MOTOKA 第4章




 長かった梅雨がやっと明けた。

 素香たちの学校は今日が一学期の終業式だった。
もちろんテストも終わっていて、明日からはいよいよ夏休みだ。
一学期の期末テストが始まる頃には素香と優里はすっかり仲良くなっていて、何もなければほとんど毎日一緒に帰るようになっていた。
その日も帰りはいっしょだった。
「あーあ。数学赤点だったしー、まあ他はなんとかクリアしたけど。素香は日本で最初の通信簿だよねえ」
「うん」
「ねえねえどーだった?」
「うん、まあまあかなあ」
「えー、おしえてよー」
優里は素香の通信簿の中身を電車の中でこっそり教えてもらった。
「えー、ホントにー、素香ってあたまもメチャクチャいいんだねえー、うらやましいー」
「そんな事ないよー」
「もー、ますます憧れの素香さまだわ」
「やだー、優里ったらー、やめてよー」
「ははは!」
「ねえねえところで来週の火曜日どうする?うちのお母さん素香のためにご馳走作るってはりきってるみたいよ」
その日は素香が優里の家に泊まりに来るという約束をテスト中からしていた日だった。
「えっ、ホント、たのしみー」
「じゃあさあ、昼間はさあ、わたしが渋谷と原宿の案内するよ」
「うん、おねがい!!」
 素香は来週の事がとっても楽しみになってきた。
 山の手線の改札を出て優里と別れて、私鉄のプラットホームの一番先まで歩くと、そこからは雲一つない真っ青な空が見えていた。

「ただいまー」
その日優里が家に帰ると玄関に大きなダンボールの箱が届いていた。
「やったー、来た来た!!」
ずっと欲しかったパソコンを父親が買ってくれたのであった。
「おかあさーん、てつだって!」
優里は母親に手伝ってもらってその大きなダンボールを2階の自分の部屋に運ぶとさっそく開封した。
(とりあえずこのパソコンを置くスペースをつくらないと)
優里は自分の部屋を見渡して、頭の中でいろいろとレイアウトを廻らしていた。
「ゆりー、お昼御飯できたわよー」
階下から母親の声がした。
「はーい、今いくー」
一階に降りると、テーブルに座って母親と二人でお昼御飯を食べた。
「ゆり、あんた数学ひどいじゃないのー」
通信簿を見て母親が言った。
母親が作ってくれたチャーハンをほおばりながら優里は答えた。
「だってしょーがないのよ、、それは、、それよりさあ、来週素香が泊まりに来るっていったでしょ、素香はさあ、ずっと海外で暮らしてきたからお母さんの和食がとっても楽しみって言ってた」
「そんな、あんた和食っていったって私が作れるのは料亭みたいなのじゃあなくて、いわゆる、お袋の味よ」
「うんうん、いいのよ、お袋の味で。素香は日本のそーゆー食事にとっても興味があるんだって。おかーさん料理うまいじゃん。煮魚とか豚汁とかさあ」
「あら、そんなのでよければ簡単だけど」
「うん、素香にそーゆうの食べさせてあげたいんだ」
優里は食事が終わると、そそくさと二階へ上がり、部屋のセッティングの続きに没頭した。
夜になって父親が帰ってくると、さっそくパソコンの使い方についていろいろと教えてもらうことにした。父親は約二時間ほどかけて、優里に丁寧にパソコンの事を教えてくれた。インターネットのプロバイダーは、父親が使っているのと同じものに設定してくれたので、もうその日から使うことが出来た。

 夏休みになってからは、毎日天気のいい日が続いている。
優里はここ何日かずっとインターネットの世界の不思議な住人だった。
いろいろなサイトを巡っては、そのリンクをたどって、気がつくとネットの中の自分は、とんでもない海外の世界にいたりする。
何だかまるで今までの自分と違うもう一人の自分が、ネットの中で自由に生きているような感覚が面白くてしょうがなかった。
検索のサイトから、おしっこの「我慢」や「おもらし」に関する事が性的な趣味の対象となっているホームページがいくつもある事を発見した時には驚きであった。
そんなへんな事を考えたりしているのは、今まで世の中で自分だけだと思っていたからだ。
優里はドキドキしながらも、知らず知らずのうちにそういった世界の中に入り込んでいった。
国内のそういったサイトから海外の同じテーマのサイトへリンクで飛んで来てしまった優里は、そこでも女性がおしっこを我慢している写真や小説、我慢出来ずにおもらししてしまった写真や小説等が星の数ほどあるのを知ってびっくりした。
(すっごーい、地球の上にはわたしとおんなじことを考えている人がこんなにたくさんいるんだわ)
そう考えるとなんだかゾクゾクしてきた。
自分の英語力では初めはほとんど何だかわからなかったけれど、好奇心旺盛な優里は辞書を片手にとりあえずキーワードになりそうな単語をしらべていった。
(ふーん、「pee」とか「piss」は、おしっこの事か。「bathroom」「loo」は、おトイレの事ね。「bladder」っていうのは膀胱の事で「desperate」っていうのは、おしっこが漏れそうで必死に我慢しているって事なんだあ、なるほど、、、)
優里は今度の火曜日に素香が家に遊びに来たときに、英語がペラペラの素香にいろいろ訳してもらおうと思った。
(あれ、なんだろう、ここ、「オシッコ オリンピック」だって?)
優里は「Piss Olimpic」というサイトの中に吸い込まれるように入っていった。
そこは世界中の女性がどのくらいオシッコを我慢できたかを競って投稿するところであった。
(えーっと「bladder capacity」っていうのは膀胱の容量ね、それの世界ランキングってことだわ)
優里はそのページの中に入っていった。
そのランキングは1位から50位まで掲載されていたが日本人の名前はなかった。
(なになに、今の世界ランキング第1位のSvetlanaさんは、、1660mlだって、、、なにー1,6リットルうー、やだー、わたしがいつも飲んでるペットボトル3本分以上じゃない、しんじられなーい)
(素香ってどれくらい溜められるんだろう?こんど実験しちゃおうかな、へへへ)

 約束の火曜日がやってきた。
今日も朝からいい天気で気温も30度を超えそうだ。
素香は白のタンクトップに淡い黄色のミニスカート、素足にベージュのミュールという服装で待ち合わせの場所に向かっていた。
改札を出て優里との待ち合わせの場所に向う。駅の構内から表に出ると眩しさに思わず目を細めてしまう。
少し歩くと、明るい日差しの中で手を振っている優里を見つけた。
優里も同じような白いタンクトップにオリーブグリーンのミニスカートをはいていた。
二人はファーストフードの店で軽い昼食をとると、その後は約束どおり優里が渋谷と原宿をいろいろと案内した。
夕方、暑い中を一日中歩き回ってくたくたになった二人は電車に乗って優里の家に向かった。
「ただいまー」
玄関を開けると優里の母親が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃい、素香さん」
「こんにちは。お世話になります」
素香は丁寧にお辞儀をした。
居間に入ってソファに掛けると優里の母親が冷たい麦茶を出してくれた。
優里も素香もよほど喉が渇いていたのであろう、大きめのグラスに入った麦茶を一気に飲み干してしまった。
「あらあら、二人っともいい飲みっぷりねえ」
と言って、優里の母親はグラスに麦茶をつぎ足してくれる。
「だって今日すっごーい暑かったんだもん、もう喉カラカラだよー」
冷たい麦茶がとっても美味しかった。
「とっても美味しい!あの、これ何ていうお茶ですか」
素香は麦茶を飲むのは初めてであった。
「あっ、そっかー、素香、麦茶はじめてー」
「うん」
「日本では夏はこれよ!」
それからしばらくの間、素香は麦茶を飲みながら優里の母親に、自分が日本に帰って来るまでの経緯を話した。
「あら、そうー、じゃあ素香さんは純粋な日本人なのに日本で生活するのは初めてなのね」
「ええ、そうなんですよ。今日はいろいろと教えてください!」
素香は深々とお辞儀をした。
「それでは今晩は日本のおふくろの味を味わっていただきましょう、はたしてお口にあいますでしょうか?」
と言って優里の母親は少しおどけてみせた。そのしぐさが何だかとっても可愛らしかった。
「わっ、ありがとうございます。実は優里からも聞いていて、とっても楽しみにしてたんです!」
「ところで素香さん、苦手な食べ物はある?」
「いえ、ないです」
「それは素晴らしいわ!優里も見習わなくてはね。ところで二人とも今日は汗びっしょりだったでしょう。食事の前にシャワーを浴びちゃいなさい」

 シャワーを浴びると、テーブルの上には優里の母親が作ってくれた和食のご馳走がならんでいた。
今までずっと海外で暮らしてきた素香には、もの珍しい物がたくさんあって、とても楽しい食事だった。
「おばさま、ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「おそまつさまでした。こんな物でよければまたいつでもどうぞ」
「はい。またご馳走になりに来ます!」
おなかがいっぱいになった二人は2階の優里の部屋へ上がっていった。

 部屋に入ると優里はさっそくパソコンのスイッチを入れた。
「ねえねえ、私これ先週お父さんに買ってもらったんだけどさあ、けっこうおもしろいんだよ」
「うん」
「素香はインターネットやってる?」
「うん、時々。でもうちのはお父さんの機械だから、それを借りてだわ」
「それがさあ、なんだか今まで知らなかった未知の世界へ行けるのよ、、、最近ハマっちゃっててさあ、、」
「ふーん、どんなふうに」
「うん、ちょっとエッチっぽいってゆうか、なんとゆうか、、、素香ここに座って」
優里は机の前の自分の椅子を素香にすすめると、自分は部屋の隅から丸椅子を持ってきて腰掛けた。そうして机の上のパソコンの前になかよく並んで座った二人は、優里の案内でインターネットの耽美な世界へと入って行った。
 最初は国内の「おしっこ我慢、おもらし系」のサイトを俳諧して、書き込みや投稿、画像などを見てまわった。素香は当然世の中にこんな世界があるなんて知らなかったわけだが、興味深々という感じで身を乗り出して画面を見つづけている。素香がさらに驚いたのは女性のおしっこやおもらしを興味の対象としているのが男性だけではなく同じ女性達にも多くみられるという事だった。
「ねっ、けっこう面白い世界が世の中にはあるでしょ」
「うん、なんだか不思議な気分」
「それがさあ、海外へ行くともっとスゴイ数あるのよ」
そう言うと優里は国内のとあるサイトのリンクから海外へと飛んでいった。
「全部英語だから私あんまりよくわかんなくってさあ、素香ちょっと教えてくれる?」
「うん、いいよー」
優里と素香は席を入れ代わって、素香がマウスとキーボードの操作がしやすいようにした。
素香がマウスで画面上を指しながら次々と英文を訳していってくれる。
「おしっこ」とか「あそこを押さえて」とか「もう漏れそう」とか「我慢できない」とかいった単語が素香のかわいい口からポンポンと発せられるのを見ていると、優里はなんだかゾクゾクして妙にエッチな気分になってきてしまった。
「ねえねえ、そこのとこクリックしてみて」
と優里は画面を指差しながら素香に言った。
「うん」
「そこの『piss olimpic』ってゆーとこ行ってごらん」
「うん」
「わー、なにーこれー、すごーい」
「Bladder Capacityだって!膀胱の容量のくらべっこだよ」
そこには世界中の女性からの投稿によるオシッコ我慢の記録が1位から50位までランキングされていた。
その中には日本人の名前はなかった。
「ねえねえ、素香もこれにチャレンジしてみようよ!何位くらいに入れるかさあ、、、素香だったら結構いいところまで行くと思うよ!」
優里は自分とほとんど同じ背格好の素香が、どうして自分よりずっとトイレを我慢出来るのかずっと不思議でしょうがなかったし、その事に関してとても興味があった。
素香はあんなに可愛くて華奢な体をしているのに、私よりもずっと膀胱が大きいのだろうか、それともおしっこが出来る量が私よりもずっと少ないのだろうか・・・
「えー、無理だよー、だってわたしまだ中3だよー」
「そんなことないよ、さっき素香が読んでくれた『ALL DAY GIRLS』っていう小説でハイスクールの女の子達のおしっこ我慢大会で優勝したのは素香とおなじ年の子だったじゃない!」
「優里ったら何いってんの!あれはお話しの中のことでしょ!」
「あはは、そりゃそーだわ。だけどさあ、素香は『ALL DAY GIRLS』に出てくる女の子達みたいに一日中、学校でトイレ行かないでいられるじゃん」
「それはそーだけど。でもむこうの人とじゃ体格もちがうし」
「あっ、そーかあ。体格も関係してくるわけかあ」
「うん、やっぱちがうと思うよ」
「はははは!!」
何だか変な話で盛り上がっている優里と素香であった。

「ねえ素香、私ちょっとコンビニで夜食と飲み物の買い出しにいってくるよ。何か買ってきてほしいものある?」
「えっ、ううん、とくにないけど、わたしも一緒に行こうか?」
「ううん、いいのいいの、素香はインターネットで面白いの見つけておいて!」
「面白いのってなによー、ははは」

 優里は近所のコンビニに入るとペットボトルの並んでいるコーナーの前に立った。
ここ何日かの間インターネットで仕入れた情報によると、どうやらコーヒーにはけっこう利尿作用があるらしい。
優里は900mlのペットボトルに入っているコーヒー飲料を2本かごに入れると、スナック菓子を2種類選んでレジに向かった。

「ただいま!」と言って部屋のドアを開けると素香は相変わらずパソコンに向かっていた。
「あっ、おかえりー」
「あー、この部屋はエアコンがきいていいわー、外はムンムンしてるよー」
 と言うと優里はコンビニの袋を机の上に置いた。
「ねえ、コーヒーのペットボトル2本買ってきたからさあ、1本づつ飲んでオシッコオリンピックに挑戦しようよ!」
「えー、なにそれーー、ははは、、、でも何でコーヒーなの?」
「うん、コーヒーって利尿作用があるんだって。本当はビールとかワインとかがすごいらしいんだけど」
「へえー、そーなんだ」
 素香はさっきからずっと、生まれて初めてのおかしな世界に入り込んでしまっていたせいで、なんだか妙な気分になってしまっていた。
 二人はペットボトルから直接ゴクゴクと冷えたコーヒー飲料を飲みながら、再びインターネットの世界に入っていった。

(ああ、おトイレ行きたくなってきたなあ)
優里は机の上に置いてある時計を見た。
針は9時半をちょっと過ぎたところであった。
さっきコンビニに行ったのが8時前で、そのあと30分くらいでペットボトルのコーヒー飲料を素香と一気に飲んだのだった。
最後にトイレに行ったのは夕食の前のシャワーの時だった。
たぶん素香も同じはずだ。
「ねえねえ、コーヒーって結構効くねえ」
「うん」
「私結構やばいんだけど、素香まだ大丈夫?」
「うん、わたしはまだだいじょうぶ」
優里は先程から急激に高まってくる尿意に耐えていた。
とにかく今日は素香とまったく同じ条件のはずなので、出来るだけ素香について行こうと思っていた。

「優里、おトイレ行っちゃだめよ。ちゃんと我慢しなさいね!」
と、突然素香に言われた時にはドキッとした。
実は、さっきからもう優里の貯水池はパンパンになっていて、足を組んで必死にダムの決壊を防いでいる状態だった。
はじめて体験する900mlのコーヒーの威力はすごいものがあった。
「ねえ、みてみて、ここに書いてあるんだけど、膀胱って少しずつ訓練できるんだって」
と言って素香は優里のほうを振返った。
しかしすでに優里の貯水池は決壊までもう時間の問題だった。
上半身を前に屈めてきつく組んだ両足を揺すっている優里を見て素香は
「ねえ、優里、もうそんなにおしっこしたいの?」
と聞いた。

「うん、もう限界だよ、わたし」


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