二人の軌跡 4(おしがまミカ)




《〜翔太〜》
 ミカと出会ってから10ヶ月が過ぎ、ジングルベルの音楽が流れる雑踏の中、オレはミカと腕を組んで青山界隈を歩いていた。
この日オレはミカに新しいウエスタンブーツを買ってあげる約束をしていた。
ミカは普段ミニスカートを穿く事が多く、この冬一番の冷え込みだというこの日も、そのブーツ姿をオレに見せたいからとミニスカートで来ていた。
ハイソックスは穿いていたがナマ足だ。
 しかしお目当てにしていた店にそれはなく、どうやら売り切れてしまったようであった。
ミカはすねている。
「でさ、どうしてもそのトニー・ラマのじゃなきゃイヤなの?」
なだめるようにオレが言うと
「へ〜え、トニー・ラマって言うの?私、名前なんて判んなぁ〜い!」
 相変わらずミカは天然だ。
「しょうがないなあ。無いものは無いんだからさ・・」
 オレがそう言いかけると、ミカは突然立ち止まり動かなくなった。
覗き込むと目にいっぱい涙をため、今にも「ワァ〜ン」と泣き出しそうだ。
「あ、ごめんミカ。ほら、ほかの店を探せばあるかも知れないし・・」
 なだめるしかないオレである。
「ばか翔太!私を一人ぼっちにしる間に売り切れたんだよぉ。おたんこなす!」
 ミカはぶつぶつと口の中でそんなことを繰り返し、動こうとしない。
それをなだめてすかして、なんとか歩かせてはみたものの、それからいくつかの店を回っても、やはりミカがお目当てとするブーツは見つからなかった。
ミカはますます不機嫌になってすねている。
「歩き疲れたからさ、ちょっとお茶でも飲んで休憩してから探そ!」
 オレがそう言ってデッキスタイルのカフェを指差すと、さすがにミカも疲れていたようで、すなおにその店に入ってい行き、オレはアメリカン、ミカはアールグレイの紅茶を頼んだ。
 オレはブーツのことに詳しい。
ミカの機嫌をとるべくウエスタンブーツの説明などをしてやって、ミカがほしがっているのはこんなか?と、絵に描いて見せてやった。
 寒い中を歩き回っていたので、ミカはトイレに行きたそうにしていたように思えたが、オレの描いた絵が自分の印象と凄く似ていると言って喜び、
「わ〜、翔ちゃん絵上手ぅ!そうそう、そんな感じぃ。でね!でね!!」
 その絵を指さしながら、ミカは細かいデザインなどの話し出し、まるで子供のようにはしゃいで絵に下手っぴ〜な上塗りをしていた。
しゃべり続けて喉が渇いたのか、紅茶がカラになるととコップの水まで口に含んで、そのブーツをどんな服に合わせたら可愛いいかなどをオレに説いていた。
 ミカの話を聞いていて、おそらくあの店に行けばそれは手に入るなという確信を持ったので、頃合いを見計らって
「あのな、ミカ。俺の知ってるショップにウエスタンブーツをたくさん扱っている所があるんだ。ただそこはトニー・ラマが主体じゃなくてフライってメーカーのが多いんだけど、どっちかって言うとラマよりフライの方がデザインとしては可愛いと思うんだけどさ、行ってみないか?」
 と、少しまくし立てるような感じで言ってみた。
「え〜、私の欲しいのフライじゃないよ〜!」
 ミカはまた少し機嫌が悪くなったが
「いや、絶対フライの方が可愛いって!ミカもきっと気に入ると思うよ!」
「フライって可愛いの?ね?私に似合いそう?」
 オレが自信ありげに言ったことでミカが少し興味を示してきたので、太鼓判を押すように
「うん、保証する!フライの方が絶対似合うって!もしダメでもラマのカタログから注文すれば、すぐに取り寄せてもらえるからさ!」
 と言ってやった。
ミカはそれで安心したのか
「行く行く!!フライのお店行く!ね、翔ちゃん早く!早く行こ!」
 ミカはまるで子供のように興奮して席を立ちかけた。
「判った判った、そんなに大きな声出すなって!みなビックリしてるじゃん。」
 オレはそう言ってミカを落ち着かせ、トイレに行ってから会計を済ませておくので、ミカもその間に涙目のメイクを直してきなよと言ってやった。
ミカに「トイレ」と言わず「メイクを直してきな」と言った事で、たぶんミカはまたオレのことを優しい男だと惚れ直しただろう・・と思う。
 それからしばらくしてミカは、涙ぐんだことで眼尻のシャドーがくすんだ所を補い、リップで唇を直して出てきた。
「ね、早く行こフライ屋さん!!」
 そう言いながらオレの腕にしがみつく。
「おいおい、お総菜を買いに行くんじゃないからな!」
オレは笑いながら地下鉄の外苑前駅に向かった。
「え〜?この辺じゃないの?フライ屋さん?」
 少し驚いたような顔をするミカだ。
「フライ屋・・まあいいか、店は下北だから渋谷から井の頭ですぐだよ。」
そう言うとミカは「下北かぁ・・・」と、少し不安そうな顔をした。
 地下鉄への階段を降りる時、特有の生暖かい風が吹きあげてきて、ミカのミニスカートを捲り上げた。
オレとのデートの時はナマ足で勝負パンツ系を選んでいる事が多いミカは、キャーキャーと叫び声を上げながら、スカートの裾を押さえてヨチヨチ歩きをしている。
そんなに騒いだら、かえって男の目を引くようにも思うのだが・・。
 井の頭線はさすがに混み合っていて、オレは吊革につかまったがミカは届かなくて、オレの体に腕を回して抱きつくような形になっていた。
 シャンプーの匂いと、コロンと汗が混じったミカ独特の甘い匂いがオレの鼻をくすぐり、密着した下腹部が刺激を受けて、オレの分身がムクムクと起き上がって来た。
それを感じたのか、ミカは眉をひそめて「こらぁ!」と小声で言った。
オレはイタズラ半分で、電車の揺れに合わせてそれを押し付けると、
「やっ!おなか押すなぁ〜!!」
 と、ミカはオレをにらみつけた。
その時のオレは、混み合っているから不快なんだと、それだけしか思わなかった。
 そんなことを繰り返している内に下北沢に着き、オレはミカの手を引いて歩くこと10分、お勧めのショップへたどり着いた。
ログハウス風な造りの店内に入ると、木と革とジーンズの匂いで溢れている。
「よお!久しぶり!おっ、そちら彼女か?かわいいいねぇ〜翔太もやるなぁ!」
店長がめざとくオレたちを見つけて歩み寄ってきた。
「こんにちは大石美香です。んと、翔ちゃんがいつもお世話になっています。」
 ミカは子供っぽいくせに、こんな社交辞令だけはシッカリしている。
店長はミカのことが気に入ったようで、しきりにオレを茶化しながら、今日はどうしたと聞いてきた。
「ああ、こいつ・・ミカにフライのブーツなんかどうかな?って・・」
「おお!クリスマス用にいいの仕入れてあるぞ。見るかい!?」
 店長は言いながら奥からソフトな布ケースに包まれたブーツを二つ出してきた。
そして2足のブーツを取り出して見せ
「これは新作でね、ウエスタンでもちょっと都会っぽいだろ!」
 と、ミカに示した。
「わ〜!可愛い〜〜〜、トミーよりずっといいね〜!!」
「だから!トミーじゃなくてトニー・ラマだって!」
「ねえ、ねえ、穿いてみていいですか?こっちの茶色い方!!」
 ミカはオレの言っていることなんか耳に入っていない。
店長は「きっと似合うぞ!」などと調子のいいことを言ってイスを出してくれた。
それに腰かけてブーツを穿くミカだが、足をかなり上げるためにスカートがずり上がって危ない状態になっていたが、ミカはブーツに集中しているのか気にならないようだ。
「んしょ・・でも、ちょっときついかも?つま先の方・・」
 少し不満げな顔をするミカであったが、店長から足になじむまではきつめの方がいいんだと説明され、気をよくして立ちあがり、姿見の前に行くと足を交差したりお尻をチョコンと突き出したりして、まるでモデルにでもなったようにポーズを取っていた。
その姿を目で追いながら、店長はオレに
「可愛い子だな。大事にしろよ!」
と言って肩を叩いていた。
「ねえ、翔ちゃん、私これがいい!これにする!」
 姿見の前で1回転しながらミカが満面の笑みでそう言った。
「うん、ミカちゃん良く判ってる。その茶色は凄く明るい色だろ?ちょっと無い色合いでね、実は限定品なんだよ!」
 店長は袋の中からリミテッドと書かれたタグを見せてながらそう言った。
リミテッド!!
オレは一瞬サイフの中身が気になって固まってしまったが、優しい店長はクリスマスだからサービスするよと、総額で4万1千円にしてくれて、まあなんとか想定内には治まってくれてホッとしたオレであった。
 ミカは相当うれしかったのか、姿見の前ではしゃいでいたが、店長が
「せっかくクリスマスプレゼントなんだろ!!よしっ、知り合いの店でかわいいラッピングしてきてもらうから待ってな!!」
 そう言ってミカからブーツを受け取ると、急ぎ足で店を出て行った。
見送るミカはなぜか少し落ち着きがないように見えたが、
「大丈夫。店長が持って逃げたりしないからさ!」
 冗談ぽくオレが言っても反応は今ひとつで、時々オレの顔を恨めしそうに見つめたりしながら店の中を歩き回っていた。
 10分ほどが過ぎ、店長がおしゃれにラッピングされたミカのブーツを持って戻ってくると、さすがにミカの顔に笑みがこぼれ、お店の手提げ袋に丁寧に入れてもらったそれを嬉しそうに受け取っていた。

 店を出るとミカはオレの腕にぶら下がり
「翔ちゃんありがとうね。すんごく嬉しい!やっぱトミーじゃなかったね!」
「あのなトニーだからな。ま、いっか。気に入ったのがあってよかったな!」
 嬉しそうなミカの笑顔を見ながら、すでに暗くなりかけた道を下北沢の駅に向かって歩き出した。
「ミカ、お腹すかないか?今日はけっこう歩いたからさ、もう腹ぺこだよ〜。」
「う〜ん、私もちょっと・・空いたかな・・?」
 ミカはオレを見上げるような感じの上目遣いでそう言った。
このいたずっらっぽい上目遣いが・・オレは好きだったりする。
「じゃあさ、外苑前に戻らない?美味しいイタリアン連れてってあげるよ!」
「え〜いいのぉ?だってフライ・・高かったでしょ〜!」
「いいっていいって、しばらくミカを放りっぱなしだったお詫びにね!」
 オレはブーツが想定内の予算で治まった事に気が大きくなっていた。
「え〜!ホント!嬉しい〜〜〜」
 ミカはオレにしがみついて喜んでいる。
そうしてオレとミカは来たときと逆ルートで外苑前へと戻っていった。
オレはこの時になってもまだ、ミカがそんなにおしっこを我慢していたとは気づいていなかった。

《〜ミカ〜》
 とっても久しぶりに翔ちゃんとのデートで、おまけにブーツを買ってくれるって言うので、私この日はとってもウキウキしていて、可愛く見せようと、寒いのを我慢してフレアミニなんか穿いて、ひょっとしたらそのあと・・なんてことも期待しちゃったりして・・。
 でも、ほしかったブーツが売り切れだって言われて、私、ほんとに泣きたかったけど、翔ちゃんがいいお店を知っているからって言うので、それに賭けてみることにしました。
 お茶していたお店を出るとき・・っていうか、実はその前から、寒い外を歩いていたので、トイレに行きたいなって思っていたんですけど、すねたりなんかしていたか言いにくくて我慢していました。
だから翔ちゃんが「メイクを直しておいで!」って言ってくれて、すごくうれしかったんですけど・・、そのお店、規模の割にはトイレが狭くて個室がふたつしかなくて、おまけにそのどちらにも2〜3人が並んでいたんです。
寒い日だったから仕方ないけど、私は翔ちゃんを待たせるのが申し訳ないのと、早くフライのお店に行きたい気持ちがはやってしまって、
(ま、いっか?フライのお店に行くまでの我慢だもん♪)
 そのお店がどこだとも聞いていないのに、私ったら軽くそんなふうに思ってしまって、鏡の前でお化粧だけ直してトイレから出てしまったんです。
おしっこがしたいのに、そのおしっこをしないままでトイレを出るって、なんかすごく変な気持ちでした。
そして、そのお店が下北沢だって聞かされた時、私はすごい不安に包まれていたんです。
(えっと、おしっこしたい指数が今70だからぁ、まあなんとかなるかなぁ?)
 私ったらそんなおかしな事を考えていました。
もし途中で我慢できなくなったら、どこかコンビニにでも寄ってもらえばいいや・・って思って。
 そしたら満員電車の中で、翔ちゃんったら・・堅くなったのを私に押しつけてきて・・、じっと立っているだけでもおしっこって辛いのに、翔ちゃんのそれがおなかを圧迫してくるので我慢できなくなりそうで、私は翔ちゃんにイタズラしないでって言いました。
けど翔ちゃん、おもしろがってずっと押さえつけてくるんです。
電車の揺れに併せて・・。
(おしっこしたい指数が80になっちゃうよぉ!!)

 連れて行ってもらったお店は、まるでログハウスのようなかわいい造りで、中には革製品がいっぱいあって、私、かなりキョロキョロしていたと思います。
 店長さんに出してもらったフライのブーツ、とっても気に入りました。
その日穿いていたフレアミニにも合いそうな、そんなかわいいブーツで、お目当てにしていたトニー・ラマよりもステキかもっ!
私、おしっこしたいことも忘れてしまって、姿見の前で小躍りしていたんです。
このまま穿いて帰りたいなんて思っていると、店長さんがきれいにラッピングしてもらうからって脱ぐように言いました。
 イスに腰掛けてブーツを脱ごうとすると、前屈みになるからおなかが圧迫されて、かなりやばいくらいにおしっこを感じました。
そのまま店長さんは外に出て行ってしまって、私、トイレの事を言えなくなってしまって・・、お店の中をキョロキョロと見回しても、お客さん用のトイレなんか目に付かないし、ほかの店員さんにトイレを貸して下さいって言うのも気が引けて、落ち着かなくてお店の中をウロウロと歩き回っていました。
(どうしよう・・おしっこしたい指数が80を超えちゃった・・)
 この冬一番の寒い日だって言われてたけど、翔ちゃんとお昼すぎに会ってから今まで、私まだトイレに行っていないんです。
お昼に家で飲んでいたホットコーヒーなんかが、きっと今おなかの中でおしっこになっって溜まってきているんだなって思いました。
(あ〜んおしっこしたい・・翔ちゃんに言ってトイレ貸りてもらおうかなあ・・)
 なんて思いましたけど、よく考えてみたら、さっきお茶してたお店でトイレに行った事になっているのに、また行くのかって思われるが恥ずかしく思えて、ついつい言いそびれてしまった私・・。
(あのお店でも紅茶とかお水とか・・けっこう飲んでしまったしなあ・・)
 調子に乗っていっぱい飲んでしまったことと、やっぱり遅くなってもトイレを済ませておくべきだったと悔やんでいた私です。

 下北沢の駅に向かっているとき、翔ちゃんが晩ご飯をごちそうしてくれるって言いました。イタリアン♪♪
私、うれしくて翔ちゃんにしがみついていたんですけど、そんな風にしているとやっぱりおしっこしたいって事が言い出せなくなります。
 翔ちゃんに手を引かれてまた満員の電車に乗って、ずっとおしっこを我慢したまま青山通りに面したビルの地下1階のイタリアンレストランに入りました。
(やっとおしっこに行ける!!)
 なんか高級そうなお店でしたけど、私はトイレに行きたい事で頭がいっぱいになっていました。
でも・・この時間は予約でいっぱいで、あと1時間ほど待たないと席がないって言われてしまって、どうするのかと思ったら、翔ちゃんは1時間後にまた来ますなんて言って予約カードに名前を記入して・・お店を出ようとするんです。
私、やっとおしっこができると思って安心していたのに・・。
「他の店に行ってもいいんだけどさ、ここ絶対おいしいからさ〜、」
 地上に出ると翔ちゃんはそう言って、1時間ほど外苑の方を散歩して時間をつぶそうと言いました。
「うん・・、でもさ〜寒いよ〜、それにもう暗いしぃ・・」
 私、それでもおしっこしたくてたまらない事が言い出せなくって、そんなふうに遠回しに言っていました。
トイレに行けると思っていたから、我慢の気がゆるみかかっていて、私はホントに泣きそうになっていたんです。
「まあ歩けば暖かくなるさ。な!さっ行こ行こ!」
 私の気持ちを知らない翔ちゃんはそう言って、肩に手を回して押すように歩き出しました。
(あ〜ん、おしっこしたいのにぃ・・、どうしよぉ・・おしっこ・・)
 私、おしっこしたい指数が95を超えかかっていました。。
(やだよぉ・・あと1時間なんてぇ・・絶対無理だよぉぉぉぉ!!!)
 ほんとにおしっこがしたくてたまらなくなってきているのに、私ったらブーツと言うプレゼントのうれしさと、トイレに行きそびれていた事を告げるのが恥ずかしいのとで、どうしても切り出せないまま、翔ちゃんに肩を抱かれて歩き続けていました。
コンビニが見えても、翔ちゃんがずっとなにか話しているので、そのことを言い出すタイミングもありません。
 ブーツの入った手提げ袋を持つ手に力が入ってしまいます。
そっとスカートの上からおなかを触ってみると、幼児体型みたいに下腹部がポッコリと膨らんでいます。
(どうしよぉ・・トイレ行きたいよぉっ!!)
 不安だらけの頭の中は、もうおしっこの事しか考えられなくて、話しかけてくる翔ちゃんに生返事しか返せません。
寒い外で、こんなにおしっこを我慢しながら、ナマ足のミニスカートで歩いている私って・・すごくすごく可愛そうな子です。
(やだよぉ・・おしっこしたいぃ・・漏れちゃうよぉ〜っ!)



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