私たちの出航(たびだち) [ののたん]




 実習2日目。
この日からは4人とも待ち合わせをせずに出勤する事にしていたけれど、私は最寄り駅で希美が出てくるのを待っていた。
昨日の素っ気ない態度をまず謝ろうと思ったからだ。
 今日は母親と一緒ではなくひとりで出勤してきた(と思われる)希美は、相変わらず高校生のような姿だ。
「由衣ちゃ〜ん!!」
 出札口で私の事を見つけて、手を振りながら駆け寄ってくる希美だけど、行き交う人と何度かぶつかりそうになって、そのたびによろめいている姿がとてもかわいく見えた。
そして私のそばまでやってくると、
「待っててくれたのぉありがとぉ昨日メール見たよぉほんとにもう大丈夫ぅ?」
 と、いつ息継ぎをしているのかと心配させる勢いで、一気に話しかけてきた。
まだ私のことを気遣って心配してくれている希美に、
「うん、ほんとにもう元気だよ。きのうはツンツンしててごめんね。」
 私はすなおな気持ちでそう謝ることができた。
そしてまた手をつないで歩き出す。
希美は慣れてくるとけっこうおしゃべりだ。
実習内容なんかについて、グチを混ぜながらずっとしゃべり続ける。
昨日はそれがうっとおしくてたまらなかったけれど、今日は逆にもっと聞いてあげたいと思えるようになっていて、あの怖いおばさんの話になると、ふたりして声をあげて笑ったりしていた。
そんなときに私たちのうしろから、
「おいおいちっこいのがふたり、なにをキャッキャッやってんだよ!」
 聞き覚えのある真理の声がした。

由衣「あれ真理さん、いつからうしろにいたの?」
真理「いつからって、駅からずっとお前たちと一緒だよ。」
希美「ほんとぉ気がつかなかったよねぇ。」
由衣「うん。」
真理「お前が改札出るとき、オイラはふたつほど横の改札だったぞ。」
希美「そうなんだ…」
由衣「小さくて見えなかった…のかなぁ…」
真理「なんだとぉ!」
希美「そうかも知んないねぇ人の影になったら見えないもんね。」
由衣「ぅ…ん」
真理「へんっ、オイラのことが眼中にないから気づかなかっただけだろ!」
由衣「…」
希美「あきっとそうだぁねぇ由衣ちゃん!」
由衣「ぇ…」
真理「おぅおぅ、希美は正直な奴だなぁ。」

 やっぱり希美は真理に対してはなぜか強気だ。
だけど真理も不思議な人で、怒っているような口調だけど顔は笑っている。
昨日食堂で私と話している時は笑っていなかったのに…。
それよりも私は、真理から「もうご機嫌は治ったのか?」なんて聞かれたら、それについてはどう答えようかと、それがずっと気になって内心ビクビクしていた。
でも彼女は、その事についてはまったく触れてこない。
そして私と希美の間に割り込んで、肩を組んで私たちを押すようにして歩きだした。
 体が小さい者の特徴なのかもしれないけれど、私も希美も真理も声が高い。
そんな3人が肩を組んでキャッキャと騒ぎながら歩いているんだから、それはおそらく行き交う人から注目されていたかも知れない。
少し恥ずかしい感じもしたけれど、これまでずっとひとりぼっちでいた私が手をつないだり肩を組んだりしている事に、なにかすごく安心感のようなものも感じているのも事実だった。
「オイッそこの幼稚園児たちっ!」
 またうしろから今度は香織の声がした。
私たちがチョコチョコ歩いている内に、後から来た香織が追いついていたようだ。

真理「だれが幼稚園児だってぇっ?」
香織「なんだお前たちか。てっきり幼稚園の子が騒いでるんだと思った。」
真理「なんだとぉっ!」
香織「いやいや、よく見りゃ立派なお嬢様方だ。」
真理「けっ、」
希美「香織さんおはよ!」
由衣「おはよう…ございます…」
香織「おぅ、ふたりとも朝早くから真理の相手させられて疲れてないか?。」
真理「なんだよそれっ!!」
希美「ううんそんなことないよぉ、ねぇ由衣ちゃん!」
由衣「うん、ちょっと騒ぎすぎたかも…だけど…」
香織「だそうだ。理解あるお仲間でよかったな真理!」
真理「うるせぇ、上からもの言うんじゃねぇやっ!」
希美「え上からってぇ香織さん背が高いんだもん仕方ないじゃん!」
真理「は!?」
香織「はぃっ!?」
由衣「え!?」

 真剣な顔でそう言った希美に、私も真理も香織も一瞬ストップモーションになってしまい、そしてつぎに大笑いしていた。
でも希美は何を笑われているのか理解できていないようでキョトンとしている。
そのキョトンとした姿がまたおかしくて、そしてそれがすごく可愛くてまた笑ってしまう。
私よりも早く真理や香織にとけ込んだ希美が、実は相当な天然であることを初めて知った瞬間だった。
 そんな笑いを何度か繰り返しながら会社の玄関先に来たとき、昨日のあの怖いおばさんと遭遇した。
「あらまた4人で揃って来たのね。仲がいいこと!」
 昨日のように怖い顔ではなく、今日のおばさんは微笑んでいる。
私は真っ先に「おはようございます!」と言って頭を下げた。
「仲がいいこと!」の言葉に、すごく嬉しさを感じた私だったからだ。
結局その日からあとも、そう決めたわけでもないのに、私たちはいつも4人揃って出社するようになっていた。

 ウワサで聞かされていたとおり、その日からの実習内容は、指導を受けると言うよりも[下働き]そのものに変わっていた。
 雑用を頼まれるたびに真理は「え〜、またオイラですかぁ!」と、必ず何か一言加えていたけれど、それが彼女の持ち味みたいになっていて、男性社員の中にはその一言を言わせたくてわざと用事を言いいつけるような、そんな場面もけっこう見受けられたりしていた。
 甘えん坊の希美はその天然さを振りまいて、よく笑いを誘っていた。
でもやっぱり何を笑われているのかが判らなくて、その場で照れ笑いしていることがよくあって、それが時にはかわいそうに思える時もあったりしたけれど、いじられキャラが定着した事を本人は喜んだりしている様子だった。
 香織はやっぱりその容姿からか、いつの間にか重役の秘書的雑用をよく頼まれるようになっていて、こんなだったら商業実務より秘書課コースを選択しとくんだった…と、つぶやいていたのが印象的だった。
 私は…とりあえずミスだけはしないようにと、いろいろ気を配って取り組んでいたんだけど、実は…希美ほどではないけれど…それなりに天然で、しかもよく笑えるようなポカをやってしまうおトボケであることを見抜かれて、おとなしいのにおもしろい子という、望んではいないレッテルを張られてしまっていた。
 そして私と真理は、何かにつけて小さな小競り合いを繰り返していた。
もし勝敗を表すのなら、おそらく1勝9敗ぐらいで……ほとんど私が言い負かされている感じだった。
思ったことがなかなか言葉にならない私と、何でもすぐにズバッと表現できる真理とでは、もともと太刀打ちできる勝負ではないのかもしれない。
 そしてある時ふと気づいたことがある。
この1年、ほとんど誰ともしゃべった事がなかったのに、今はこうして真理と真剣に言い合う事が出来ている私。
彼女に対する苦手意識が完全に消え去った訳ではないけれど、いつの間にか以前のような逃げ腰での話し方ではない私になっていた。

 夏真っ盛りの7月末でこの会社での実習が終わる。
月末の金曜日、会社の福利厚生の一環でビアパーティーが開かれることになった。
私たち4人も実習の慰労会を兼ねるといって招待された。
 それはよほど楽しい会なのか、男性社員は当日の朝からなんとなく浮き足だっているのが感じられたし、5時になって着替えに行くと、女性職員のほとんどがいつもよりもめかし込んでいた。
例の怖いと思っていたおばさんでさえ、チャイナドレスのような変わった衣装をまとっていたぐらいだ。
 そこはビアホールの1フロアーを借り切った大がかりなもので、小さなステージまで用意されている。
私たちは案内されるまま一番隅のテーブルに腰を下ろすことになった。
総務は縁の下的な部署だから、こういうイベントでは一番下座に陣取るらしい。
 例のおばさんが
「念のために聞いておくけど、この中にまだ二十歳になってない人はいるの?」
 と聞いたので、私はサッと手を挙げた。
「えっ!?」
 なんの意識もしていなかったけど、手を挙げたのは私ひとりだった。

由衣「え…希美ちゃんもう二十歳になってるの?」
希美「うん私おととい二十歳になったよ。!」
由衣「ぁそ…そうなんだ…」
希美「え〜由衣ちゃんはまだ(二十歳に)なってないの〜?」
由衣「うん…、10月だから…」
希美「そうなんだぁ、由衣ちゃん私よりも[つきした]なんだぁ!」
真理「つきした?」
香織「つきした?」
由衣「つきした?」
希美「うん。3ヶ月下だから年下じゃなくてぇ月下ぁ!!」
真理「けっ、そんなの聞いたことないぞ。」
希美「そうぉ、言うよねぇ由衣ちゃん!?」
由衣「ぁ…さぁ……」
希美「でさぁ、私っていっつも夏休みに入ってすぐに誕生日じゃん!」
由衣「ぅん…」
希美「だからぁだぁれもお祝いとかしてくれないんだよね。」
香織「じゃぁなんでおととい誕生日だって言わなかったんだ?」
希美「う〜ん、いっつもそうだったからさぁ、言うの忘れてたの〜。」
真理「けっ、自分の誕生日まで天然かよ!」
希美「ひっどぉい!!」
香織「そう言や前に自己紹介したときも生年月日なんて聞いてないよな。」
由衣「うん。だれも言わなかったね。」
真理「はん、もう誕生日なんか人に言っても仕方ない年なんだろうよ。」
希美「そんなことないよぉ。ねぇ、今日は私のお祝いにしようよぉ!」
真理「自分から催促するってか?」
希美「いいじゃん!!、ねぇ由衣ちゃん!」
由衣「うん、みんなでお祝いしよ!」
真理「けっ!」

 などと二十歳になったかどうかでそんな盛り上がりをしていると、
「あのねぇあなたたち!!」
 例のおばさんが少し怒ったように言い出した。
そうだった。このおばさんから聞かれていたんだった。
「仲がいいのは分かってるけど、少しは周りのことにも気を配りなさい!」
 また怒られた。
というか、今のは確かに私たちが悪いんだけど……。
それで私だけ、とりあえずはソフトドリンクにさせられ、その後なにを飲むかは管理していないからねと、お優しいお言葉を頂いて会は始まった。
 何人ぐらいが参加していたのか判らないけれど、それは最初から凄い盛り上がりで、カラオケがあったりコントがあったりと、常に誰かが何かをやっているという賑やかなもので、私は初めて体験するその雰囲気に圧倒されていた。
そんな様子をみていたのか真理が、
「自分から楽しむようにしないとさ、ずっと楽しくないままになっちまうぞ!」
 と、いつもにない説くような口調で私にそう言った。
言われてみたら確かにそうだ。
なんでもない言葉なのかも知れないけれど、その時の私にはそれがすごい後押しになって、2杯目からはビールを飲んでもう少しおしゃべりしてみたいと、いきなり前向き思考になった事を鮮明に覚えている。
ただ、お店の人に何か言われたら困るので、ビールは香織に取りに行ってもらっていたけれど……。

 父親のおつきあいで実は飲み慣れていたビールだけれど、私はどうやらそれを中ジョッキで3杯あけていた(らしい)。
それほどの量を飲んだことは初めてなので、お開きの頃になると私はかなり酔いが回っていた。
もちろんあとの3人もそれは同じだったと思う。
 フラフラの足取りで出口に向かっていると、真理がまた私と希美の間に入り込んできた。

真理「なあ由衣よ!」
由衣「なぁに?」
真理「おめぇこのあとどうすんだ?」
真理「え、何…を?」
真理「かしわもちまで帰るのかってことよ!」
希美「おもちら(じゃ)ないよぉ、柏市らよ。」
真理「うっせぇ酔っぱらい。わかって遊んでやってんだ!」
希美「べ〜!」
真理「お前はピノコかっ!?」
希美「ぁピノコ知ってる。ブラックジャックせんせいが……」
真理「ああもう判ったからっ。」
由衣「ぁ、今日はね、希美ちゃんちに泊めてもらうんだ!」
希美「由衣ちゃんは遠いからさぁ、私んちに泊まったらって言ったのら〜!」
真理「そっか…んー、オイラも希美んちに行こうかな?」
希美「ほぇえ?」
由衣「え、真理さんも?」
香織「どうしたんだよ。珍しいな。」
真理「いんやぁ相方がよ、今夜はコレなんだわ。」
希美「親指がどうかしたの〜?」
真理「ややこしいなぁ。男だよオトコ!!」
希美「ふぇ〜…」
由衣「え、彼氏って事?」
香織「ルームシェアの奴が男を連れ込んでるって事か?」
真理「まぁな、でオイラ、今夜は遠慮してやろうかな…なんてな…」
香織「へぇえ、お前にもそう言った思いやりがあるんだ!!」
真理「うるせぇっ!」
希美「なんらかわかんないけろぉ、真理さんもおいれよ〜。」
真理「おっいいのか?」
希美「うん。かおりんも来るでしょ〜?」
香織「え、私もか?」
真理「そりゃいいや。希美んちで二次会だな。」
希美「わ〜い、明日はお休みだし楽しくなりそ〜!!」

 真理と香織も一緒に泊まると言う展開になった。
その事がイヤでは無かったけれど、いきなり3人も押しかけたら迷惑ではないのかと、私はそれが心配になっていた。
けれどその事を電話している希美の姿は本当に嬉しそうだし、その話している様子からして、彼女の両親も私たちを歓迎してくれいるようだとハッキリ伝わってきたので、私の心配は取り越し苦労だったようだ。
 真理は初めからどこかに泊まるつもりでお泊まりセットを用意していたようだ。
コンビニで香織のセットを用意して駅に向かうと、いつものコンビパターンが崩れて真理は希美と肩を組んでいる。
私は少し躊躇したけれど、ちょっと足がまだふらついている事も手伝って、香織の腕にそっと手を回してみた。
すると香織はグッと肘を引いて、私の手をしっかりと挟み込んでくれる。
あらゆる面で私より優れていて、密かに[あこがれ]的な存在の香織とこうして腕を組むという、まるで恋人とそうしているような、そんな新鮮な気分に浸っていた私は幸せだった。

 王子駅を出ると希美のお父さんが車で迎えに来てくれていて、10分ほど走ると新築のマンションにたどり着いた。
そこは家族3人にしては広すぎないかと思える最上階の4LDKだった。
小柄なお母さんが顔中に笑みを浮かべて私たちをリビングに通してくれ、
「ののがいつもお世話になっています。」
 と丁寧に挨拶されたけど、私と香織と真理はその「のの」という呼び方に食いついてしまった。

真理「そっか、希美はののって言うのか?」
希美「うん、そうらよ。」
真理「じゃぁ今日からののたんって呼ぶことにしよう!」
希美「わ〜い!」
香織「そう言えば私の事、さっきかおりんって呼んでたな。」
希美「うん。かおりん!」
真理「ほぉ、で由衣は…ん〜お前は由衣のままが合ってるなぁ。」
由衣「うん。」
香織「そうすると真理はまりっぺがいいんじゃないか?」
真理「なんでオイラだけ[ぺ]なんだよ!?」
希美「あ、でもなんか雰囲気あるよねぇ由衣ちゃん!」
由衣「うん。なんかすごく合ってる気がする。」
真理「けっ!」
希美「ののたん、かおりん、まりっぺ、由衣ちゃんだぁっ!!」
真理「うるせぇ、勝手に決めつけて喜ぶなっ!!」

と、ここでもまたお母さんに挨拶を返す事よりも、そのニックネームの事に華が咲いてしまった。
この日がお互いのことを名前で呼び合うようになった記念日だ。
 それにしても…真理は希美のお母さんの前でも平気で怒鳴りつけている。
それに、まともに挨拶もせずに話に夢中になっている無礼な私たち。
なのに希美のおかあさんは嫌な顔もせずに微笑んでいた。
そして…その目がウルウルしているのを私は見てしまった。
……わかるような気がする。
この1年ほどの間、おそらく希美も私と同じようにひとりぼっちの毎日を送っていたわけだし、それが一気に3人も友達を連れてきたんだから……これが私の家だとしても、きっと私の母も同じ反応をするんだろうな…と。
そう思うとなんだか私まで目頭が熱くなってきて、それを目ざとい真理っぺに指摘されたら困るので必死に涙をこらえていた。

「ねぇ汗かいちゃったからさぁ、みんなでお風呂に行こうよ!」
 唐突に希美がそう言った。
みんなでっていう意味が分からなくてポカンとしていると、近くにスパのような設備を備えた銭湯があるので、そこへ行こうと言うことだった。
 香織や真理はおもしろそうだと言うけれど、私は幼児体系の上にもうひとつコンプレックスを持っているので気が乗らなかった。
けれどみんながその気になってお母さんが準備してくれているのに、私だけ行かないと言うことも出来なくて渋々でも従わざるを得ない。
その事で真理に何か言われたら、その時は思い切り蹴飛ばして湯船に沈めてやろうと、そんな決意を持ってついて行った私だけれど、やっぱり脱衣場ではなかなか手が進まなくて一番あとになってしまった。
 香織は…女の私から見てもやっぱりすごい。
均整の取れた身体って言うのは、本当にキレイだとつくづく思った。
 真理は…ずっと昔トランジスタグラマーって言葉があったそうだけど、たぶんその言葉が真理に当てはまるんだろう。
 希美は…本人には悪いけど…ほとんど私と似たような体型だ。
ひょっとしたら胸は私よりも少しあるかも知れないけれど…。
そんな風にゆっくりと3人を観察できるぐらいノソノソしていたもんだから、
「おいっ、女同士でなに恥ずかしがってんだ。パッとしろよ!!」
 やっぱり真理にそう突っ込まれてしまった。
こうなったら、もし真理が何か言ったら真剣にケンカしてもいいやって開き直った気持ちになって、でもやっぱり少し隠したくなるような気持ちもあって、とにかくわざとらしくないように振る舞う事にした。
その結果、真理も香織も希美も…何も言わなくて、気にしていたのは私だけだったのかと、なんか気持ちが少し晴れたようになって、それから1時間ほどゆっくりお風呂を楽しむ事ができた私だった。

 希美のうちに戻って、また少しお酒を飲みながら雑談していると、
真理「けど由衣とののたんはほんとに双子みたいだよな。」
香織「わかる。ふたり並んで髪を洗ってるときだろ!」
真理「そう。うしろから見てたらどっちがどっちか見分けが付かなかったもんな。」
希美「そうなのぉ?」
真理「おう。ま、どっちも幼児体系だしな。」
由衣「もうお、そう言うと思ってたよ。」
真理「お、自覚してんじゃんか!?」
由衣「……いいよ。自分でもわかってるんだからさぁ…」
真理「だったらそれでいいじゃないか。」
由衣「……」
香織「でも…ある意味うらやましい面もあるなぁ。」
希美「え、かおりんがぁ?」
香織「ああ、まだすっぴんのままで通せるってすごいよなぁ真理!」
真理「イヤミかよっ!?」
香織「そう言うなよ。うちらすっぴんではちょっと…だろ?」
真理「まぁな。」
希美「そんなことないよぉ。ふたりともすっぴんでもきれいだよぉ。」
由衣「うん。きれい。」
香織「サンキュ!、けどお前らはそのままの方がいいなぁ。」
真理「そうそう。特に由衣!」
由衣「え?」
真理「すっぴんの自分で行けよ。」
由衣「…どういう意味?」
真理「身体もお子ちゃまなんだしさ、背伸びすんなって!」
由衣「だからぁ、どういう意味よぉっ!?」
真理「希美のように楽に生きろってことさ。」
由衣「…わかんないよ。」
真理「めんどくせぇなぁ。そんなの自分で考えろよ!」
香織「由衣は少し背伸びしすぎで無理してんじゃないかって事だろ?」
真理「まぁな。」
香織「真理が前に私にそう言ってたなぁ。」
由衣「かおりんに…?」
希美「由衣ちゃん無理して背伸びしてるの?、足いたくなんない?」
真理「おとなぶってるよりさ、おトボケのポカやってるお前の方がオイラは好きさ。」
由衣「ぇ…!?」
希美「あ〜知ってる〜。みんなが笑ってたの見た〜。由衣ちゃんも笑ってた〜。」
香織「確かに。あの時はいい笑顔っていうか、いい表情だったな。」
由衣「そ…そぉなの?」
真理「けっ!」

 別に無理して大人ぶった態度を取っているつもりはなかったけれど、確かに私は普段の地がでないようにと、仕事中は気を配っていた。
ミスしないように、出来ない子と思われないようにと、いつもある意味ビクビクしながら仕事をしていたのは…事実だ。
 そういえば、真理は私のような二面性がない。
朝一緒に出社してからバイバイするまで、ずっと真理のままだ。
 そういう意味ではそれは希美にも言える。
実習先ではあまり絡まなかったけれど、きっと香織もそうなのかもしれない。
そうすると、私ひとりが無理した背伸びをしていたのだろうか?
そうはいっても、笑えるようなポカをやってしまうおトボケであることを見抜かれて、おとなしいのにおもしろい子という、望んではいないレッテルを張られてしまっていた…と書いたように、実のところもう実習先では私の本性は見え見えになっていたんだと思う。
なんかちょっと悔しい気持ちも少しあったけれど、みんながそう言ってくれるのはうれしかったので、
「ありがとう。」
 って照れながら言うと、
「真剣な顔のお前よりさ、ポカやってるお前の方が似合ってるもんな!」
 真理がそう茶化してきた。
ほんとに真理は、どこまでが真剣な話なのか分からないときがある。
でも私は、こういった人との出会いが初めてで、私がまったく知らない、考えたこともない一面をいつも見せてくれたりする新鮮さに、徐々に感化されつつあったようだ。

 和室にお布団を用意してもらい、そこに香織と真理が寝た。
香織は希美のお父さんのTシャツを借りてパジャマ代わりにしていた。
 私は希美の部屋で、彼女のベッドで一緒に寝る事になった。
それは希美からの願いで、初めからそう決めていたらしい。
体重37kg前後のふたりだから、広いとは言えないけれどキツキツではない。
初め手をつなぎながらいろんなお話をしていたけれど、だんだんとお互い眠くなってきて、希美は私の方へ寝返りをうつと、
「由衣ちゃん…いつまでも友達でいようね…」
 と言いながら…手を私の胸の上に置いてきた。
下着を着けていないTシャツの上だからビックリしてしまったけれど、そうしているうちに彼女の片足は私の下腹部の上に乗ってきた。
「ちょ…ののたん。私は抱き枕じゃないよ〜!」
 といってみたけれど反応がなく、やがてス〜ス〜と寝息が聞こえてきた。
エアコンは弱で入っているけれど、やっぱりくっついていると暑くなってくるし、それに、胸の上に手を置かれているもんだから、気になって眠れない……。
 そりゃぁたしかにお年頃なのに彼氏もいない寂しい女の子だけど……ののた〜ん、私、そっちの道へは行きたくないよ〜〜!!



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