私たちの出航(たびだち) [出会いの始まり]




 私は小原由衣。
この短大に入ってから1年が過ぎた。
別に入りたくて入った学校じゃない。
姉の麻衣と違ってそんなに頭の良くない私だから、受験した大学はみんな不合格で、滑り止めのここだけが私を受け入れてくれたのだ。
出身高校からここに来ているのは私ひとりだけのようで、コンプレックスの固まりになってしまった私だから、何に対しても気後れして友達と呼べる相手も出来ないでいた。
人見知りをする性格だからそれは尚更だ。
 女ばかりのクラスなので賑やかだけど、私は一人でいることが多くてあまりみんなの顔を知らない。
ひとりだけ、希美と言う子とは少し話すことがあった。
私と似たような性格なのか、隅っこの方にひとりでいる存在感の薄い子だ。
少し話すと言っても挨拶を交わす程度で、教室移動でも学食に行くときでも一緒に行動したことはなく、あえてそれ以上接近することを避けていた。
同じような性格だけならまだいいんだけど、その子も私と同じぐらいのちっちゃなおチビちゃんで、一緒にいるとまるで自分の鏡を見ているような辛いものを感じていたのだ。
 性格が暗くなってくると、通学の電車なんかで出会う高校時代の友達までが、だんだんと声を掛けてくれなくなって、いつの間にか私は朝から晩まで誰とも口を利かずに過ごす日が続くようになっていた。

 2年生になると実務実習が始まる。
専攻内容に沿っていくつかの企業に出向くあれだ。
特にやりたい仕事があるわけじゃない私は、ただ何となく総務全般のコースを選択していた。
 そんなある日、実習先ごとのグループ分けが発表された。
これから半年ほどかけて、いくつかの企業で実務実習を一緒にするメンバーは、あの存在感の薄い希美と、香織という長身の美人。そして背格好は私や希美と同じぐらいだけど派手な感じの真理……という奇妙な取り合わせの4人だった。
 掲示板に張り出されたそのグループ表をボンヤリと眺めていると、
「えっと、お前は由衣だっけ、希美だっけ?」
 と、いきなり後ろから声を掛けられた。
驚いたように振り返ると、そこにはあの真理がガムをかみながら立っていた。
「ぁ…私は由衣ですけど……」
「そっかお前が由衣か。知ってると思うけどオイラ真理ってんだ。よろしくな!!」
 まったく私と同じ高さの目線で、彼女はそう言うとニコッと笑いながら私の肩をポンと叩いて、友達と騒ぎながら去っていった。
 確かに私は彼女の存在を知っていた。
彼女は入学当時から賑やかな感じで、すぐにいろんな人たちと仲良くなって、その存在感を大きくしていた。
 でも私は、正直に言ってその真理って子が苦手だった。
茶髪で毎日のように髪型が変わって、着ている洋服が派手で、声が大きくてその言葉遣いが荒っぽくて、そしてよく授業をサボる…
地味な私とは正反対のような性格に思えていたからだ。
それにしても、彼女は私と希美の区別がつかないらしい。
それはそれでなにか複雑な思いを感じていた。
 そして香織。
なぜ彼女がこの三流短大にいるのかが不思議に思われる人だった。
まじめで何事も積極的で、そしてなりよりも美形で、話したことは一度も無かったけれど、私はこの人の前ではよりコンプレックスが強くなる。
希美はいいとして、あとのふたりはなぜ同じグループになってしまったんだろう。
わざとらしい運命のイタズラが始まったと感じていた私だった。
(※ 本当は当時、まだ名前ではなく名字で呼び合っていた。)

 それから数日の間は何の変化もない日が続いていたが、いよいよ実習が始まる前日、私たちは時間差でグループごとに教務室に集められた。
そして実習中のいろんな注意点とかを伝えられて、明日は教務からは誰も付き添わないので、4人揃って遅刻しないように出社しろと言われた。
 初めて行く実習先は下目黒にある某企業で、私はその所在がよく判っていない。
というか、最寄り駅までのルートなどを詳しく教えてもらえるものと思っていたので、この日になっても下調べをしていなかったのだ。
教務室を後にした時、私は声を震わせながら精一杯口を開いて
「ぁ…あの、下目黒って…その、ぅ上野駅からどう…行ったら‥…?」
 必死でそこまで言うことが出来た。
「あん、上野駅ぃ!?」
 真理がじゃまくさそうに振り返る。

真理「なんだよお前、東京人のくせにそんなの知らないのかよ?」
由衣「ぁの…私…東京じゃなくてぇ…ちば…」
真理「千葉がなんで上野駅なんだよ?」
由衣「ぁ…の…私は柏だから…ぇと…」
真理「かしわぁ?、どこなんだよその餅みたいな街はぁっ?」
由衣「ぁの…だからじょ常磐線…の…な…」
真理「チッ、めんどくせぇなぁ。」
由衣「……」
希美「ぁ、わたしもぉ、王子駅からなんだけどぉ……」
真理「はぁん!、なんなんだよオマエらはよぉ。」
香織「おいおい、ふたりとも何も調べてないとか?」
由衣「……」
希美「……」
香織「はぁあ…なんかこいつら手がかかりそうだなぁ。」
由衣「……」
希美「……」
真理「香織よぉ、お前地理に詳しいのなら教えてやんなよ。」
香織「そうだね…、みんなでサ店にでも行くか?」
真理「ひゃーかったるいなぁ」
由衣「……」
希美「……」
香織「まあいいじゃないか。ついでに明日の打ち合わせもしておこうぜ。」
真理「けっ、幼稚園の遠足かよ!」
由衣「……」
希美「……」

 初めて4人でしゃべったのがそんなやりとりからだった。
そのまま香織に先導されるようにして、私たちは正門を出て少し先にあるコーヒーショップに向かって歩き出した。
 香織と真理は直接的な友達ではないようだが、ふたりとも交友関係が広いからお互いをよく知っているようで、なにやら私には縁遠い異次元のような話をしながら前を歩いている。
かなりの身長差があるデコボココンビだけどすごく仲良さそうに見えて、それがまた私を気後れさせてしまっていた。
 真理の言葉遣いは前から何度も耳にしていたけれど、香織もどちらかというと男言葉に近かったのには少しショック…というか、違和感を感じた私であった。
 そのふたりから数歩遅れて歩いていた私と希美。
そんなとき、私よりも少し遅れ気味に歩いていた希美が私の左手を握ってきた。
「え!?」と思って彼女を見ると、今にも泣き出しそうな顔をしている。
それはとても幼い顔で、叱られている子供がグッと涙を堪えているような、そんな顔つきに見えて、こんな私にでも救いを求めているかのと思うと、急にその希美のことがいとおしく感じられて、私はその手を握り返した。
そう、ふたりして手をつないで歩いたのだ。
「なんなんだよ。おまえらは双子かよ!?」
 ちょうどそんな時に真理が私たちを振り返ってそう言った。
「ほんとだな。そうやって並んで歩いてるとまるで双子みたいに見えるなぁ。」
 香織までがそう言う。
確かにあの頃は、私がボブカットで希美がマッシュルームカット。
ふたりとも卵形の顔つきだったので、顔そのものが似ているわけではなかったけれど、双子を連想させる雰囲気的なモノがあったのかも知れない。
「ん、けど真理よ。お前もふたりと一緒に並んでみな。」
 何を思ったのか香織がそう言って嫌がる真理を私たちの間に立たせた。

真理「なんだってんだよ。まぁだいたい言いたいことはわかってっけどな。」
香織「う〜ん。おまえら三人とも同じ身長か?」
真理「けっ、やっぱりそういう話かよ。」
香織「改めて見るとさ、真理ってけっこう小さかったんだな。」
真理「どういう意味だよ!?」
香織「いつも派手な格好してっからさ、そんなには感じてなかったわけさ。」
真理「チッ、おい由衣、お前は身長どれぐらいだ?」
由衣「…ぇと、145.5だったと…」
真理「ふ〜ん、で、ぇ〜っと希美って言ったよな。お前は?」
希美「わたし…146.5…」
真理「けっ!」
香織「真理は?」
真理「はいはい、どうせオイラは145ちょうどですよ!」
香織「へぇえ意外だったな。お前が一番小さいのかぁ!」
真理「うるせえ!!」

 私たちのようなおチビクラスになると、たった5ミリの差でもそれは大きい。
だからミリ単位まではっきりしたいものなのだ。
それなりに大きく見えていた真理が、実は私よりも低いんだとわかった事で、彼女に対する苦手意識の一部が少し晴れたような気持ちになったのと、それとは裏腹に、希美には10ミリも負けているんだと認識して、複雑な気持ちがわき上がってくるのを押さえられなかった。
 香織は170(らしい…)
4人で歩くと幼稚園児と引率の先生のような光景に見えるかもしれない。
そのことで後日、香織はしばらく私たちと行動をともにすることをいやがってしまう出来事が起きる。

 そんなやりとりをしながら、私たちはコーヒーショップへと入っていった。
その頃になると、あの泣き出しそうな顔だった希美も少しほぐれた表情に戻っていたが、それがもし、3人の中で一番背が高いという自慢(?)からくるものだったらいやだなぁと思ってしまう私だった。

 コーヒーショップは短大生のたまり場でありナンパ待ちの場であり、そして憩いの場であった。
交友関係の広い香織と真理はあちこちから声がかかる。
居心地の悪さを感じながら、その間を通り抜けて奥の座席に向かう私たち。
希美はその時になっても私の手を離さずにいた。
 空いた席で香織が明日から訪問する会社の場所などの説明を始めた。
時々横から口を挟む真理と違って、香織のその口調は優しく丁寧でとてもわかりやすく、まるで学校の先生のような感じを受ける。
それがまぶしくて、私は地図を見つめたままで香織の顔を見ることが出来なかった。
 説明に黙ったままでうなずくだけの私と希美に、香織は少し不安を感じたのか、それとも不満を感じたのか、あるいは気後れしている私と希美を気遣ってくれたのか、しばらく間を開けてから切り出してきた。

香織「なあ、この際だからさぁ、改めて自己紹介でもするか?」
真理「なんだよそれぇ、今さらかったるいこと言うなよ。」
香織「ああ、けどさ、真理はこの2人の事どれぐらい知ってんだ?」
真理「あぁん、こっちが由衣でそっちが…えと希美だったよな?」
由衣「(こっくり)」
希美「(コックリ)」
香織「それから?」
真理「それからって…、まぁそれだけだわな。」
香織「だろ。私ものこの2人のことを何も知らないからさ。」
真理「チッ、しゃ〜ねぇなぁ。」

 香織は姉御肌とでも表現したらいいのだろうか、さすがの真理も文句を言いながらではあっても、ジワジワと言いくるめられてそれに従っている。
初めはそのやりとりが少し怖いように感じていた私であつたが、決してケンカしているのではなくて、素直な意見表現だと理解できるようになってくると、ふたりの掛け合いがむしろ心地よくも感じだしていた。
 それは希美も同じだったのか、初めはこわばった表情をしていたのに、その頃になると笑みこそ浮かんでいないものの、ごく普通の表情になっていた。

 香織が自己紹介の場を設定してくれた事で、私はこの3人のことを沢山知ることが出来た。
 香織は松本出身で、卒業後はすでに地元の会社に戻る事が決まっているらしい。
下北沢というオシャレな街でマンション暮らしだという。
この短大に来たのは、どうやら私と同じような理由だと言うことだが、私のようなコンプレックスを全く感じさせない。
 真理は甲府出身で、別の学校に通う友達と中野でルームシェア暮らしだという。
彼女は特に何か目的を持っている訳ではなく、ただ何となく通りすがりにこの学校が目に入ったので受けただけだという。
どこまでが本当の話か判らないけれど彼女らしいなと思った。
 希美は足立区に住んでいるが、中学生までは北海道の函館にいたらしい。
ひとりっこで甘えん坊だと自分から言ったが、それは言われなくても容易に想像できる感じだった。
 最後に私が自己紹介して、千葉方面は総武線だけだと思いこんでいた真理に柏市の存在を改めて説明した。
そうして少しずつ私と希美の口数が出始めてきた頃、
真理「ところで由衣よ!」
由衣「ぇ?」
真理「おめぇほんとはもう少しおしゃべりしたいんじゃねぇの?」
由衣「…ど、どうして?」
真理「何となくだけどおめぇさ、けっこう他人の話に聞き耳たててねぇか?」
由衣「ぁ…ぇと…」
真理「そいでその話にひとりで笑ったりひとりでツッコミとか入れてっだろ?」
由衣「ぁ……」
真理「なんか話の輪に入りたくてウズウズしてんじゃねぇのかなぁってさ。」
香織「あぁ、そういやそんな風になんかモジモジしてるの何度か知ってるなぁ。」
真理「香織も気づいてたのかよ。」
香織「まぁな。けど私が振り向いたら目をそらせるからなぁ。」
由衣「(ポッ)」
真理「ほぅお、それって香織のことが好きなんじゃねぇの?」
由衣「(ポッポッ)」
真理「ははぁ、真っ赤になってやがる。」
香織「まさかね。けど目をそらされるとこっちはどうしようもなくなるしさ。」
由衣「…」
真理「引っ込み思案かなんか知んねぇけどよ、自分から話に入ってこいよ。」
香織「そうだな。自分からやんないとさ、いつまでも始まんないぞ。」
由衣「…ぅん…」

 目立たない私のことを真理がそこまで観察していたなんて意外だったし、香織も同じように思っていた事を知って、うれしさと恥ずかしさが一気にわき上がって私はかなり混乱していた。
ふたりに指摘された通り、人見知りではあるモノの、高校生までの私はもう少し朗らかにしゃべる子だったと思う。
希望大学をみんな滑ったという現実を自分できちんと受け入れられなくて、コンプレックスという隠れ蓑を都合良くまとっていた私。
それは自分でも本当は充分に判っていた。
それをこのふたりは見抜いていたみたいだ。

真理「それとよ、希美…。お前にも言っておくけどよ。」
希美「ぇ…?」
真理「由衣を目で追っかけても意味ねぇじゃん!」
希美「……」
由衣「え…どういうこと?」
真理「お前さ、いっつも講義が終わったらサッサとひとりで帰ってくだろ。」
由衣「ぅん…」
真理「希美はよ、それいっつも目で追いかけてるわけよ。」
由衣「ぇ…」
希美「(コックリ)」
香織「ああ、希美がいつも突っ立てたのはそう言うことだったのか?」
真理「ほぇ〜、さすがの香織もこれは気づいてなかったのかよ?」
香織「そこまでは判らなかったけど、そっかぁ、由衣を追いかけていたのかぁ。」
希美「(コックリ)」
真理「寂しそうで見てらんねぇよ、ったくよ。」
由衣「……」
香織「由衣は気づいてなかったのか?」
由衣「…ぅん…」
真理「わざと避けてたりしてな!」
由衣「ち、ちがうょぉ…そんなことないよぉ…ただ…」
真理「ただ?」
由衣「ひとりでいるのが嫌だから…いつも…早く帰りたいって思って……」
香織「だそうだ。希美、お前も自分から声を掛けないと!!。」
真理「そうそう、自分から、[由衣ちゃんいっしょに帰ろ!]ってな!」
希美「(コクリ)」
香織「ふたりとも上野までは同じルートなんだろ。」
真理「いつまでも暗いバリアー張ってんじゃねぇよ。ふたりともよぉ!」
由衣「…ぅん…」
希美「(コクリ)」

 希美がずっと私を追いかけていたという事を第三者から指摘されて、私は少なからずショックだった。
そんなことも知らずに、自分はこの子とは違うんだとばかりに、私は確かに希美を避けていた。
真理が[わざと避けてたりしてな!]と、少し意地悪く聞いてきたのは、そんな私の内心を見抜いていたのかも知れない。
さっき希美が私の手を握ってきたのは、彼女の精一杯の行動だったのだろう。
それなのに私はずっと上から目線で彼女を見てしまっていた……。
なんて嫌な女の子になってしまっていたんだろう…。
「ごめんね…」
 私が希美に謝ろうと思ったその前に、彼女の方からその言葉が出てきた。
先に謝らなければいけないのは私の方なのに……。
けれど何かしゃべろうとすると涙が出てきそうになって、私は黙ったままで首を横に振る事しかできずにいた。
 ばからしい事だけど、この場では絶対に泣きたくない。
けっこう意地がある私は、なんとか別の話で場の雰囲気を変えてしまおうと、なぜそこまで私たちの事が判ったのかと恐る恐る聞いてみた。
するとふたりから返ってきた言葉は、たった40人ちょっとのクラスで1年間も一緒にいて、気づかない訳がない。むしろ人より小さい私たちが別々にひとりでポツンといる方が逆に目立っていた………ということだった。
 どうやら私は自分勝手に、ひとりで殻に閉じこもって周りを拒絶して、そのくせ"SOS信号"だけは常に発信していたのかも知れない。

真理「明日からよ、この4人でずっと行動するんだからな。」
香織「そうだなぁ。こうなる運命だったって事だよなぁ。」
真理「そう言うこと。仲良くやろうぜ!!」
香織「いいけど、お前さ。」
真理「あん?」
香織「あんまりズケズケしゃべってさ、ふたりをいじめるんじゃないぞ!」
真理「ばっばかやろう!、なんでオイラがいじめるんだよ!?」
香織「ふたりはまだお前を怖がってるじゃんか。」
真理「口が悪いのがオイラの特徴だってんだよ。」
香織「はいはい。ま、お前ら、真理はこんな奴だからな、怖くないぞ。」
真理「あたりまえだ!!」
香織「ふたりしてかかったら真理なんかイチコロだからな!」
真理「へんっ、こんなチビらにオイラが負ける訳ねぇだろ!!」
希美「…ぁの…真理さんが…いちばん…小さい…」
真理「へっ!?」
香織「ぉっ!?」
由衣「え!!」
希美「………」
香織「あはぁ、驚いたあっ、希美が真理にかみついたぞぉっ!!」
真理「けっ!」

 身体的特徴で人を見てはいけないけれど、私はこの時、小さな声で言った希美のその一言にほんとうに驚いていた。
15ミリの身長差はそんなにも勇気づけるものなのだろうか?
 そしてもっと驚いたのは、希美にそう言われて「けっ!」っと吐き捨てた真理が、実は笑っていたことだ。
 どうやら私は先入観でだけで真理のことを嫌な人、苦手な人と思いこんでいただけのようで、見た目と違って本当はすごく優しい人なんじゃないか…と思いだしていた。
 後ずさりしたいような気持ちで着いてきたこの店で、まだ1時間ほどしか経っていないのに、凄く心の変化を感じる。
それは、イヤでイヤでたまらなかった明日からの実務実習に対しても、なにか意欲のようなものを持てた瞬間でもあった。

 当然のようにその店からの帰り道、私は希美と一緒に歩いていた。
まだ少しぎこちない感じはしていたけれど、同じ目の高さで話が出来ることが嬉しかった。
つい数時間前までは、それが鏡を見ているようで辛かったはずなのに……。
ただ……、大通りでも駅のコンコースでも、希美は手を離さなかった。
まぁ…いいんだけど…、ひとりっこの甘えん坊さんは、私のことを同い年の姉妹のように感じているんだろう。
でも、これはあとから判ったことなんだけど、実は希美の方が私よりも数ヶ月おねえさんなのだ。



目次へ