MOTOKA 第7章




 ここのところ毎日いい天気で暑い日が続いている。

 優里は素香が泊りに来た先週の火曜日の夜の事が忘れられなかった。
 あの日、憧れの素香の恥ずかしい部分から迸るおしっこを目の前で見てしまった。
 他人のあそこからおしっこが出るのを見るのは生まれて初めてだったけど、ギリギリまで我慢した素香のおしっこは、とっても可愛い感じがした。目の前で素香のいちばん恥ずかしいところを見てしまう、という禁断の果実をかじってしまった優里の心臓は、その瞬間張り裂けそうに激しく脈を打ち続けていた。それはまるで、何年か前に見たディズニーの映画の中で流れていたアフリカのパーカッションのようだった。
 素香の可愛い割れ目の上の方には、かすかに小さな突起がのぞいていて、そのすぐ下からおしっこが迸ってクリーム色の洗面器にどんどん溜まっていく。
 素香は床の洗面器の前の方を少しだけ持ち上げて、おしっこが洗面器からはみ出さないようにうまく調節していた。股間から迸る水流は、自分の時よりもずいぶん前の方に向かって出ていた。
 優里の目の前のクリーム色の洗面器に溜った透きとおった黄色い液体の表面には、少しだけ白い泡が浮いている。
 心臓が思いっきりドキドキしている。大きく息をすると、ほのかな香りが漂ってきた。
 おどろいた事に、今出たばっかりの素香のおしっこはぜんぜん嫌な匂いはしなかった。かすかに感じるその香りは、何故かコーヒーの香りに感じられた。
 夜中に部屋の灯りを消して、おやすみを言ってベットに横になり目を閉じると、まぶたの中に洗面器の上にしゃがんでいる素香の姿がよみがえってきた。思い出すとまた胸がドキドキしてくる。
 もうねむい事ははねむいのだけれど、夕食後に飲んだ大量のコーヒー飲料のせいか頭の中の一部分だけが妙に冴えていた。

 目蓋の中のスクリーンに次々と今日の素香の姿がよみがえってくる。
 いっしょにショッピングをしながら自分の選んだ服を見せて、これどうかなあ、、、と聞いてくる素香。
 汗を拭きながらファーストフードの店でおいしそうにストローからオレンジジュースを飲む素香の唇。
 夕食前にシャワーを浴びた、濡れた髪の素香。
 とっても美味しそうに、母親がつくった金目鯛の煮付けを食べる素香。
 机の上のパソコンの英文を見ながら、ちょっと恥ずかしい英文を訳してくれる素香。
 わたしのおしっこが漏れそうな時に、あと10分我慢したら、おしっこしてもいいよ、、、って悪戯っぽく言う素香。
 あそこを押さえながら必死でおしっこを我慢している素香。

 頭の中に浮かんでくるのはもう素香の事ばっかりだ。
 優里は自分の体の中のどこかから、どうしても押さえられない何かが込み上げて来ているのを感じていた。この衝動は何だろう、胸の中のとっても奥の方で小さなマグマがドクドクと真っ赤な溶岩を少しずつ噴出しはじめたような感じだった。
 自分のベッドの隣に敷いた布団の上の素香をそっと見る。素香はもう眠ってしまったのだろうか。
 心臓がまたドキドキしてきた。
 優里は「ねえっ、、」とそっと素香に声をかけてみる。
 素香からは何の返事も返ってこなかった。やっぱりもう眠ってしまったのだろうか。
 今度はもう少しだけ声を出して「ねえっ、、素香、、」と言ってみる。
 一瞬の間があって「うーん、、」と寝ぼけたような小さな返事が素香から返ってきた。
 どうやら素香は、ちょうど眠りに落ちたところのようだった。
 優里はもうどうしてもたまらなくなって、自分のベッドから素香が寝ている布団の方に降りると、素香の上に静かに覆いかぶさった。
 寝ている素香の顔にそっと摺り寄ると深呼吸のようにゆっくりと息をした。
 石鹸の匂いがする。
 そして思いきって素香の唇にキスをしてしまった。
 胸の奥でパーカッションが激しく鳴っている。
 もう一度大きく息をすい込む。
 素香の匂い、、、
 それは優里にとって、生まれて初めてのキスだった。
 素香の唇はあったかくって、まるでマシュマロみたいにやわらかかった。
 唇を重ねながら舌の先をそっと差し出すと、素香の舌に触れた。
 素香の舌は躊躇するように一瞬ひいたけれども、もう一度舌の先が触れ合うと、ゆっくりと少しずつ優里の舌の動きに反応してきた。
 優里は、もう自分の体がこのままアイスクリームのように溶けてなくなってしまってもいいと思った。


 夏休みになって一週間が過ぎた。
 優里は素香が泊まりに来た次の日から、あることに対して真剣に悩んでいた。他でもない「おしっこ」に関する事だった。
 素香が泊りに来た夜、二人でおしっこ我慢比べをした。結果的には、優里は素香の半分以下の量のおしっこしか我慢する事が出来なかった。まさかあんなに素香と私の我慢出来る量に差があるなんて思ってもみなかった。
 まあ、素香は普通の子よりもすごいのは何となくわかっていたけれど、優里は自分の結果がふがいなかった。
 そして素香が学校でトイレに行かずに過ごす事が出来る理由が、少しわかった気がした。
 優里は以前から自分は人よりもトイレが近いのではないだろうか、という事を何となく感じていた。
 学校にいると一日最低4〜5回はトイレに行っている。冬場など寒い時には、授業が終わるたびにトイレに行く事もしょっちゅうだ。
 身長はたぶん素香の方がちょっとだけ高いけれど、体重がほとんど同じで、同じような体型なのになんで素香の体はわたしの倍以上おしっこを我慢出来るんだろう、、、

「ねえ、みてみて、ここに書いてあるんだけど、膀胱って少しずつ訓練できるんだって」
 優里は素香が泊まりに来た夜、自分が必死におしっこを我慢している時にパソコンの画面を見ながら素香が言った言葉を思い出した。
(私も素香みたいにもっといっぱいの量を我慢する事が出来たらあんな事にはならなかったかもしれないなあ、、、)

 どうして素香とわたしはこんなに体の構造に差があるのだろう。生まれつきのものなのだろうか?優里はインターネットでおしっこを溜めるところ、すなわち膀胱についていろいろと検索をして調べてみることにした。
 若くてもトイレが近かったり、不意におしっこが漏れてしまったりするという悩みを抱えている人たちが世の中にはたくさんいる事を知って、何だかすこし心強く感じた。
(トイレが近くて悩んでいる人ってたくさんいるんだ、、、)
 医療関係のサイトをいろいろ調べてみると、どうやらトイレの近い人には二通りあるみたいで、一つは日常生活でこまめに水分を摂取する習慣があったり、ふだんからコーヒーやお茶など利尿効果のあるものを摂取したりして、もともと尿の製造量が人より多い人。もう一つは精神的にいつもトイレの事を心配して、少しでも尿意を感じるとこまめにトイレに行く習慣がついてしまっている人。こういうタイプの人は膀胱の容量がどんどん小さくなっていって、逆に本当にトイレを我慢できなくなっていくらしい。ある医療サイトでは、こういう悩みを持つ人の為に膀胱を少しづつ元に戻すトレーニングの方法がていねいに説明してあった。
 優里は今までに幾度となくトイレを我慢してつらい思いをしてきたので、自分の体の事がちょっと心配になってきた。
(わたしってどーなんだろう、、、)
 確かに自分はいつも少しでも尿意を感じた時から常にトイレの事を意識しているかもしれなかった。
 そのサイトによると、なんでも『排尿日誌』なるものをつけて自分の一日のおしっこの回数と量を記録してみればいいらしい。それでどちらのタイプか大体判るそうだ。
 そこにはこんな文章が載っていた。
『もう一度、自分の排尿日誌を見てみよう。トイレの回数が多いだけでなく、おそらく一回の排尿量が非常に少ないに違いない。膀胱が満タンになっていないのに、脳が「もう限界だ」と誤解している証拠である。あなたの体には、尿を小出しにする「悪いクセ」が染みついちゃってるわけだ。このクセを何とかするには、膀胱と脳の連係プレーを訓練し直す必要がある。方法はいたって単純だ。最初の十日間は尿意を覚えてから十分間ほど我慢し、次の十日間は、さらに十分間だけ辛抱して、といった具合に時間を徐々に延ばしていくのです。 おしっこを我慢する時間が延びれば、膀胱にたまる尿の量は増えていく。つまり、おしっこをドバッと出せるようになる。小出ししていたころに比べ、トイレの回数がぐんと減るはずだ。ただしこの訓練をするにあたって一つだけ注意が必要だ。あまり長時間おしっこを膀胱に溜めておくと、環境や体調によっては、膀胱内に雑菌が繁殖しやすい状況になって膀胱炎になる可能性がある。訓練をする時は、なるべく多くの水分をとって、短い時間に体の中でどんどんおしっこが作られる状況でするように心がけて下さい』

 優里は小学校4年の時、授業中に我慢出来なくておもらしをしてしまった事を思い出していた。
 それは優里にとって、記憶の中から消してしまいたい恥ずかしい過去であった。今思えば確かにその事がトラウマになって、それからは常に自分の尿意を過敏に意識するようになり、少しでも尿意を感じるとトイレに行くような習慣になっていた。

『膀胱は伸び縮みが比較的自由な袋です。心配だからといって、早め早めにトイレに行く習慣を続けていると、膀胱はだんだん小さくなって尿がためにくくなります。逆に我慢すると膀胱はひろがります。尿意は波のように寄せたり、引いたりしながらだんだん強くなっていきます。なるべく尿意を我慢し、何度目か尿意が落ちついた所で急がず、我慢しながらトイレに行くようにします。毎日繰り返すと膀胱に少しずつ溜められるようになってゆきます。』

(私もがんばって訓練してみよう。ぜったいたくさん我慢できるようになった方が困らないもんね)
 お医者さんの言うように訓練して自分の貯水池の量がもっと増えるのなら、今までに何度も経験した、おしっこをしたいのだけれどトイレに行く事が出来ずに我慢してつらい思いをする、という事が減るだろう。
 今までにそんな事が何度あったことだろう、、、。

 もちろん小学校4年のときの教室でのおもらしは一生忘れる事は出来ないと思う。
 5年の時の遠足の帰りのバスでも、額に脂汗をかきながら必死で我慢をしたのを憶えている。バスが学校の前に到着した時にはもう限界状態だったので、クラスメイトの目を気にする余裕もなくバスからまっさきに降りると校舎の横にある校庭から直接入れるトイレに向かって股間を押さえながら全速力で走っていった。
 その年の運動会でもトイレをギリギリまで我慢して辛かった記憶がある。その日は曇り空でとっても肌寒くって、閉会式の最中、全身に鳥肌を立てながらおしっこを我慢した。

 中1の時にも期末試験中どうしても我慢が出来なくなって、先生に言ってトイレに行かせてもらった事があった。英語の試験が始まる前に単語の暗記に夢中でトイレに行きそびれてしまったのだった。もうあの時は恥ずかしくって消えてしまいたかった。

 そうそう、たしか6年のときだったっけ、、、幼馴染みの玲子ちゃんの家族と一緒にスキーに行った時、高速道路の渋滞中にもうどうしても我慢が出来なくなって、車の後部座席でコンビニの袋におしっこをしてしまった事があった。
 あの時も、もう恥ずかしくて死ぬかと思った。渋滞の中ずっと我慢していたのだけれど車は全然進まなかった。あのときは二家族で車2台に分乗して行ったのだけれど、幸い優里の乗っている車は前の席に母親同士が乗っていて、後ろの座席には優里と友達の玲子ちゃんだった。4つ違いの兄は前を走っている男性陣の車に乗っていた。もし同じ車の中に男性がいたら、あんな事は出来るはずがなかった。

 優里の脳裏に忘れかけていた恥ずかしい記憶がよみがえってきてしまった。


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