さて、ところ変ってこちらは使用人が運転する車の中である。
「さあ、3人の中で誰が最初に我慢できなくなるかのう、ほっほっほ」
楽しそうに後部座席に座っている主人が言う。
さきほど別荘の玄関で千香たちと別れてから、玄関の外に付いているセキュリティーシステムのスイッチをオンにした。
あのあと彼女達が、パーティールームに戻って部屋のドアを閉めると、ドアはオートロックされてしまうのだ。
あの部屋は高額な絵画があったりするので、セキュリティーが特に厳重になっているのである。
今、主人のポケットに入っているキーでセキュリティーのスイッチをオフにするまで、3人はあの部屋に閉じ込められてしまうことになる。
例によって部屋の天井付近には二台のカメラが仕込まれていて、今は誰もいない2階の主人の書斎のビデオデッキに映像が記録されている。
「今日は生中継じゃないのが残念だが、明日ビデオでゆっくりと楽しむとするか」
「はい、ビデオの方はちゃんとセットしてまいりましたから御安心ください」
「ところで、誰がいちばんはじめに我慢出来なくなるか明日の夕食を賭けないか?」
「ははは、よろしゅうございますよ」
2人が見た限り、乾杯からごくごくと美味しそうにシャンパンとビールを一番多く喉に流し込んでいたのは真夜である。
とはいえ、千香と綾規恵も昼間の観光で喉が渇いていたのか、それぞれ同じようにグラスにビールを注ぎ合い、美味しそうに飲みながら料理を食べていた。
「うーん、あの部屋で飲んだ量では真夜ちゃんが一番だと思うが、問題はその前にそれぞれ何時にトイレに行ったかだなあ」
「そうですねえ」
車内で2人は楽しそうに、ああだこうだと話している。
「よし、わしは元気のいい真夜ちゃんに賭けよう」
「左様ですか。ではわたくしは一番小柄な千香さんの膀胱の小ささに賭けるといたしましょう」
「はっはっは、そう来たか。まあ、いずれにせよホテルに電話がかかって来るだろう」
* * *
場所はふたたび別荘のパーティールームである。
千香、真夜、綾規恵の3人はすこし赤い顔をして、相変わらず盛り上がっている。
「ところで千香、おトイレどこー?」
と言って真夜が椅子から立ち上がった。
「わたしもちょうど行きたかったとこだから、いっしょに行こ!」
と言い、千香も立ち上がる。
綾規恵も「わたしもおトイレいきたーい!」と言って立ち上がった。
「ははは、じゃあみんなで連れションだ」
3人は部屋の入り口の扉へむかった。先頭の真夜が扉に手をかけて開けようとするが、扉はうんともすんともいわない。
「あれえ、あかないぞー」
扉をガチャガチャいわせている真夜に千香が言う。
「もー、真夜ったらなにやってんのよー。酔っぱらってんじゃないのー」
と、こんどは千香が扉に手をやる。
「あれー、ホントにあかないよー」
しばらく扉のあちこちをいじってはみたが、どうやら開きそうもない。
「あちゃー、だめだー。防犯用のロックがかかっちゃってるみたい」
「えーっ、まじー、わたしたち閉じ込められちゃったのー」
それまできゃっきゃと楽しそうに騒いでいた3人の顔から、一瞬にして笑みが消えた。
千香はテーブルの上の先程叔父からもらったメモを手にすると、携帯の番号を押しはじめた。
「叔父さんに電話して開けてもらわなくちゃ」
叔父が宿泊する予定のホテルに電話をすると、叔父たちはまだチェックインしていないとの事だった。
千香は、到着したらこちらまで電話を下さい、との旨をホテルのフロントに伝えると肩をおとして受話器を置く。さっき、叔父たちがこの別荘を出てからもう30分近く経っているであろうか。
部屋の中はさっきとはうって変って、しーんと静まりかえってしまった。もう誰も料理や飲み物に手をつけようとする者はいない。
テーブルの上にはさっきまでさんざん食べ散らかした料理と飲みかけのビールグラスと350ml入りのギネスビールの空き瓶9本とシャンパンの空のボトルが、まるで最後の晩餐のあとのような静けさで放置されている。
「しょうがない、叔父さんたち、もうそろそろホテルに着くはずだから、電話があるまで待ってよう」
プルルルルー、と電話が鳴ったのはそれから10分ほどしてからである。
「あっ、叔父さんだ!」
と千香は立ち上がると、急いで受話器を取る。
千香は早口で事の事情をやりとりした後「じゃあ、なるべく急いでおねがい!」と言って受話器を置いた。
「今からすぐにセキュリティーのキーをもって来てくれるって」
少しだけ安心した3人は、頭の中で皆同じ事を考えていた。
(あと何分くらいであの扉が開いて、おトイレに行けるんだろう)
******千香の場合******
まいったなあ、まったく。もう、叔父さんったら。
でも今日はシェフといっしょにこれだけいろいろ準備してくれて、大変だったろうなあ。
あと何分くらいで戻ってくるかなあ。
おしっこしたいなあ。
真夜は大丈夫なのかなあ。
けっこうビール飲んでたような気がするし。
でも、真夜と綾規恵はさっき駅のトイレに行ってたしなあ。
わたしは、城ヶ崎で3時ごろトイレにいったっきりだし。
ああ、おしっこしたいよ。
さっきここを出てから30分以上たってホテルに着いたってことは、あと30分以上たって戻って くるってゆう事?
まいったなあ。
もうそんなに我慢できないよ。
ビールって、飲むとけっこうおしっこしたくなるのかなあ。
あと30分なんて絶対無理だ。
どうしよう。
どこかに、おしっこ出来るもん、ないかなあ。
もうさっきから膀胱が赤信号だよ。
おしっこしたいよう。
そういえば中学3年の時、塾の模擬テスト会場で危うくおしっこを漏らしそうになったことがあったなあ。
あれ以来だ。
あのときは、けっこうおしっこがしたい状態で休み時間にトイレに行ったんだけど、長蛇の列で、並んでいるうちにベルが鳴ってしまい、やむなく次のテストを受けたんだったっけ。
あの時もつらかったなあ。もう次の時間はテストどころではなかったよ。恥ずかしいけどアソコをスカートの上から押さえたりして、なんとか50分間我慢したんだったっけ。
よく我慢したなあ。
あのとき50分我慢出来たんだから、今日もあと30分くらいは我慢できるかなあ。
ああ、でももうなんかもうダメだ。
おしっこしたーい。
きっとビールのせいだ。
どうしよう。
*****真夜の場合*****
えっ、やっだー。
千香の叔父さん達が戻って来るまでトイレ行けないの。
もう膀胱パンパンなのに。
あー、どーしよう。
窓から外に出れないかな。
でも、さっき叔父さん達が出る時にシャッターを降ろしてロックしてたから無理なんだろうなあ。
もー、オシッコ我慢できないよー。
たぶん3人の中でわたしが一番我慢してるんだろうなー。
さっきすごい喉かわいてたからガブガブビール飲んじゃったし。
ビールってやっぱすごいオシッコしたくなるんだなあ。
さっき駅前のトイレでしてから、まだ2時間半しか経ってないのに。
マジでやばいなあ。
あー、オシッコしたい。
どーしよう。
まさかここで漏らすわけにいかないし。
千香の叔父さんが戻って来るのはあと30分位かかるんだろうか。
もう絶対そんなに我慢できないよ。
なんとかしなくちゃ。
男の人なら、あのテーブルの上の空き瓶にできちゃうんだろうか。
女の子じゃあ、絶対無理だ。
自分のアソコは見たことあるけど、オシッコの出る穴ってわかんないしなあ。
どんなふうに出てくるんだろう。
あーもう膀胱が限界状態だ。
おしっこってどのくらいの量我慢できるんだろう。
さっき飲んだビールって、今もどんどんオシッコになって一滴ずつ膀胱に溜まっていってるんだろうな。
死ぬ気で我慢したら膀胱って破裂しちゃうのかなあ。
でも、そんな話聞いたことないし。
やっぱり、最後は漏らしちゃうんだろうか。
あー、もうじっと座ってられないよ。
どうしようどうしよう。
*****綾規恵の場合*****
うそー、あとどのくらいで叔父様たち戻ってくるんだろう。
さっきから急にトイレに行きたくなっちゃってるよ。
夕方駅で行ったのに。
ビールとか飲んだからかなあ。
空瓶が9本かあ。私も2本以上は飲んでるしなあ。
その前にたしかシャンパンも3杯飲んだし。
わたし、もともとトイレは近いほうだからなあ。
ああ、トイレ行きたいよ。
それにしても、わたしって結構おしっこ我慢すること多いなあ。
やっぱり普通の人よりトイレ近いのかなあ。
新陳代謝がいいのかなあ、それとも膀胱がひとより小さいのかなあ。
真夜なんてビール3本以上飲んでるのに、よく我慢できるなあ。
小学生のころは、よく授業中に我慢してたっけ。
3年生の時に一回だけ我慢できなくなって漏らしちゃったしなあ。
高二の修学旅行のバスの中でも、漏れる寸前まで我慢したっけ。
あのときはほんとギリギリだった。
恥ずかしかったけど、バスがサービスエリアに着いたとたんに、スカートの上からあそこを押さえてトイレに駆け込んで、タッチの差でセーフだったっけ。
パンツを降ろすと同時におしっこが出てきちゃって、パンツにかかっちゃってトイレのなかにパンツ捨ててきちゃったもんなあ。
あのときはバスの振動が満タンの膀胱にきつかったなあ。
それにくらべれば、今日はまだ揺れてないだけましか。
ああ、でも叔父様達がもどってくるまで我慢できそうにないなあ。
でもまさかここで漏らすわけにはいかないし。
もうおなかの下がパンパンだよ〜。
スカートのホックを外せば、少しは楽になるだろう。
どーしたらいいの。
真夜はだいじょうぶなのかなあ。
おトイレいきたいよー。
ねえ、どーすればいいのー。