それぞれの出航(たびだち)FOREVER 2




希美「あのね、今年のお正月の事なんだけどさぁ、旦那の実家に行ってたのね。」
由衣「旦那さんってどこの人だったっけ?」
希美「んとねぇ、北茨城‥。」
由衣「大阪の?」
香織「それは茨木市だろ。北茨城ってたしか日立市の少し向こうだったよな。」
由衣「そうなんだ。」
香織「けどすぐに大阪の茨木市が浮かぶって、由衣もすっかり関西人になったな。」
真理「そうだな。それと香織はさすがだよ。観光案内の仕事が身についてるじゃん。」
希美「あのねぇ、私の話ぃ!!」
由衣「ごめんねぇ。で?」
希美「うん‥。でさ、高速が千円だからって車で行ってたのね。」
真理「娘の芹香を乗せるから車もセリカだよな!」
希美「ちがうよぉ。レガシーだよ。」
真理「なんだ、つまんね。」
希美「もぅお、お話が進まないじゃん。」
由衣「あは、それで、それで!?」
希美「もーぅ明石家さんまみたいな言い方しないでよ。」
香織「話を脱線させながら発言者の発憤をあおる。高等技術だぞこれは。」
希美「なんだかわかんないけど話きいてよ〜。」
全員「よ〜し。じっくり聞いてやる。」
希美「う〜‥」

‥‥‥‥ ‥‥‥‥

 大晦日の夕刻、希美は娘を連れて2年ぶりに夫の実家を訪れた。
同じ職場で働いていた福谷明と、できちゃった婚での挙式をあげてから、早いものでもう5年になる。(それぞれの出航(たびだち)1参照)
来年の春には小学生になる孫娘の成長ぶりに、義理の両親は目を細くして喜んでいた。
 親子3代で仲良く初詣にも出かけ、近所にも成長した芹香を連れて回るなど、初孫との久しぶりの再会は、相当うれしい出来事のようであって、それは希美にとっても幸せな時間であった。
 温かい歓迎を受けて2日間を過ごした希美たちは、2日の深夜近くに北茨城を出る事になった。
渋滞を避け、3日の早朝に東京に戻って、あとはゆっくりとした時間を過ごして、翌日からの仕事に備える予定である。
「明は運転するからいかんが、希美ちゃんは1杯ぐらいいいだろう!?」
 かなり名残おしい様子で、義理の父親はそう言って希美にビールを勧めていた。
「ダメだよおやじ。そうじゃなくても希美はトイレが近いんだから。」
「わ〜、そう言う事ご両親の前で言うっ!?」
「ママ〜、トイレが近いってどこにあるの〜?」
「せりたんはいいの!!」
「だって〜」
「ははは、何でも知りたがる年になったもんだ。」
 おとなの話に首をつっこむほどに成長したんだと、義理の父は満足そうに微笑んで、希美はコップ1杯だけビールを受けた。
 食事後、ゆっくりと時間を過ごして、おねむになった芹香を寝かしつけ、希美と明は午後11時過ぎに実家を後にすることになった。
 1月2日の深夜近くとあって、常磐自動車道はそれなりに空いており、3人を乗せた車はスムーズに走る事が出来て、この調子なら3時間ちょっとで帰ることが出来るかもしれないと、明はうれしそうに言っていた。

「ママ〜、せりたんおしっこ〜。」
 後部座席に寝かされ、シートベルトで固定されている芹香がそう訴えて来たのは、それからおよそ1時間半ほどが過ぎた頃であった。
「起きちゃったのね。はいはいちょっと待っててね。」
 希美はシートの間から後部座席に移り、芹香のシートベルトを外してやりながら抱き起こして、
「ねぇ、次のSAまでどれくらい?」
 と、運転する明に言った。
「たった今美野里を過ぎた所だから、次の千代田まで‥15分ぐらいかなぁ‥」
「そう‥。ね、せりたん、あと15分ぐらいおしっこ我慢できるよね?」
「15分てどれぐらい〜?」
 希美に抱きついてきた芹香は、片方の手でしきりにおまたをいじっている。
そういえば希美も明も、芹香が眠る前にトイレに行ったかどうかを確認していない。
もし夕食の後から行っていないとすると、かれこれ5時間以上になり、これは幼い芹香にとっては限界に近い尿意であるのかもしれない。
「携帯トイレでさせるか?」
 明はそう言いながらダッシュボードからそれを取りだして希美に手渡した。
「ね、せりたん、おしっこしたいからこれにしようね!」
 慣れない手つきでそれを用意してそう言うと、
「そんなのやだ〜、せりたんおトイレでおしっこする〜!」
 車の中という慣れない場所での抵抗感か、暗いから怖いのか、あるいは幼心にも羞恥心が芽生えているのか、芹香はかなりそれを使う事を拒んでいたが、やがて自分でももう我慢が出来ないと悟ったようで、渋々それにすると言い出した。
しかし走行中でそれなりに揺れがあるために、そううまく事は運ばない。
かといって深夜の暗い高速上であるために、たとえ路肩であっても停車するのは非常に危険なので、出来るだけゆっくり走ることでなんとか安定させるしかない。
 希美は芹香のタイツとパンツを脱がせて座席の間にしゃがませ、自らも娘に向き合う形で同じようにしゃがみこんで、携帯トイレをあてがってやることでなんとかおしっこをその袋の中に収めることが出来た。
小柄な希美だから出来た事である。
「ねえ、これってどれぐらい入るものなの?」
「たしか500ccじゃなかったっけ?」
「すっご〜い、芹香ほぼ満タンになってるよ。」
「ほぅお、さすがは母子だなあ。」
「なによぉそれっ!?」
「はは‥それより芹香をチャイルドシートに座らせないと‥」
 明にそう言われたものの、芹香は希美と一緒に寝るといってしがみついたまま離れようとしなかったので、希美は仕方なく芹香をヒザの上に抱いて眠るのを待つことにした。
やがて芹香が寝息を立てだしてしばらくした頃、希美もつられるようにしてスヤスヤと眠り出す。
ルームミラーでその様子を見ていた明は、姉妹が顔を寄せ合って眠っているかのような錯覚を覚えていた。
(芹香が母親の身長を抜くのも‥‥時間の問題だろうなぁ‥‥)

「ね‥ねぇ、今どのあたり?」
 目が覚めた希美がシート越しに聞いてきた。
「ああ、さっき守谷SAを過ぎたから、すぐに柏インターだよ。」
「そぅ‥その先にSAってある?」
「あれぇ、今度はお母さんがおしっこですかぁ?」
「ん‥うん。けっこう行きたい‥‥」
 実は希美、娘の芹香が目を覚ます少し前あたりから尿意を感じだしていて、そろそろSAに寄ってもらおうと思っていたのであった。
娘のおしっこは無事に携帯トイレで済ませることが出来たものの、動く車内での排尿という異常な体験が怖かったのか、その後もしがみついて離れようとしないので、寝かしつけようとヒザの上で抱いているうちに、ついつい自分もつられてウトウトとしてしまっていたのであった。
当然ながら目が覚めた今、その尿意は強烈なまでに高まっている。
逆に言えばその尿意によって目が覚めたとも言える。
「ちょっと待てよ。柏を超えたらもうすぐに首都高にはいるから‥SAはないぞ。」
 そんな希美に明からの返答はすごく冷たいものに感じられた。
「やだ‥どうしよう。もうパンパンだよ‥‥」
「親父に乗せられてビールなんか飲むからだよ。」
「だってぇ、おうちを出る前にちゃんとトイレ行ったもん!!」
「そのときにはまだ身体を巡っていたんだな。」
「どうでもいいよぉ‥‥ねぇトイレ‥‥」
 娘をそっとヒザから下ろしてクッションで枕を作ってやり、希美は半身乗り出すような格好になって、明の背もたれに置いた両手をワナワナと前後に揺すりながらそう訴えていた。
「って言ったってさ‥希美も携帯トイレで‥」
「わっ私はやだよぉ。それに‥‥」
「それに?」
 何度か明におしっこ姿を見られた事がある希美であったが、さすがに娘と同じように車内では抵抗がある。
もしその最中に娘が目を覚ましたらと思うと、それもまた恥ずかしい。
それに‥
「あの‥それじゃぁ足りないかもしんないし‥‥」
 娘ですら500cc近くあったので、自分は溢れてしまって大変なことになるという不安感があった。
すぐ前方には柏の出口を示す表示が迫っていた。
「ねぇねぇ、次で降りよ。柏で降りようよぉ。」
「え、下に降りてどうすんだよ?」
「コンビニでいいからさぁ、だってもう‥早く行きたいもん!!」
 しきりに両足をせわしなく動かしている様子が伝わっていたが、ナビに目をやりながら明は少し困っている様子である。
「降りて。ねぇ次で降りて!!」
 これから先、まったくSAがないことが分かっているだけに、確かにそのまま首都高に入っていくことは出来ない。
明はウインカーを出して柏出口へと車を向け、国道16号線へと降りていった。
「ねぇ‥コンビニとか‥なにもないじゃん!?」
 後部座席から身を乗り出して前方を見つめていた希美が、少し怒ったような口調でそう言った。
それもそのはずで、インター近くのこのあたりは大きな工場や研究所などが建ち並ぶ地域で、民家や商店は全くない場所であり、1月2日の早朝に近い深夜であるために、その建物などはすべて明かりが消え、転々と並ぶ街路灯がなければ真っ暗と言っていいほどの静寂に包まれた場所であった。
明はナビでそのことを察知していたが、せっぱ詰まっている希美にどう伝えていいものかと困っていたようである。
「ねぇっ早くコンビニさがしてっ!」
 叫ぶような感じの声でそう訴える希美。
しかしそれはかなり先まで走らなければならないようで、あるいは希美の膀胱はそこまで耐えてくれないかもしれない。
「ねぇ‥早くぅ‥もうもれちゃうよ‥‥」
 今度は少し泣き声ともとれる声で、身体を揺すりながら希美が言った。
「希美、かわいそうだけど‥もっと行かないとコンビニはないよ。」
 明は希美に決断を迫る意味でそう言った。
コンビニが見つかるまで我慢するか、あるいはどこかで隠れてするか。
希美は我慢すると言い切ったが、それはとても弱々しい言葉であった。
 とそのとき、路面を修理したと思われるわずかな段差をタイヤがとらえ、座席にも少しその振動が伝わった。
「ひゃっ!」
 希美が叫んで、
「ぁ‥もう停めて、停めて。降りるぅ!!」
 と、まくし立てるようにそう言った。
「え、ぇ?」
 とまどっている明に、
「早くっ、もう漏れちゃうぅ。ここでするからぁっ!!」
 希美はドアを開けかかっている。
明はあわててウインカーを出して車を路肩に寄せて停車した。
「ぁ‥明も降りて‥私を隠してぇっ!」
 そう言いながら希美は後部座席のドアを勢いよく開けた。
およそ氷点下に近い冷気が一気に車内に入り込む。
「ド‥ドア閉めるから‥早くぅっ!」
 すでに希美は座席から転がるようにして車外に出かかっていた。
ドアを開いたままなら少しは身を隠せる訳だが、眠っている娘に冷たい風を当てたくないと、瞬時に母性が働いたのであろう。
明はすぐにそう理解して、あわてて運転席から飛び降りて車の後部から希美の方へ回り込んだ。
すでに希美はもうその場にしゃがみ込んで、ジョバババァ‥と勢いよくおしっこを始めていて、温かそうな湯気が立ちこめだしていた。
幸いその場所は街路灯から少し離れていて薄暗く、更に幸いにも行き交う車が全くない。
それでも明はあたりをキョロキョロと見回して、どこからか視線がないかと確認していた。
「えっ!?」
 ふと希美に目をやると、腰までめくりあげたスカートのその下にパンツが見える。
「え‥のの‥パンツ‥」
 そこまで言って明は息をのんだ。
「わ〜ん、間に合わなかったんだよぉ‥‥」
 うずくまって、ジャァジャァとおしっこをしながら、希美は半分笑いながらそう言った。
どうやら先ほどの振動で水門が開きかかり、車外に出た時にはすでにそれが決壊してしまったようである。
「あきらぁ‥ティッシュ持ってきてぇ‥」
 ようやくその流れが弱まってきた頃、希美は甘えるような感じの声でそう言った。
「あ、ハイハイ。」
 明は助手席のドアを開け、ボックスティッシュを取り出して希美に手渡した。
「パ‥パンツ脱ぐから‥見張っててよ!」
 開き直ったようにしてそう言う希美。

 人よりトイレが近い希美と、優しい旦那さんと、そして希美そっくりなかわいい娘3人の、おしっこにまつわるお話のほんの一部分であった。

‥‥‥‥ ‥‥‥‥

希美「私、ジョバババなんて下品な音させてないもんっ!」
由衣「あは、この方が伝わりやすいんだよ。」
真理「ののはまたお漏らしかよ。」
希美「またってなによぉ!!」
由衣「そんなことよりさ、私の地元をおしっこで汚した事が許せない。」
希美「あ、由衣ちゃんて柏だったっけ?」
香織「そういえばそうだったな。忘れてたよ。」
真理「これといった特徴がない街だもんな。」
由衣「失礼な〜!!」
希美「次はかおりんの番だよ〜。」
香織「え、私は‥そんなのないぞ。」
真理「かっこつけるなって。誰だって少しはそんなのあるに決まってるじゃん。」
希美「そうだよ〜。」
香織「ん〜、そうだなぁ、しいてあげれば‥‥」


つづく

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