おしがまエッチ外伝 小百合編(前編)




(情報提供: 下柳典子さん)

 野口小百合 (典子のエピソード2参照) 参照) は父親の仕事の関係で、小学校を卒業すると同時に、兵庫県北部の小さな町から神戸市に引っ越した。
元々人見知りが強く引っ込み思案な性格の小百合は、大きな街での暮らしに慣れず、新しく入った中学でもひとりでポツンとしていることが多く、少しオドオドしたような感じで毎日を送っていたが、そんな小百合にも夏休みを前にした頃になって友達ができ、いじめにあうような事はなかった。
 小百合のクラスに市村佳紀(いちむらよしき)という男子がいた。
父親が海上保安官で、小学5年の時に東京から来たという。
彼は中1とは思えないほどの高身長で、当時すでに175センチあり、サッカー好きのスポーツマンで、勉強の方もそれなりにでき、日焼けしたその顔はりりしくも見え、クラスどころか学年でも人気者であった。
 小百合は幼心にも、そんな佳紀に対してあこがれを持つようになっていったが、いつも遠くから彼を眺めているだけの毎日であった。
 バレンタインデーが近づき、小百合も佳紀に渡そうとチョコレートを用意していたが、それはとうとう手渡すことが出来ないまま、終業式の頃まで小百合の引き出しにしまい込まれたままであった。

 2年生の始業式。
新しいクラス替えの掲示を見に行くと、小百合は偶然にもまた佳紀と同じクラスになっていた。
それはとても嬉しいことであったが、自分の気持ちを伝える事ができない小百合にとって、ある意味で辛いものでもあった。
クラスが違っていれば、毎日その姿を追いかけずにすむのに・・と。
 佳紀は当然女の子から人気の的で、コクった子も何人かいると噂が流れていたが、見たところ特に個人的なつきあいをしている様子はうかがえず、相変わらずサッカーに熱を上げ、いつも数人の男友達と行動していた。
 夏休みに入り小百合は遅い初潮を迎えた。
それを境に体が成長していき、夏休みが終わる頃には153cmから160cmになって、顔もどこか垢抜け、今で言うならば大沢あかねに似た、ポニーテールがよく似合うかわいい神戸っ子になりつつあった。
 しかし思春期に入った事で、いつも男子からの視線が気になって落ち着かず、恥ずかしくてまた人目を避けるようになってしまって、容姿とは裏腹な目立たない存在になっていた。
 3学期にはいると、小百合の意識も少しずつ変化して視線を気にすることも無くなっていったが、それでも佳紀とだけは目を合わせる事が出来なかった。
 そんなある日、小百合が日直の用事で残っていた教室に、突然佳紀が入ってきた。
「あれ、野口まだいたのか?」
 ごく普通に話しかける佳紀。
「あ・・、き、きょうは日直・・」
 いきなり話しかけられた事で、小百合はしどろもどろになってしまう。
「日直かあ。あれ、もうひとりの奴は?」
「あ・・○○くんだけど・・先に帰るって・・」
「なんだよ。あいつ野口に押しつけてサボってんだな!」
「あ・・そういう意味では・・あの・・用事があるからって・・」
 小百合は陰口を言ったような気になって少しあわてた。
「野口がおとなしすぎるから利用されるんだよ。」
「・・・」
 佳紀に言われるとおり、押しつけられたのは事実であった。
佳紀は自分の机の中をゴソゴソしながら、
「あのさあ、もっと自分に自信持った方がいいぞ。もったいない・・」
 と言ってノートを取り出すと、それを鞄にしまい込んで、じゃあなと後ろ手を振りながら教室を出て行った。
(市村くんと初めてしゃべったあ!!)
 たった数秒のことであったが、小百合はそれだけで心臓がドキドキ高ぶって、顔が赤くなっていくのを感じていた。
(けど・・もったいないって・・なに?)
 佳紀の最後の言葉は、その時点では小百合の理解を超えていたが、それよりも彼と会話したことで上機嫌になった小百合は、そそくさと用事を済ませ、珍しく鼻歌交じりで学校を後にするほどであった。
 それでもその年もまた・・バレンタインデーにチョコレートを手渡すことが出来なかった小百合であった。

 3年生になった。
偶然にもまた小百合は佳紀と同じクラスになっていた。
その掲示板を食い入るように見つめていると、
「野口!またいっしょだぜ。よろしくな!」
 佳紀が後ろからポンと小百合の肩を叩いた。
「あ・・、うん・・こちらこそ。」
 振り返りながら言う小百合。
たったそれだけの会話であったが、小百合にとってはこれ以上ないうれしさで、飛び跳ねたくなるような気分になり、3年生のスタートが明るく感じられていた。
 しかし毎日の学校生活に大きな変化はなく、修学旅行先で撮ったわずか一枚のツーショット写真がある以外は、二人の間に何の変化もうまれなかった。

 秋になり、みなそれぞれに進学進路の決定をする時期が来た。
佳紀は灘高校を受験するという噂が飛び交っていた。
進学校で有名な灘高は男子校で、小百合は同じ高校には行けないという現実を認識し、なんとなく寂しい思いを抱いていたが、それでも「がんばって!」と、心の中でそっと応援することで自分自身を慰めていた。
 そんなある日、佳紀が転校するという情報が流れてきた。
その情報は事実で、保安庁の急な異動が発令され、彼の父親が霞ヶ関の本庁へ栄転となって一足先に東京へ行き、彼は2学期が終了したら母親と一緒に引っ越しするというものであった。
(そんなあっ!)
 小百合は寂しくなって泣いた。
特に佳紀と何かつながりを持っている訳ではなかったが、もう会えなくなると思うと、胸の奥がキュンと押しつぶされたような息苦しさを感じ、何も手につかなくなって、授業にも身が入らなくなっていた。
「野口、今日の放課後ちょっといいか?」
 そんな小百合が佳紀に声をかけられたのは、彼が転校すると知ってから1週間後のことであった。
HRが終わり、指定された裏庭の職員駐車場に行くと、佳紀がひとりで待っていた。
「もう知ってると思うけど、オレもうすぐ東京に行く。」
「・・・」
 佳紀のその言葉だけで、小百合は胸が張り裂けそうになって涙ぐんでしまった。
「あのさぁ・・、オレ、お前のこと好きだったんだぜ!」
「えっ!?」
「お前ったら全然そういうの・・気づいてなかったろ?」
「・・・」
 思いがけない佳紀の言葉に、小百合は立ちつくしてしまって言葉すら出ない。
「なんていうのかなあ・・、ずっと見てたんだオレ・・お前のこと。」
「・・・」
「あのさあ、オレの中でさ、気になる存在だったんだよ、野口・・」
「・・・」
「けどさ、お前ってなんかバリア張ってるみたいでさ・・」
「・・・」
「もう少し早く告りたかったけどさ、迷惑なのかなって思ったりしてた。」
「・・・」
 小百合は泣くことしか出来ない。
かつて佳紀が「自分に自信を持て」とか「もったいない」と言った言葉を思い出し、あれは佳紀からのアプローチであったのだ、なぜあの時に自分の気持ちをぶつけることが出来なかったのだろうと、佳紀の告白を聞いて今さらながらに思う小百合であった。
「もうすぐ会えなくなるけどさ、オレ、どうしても言っておきたかったんだ!」
 佳紀はそう言うと、うつむいたまま泣いている小百合に近づき
「今さらだけど告れてスッキリしたよ。」
 と言ってその手を握りしめた。
小百合は涙でくしゃくしゃになった顔を上げることが出来ずにいる。
「あのさあ、野口のこと好きだって奴・・他にもいるんだぜ。」
「!!・・」
「お前、けっこう人気あるのにさ。わざと遠ざけてるみたいじゃん。」
「・・・」
「もったいないよそんなの。これからはもっと自信持てよな。」
「・・ん・・」
「じゃな!来てくれてありがとな!!」
 佳紀はそれだけ言うと身を返し、後ろ手を振りながら行こうとした。
「あっ・・」
 なにか言おうとした小百合であるが、言葉が何も見つからない。
佳紀の後ろ姿が涙でにじんでぼやけている小百合。
そのぼやけた影が校舎の角を曲がろうとした時、ついに思いあまった小百合の口から言葉が出た。
「私も・・前から・・1年生の時からぁ・・」
 生まれて初めて大きな声を出した小百合。
立ち止まった佳紀はおそらくニコっと笑ったのであろう。そして右手を大きく振り上げたように見えた。
はっきりと告白してくれた佳紀に対して、もっときちんとした態度を示さなければ後悔することになる。
そう思った小百合は瞬間に駆けだしていた。
「私もずっと・・ずっと好きだったのぉ!!」
 涙がにじんでほとんど見えていない小百合は、佳紀の影に向かって走ったが、わずかに盛り上がっているマンホールのフタに気づかず、それに足を引っかけてしまい、勢い余って前のめりに倒れかけた。
ガッシッ!
その体をしっかりと抱き留めてくれた佳紀。
その左手は偶然に小百合のさほど大きくない右胸に当てられていた。
「大丈夫か?」
 心配そうに言って体を起こそうとしてくれる佳紀ではあるが、小百合は胸に手をを置かれたことがが恥ずかしくてたまらない。
勢いよく抱きかかえられ、胸に受けた痛みがキューンと体の奥に伝わると同時に、これまで感じたことがない熱いものがこみ上げてきて、小百合はまた顔を上げられなくなっていた。
「ありがとう。野口の気持ちがわかってうれしいよ。」
 佳紀はそう言いながら右手で小百合の顔に垂れた髪をかき上げ、涙まじりのその顔を覗き込むようにして少しかがんだ。
「もう泣くなよ。な!」
 そう言いながら小百合にキスをする佳紀。
「!!」
 ずっと思い続けてきた佳紀にキスされて、小百合の頭はパニックになり、瞬間にすべての思考回路が停まってしまった。
 ものの数秒のことであったろう。
しかし小百合には何十秒にも感じられ、その間、どうしていいか分からずにただされるがままに突っ立ていた。
その間も佳紀の左手は胸に置かれたままであり、むしろ少し力を加えていたようにも感じられた。
やがて佳紀が顔を上げ、
「ありがとう。野口の気持ち、大事にするよ!」
 そう言って体を返し、また後ろ手を振りながら校舎の角を曲がっていった。
「・・・!」
 呆然と立ちつくす小百合。
その目からはまた新しい涙があふれていた。
大好きだった佳紀に告白され、キスをされ、胸を触られ、それらが一瞬のうちに起こった出来事であったので、事態を把握するまでに相当の時間が必要な小百合であった。
「市村くん・・」
 ポツリと彼の名を呼ぶ小百合。
佳紀に触られた胸に改めて自分の手を置き、そのまま小百合はその場所に10分ほど立ちつくしたままであった。

 その日をきっかけに、小百合は佳紀と話をするようになった。
自分から話しかけていき、佳紀もそれに応える。
まるで人が変わったかのような小百合の姿に、クラスメイトは少なからず驚いていたようである。
 もう少しで別れ別れになってしまう。
それなら今のうちに、思いっきり自分をさらけ出してぶつかっていきたい。
佳紀によって、ようやく自分というものに自信が持て始めた小百合は、わずかに残された時間を大切にしようと思い、それが原動力になっていたようだ。
自然と勉強にも熱が入り、期末試験もそれなりの成績で終わることが出来ていた。

   2学期最後の日、終業式終了後に佳紀の送別会をすることになり、担任も交えて教室でささやかな会が催された。
そのころになると、クラスの誰もが小百合と佳紀の仲を知っていて、ふたりは並んで座らされていた。
恥ずかしさを隠せない小百合であったが、それはとても嬉しい事であった。
担任までもが、佳紀のおかげで小百合が明るくなったと言ったほどである。
購買部の計らいで用意してあった飲み物などで、佳紀の前途を祝って乾杯し、和やかに会は進み、その後校庭で記念写真などを撮って解散した。
 佳紀の仲良しグループ数人と、同じ方向へ帰る者たちが連れ立って歩き出す。
もちろん小百合もその中にいた。
 佳紀は翌日昼過ぎの新幹線で東京に発つ。
みな新神戸の駅まで見送りに行くからと約束し、一人また一人と分かれ道を去って行った。
小百合も小学校卒業と同時に転校しているだけに、その寂しさが自分の事のようにひしひしと感じられ、ついつい涙ぐんでしまっていた。
「野口!お前にさ、渡したい物があるからうちに寄ってくれよ。」
 佳紀にそう言われていた小百合は、自分の家への道を通り過ごして歩いていたので、皆から追求されたり冷やかされたりしたが、それはなんとなく心地よいものでもあった。
しかしそれとは逆に困った事態も抱えていた。
それは尿意であった。
 小百合はこの日、家を出るときにトイレに行ったきりで、送別会の途中から感じ始めていた尿意は、記念写真を撮る頃にはかなり強いものになっていた。
コートなどを取りに教室へ戻った時、急いでトイレに行こうと思ったが、みんな集まっているから早く来いと言われてしまい、仕方なくそのまま歩き出していたのであった。
(・・トイレ行きたい・・どうしよう・・)
 ワイワイと騒ぎながら歩く中、小百合の頭の中はおしっこをどうしようかと、そればかり考えていた。
それというのも、小百合は元々人見知りが強い上に人一倍の恥ずかしがり屋で、女友達といる時でさえ自分からトイレに行く事ができず、いつも誰かが行くのを待ってついて行くほどであったので、大好きな佳紀の家でトイレを借りる事など恥ずかしくて考えられず、尿意を催していることさえ知られたくないと思うほどであったからだ。
(おしっこしたい・・朝・・あんなに飲まなけりゃよかった・・)
 朝食で飲んだマグカップのカフェオレを悔やむ小百合。
チラッと腕時計を見ると11時を少し過ぎており、小百合がトイレに行ってから2時間半ほどになる。
 ダッフルコートを着ていても、六甲山から吹き下ろしてくる風は小百合の素足をさらに冷やし、歩いているうちにますます尿意は激しくなっていった。
(恥ずかしいけど・・やっぱりトイレ借りないと・・我慢できないよぉ・・)
 パンパンに膨らんでしまった膀胱を抱え、小百合はそう思ったが
(でも・・恥ずかしいなあ・・もしお母さんがいたら・・やだなあ・・)
 どうしても羞恥心が先行してしまい、同じようなことばかり繰り返し考えて、頭が混乱していた。
歩く速度が徐々に遅くなり、ついつい内股になってしまって、無意識のうちにスカートの裾をつまんだり、コートのポケットに入れた手でおなかをさすったりを繰り返す小百合。
 そんなとき、残っていた数人の男女がこのまま佳紀の家に押しかけて、もう一度送別会をしようと言いだした。
それを聞いて小百合はかなりホッとした。
(よかった。誰かがトイレに行ってくれたら私も行ける!!)
 女の子が一緒なので、少しは恥ずかしさが軽減できると思った小百合であった。
しかしみんなの歩みは必要以上に遅く、それからさらに15分ほどが過ぎて、ようやく佳紀の住む県営住宅が見えて頃になると、小百合は今にも漏らしてしまいそうなほどの強い尿意に悩まされていて、もうほとんど我慢の限界に近い状態になっていた。
2階までの階段ですら、みんなの一番後ろから必死で上ったほどである。

   佳紀の母親は突然の訪問を快く迎えてくれた。
小百合が足をすりあわせながらクツを脱ぐ順番を待っていると、先に入った女子の一人がいきなりトイレを借り、もう一人の子もその後に続いてドアの前に立った。
(あーん、私もぉ!)
 小百合は今しかないと思って、その子の後ろに回ったが、廊下とダイニングの仕切りドアが開け放たれたままであったので、奥のリビングに通された男子や佳紀の目が気になって、小百合はいったんリビングまで行ってバッグとコートを置き、そっとまたトイレの方に戻りながらそのドアを閉めた。
幸い誰からも呼び止められたりすることはなかったが、先に入った子はまだ出て来ておらず、
(早くしてっ!もう漏れちゃうよぉ!!)
 小百合は足をクネクネとさせながら、次を待つ子の後ろに立った。
その子もかなり我慢しているのか、小百合と同じようにモジモジとしている。
(寒いもん、みんな我慢してたんだよね。)
 自分にそう言い聞かせる小百合であった。
先の子が流す水の音が聞こえると、小百合は連想してしまってたまらなくなり、次の子を押しのけて先に入りたい衝動に駆られていた。
リビングの方に背中を向け、スカートのポケットに入れた手で押さえながら、前屈みになってそれを必死で堪えた小百合であった。
 次の子が入ってからの1分少々は地獄であった。
頭の中では我慢していても、もう手を離したら漏れ出しそうになっている。
リビングのドアに背中を向けているのをいいことに、小百合はポケットから出した手をスカートの中に入れ、パンツごしに押さえながらじっと耐えていた。
 ようやく次の子が出てきた時、小百合はパッとその手を離し、ドアに体をぶつけながら個室に入り込むと、鍵をかける事などできないまま体制を入れ替え、スカートの中に入れた手でパンツを一気におろしながら便座に座り込んだ。
その時にはすでに勢いよくおしっこが飛び出していたが、幸い便座やパンツを濡らすことはどうにか避けられた小百合であった。
これがもし自分の家だとか誰もいない場所であったなら、少なくともパンツは濡れていたかもしれない、そんなギリギリの状態であった。
 先の子が流した水の音に紛れ込ませておしっこの音を隠していたが、すぐにその水流は弱くなったので、小百合はあわててまたレバーをひねったが、まだタンクに水が溜まっていないために作動しない。
(やだあ、音が聞こえちゃうぅ!!)
 激しく便器にたたきつける小百合の音は、タンクに流れる水音を上回っており、思わず体に力を入れてその勢いを弱めようと、小百合は必死になっていた。
 ようやく長かった苦痛から解放される事ができて、後始末を終えて水を流しながらドアを開けると、
「おう野口!」
 佳紀が別の部屋に用事があるのか、リビングのドアを開けながらやってきた。
小百合はトイレから出てきた所を見られた事が恥ずかしくて、何も言えないままうつむいてやり過ごしていた。

 佳紀の母親が、使い捨てのコップに暖かいミルクティーなどを用意してくれた。
すでに引っ越し荷物は片付けられて、何もないガランとしたリビングで改めて乾杯し、思い出話などで談笑を繰り返していると、やがて正午を知らせる時報が聞こえてきた。
それをきっかけに解散することになり、握手しながら見送りの約億などを交わして、みなはそれぞれ帰宅していった。
残ったのは小百合ひとり。
 母親がカップの天ぷらうどんを出してくれたが、小百合は恥ずかしくてなかなか箸が進まない。
しばらくすると佳紀の母親は、引越しの挨拶などで2時間ほど留守にするから、ゆっくりしていってねと言い残して出かけてしまった。
急にふたりきりになり、小百合はさらに恥ずかしくなって、そばをすすることが出来ないでいた。
「この味ともお別れだなあ・・」
 佳紀がポツリと言った。
「え?」
 小百合は何のことだか分からない。
「ああ知らないか。これさ、関東と関西では味が違うんだぜ。」
「へえ、そうなんだ。」
 インスタントのカップ麺など、日本全国同じ味だと思っていた小百合であった。
先に食べ終わった佳紀が、自分が使っていた部屋を見せるからと言って、暖房を入れるためにリビングを出て行った。
小百合はその間に残っている麺を一気にすすり、残りをキッチンで処分して彼の部屋へと足を向けた。
そこもすでに片付けられていて、マットレスだけのベッドがひとつあるだけの部屋であった。
「ここからの景色が好きだったんだ。」
 佳紀はそう言ってカーテンが外された窓を開けた。
阪急電車の高架の先に六甲山の山並みが迫って見える。
「わあ、こんないいところで勉強してたんだあ!」
 小百合は思わず感嘆の声を上げ、身を乗り出すようにしてその景色を眺めていた。
佳紀は小百合をマットレスに座るように促して、そばに置いてあったビニール袋をゴソゴソとし、そこからきれいにラッピングされた30センチ四方ほどある包みを取り出して、
「これ、オレだと思ってさ、大事にしてくれよ。」
 そう言いながら小百合に手渡した。
ていねいに包みを開いていくと、それは小百合が大好きなビーグル犬のぬいぐるみであった。
首輪には「YOSHIKI」とネーミングされている。
小百合は大事にすると言いながらそれを抱きしめ、涙ぐんでしまった。
「オレさ、今さらだけど後悔してるよ。」
 そう言いながら佳紀は小百合の横に腰を下ろした。
「もっと早くにコクればよかったってね。」
 そう言いながらそっと小百合の肩の手を回した。
「私も・・もっと・・もっと早く・・・」
 涙が溢れて声にならない小百合。
そのまま佳紀の胸に顔を埋めて泣き出した。
佳紀はその肩を抱きながら、子供じみていた1年生の頃の小百合が、だんだんときれいになっていく様をずっと見ていたこと、人にいやなことを押しつけられてもじっと耐えていたことも知っていた事、修学旅行のグループ行動で、ひとり浮いていた小百合に、こっちに来いと声をかければ良かったと思っていた事などを懇々と話してくれた。
小百合も、ずっと憧れていたこと、遠くから見つめている事が辛かった事などを涙を流しながら話していた。
 ややあって、佳紀は小百合の顔を上げさせると、そっと唇を重ねてきた。
ごく自然にそれを受ける小百合。
やがて彼の手がブレザーの中に入り、カーディガンごしに小百合の胸に触れてきた。
それでも小百合は抵抗することなく、佳紀のするがままにしていた。
 ふたりとも無言であった。
佳紀の手が自然の流れのように小百合のブレザーとカーディガンを脱がせていく。
そしてブラウスのボタンを一つずつ外していくと、ゆっくりと小百合の体をマットレスに横たえていった。
 足だけを降ろしている恰好になったことでおなかが突っ張り、小百合はまた尿意を感じた。
いや正確に言えば、みんなが帰る少し前ごろから尿意は少し感じだしていた。
その事を気にしないようにしていた小百合だが、改めて感じる尿意にあわてて、両足をマットレスの上に上げ、立て膝にしてお腹に余裕を持たせた。
そのためにスカートが少しずれてきたが仕方がない。
 背中に回した手がブラのホックを外そうとしている。
佳紀にとってそれは初めての事なのか、とてもぎこちない手つきであった。
ホックを外されて緩くなったブラを首の方まで押し上げられたとき、小百合は隠す事もせずに
「ごめん・・小さくて・・」
 と言ってしまった。
なぜ謝ったのか、それは小百合自身にもわからなかった。
「ううん、きれいだよ!」
 と、佳紀はすごく嬉しそうな声で応えてくれて、その上にそっと手を置いた。
そして円を描くようにその手を動かしていく。
やがて小さな乳首をつまむようにしてすくい上げると、小百合から「ぁっ・・」と、小さな声が漏れた。
「やっぱ・・かわいいなあ・・」
 何に対して言ったのか分からないが、佳紀はそう言いながら小百合の乳首に唇を這わせていった。
「んく・・」
 大好きな佳紀にそうされたことで、小百合の体の奥の方にジーンとした衝撃が走り出す。
生まれて初めて感じるその刺激がたまらなくなり、小百合は思わず佳紀の頭を抱きかかえていた。

 寒い体育館での終業式や教室での送別会、そこで飲んだコーラ、そして寒い中を30分近く歩いて、ようやく佳紀の家でトイレに行けた小百合であったが、体が冷えてしまった為であろうか、先ほどから感じだしていた尿意は、わずか数分で下腹部に重量感を感じるほどの状態にまでなってきていた。
1時間ほど前に済ませたばかりであるのに、それは立て膝をしていても感じるほどであった。
上半身は半ば裸に近い恰好にされていて、下は短いスカートから伸びた素足に白いハイソックスで、暖房は入っていても肌寒く、それが尿意に拍車をかけていたとも言える。
(やだ・・さっきしたばかりなのに・・)
 小百合に不安といやな予感がよぎった。


つづく

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