おしがま優里亜 11(愛理ちゃんのお話)




 前に手首の骨折で入院していた愛理(えり)ちゃんをお見舞いに行ったとき、両手にけがをしている彼女を見て由衣ちゃんがすぐに
「両手が不自由だとトイレとか大変だよね。」
 って、ものすごく自然にそっちの方(?)に話を持って行ったことがあって、さすがだなぁって思っていたんだけど、由衣ちゃん曰く、愛理ちゃんはその道の話をするのに抵抗がない子だよって言ってました。
もう何人もの人からそういったお話を聞き出している由衣ちゃんだから、きっと直感で分かるんでしょうね。
 で、それを聞いた私、一度由衣ちゃんのようにいろんな話を聞いてみたくなって、愛理ちゃんの周りをしばらくうろついたりして、そういったお話が出来るチャンスを伺っていました。
ごく普通のお話から入って、小さかった頃の事とか高校生の頃とかの思い出なんかを聞いたり、恋話なんかも聞き出したり……。
その結果、由衣ちゃんが指摘したとおり、愛理ちゃん、おしっこのお話にそんなに抵抗がないみたいで、けっこうお話してくれたんです。

 まず愛理ちゃんは、私や由衣ちゃんと比べて根本的な違いがあるとすれば、それは「おしがま」する理由です。
愛理ちゃんは気持ちいいとかドキドキするとか、そういった感覚は持っていないみたいで、ただ単に「トイレに行くのが面倒だから」……。
そんな理由で小中高問わず、授業中のおしがまなんかしょっちゅうだったみたい。
だからけっこう危ない経験もしていたみたいで、間一髪セーフ!!なんてのは数え切れないぐらいあるって言ってました。
 でもすごくあっけらかんとした性格なので、男の子と一緒にいるときでも、やばくなってきたらごく普通にトイレに行く事はできるそうです。
 そんな中で、印象に残っているおしがまとして話してくれたのは、やっぱり恋愛に絡んだお話……。
 愛理ちゃんが高2の時、教育実習に来ていた大学生がいました。
その時は特に何事もなく時は流れていったけれど、それから半年、偶然本屋さんでその大学生と再会して、そこから徐々に恋愛に発展。
もう実習生ではないから別に隠れてつきあう必要もなく、友達にもつきあいだしたことを宣言していたそうです。
 でも、彼の就職先が県外に決まって、その時期が迫ってくると、胸を締め付けられる思いの日々が続いたそうです。
これって、過去の私と同じような経験なんでしょうね。(おしがま優里亜 3 参照)
 春休みのある日、もうしばらくで会えなくなるからって、思い出作りにドライブに出かけた愛理ちゃんと彼氏……(これも私と同じパターンだ。)
ふたりきりの楽しい時間を過ごして、夕方、その帰り道でハプニングがっ!!
 突然車がパンクしたんだって。
幸い予備タイヤがあったので交換をする事になったんだけど、彼はそれが始めての事だったみたいで、けっこう手間取って30分以上かかったそうです。
 愛理ちゃんはお昼ご飯の時にトイレに行こうとしたけれど、女子トイレが混んでいて並ぶのが面倒だったので、そのうちどこかで行けばいいやという軽い気持ちでその場を離れ、その後も何となく行く機会がないままだったもんだから、この時にはもうかなりおしっこがしたくなっていて、そろそろどこかで休憩してもらおうと思っていた矢先だったそうです。
結局朝から一度もトイレに行っていない状態だったわけ。
 手を汚しながら一所懸命タイヤ交換している彼に、車の中でじっと座って待っているのも悪い気がして外に出ていたもんだから、3月末の峠道の夕方で、おまけに生足のスカート姿だったもんだから、身体が冷えるには十分すぎる状態になってしまって、もうおしっこがしたくてたまらなくなっていた愛理ちゃん。
でも峠だから周辺にトイレを借りられそうな民家もなくて、ただひたすら我慢するしかなくて、もう必死だったそうです。
 やっと交換が終わって走り出したんだけど、今度は車の振動が膀胱を刺激して、それがたまらなくつらくなって、
「ねえ、おトイレ行きたいからどこかで停めて。」
 って、その時になってやっとそう言った愛理ちゃんでした。
でもこれから峠のトンネルを越える状態だったので、当分コンビニも何もない事は愛理ちゃんにも分かっていました。

 下りカーブで身体が大きく左右に揺れ出すと、力を入れているバランスが崩れそうになってたまりません。
「あ〜トイレ行きたい〜!」
 愛理ちゃんはついついそう口走っていたそうで、心配してくれる彼に、パンクする少し前から我慢していたんだと言いました。
それを聞いて彼もやっとせっぱ詰まっていることを知ってくれたそうですけど、だからといって周りにはまだ何もなくて、やっと道路が少し平坦になってきて、左手の川に沿って緩やかなカーブが続く田舎道で、右手にはずっと山肌が……。
 このとき愛理ちゃんは最悪の場合、野ションも視野に入れていたそうですけど、身体を隠せるような木陰とか物陰といったものが全く見えないので、もうとにかく無我夢中で我慢するしかなかったそうです。

 とうとう我慢できそうになくなってしまった愛理ちゃんは、恥ずかしいけれど車のドアの影でしてしまおうかと、そう覚悟を決めたそうなんですけど、ちょうどその時になって
「あ、今の所に簡易トイレがあったみたいだ!!」
 と彼が言ってブレーキをかけました。
そのブレーキの衝撃でオチビリしてしまいそうになった愛理ちゃん。
振り返ってみるとそこは、大きい右カーブの道を、橋を架けて直線道路にする工事現場で、もう作業は終わっていたのか人影はありません。
少し車をバックして停めてもらったものの、薄暗い工事現場を一人で歩くのは怖いので、彼に手を引いてもらいながら簡易トイレらしき物に向かう愛理ちゃんは、もう前屈みでしっかり手で押さえる状態になっていました。
 何台かの重機の陰に、確かに簡易トイレはそこにありました。
けれど中は鼻をつくキツイいにおいと、かなり汚れた和式便器です。
おまけに明かりは付いていなくて、明かり取りの窓があるだけで、この暗さでは、おそらく戸を閉めると中は真っ暗になってしまいそうです。
 でも愛理ちゃんには、ここではイヤだという余裕なんてもうありません。
怖いから彼に外で待っていてもらって、愛理ちゃんは便器の位置関係なんかを頭に焼き付けて戸を閉めました。やはり真っ暗になります。
 すり足でおおよその位置を決めていると、もう待ちきれなくなったおしっこがジュワ〜っとパンツにあふれ出してきて、愛理ちゃんはあわててしゃがみました。
シュ〜という音が出ておしっこが飛び出すと、ジャバババババ……とすごい音を立てながら下のタンクに落ちていき、ビチャビチャビチャと、水たまりに跳ねる音まで響きます。
 こんなに大きな音が出るとは想像していなかったので、さすがに愛理ちゃんもすごく恥ずかしくなりました。
けれど我慢し続けていたおしっこだから、なかなか終わってくれません。
そして…、なにげにふと見上げた明かり取りの窓には、ガラスも何も入っていないことに気づきました。
結局、囲いがあるだけで中の音は筒抜け状態になっていたのです。

 少しフライングして冷たくなったパンツのまま、愛理ちゃんは帰路についたそうです。
その後のことは聞いていません。興味ないもん。

 ついでに由衣ちゃんのお話。(笑)
 由衣ちゃんに関しては、今さら私が何を伝えるかって感じですけど、皆さんが知らない普段の素の由衣ちゃんについて少しお話ししてみようと思います。
 ご存じの通り由衣ちゃんは私にとって、お仕事上でもおしがま上でも大先輩で、私が派遣社員だった時から大事にしてくださった人です。
 働いている建物も部署も全然ちがうから、お仕事中はめったに顔を合わせる事がないけれど、たまに病院棟で見かける由衣ちゃんは忙しそうに走り回っていて、白衣姿がキリッとしていてカッコいいです。(白衣のサイズは特注らしいです)
 でもお仕事を離れると、とたんに由衣ちゃんは変わります。
何が変わるかというと、しゃべり方とか仕草とかがすごくかわいくなります。
とても同じ人物だとは思えないほどの変わりようで、そのギャップになんか不思議なものを感じるぐらいです。
 それでも相談事なんかを話し始めると、お仕事の時の顔になって真剣に話を聞いてくれます。
「聞き上手」って言葉がありますけど、由衣ちゃんんはまさにそれだと思います。
今のお仕事の方に配属されたのも分かる気がします。
一緒になって考えてくれたりして、すごく頼りがいがあっていい先輩なんだけど、お休みの日なんかに一緒にいるとき、唐突に
「このあと先にトイレに行った方がスタバおごることに決めたからね!」
 なんて無茶振りをしてきたりするときがあります。
そのくせ自分が先にやばくなってくると、
「優里亜、無理に我慢してると身体に悪いよ!!」
 とか、
「もうスタバはいいから先に行きなよ!」
 なんて言って、絶対に自分が先には行こうとしません。
おしがまに関しては絶対に負けたくないみたいで、私は別に行きたくないからと答えても「それでも先に行ってきなっ!」って引こうとしません。
そんな訳のわからない意地っ張りな面もあります。
 何人かで一緒にいるときの由衣ちゃんは、
「おしっこ行きたいなぁ……どうしよう…?」
 みたいな感じで私に「連れション」をせがむんです。
  女の子だけのグループの時でもそうなんです。 
私が意地悪して連れションを拒むと、私だけに分かるような感じのソワソワモジモジユサユサをずっと続けて、救いを求めるような顔をします。
こういう時の由衣ちゃんは全然年上の人に見えません。(笑)

 前に女の子6人で大阪のひらかたパークに行ったときのこと。
この日は由衣ちゃん体調がよくなかったのか、パークに着いてすぐに
「なんか…トイレ行きたい気分…」
 なんて言い出しました。
それでもみんなが「あれに乗ろう。これに乗ろう。」なんてはしゃいでいたからか、由衣ちゃんはトイレに行かずにお昼までずっとおしがましてました。
その状態でジェットコースターにも乗っていたから、それはすごいと思いました。
 結局由衣ちゃんがトイレに行ったのは、お昼を食べた後、それもみんながトイレに行くときに「じゃぁ私もついでに…」みたいな感じで行ったんです。
搭乗の順番待ちの時とか移動してる時とか、ずっと私に
「おしっこ行きたいよぉ!」
 とか
「もうおなかパンパンだわさ!!」
 とか、
「あれに乗ったらチビルかもしれないなぁ…」
 とか、ずっと言っていたのにですよ。
私もお昼前にはトイレに行きたくなっていたけど、由衣ちゃんはその2時間ほど前から行きたいって言っていて、そのおしがま状態でフリーフォールに乗ったんだからやっぱりすごいです。
キュロットが濡れている様子もなく、降りてからあわててトイレに駆け込んだわけでもないから、オチビリもしていなかったんでしょう。
私だったら…ちょっとやばいことになっていたかもしれません。
う〜ん、やっぱりまだまだ修行が足りないかなぁ……。
 結局この日、由衣ちゃんがトイレに行ったのはその1回きりでした。
さすが師匠!!

 あ、そういえばこの日、スマイレージの福田花音ちゃんとパークで遭遇したこと、「独り言42」の中で由衣ちゃんはサラッと書いていたけれど、実際はあんなにサラッとしてませんでしたよ〜。
もうね、見つけた瞬間から由衣ちゃんのテンションは一気にあがって、
「ねぇかにょんがいる。にょん様がいるよぉ。どうしよう、どうしよう!!」
 から始まって、
「なんでここにいるんだろう…だって昨日は香川で今日は名古屋のはずなのに…」
 って、ヲタクが芽を吹きだて、
「どうしよう…握手してもらおうかなぁ…やっぱ悪いかなぁ…」
 とソワソワソワソワ……。
もう見てられなくなって
「握手してくださいって頼んであげようか?」
 というと、
「プライベートみたいだから悪いよ。我慢する〜〜!!」
 って半分いじけたような感じで手だけ振って、会釈返してもらっただけですごく喜んで喜んで、別れた後も興奮冷めやらずで、しばらくずっとスマイレージの話ばっかり。
あげくには
「優里亜はいいよねぇ。彼氏とコンサートに行ったんだもんね。」
 と、私に八つ当たりまで……。
このときの由衣ちゃんは、もう完全に年上のお姉さんじゃなくなっていて、中高生の感覚みたいになっていた……。(笑)
そして…その間は、おしがましてることすら意識から消え去っていたみたい。

 白衣を着て患者さんと接している由衣ちゃんと、こんな風に子どもっぽい面を素直に出せる由衣ちゃんと、その不思議な両面を知っているのは私だけ。
そんな由衣ちゃんのこと、私は大好きです。



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