華穂 3(茶店でズラション !!??)




 社会人になった華穂は、やはり男性社員から注目の的になっていた。
言い寄ってくるその男たちに甘え、華穂は仕事ですら男性に手伝ってもらう事が当たり前のようにして振る舞う。
 その結果が招いたのかどうか、試用期間が終わると彼女は渉外課という、もっとも厳しい現場の配属になった。
渉外課はその名のとおtり、取引先や関連会社、保険会社などを回って仕事を取ってきたり、事業のPRで営業と同じように走り回ったり、時には苦情処理に回ったりと、かなり過酷な仕事内容が回ってくる。
 当然華穂はそんな仕事は自分にはムリだと思っていて、すぐにでも辞めてしまおうと親に相談したが、期待に反して親から出た言葉が、いつまでも学生気分でいるな、辞めるならその仕事が本当にムリだとみんなが認めてからにしろと、かなりきつくたしなめられてしまう。
 華穂が渉外課をいやがったのはもう一つ、そのコスチュームにあった。
白いブラウスに紺のパンツスーツ、化粧はナチュラルにして髪は束ねて後ろで止めるという、いかにも地味な印象を持っていたからである。
 しかし元々目鼻立ちがスッキリとしていて、美形タイプの華穂だ、本人は地味でイヤだと思っていても、周囲はその薄いメイクに高評価を下したのである。
似合うと言われていやな気はしない。
華穂はその日から渉外課で働くことになっていく。
 2日間、社内で取引先の応対の仕方などを学び、その翌日から早速課長に同伴して車で挨拶回りとなった。
 7月に入ったというのに外回りは上着を着ていく。
想像しただけで暑苦しく感じるが、車内も訪問先もよく冷房が効いていて、それほど汗をかいたりすることはなかったようだ。
 右も左もわからないまま先方と名刺交換をし、新人です。よろしくお願いしますと頭を下げる訳だが、他人に頭を下げると言うことなど華穂の歴史には皆無だっただけに、それだけでかなりの疲れを感じていた華穂であった。
 訪問する先々でお茶やコーヒーの接待を受け、遠慮するのは良くないと諭されて口にする華穂。
そのために午前中の訪問を終えた頃にはかなり尿意を感じていた。
出勤してから一度もトイレに行かずに、ほとんど汗をかいていないから当然のことであった。
(戻ったら先にトイレ行っておかないとなぁ……)
 助手席でぼんやりとそんなことを考えていると、
(そこのファミレスでメシにしようか。今日はおごりだ!!)
 と、課長がそう言った。
てっきり社に戻るものと思い込んでいた華穂はショックを受ける。
かといってイヤですとも言えず、そのままファミレスに入らざるを得ない。
店内はほどよく冷房が効いている。
(困ったなぁ、これじゃぁトイレ行けないじゃん……)
 課長は30代後半の男性で、それなりにキリッとしている。
そういった男性の前でトイレに行くことはやはり華穂には出来ない。
オーダーが済むと課長は席を立ってトイレに行った。
(やっぱり私も行きたいけど……)
 いつもになく弱気な華穂。
しかし席を空っぽにするのもどうかと思うし、どう考えても課長の方が先に戻ってくる事は間違いない訳だから、華穂もトイレに行ったことがわかってしまうので、そう思われることがどうしてもイヤで華穂はなすすべがなかった。
 やがて運ばれてきた食事を口に運ぶが、華穂はおしっこのことが気になってあまりのどを通らない。
どうしたと心配そうに聞く課長に、華穂は緊張していて食欲がないと答えていた。
 食後のコーヒーが運ばれてくる。
ここのは意外にうまいんだと言って課長は奨めてくれるが、膀胱の膨らみが気になる華穂にとって、これ以上利尿作用の強いコーヒーなど飲みたくもなかった。
かといって変に避けるのも雰囲気を壊してしまうと思い、少しずつ口に運んでいく。
 およそ40分近くそこにいて、冷房で身体も少し冷えてきたのか華穂の膀胱はますます丸みを帯びてきていた。
(どうしよう……トイレ行っておかないとなぁ……)
 先ほどからそればかり考えている華穂に、
「ちょっとすまないけど頼めるかな?」
 と課長が言ってきた。
ハッと我に返る華穂に課長は続ける。
それによると、ここを出る前にタバコを吸ってくる。すまないが先に車に戻って待っていてくれというものであった。
確かにこの店は全面禁煙になっており、タバコは喫煙ルームでという断り書きが随所に見受けられた。
「ぁはいっ!」
 華穂はなにげにそう返事していた。
「ちょっと2〜3本吸い溜めしてくるから10分ほどなっ!」
 課長はそう言ってポンと華穂の肩をたたくと、伝票を手に持って先ほどのトイレの方へ向かって歩いて行った。
確かにその手前に喫煙ルームがある。
(10分ほどひとりになれるのならトイレに行けるっ!!)
 またとないチャンスに華穂は喜んで、課長の姿がその部屋に消えるとともに席を立つと、その後を追うような感じでトイレへと向かった。
(はぁ……けど……、これから毎日こんなのが続くのかなぁ……?)
 やっとおしっこが出来た安堵感とは裏腹に、これから先の事を考えると憂鬱な気分になってしまう華穂であった。

 翌日は大阪事業本部へ出向くことになった。
名神を飛ばし、1時間ちょっとでそこに着くと、待ち構えていたのは新人を相手にした講習で、華穂以外に4人の男性がそれを受けることになった。
いずれも人事異動で渉外関係に回った男性ばかりで、全くの社会人1年生は華穂だけであったので、それだけでも周りからは注目されてしまうが、こういった形での注目は願い下げである。
 周りがすべて男性と言うことで、みなと一緒に社員食堂に出向いたその後でも、談話室で雑談している時でも、常に誰かしら男性がそばにいて華穂はトイレに立つタイミングを全く取ることが出来なかった。
 昨日の事があるのでそれなりに水分摂取を控えめにしていたとは言っても、やはりここでも(眠気覚ましの)コーヒーが出されたりしていて、午後になるとそれなりの尿意を感じてしまう。
 やがて退屈な講習も終わり、課長の運転で京都に戻ることになったが。途中で枚方市にある関連会社に立ち寄るからと、帰りは名神に乗らずに国道1号で帰るそうだ。
(……おしっこ…我慢出来るかなぁ……?)
 一抹の…いや、それよりも大きな不安に包まれる華穂。
そのときはすでにかなりの尿意を感じていた。
しかし足早に駐車場に向かう課長に、トイレに行きたいからと告げることはどうしても出来なくて、華穂はそのまま車に乗り込んでいた。
 どこをどう走ったのか全くわからないが、それから1時間ほどで目的の会社に着き、そこでまた冷たいお茶を出されてしまう。
課長が用事を済ませる間、華穂は事務所の一角でずっと待つだけであったが、見ず知らずの人に「トイレはどこですか?」と聞く事も出来ず、ただじっと座って待つしかなかった。
(早くしてっ、ホントにもうおしっこ……)
 この後の事を考えると、華穂は今すぐにでも席を立って帰りたい。
それほどまでに尿意は膨らんできていた。
時刻は3時半を過ぎている。
(はぁ……もう8時間も…おしっこしてない……)
 昨日ほどは水分を摂らないように気をつけてはいたが、ずっと冷房の効いた部屋で講習を受けていたし、昼食のあと男性社員たちに愛嬌を振りまいていて、その時に奨められた大きなカップのアイスティーを飲み干したりしていたので、実はけっこう水分を入れていたことになる。
そんなわけで華穂の尿意はかなり危険な状態にまで迫りつつあった。
「待たせて悪かった。さ、急いで帰ろうか。」
 課長がすまなそうにそう言ってきたのはその直後だった。
華穂はいいえと言いながら席を立ったが、下腹部にズンと重さを感じて少し慌ててしまった。
(やばっ、けっこうおしっこ溜まってるぅっ!!)
 立ち上がって身体を伸ばしたことで、改めて膀胱の張り具合を感じ、自分が相当おしっこ我慢している事を再認識させられた華穂。
しかしどうすることも出来ずにまた車に乗り込んでしまった。

 夕刻が迫ってきた国道はそれなりに交通量が多い。
街中を抜けて郊外に出てもそれは変わらず、時には自然渋滞のようなノロノロ走行も起きていた。
時計はすでに4時を回っている。
時間の経過とともに華穂の膀胱は悲鳴を上げようとしかかっていた。
(ぁぁ……どうしよう…ほんとにおしっこ……)
 車の振動ですら今の華穂の膀胱には大きな刺激になってしまっている。
つい先ほど八幡市に入った事を知らせる標識が目に入っていたが、地理に疎い華穂にはそれがどのあたりであとどれぐらいで会社に戻れるのかさっぱりわからない。
それが不安となって更に膀胱を刺激してしまう。
冷たいエアコンの風がズボン越しに足を冷やして追い打ちをかけていた。
 また車は動かなくなり遠くの方で救急車のサイレンが聞こえている。
どうやら事故渋滞のようだ。
「悪いなあ、この調子だと5時までに着けそうにないよ。」
 課長が言ったそれは。あと1時間以上は絶対にかかるという事になる。
(え……ムりっ!絶対我慢出来ないっ!!)
 今でもおしっこがしたくてたまらなくなってきているのに、更に1時間以上など気の遠くなるような事だ。
(どうしよう……ほんとにどうしよう……ぁぁおしっこ……)
 気が焦る華穂は刻一刻と膨らみを増していく膀胱を、ズボンの上からそっとさすっていたが、それは本当に丸みを帯びていて、まもなく限界点に達しそうであることを物語っていた。
(おしっこしたいっおしっこしたいっおしっこしたいっ!!)
 もう華穂の頭の中はそればかりになっていて、他は何も考えられなくなっていた。
会話の途切れた車内で課長はラジオのスイッチを入れて、流れてくる音楽で気を紛らわせているようであったが、華穂には気を紛らわせるすべはなく、いやむしろもう気を紛らわせてごまかせる域を超えてしまっていたと言える。
 20分ほどして車はノロノロと動き出した。
しばらく行くと事故現場らしき所にさしかかり、そこから先は少しスムーズに流れ出したが、それはそれで振動がまた襲いかかってくる。
 車内はかなり冷房を効かせているが、華穂は先ほどから暑くてたまらなく感じ、おでこにはうっすらと汗をにじませていた。
(はぁ……やっぱりもう…ダメっ!!)
 このままでは最悪な事になって、車のシートを汚してしまいそうだ。
そして、そんなことになったらいい笑いものになってしまう。
華穂はどうしようもなくなって
「ぁ…あの…課長……」
 と、重い口を開いた。
「あの…ちょっとお願いが…あるんですけど…」
「ん、何だ?」
「ぁはい…あのちょっと…行きたいところが…」
「ん、どこかに寄るのか?」
「ぁはい……そうしてもらえたら…」
「いいよ。この近所かな?」
「ぁいえ…その…ちょっと休憩…してほしいかな…とか…」
「ん、いいけど遅くなっても構わないのかい?」
「ぁ…いえ、ちょっとお手洗いに…行っておこうかな…とか…」
「そうだな。まだ少しかかるかもしれないしな。よしどこかいい所を探すよ。」
「ぁはい……」
 華穂は、あくまでも我慢しているのではなく、念のために行っておきたいのだという風に小芝居をしていたが、ホントは今すぐにでも車を停めてほしいほどになっていた。
額の汗をぬぐいながら(早くっ早くっ!!)と願う華穂。
すぐにファミレスが目に入ったが、課長はそこを無言で素通りしてしまう。
(えっ、何で通り過ぎちゃうのっ!?)
 膀胱が悲鳴を上げている華穂に焦りが出始めた。
そこからしばらくはまっすぐな道が続き、中古車センターのような物ばかりが目についてそれらしい建物がない。
(お願い……どこでもいいからはやくっ!!)
 心の中でそう叫んでいた華穂。
「すぐ先にコーヒーがうまい店があるんだ。そこで休もう。」
 よほど課長はコーヒーが好きなのか、のんきにそんなことを言う。
もうこの際贅沢は言わないが、それよりも早くそこに着いてほしいと願うしかない。
 やがて車はさほど大きくない古風なたたずまいの喫茶店の駐車場に入り込んだ。
(え…こんなところぉっ!?)
 ファミレスのような広い所だとトイレが独立していて入りやすいが、この規模の店だと客席のすぐ脇にトイレがあるケースが多いので華穂はためらった。
かといって今更別の所に行きたいとも言えず、膀胱をかばうようにして車を降りて店に入ると、そこは想像していた通りカウンターとテーブルが数席しかない小さな店で、常連客だろうかカウンターで2人の男性がたばこを吹かしていた。
 トイレの表示は奥の方に見える。
華穂は出来るだけトイレから離れた場所に座りたくて、一番手前の席に着こうとしたが、そこは暑いから奥の方にしようと課長が言って華穂を促す。
一刻も早くトイレに駆け込みたい華穂だが、そういうそぶりを見せることは自分でも許せないので、静かに席について課長の奨めるコーヒーをオーダーした。
そして
「先にちょっと失礼しますね。」
 と、さも平静を装った感じで席を立ち、そっとトイレに向かう。
ほんとは走って行きたいところだが、我慢していたと思われないようにという気持ちと、今は少しでも刺激を避けたいという二つの理由がそうさせていた。
 トイレは入ったところに洗面スペースがあり、その奥に男性用があって、更にドアの奥に今時にしては珍しい和式のそれが配置されていた。
和式は洋式以上に音に気をつけなければならない。
華穂は肩から提げていたバッグをフックにかけ、便器をまたいで大急ぎでズボンのボタンを外し、一気にファスナーを引き下げようとしたが、
「え゛っ!!」
 あろうことか生地を噛んでしまって途中までしか下ろせない。
(ちょっちょっとぉっ!!)
 あわてた華穂は足をクネクネとさせながら何度もファスナーを上上下に動かそうと試みたが動かない。
 解剖学的にも生理学的にも、もうとっくに我慢の限界を超えているおしっこを、ここまで堪える事が出来るのは華穂の精神力だが、個室に入り便器をまたいだことによって、その精神力は一気に解き放たれてしまい、モタモタしている華穂の立場などお構いなしに、その第一陣を放出させようと水門を開きにかかった。
「あっまだっ!!」
 あわてて華穂は半分開いているズボンの隙間に左手を潜り込ませ、かろうじてその手でその水門を押さえることが出来たが、逆に膨らみきっている膀胱を手首で押さえてしまうことになって、より危険度が増してしまう。
(やばいやばいっど…どうしようっ!!??)
 そもそも片手だけで噛んでしまったファスナーを直そうなど、とうてい無理なことであるが、かといって押さえている左手は絶対に離す事が出来なくなってしまって、それはもう絶望的な様相を示していた。
(たすけてっ!!)
 腰を振り足をくねらせながら必死で格闘していた華穂。
だがそれもむなしく、とうとう水圧に耐えかねた水門の一部が決壊してジワ……っとひとしずくを放出させてしまい、押さえている手にその感触が伝わってきて
「やんでっ出ちゃうっ!!」
 華穂は思わず小さな声を出してしまった。
そのままの状態ではパンツどころかズボンも靴も、何もかもがおしっこまみれになってしまう。
華穂は焦ってなんとかズボンをズリ下げてみようと試みた。
 ファスナーも途中までは下げているので、それなりの広がりを作ることが出来るようで。膝をとじ合わせるようにしながら右手をあちこち動かしてズボンを下ろしにかかった。
幸いなことに華穂のおしりはそれほど大きくない。
そのおかげでズボンがやっとおしりからツルンとはがれたので、あとはそれを一気に膝あたりまで下げることが出来たが、パンツに広がったシミは更に大きくなり出していたので、手を離すとシュ〜っと噴き出してきそうで絶対にそれは出来ない。
言い換えればパンツを下げる動作が出来ないのだ。
「ぇえと…えと……」
 パンツのままおしっこをしてしまっては後が大変だ。
混乱した頭で何とかその場を乗り切りたい華穂は、とっさに女の子の部分を包んでいるパンツをグイッと片方に引き寄せて、おしっこの出口あたりが露出するようにするとすぐさまその場にしゃがみ込んだ。
と同時にシ〜〜という音をたてながらおしっこが飛び出し、すぐさま勢いよく便器の前の方にある水たまりにジョボボボ……と大きな音を立てて跳ね出した。
 慌てて水を流す華穂。
ファスナーが開ききっていないのであまり足を広げることが出来ないため、パンツを寄せている左手にもまともにおしっこが当たり、それはしぶいて右の太ももにも飛び散ったりしているが、手を離すことも足を開くことも一切出来なくて、ただただ早く終わってと願うしかなかった。
 やがておしっこの勢いが弱くなってくると、華穂は少しだけ腰を浮かせて中腰になり、しずくがおしりの方に垂れないようにして、ぎこちなく右手だけでペーパーを引き出したが、ホルダーがカランカランと音を立てないように神経を使った。
そしてまず女の子の部分のしずくをぬぐい、いったんパンツを元に戻してから濡れた左手を拭き、もう一度ペーパーを引き出して太ももなどにかかったおしっこを拭き取って、次にかなり濡れてしまったパンツにペーパーを押し当てて水分をしみこませた。
 そこまででかなりの時間がかかっている。
早く戻らなければ課長にう○○してたのかと思われてしまうと思って華穂は焦った。
湿ったままのパンツを穿くのはかなり抵抗があったが仕方がない。
華穂は大急ぎでズボンを上げたが、ファスナーは半分開いたままになる。
上着を着ていたのが幸いして、その裾でズボンの前を隠すような感じで席に戻った華穂。
課長はたばこを吸いながらカウンターにいた客と話をしていて、特に華穂に注目する事はなかった。

 自分から男性に対してトイレに行く事を告げたのは、およそこの日が初めてであったかもしれない。
華穂にとってそれは恥ずかしいというよりもカッコ悪いと考えていた訳であるが、社会人になって少しずつ考え方に柔軟性が出てきていたのも事実であって、この日のことをきっかけに、なにかひとつ吹っ切れたものがあり、それ以後は割と抵抗なくトイレに行けるようになっていった。
それはその課長から、
「外回りをしていると、思うようにトイレに行けないときもあるので、常に早い目に済ませておく方が賢明だ。」
 と教えられた事が大きく作用していたといえる。
まるでわがままな華穂のための指導員としてそこにいるかのように、それからの華穂はこの課長の下で鍛えられ、やがてひとりで外回りも出来るようになって、次第にその成果を上げていった。
そう、翌年の冬にある男性と遭遇するまで、華穂は特に誰かとおつきあいをしたり派手な遊びをすることもなくなっていた。



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