MOTOKA 第3章




「ねえねえ、いっしょに帰らない?」
「えっ、うん、いいよ」

 優里は、こんなふうに素香に声をかけたのは初めてだった。
 今まで何となく帰りが一緒になって何人かでワイワイと電車に乗ったりしたことはあったけれど、今日みたいに個人的に直接さそった事は一度もなかった。
 今日は自分でも不思議なくらいになにかと積極的である。
 優里と素香は学校のあるJRの駅から私鉄とのターミナル駅までは同じ通学路だった。
 二人はとりとめもない会話をしながら電車に乗った。
「そうだ、ちょっとだけお茶してかない?」
 と優里が素香をさそった。
「えっ、でも通学途中で寄り道したらいけないんじゃないの?」
「だいじょぶ、だいじょぶ、センター街を少し行ったところにマックがあるからさ。あんなとこまで誰もこないよ」

 渋谷のセンター街を歩きながら素香は目をきょろきょろしていた。
 平日の夕方だというのにすごい人であふれかえっている。
 素香はこんなすごい人ごみは生まれて初めてだった。
「すごい人だねえ」
「うん、ここらへんはいつもこうだよ。そっか、素香は日本に来てからまだ日が浅いからよく知らないんだよね。今度休みの日にでも案内してあげるよ。面白いとこいろいろあるからさ」
 二人はハンバーガーショップに入ると飲み物とポテトを注文して2階に上がり、ちょうど空いた窓際の席に向かい合って座った。
 店内は帰宅途中の女子高生や若者たちで賑わっていた。
 ジュースの容器にストローを差し込むと、優里は素香の方に顔を寄せて少し小さな声で言った。
「素香さあ、今日5時間目トイレ我慢してたでしょう」
 優里はそう言うと素香の目を見た。
「えっ」
 素香の顔がぽっと赤くなって下を向いてしまった。
「あっ、ゴメンね、そんな恥ずかしがらなくってもいいのに。何かさあ、素香のこと見てたらずっとそわそわしてたし、何度かあそこのとこ押さえたりしてたもんだから、きっとトイレを我慢してるんだろうなって思ったんだ」
 素香は真っ赤な顔で恥ずかしそうに優里のことを見た。
「ごめんごめん、そんなに恥ずかしがらないでよ。わたしさあ、心配で心配でドキドキしながらずっと素香のこと見てたんだよ」
「えっ、そうだったの、なんかやっぱり恥ずかしい」
 素香としては誰にもわからないように必死で我慢していたつもりだったのだろう。
「実はわたしもさあ小学校のころ授業中に何度もトイレを我慢してつらい思い出が結構あってさあ」
「えっ、そうなの」
「うん、一度どうしても我慢できなくて、先生にも言えなくておもらししちゃった事があるんだよ、、、それも4年生の時に。誰にも内緒だよ」
「うん」
「だからさあ、今日は素香のことが心配でしょうがなかったんだ」
「そうなんだ」
 素香の顔が少しほころんだ。
「もう、私のほうがずっとハラハラドキドキだったよ、ははは」
 優里がおかしそうに笑うと素香も一緒になって笑った。
「それでさあ、なんかもうこの際だから正直に言っちゃうけどさあ」
と言うと優里はチラッとまわりを気にして少し前にのりだして、また少し声をひそめて言った。
「こんな事言ってわたしのこと嫌いにならないって約束してくれる?」
「うん」
「実はね、あの授業が終わってから素香のあとをつけていっちゃったのよ」
「えーっ」
「ごめん、わたしも何であんな事したんだかよくわからないんだけど」
 素香の顔がまた少し赤くなった。
「そしたら素香ったら教室を出てからトイレと反対の方向に走って行くんだもん」
「えっ、やだー優里ったら、見てたのー」
 素香は股間を押さえながら階段を上っていた事を思い出していた。あんな恥ずかしい姿をまさか優里に見られていたなんて、、、。
 素香は、幼い頃からの習慣で自分は学校ではなるべくトイレに行かないようにしている事、どうしてもしょうがない時は人目につきにくい上の階のトイレを使っている事などを優里に告白した。
 素香が4月に初めて日本の学校の和式トイレを使った時に、わからないで反対向きにしゃがんでしまった事を話したときは二人とも大笑いであった。
「でもさあ、素香よくそんなにトイレ我慢できるね、わたしは学校で一度もトイレに行かなかった事なんて今までないわ」
「じゃあ、優里もこんどチャレンジしてみれば、なんてね」

 その日の夜、ベッドに入った優里の頭の中では今日の素香の言葉が繰り返し鳴り響いていた。
『じゃあ、優里もこんどチャレンジしてみれば、なんてね』

 今日はなんだかとっても濃い一日だった。
 次々といろいろなシーンが蘇ってくる。
 憧れの素香の水着姿、濡れた髪でお弁当をおいしそうにほおばる素香の口元、時々あそこを押さえておしっこを必死に我慢している素香、少し恥ずかしそうに自分のトイレに関する母親からの躾の事を話す素香の口元。
 そして何より憧れの素香と二人っきりでいろいろと告白しあった事。
 素香が学校ではトイレに行かないよう、いつもおしっこを我慢していたなんて知らなかった。
 気がつくと優里の右手はパジャマのパンツの中に入ってあそこを触っていた。
『じゃあ、優里もこんどチャレンジしてみれば、なんてね』
 素香の可愛い口元。
 幼い頃兄の友人達と遊んでいて自分だけ外で立ってオシッコが出来ずによくおしっこを我慢した記憶。あそこを押さえながら階段を上って行く素香。あわてて隠れたトイレの個室。
 ・・・いろんな事が走馬灯のように頭の中で巡っている。
 やがて優里は小さな寝息をたてはじめた。


 次の日の朝、優里は通学の電車の中である事を考えていた。
(今日はわたしも素香みたいに学校でトイレに行かないようにしてみようかな)
 教室に入ると素香がいた。
「おはよー」
 何だか昨日の事があったので、お互いに少しだけ普段とはちがう挨拶だった。
 優里は小学生の頃に我慢出来ずに教室でおもらしをしてしまった事があったので、いつもは少しでも尿意を催したらこまめにトイレに行くようにしていた。今日も2時間目の途中で少し尿意を感じてきた。
 普段はだいたい2時間目が終わった時点で、必ず一度はトイレに行っていた。
(今日は素香みたいにがんばってみよう)
 優里は2時間目が終わって少し尿意を感じていたけれど我慢することにした。
 3時間目が終わって休み時間になった。
(ああ、おしっこしたいなあ、、、)
 このくらいの尿意があれば普段だったらとっくにトイレに行っているはずであった。
(まだ大丈夫だわ)と自分に言い聞かせて、優里はトイレに行かずに次の授業を受けることにした。自分の斜め前の席の素香は、もちろん今日も朝からトイレには行っていないはずだった。
 4時間目は国語の授業だった。
(ああ、だめだ、トイレ行きたい。やっぱりさっき行っとけばよかった)
 思いっきり強く組んだ足のつま先が内側に曲がってしまう。
 頭の中で昨日の素香の姿がフィードバックしてくる。
(ああー、おしっこしたいよー)
 結局なんとか4時間目がおわるまでは我慢出来たが、授業が終わると速攻でトイレに駆け込んだ。
 次の日は何とか昼食が終わるまで我慢したが、そのままの状態で5時間目まで挑戦することは無理だった。
 その次の日も昼休みにはやはり膀胱がパンパンになってしまいトイレに行ってしまった。
 素香は相変わらず毎日学校ではトイレに行かずに過ごしていた。
 優里は何だか少し悔しい気分になって、素香と告白をしあってから4日後にまた素香をさそって帰り道にお茶をする事にした。
 6時間目の授業が終わって素香に、
「いっしょに帰ろう」
 とさそった。
「ねえ、またこないだのとこ行かない?」
「うーん、今日はちょっと、、」
 と渋る素香を
「お願い!相談があるの。ちょっとだけだからさ」
 と言ってなかば強制的に先日のハンバーガーショップに連れてきてしまった。
 オーダーした飲み物をトレイに載せて二人は2階に上がり空いている席に座った。
 優里は素香のほうに顔を寄せると、他人に聞こえないように小さな声で言った。
「あのさあ、実はわたしあれから毎日学校でトイレ行かないようにがんばってんだけどさあ、、」
「ええー、うそー」
「マジだよ」
「ほんとにー」
「うん、だけどさあ、どーしても無理なんだよ、なんか」
「えー、そーなんだ」
「うん、それでさあ、素香師匠になんか我慢するコツでもあったら伝授してもらおっかな、って思ったりして、はは」
「えー、そんなのないよー」
 ははは、と素香もポテトをかじりながら笑った。
「例えばさあ、前の日の夜から水分をとらないようにしてるとかさあ、そーゆー事とかなんかあるんですか?師匠!」
「うーん、そーゆー事は特にないなあ。朝もいつもコップ1杯のお水と紅茶を飲むしなあ」
「ほんとにー、そーいえば素香いつもお弁当の時もお茶飲んでるよねえ」
「うん、でもたまに午前中からおトイレ行きたくなっちゃう時があるんだけど、そういう時はあんまり飲まないようにしてるんだ」
「へえー、でも家に帰るまで我慢出来るんだ」
「うん、なんとか」
「ふーん、じゃあ素香は、おしっこを溜められる量がわたしより多いのかなあ」
「えー、どうなんだろう、わからない」
「それともわたしのおしっこの製造量が素香より多いのかなあ」
 ははは、と二人はハンバーガーショップの2階で何だか変な話題で盛り上がっていた。
 素香はポテトを食べて残りのオレンジジュースを飲み干すと、
「ごめんね、あたしちょっともう帰らなくちゃ」
と、少しそわそわして言った。
「そういえば素香今日もまだトイレいってないの!!」
「うん、だからそろそろ帰らなくっちゃ、、、」

 駅で素香と別れてからも優里は素香のことで頭がいっぱいだった。
あんなに可愛くて、あんなに上品で、あんなに華奢な身体であんなにトイレを我慢できるなんて、、、
 素香に対する興味はどんどん膨れあがっていった。

 素香は優里と別れてターミナル駅の地下にある私鉄のプラットホームでそわそわしながら電車を待っていた。
(ああ、おトイレ行きたいなあ、、)
 今日は6時間目からトイレを我慢していたのだが、優里にさそわれて寄り道をしてしまったせいで、いつもより30分以上も遅くなってしまった。
(もう、優里のせいだ)
 もうおなかの下の方は、おしっこがパンパンに溜っていて、さっきからずっとジンジンしている。
 素香は周りの人にわからないように、小さく両足でステップを踏んでいた。
(電車まだかなあ、、、ああ、おトイレ、、、)

(ああ、もう我慢できない。ここの駅のお手洗いに行ってしまおう)
 素香は意を決してホームから改札口につながる階段へ向った。
 駅のトイレを使うのは生まれて始めてであったが、この際そんなことはいってられなかった。
 素香は小走りにホームから階段を降りていった。
 たしか階段を降りて左側にトイレがあったはずである。

(えっ!! うっそー)
 階段を降りた左側の女性用トイレの前には『清掃中』の看板が置いてあった。
 下半身にはちきれそうに溜っている素香のおしっこは、もうすぐトイレで放出される気になっていたので、すでにもう出口ギリギリのところまで迫ってきていた。
 素香は一瞬、目の前が真っ暗になったが、すぐに気をとりなおして再び尿意を耐えるために股間にいっそうの力を入れた。
 一瞬全身に鳥肌がたった。
 素香は少し前屈みになって再び今降りてきた階段を昇りながら、左手に持ったカバンで前を隠すと、右手でスカートの前を思いっきり押さえて、出口まで出かかっていたおしっこを気力で何とか押し戻した。
 階段を昇ると、ちょうど電車がホームに入ってきた。
 素香はとりあえずその電車に乗り込んだ。
 電車が発車すると、ガタンゴトンという振動と電車の揺れが、限界まで膨れ上がった素香の貯水池を刺激する。
(いやっ、だめっ)
 ドアの前に立っていた素香は外を眺める振りをして、なるべく他人にわからないようにカバンで隠しながら股間を押さえていた。
 再び全身に鳥肌がたってきた。
(次の駅まで何とか我慢しなきゃ)
 外の景色を見て何とか気を紛らわそうとしたが、電車の振動が足元からダイレクトに素香の限界を超えた貯水池に響いてくる。
(ああ、早く着いて、、、)
 もう他人の視線などどうでもよかった。
 右手を股間から離すことはもはや不可能だった。

 両足は細かく交互にステップを踏んでいる。
(こんなところでお漏らしなんか絶対に出来ない)
 額から脂汗が出てきた。
 思わず股間を押さえる手に力が入ってしまう。

 やがて電車は少しづつ減速してきて、ガタンゴトンという振動の間隔もゆっくりになってきた。
(ああ、もうちょっとだから頑張って、、、お願い)
 素香のスカートの下の下腹部はもう貯水量の限界を越えていて、押さえている右手の力を少しでもゆるめる事は出来なくなっていた。
 電車が駅に到着してドアが開くと、前を押さえている右手をカバンで隠すようにして、小走りでホームの人の流れをかきわけて進んで行った。
(ああ、おトイレはどこだろう、、)
『お手洗い』と書いてある案内盤が目に入った。
(あっ、あっちだ)
 素香は、前屈みになって制服の上から股間を押さえながら走っている自分が恥ずかしくて、この場から消えてしまいたかった。
(ああ、こんな格好、知ってるひとに見られたらどうしよう、、、)
 朝からずっと溜っていたおしっこは、もう本当に出口ギリギリの所まで切迫している。というより、もう出口に到達してきてしまっていた。

(あっ、だめっだ、)
 右手の内側から温かいものがジュワッと一瞬漏れてしまった。
 素香はいっそう前屈みになって足を早めた。
(ああっ、あと少し、、、)

 ホームの前寄りにあるトイレにようやく辿り着くと、素香は急いで中に駆け込んだ。
幸いに個室は空いていた。
(ああっ、、、、)
 再び右手に温かいものがにじみ出てきている。
 急いで個室に入ると、濡れてしまっている右手で慌ててドアを閉めた。
 もう股間から漏れ出したおしっこは、足元の白いソックスにまで到達していた。
(いやっ、たいへんだ、、)
 下着を降ろすと同時にしゃがみこんだ時には、おしっこはすでにかなりの勢いで素香の恥ずかしい部分から噴出していた。
 白いパンティーはもうびしょ濡れで、両足の内側もおしっこが伝わって濡れてしまった。
 が、ともあれ、人前で粗相をしてしまうという最悪の事体は、何とかまぬがれる事が出来た。
(ふー、、、)
 溜りに溜ったおしっこを放出しながら、素香は大きなため息をついた。

 長い間続いていたおしっこが終わり、ティッシュで股間を拭き終わった素香は立ち上がっておしっこで濡れてしまった両足もティッシュできれいに拭いた。
 濡れてしまった下着はどうしようかと思ったが、そのまま脱いで汚物入れのなかに入れてしまった。
 左足のソックスもおしっこで濡れていたけれど、それはそのまま家まで我慢することにした。
 トイレを出て、プラットホームに戻ったけれど、下着をつけていないスカートの中はスースーして何とも落ち着かなかった。
 下着をつけずにスカートを穿く事など生まれて始めてだった。しかもこれから電車に乗るのである。
 心臓がまだ少しドキドキしている。

(もう、まったく優里のせいでひどい目にあっちゃったな、、、)
 とはいえ、素香はここ数日、優里にとっても好感を持っていた。
 日本に来て初めての気の許せる友人だったし、今日優里と話したようなシモネタなど、今までに他人と話したことなどなかった。
 それに同性として優里のちょっとエキゾチックな雰囲気に、素香はとても惹かれていた。


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