初詣 (里香のアクシデント)




 それは今から8年前の元旦のことであった。
大学入試を直前に控えた里香(女だらけの寮生活参照)は、お正月の浮かれた気分には縁がなく、早々に夕食をすませて自室にこもり勉強していた。
「里香、めぐみちゃんから電話よ。」
母に呼ばれて電話口に出る里香。
それは、友達数人で合格祈願を兼ねた初詣に行こうという誘いの電話であった。
正月気分で浮かれている家族が疎ましかった里香にとって、いい気分転換にもなる。
そう思って両親に出かけることを告げると、父親はこんな時間からかと渋ったが、すぐに帰る、めぐみも一緒だから大丈夫だと振り切って、大急ぎで制服に着替えて家を出た。
(注・校則で外出時は制服着用の義務があった)
 元旦の午後7時、行き交う人もまばらな住宅街を抜け、里香は早足でめぐみとの待ち合わせ場所へ向い、さらに10分ほど歩いて友達数人と合流した。
そこには受験仲間の女子ふたりと男子4人がいた。

 志望校の話や模試のことなど、受験生にありがちな話をしながら歩くことおよそ20分、里香たちは神社にたどり着き、それなりに混雑している参道を通ってお参りをした。
(どうか○●大に受かりますように!)
ありきたりのお願いをし、混み合った参道に並ぶ露天をのぞきながら神社を抜けると、
「歩き疲れたからさ、ちょっと休んでいこうぜ。」
男子の一人がそういった。
家を出てから1時間あまり、確かに歩き続けていた里香の足は重かった。
近くのファーストフード店に行く事になり、夕食をすませていた里香はコーラのMサイズだけをオーダーして飲んだ。
 受験直前の高校生が話す内容は暗い。
気分転換にと出てきた里香は、次第に重苦しい気分になり、時間も9時近くになっていることもあって、もうお開きにしようと皆に告げた。
そこで解散となり、めぐみと里香は方角が近い男子二人をエスコート役にして店を出た。
 このとき里香がお開きを言い出したのは、単に時間が気になったからだけではなかった。
それはファーストフード店に着いた頃に感じだした尿意が、皆の話を聞いているうちに徐々に高まってきたからであった。
里香の横には男子が座っていたために、なんとなく気が引けて席を立つことが出来ずにいた。
それで仕方なく、トイレは家まで我慢しよう、30分の道のりを考えるとそろそろお開きにしないと・・・、そういった気持ちが本心であった。
(うー・・さっむーい!)
暖かかった店を出た瞬間、里香はふるえる。
比較的長めのダッフルコートを羽織り、ルーズソックスも穿いていたが、生足に短めのスカートでは、やはり足下から冷えてくる。
風がほとんど吹いていなかった事が、せめてもの幸いであった。
「さむいねぇ!」
里香はめぐみに寄り添うように体をくっつけて、肩をすぼめていた。

 男子二人は先ほどから、どっちが度胸があるかなどと言い合っている。
そのために足取りも遅くなり、里香たちとの間に距離が出来ていた。
(もうお、エスコート役のくせにぃ!)
言い合いながら数メートル後ろを歩くふたりに、里香は少しいらだった。
「男子ってさ、ほんと変なことにこだわるんだよね。」
めぐみが笑いながら言っていたが、里香は笑えなかった。
(どうでもいいから・・早くトイレ行きたいよ。)
そんなことを思っていると、
「オイ、ヤバくないか?」
「大丈夫。任せておけ!」
後ろの男子二人が、路駐している軽トラックの脇で何かを始めだした。
「なにやってるの?」
めぐみが数歩戻ってのぞき込む。
里香も仕方なく後戻りした。
「こいつがさ、度胸試しだって・・」
見ると後輪の脇にしゃがんでいる男子は、どこで拾ったのか細い鉄パイプのようなモノを持ち、それをタイヤのホイール穴につっこんでゴソゴソと動かしている。
「どうするの?」
めぐみが興味深げだ。
「このホイール、戦利品としてもらうのさ!」
男子はそういいながら鉄パイプをよりいっそう強く動かしていた。
「おおっ、少し緩んだんじゃないか?」
見ている方の男子がはやし立てる。
里香はあたりを見渡した。
視界に入る人影はない。
軽トラックが止まっている家の玄関先にも明かりはついていない。
それでも今、この男子がやろうとしていることは問題だ。
「ねえ、よくないよ・・」
里香がそう言いかけたとき、ゴンゴロゴーンと大きな音を立てて、ホイールが路上に転がった。
「やったぜっ!」
事を成し遂げた男子は立ち上がり、ガッツポーズをして飛び跳ねた。
そして転がったホイールを拾い上げると、その穴にパイプをさし、カラカラと皿回しをするようにして喜んでいる。
「ばっかじゃないの・・」
めぐみが笑いながら言った。
「ヒャホーイ、さあ行こうぜ!」
男子はカラカラとホイールを回しながらはしゃいでいる。
飛び跳ねながら先を行く二人について、里香はめぐみと歩き出した。
その後ろでガラッとガラス戸が開く音が聞こえたように思った里香。
次の瞬間
「待てーっ!」
怒鳴るような声が聞こえた。
里香とめぐみに一瞬緊張が走ったが、振り向くことができない。
前の男子二人にはその声が聞こえかったのか、気にする様子もなく騒いでいる。
「待ておまえらっ!!」
その声はさらに大きくなり、ようやく男子にもそれが聞こえたのか、振り回している手を止めて振り返った。
「おまえら、いま何やった!?」
里香とめぐみを追い越し、いかつい体格の男性が男子二人に走り寄った。
(あぁ捕まっちゃったよぉ!)
里香はさらに緊張した。
当然、それまで感じていた尿意がその緊張によって一気に高まってくる。
(やんっ、どうしよう・・・)
めぐみの手をしっかりと握りしめている里香の体は、ブルブルと震えていた。
めぐみもかすかにふるえている様子である。
「おまえらどこの高校だっ?」
「ああっ、おまえが手に持っているモノは何だあっ?」
「どうやってそれを手に入れたっ?」
「うちの車のホイールだろっ!!」
「黙ってないでなんとか言え!!」
矢継ぎ早にその男性は声を荒げている。
「・・すみませんでした・・」
うなだれていた男子がやっと口にしたその声は、かすれて聞き取れないほど小さなものであった。
「おまえがやったことは犯罪だぞっ!」
「・・はい」
「うちは前にも同じような被害にあっている。」
「・・・・」
「前のもおまえたちがやったのかっ!?」
「いえ・・」
「とにかく警察を呼ぶっ!」
「え、そんな・・」
「うちの者がもう電話してるぞ!」
そう言われて里香はそっと振り返ってみた。
確かに家の玄関先で数人の人がこちらの様子を見つめている。
(え、まさかホントに警察を!?)
緊張と不安が交差する里香。
男子生徒はしきりに謝っている。
しかし被害を主張する男性はいっこうに態度を和らげることなく、男子生徒を責め立てていた。
(どうしたらいいの・・!?)
尿意が高まっている里香は、この先どうなるのかが不安でたまらない。
ふるえながら、自然と両足をすりあわせていた。
 いかつい男性が男子ふたりを軽トラックの所まで引き連れて、タイヤを指さしながら怒鳴っている。
その家の人たちも出てきて、男子を取り囲みだした。
(え!!)
その様子を呆然と見ていた里香は、その遙かむこうに赤色灯が回転している車が近づいていることに気がついた。
(まさか、ほんとにパトカー!?)
サイレンこそ鳴らしていなかったが、明らかにパトカーが、それも2台近づいてくる。
(うそーっ、どうすんのよぉ!?)
緊張と不安と尿意がピークに達しそうになり、里香は立っていることが出来なくなって、めぐみとつないでいた手を離してその場にうずくまってしまった。
「里香、だいじょうぶ?」
心配してめぐみもかかみこむ。
その間にパトカー2台が到着し、それぞれ降りてきた警官4名が事情聴取を始めだした。
里香の思考回路は止まっていて何も考えられない。
うずくまったまま、じっとアスファルトの地面を見つめていた。

「君たち、寒いからちょっと車の中で待っていてくれるかな?」
中年の警官が里香たちのそばに来て言った。
促されるままにヨロヨロと立ち上がり、里香とめぐみは指定されたパトカーの後部座席に乗り込んだ。
「しばらくここでおとなしく待っていておくれ。」
警官は優しくそう言って、また現場に戻っていった。
「どうなるの・・私たち・・?」
めぐみが不安そうな声で言ったが、里香はなにも応えることが出来ない。
暖房がほどよく効いた車内に入った事で、足下の寒さからは逃れられたが、緊張を伴う尿意は高まるばかりで気が気ではない。
コートの中に手を入れて、丸く張った下腹部をスカートの上からさすり。
しきりに足をすりあわせる里香に
「里香、ひょっとしてトイレ?」
めぐみが聞いてきた。
「・・ん。」
里香はうなずくようにコックリする。
「私もさあ、さっきからトイレ行きたくなってきてさ・・」
「・・・」
めぐみの声はまだ明るい。
私はあなたより申告なのよと、里香は心の中で叫んでいた。
「どうしよっか・・?」
「・・・」
どうしようと言われても、今の状況ではどうすることも出来ない。
我慢して待つしかないのだと、里香は自分に言い聞かせているところであった。
「どうする、トイレ借りよっか?」
「借りるって・・どこで?」
めぐみの言うことがわからない。
コンビニも知人の家もない住宅街の一角で、トイレをどこで借りるのか、まさか軽トラックの家で貸してもらおうとでも言うのか?
まだ怒ったような声が聞こえている状況なのに、その家のトイレなど借りられるわけがない。
「無理だよ・・、まだ怒ってるじゃん・・」
里香は自分にも言い聞かせるようにつぶやいた。
「・・そだね・・」
めぐみも声を落とす。
「・・里香、いつから我慢してるの?」
「・・・マックにいる途中・・かな・・」
「あ、じゃあ私よりヤバイんじゃない?」
改めて指摘しないでよと言いたい里香。
それきりめぐみも黙りこくってしまった。
(けど・・ほんとにどうしよう・・このままだったら・・)
勢いで頼んだコーラのMサイズ、あんなもの飲まなけりゃよかったのにと、今更ながら後悔する里香であった。
 やがてドアが開き警官が二人が乗り込んできた。
「君たちにも一応聞いておこうかな。」
助手席に座った中年警官が半分身を回転させながら、後部座席に座る里香とめぐみに対して冷静な声で言った。
「え・あの・・」
めぐみがうろたえた声をあげる。
「ああ、事情を聞くだけだから心配いらないよ。」
中年の警官はあくまでも冷静だ。
もう一台のパトカーに、男子がふたり乗り込むところが見えた。
当事者の男子は泣きそうな顔であることが、薄明かりでも見て取れた。
「彼ら二人には警察に行ってもらうけどね。さて・・」
中年警官は、里香とめぐみの住所・氏名・年齢・学校名と学年などを聞いたあと、生徒手帳の提示を求めてそれらを確認し、さらに、待ち合わせてお参りに行ったところから、つい先ほどまでのいきさつを聞きだした。
「うん、間違いないね。で、君たちはやめるように言ったんだね。」
あまり強く言った訳ではないが、里香はそう主張していた。
早く終わって欲しい、早くこの場を終わらせて飛んで帰りたい。そうしなければ間に合わなくなってしまう。
おしっこがしたくてたまらなくなっていた里香は、何度も聞かれる事情に震える声で応えていた。
「よし。これで事情はわかった。もういいよ。」
中年警官がにこやかに言った。
「あのぅ・・」
めぐみがおそるおそる声をかける。
「あのぉ・・学校には・・?」
張り裂けそうになってきた膀胱をかばって、おしっこのことばかり考えていた里香とちがって、めぐみはこの件が学校に知らされるのかを心配している。
たしかに受験直前にあって、こんな事が学校に知らされては大変なことになるであろう。
あらためてそれを思うと、里香は血の気が引く思いがして頭が混乱し、ただうろたえるばかりであった。
「ああ大丈夫。学校には知らせないから。ご両親にもね。」
警官は確かにそう言った。
(ああよかった。だったら早く帰らせてぇっ!!)
ホッとする反面、安心感と裏腹に尿意が増す。
「あの男子二人はね、一応親に警察まで来てもらうことになるがね・・」
男子二人を乗せて走り出したパトカーの方を見て、その警官はさらに続けた。
この事案は「車を盗まれた。犯人を捕まえている」という110番通報から始まったそうで、駆けつけると里香たちであったと言うこと。
あの家は以前にもオーバーな申告で警察が惑わされたことがあったこと、実被害が無かったことで、生徒二人には厳重注意という形で警察に連れて行ったということ、彼らには念のため親が身元引き受けに出向くこと等が話された。
(よかった!、これで帰れる!)
もうおしっこがしたくてたまらない。
里香は一刻も早くこの場所から解放されたかった。
「ただね・・・」
中年の警官は更に言葉を続ける。
(え、まだなにかあるの?、もう限界よぉ!)
この場所から里香の家まで、駆け足でも5〜6分はかかる。
今すぐにでもパトカーから飛び降りて走り出したいのに、まだなにかあるの?
里香は叫びたい気持ちを必死でこらえた。
「窃盗共犯になりかねない事だったんだよ!」
ややきつい口調で警官が言った。
(窃盗共犯!?)
里香自身も犯罪に荷担したということになる。
事情が事情だけに今回は大目に見てもらえたが、事が重大であることを里香はそのとき思い知らされた。
「さあ、遅くなったからパトカーで送って行こう。」
警官が言う。
「え、いいんですか?」
めぐみが明るい声で聞いた。
「こんな時間に女の子だけで帰らせるわけにはいかないだろ?」
中年警官は笑いながらそう言った。
「よかったね里香!」
めぐみは里香の膝をポンとたたいた。
「うん。」
これで走らなくてもすむ。
里香も急に心が晴れたような気持ちになって笑みがこぼれた。

 細い住宅街の道を行けばすぐなのに、里香とめぐみを乗せたパトカーは大通りを走っている。
(なんで遠回りするのよぉ、いじわるぅ!)
すぐにでもたどり着けると安心した里香は、それまでの緊張がほぐれたことによって尿意が爆発的に高まり、今にもあふれ出そうとしているのを必死で押さえながら耐えていた。
警官が高校生活のことなど聞いていたが、意識がおしっこに集中してしまい、曖昧な返事を繰り返すだけであった。
 横道に入って少し行き、先にめぐみを降ろす。
といっても、玄関に横付けではなく少し離れたところに停まり、降りためぐみが家に入るのを見届けているようであった。
「たしかに!。さあ、次は君の番だね。」
そのままめぐみの家の前を通り過ぎ、少し行った先でUターンして、パトカーはまた大通りへと出た。
(はやく!はやく!!)
窃盗共犯になりかねないことだったと、優しく諭してくれたその警官と、何もしゃべらずにハンドルを握っている若い警官に、おしっこを必死でこらえていることを悟られたくない。
逆に万が一知られてしまったとしても、近所に公衆トイレがあるわけでもなく、結局は家まで我慢するしかない。 それだったら何も知られずに帰りたい。
後部座席にうずくまり、里香はスカートの上から押さえながら、一刻も早く家に着くことを願っていた。
 すぐそこの角を左折して少し行けばうちがある。
やっと着いたと思った里香に、
「うーん、君のうちは一方通行だから迂回していくよ。」
パトカーはその角を通りこし、かなり先まで行って左折した。
(えーっもうおしっこ出ちゃうよぉっ!)
すぐそこに我が家があるのにたどり着けない。
内股になって閉じた膝頭を左右にふるわせ、太ももの上を拳でトントンと叩いて、歯を食いしばって尿意を堪える里香は、かつてここまで辛い我慢をした経験がない。
(たすけてよぉおっ!)
 二度の左折を繰り返して、パトカーはようやく里香の家の少し手前で停まった。
9時45分であった。
「遅くなったね。両親に怒られないか?、一緒に行ってあげようか?」
中年警官はあくまでも優しい。
「だ、大丈夫です。10時までに帰ると・・言ってましたから・・」
もうこれ以上かまわないで、早くトイレに行かせて!
里香はその一念だけで、優しく言う警官の好意を断って早々に後部座席から降りようとした。
しかし体を動かそうとすると、こらえにこらえていたおしっこが吹き出しそうになる。
里香はズルズルとお尻をずらしながら、ようやく片足を地面につけた。
そのまま滑り落ちるような感じでもう片方の足も降ろし、その場にうずくまる。
助手席から降りてきた警官が
「大丈夫か?」
と肩に手を置いた。
もうおしっこを堪えていることを気づかれてしまったかもしれないが、とにかく早く家に入りたい。
里香はドアに捕まるようにして体を起こすと、
「平気です・・あ、ありがとうございました・・」
体を大きく揺らしながら、かろうじてそれだけ言う事ができた。
「はい。もうこんな事に巻き込まれないようにね。」
優しく言う中年警官に軽く頭を下げ、里香は体をひるがえすと同時に前を押さえて走り出した。
見られたかもしれないが、今はもうそうする事しか決壊を防ぐ方法はなかった。
(ああっ待って待ってっ!)
まだ家まで数メートルあるが、着いたという安心感がわき起こって、里香の膀胱は収縮を始めようとしている。
(だめぇっ!)
玄関ポーチまで来たところで思わず立ち止まり、門塀に片手をかけて体を二つに折り、もう片方の手で体を押し上げるように力を入れて、その波が収まるのを待った。
「はぁはぁ・・」
呼吸が荒くなり涙までにじんでくる。
 パトカーはまだ動かずにいる。
きっとこの様子を見られているのであろうが、里香にはどうすることも出来なかった。
願うことは(そばには来ないでー!)であった。
 ようやくその波が少しずつ収まってきて、よろけるように数歩進んで玄関ドアのノブに手をかけた里香。
幸いにも鍵は掛かっていない。
(ああよかったっ!)
家の鍵を持たされていない里香である。
インターホンを押して家人を呼び出し、それからドアを開けてもらうというタイムロスは免れた。
震える手でドアを開くとキンコーンキンコーンとドアチャイムが響く。
帰ってくる里香の為にか、玄関灯も点けられたままであった。
その里香を確認するかのようにして、パトカーがゆっくりと通り過ぎていった。
これで何も無かったことになる。後はトイレに飛び込めば全てから解放されるんだ。
そう思った里香の心に油断が生じてしまい
[チュル・・]
下着の中に熱いものが広がりだした。
「ひっ!」
すっとんきょうな声を出す里香。
ドアチャイムの音を聞いて母親がリビングから顔を出した。
「お帰り。遅かったわね。」
その母親に対し里香は、
「おかあさん戸あけてっ早くトイレェ!!」
と早口で叫んでいた。
その血相に驚いた母親がトイレのドアをあけると、里香は勢いよくクツを脱ぎ散らかし、ダッフルコートといっしょにスカートをめくり上げながら、その扉の中へ飛び込んでいった。
「まあこの子は・・」
あきれたような顔で母親が言う。
すでに太ももの内側をおしっこが伝い始めていた里香。
こうなってはもう何を言われても止められない。
「ごめーん!!」
里香はそう叫びながら下着を降ろして便座に座った。
母親はそれ以上何も言わずにトイレの明かりを点けると、そっと扉を閉めてその場を立ち去った。
「はぁはぁはぁはぁ・・」
たくし上げたスカートやコートを両手で押さえ、里香は荒い呼吸をしながら目を閉じて、体を覆ってくる開放感に浸って行った。
里香が第二志望の大学に受かる直前の、元旦の夜の出来事であった。


おわり

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