い浮かべていた。明日は素香といっしょにプールに行く約束だ。そのあと母親が用意してくれた浴衣を二人で着て、優里の家から歩いて15分程の多摩川の花火大会に繰り出す予定になっている。素香は浴衣が初めてだからすごく楽しみだって言っていた。素香の浴衣姿は、もう絶対に可愛いに決まっている。お母さんは花火大会のために太巻とお稲荷さんのお弁当を作ってくれるって言って張り切っていた。素香は今までに何度かお稲荷さんを食べた事があって、大好物だって言ってた。明日の水着はこのあいだ素香といっしょに渋谷で買ったやつだ。たしか素香が買ったのは鮮やかなピンク色のビキニだ。たぶん素香はその水着を持ってくるだろう。思わず夏休み前に学校のプールで見た素香のスクール水着姿を思い出してしまう。明日の事を考えると今から何だかわくわくしてきた。
(ああ、おトイレ行きたい)
 下腹部のジンジンした感じがだんだん強くなってきていてじっとしていられなくなってきた。どうしても机の下の足は貧乏揺すりのように小刻みに動きだしてしまう。
(、、、おしっこしたいよー)
 おしっこの出口のあたりを左手で強く押さえる。
(うー、おトイレ行きたい、、、、)
 とにかく今日は力ずくでもおしっこの出口を押さえて我慢してみよう、誰も見てないし限界ギリギリまで挑戦してみようっと、そして量をはかってこの前よりも多かったら明日素香に報告しよう、そう思った優里は股間を押さえた手に力を込めると同時に、歯をくいしばって全身にもギュッと思いきり力を入れた。2、3秒全身にも力を込めたら限界状態の尿意が少し遠のいた気がした。
(ああ、ちょっと楽になったかなあ、、、)
 しかしそれもつかの間、少しするとまた激しい尿意が襲ってくる、もう机の上の英文は目に入らない、部屋の中はエアコンが効いていて快適な温度のはずなのに全身が汗ばんできた、こうなったらおしっこの出る穴を直接ふさいでみよう、誰も見てないし、そうすればもう少し我慢できるだろう、優里はこんどは右手を下着の中に入れて直接おしっこの出口を押さえる事にした、たぶんここらへんかなあ、割れ目の真ん中あたりに中指と人さし指をねじ込んでギュッと押さえる、爆発寸前の尿意が一瞬弱まった気がするが、これでちゃんとおしっこの出口をふさいでいるのだろうか、よく考えたら自分のおしっこの出口を見たことがないし、どんなとこからおしっこが出てくるのか想像もつかない、トイレで自分のおしっこを前から覗き込んだ事はあるけど、割れ目の間からシュ−って出てくるのが何とか見えるだけだしなあ、今度お風呂場で鏡を使って見てみなくちゃ、このあいだの素香のおしっこも割れ目の間からシュ−って出てくるとこしかわからなかったし、ああ、でもおしっこしたい、朝から飲んだ大量のミネラルウォーターやコーヒーが次々と出口に向って押し寄せているに違いない、両足が激しくステップを刻み出してしまう、もうじっとしていられない、出口を押さえている右手もゆすってしまう、耳のうしろから汗が出てくる感じがしてきた、ああ、もうホントにおしっこしたい、 下腹部のジンジンがいっそう強くなる、出口を押さえている右手に力を込めてさらに細かくゆする、頭のうしろのほうがキューンとしてきた、優里はもう椅子に座っている事が出来なくなって思わず腰を浮かして立ち上がってしまった、その拍子に机の縁にパンパンの下腹部がトンと当ってしまう。
「あーっ!」
 思わず声がもれる、物凄い衝撃が下腹部から全身に走った、体中がビリビリして頭の中がまっしろになった、全身のうぶ毛が逆立って一瞬何がなんだかわからなくなったけど、とにかくおしっこはまだ漏れていない、気がつくと優里は床にうずくまって、押さえた右手を激しく動かしていた、そうだ、あの時と同じ感じ感覚だ、たしか小学校の5年の時の教室の掃除の時間だった、トイレを我慢しながら掃除をしていた、掃除の時間なのだから行こうと思えばいつでもトイレに行く事は出来たのだが、まだもう少し我慢出来る感じだったのでトイレを我慢しながら掃除をしていた、教室の机を移動させる時に、机の角がたまたま下腹部のおしっこが溜まっている場所にツンと当たった、その瞬間ビリッっと背中から全身に衝撃が走った、でもなんだか妙に気持ちがよかった、そのあと何度かわざとおしっこが溜っている下腹部を机の角にチョンと当ててその感覚を楽しんだのを思い出した。

(あー、もうガマンできないよー)
 優里はもう何がなんだかわからなくなっていた、貯水池に溜められるおしっこの量はもうとっくに限界を超えていて思いっきり出口をさすっている右手のせいで噴出を何とかくい止めているのにちがいなかった、おへその下の方でもの凄くジンジンしている膀胱と頭の中の脳みそのてっぺんが、背骨の中を通っている太いパイプで直結されているみたいだ、右手でさすっているあそこのあたりからも何ともたまらない感じがゾワゾワとさざ波のように全身に伝わって行く、一瞬あたまの中におしっこを我慢してあそこを押さえている素香の姿がよぎった、ああ、どうしよう、素香ー、わたしもうおしっこガマンできないよー、どーしよう、もうおしっこしちゃってもいいよねえ?、優里の右手はさらに激しく小刻みに動き続けた。

 気がついたらトイレに腰掛けて、おしっこを終えて肩で息をしながら放心している自分がいた。
 胸がドキドキしていて、あそこを押さえている右手はおしっこでびっしょりだ。
 トイレのドアは開けっ放しで、廊下はシーンと静まりかえっている。

 家の前でバイクが止まって、またバタバタと走って行く音が聞こえた。たぶん郵便屋さんだろう。
 しまった、せっかくこんなに我慢したのに量をはかるのを忘れてしまった。


戻る

目次へ

次へ