春休み、お屋敷の応接間で 第2話




 さて、場所は変って、ここは同じ邸内の2階にある主人の書斎である。8帖ほどの洋室の壁にはぎっしりと仏文学の本が詰まっている。窓に向かって大きな、おそらく仕事用であろう、しっかりとした木製の机が置いてある。机の上には2台の小型TVモニターが並んでいる。そして椅子にはなんと留守のはずの主人が、にこにことモニターを眺めながら座っているではないか。
 画面には、応接間の絨毯に座ってTVゲームをしている亜矢子が、それぞれ別の角度から写し出されている。どうやら、応接間の天井付近に2台のカメラが取り付けてあるようだ。
「今日のお客さんは、えらいべっぴんさんやのう」
「はい、今どきの若い者にしては、とても礼儀正しい子でございます」
 なんと、これまた先ほど外出したはずの使用人が主人のななめ後ろに、同じようにニコニコしながら座っている。
「今日はいい日やなあ」
 主人はブランデーを嘗めながら、極上のローストビーフをフォークで口に運ぶ。
「さきほど、コーヒーにラシックス(利尿剤)を半錠ほど混ぜましたので、5時まえにはもう限界かと、、」
「ほほう、それは楽しみじゃ。どうだ、おまえさんも一杯やらんかね」
 そう言うと主人は、サイドボードからブランデーグラスを取り出して使用人に手渡し、机の上にあったボトルを手に取ると、そのグラスに注ぎ込む。
「これはこれは、どうも有り難うございます」
「たまには一緒にゆっくりと楽しもうや」
「はあ、恐縮でございます」

 ああ、けっこうオシッコしたくなってきちゃったなあ。TVゲームに集中できなくなってきた亜矢子は、壁の時計を見る。4時23分。さっきコーヒーを飲んでから急に尿意が増してきたような気がする。
 おもむろに立ち上がると、電話器のところまで行き、受話器をとって内線の1番を押す。呼び出し音は鳴るが反応はない。まいったなあ、、、今度は内線の2番を押してみる。やはり呼び出し音は鳴るが反応はない。
 こんどは3番、、、4番、、、やっぱりだめだ。
 応接間のドアのところまで行き、ノブを廻してみるが、やはり開かない。ドアを内側からコンコンコンとノックしてみるが、外の廊下は静まりかえっている。
 どーしよう、やばいなあ、、、
 まさかこんなとこで漏らしちゃうわけにいかないし。
 ああ、本当にオシッコしたい。どうしよう。

 そういえば、小学校6年の頃、スキーの帰りのバスでおしっこを限界まで我慢したことがあったなあ。あの時はつらかったなあ。
 スキー場から電車の駅まで、多分小一時間だったと思うが、寒さのせいもあったのか、とにかく急におしっこがしたくなって、バスの中で前屈みになって股間をおさえながら我慢していたのを、今でもよく憶えている。
 あのときは、本当につらかった。パンパンになった膀胱の中のおしっこを一滴ずつ出せば他の人に気がつかれないかな、なんて本気で考えてたっけ。結局駅に着くまでなんとか我慢が出来て、着いたと同時に他のお客さんをかきわけて、公衆トイレに駆け込んだんだった。おしっこをした
 瞬間、ため息と涙が出てきたのをよく憶えてる。

 たぶんあの時が、亜矢子にとって生まれてから今までの、一番のおしっこ我慢だった。

 再び、書斎の中。
 机の上のモニターを眺めながら、主人が言う。
「お嬢さん、そろそろ我慢できなくなってきとるやろう」
「はあ、そうですね。もうけっこう溜ってると思います」
 モニターには、応接間の亜矢子が映っている。さっきから内線の電話をしてみたり、ドアをガチャガチャしてみたりと落ち着きがない。時々左手でスカートの上から股間を押さえる仕草をする。もはや、TVゲームはどうでもいい感じだ。
 窓ぎわに歩み寄り、窓を開けようとする。しかし、窓は開かない。
「あのお嬢さん、顔に似合わず庭でオシッコしようなんて思っとるのかねえ。はっはっは。あの窓は開きまへんは」
 主人はブランデーのグラスを口にはこび、上機嫌だ。

 亜矢子は壁の時計を見た。4時46分。全身に鳥肌が立ってきた。もう我慢の限界かもしれない。
 といっても、亜矢子は物心ついてから粗相はしたことがないので、実際にどこまでが我慢の限界なのか経験がないのでわからない。実は自分はどれくらいの量のおしっこを我慢できるのだろうか、、、亜矢子にはまったく想像がつかない。
 何年か前に日本の女性誌で膀胱炎にまつわる記事があって、そこに、成人女性の膀胱の容量は700ml前後が限界だが、人によっては最高1000mlくらいまで溜めることが出来る、と書いてあったのを思い出した。1000mlといえば、1リットルだ。いつも亜矢子が飲んでいるミネラルウオーターが500mlのペットボトルだから、それの2本分だ。けっこうすごい量である。今、私の膀胱には、はたしてどのくらいのおしっこが溜っているのだろう?必死の思いで尿道を閉じながら亜矢子は一瞬考えた。
 今日は、朝10時に起きてトイレに行ったっきりだ。ミニスカートの上から右手で股間を押さえながら、上半身を前に倒して内またで電話機のところまで行くと、再び内線の番号を押してみる。
 だが、応答はない。
「ああ、お願い、はやく帰ってきて!」
 ドアの所まで行き、ドアノブを廻すが、やはりドアは開かない。
「イヤー、どうすればいいの」
 とにかく、このままでは大変な事になってしまう。このまま我慢の限界が訪れれば、この部屋の中で大量の尿を漏らしてしまうことになる。この応接間に敷いてある、おそらく相当な値段がしたであろうペルシャ製の絨毯を汚してしまっては、とんでもない事になる。
 急激な尿意で、もう立っていられない。亜矢子は絨毯にひざをついて、前かがみになっていなければ耐えられない状態になってきた。体が小刻みに揺れている。
 もうこうなたら恥も外聞もない。とにかく、このまま失禁することだけは避けなければならない。
 亜矢子は部屋の中を見回した。とにかく何か自分の尿を受けとめてくれる容器、もしくはその代わりになる物はないだろうか。
 部屋の片隅にある籐製の屑篭を見つけ、そこまで四つん這いで移動する。あのなかにビニール袋がはいっていないだろうか?股間を押さえて、可愛い額には脂汗がにじんでいる。籐製の屑篭までたどり着き、中を覗く。残念なことに中に入っていたのは紙袋だった。
「ああ、これじゃだめだわ。ほかになんかないかしら」
 再び部屋のなかを見わたす。テーブルの上には、先程飲んだコーヒーのカップがある。しかし、今自分の下腹部に溜っている尿が、あの小さなコーヒーカップにおさまるわけがない。
 だいたいこのような裕福な邸宅の応接間には、何百万もしそうな壺とかがありそうなものだが、今、亜矢子が求めている壺や花瓶のたぐいの物は、いっさい置いてない。
 亜矢子は股間を押さえながら、再びソファのところまで這っていった。自分のバッグを取ると、中身を覗き込む。買い物をした後のお店のポリ袋かなんかが入ってないだろうか?前かがみのまま、ガサゴソとバッグの中を探すが、何も見つからない。
「ああだめ、ほんとにもうだめかも、もれちゃう」
 両手で股間を押さえて、荒々しく口で息をしながら亜矢子はテーブルの上のコーヒーカップを見つめる。
 とりあえず、あのコーヒーカップの分だけでも、今膀胱の中で、はち切れそうに溜っている尿を出したら、少しは楽になるのではないだろうか?


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