いつきちゃん (初デート)後編




 30分ほど歩いていると、海風は徐々に突風のように激しくなり出した。
ショートカットのいつきの髪の毛がボサボサになっているが、舞い上がるスカートを押さえるために手が離せない。
風には少し雨も混じっているようだ。
「そこに入って少し休もう!」
 横なぐりの風はかなり寒さも伴っていて、ふたりは駆け込むようにして、すぐそばにあったマリンハウスに入っていった。
一時避難なのか、多くのカップルたちも後を追うようして建物に入り込んできて、そこはあっという間に混雑してしまった。
(トイレ・・どこだろう・・?)
 テラスに面したベンチに腰を下ろしたいつきは、そっとトイレの表示を探していた。
先ほどからトイレのことが気になりだしていたいつきである。
正確に言うと、いつきはインド料理店を出る頃から少し尿意を感じだしていた。
「なにか暖かいものでも飲むか?」
 自動販売機の方に目をやった宮下が言う。
「あ、あの・・」
 いつきはトイレのことを言おうかと思ったが、次の言葉が出なかった。
「ミルクティーでいいか?」
 ベンチを立って歩き出す宮下に、いつきはただうなずくだけであった。
(・・なんか・・トイレって言いにくいなあ・・)
 あこがれの先輩と初デートをしているという現実が、いつきに思わぬ羞恥心を芽生えさせていた。
夕べ寝付かれない布団の中で、今日のことを思い巡らせていたいつきであるが、その中に(トイレに行きたくなる)という現実は存在していなかった。
(トイレ行ってきますって言えばいいのかなあ?・・なんか恥ずかしい・・)
 これまで男の子と個別につきあった事が無かったので、まったく免疫が出来ていなかったとも言える。
そんな思いを巡らせていると、宮下が紙コップに入った暖かいミルクティーを持って戻ってきた。
インド料理の余韻のためか確かに喉は渇いており、冷えた体には心地よい暖かさで、一口飲むと、俗に言う生き返った気持ちになれた。
(けど・・これみんな飲むと・・)
ちょうどマックでいうMサイズのそれは、下腹部に違和感を感じているいつきにとっては多すぎる分量であった。
 レインボーブリッジを眺めながら、しばらく会話するふたり。
その間いつきは何度か「ちょっとトイレ・・」と言おうと思った。
しかしそのタイミングがわからなくて口ごもってしまう。
優しそうな宮下の顔を見ると、ますます言いづらくなるいつき。
(みんなデートの時・・トイレってどうしてるんだろう・・?)
(ずっと我慢してるのかなあ・・まさかね!?)
(けど・・平気でトイレに行けるのかなあ・・?)
(やっぱ・・我慢したほうがいいのかなあ・・?)
(・・ちょっと水分取りすぎちゃったもんなあ・・)

 西に移動しつつある日に照らされていたレインボーブリッジが、だんだんとかすんで行き、先ほどからの突風が雲を呼んで、あたり次第に薄暗くなって来た。
「あれえ、雨になるのかな?」
 宮下が空を見上げながらポツリと言う。
「帰りは道が混むかもしれないからさ、早いけど引き上げようか?」
「あ、はい・・」
 今のいつきに希望や意見はなにもない。
ただ宮下が言う通りにするしかなかった。
「よし、じゃあオレが車を取りに行くからここで待ってなよ!」
 このマリンハウスから、車を停めているフロンティアビルまでは2〜300メートルあるという。
ここで待って、15分後にハウスの前の道に出るようにと宮下は言った。
「その間に買い物とか用事があったら済ませておけよ。」
 そう言いながら飲み終わった紙コップをダストボックスに入れ、いつきに優しくほほえんでハウスを出て行った。
「あ、あの・・」
 後ろ姿にかけるいつきの声は弱々しかった。
カップルや家族連れの人が溢れる中、ひとり取り残され不安でたまらないいつきは、じっと座っていることが出来ずに、飲みさしのカップを持ったままベンチの周りをウロウロしていた。
(買い物なんかないのに・・。)
 なんでひとりにするのだと、悲しくなって涙が出そうになる。
(用事なんてあるわけないじゃん・・あ、そうか、今のうちにトイレ行くんだ!)
 ひとりで車を取りに行ったのは宮下の配慮だったのかもしれない。
いつきはそう思ってミルクティーを飲み干すと、トイレを探した。

 玄関に出たちょうどその時、宮下の車がやってきた。
風であおられるスカートを押さえながら、いつきは助手席に回り込む。
「大丈夫か?」
「あ、はい、元気元気!!」
 なにが大丈夫なのかわからなかったが、いつきはお腹が軽くなったことで、事実元気を取り戻していた。
「3時過ぎだな・・、よーし、レインボーブリッジから帰るぞ!」
「わっうれしい!!」
 初めて渡るレインボーブリッジである。
いつきは子供のようにはしゃいでいた。
「今日はさっぱりだったけど、今度またゆっくり夜景を見に来ような。」
「ほんとですかあ!期待しちゃいますよぉ!」
「ああ、約束するよ。」
 日にちの約束はしていないが、次もデートがあることが保証された。
その事が嬉しくてたまらないいつきであった。

 午後も4時近くになると首都高速は混んできて、向島線に入るまでに1時間近くかかった。
そこから先もノロノロとした走行が続く。
それに逆比例するかのように、いつきの小さな膀胱はまた急速に膨らんで来ていた。
(あれえ、またトイレ行きたくなってきたあ!!)
つい1時間ほど前にトイレを済ませたばかりなのにと、いつきはとまどった。
それはそんなに激しい尿意ではなかった。
学校で休憩時間に何かの拍子でトイレに行きそびれ、次の授業が終わるまで我慢していた事が何度もある。ちょうどそれぐらいの尿意であった。
それぐらいなら大丈夫、いくらでも我慢できる!
宮下と楽しく会話しながら、いつきは下腹部から来る信号を無視していた。
 しかし・・秒を追うごとに激しくなっていく尿意。
(やばっ!ほんとにトイレいきたい!)
 体が冷えてしまったせいか、尿意は一気に押し寄せてきた。
(やっぱ・・水分取りすぎだよ・・)
 今朝は宮下と会う事で胸がいっぱいで、食事が通らなくてコップ1杯のオレンジジュースを飲んでいた。
昼はインド料理のカレーが辛くて、そうウーロン茶をコップ2杯も飲んで、デザートに用意したアイスコーヒーまで飲んでいた。
さらにマリンハウスでは、トイレに行くからとミルクティーを飲み干してしまっていた。
マリンハウスで済ませたトイレは、今朝のオレンジジュースだけだったとすると、それ以降に飲んだ分量は単純計算しても、600cc以上になる。
それらが今、冷えた体を素通りして膀胱に集まってきてしまったようだ。
(どうしよう・・ほんとトイレ行きたいっ!)
 首都高速に休憩所が無いことは知っている。
だからどこかに停めてもらう事など出来るわけがない。
いまは我慢するしか方法が無いことも良くわかっているいつき。
おまけに、ついさっきトイレを済ませたばかりだと言うことが負い目になって、
(やっぱり我慢しなきゃあ・・・)
そう思うしかないいつきであった。
 トイレに行きたくなったことを宮下には気づかれたくないので、極力からだを動かさないように努力し、時々
「ちょっとおしりが痛くなって来ちゃった!」
 などとごまかしながら、体制を入れ替えて足を組んだりしていた。
しかし高まってきた尿意はますます強くなり、抱きかかえている布製の手提げバッグごしでも、その膨らんできた下腹部を感じることが出来るまでになってきていた。
(はぁ・・・)
 いつきの口から思わずため息が漏れた。
その時宮下が、
「家まで送るけど、向島で降りるんだっけ?」
 と聞いてきた。
「あ・・!」
 声にならない声を出すいつき。
「あ、あ・・今どのへんですか?」
「うん、もうすぐ駒形出口だけど。」
「あ・・、はい、向島の方が近い・・です。」
「OK!、降りたら道案内たのむよ!」
 いつきはこの時点になって初めて、高速を降りてからもかなりの時間がかかることを認識した。
(たしか30分ぐらいかかったっけ・・、そんなに我慢できないかも!?)
 うろたえるいつき。
午後5時になろうとしていた。
おしっこを感じだしてからすでに1時間が経っていて、いつきは不安でたまらなくなってきている。
(・・高速を降りたら・・トイレがあるところに停めてもらおう!)
(けど・・なんて言って頼めばいいの・・?)
(トイレに行きたい!・・なんて恥ずかしいよ。)
(どこかでお茶しましょうとか・・休憩・・なんてやっぱりヘン!!)
(コンビニで買い物したい・・なんて今更だし・・)
(ああっああ!どうしたらいいのぉ!?)
 頭の中がパニックになって、なにひとつ考えられないでいるいつき。
体が冷えた時に来る尿意は強烈である。
先ほどよりも膨らみを増したおなかは、おへそのあたりまで大きく腫れ上がり、まるで石のように固く感じられた。
お台場で感じていた尿意とは比べものにならない。
シートベルトさえもが辛く感じられていた。
(ああ・・もうおしっこしたいよっ!)
 足を組み替え、その足に思いっきり力を込めて耐えるいつき。
「どうした。疲れたか?」
 口数が少なくなったいつきに、宮下が優しく聞いてきた。
いつきはこのとき「トイレに行きたいんです!」と言えればよかったが、どうしてもその言葉が出てこなくて「・・ちょっと酔っちゃった・・」と、見え透いた言葉をはき出していた。

 それから15分ほどが過ぎ、二人を乗せた車は向島出口を降りた。
一般道に降りると信号待ちの自然渋滞があった。
それでも20キロ前後のスピードで走ることが出来たが、止まった走ったりの衝撃がたまらなく辛いいつき。
(あ、あのコンビニに停めてもらおう!)
(あ、公園がある。あそこなら!!)
(ああ、マックだっ、あっこに入りたい!!)
 通り過ぎる町並みの中で、いつきは何度も「停めて!」という言葉を頭に描いていた。
しかしそれを声にして出すことが出来ない。
(言えない・・言えないよぉ!!)
 誰にでもある生理現象なのに、それをなぜ言えないのかわからない。
生まれて初めて知る我慢の限界を、いつきはバレーボールで鍛えた腹筋力と、乙女の恥じらいから来る精神力だけで耐えて、助手席のドアにもたれかかるようにしてモゾモゾと動いていた。
「どこかで少し休んでいくか?」
 かなり辛そうにしていたのであろうか、宮下がそう言った。
「あ・・、いえ平気です。」
「そうか?しんどくなったら早めに言えよ。」
 休んでいくかと言われても、もしトイレがないところだとアウトだし、喫茶店とかだと・・恥ずかしい思いをしてトイレに行かなければならないし、もしトイレって言いづらかったらもっと辛いことになる。
それならいっそのこと早く帰りたい。
いつきはそう思った。
 あるいはもう宮下は気づいているのかもしれない。
いや気づかれても不思議でないほどに、いつきはせっぱ詰まってきていた。
足を組んでとじ合わせているおしっこの出口あたりは、しびれたようにジーンとして、漏らしちゃったのか!?と思うほどに先ほどから熱く感じだしている。
息づかいも小刻みにハッハッとなっており、おそらく顔色は最悪になっていることであろう。
(もし・・漏らしちゃったらどうしよう・・きっと嫌われちゃう・・)
(でも・・もう・・したいよっ!どこでもいいから早くおしっこっ!)
(ひとりだったら・・どこかに隠れてしちゃうのにぃ!)
 何度もトイレに行けるチャンスがあったかもしれないのに、ことごとくそれをつぶしてしまったのは、大好きな先輩と一緒だからだ!
そう、ひとりだったらどんなに楽だろう?
このままでは先輩の車を汚してしまって、恥ずかしい思いをしてしまう。
それならいっそのこと先輩と早く別れて・・どこかでおしっこしてしまいたい!!
駐車場の車の陰でも路地裏でも、どこでもいいから、とにかく早く先輩と別れておしっこしてしまいたい!!
いつきはそんな風にまで考えてしまっていた。
(ああ、だめっもう漏れちゃうぅ!)
 気が遠くなるほど我慢をし、薄れかかっていく意識に自分で渇を入れ、いつきは見覚えがある町並みに目を配って、身を隠せそうな場所を探した。
(そうだ、○●のおじさんち!!)
 父の友人の○●氏が、この先で紙箱の製造業を営んでいる。
土曜日のこの時間、まだ仕事をしているかどうかわからないし、訪ねていってトイレを借りる余裕はないが、路地に配達用の軽トラックが2台停めてあるはず。
そこならおしっこできる!!
いつきはそう決心して
「あ、つ・次の信号を左に曲がったところで・・けっこうです・・」
 息を吐きながらそう言った。
「え、そこが長谷部んち?」
「あ、いえ、おじさんちですけど・・ちょっと・・」
「そうか。そこでいいのか?」
「はい・・」
 宮下はそれ以上聞くことなく、左折するとその先の「○●紙工」と看板が出ている家の前で車を停車させた。
「あ・・今日は・・ありがとうございました。楽しかったです。」
 いつきはシートベルトを外しながら焦って言う。
そしてドアを開けようと組んでいた足を解くと、想像を絶するようなきつい排尿感がいつきを襲う。
「くっ!」
 声になりかけたのを必死で押さえ、いつきはそーっとそーっと体を移動して車から出ようとした。
片足をおろすだけでおしっこの出口が緩みそうになる。
かろうじてそれを堪え、滑り落ちるようにして車外に出ると、ドアに手をかけて体を起こそうとしたが、膨らみすぎた下腹部が重くて伸ばせない。
これが本当に自分のお腹なのかと思うほど、ブレザーの上からでもそのふくらみは見て取れた。
それを手提げバッグで隠し、内股で両足をすりあわせるようにしながらドアを閉めようとしたいつきに、
「あ、ちょっと待って!」
 宮下が言う。
(え、なに!なに??、もう出ちゃう!早く!!)
 両足をすりあわせるだけでは我慢が利かなくなり、トントンと足ふみまでして、さらに腰をクネクネとしながら耐えているいつきに、宮下はなにやら紙切れを手渡そうとしていた。
自分の携帯番号だという。
うなずきながらそれを受け取ろうとしたが、身をかがめるとあふれ出しそうになってしまって、いつきは思わず手を引いた。
「どうした、大丈夫か?」
 あまりにも落ち着きがないいつきに宮下が聞いた。
「あ・・あのト、トイレ行きたくて・・」
 もうこれ以上は耐えられないと、いつきはついにその恥ずかしい現象を宮下に告白してしまった。
顔が真っ赤になっていくのが自分でもわかる。
「ああわるい。じゃあこれな!」
 宮下は助手席側に身を乗り出してその紙をいつきに渡した。
「早く行けよ。じゃあな!」
 そう言いながら内側からドアを閉める宮下。
ドアから手を離して支えを失ったいつきは、思わず前屈みになってしまった。
その動作をきっかけに、いつきのおしっこの出口付近が更に熱くなり、しびれたような感覚の中にあっても吹き出してくるおしっこを感じてとれた。
(あっあっもう出てる!早く行って!早く向こうに行ってぇ!!)
 そんな姿を宮下に見られる訳にはいかない。
いつきは最後の力を振り絞って、紙切れを握りしめながらその手を振った。
宮下が「じゃあな!」と手を振って車を走らせる。
その時ツーと太ももの内側をおしっこが伝い落ちてくるのを感じたいつき。
(あっあっ!!)
 走り去る宮下を見送る余裕はもう無い。
宮下から受け取った紙を握りしめたまま、いつきはその手をスカートの中に入れ、パンツの上からおまたを押さえるようにして、つんのめりながら○●紙工の玄関横の道に入り、2台並んで止まっている軽トラックの間に駆け込んだ。
その間もジクジクとしみ出すようにおしっこは出続けて、それは押さえている手にもパンツごしに伝わってきていた。
(はああ・・やっとできるっ!おしっこできるっ!)
 いつきはあたりを気にする余裕すらなく、手提げバッグを放り投げると、両手でスカートをまくり上げて、もうすっかり濡れてしまっているパンツをズリ下げて、勢いよくしゃがもうとした。
「い・・いたっ!」
 思わず声を出すいつき。
パンパンにふくれあがったお腹は、いつきがしゃがもうとする動作を拒んだ。
膀胱が破裂するのではないかというような痛みを覚え、いつきはあわてて体を起こし中腰の格好になる。
その時に入ったお腹への力を合図に、シュルルル・・という音を出しながら、いつきのおしっこはあふれ出してきた。
おしりを後ろに突き出した中腰のままである。
落差があるためにそれはバシャバシャとコンクリートの地面をたたき、いつきのハイソックスやクツに大きくしぶきを飛ばした。
(あっあっ、いやーん・・)
 どうすることも出来ないいつきである。
しばらくそのままの格好で排尿を続け、お腹が少し楽になったような気がしたところでそっとしゃがんでみた。
先ほど感じた痛みはもうなく、しゃがんだことによる腹圧が加わったためか、今度はジュイーと、先ほどよりも激しくおしっこが飛び出してきた。
(はあああ、やっとおしっこできたあ!)
 快感にも似た開放感を感じるいつき。
しばらくその感覚に酔っていると、
(え、だれかに見られてないっ!?)
 冷静さを取り戻したことによる不安がよぎった。
いつきは通りを背中にしてしゃがんでいた。
路地とはいえ、いつ誰が通るかわからない。
1メートル先は○●さんの工場の窓がある。
ジャージャーと大きな音を立てておしっこは出続けている。
その音は2台の車に反響して更に大きく響いているようだ。
いつきはこのときになって初めて、自分が相当恥ずかしいことをしているのだと認識した。
しかし怖くて後ろを振り返ることも、窓を見上げることも出来ず、いまだ勢いが収まらないおしっこの流れていく先を見つめるしかなかった。

 1分近いおしっこが終わり、いつきは足下の手提げバッグからティッシュを取り出そうとして、手に握りしめている紙に気がついた。
それはおしっこが染みこんでくしゃくしゃになっている。
かろうじて書かれている電話番号は見てとれた。
(わああ、先輩ごめんなさーい!!)
 そっとティッシュでくるんで水気をぬぐい、ポケットにしまい込む。
後始末をし、パンツにもティッシュをあてがって、染みこんだおしっこをぬぐういつき。
(あーあ、買ったばっかりのパンツなのにぃ!!)
 ここからいつきの家まではおよそ2キロほどあった。
短いスカートだからノーパンで帰る事は出来ない。
(やーんつめたい・・)
 いつきは仕方なく濡れたパンツを引き上げてスカートをおろした。
このときになって初めてあたりの気配を探るいつき。
どうやら誰にも見られていなかったようだ。(と思いたい。)
かなり使ったティッシュをバッグに詰め込み、(○●のおじさんごめんね!)と、駐車場のコンクリートをおしっこで汚してしまったことを心の中で謝り、いつきはすっかり暗くなった道を家路に向かって歩き出した。
先ほどまでの重たかったお腹がウソのように軽い。
(帰ったら先輩に電話しなくちゃ・・けど・・なんかやだなあ・・)
たぶん先輩は、わたしがすごくおしっこを我慢していた事を笑ってるだろうなと思って、いつきは恥ずかしくなった。
けれどこのまま何の連絡もしなかったら、それっきりになってしまうのではと思い、いつきは恥ずかしくても電話するんだと自分に言い聞かせていた。

   20分ほど歩いて、いつきは自宅に到着した。
ついさっき、あれほどたくさんのおしっこをしたばかりのいつきであったが、膀胱に入りきらないおしっこがあったのであろうか、家が見えてきた頃から、すぐにトイレに駆け込みたくなるほどの尿意を感じていた。
(冷えちゃったんだあ!!)

 これ以降、いつきと宮下がどうなっていったのか、それは著者も聞いていない。
いい方向へ向かっていったと、皆さんと一緒にそう願いたい。


おしまい

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