四人のオムニバス 2、香織の場合




香織「由衣が小説風に話したからさ、私はシナリオ風に話すぞ。」
由衣「シナリオ?」
希美「しなりおってなーに?」
由衣「ドラマの台本みたいなのね?」
香織「そう、それ!」
希美「よくわかんない・・。」
真理「けっ」

・・・・・・・・・・

主な登場人物
  かおり・当番組主人公25歳
  さつき・かおりの上司32歳
  やよい・かおりの同僚30歳
  その他・かおりの職場の仲間たちとタクシー運転手など。

●伊豆地方のとある焼肉店
●その店内  テロップ「pm8:00」
  和室にジャージ姿の女性8名と男性2名が座っている。
  ジャージの胸には旅行代理店のロゴ
  かおりもその中にいる。
  各人のグラスにビールが注がれ
さつき「では初戦突破を祝してカンパーイッ!」
全員で「カンパーイッ!」
  それぞれビールをあおり、拍手が起きる。
  肉を焼きながら
やよい「けどさ、まさか勝てるとは思わなかったよね。」
女性A「ほんと。かおりちゃんに入ってもらってよかったわ。」
かおり「(照れながら)いえ、そんな・・」
男性A「いや、かおり君のスパイクは鋭かったぞ。」
女性B「そうですよね。相手がビビってましたよね。」
女性C「ほんとにバレーやってなかったの?」
かおり「はい。学校での授業ぐらいしか・・・」
女性D「(かおりにビールを注ぎながら) へぇえ、たいしたもんねえ。」
かおり「いえぇ、ただ背が高いだけですから・・」
女性E「まぁた謙遜しちゃってえ!」
  一同笑う。

●焼肉店の前  テロップ「pm9:30」
  各人が帰る様子。
  4台のタクシーが停まっている。
  銘々に「お疲れ様。」「気をつけて」を言いながら、待たせてあるタクシーに乗り込む。
  かおりもさつき、やよいとともに一台のタクシーに乗る。

●走り出すタクシー

●薄暗い商店街を抜け、国道に出るタクシー。

●その車内
  かおりを真ん中に、女性3人が座っている。
  それぞれ膝の上には大きなスポーツバッグを抱えている。
さつき「支店長ったらさ、よっぽど勝ったのが嬉しかったのよね。」
やよい「そうよね、タクシーチケット出したんでしょ!」
  かおり、特に相づちを打つでもなく苦笑している。
運転手「国道は混んでいるようなので旧道を抜けますね。」
さつき「はーい。適当に走ってくださーい。」

●左折して国道から離れていくタクシー

●旧市街地を走るタクシー。街灯が少なくかなり暗い

●大きくカーブした先の信号。黄色から赤に変わる

●ブレーキをかけて停車するタクシー

●その後ろから軽トラックが接近し急ブレーキをかける

●タクシー車内
  聞こえてくる急ブレーキの音。ヘッドライトが迫る。
  緊張する3人の顔。

●同車内
  追突の衝撃(あまり大きな衝撃ではない)が起き、3人の悲鳴。
運転手「大丈夫ですかお客さん!?」
さつき「ビックリしたあ、なあに今の?」
運転手「オカマ掘られちゃいました。ケガはありませんか?」
やよい「私は大丈夫だけど、かおりちゃんは?」
かおり「あ、私も平気です。」
さつき「私も大丈夫よ。」
運転手「よかった。ちょっと後ろの車と話してきますので・・」
  運転手、車から降りていく。

●車外
  タクシー運転手が軽トラックの運転手の処に駆け寄り、なにやら話を始める。

●タクシー車内  テロップ「pm9:45」
  後ろの様子を見つめる3人。
やよい「どうなっちゃうんだろね?」
さつき「なんか・・もめてるんじゃないの・・?」
かおり「・・・」
  かおり、窮屈そうに膝の上のバッグを持ち替えて体をよじる。

●同車内
  運転手が戻ってきてドアを開け、半身乗り込んで
運転手「お客さんすみません。ちょっと面倒な事になりそうで・・」
さつき「もめてるんですか?」
運転手「ええまあ・・、ここでいったん降りていただけますか?」
やよい「え、降りるんでかあ?」
運転手「すみません。ちょっと時間が掛かりそうで・・・」
  運転手、ダッシュボードを開け、その中から名刺を取り出す。
運転手「もし体に異常とかありましたら、こちらに連絡下さい。」
  そう言ってさつきに手渡す。
運転手「すみません。料金は頂きませんので・・」
さつき「まあ仕方ないですねえ・・」
  3人、バッグを抱えて車外に出る。

●車から降りた3人
  その後ろでは怒鳴りあう声。
さつき「やっぱりもめてるんだわ・・」
やよい「悪いのは後ろのトラックでしょ!」
かおり「ここにいても仕方ないですね。行きましょうか?」
さつき「そうね。他のタクシー見つけないと・・」

●路上
  進行方向へと横断歩道を渡る3人。
  わずかな街灯だけの薄暗い旧道。そこそこの交通量はあるが、空車のタクシーは走っていない。
さつき「それより、ここはどのあたりなの?」
やよい「さあ、かおりちゃんわかる?」
かおり「いえ・・、私は初めての道ですし・・。」
やよい「そうよね。まだこっちへ来て1年ちょっとだったわね。」
かおり「・・はい・・」
さつき「営業所まで遠いのかしら?」
やよい「さあ・・」
かおり「・・・」
  3人、重そうにバッグを抱え、時々後ろを振り返りながら歩く。
  かおりがやや遅れ気味である。

●かおりの顔
  唇をかみしめている。落ち着き無くあたりをキョロキョロしている。
  時々右手で髪をかき上げる。
やよい「ねえ、タクシーなんか全然走ってないじゃない!」
  かおり、その声に思わず後ろを振り返って見る。

●薄暗い旧国道
  後方から迫ってくる車のヘッドライト。
  その中に空車のタクシーはない。

●かおりの顔
  また振り返り、今度は進行方向を見つめる。

●薄暗い旧国道。
  薄暗い街灯が続く。コンビニや商店らしき存在はない。

●かおり
  右手でジャージの下腹部あたりをそっとさする。
  やや丸くふくらんでいる。

●焼肉屋の店内(回想シーン)
  賑やかに盛り上がっている。
  かおり、グラスのビールを飲み干す。
男性B「おお!かおり君。いい飲みっぷりだねえ!」
男性A「大活躍でノドが乾いてるんだろ。ささっもう一杯!」
  男性A、そう言って香織にビールを注ぐ。
  かおり、ニコニコしながら更に飲み干す。
女性C「あんたたち、かおりちゃんばっかりかわいがって!」
さつき「酔わせてもダメよ。私が連れて帰るんだからね!」
男性A「おいおい、つや消しな事言うなよ。」
  そう言いながら、またかおりにビールを注ぐ。
  皆。冷やかし気味に笑う。
  グラスに手をやるかおり。

●薄暗い旧国道に立つ香織
かおり「(つぶやくように) ちょっと・・飲みすぎちゃったなあ・・」
  落ち着かない様子で長身の体をやや前屈みにし、足をソワソワ揺らしている。

●薄暗い旧国道
  立ち止まる3人。
  車が近づくたびに振り返ってタクシーを探している。
さつき「もう歩くの疲れちゃったわ。」
  言いながらスポーツバッグを下に降ろす。
やよい「ほんと、ここで待ちましょうよ。」
  同じくバッグを降ろしてしゃがみこむ。
  つられるようにさつきもしゃがみ込む。
  かおり、体を揺らしながら落ち着きがない。
やよい「かおりも座って休んだら?」
かおり「(そちらに顔を向けずに) あ・・はい・・」

●かおりの顔
  よりいっそう唇をかむ。
  右手で髪をかき上げながら不安そうにあたりを見回す。

●たたずむ3人  テロップ「pm9:55」
  かおりだけが立ったまま落ち着きなくソワソワしている。
  その様子が目に入ったさつき。
さつき「(見上げるように) かおりちゃん・・ひょっとしてトイレ?」
かおり「(別の方を向いたまま) え、ええ・・ちょっと・・」
やよい「けっこうビール飲まされていたもんね。大丈夫?」
かおり「(顔を落として) あ、はい・・なんとか・・」
  かおり、そういいながらジャージの上から下腹部をさする。
さつき「あんんまり大丈夫そうにないわね。」
  言いながら立ち上がる。
やよい「そうね。実は私もさっきから我慢してるの。」
さつき「あなたもなの?じゃあ3人ともね。」
  言いながらあたりの様子をうかがうようにきょろきょろする。
さつき「困ったわね。コンビニもなさそうだし・・・」

●かおりの顔
  時々眉をひそめるような、かなり険しい表情になっている。

●たたずむ3人 テロップ「pm10:00」
  3人とも立ち上がり、行き交う車を目で追っている。
  かおりはかなり体をくねらせて、しきりに足をすりあわせている。
さつき「かおりちゃん、どこか物陰でやっちゃう?」
かおり「え、いえ・・そんな・・(頸をブルブルとふるわせる)」
さつき「かなりつらそうじゃない・・。」
かおり「はぃ・・まあ・・」
さつき「お店出る前にトイレ行ってないの?」
かおり「ええ・・混んでたし・・」
さつき「あのお店、規模の割にはトイレが小さいのよね・・」
やよい「じゃあ30分以上我慢しているの?」
かおり「お店を出るときから行きたかったから・・もう少し・・」
  言いながら軽い屈伸運動のような動作をする。
やよい「コンビニでもあればねえ・・私も人ごとじゃないし・・」
  さつきと顔を合わせてあたりを見回す。
かおり「他の人たちのタクシーは・・どこにいるんでしょう?」
さつき「そうね。ちょっと電話してみよう。」
  言いながらバッグから携帯電話を取り出し、操作する。
  やよいがかおりに近づき、
やよい「ねえ、あそこって神社か何かじゃない?」
  前方の方を指さす。

●薄暗い旧国道
  その先左手に黒く木立のような陰が見て取れる。

●たたずむ3人
  少し離れたところでさつきが携帯電話で話している。
やよい「あそこまで行ってみない。トイレあるかもしれないし・・」
かおり「はぁ・・(うつろな目で応える)」
やよい「なくてもさ、木の陰で出来るかもよ。」
かおり「でも・・・(応えようがなく困った表情)」
  さつきが携帯電話を閉じ、かおりとやよいの元へ歩み寄る。
さつき「A子たちはさ、国道をそのまま帰ったみたいよ。」
やよい「え、じゃあもう営業所に着いてるの?」
さつき「今着いたところだって。」
やよい「わあ最悪ー!、あの軽トラックめっ!」
かおり「・・・(話に無関心)」
やよい「かおりがピンチみたいだから、あそこまで行こうかって。」
  先ほどの木立の方を指さす。

●薄暗い旧国道
  先ほどの神社らしき木立
  対向車線を空のタクシーが走ってくる。

●かおりの顔
  そのタクシーの存在に気づき、目を見開きながら、
かおり「タクシー来ましたっ!」
  かなり大きな声で言う。

●たたずむ3人
  対抗車線のタクシーに向かって大きく手を振る。

●対向車線のタクシー
  3人を通り過ぎたあたりで停車し、路地を利用してUターンしようとしている。

●路上の3人
  バッグを取りながら
さつき「よかったね。」
やよい「かおり前に乗りなさいよ。」
かおり「あ・・いえ・・」
さつき「後ろの方がいいわよね。」
やよい「助手席の方が広いのに?」
さつき「運転手さんの横じゃさ、かえって落ち着かないわよ。」
やよい「ああ・・」
かおり「・・・・」
  話を合わせる余裕もない感じ。

●乗り込む3人  テロップ「pm10:05」
  さつきが先に乗り、つづいてかおり。やよいは前に乗る。

●その車内
  走り出した揺れに身を立て直すかおり。
さつき「(かおりをのぞき込むように) 大丈夫?」
かおり「・・はい・・」

●旧国道を走るタクシー

●車内のかおり
  膝の上に置いたスポーツバッグの下に手を入れ、両膝を左右に揺らしている。

     時々貧乏揺すりのように上下に揺らす。

●車内のかおり
  膝の動きで顔がずっと揺れている。
  その唇は半開きになっていて。ずっと下を向いている。
  額にうっすらと光る汗。

●比較的明るい市街地
  かおりたちが乗ったタクシーが走り抜ける。

●◎○駅前付近  テロップ「pm10:15」
  かおりたちの乗ったタクシーがやってきて、駅前の旅行代理店前で停まる。

●そのタクシー
  前後のドアが開き、前からやよいが降りてくる。
  そのまま後部座席に身を乗り入れて、かおりのスポーツバッグを取り出す。
  開いたドアに手を置きながら、かおりがユラリと身を出して、すぐその場にしゃがみこむ。
  さつきもあとから降りてくる。

●路上の3人
  走り去るタクシー
  ほとんど人通りはない。
  ふたりでかおりをかかえ起こし
さつき「先に行っちゃいな!」
  かおり、そういわれてフラフラと歩き出す。
  体は前屈みで、両手は下腹部あたりをさすっている。

●シャッターが降りた旅行代理店
  そのすぐ横手に路地がある。
  かおりがその路地に小走りで駆け込んでいく。

●路地裏の小さな入り口
  ガラスから室内の明かりが見える。
  かおりがやってきてドアノブに手をかける。

●ドアノブ
  ガチャガチャと音を立てながら開けようとするかおり。
  鍵かかけられている。

●ドアのそばにあるインターホン
  かおりがせわしなくその押しボタンを押す。
  しばらく応答がない。

路地裏の入り口付近。
  かおりが右手を股間に入れ、壁にもたれかかるようにしてもがいている。
  もう一度インターホンのボタンを押す。
女性A「(インターホンの声) はーい。」
かおり「か、かおりです。あ、あけてくださいっ」
女性A「(インターホンの声) おそかったわねえ、ちょっと待ってて!」
かおり「はやくぅ!」
  かおり、そういってうずくまる。
かおり「はやくしてぇ!(小さく叫ぶ)」

●路地裏のドア
  中から女性Aがドアを開ける。
  かおり、壁伝いに立ち上がり、女性Aを押しのけるような感じで入り込もうとする。
女性A「さつきさんとやよいさんは?」
  かおり、それには応える余裕などないといった感じで、
かおり「ちょっとトイレッ!」
  奥に走り込む。

●店内の女子トイレ前
かおりが駆け込んで来てドアを開ける。

●その内部
  ひとつしかない個室のドア。
  かおりが手をかけるが鍵がかかっている。
  かおり、その鍵をガチャガチャと動かす。
かおり「早くしてっ、はやくぅ!」
  かおり、右手を股間に入れ、体を二つに折った状態で、その場で駆け足をする。
  ザーと水を流す音が聞こえてくる。

●かおりの顔
  額の汗がキラキラと光っている。

●個室のドア
  中から女性Cが出てくる。
女性C「あらかおりちゃん、おかえり!」
  かおり、それに応える余裕がなく、大急ぎで中に入ろうとする。

●個室内
  入り込んできたかおり。力強くドアを閉めるが鍵はかけていない。
  和式便器をまたぐと、トントンと激しいあしふみ状態になりながら、ジャージのひもをほどこうとする。

●かおりの手
  あせって動かす手。
  ジャージのひもがなかなかほどけない。
かおり「あっあっあっ・・もうおぉ!」
  爪を立てて何度もひもをほぐそうとするかおり。
  ようやくそのひもがゆるみ、左右に大きく広げると、下着にも手をかけて一緒にずり下げる。

●個室内  テロップ「pm10:20」
  大きな体を二つに折って、勢いよくしゃがみ込むかおり。

●女子トイレ前
  さつきとやよいがやってくる。
  中からかおりの激しい音が聞こえてくる。
さつき「あは、やってるやってる。」
やよい「間に合ったみたいね。」
  ふたり、顔を見合わせてほほえむ。
やよい「次は私ね。」
さつき「何言ってるの。私が先よ!」
やよい「私もけっこうきついのよ。」
さつき「こういうのは先輩が先なの!」

●駅前営業所の全景
  上弦の月が、澄んだ空気の中に浮かび上がっている。

fin

・・・・・・・・・・

真理「なんだあ、よくわかんねえなあ。」
由衣「●の部分を想像しながら楽しむんだよね。」
希美「テレビドラマ観ている感じにするの?」
香織「そうゆうこと。けっこういいだろ?」
由衣「うん、私はシナリオ経験あるからバッチリ!」
真理「オイラはピンと来なかったなあ。」
希美「わたしもぉ。」
香織「・・そうか・・」
由衣「あ、じゃあさ、つぎは真理っぺね!」
真理「ふあっ?」


つづく

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