神崎理保 16歳の夏




 小学校の時から仲が良かった友達と一緒の女子校に通い出し、それなりに理保の高校生活は充実していた。
 新しく出会った友達も加わって10人ほどの仲良しグループができあがり、いつも学校の帰りは京都駅周辺でたむろして、家に着くのは6時を遙かに過ぎることが多くなっていた。
 通学は、自転車→比叡山坂本駅→京都駅→市バス→女子校である。
乗り換え時間を含めておよそ40分前後の行程だ。
 家から駅までの自転車は、ほとんどが下り坂なので4分ほどで着くことができるが、帰りは逆にずっと上り坂になるため非常につらくて10分以上かかってしまう。

 蒸し暑い6月に入ったある日の夕方、理保はいつもより帰りが遅くなって、1本遅い電車の発車間際に飛び乗った。
後から駆け込んできた乗客に押され、理保はそこに立っていた男子高校生と密着してしまった。
「ぁ…えと…たしか神崎だったよな!?」
 その高校生が声をかける。
驚いて見上げると、それは中学の時の1学年先輩で、同じく京都の高校に通っている三宅だった。
 三宅は同じ地区に住んでいて、登下校で時々顔を見る事はあったが、声をかけられたのは今日が初めてといえる。
彼は当時陸上部で活躍していて、汗を光らせているその勇姿を、理保はいつも教室の窓から眺めて密かにあこがれを抱いていた。
 そんな三宅から声をかけられた事、しかも名前を知っていてくれた事が理保は嬉しくてならなかったが、同時に、あこがれていた当時の感覚も一気に蘇ってきて、恥ずかしさがわき上がり、三宅の顔をまっすぐに見る事が出来ない。
 目線の高さに、第二ボタンまではずしたワイシャツから見え隠れする三宅の首筋あたり、それですら眩しくてたまらなかった。
(先輩……近すぎるよぉ……。)
 ラッシュ時の車内である。
胸に抱いているカバンを隔てただけの、わずか数センチ前に三宅は立っている。
理保は緊張で固まってしまっていた。

 それからの20分弱、理保はほとんど何も話すことが出来ず、ただ三宅がしゃべる事に相づちを打つのが精一杯だった。
それでも三宅が今も陸上でがんばっている事、高校総体予選に出場する事などを聞くことができ「応援します!!」と、やっとその一言だけは言う事が出来て比叡山坂本駅に到着した。
 理保は自転車であるが陸上部の三宅は当然徒歩。
むしろランニングのつもりで駆け足で帰ることが多いという。
この日はせっかくだからと、自転車を押す理保につきあって一緒に歩いてくれることになった。
 周りに人がいなくなり、自転車を挟んで並んで歩き出すと、ようやく理保の緊張も解けてきて、今度は少し自分のことも話せるようになってきた。
三宅は時々冗談っぽくボケた相づちを打ってくれる。
それに釣られて理保も思わずツッコミの言葉を返したりして、ふたりで笑うことも出来るようになった。
 緊張していた20分弱の電車はすごく長く感じていたのに、その緊張が溶けた今の10分ちょっとの時間は思いのほか短い。
ようやくいろんな話の糸口がつかめ出したのに、もう理保の家の前まで来てしまっていた。
三宅の家は更にこの先だ。
「俺はいつもだいたいあの時間、あの車両に乗ってるよ。」
 三宅はそう言うと「じゃぁ!」と手を振って、薄暗くなった住宅街の路地を、軽くランニングするような足取りで去って行った。
理保はその後ろ姿が、次の角に消えていくまでずっと見送っていた。
(三宅先輩……)
 胸の鼓動が早い。
そして、締め付けられるように息苦しさを感じる。
なにかとても大切なことをなにも告げずに、その場であっさりと別れてしまったことに不安を感じる理保。
そう、また会おうと約束を交わしたわけではない。
メアドや携帯番号の交換をしたわけでもない。
あくまでも偶然に、かつてあこがれを抱いた先輩と遭遇しただけの事であって、れ以上でもそれ以下でもない。
それはわかっていても、それでも理保は落ち着かない。
 せめてもの救いが
「俺はいつもだいたいあの時間、あの車両に乗ってるよ。」
という去り際の三宅の言葉だけだった。
(またあの時間に乗っていいんだよね!!?)
 おつきあいが始まるという保証があるわけでもないけれど、理保はそれだけが支えのように感じて玄関をくぐっていた。

 それから3日間、理保は気が引けて三宅が乗っているであろう電車に乗ることをためらっていたが、4日目、思い切って乗り込んでみた。
確かに彼はそこにいて、この前と変わらない感じで接してくる。
 その日をきっかけにして、理保はほぼ毎日のように三宅と同じ電車で帰るようになっていった。
お互いの学校のこと、クラスのこと、共通する授業のこと、クラブ活動のこと、話はつきないぐらいあって、満員電車も全く苦にならないほどであった。
 それでも、理保が当初から気にかけている「肝心な事」には、お互い全く触れずに日は過ぎていった。
(私たち……つきあっているって言えるのかなぁ……?)
 そう、出会ってから3週間が過ぎたその日になっても、お互いのメアドすらまだ交換していない二人だった。
(誰も先輩のこと…知らないしなぁ……。)
 仲の良い友達に相談したくても、誰も三宅を知る子がいないため、それすら出来ずにいた理保であった。

 1学期の期末試験が終わる頃、京都の町は祇園祭一色に染まる。
理保の友達の一人が○○鉾が建つ近所に住んでいて、山鉾巡行が近づくと毎年のようにその友達の家に行って、浴衣を着てちまき売りなどの手伝いをしていた。
理保が滋賀県に引っ越してもそれは続いていた。
 期末試験が終わったその日は宵々山(よいよいやま=前々夜祭の意)で、理保は学校が終わってからずっとその友達のうちにいた。
 わずかばかりのお手伝いなんかをした後、友達から借りた浴衣に着替え、お祭り用の夕ご飯もいただいたあと、ほかの友達と一緒になって、人が溢れてすし詰め状態の鉾町の路地を抜けて、歩行者天国になった四条通へと繰り出していく。
 毎年の事なので特に目新しいものなど何もないが、それでもそこに集まってしまう不思議な習性。
熱帯夜のように蒸し暑いその夜であったが、理保たちは汗びっしょりになりながら八坂神社に向かって人波にもまれながら歩いていた。

 理保はこの日だけ門限を2時間延長してもらっていたが、ふと気がつくと大急ぎで帰らなければ門限に間に合う電車に乗り遅れる時間になっていた。
行き交う人をかき分けるようにして友達の家に戻り、バタバタと浴衣を脱いで制服のブラウスとスカートに着替える。
 おうちの人へのお礼もそこそこに、再び人波をかき分けて京都駅に向かう地下鉄へとダッシュした。
 改札をくぐるとき、ちょうど電車が入ってくる時であった。
これに乗れば湖西線の電車に間に合う。
そう思って、吹き上げてくる風でスカートがひるがえる事も気にすることなく、階段を駆け下りてその電車に乗り込んだ理保は、ホッとして額の汗をぬぐっていた。
 京都駅に着くと、また大急ぎで3番線へと駆け上がる。
幸いこちらは4分ほどの余裕を持って乗ることが出来た。
「おっ、今日はいつもより遅いんだな。」
 息を切らせている理保の目の前に三宅が立っていた。
(うそぉ…先輩……!!)
 いつもより2時間遅いその電車で、また偶然にも三宅と遭遇してしまった理保は驚きを隠せず困惑してしまった。
偶然とは言え、本来なら一緒に帰ることが出来るという嬉しさが沸き上がるはずなのに、
(今日は一緒にいたくないよぉ……)
 この時は真剣にそう思ってしまった理保。
(もうぉお、トイレ行きたいのにぃっ!!)
 そう、理保は先ほどからかなりおしっこを我慢していたのだ。
理保は今日、学校を出てから一度もトイレに行っていない。
かなり蒸し暑い日で相当汗をかいていたからであるが、それだけに摂った水分も半端ではなく、学校で飲んだ紅茶花伝、お昼のファーストフードでのコーラ、友達の家で飲んだ冷たい麦茶数杯、夕ご飯でのお吸い物、ホコ天で飲んだ屋台の冷やし飴など、それらを数値にしてみれば1000ccを遙かに超えている。
 もちろんその半分以上は汗になっているが、それでもやはり膀胱にはそれ相当の量が運び込まれていたようで、実際のところ理保は浴衣に着替えたあたりから軽い尿意を感じていた。
それでも友達と浴衣姿の写真を撮ったりしてはしゃいでいるうちに、その流れでそのままホコ天に繰り出してしまったのだ。
(いいや、今日は蒸し暑いから全部汗になっちゃうよ。)
 その時は安易にそう考えていた理保であったが、八坂神社の境内で一休みしている時にはっきりとした尿意を感じるようになり、帰り道ではそれが急速に高まってきて少し落ち着かないほどになっていた。
 更にタイミングが悪い事に、帰りの電車の時間に迫られていた事もあって、理保は友達の家でトイレを済ませる事が出来なかった。
今乗り込んだ電車は発車までに4分ほどの余裕があったが、それはトイレを済ませるには短すぎ、また車内のトイレは座席に隣接しているので、一人でそこを利用するほどの勇気はない。
(いいや、駅まで我慢しよ。)
 およそ20分弱で比叡山坂本駅につく。
そこのトイレまでなら我慢できると思って気を引き締めた理保の前に、三宅が現れてしまったのであった。
「せ…先輩は今日…どうしたんですか?」
 気を紛らわそうと、理保はあえて冷製を装ってそう話しかけていた。
三宅もまた友達と一緒に出歩いていて今になったという。
つり革に捕まりながら、電車の揺れに合わせるようにして理保は脚をソワソワと揺らしていた。
 必要以上によく効いた車内の冷房によって理保の汗はすぐに引いていき、今度は気化作用で体温を奪うのか寒気まで感じるようになって、それが強い尿意を更に刺激する。
(トイレ行きたい……おしっこしたい……)
 三宅と話しながらも、理保の頭の中はその言葉がグルグルと回転し、さらには駅に着いてからのこと、その先の事まで思い巡らさずにはいられなかった。
(駅で……先輩がいるのにトイレなんか行けないし…)
 出先からずっと我慢していた事が先輩にバレバレになってしまう。
トイレに行くという恥ずかしさよりも、ずっと我慢していたのだと知られる事の方が理保はたまらなかった。
(それに…トイレ行くから待っててください…なんて言えるわけないし……)
 まだはっきりと[つきあっている]と言える確証がなにもない状態で、気軽にそう言うのは気が引けてしまう。
(でも……先に帰ってくださいっていうのも……)
 一緒に帰るという約束が出来ている訳でもないのに、先にそう言ってしまうのも同じように気が引ける。
(でも…家までなんて……我慢出来ない…?)
 今の状態で三宅と一緒に自転車を押しながら歩いて帰る……、それは理保にすればかなり過酷な現実であった。
(あれ……なんか…前にもこんな事があったよなぁ……?)
 そう、それは5ヶ月ほど前の女子校受験の帰り道の事であった。
あの時はクラスメイトの男子と一緒だった。
なんの感情も持っていなかったが、相手が異性と言うことで必死におしがまをしていた理保であった。
 しかし今回はあこがれの先輩とふたりきりなので、状況としてはむしろあの時よりも悪いと言わざるを得ない。
(あのとき…おうちのトイレ…汚しちゃったんだった……)
 母親は外にいて家の中には誰もいなかったので、バレることなく後始末をすることが出来たが、今日は両親も大学生の姉もいるのでそれは難しいだろう。
(今日は…もう最悪だよぉ……おしっこぉ……)
 学校を出るときにトイレに行ったのが11時過ぎ。
それからおよそ10時間が過ぎようとしていた。

 比叡山坂本駅に着くまでの20分弱の間に、理保の尿意はさらに激しくなっていた。
しかし先輩と一緒と言うことで、あからさまに我慢の仕草ができない。
電車の揺れに合わせるような感じでそっと脚をすりあわせていた理保であった。
 坂本駅に降り立つと想像していたほどの蒸し暑さはなく、むしろ冷たく感じるような強い風が吹き付け、スカートの中にも回り込んで下腹部をさらに刺激してしまう。
(やん…おしっこしたいのにぃ……)
 めくれ上がりそうになるスカートの裾を押さえながら歩く理保の足取りは重い。
階段を下りるのも、その一歩一歩が悲鳴をあげたくなるほど膀胱に衝撃を与える。
 改札手前にあるトイレに男女数人がそれぞれ入っていくのが目に入った。
(あぁ…私もあそこに行きたいのに……)
 このときばかりは肩を並べて階段を下りる三宅の存在がうとましい。
(おしっこ…おしっこ…どうしよう……)
 いくら考えても明快な答えは出てこないけれど、理保はそれでもどうにかしてトイレに行けないものかと思案していた。
「う〜んちょっとやばい感じだなぁ…」
 自転車置き場に足を向けかけた時、三宅がなにげにそう言った。
「…ぇなに?」
 おしっこのことで頭がいっぱいになっている理保は、何を言われたのかわからずにいた。
先ほどから吹き付けている冷たいような風は夕立の風で、すぐにでも雨が降ってくるというのだ。
たしかに雷の音が聞こえている。
おしっこを必死でこらえている理保に追い打ちがかかってしまった。
 JRを背にして歩き出すと強い向かい風になる。
おしっこの我慢にほとんどの神経を使っている理保は、ハンドルを握る手に力が入らなくて、時々強い風にあおられそうになってしまう。
スカートがめくれ上がってしまいそうになるのも気になってならない。
まだ雨は降っていないが、稲光の数が増えて音も近づいているようだ。
「自転車は俺が押してやるよ。」
 しんどそうに自転車を押している様子を見かねたのか、三宅がそう言って理保からハンドルを取った。
「あ…ぁりがとぉ…」
 両手を自由にすることが出来るようになって、理保は少しホッとした。
これで三宅の一歩うしろを歩けば、気持ち的におしがまが楽になると思った。
しかしいつ三宅が振り返るかわからないので、手を当てることが出来ない。
手ぶらでいるより、むしろ前かごに入れたままのカバンを持っていた方が、そのカバンで何かごまかしが出来たような、そんな気がしてそうしなかった事を後悔していた時、
「おっとぉ、来るぞおっ!!」
 突然三宅がそう言った。
「え!?」
 ハッとして我に返った理保に突然激しい勢いで雨が降りつけだした。
それは徐々に雨あしが強まるというような生やさしいものではなく、一気にたたきつけると言った表現が合うようなすさまじいものだった。
俗に言うゲリラ豪雨のような感じだ。
同時に眩しいぐらいの雷光が走り、けたたましく落雷の音を轟(とどろ)かせる。
「キャツ!!」
 あまりの出来事に理保はその場に立ち尽くしてしまった。
たった今尿意の波を乗り越えたばかりの時だったので、まだ身体に力を入れていたのが幸いしてお漏らしはしていない。
しかし恐怖の感情がわき上がって尿意はまたすぐに最大級へと高まってしまった。
「あそこっ、あそこまで走れっ!!」
 三宅が前方に見える新聞販売所を指さして、自転車を激しく揺すりながら走り出した。
そこの表にわずかばかりの軒先があるので、そこで雨宿りしようというのだ。
言われるままに理保も走り出したが、
(いや〜ん出ちゃうっ!!)
 もう決壊寸前の状態に追い込まれてしまっているために脚が前に進まない。
それでも何とかそれをこらえて販売所に走り着いた、そのわずか十数秒の間に、理保は全身ずぶ濡れになってしまって、さながらプールからでもはい上がって来たような状態になっていた、濡れたブラウスが肌にピッタリと張り付いて、白い下着がくっきりと浮き上がって見えてしまうのが恥ずかしい。
 理保は三宅が横に置いてくれた自転車の前かごからカバンを取り出すと、それをそっと胸に抱きかかえるようにして肩をすぼめた。
(…っ、おしっこっっ!!!)
 水分を含んだスカートがズッシリと重くなって、貯まりすぎたおしっこでパンパンに膨らんでいる膀胱の形を丸く浮き出たせていた。
(やだ…こんなにおなかが膨らんで…)
 抱きかかえているカバンをそっとおへそのあたりまで下ろす理保。
しかしおなかを圧迫してしまいそうで、それ以上は下げることができなかった。
(ああ…おしっこ出ちゃう…)
 すべてが悪い状況の中で、それでも理保は理性と羞恥心だけでなんとかお漏らしだけは避けていたが、それはめまいを感じるほどの戦いになっていた。

 新聞販売所のひさしはわずかしか出ていない。
そこには配達用のバイクも何台か停めてあるので、二人が並んで立っているのはその端の方のごく一部でしかなかった。
強い風にあおられて雨が横から降ってくる。
三宅がその風上に立ってくれてはいるが、それはほとんど役になっていなくて、そこで雨宿りをしているというのは気休め状態だと言っても過言ではない。
それほど強い雨と風であった。
(さむっ……おし…っこ…だめ…おしっこ漏れるっ!)
 ブルブルと震えが起きるのは寒さからか、あるいは限界を超えた尿意のためか、それは理保にもわからない。
(やだ…おしっこ…出ちゃう…我慢できない…)
 理保は再びカバンを胸に抱きしめ、両足をピッタリととじ合わせて、それでも何とかこらえていた。
膝はずっと軽い屈伸運動を繰り返している。
その間も激しい雨は降り続けて稲光も続いていたが、落雷の音は徐々に遠ざかっていく様子であった。
(さむい…おしっこしたい…もう…)
 仮に今この雨がやんだとしても、この全身ズブ濡れの状態で歩いて家まで帰る事など、どう考えてもあり得ない。
そんなことは充分わかっているが、それでは今にも漏れ出してしまいそうなこのおしっこをどうすればいいのか、理保にはそれがわからなかった。
 さっきから何か話しかけてきている先輩の声が、次第に遠くの方へと離れていく。
激しい雨の音までが消えていくような、そんな感覚を覚えた理保。
「あ」
 震えながら必死でとじ合わせている脚、その中心部に暖かい何かを感じた。
そしてツ〜とその暖かいものが太ももの間を伝い落ちて来て、膝のあたりまで来ると冷たくなってしまう。
(えっ出てきたっ!?)
 自分で意識したそのとき、明らかにパンツの中にあふれ出してくるおしっこを感じた理保。
(やだ、ダメダメダメッ!!)
 心の中で必死にそう叫んでみたものの、あふれ出したおしっこは理保の気持ちに逆らうかのように徐々に勢いを増してくる。
それはいくら力を入れて耐えようとしてももう無理であった。
(や〜んおしっこ出ちゃっ…た…)
 胸に抱いているカバンをさらにきつく抱きしめて、理保はそっと三宅の顔を見上げた。
彼は相変わらず激しい雨あしを見つめていて、理保の変化には何も気づいていないようだ。
(よかった…先輩、そのままむこうをむいててっ!)
 そう密かに思いながら、
(…ごめんね…私いま…おしっこ…しっちゃってるぅ…)
 とんでもないことをしでかしている自分をわびていた。
ほぼ肌が密着しそうな、そんなすぐ横にあこがれの君がいるというのに、理保ほ今、立ったままでおしっこをしている。
通常なら絶対にあり得ない事であろうが、現実に理保は今おしっこをしている。
激しく降りしきる雨によっておしっこの音はかき消され、においも風によって拡散されていた。
三宅が風上に立っていてくれたことが、偶然とはいえラッキーなことであった。
さらに、すでに雨でずぶ濡れになっていることで、おしっこの痕跡が何も残らないのも幸いな事であった。
 それでも理保は体の力を抜く事はできなかった。
もうおしっこは止められないけれど、気づかれないようにできるだけ静かにしてしまいたいという、ささやかな願いがそうさせていたのであろう。
 理保のおしっこはパンツの生地を透過して脚に伝っていく量よりも、あふれ出す量の方が遙かに多くなり、それがパンツの中で渦を巻くようにして広がっていく。
(…ウソっ、なんか…気持ちいい……)
 初めて体験する何か言いようのない気持ちよさ、それは我慢から解放されていく快感と、あこがれの君の横でこっそりおしっこをしている罪悪感と、さらには性器に広がるおしっこの感触が刺激になり、そのすべてが混合されたものであったのだろう。
自然と呼吸が荒くなっている自分を感じていた理保。
(はぁあ、やっちゃったぁっ!!)
 およそ1分ほど続いた理保のおしっこ。
三宅に気づかれないように大きくため息をつく。
まさに気分爽快である。
つい1分前まで抱いていた諸々の不安が一気になくなり、理保は開放的になる。
「先輩、もうこんなに濡れちゃってるし、行きましょうよ!!」
 確かに気休め程度の雨宿りではあった。
三宅もそれに同意して、二人は歩き出す。
それを待っていたかのように、しばらくするとその雨あしは弱くなっていった。
(すごく恥ずかしいことしちゃった……先輩、ごめんね!!)



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