初めてのおしがま (あかねちゃん)




※あかねちゃん:春の研修会合宿で、優里亜さんと同室になった検査技師のあかねちゃん。チョビちゃんがおしがま談を聞き出しちゃいました。
参照:由衣の独り言 31(新人研修会)

 亜佳音(あかね)の家は京都のオフィス街、烏丸通り(からすまどおり)の一角で洋食店を営んでいた。
客層の大半がビジネス層で、営業は午前11時から午後8時までであった。
土曜日や日曜祭日はオフィスの休みが多いため、当初はそれに合わせて休業していたが、いつの間にか情報誌などでお店の評判が広がり、最近では観光客が増えてきたために、土曜日はもちろん日曜日も夜だけ営業する日が増えていた。
 店は両親と妻子持ちの中年コックのA氏とB氏、それとフロアを担当する由紀子という30代のバツイチ女性の5人がいて、町の洋食店としてはそこそこの規模であった。
 ひとりっこの亜佳音は、幼い頃は忙しい両親に代わって祖母に育てられていたが、小学校高学年になると、住居である2階よりも厨房の片隅にある休憩室で勉強したり絵を描いたりして過ごすようになり、学校が休みの時はフロアや皿洗いも手伝うようになっていた。
 さらに亜佳音が中学生になるとき、鳥飼(とりがい)という16歳の少年がコック見習いで入ってきた。
彼は通称トッポと呼ばれ、かわいがられながら厳しい見習い修行をしていた。
亜佳音はそのトッポが作るまかない料理を手伝う事もあったが、それほど年が離れていない彼が、額に汗して働いている姿がまぶしく見えて、どうしても親しく話をすることが出来なく、またトッポも無口な少年で、彼の方から話しかけてくる事はほとんどなかった。

 その年の暮れ、亜佳音の母親が不慮の事故で亡くなった。
ひとりっこの亜佳音にとって母親の死はショックが大きかったが、こんなときでも店はいつまでも休んでいられない。
わずか3日間臨時休業しただけで、店は再開した。
 しばらくの間は、いったん滋賀県に戻っていた祖母が亜佳音に寄り添ってくれ、またフロアの由紀子も身の回りのことにまで気を遣ったりしてくれて、徐々に元気づけられていった亜佳音であった。
やがて、忙しくする父親に代わって、家のことはすべて自分で出来るように成長していく。

 ある日父親が、5月の連休を休みにして、従業員の慰労を兼ねた1泊旅行をしようと言った。
これまでは日曜日などに日蹴りの小旅行だけであったが、母親を亡くして寂しくしている亜佳音に対して、気晴らしさせようという思いやりを含めての事であったの かもしれない。
 高齢の祖母は留守番することになり、出入りの食品卸業で由紀子の再婚相手のC男の手配と運転で、都合で参加できないコックのB氏を除く男4人女ふたりの一行は、ワゴン車に乗って南紀白浜温泉へと向かった。
亜佳音にとってこの旅行は、小学校の修学旅行以来であって、物心ついてからのプライベートな旅行としては初めてのようなモノであった。
 由紀子は亜佳音に対してかなり気を遣ってくれ、手をつないで行動してくれたりと、献身的に母親代わりをしてくれた。
亜佳音は由紀子の優しさがうれしくて、ついつい甘えるようにまでなっていた。

 夕刻、大きな和風ホテルに到着した。
由紀子と二人きりになる部屋からは、夕日に映えたきれいな海が目の前に広がって見えていた。
「さ、あかねちゃん。いっしょにお風呂行こっ!」
 ロビーで選んだユカタに着替え、髪を下ろした由紀子が言った。
亜佳音は初めて由紀子とお風呂に入る事になる。
ちょうど大人の女性へと身体が変化し始めたばかりの亜佳音にとって、ユカタに着替えるだけでも恥ずかしかったのに、裸にならなければならない。
躊躇していると、それを察した由紀子はサッサと亜佳音の手を引いて大浴場へと向かって行った。
 初めかなり緊張していた亜佳音であったが、それでも大浴場の開放感と温泉の気持ちよさでリラックスし、いつしか由紀子とお湯を掛け合ったりしてじゃれ合うよ うになっていた。
 一足先に脱衣場に戻った亜佳音は、
「え‥なんで!?」
 脱衣棚の前で小さくそう叫んでいた。
(ない‥下着が‥ないじゃん!!)
 亜佳音は着ていたユカタをきれいにたたんでカゴに入れ、下着をその下に隠すようして胸の高さの棚に置いていた。
そこがもぬけの殻となっている。
(え‥なんで‥なんで!?)
 バスタオルで身を包んだままうろたえる亜佳音。
ふと見ると斜め下の棚に、亜佳音が選んだのと同じ柄のユカタが入っているカゴが目に入った。
まさかと思いながらそれを手に取ると、その下には見慣れない下着があった。
(え‥だれかが間違えて!!??)
 ユカタのサイズを見てみると、亜佳音と同じSサイズである。
恐る恐る下着のサイズも確認すると、それはやはり同サイズであった。
亜佳音と同じぐらいの体型の女性が、あるいは酔っていたからなのか、完全に亜佳音の下着を着けたまま大浴場を出てしまったようだ。
(ど‥どうしよう‥‥??)
 ユカタはまだ袖を通したばかりのようであったが、まさか他人の下着をつけることなど出来るわけがない。
(部屋に戻って‥着替えの下着を!!)
 亜佳音はそう思って、まだ少しノリがきいているユカタを素肌の上にすばやく羽織り、由紀子が出てくるのを待つことにした。
下着を着けていない緊張からか、まだ身体が冷め切っていないからか、亜佳音は汗をかいている。
大きな扇風機の前に立って風を受けると心地よく感じられたが、その風でユカタのすそがひるがえってしまうので気が気ではなかった。
しかし由紀子が脱衣場に戻ってきても、恥ずかしく思えてこの一件を打ち明けることが出来ず、汗がひいてきたこともあって、ノーブラの胸が目立たないようにと羽 織を着てしまった亜佳音であった。
 おみやげを見てから部屋に戻ろうとする由紀子をせかすようにして、やっと部屋に戻った亜佳音は、目を盗んで下着をつけようとねらっていたが、なかなかそのタイミングがつかめない。
 そうしているうちに
「おーい、そろそろ始めるぞ!」
 と、父親が部屋をノックした。
男たちの部屋で夕食の時間である。
由紀子に促されて渋々部屋を出る亜佳音。
「おお、あかねちゃんかわいいなぁ!!」
「うーん、よく似合ってるよ。」
 と、コックのA氏や業者のC男が声をかけてくる。
トッポは素知らぬ顔をしていた。
亜佳音は下着をつけていない事を知られてしまわないかと内心ヒヤヒヤしながら、それでもなんとか笑顔を作ってそっと父親の横に座った。

 亜佳音はみんなが自分を励まそうとしてくれている事を充分に感じ取っていた。
それだけに、せっかくこうして楽しい旅行に来ているのだからと、努めて明るく振る舞っていた。
 テーブルには並べきれないほどの海の幸が盛られている。
普段まかない料理やお店の洋食を食べることが多い亜佳音にとって、舟盛りのお刺身や伊勢エビ、焼き貝などはとても新鮮に感じられ、目移りしながらもおいしく食べていた。
「あかねも少し飲んでみるか?」
 ふいに父親がそう言ってビールの入ったグラスを目の前に差し出した。
「あらあマスター、だめですよ。」
 たしなめるように言う由紀子に父親は、一杯だけだからと言って、トッポにも同じように奨めた。
成長してきた亜佳音がうれしくて、ついつい奨めてしまったのであろう。
亜佳音はそれとなくそう感じて少し口をつけてみたが、それは苦くておいしいものではなかった。
それでもうれしそうに見ている父親に気を遣ってか、グッと飲み干していた亜佳音を、男たちはイヨッとばかりにはやし立てていた。
 つとめて明るく立ち振る舞い、笑顔で皆に応えていて、うっかり下着をつけていない事を忘れてしまいそうになることもあった亜佳音が、ふと尿意を感じたのはそれからすぐあとの事であった。
振り返ってみると亜佳音は、このホテルに着く前の休憩で由紀子と一緒にトイレに行ったきりであった。
それはおよそ4時半頃のことで、今は8時近くになろうとしている。
おいしい料理を一杯食べ、ずっとウーロン茶を飲んでいた亜佳音が尿意を感じるのは、時間経過からしてごく当たり前の事であった。
 トイレは部屋の入り口に設けられている。
しかし亜佳音はそこへ行く事にすごく抵抗を感じた。
アルコールが入った大人たちは、先ほどから入れ替わりで何度もそのトイレを利用していて、かなり音が聞こえたりもしていた。
思春期の少女が、同じトイレを使うことに抵抗を感じるのは仕方がない事であり、おまけに年が近いトッポがそばにいるとなると、羞恥心が先行してしまう。
まだそんなにあわてるほどの状態ではないので、亜佳音はここを出たら部屋に戻ってトイレを使おうと思っていた。

 それから30分ほどが過ぎ、やっとその食事が終わってホッとした亜佳音であったが、由紀子がおみやげを見に行こうと手を引いてしまったので、仕方なくついて行く事になってしまった。
 まるで子供のように目を輝かせて物色している由紀子に反して、下着をつけていない事と、かなりおしっこがしたくなってきた事が重なって、亜佳音は落ち着かない。
ちょうどそこへ父親たち4人の男がやってきて、
「外で飲み直すから一緒においで!」
 と言った。
今の状況で外へ出る事などとんでもないと亜佳音は思ったが、由紀子は完全にその気になってしまっている。
大きなホテルの1室でひとり取り残される恐怖と不安があって、亜佳音は
(まだ我慢出来るもん!!)
 と自分に言い聞かせ、大きな動作さえしなければバレないからと、下着の事も自分で何とかできると思い、渋々着いて出ることにしてしまった。
 白良浜の波打ち際を歩き出すと、海風がほてった身体に心地よく当たっていたが、
(‥やっぱりトイレ行きたい‥)
 下着をつけていないからかどうかはともかく、亜佳音にはその風が尿意を促進させるものとしか感じられなかった。
 数分歩き、賑やかな居酒屋へと入っていく。
かなり混み合っている店ではあったが、奥の座敷になっている部分に6人が座れる空間があった。
履き慣れない下駄を脱いで座敷にあがるとき、ユカタの裾がめくれあがってしまう恐怖を感じて、亜佳音は細心の注意を払った。
 その店はかなりたばこ臭かった。
亜佳音の父もコックさんも食べ物を扱う仕事をしているだけに、当たり前のことであるが誰もたばこを吸わない。
それだけに亜佳音はそのにおいがたまらなくいやだった。
おまけに尿意はますます強くなってきている。
 それでも楽しそうに盛り上がっている父や由紀子に悪いと思って、飲みたくないけれど頼んでしまったコーラをチビチビと口に運んでいた。
 場は完全に亜佳音を励ますことから大人たちの慰労へと移ってしまっている。
けれどそれはそれで仕方のないことだと亜佳音は理解できた。
しかし尿意が気になってならない。
 それから20分ほど我慢した亜佳音であるが、どうしても落ち着かなくなって、
「ねぇ‥私‥もぉ帰りたい‥」
 由紀子にそうつぶやいた。
「え〜、あかねちゃんもう帰るのぉ?」
 由紀子はかなり酔いが回っているようで、亜佳音に同行してくれそうにない。
「なんだあかね、帰りたいってか?」
 そう聞き返してきた父尾に、亜佳音は小さくコックリと頷いた。
女の子を一人で帰らせる訳にはいかない。
それは誰もが思った事であろう。一瞬その場が静かになったが、
「あ、オレがエスコートしますから。」
 トッポがそう言って立ち上がりかけた。
おそらくは彼もおとなたちの酒の席につきあう事が苦痛になっていて、早く一人になりたいと思っての事であろう。
(え〜、トッポさんと帰るのぉっ!?)
 亜佳音はそれがイヤではなかったが、知られている訳でもないのに、下着の事とおしっこを我慢していることが恥ずかしくて躊躇していた。
「じゃぁトッポ、責任もって部屋まで送るのよぉっ!!」
 由紀子は少しろれつが回らない口調でそう言ってトッポの肩をポンとたたく。
「やいトッポ、あかねちゃんに変な気を起こすんじゃないぞ!!」
「間違っても手なんかつなぐなよ!!」
 A氏とC男がそう言ってはやし立てる。
「じゃトッポ、すまんがよろしく頼む。わしらもじきに引き上げるから。」
 父親はそう言って軽く頭を下げていた。
先に下駄を履いたトッポを追いかけるようにして、亜佳音も急いで下駄を履いて表に出ると
(わ〜、すごくトイレ行きた〜いっ!)
 ここへ向かっているときとは比べものにならないほど、亜佳音の尿意は切迫してきていた。
初めに尿意を感じだしてからどれほどの時間が過ぎているのだろう。
時計を持っていない亜佳音はそれさえも分からずにいた。
 何もしゃべらずにトッポと歩く道は、来た時よりもさらに遠く感じてしまう。
10分ほどだったはずが、20分にもそれ以上にも感じる亜佳音で、
(ぅ〜、早くおしっこしたいぃ‥‥)
 海風はすでに寒いように感じられて、思わず身震いしてしまった。
何かに頼りたい‥‥そう思って、半歩前をゆっくり歩くトッポの羽織の袖口をつかむと、
「どうした。怖いのか?」
 振り返ったトッポがそう言って亜佳音の顔をのぞき込んだ。
たしかに周りには酒に酔った観光客がかなり行き交っていて、未成年の男女二人がのんびりと歩く雰囲気ではない。
「ぅん‥ちょっと‥早く帰ろ!!」
 亜佳音はそう言うことにして、一刻も早くホテルにたどり着きたいと願った。
(おしっこしたい‥おしっこ‥‥)

 それなりに冷えてきた風に当たったせいなのか、亜佳音の尿意はホテルの高い建物が目に入るころには、思わず押さえてしまいたくなるほど強くなってしまった。
待望のホテルにたどり着き、エレベータを待っていると、亜佳音はどうしてもじっとしていることが出来なくて、トッポの後ろでついつい身体を揺すってしまう。
それはエレベータに乗り込んでも止められなくて、ふと恥ずかしくなってトッポに目をやると、彼は観光案内のポスターに見入っていて、およそ亜佳音の不審な行動には気づいていない様子であった。
「あかねちゃん、部屋のカギ持ってるよね?」
 そんな彼が、エレベータのドアが開いたそのときにポツリとそう聞いてきた。
「え‥え〜っ!?」
 居酒屋を出るとき、なにか忘れているような気がしていた亜佳音であったが、尿意が気になって焦っていたために、それが何であるか思いつかずにいた。
「あ〜、カギは由紀子さんが待ったままだ〜っ!!」
 今さらにしてそのことを思い出した亜佳音は、ショックでその場にうずくまってしまった。
「え‥っと、どうする。もう一度あの店まで戻るかい?」
 何も知らないトッポは、半分笑いながらそう聞いてきた。
「やだよぉ‥もうしんどいよ‥‥」
 今でもおしっこがしたくてたまらない状態なのに、あの距離をまた往復する事など、絶対にあり得ない事であった。
「ん‥じゃあオレたちの部屋でみんなが帰ってくるまで待つかい?」
 トッポは軽くそう言うが、それはどうしても気が進まない。
彼のことが怖いとかそう言うことではなく、下着を着けていないことと、おしっこをしたい欲求が重なって、亜佳音を躊躇させていた。
 フロントに頼めば鍵を開けてもらえる事など、初めて旅行を体験した中学2年の亜佳音には知る由もない。
「とりあえずいったんこっちの部屋に入りなよ。マスターに電話するから。」
 トッポはそう言って部屋の鍵を開け、亜佳音を促してくれた。
いつまでもそこにしゃがみ込んでいても仕方がない。
亜佳音はゆっくりと立ち上がると、ヨロヨロと男たちの部屋に入っていった。
すでに4人分の布団が敷き詰められた部屋は、閉め切られているために少し蒸し暑く感じられた。
「もうぉお最悪〜!!」
 照れ隠しでもあるが、亜佳音はそうつぶやきながら布団を踏み越え、障子を開けて縁側にあるソファーにドッカと座り込んだ。
弾みでユカタの裾がはだけてヒザから太ももまでがあらわになる。
(わっ、あぶな〜い!!)
 あわててそれを直したとき、亜佳音はそっと下腹部を触ってみた。
(え〜、こんなにふくらんでる〜っ!!)
 それは今まで体験したことがない大きな膨らみでパンパンに張っている。
振り返ってみれば、亜佳音は物心ついてからこれまで、学校でも遠足などの課外活動でも、あるいは修学旅行の時でさえ、長時間おしっこを我慢した記憶がなかった。
それだけに丸くふくらんだ膀胱の存在は亜佳音にとっては未知の物であり、恐怖を覚えるものであった。
(どうしよぉ‥おなかが破裂しちゃう‥‥)
 亜佳音は泣きそうになっていた。
布団の上にあぐら座りし、鞄からケータイを取り出して操作しているトッポのすぐ先、そう、部屋の入り口に亜佳音が今もっとも行きたいトイレがある。
そこへ行くのはごく簡単で、わずか数歩でたどり着くことが出来る。
それは分かっていても、亜佳音はソファーから立ち上がることが出来なかった。
思春期の亜佳音が、年が近い男の子の前を通り過ぎてトイレに行く‥‥。
それは想像を絶するほどの険しい道のりでしかない。
 テレビの脇にある時計は午後10時を指していた。
亜佳音が最後にトイレを済ませた休憩から5時間半が過ぎている。
 その休憩の時、あと1時間ちょっとで着くと言う安心感と、初夏のような日差しに後押しされて、亜佳音はかき氷をほおばっていた。
ホテルについて案内された部屋で軽くお茶を飲み、温泉で汗をかいたものの、それでまたのどが渇いたために、食事が始まった時すぐにコップ1杯のウーロン茶を飲みほしていた。
覚えていないが、それからも食事をしながらかなり飲んだ記憶がある。
おまけに父親から奨められたコップ1杯のビールまで‥‥。
 150cmとまだ小柄な亜佳音の身体に、単純計算しただけでも5〜600ccもの水分が入った事になり、それらが今、小さな膀胱を丸くふくらませて内側から思い切り圧力をかけている。
(おしっこ‥もうもれちゃう‥おしっこ‥)
 すでに頭の中ではおしっこをする事以外、何も考えられなくなっていた。
「やっとマスターにつながったよ。まもなく帰るからここで待ってろってさ。」
 トッポがサラっとそう言ったが、亜佳音は「‥ぅん‥」と生返事をしていた。
まもなくと言ったって、今お店を出るとは言っていない。
それから酔っぱらった足でよろよろと帰ってくるのであれば、少なくとも30分以上はかかるであろう。
(そんなに我慢出来ないよぉっ‥もう‥)
 生まれて初めてと言っていい初体験のおしがまに、亜佳音はうろたえるばかりであった。
(恥ずかしいけど‥やっぱりトイレ‥行こう‥)
(でも‥なんかやだなぁ‥行きたくないよぉ‥)
(トッポさん‥どこかに行ってくれないかなぁ‥そしたら‥‥)
(ロビーにもトイレあったよね‥?、そこまで行く?)
(でもなんて言って部屋を出たらいいの?、きっとついて来ちゃうよ!?)
(だいいちもう‥そこまで我慢できないじゃん!!)
 同じ事を何度も何度も繰り返し考えながら、亜佳音はソファーに座ったまましきりに身体を揺すっていた。
「おっ、サイダーが冷えてるぞ。飲むかい?」
 冷蔵庫を開けたトッポがうれしそうに言っている。
確かに亜佳音はのどがカラカラになっていた。
しかし今はとても水分を摂る気分にはなれない。
「‥ぅぅん‥いらなぃ‥」
 そうつぶやいたのに、トッポは構わずにグラスに並々とサイダーを注ぎ、それを亜佳音の目の前のテーブルに置いた。
小さな気泡が光に乱反射して、キラキラと輝いて見える。
それを見た瞬間、亜佳音は誘発されておしっこが漏れそうになってしまった。
(やんっ!!)
 足をギュッととじあわせて、目をつぶってそれに耐える亜佳音。
(出ちゃう‥でちゃう‥おしっこ出ちゃう‥‥)
 身体を硬くしてすべての神経をそこに集中したことで、お漏らしはかろうじて堪えることができたものの、それがかえって押し出そうとしている膀胱を刺激してしまったようで、さらに追い打ちをかけるような激しい尿意が亜佳音を襲ってきた。
「もういやだぁっ!」
 思わずそう口に出してしまった亜佳音。
なにげに寝っ転がってテレビを見ていたトッポが、それに気づいて
「どした?、」
 と声をかけてきた。
「‥もう‥もうしんどいよぉ‥お部屋に戻りたい‥‥」
 涙声でそう言うのがやっとの亜佳音である。
「そっか‥えっと‥」
 さすがにトッポも亜佳音の様子がおかしいことを感じ取り、心配になってきた様子でなにか考えている。
「そうだ、フロントの人に頼んで部屋のカギを開けてもらったらいいんだ!!」
 やっと彼もそのことに気づいたようで、
「ちょっと行ってくる。いいかい、絶対に部屋から出ちゃダメだぞ。」
 そう言いながら立ち上がり、
「表からカギかけていくからな!」
 と、バタバタと部屋を出て行った。
ひとり残された亜佳音にとって、それはおしっこが出来る最高のチャンスである。
エレベータで1階のフロントまで行き、事情を説明して戻ってくるまでには少なくとも数分はかかるであろう。
亜佳音はそう思ってそっとソファーから立ち上がろうとした。
しかし経験したことがないほどおしっこを貯めてしまった膀胱が、わずかな刺激でもはじけてしまいそうになっていて、うまく立ち上がれない。
肘掛けに手を置いてようやく身体を起こし、どうにか歩き出そうとした亜佳音であるが、あふれ出しそうなおしっこの恐怖に、思わずユカタの裾から手を入れて押さえてしまった。
(やだぁ、もう漏らしちゃってるよぉ‥‥)
 下着を着けていないため直にそこを押さえてしまい、亜佳音はすでにその部分がかなり濡れてしまっている事を感じてあわてた。
それでも何とかしてトイレに行かなければならない。
敷かれた布団の上を四つんばいの格好で這うようにして、なんとか玄関先のトイレまでこぎ着けたものの、
「出ちゃう出ちゃうっ!」
 立ち上がろうとするとすさまじい排尿感が襲ってきて、誰もいないのをいいことに、亜佳音はそう口走っていた。
 やっと立ち上がった瞬間、一筋のおしっこがあふれ出し、押さえている指の間を通り抜けたそれは、下着を着けていないためにすぐに亜佳音の足を伝った。
「やぁっ!まだだってばぁっ!!」
 そう叫びながら押さえる指にさらに力を込め、しがみつくような感じでトイレのドアノブを回した。
洋式トイレのそれは男たちが使った後だけに、便座があげられたままになっている。
しかし一刻も早くこの緊張を解きたい亜佳音は、それが目に入っていなかった。
スリッパを履く余裕もなく、冷たいタイル張りの床に素足を出したとき、その冷たさがまた膀胱を刺激して
「だめぇっ!もう出ちゃうよぉっ!」
 必死で押さえているその手の中に、おしっこの熱いうねりを感じだして、亜佳音はバタバタと便器の前に身体を寄せて、もう片方の手でユカタをめくりあげながら、そのままおしりを便器に突き出すような格好になると、押さえている手をはねのけるようにして勢いよくおしっこがあふれ出し、ジャバジャバジャバ‥と、便器の水たまりに跳ねだした。
とった姿勢がよかったのか、亜佳音のおしっこの大半はうまく便器の中に落ちて行き、足を伝うのはごくわずかであった。
「はぁはぁ‥‥」
 ゾクゾクするような開放感が全身を覆い、大きな呼吸をしながら思わず目をつぶる亜佳音。
1分近くそのおしっこは続き、ようやくしずくだけになった時、亜佳音はやっと自分自身を取り戻すことが出来て、あわてるようにペーパーを引き出して後始末を始めた。
 足を伝ったおしっこがタイルをぬらしている。
それらもまたペーパーで何度も何度も拭き取っていく。
便座があがっていたこと、スリッパを履いていなかったこと、そして下着を脱ぐ手間がなかった事が、結果的にすべて幸いとなっていた。
 ようやくキリが着いて部屋に戻ると、一気にのどの渇きが襲ってきて、亜佳音はトッポが入れてくれた冷たいサイダーを飲み干した。
「はぁあ‥‥」
 大きくため息をつく亜佳音。
流したトイレの水音が収まったそのとき、トッポが鍵を開けて入ってきた。
「あかねちゃん、いま部屋を開けてもらってるから‥。」
 まるで自分の事のようにうれしそうな顔で言う彼に、亜佳音は申し訳ないような気がして、落ち着いた声で「ありがとう!」と答えていた。
(ふぁぁ‥危なかったよぉ‥‥)
 ふくらみきった膀胱がまだ収まっていないのか、下腹部に少し違和感を感じながら、亜佳音はやっと自室に入ることが出来た。
(たばこの煙に酔って‥頭が痛くなった事にしよっと‥‥)
 トッポにもみんなにも、どうしてもおしっこの事は言えないので、亜佳音はそう言ってごまかそうとまで考えていた。

 初めて激しいおしがまを体験した亜佳音であるが、幸い膀胱炎になることもなく、翌日は元気にアドベンチャーワールドに行って、思い切り楽しい時間を過ごしたのであった。



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