神崎理保 卒業




 理保は高校を卒業する。
仲間たちの皆がそのままエスカレーター式に大学へ進学する中、理保は違う道を選んでいた。
それは看護師になる事。
大学生で福祉関係のサークル活動をしている依里佳(えりか)の影響を受けたせいか、理保はいつしかその道を選ぶことを決めて、すでに京都の看護学校に合格していた。
 一方、一足先に大学生になっていた三宅とは、彼が大学に合格した日に
「好きだ!!」
 と告白され、あの中途半端な友達以上恋人未満の関係がら「つきあっている」という関係に発展していたが、だからといってデートらしいデートもほとんどなく、これまでのように通学の行き帰りを一緒にしたり、たまの休みに映画を見に行く程度のもので、せいぜいがキスまでのピュアな関係にとどまっていた。
それでも理保にしてみれば「つきあっている」という事実は大切なものであった。

 卒業式のその日の午後、理保は高校の制服を着て三宅の家を訪問した。
翌日から彼は大学のクラブで地方へ遠征する。
しばらく会えなくなるという事と、卒業祝いを渡したいという彼からの誘いであった。
本来ならお祝いを渡す彼の方から出向くべきだが、遠征の準備でばたついているから、理保が都合の良い時間でいいので来てほしいと言われていたためだ。
制服のままでと言うのは、見納めになるからと彼がそう頼んでいたからである。
 理保が彼の家を訪問するのは2度目になる。
数ヶ月前、理保が気に入っているアーチストのCDを借りるために立ち寄ったのが最初であった。
そのときは玄関先で用を済ませたが、彼の両親とは挨拶を交わしていた。
 まもなく三宅の家に着くというその直前に、それまで青空だった空が急に陰っていきなり雨が降り始め、傘を持っていなかった理保は少し濡れてしまった。
「理保ちゃんだったわね。さ、あがって!!」
 彼の母親に出迎えられたが、彼は遠征の準備の買い物に出かけているという。
すぐに帰るからと言われたものの、理保は躊躇した。
しかし外は本降りの雨になり、傘を借りて帰るのも気が引けるので、理保は遠慮がちに靴を脱いだ。
 2階の彼の部屋に通される。
6畳ほどの洋間に机やベッド、本棚などが所狭しと配置され、遠征の準備と思われる品がベッドの上に散乱していた。
隣には中学生の弟が友達と戯れているらしき声がして
「アニキの彼女がきたー!!」
「ヒャホー、美人かよ!?」
 などと騒いでいる。
イスに腰を下ろした理保は
「さむ……」
 雨に濡れたせいかかなり寒さを感じ、ダッフルコートを膝に掛ける。
部屋のエアコンは入っていない。
リモコンは目の前にあるが、勝手に使うのも気が引けた。
 しばらくすると母親が暖かい紅茶を持ってきて、暖房を入れてくれる。
半開きになったドアの隙間から、彼の弟とその友達が興味深そうにのぞき込んでいて、それを知った母親から叱責される。
(うちとちがってここは男系家族なんだ……)
 理保は理由もなく微笑んでいる自分に気づいた。
薫り高い紅茶を口にしだした頃、ようやく暖房が効き始めてきたが、少し雨のしぶきで濡れたハイソックスは冷たくなり、生足であるために少し堪える。
(なんか……どうしようかなぁ……?)
 何となく落ち着かない。
何となく居心地が悪い。
何がどうというのではないが、理保はソワソワしていた。
そしてその理由をすぐに感じる。
(なんか……トイレ行きたくなってきた……)
 家を出るつい15分ほど前に理保はトイレを済ませていた。
なのに今、軽い尿意を感じている。
この地域お決まりの強い風が吹く寒い中を歩いてきた事と、雨に濡れてしまったことで身体が冷えてしまったのであろうか。
 その軽い尿意はそれからものの5分もしないうちに、かなりはっきりとしたそれに変わってきた。
(どうしよう…トイレ行きたい……)
 そうは思ったものの、理保は躊躇してしまう。
2度目とはいえ、家の中に入ったのは今日が初めてで、なおかつ訪問してまだ数分しか経っていないのに、彼の母親がいる階下に降りていってトイレを借りるのは恥ずかしい。
おまけに弟君たちが隣の部屋で聞き耳を立てているのがわかっていたので尚更だ。
(もうぉ…早く帰ってきてよぉ!!)
 理保はますます落ち着かなくなってきて、狭い部屋の中をウロウロと歩き回るかなかった。

 それからさらに5分ほどが過ぎ、ようやく三宅が帰ってきた。
彼も雨に打たれたらしく、全身はほぼびしょ濡れ状態であった。
「悪い。着替えるから下のリビングで待ていてくれ。」
 彼は理保にそう言って部屋を出るように促した。
理保にしてみればこれ幸いである。
彼が着替えて降りてくるまでにトイレを借りておこうと、そう思ったのだ。
しかし階下に降り始めると、その足音に気づいた弟君たちが部屋から這いずりだし、理保の後ろ姿を眺めている。
その視線を背中越しに強く感じて、
(もうおっ、うっとおしいっ!!)
 少し怒りを覚える理保であった。
階段を下りきった所にトイレがあるのを確認して、理保はリビングに入った。
弟君たちも降りてきて、玄関先でキャッキャッと騒ぎだした。
トイレはちょうど彼らが騒いでいるその場所だ。
(もうおぉ…トイレ行けないじゃんっ!!)
 迫ってきている尿意に、理保はかなりイライラしてきた。
それでも台所に立つ彼の母親とはにこやかな表情で話をする。
(困ったなぁ…早くトイレ行きたいのに……)
母親との会話に相づちを打ちながら、理保の頭の中は混乱していた。
(あの子たちさえいなければトイレいけるのにぃっ!)
 そんなことばかり考えていると、三宅が着替え終わり、濡れた髪の毛をタオルでぬぐいながらリビングにやってきた。
そして再び理保を部屋に来るようにと促す。
が、そこには弟君たちがたむろっていて、短いスカートの理保は階段を上がるのをためらってしまう。
それに気づいた三宅が、弟たちを足で蹴散らかすようにしてリビングに追い立て、今のうちにという風に手で合図してくれた。
そそくさと駆け上がった理保は、途中でふと気になって三宅を見下ろした。
「あっ!」
 思った通り彼は身をかがめるようにして階段上の理保を見上げている。
どう言い逃れをしようとも、明らかにスカートの中をのぞき込んでいる体制だ。
「スケベッ!」
 理保は小さくそう叫んで階段を上りきり、勢いよく身体の向きを変えてスカートを大きく翻しながら彼の部屋に入った。
 彼と一緒の時、これまで何度も風でスカートが翻ったことがある。
そのときにパンツを見られていたかも知れないが、それはあくまでも不可抗力で、今のようにはっきりと覗かれてしまったことはなく、そう思うとやはり今の彼の行動は決して好感は持てないが、男子はみんなそういうものだと理解もしている。
それに自分のことを好きでいてくれる三宅がしたことだから、それ以上の憎悪感は沸いてこなかった。
(それより…早くトイレ行きたい……)
 そう、かなり高まってしまった尿意を先に解決したい理保である。
彼はすぐに部屋に戻ってきて、つい今スカートをのぞき見した事などなかったかのように、理保を優しく抱き寄せてキスをする。
それはいつもになく長いキスで、抱き寄せている腕にも力がこもっている。
決してイヤではなかったが、弟君たちの存在やおしっこがしたいことで理保は落ち着かない。
 やがて彼は静かに唇を離し、理保をベッドに座らせると、棚から30センチ四方ほどの箱が入ったビニール包みを取り出し
「卒業おめでとう。そして看護学校入学おめでとう!」
 と言いながらそれを理保に手渡した。
お礼を言いながらその箱を開けると、それはナースキャップをつけた天使のブロンズ像であった。
「わぁぁ感動!!、すごいすごい!!どうもありがとう!!」
 理保は最大の喜びを表し、自ら三宅に抱きついてキスをした。
彼もまた体制を直しながら理保を抱き寄せる。
そしてその手がそっと理保の左胸に触れてきた。
制服の上からではあるが、初めて胸を触られたことでその瞬間ビクッとした理保。
しかしやがては彼がそういう事をしてくるという事は当然理解していて、ある程度期待のようなものも感じていたので、特に抵抗はしなかった。
 しかしその胸に置かれた手に少し力がこもり、ゆっくりと小さな円を描くように動かされてしまうと、理保はそれに対してどう反応すればいいのかわからなくなて戸惑ってしまい、どうすることも出来ずに目をつぶっているしかなかった。
初めて受ける不思議な感覚が背中を走り、その感覚の波に乗りかかったその時、それに合わせるかのようにして尿意が一気にこみあがってきて、思わず暴発してしまいそうになり、
「ぁっ…」
 と、理保は小さく声が出てしまった。
外の廊下がきしむ音がかすかに耳に入る。
きっと弟君たちが中の様子を様子をうかがっているのだろう。
理保は無言で三宅を押しのけた。
彼も弟たちの損じに気づいたのか、何も言わずに身体を離す。
(あ!!)
 そのとき理保は見てしまった。
三宅のジャージの股間が大きく膨らんで、完全に生地を突っ張って三角すいのようになっている。
それを見てしまった瞬間は少し驚いてしまったが、自分とキスして胸を触ったことで感じてくれているんだ、だからあんなになっているんだと思うと、少し誇らしくさえ感じられた。
 そして、もし弟たちの邪魔がない環境であって、こんなにおしっこを我慢していない状況だったなら、そのまま彼を受け入れていたのかなと、一瞬にしてそこまで考えてしまい、ふと我に返って赤面してしまった。
 我に返ると今度は鋭い尿意が理保を襲う。
(やばっ!!もうホントにおしっこしたいっ!!)
 自分の家でトイレを済ませてからまだ1時間も過ぎていない。
いや、この家に来てからでさえまだ30分も過ぎていないのに、理保の尿意はもう我慢出来ないほどに高まってきていた。
 彼と母親だけなら、恥ずかしくてもトイレを借りる事を言えたかも知れないが、興味本位でうろつく弟君たちがいる以上、彼らにトイレに入る姿を見られたくないし、水を流すとしても音など聞かれたらたまったものじゃない。
ということは、理保はここでおしっこをすることをあきらめなければならない。
それならば一刻も早くここを出て帰らなければ。
理保はそう考えて、
「あのね、今日は卒業祝いで…おじいちゃんたちが来てくれていて…その…」
 言い訳のような感じになるが、理保は必死でおいとまする口実を口走っていた。
「そうか。呼び出して悪かったな。」
「ううん、私の方こそ時間とれなくてごめんね。」
「遠征から戻ったらゆっくり会えるさ。」
「うん。ガンバってね。」
「ああ。さ、送っていくよ。」
「あ、いいよ、準備で忙しいんでしょ。傘を貸してもらえば帰れるから……」
「送っていくぐらいたいしたことないよ。」
「ぅ…ぅん…」
 送ってもらえること自体は嬉しい事であるが、おしっこがしたくてたまらない状態で一緒に歩くのは、自由が利かなくてしんどい。
そうは思っても、それを正直に伝える事など出来るわけもなく、理保は母親に挨拶もそこそこにして三宅の家を出た。  大きな相合い傘で歩く二人。
三宅が右手にその傘を持ち二人の間において、左手で理保の肩を抱く。
理保は右手でプレゼントの包みを抱き、左手はダッフルコートのポケットに入れて、そしてその手はもうしっかりと前を押さえていた。
そうでもしなければ今にもあふれ出しそうなほど尿意は切迫している。
(どうしよう…もうおうちまでなんか…絶対我慢出来ない……)
 およそ15分、二人で話しながらだと20分以上かかるだろう。
(もう…もうおしっこしたいよ…ここでしたいよ……)
 そう思うほどまでに高まってしまった尿意。
膀胱はパンパンに張っている。
そして少し漏らしてしまったのであろうか、女の子の部分が熱く感じる。
いや、漏らしたのなら逆に冷たく感じるのでは……!?
理保は意識が遠くなりそうになるのを必死で耐えながらそんなことを考えていた。

 それから1分ほど歩いたであろうか、三宅の携帯に着信があり彼は歩みを止めてその電話に出た。
理保にはそのじっと立っている事が耐えられなくて、やや前屈みになって身体をくねらせる。
「あ、はい。はい。わかりました。はいすぐに向かいます。」
 電話の相手は大学のクラブの先輩で、明日からの移動について少し打ち合わせがあるとかで、(比叡山)坂本駅まで来ているという。
三宅はすぐにその先輩を迎えに駅に行かなくてはならないそうだ。
「ホントに悪い。この埋め合わせは戻ってきてからするからな!」
 彼はそう言うと傘を理保に差し出し、幸い小雨になったその道を駅に向かって走り出していった。
 ひとり取り残された理保。
それはそれで解放された訳でもあるが、逆に支えを失ったような感じもあって、いよいよおしっこが我慢出来ない。
(あ……もうダメもうダメ……)
 理保はどうしようもなくなってその場でピョンピョンと小さく跳ねた。
あたりに人の気配はない(と思われる)……
すぐ脇に古い民家の取り壊し現場がある。
当然住人はおらず、外壁の一部はまだしっかりと残っている状態だ。
(ごめんなさい……ごめんなさい……)
 理保は誰に言うでもなくそう口走りながら、その取り壊しかけの民家の玄関と思われる場所に足を踏み入れた。
床はすでに取り払われている。
 理保はすぐ手前の壁の陰に回り込み、そこが表から姿を見られない状態かを確認すると、三宅からもらったプレゼントの包みを脇に置き、傘を放り投げるようにして手放すと、ものすごい早業でダッフルコートをスカートをめくり挙げ、次の瞬間にパンツをずり下げながらその場に勢いよくしゃがみ込んだ。
ほぼ同時にシュイ〜〜という甲高いかすれたような音して、次に割れたコンクリートの地面にたたきつけるジョロロロ…という音が続いて、それが土壁で大きく反響されて、雨だれの音の中に不自然な不協和音を広げていった。
まだまだ寒い外気と、体温で暖められたおしっこが混ざって作り上げる白い湯気。
それは壁から外に向かってユラユラとなびいていた。
 姿は見えていなくても、すぐそばを通りかかった人がもしいたならば、その湯気が目に付くかも知れないし、不協和音が紛れもないおしっこの音だと気づかれてしまうほどの、そんな大きな反響であった。
(ぁ…はぁ……)
 破裂しそうなほど膨らみきっていた膀胱が徐々に縮んでいく、その何とも言えない快感に、おもわずため息が出てしまう理保はそんなことを気にもしていなかった。
周囲のことを忘れてしまうほど、おしっこが出来たことに幸せを感じていたのだ。
 そのおしっこはなんと1分近く出続けて、最後はハァハァと呼吸を荒くしてしまう理保は、最後の1滴が垂れ落ちてもしばらく動くことが出来なかった。
(あ、ヤバッ、ティッシュもってないっ!)
 やっと正気に戻った理保は、すべてが終わったその時になってそれに気づいたが、今更どうしようもない。
コートのポケットを探ってみると、1枚のハンカチを発見する。
(後で洗えばいいよね。)
 自分にそう言い聞かせてそれで後始末をしようとした理保は、薄い生地を通して指先に伝わってくるおしっこのしずくの感覚以外に、ヌルッとした感触があることに気づいた。
当然それが何であって、どういう状況の時に分泌されるのかは知っている。
が、今なぜそうなっているのかが理解できない理保出会った。
 女の子のぶぶんを熱く感じたのは、キスして胸を触られた時ではなく、必死でおしっこを我慢している時だった。
(まさか…あんなにおしっこ我慢してたから!?)
 理保には理解できなかったが、パンツにもうっすらと痕跡が出ている。
(でも、おしっこ我慢してたの……今日だけじゃないのに……)
(……)
(そっかぁ、私ももう大人になっているんだ!!)
(そうなんだ、子どもの理保とか今日で卒業!!)
 理保はまだおしりを出してしゃがんだままの格好で、自分勝手な思いを巡らせていた。
その無防備な姿は、とても大人とは言いがたく……



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