MOTOKA 第11章




(ああー、どうしよう、、、、もうだめかもしれない、、)

 車道は車が数珠繋ぎに渋滞していた。
 その車の間をぬって道路を渡ると、手をつないでいる優里が心配そうにこっちを見る。
「素香、がんばって、、」
 返事をするかわりにギュッと優里の手を握りしめる。
 通りから少し入ると、すぐに閑静な住宅街になったけれど、花火大会のせいか素香たちの他にもまばらではあるが通行人がいる。
(ああ、もうだめだ、、、もう我慢できないよ、、)
 後ろを振り返ると、花火帰りの何組かのグループが歩いて来るのが見えた。
 出来るだけ早く歩こうとするけれど、振動が下腹部を直撃してしまうので、思うように足が進まない。
(あっ、、だめ、、でちゃう、、、)
 瞬間的に右手で股間を強く押さえる。素香の小さな出口に押し寄せている大量の水分は、出口を求めてさらに圧力を増している。
 全身の力をおしっこの出口に集中する。
 額から汗が流れる。
(ああ、、、おしっこ、、、どうしよう、、)
 前を歩いていた熟年の夫婦を追いこして、静かな住宅街に優里と素香の草履の音がパタパタと響く。
(歩きながらもれちゃったらどうしよう、、、優里に借りてる浴衣がよごれちゃう、、どこかに物陰でもあったらそこでしちゃおう、、、)
 優里と繋いでいる手のひらも、汗でじっとりとしてきた。
 どこかに隠れてしゃがめるスペースがないかとキョロキョロあたりを見渡すけれど、通りの両側には銀色の街灯に照らされた住宅が整然と立ち並んでいるだけだった。
 再び貯水地の限界を超えた水分が素香の小さな出口を猛烈な勢いでこじ開けようとする。
 素香は慌てて股間を押さえて、
「ああっ、、、」
 と思わず声を出して立ち止まってしまった。
 浴衣の上からおしっこの出るあたりを思いっきり押さえ続けて、とりあえず何とか決壊は押さえることが出来たけど、もう限界だ。
 優里が振り返って「だいじょうぶ?」と本当に心配そうな顔でこちらを見る。
「ごめん、、もうだめだ、、がまんできない、、歩いたら出ちゃう」
 体を前に屈めて泣きそうな顔で優里を見る。いや、もうすでに涙が数滴こぼれてきてしまっている。
「あと少しだよ、5分くらいで着くからさあ、、」
「うん、、」
「とにかく、行けるとこまで行こうよ」
「うん」
 優里に手を引かれて再び歩き出す。
 再び全身の力を股間に集中させて歩き出したけれど、歩く歩幅は今までの半分くらいが精一杯だ。
 体をくの字に折り曲げて、両腿をピッタリと合わせたままパタパタと乾いた音を立てて、静まり返った住宅街を行く。
(ああ、、やっぱりだめだ、、もうおしっこでちゃうよ、、、どうしよう、、)
 目を閉じて『神様どうかおしっこが漏れませんように』とくり返し祈りながら早足で優里について行く。
 全身に鳥肌が立ってきた。
 許容量を超えた貯水地のなかのおしっこが物凄い勢いで、また小さな出口をこじ開けようとしている。
(ああ、、やっぱりもうだめだ、、、もれちゃう、、)
 優里の手を思いっきりギュッと握りしめる。
 もう本当に限界だった。
 目をあけて急いであたりを見渡す。
 涙でにじんだ視界の先に、黄色く光る看板が目にはいった。
 ワンブロックほど先のその看板は確かに『100円パーキング』の看板だ。
(駐車場だ、、同じのがわたしの家の近くにもある、、)
 その瞬間、
「優里、ごめん、、わたしもうだめだ」
 そう言うと素香は繋いでいた優里の手を離して、体をくの字に曲げたまま股間を押さえて走り出した。
 走り出したとたんにおしっこが出口からあふれそうになった。
 押さえている右手に力を込めて、歯をくいしばる。
(おねがいだから、、、もれないで、、)
 地面からの振動が悲鳴をあげている下半身に直接響く。股間を押さえている手の力を少しでも緩めればダムの崩壊はもう確実だった。
 駐車場まであと30メートルくらいだ。
(ああ、、だめ、、、)
 ぞわっと背筋に悪寒が走って、再び全身に鳥肌が立った。
 あと15メートル。
 駐車場にもし人がいたらどうしよう、、、。
 一瞬、あそこからおしっこが滲み出たような感覚があった。
「ああ、、」と小さな声を上げながら右手に力を込める。
(おねがい、、おしっこ出ちゃだめえ〜〜、、、)
 遠くの方から中年のサラリーマン風の男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
 ああ、人が来る、、、
 でももう我慢は極限状態を通り越している。
 後ろの方から、たぶん優里のだろう、パタパタと草履の足音が聞こえた気がした。
 もはや股間を押さえている素香の力より、内側からの水流の力の方が強くなっていた。
(あああーー、、出ちゃう、、、、)
 もう本当に限界だった。
 駐車場の入り口になんとかたどり着くと、街灯に照らされて車が静かに並んで停まっていた。
 人は誰もいなかった。
「ああ、、、」
 両手で股間を押さえながら、一番奥に停まっている車を目指す。
(いやー、だめえーーー)
 股間にジワッと暖かいものを感じた。
(浴衣がよごれちゃう、、、)
 駐車場の中程で浴衣の裾を腰までまくり上げて、下着を膝まで降ろしながら中腰のままとにかく一番奥のスペースを目指した。
 股間からはおしっこがポタポタと垂れて、アスファルトに小さな黒い跡を残してゆく。

*   *   *

「優里、ごめん、、わたしもうだめだ」
 そう言って素香が突然走り出した。
(えっ、どーするの素香、、)
 優里は小走りで素香の後を追いかける。
 素香はあそこを押さえて前屈みのまま、物凄い勢いで走って行く。
 閑静な夜の住宅街にパタパタと二人の足音が響く。
 あそこを押さえた素香がコインパーキングの中に入っていった。
(素香ったら、本当にもうガマン出来なかったんだ、、、)
 素香の後を追いかけながら、心臓がドキドキして頭の中がキューンとしてきた。通りの向こうの方から街灯に照らされて、中年のおじさんがこっちに向かって歩いて来るのが見える。
 素香の後を追ってコインパーキングに入ると、一番奥に停まっている乗用車の奥に消えてゆく素香の姿が見えた。
 灰色のアスファルトに小さな黒いシミが点々と続いている。
(素香のおしっこだ、、、)
 駐車場の中程まで来ると『シューー』という勢いのいい音が聞こえてきた。素香のおしっこの音だ。
 もう走るのはやめて、ゆっくりと素香がしゃがんでいる車の陰まで歩いて行くと、水銀灯に照らされて銀色に輝いている素香のおしっこが、シューという音と共にものすごい勢いでコンクリートの塀に向かって迸っていた。
 素香はわたしが来た事に気付いているはずなのに、こちらをまったく振り向かずに目を閉じて肩で息をしている。咄嗟の出来事の中、浴衣が汚れないようにと裾を腰のあたりまでめくり上げているため、白いおしりが丸見えだった。草履を履いたかかとを地面にぺったりとつけて、昼間はピンクのビキニに覆われていた可愛いおしりが丸出しだ。
 素香のおしっこの音が静かな駐車場に響きわたる。弱まる気配がない素香のおしっこは、地面とほぼ水平に1メートルほど先の塀の手前まで届いていた。
(すごーい、、、素香のおしっこ、、あんなに遠くまで、、)
 その時、道路から人の足音が聞こえてきた。たぶんさっきのおじさんだろう。
「素香、人が通るよ」
「えっ、、」
 この時初めて優里の方に振り向いた素香の股間からの水流が、一瞬弱まった。
 カツカツカツという革靴の足音が近付いてきて、通りを中年の男が通り過ぎてゆく。
 素香の水流は完全に止まって、股間から雫がポタポタと垂れているだけになっている。
 男はこちらの方を見ながらも、立ち止まる事なく通り過ぎて行った。
「だいじょうぶ、行っちゃったよ」
 素香はふうっ、と小さなため息をつくと再び放水を始めた。
 徐々に強くなるその水流は、先程までの勢いはないにせよ、衰える気配はまったくなく、このまま永遠に続くかのようだった。

 素香と手をつないで静かな住宅街を歩きながら、優里はさっきの事を思い出していた。もうすぐ優里の家だ。

 素香のおしっこってあんなに前の方に向かって飛ぶんだ、、、
 わたしのはたぶんもっと下の方に向かって出るような気がするなあ、、、
 素香とわたしのおしっこの出る場所が全然ちがうのかなあ、、、
 でも、おしっこってどこから出るんだろう、、、
 毎日している事なのに自分では出てくるところは見えないし、、、
 まえに読んだファッション誌の中の『美しくなるためのSEX特集』という記事で、女の子のあそこの説明図を見た事があったけど、尿道口というのは確かクリトリスと膣口のあいだにあったような気がするけど、、、
 そういえば、その記事を読んだ後、自分の部屋で鏡を使って自分のあそこを見た事があったっけ、、、
 雑誌に載っていた図とは全然違って、もっと複雑にぐにょぐにょしていて、どこが膣口でどこが尿道口なのかぜんぜんわからなかった、、、
 割れ目の上の方にちょこんと飛び出てるのがクリトリスだというのはわかったけれど、、、
 今思えば一人エッチをするようになったのはそれからだ、、、

 家の手前のコンビニで、夜食と飲み物を調達することにした。
「ねえねえ、優里さあ、今日はまだ我慢する訓練してないでしょ。このあいだより我慢できるようになったかチャレンジ、チャレンジ!」
 と言って素香がコーヒーのペットボトルに手をのばした。
「優里がこの前よりたくさん我慢できたら、今日はわたし何でも優里の言うこと聞くからさあ、、、ねっ」

 素香ったら突然何を言い出すんだろう、、、


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