真理っぺのおしがま 後編




 次の日、真理と彼は朝食をとったあと、何軒かの取引先に商品見本や契約書などを届けて回るために、9時過ぎにホテルを出た。
朝のラッシュが少しおさまった時間帯であったので、第一目的地である西五反田には、さほど渋滞もなくスムーズに走れた。
 表通りから少し入ったコインパーキングに車を止め、取引先への契約書などを用意している彼に向かって、
「あのさ・・」
真理が口を開いた。
「もういやだよ。昨日のような・・」
「なにが?」
「オイラ・・もう挨拶なんか行かないよ。」
「昨日、そんなにイヤだったか?」
「だってさ、恥ずかしいじゃんか!」
さほど人見知りをする真理ではなかったが、彼の仕事にノコノコついてきている自分が、先方にどう思われるかを考えると、やはり踏み込めないのである。
「別に気にすることないじゃないか。」
彼は優しくそう言うが、やはり場違いだと真理は主張して、
「オイラ車の中で待ってるからさ!」
助手席の窓ごしに、彼を見上げてそう言った。
「そうか。けどここ・・30分ほどかかるぞ。」
彼は心配そうに真理をのぞき込む。
「仕事の話じゃん。オイラがいると邪魔になるよ。」
真理はにこやかにそう答えた。
「わかった。じゃあ出来るだけ早く戻るから!」
まだ心配そうな顔をしている彼に、
「ラジオ聞きながら待ってるからさ、大丈夫だよ!」
真理は明るく返していた。
 車には日差しがあり、暑いくらいに温度が上がっていたので、真理はウインドウを半分ぐらい開いたままにして風を入れていた。
 表通りから少し入ったその周囲は、朝のあわただしさから開放された静けさを取り戻し、道行く人もまばらで、ラジオから流れる音楽だけがすべての物音であるかのような落ち着いた空間を作り、暖かな日差しと、それを冷ますさわやかな風が心地よくて、真理はいつしかウトウトと眠りの世界に入っていった。

 そばを通る車のクラクションで目が覚めた真理。
(あれえ・・居眠りしちゃってた・・・)
ふと時計を見ると11時を回っていた。
「?」
彼が車を降りてから、もうすでに1時間以上経っていた。
(もうおっ、なにが30分ほどだよう!!)
真理の体が一瞬ブルッとふるえた。
「えっ!」
いつの間にか雲によって日がかげり、通り抜ける風が冷たく感じる。
(え・・うそ!?)
真理はこのとき尿意を感じた。
(わっ、これってけっこうヤバいじゃん!)
仕事が早く終わったら、お台場あたりへ行ってみようと言うことで、今日の真理はデニムミニにブーツと、少しおしゃれをしていた。
ウトウトとしているうちに車内の温度は下がっていて、ストッキングを穿いていない太ももから膝あたりが冷えてきている。
あわててウインドウを閉める真理。
(えっと・・どうすんだよぉ!)
朝食で飲んだ紅茶が作用しているのか、一度感じだした尿意は、分を追うごとに増しているようで、真理は不安になってきた。
彼はいつ戻ってくるかわからない。
どの建物に入っていったかも見ていない。
(悪いけど電話してやろう!)
ケータイを取り出してダイヤルする真理であったが、
「おかけになった電話は、現在電波の届かない・・・」
やはり予想していたメッセージが返ってきた。
商談中であるため、ケータイはオフにしているのであろう。
(もうおぉ!)
ますます落ち着かなくなり、真理はとりあえず車を降りてみた。
辺りをうかがうと、はるか後方に建物の影になった木立が見える。
(あれって・・ひょっとして公園!?)
幸い車のキーは挿したままであったので、じっとしていられない真理はダメもとで行ってみようとロックをし、人気がない道を小走りで駆け出した。
その靴音だけが妙に周囲の建物に響き渡る。
(えっと・・)
およそ150メートルほど駆けてくると、期待していた木立は確かに公園であった。
しかしそれはトイレを設置するほどの規模ではなく、数本の木と古ぼけたベンチが2台あるだけの。テニスコート半面ほどしかない小さな広場といった感じであった。
(あちゃー、ショック!)
11時半になろうとしている。
(ホテルを出る前にトイレ行っておけばよかったなあ・・)
朝起きたときに行ったきり、もう3時間半ほどトイレに行っていない。
(紅茶・・2杯も飲んじゃったしなあ・・)
真理は辺りをキョロキョロしながら、ホテルでの行動を後悔していた。
(表通りに出たら・・コンビ二あるかもっ!)
車に引き返してもどうにもならないので、真理はまた駆け出した。
 およそ100メートルほど走り、にぎやかな通りに出た真理。
目を凝らして周囲を見ると、向かい側のかなり先にコンビニらしき店が見えるが、視力が弱い真理には確信がもてない。
(どうしよう・・行ってみるかなあ・・?)
パーキングからかなり離れてしまったことと、彼がいつ戻ってくるかわからないこと、それにその店がもしコンビニでなかったらという不安があって、真理は踏み出せずにいた。
「!」
車の騒音の中で、ケータイの音が聞こえたように思う。
急いでバッグを開けると、彼からの着信。
「も・・もしもし・・」
あわてて応答する真理に。
「バカヤロウ、どこほっつき歩いてんだよぉ!?」
怒った口調で彼の声が飛び込んできた。
「あ・・ごめん・・オイラ・・」
「早く戻って来いよ。時間がないんだからっ!」
「あ、うん、すぐに戻るよ。ただね・・」
真理は来た道を引き返しながら、トイレを探していることを伝えようとしたが、
「昼までにもう一軒回らないといけないんだぞっ!」
彼はかなり怒っているようで、真理の言葉を聞いていない。
一方的にまくし立てられて、真理も少しハタがたってきた。
「だってさ、30分ほどで終わらせるって言ってたじゃん!」
「打ち合わせが長引いたんだ。仕方ないだろっ!」
「だってオイラ・・」
「いいから早く戻って来いよ・・あっ、見えた見えた!」
目がいい彼は、小走りで駆けてくる真理の姿を確認したようだ。
息を切らせて戻ってきた真理に、
「さ、早くキーを出せよ。」
彼は奪い取るように受け取ると。追加料金を投入して「早く乗れよ!」
と真理を急かした。
しぶしぶ助手席に乗り込む真理。
シートに座ると腰が沈み、下腹部を少し圧迫する。
(・・・・)
冷えた足に紅茶の作用で、急激に膨らんでしまった尿意は、比べるなら昨日ホテルに向かっていた時よりも強く感じられ、もうさほど余裕がないことを真理は悟った。
車の震度やブレーキングのGでさえ辛い。
「どこ行ってたんだよ?」
信号待ちのとき、やっと彼が口を開いた。
「・・・オイラ・・待ってる間に冷えちゃってさ・・」
「?」
「・・トイレ探してた。」
「・・ああ、それは悪かった。長引いてしまったからな。」
「・・もう限界だよ・・」
「え?」
「もう我慢できないよ!」
「あ・・えっと・・」
シートにうずくまって小さくなり、ピッタリと閉じた両足の間にスカートの上から手を入れ、小刻みに体を揺らしている真理の様子を見て、彼はようやく事の重大さが理解できたようだ。
「そうか、まだ行ってなかったんだ。」
「・・・」
「あと少しだからがんばれよ!」
「少しって・・どれぐらい?」
「そうだな・・あと15分・・」
「無理だよ無理!、もうそんなの無理だよっ!」
普段は男勝りな口を利く真理だが、このときは半分泣き声のような弱々しい声になっていた。
 彼が時間に追われて急いでいることはわかっている。
けれどもあっという間に膨らんでしまった膀胱は、破裂しそうなほど丸くなって、真理の意識に逆らうかのように何度も収縮しようとしている。
真理が言ったように、15分どころか5分も持ちこたえられない状況になってしまっていた。
女の子であるがために、どうしてもトイレを我慢しなければならなかった経験はいくつもあるが、これまでは徐々に高まってくる尿意を我慢していたわけで、今日のように、冷えたことによる急激な高まりは経験したことがない真理。
「息・・するのもつらいよ・・」
消え入りそうな声でそういった。
なんとなく下着が湿っているような感覚があった女の子の部分は、先ほどからしびれたような感じになり、頼りなさが増大して、真理はさらに強く手で押さえ込んだ。
暑くもないのに額には汗がにじみ、口は半開きになって、焦点の定まらない目で、しきりにキョロキョロと窓の外を見る。
(ああ・・つらいよ!しっこしたいよ!)
何度も何度もその言葉を頭の中で繰り返し、ついには声にまで出してしまった真理。
「やばいよー、膀胱炎になるよー!」
2日連続のおしがまで、膀胱にもかなりの負担が掛かっているのであろうか、痛みまで感じている。
心臓がドキドキと高鳴り、脈を打っているのが自分でも感じられ、その脈にあわせて膀胱がドックンドックンと疼痛を訴える。
「はあ・・だめっ!」
声にならないかすれた声で真理は叫んでいた。
 今朝飲んだのは紅茶2杯だけであるが、乾燥したホテルの部屋で喉が渇き、夕べはコーラやウーロン茶をかなり飲んでいた。
朝のトイレでそれらが排泄されたかどうかはわからない。
しかし真理の尿意は爆発的とも言えるほど急速で、冷えたために全ての水分が膀胱へと押しやられたようである。
もはや体ではなく、頭の中だけで必死にこらえている真理の姿は、小さな体をますます小さくして、おびえる子ウサギのように震えていた。
 しびれている女の子の部分に熱い何かを感じる。
(は・・ぁ・・!?)
最後の砦が崩壊寸前になりかかっている。
(だめだめだめだめだめーーー!!!)
最大級の排尿感が真理を襲い、大きく体をゆすってそれに耐えると、しばらくは少し落ち着くが、すぐにまた襲い掛かってくる尿意。
その間隔がだんだんと短くなっていた。
(はぁ・・もうしっこぉ!!)
 移動中の車の中という、自分ではどうしようもない現実の中で、真理は次第に意識が遠のくような錯覚を覚えだした。
いやそれは錯覚ではなく、真理はこのとき貧血状態に陥りかかっていたのである。
小さな体の真理にとって、限界を超えるほど大きく膀胱が膨らんだことと、シートに深く座っていることで、下腹部の血流が悪くなっていたのであった。
(あぁ・・もう漏れる・・)
目の前が真っ白になりかかったとき、
「ジュースでも買っておいで!」
彼の声が遠くの方で聞こえたように思えた。 グッと体に力をいれ気を取り戻した真理が、そこがコンビニ前の駐車場だということを悟るまでに数秒かかった。
「え・・ぁ・・?」
まだ焦点が定まっていない目で、真理は彼のほうを向いた。
「何か買っておいでよ。」
彼は再びそう言ってドアロックを解除した。
「トイレに行っておいで」ではなく「何か買っておいで」は、きっと彼の優しさから出た表現なのであろう。
先ほどのコインパーキングを出て、わずか5分ほど走ったばかりのところであったが、彼は真理の非常事態を理解してくれていたようである。
「あ・・ぅん・・」
やっと我に返った真理は、おぼつかない手を伸ばしてドアを開こうとしたが、体を起こす事、向きを変える事など、その一つ一つの動作が、これほどまでに膀胱と直結しているとは想像もしていなかった。
わずかでも気を抜いたり、おかしな部分に力が入ったりしたら、もうそれは「ダム決壊」を意味する。
「開けるよ。」
彼はそう言って車を降り、助手席のドアを開けてくれた。
その手を借りて立ち上がった真理。
当然のように体はふたつに折れ、左手はスカートごしに足の間に入り、その足はずっとリズムを打ってコンクリートを叩いている。
「・・いっしょに来て・・」
真理はそう言うだけでも必死であった。
もう何ひとつ他の事でエネルギーを使えない。
それが自分でわかっている真理は、彼に抱きかかえてもらうようにしてコンビニに入っていった。
「すみません、ちょっとトイレを!」
彼が店員にそう告げた。
おそらく誰が見ても真理の「限界」を知ってしまうであろう状況。
しかし今の真理には、恥ずかしいと思うような余裕など全く残っていなく、店員が男性であったのかどうか、店の中に客がいたのかどうかさえも知らずにいた。
 引きずるようにして奥のトイレまで真理を連れていき、ドアを開けて中に入れると、
「さ、あとは自分でできるよな!」
それだけ言って、彼はすぐに店のほうに戻って行った。
崩れ落ちそうになりながらも、真理は必死で体を動かし、男女共用の和式便器を一段上がることまでは何とかできた。
しかし、このときを待ち焦がれていたおしっこの集団は、真理の制止を聞くことなく、一気に出口へと押し寄せてきて、動作が鈍っている真理に対して「下着を下ろす」猶予を与えてくれなかった。
「あっダメ!」
足の間にあった手を離してスカートを持ち上げようとした、ただそれだけの動作で、こらえきれなくなったおしっこがチョロチョロと溢れ出し、薄い下着の布を通り抜けて流れ出してきた。
(ヤベェッ!)
どこにそんな力が残っていたのかと思うほど素早く、真理は下着に手をかけて降ろしながらしゃがみ込んだ。
が、そのわずかな時間も待ってはくれないおしっこは、降ろしかけた下着の一部を濡らしながら勢いを増していき、しゃがんだ事でその勢いは更に増大して、かすれたような音を発しながら水たまりに跳ねて、ジョボジョボとたたきつける大きな音を響かせた。
(い・・つぅ・・)
一気に収縮しようとしている膀胱が、ツンと痛みを訴えている。
その不快な痛みをどうすることも出来ず、真理はただ顔をしかめるだけで、音が外にも聞こえているであろう恥ずかしさなど、考える余裕すらなかった。
 1分ほど続いたと言っても大げさではないほど、この小さな体のどこにこれだけ溜められていたのかと驚くほど、真理のおしっこは延々と出続けて、ようやくチョロチョロとその勢いを弱めていった。
(あぁあ。ひっかけちゃったよお!)
真理は少し冷静さを取り戻し、後始末の用意を始めた。
(これ・・もう穿けないよなあ・・)
おまたの部分から後ろにかけて、かなり濡れてしまったショーツ。
(お気に入りだったのになあ・・)
おもむろに下着を脱ぎ去り、トレペで丁寧にくるんで汚物入れに捨て、バッグから予備で用意していた下着に履き替える真理。
(ブーツに垂れなくてよかった!)
下着を濡らしたおしっこは、足に伝う事なく落下してくれたので、真理は不幸中の幸いと安堵した。
(けど・・由衣のやつが喜びそうな事やっちまったなあ!)
痛みを訴えていた膀胱の感触も徐々に柔らいでいって、真理は完全に落ち着きをとり戻し、そこがコンビニのトイレであることを思い出して、急に恥ずかしくなってしまった。
(きっとすごい格好して入ってきたんだろうなあ・・?)
(みんな笑ってたんじゃないかなあ?)
(大きな音・・聞かれたかなあ・・?)
そんな事が気になりだし、なかなかドアに手が伸びない真理。
(ええい、もう開き直りだい!!)
そう気を取り直して、真理はハッと気がついた。
(ひえぇっ!カギかけてなかったあ!!)

希美「わあ、やっぱり真理っぺお漏らしじゃん!」
真理「バカヤロウ!あれはお漏らしじゃなくてオチビリってんだよ!」
希美「ちがうよぉ!。立派なお漏らしだよぉ!」
真理「立派なお漏らしって・・おまえなあ!」
希美「お漏らしだよね由衣ちゃん!?」
由衣「まあ・・下着を替えるほどだから・・ね。」
真理「だからあ、あれはオチビリだって言ってんだよ!」
由衣「下着を替えるまでいったらさ、やっぱり・・」
真理「しつこいぞ由衣!」
希美「わーい、これで3人ともお漏らし経験者になったよね!」
由衣「のの・・喜ぶことでもないよ。」
希美「けどさぁ、みんなお仲間じゃん!」
由衣「・・それがうれしいの?」
希美「うん、いつも一緒だもんね!」
由衣「はは・・」
真理「だからあ、オイラは違うってば!」

 この3人が集まると、なぜかいつもにぎやかになる。
そんなミニ同窓会は夜遅くまで続いていった。


おわり

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