おしがま優里亜 2




 あこがれを抱いていた慎吾との遊園地初デートで、激しいおしがまを体験してしまった優里亜は、それが気が遠くなるような体験であったにもかかわらず、日が経つにつれてその苦痛が懐かしくさえ思い出され、そんな風に思う自分は少しおかしいのではないかと思い悩むようにもなっていた。
 慎吾とはあの日の数日後、また塾帰りのコンビニで立ち話をしていたが、彼は別れ際のしんどそうな優里亜の事がかなり気がかりだったと言っていた。
優里亜は「緊張していただけだから心配しないで!!」と笑顔で応えていたが、内心は気づかれていたのではないかとハラハラし、その反面、優しそうな慎吾の顔を見ているうちに、また彼の前でおしがまをしてみたい‥と、なぜか思ってしまった。
 11月も下旬になると京都はかなり冷え込んできて、北山しぐれと呼ばれる霧雨のような雨が降りだすと、いよいよ冬の到来が近いと言われている。
 そんなある日の放課後、優里亜は少し尿意を感じたまま塾に向かい、講義を受けている時もずっとおしがまを通していた。
もちろん自習室へ移動する時もトイレに寄っていない。
その部屋はまだ暖房が入っていないため、ナマ足でいる優里亜はかなり堪えていたが、それでもおしがまのままで頑張って問題を解いていた。
しかしそんな状態でまとまな学習が出来るはずもなく、アルバイト講師の慎吾は落ち着きがないその様子に気づいてか、何度もチラチラと優里亜の方を伺っていたが、自習中は声を掛けないことが原則になっていたので、見て見ぬふりをしていたようであった。
 その後、優里亜は急いで自転車をこいでコンビニに向かった。
店の表に自転車を止め、すぐに後を追って来るであろう慎吾のバイクを待つ。
しばらくしてやってきた慎吾が、体調でも悪いのかと心配そうに聞いてくれた。
その優しそうな声がたまらない。
優里亜は平気だと答えたが、じっと立っているのが辛くて体を左右に揺らし、足は内股になって両ヒザをすりあわせるような動きを止められずにいた。
膀胱はすでに満タン状態になっていたが、慎吾の前で、今にも漏れ出しそうなその激しい尿意を堪えている自分に酔いしれて「寒い寒い!!」と言いながら、ピョンピョンとあたりをはね回って尿意をごまかし、慎吾との短い時間を自分なりに演出していた。
 しかしそれもすぐに限界が訪れ、今度は逆に慎吾が「帰ろう!」と言ってくれるのを願うようになってしまった優里亜は、わざと「さむい〜っ!」と叫びながら体をくねらせてアピールしていた。
 そのままいつもの交差点まで自転車を押し、そこで慎吾と別れると大急ぎで家路に向かったが、
(ぁあぁ、もう漏れちゃうもれちゃうぅっ!!)
 と、一人になったことで緊張が緩みかけているおしっこを必死で堪え、家までのかなりきつい上り坂を、サドルにワレメを押しつけるようにして必死で自転車をこいで行った優里亜であった。
 やっとの思いで家にたどり着くと、玄関先に自転車を放り出したまま飛び込むようにしてトイレに走り、パンツを下ろして便座に腰掛けると、すぐにでも吹き出しそうになっているおしっこを必死の思いで我慢しながら、そっとワレメに手を伸ばして
(やっぱり‥‥!!)
 と、あることを確認していた。
手を添えたそこは、おしっこではないものでトロトロになっている。
 優里亜はあのデートの日、おしっこでグショグショになってしまった下着のまま家に入り、家族に見つからないようにトイレで後始末をしているときに、その現象に気がついた。
これまでから何度もおしがまをした事はあったが、このようになった事など覚えがなく、はじめはかなり驚いた優里亜であったが、無意識のうちにそのまま指を動かしてしまったことで、そのときにまた新しい発見も知ってしまった。
もちろん17歳の優里亜である。その行為が何であるかは理解していたが、
(こ‥これって‥‥いけない事‥してるのかなぁ‥?)
 と、罪の意識のようなものも感じていた。
それでもその指の動きを止めることが出来ず、その刺激でまだ残っていたおしっこが吹き出して手を濡らしても、それもまた気持ちよくさえ感じて、おしがまがエッチな感覚へと結びつている事に初めて気づいたのであった。
同時に、それはひとりエッチ初体験の日にもなっていた。

 それからも優里亜は何度もおしがましながら塾に通っていた。
しかし12月に入ると寒さはいっそう厳しくなり、慎吾と会うコンビニまでどうしても我慢できない時もあって、途中で塾のトイレに駆け込んでしまうこともしばしばあったが、そんな夜はもったいないことをしてしまったと後悔したり、逆に、いつまでもこんなことをしていては、そのうち膀胱炎になってしまうのでは?‥とか、あるいは慎吾の目の前で限界になってしまって、とんでもない事を起こしてしまうのでは?‥と、不安になることもあった。

 慎吾はすでに名古屋で就職が決まっており、その準備のために、受験生達が一段落する2月末で塾を辞めると言う。
年が明け、みぞれのような雪が降る寒い夜に、いつものコンビニでその事を知らされた優里亜は驚いて、我慢していたおしっこを漏らしそうになっていた。
胸が詰まる‥。いつかこういう日が来ることは判っていた。
しかし優里亜はその事が納得出来なかった。
確かに成績が上がったご褒美として遊園地には連れて行ってもらったが、デートらしいデートというのはそれ一度きりで、初詣すら一緒に行っていない。
あとはいつもコンビニでの立ち話だけ‥‥。
はたしてこれが「つきあっている」状態と言えるのか、優里亜はそれがずっと気になっていた。
 優里亜から「好きです!」と言った事はないが、彼からもその言葉を聞かされた事がなく、いったい慎吾は自分のことをどう思ってくれているのだろうと、それが確認できないまま日が過ぎてしまった事が悔しくてたまらなかった。
ひょっとしてほかに彼女がいるのだろうか?、もしいないのなら、私とつきあっていると言う確証がほしい‥‥。
いや、もうすぐ離ればなれになってしまうのであれば、つきあっていたという過去形でも構わない。
それだけが優里亜の願いであった。
 それでも慎吾の優しそうな顔を見ていると、そう詰め寄って聞き出すことが出来ず、それ以上そこにいると大声で泣き出してしまいそうになって、優里亜はそのままコンビニを立ち去ってしまった。
慎吾が追ってくる様子はない。
「ばかあ〜っ!!」
 コンビニから5〜60メートルほど離れた所まで来たとき、優里亜は自転車を止めて振り返り、大きな声でそう叫んでまた走り出していった。
その顔は、容赦なくたたきつけるみぞれ雪とあふれ出た涙で、グシャグシャになっていた。

 胸の奥がズ〜ンと重くなって、その日から優里亜は食欲もなくなり、勉強の意欲もすっかり落ちてしまった。
それでも塾は休もうとは思わず、次の受講日にもきちんと出席していた。
もし休んでしまったら、その間に慎吾がいなくなるのでは!?、という不安があったからと言える。
 自習室でも気が入らない優里亜。
それを察知して慎吾がトントンと机を叩く。
無視している優里亜に対し、何度目かに慎吾は頭をポンポンとたたき出した。
顔を上げて「イ〜ッ!」をする優里亜。
慎吾は困ったような顔をして、少し離れると、しばらくしてまた机をトントンとたたき、前にそうしたようにそっとメモ書きを置いていった。
「今夜コンビニ前で大反省会!!」
 それにはそう書かれていて、優里亜はまだコンビニで会えるのだという嬉しさと、その先に待っている寂しさが交叉して、複雑な思いのままその用紙をそっと手のひらに握りしめていた。

「なに怒ってるんだよ?」
 遅れて到着した優里亜に、慎吾はいきなりそう切り出してきた。
別に怒ってなんかいないと優里亜が言うと、
「じゃ、なにふてくされてるんだ?」
 慎吾はまたそう聞いてきた。
なにか話すと涙が溢れそうになって、優里亜がずっとうつむいたままでいると、慎吾は店で暖かい缶コーヒーを買って来て、それを手渡してくれた。
 冷え切っている体にそれは心地よく、半分ほど飲むと優里亜も少し落ちついてきて、慎吾ともうすぐ会えなくなることが寂しいと伝えることが出来た。
それを聞いて慎吾はしばらく考えるようにしていたが、
「名古屋と言ったって京都からたった150キロだし、新幹線だと1時間だよ。」
 と、会いたくなったらいつでも会える距離だと言って、うつむいている優里亜の耳元でそう言った。
それが慎吾の精一杯の慰めの言葉である事は優里亜にも判った。
自分自身も覚悟を決めなければいけないことも理解出来た。
ならば尚更「つきあっている」証がほしい。
優里亜はそう思ったが、やはりその事を口には出せず、
「‥ねぇ‥いつ名古屋に行くの?」
 出た言葉はそれであった。
「新人研修が3月の○○日から始まるからね、その4日前あたりかなぁ‥」
 しばらくは会社の独身寮に入ると慎吾は言う。
「だったら‥それまでに‥‥」
「ん?」
「それまでにまた‥‥どこか連れてってほしぃ‥‥」
「ん、そうだな‥‥2年生終了記念で‥‥どこか行こうか?」
「ほんと!?」
「ああ、約束するよ。」
 言い換えればお別れデートになるのであるが、優里亜はそれでも構わなかった。
その夜、初めてお互いのケータイ番号とメアドを交換した二人。
しかしそれでもまだ「つきあっている」証の言葉は聞き出せないでいた。

 お互いの環境と立場を尊重して、直接電話することはなかったが、その日からふたりのメール交換が始まって、優里亜はまた有頂天になっていた。
 2月の下旬、いつものように塾に行くと、その日は慎吾の姿がなかった。
心配になってメールしても返事が返ってこない。
思いあまって事務の人に聞き出すと、風邪をひいて寝込んでいると言う。
ひどいんですかと尋ねると、熱が出て、病院で診察を受けて点滴もしたと言う。
確かに昨夜のメールに「風邪をひいたかも知れない」とあったが、まさかそんなにひどいとは思ってもいなかった優里亜は、
(お見舞いに行かなくちゃっ!!)
 とっさにそう思い、明日お昼から行こうとその場で決めつけて、早々に塾を後にしていた。
 家に帰ってからも何度かメールしてみたが、やはり返事は帰ってこない。
優里亜は心配でたまらず、その夜はなかなか寝付くことが出来なかった。

 学年末試験を控え、午後から試験休みとなるその日、授業が終わると同時に優里亜は学校を飛び出してバス停に走った。
慎吾は百万遍(ひゃくまんべん)という地域の古いアパートに住んでいる。
前にコンビニでの立ち話でその事を聞きだしていて、その内容からおおよそ所在の見当はついていた。
 北大路バスターミナルでいったんバスを降り、風邪にはビタミンCが必要だからと、果物を買いそろえて再びバスに乗った優里亜。
今から行く事をメールで伝えるかどうか悩んだが、突然訪問して脅かせる方がいいと結論づけて百万遍でバスを降り、自分の勘だけを頼りに周辺を探して歩いた。
 寒空の中、およそ30分ほど歩き回ると、見覚えのある慎吾のバイクを発見し、そのアパートを探し当てることが出来た優里亜は、嬉しさと緊張で息が詰まりそうになった。
 そこはかれこれ3〜40年は経っていると思われるほど古い建物で、学生相手のためかあまり管理がされていないらしく、雨漏りのシミやはがれ落ちたコンクリート壁が目立つ、お世辞にいい環境とは言えない存在であった。
(すごいところに住んでるんだぁ‥‥)
 なんとなく恐怖にも似た感覚を覚えたが、それでも優里亜は早く慎吾の顔が見たくて、そのアパートに入っていった。
2階に上がると慎吾の部屋はすぐに見つかり、木製のドアを恐る恐るノックすると、「はい!」といつもの慎吾の声が部屋の中から聞こえてきた。
「わたしです〜!!」
 と声をかけようとする前にドアがガラッと開けられ、パジャマの上に綿入れのチャンチャンコを羽織った慎吾が顔を出してきた。
「優里亜!!、どうしたんだ?」
 制服の女子高生が一人で立っていることに、慎吾は驚いているようであった。
「ぁ‥風邪ひいたって聞いたから‥その‥お見舞い‥‥」
 優里亜は緊張がたかまって、思っていることがうまく言葉にならない。
「わざわざ来てくれたんだ。嬉しいけど‥もう治ってるんだよ。」
 慎吾はあっさりとそう言ってのけて優里亜を驚かせた。
確かに少し鼻声ではあるようだが、見たところ元気そうである。
熱が出たのは事実だが、そんなに大した事はなく、塾に出ようと思えば出られる状態であったが、生徒に風邪をうつしてはいけないからと、塾側から休むように指示されたと言う。
「‥何度もメールしたのにぃ‥‥」
 優里亜が少し恨めしそうに言うと、慎吾は昨日行った病院にケータイを置き忘れてしまって、このあと取りに行くところだと言う。
「もうおぉっ、人騒がせなんだからぁつ!!」
 一気に気が抜けてしまって泣き出しそうになっている優里亜に、
「せっかく来てくれたんだから、汚いところだけど、さ、入って!!」
 慎吾はそう言いながら部屋に招き入れてくれた。
「今ちょうどラーメンを食うところだったんだ。昼飯は食ったの?」
 昼食も取らずにここへ駆け込んでいた優里亜は、そう聞かれ急に空腹を覚えた。
慎吾は一緒に食べようと言って、玄関横の狭いキッチンに立ってパジャマ姿のままでラーメンを作り出した。
その後ろ姿はコッケイにもカッコよくも見え、思わず駆け寄ってその背中にしがみつきたい衝動に駆られ、その感情を抑えて部屋の中を見回すと、六畳ほどの狭い部屋の中はK大生らしく難しそうな本であふれかえり、洗濯物が入っているのか、開いたままの段ボール箱が無造作に2個積み上げてある以外は、それほど散らかっている様子ではなく、ふすまを開けたままになっている小さな押し入れも、それなりに整頓されているようであった。
テレビやステレオコンポも揃っているが、いずれもかなり年代物のようである。
ユニットバスと思われるスペースは玄関のすぐ期にあった。
見たところ女性の手が加わっている様子がないことを感じて、優里亜はなんとなくホッとしていた。
 しかし部屋の中は決して暖かくなかった。
コタツにはなぜか電源が入っておらず、小型の電気ストーブだけが唯一の暖房器具であったため、コートを脱いだ優里亜は寒さで少し震えていた。
「はーいお待たせっ、特性のサッポロ一番みそラーメンだぞーっ!!」
 出てきたそれを見て目を丸くする優里亜。
二人分のラーメンは丼ではなく鍋に入ったままで、箸ですくいながら手元の茶碗で食べるという。
そんな食べ方など経験がなく、はじめ少しとまどっていた優里亜は、やがてお互いのおでこをくっつけるようにして鍋をつつく動作がおもしろくなって、キャッキャッとはしゃぎながら、慎吾の箸を押しのけるようにしてラーメンをすくい上げ、かき玉風のスープも争って飲んでいた。
 ラーメンをすすったことで体が温まり、優里亜は慎吾が入れてくれたコーヒーを飲みながら、このアパートでの生活について聞きだしていた。
エアコンはなく、ヒーターが壊れているコタツと電気ストーブだけで冬を過ごし、夏は古びた扇風機ひとつで暑さを乗り切ってきたと自慢げに言う慎吾。
裕福な家庭に育った優里亜には想像しがたい話であったが、それでも楽しそうにそれを話す慎吾に、なにか新鮮なモノを感じていた。
 食事は昼は主に学食を使うが、あとはほとんど外食かコンビニ弁当だという。
こんなときは栄養を採らなければと、何か作って帰ろうかと優里亜が提案すると、
「いやあ、コンロが一個しかないし、それにまともな鍋も食器もないからさ‥‥」
 慎吾はお礼を言いながらも優しくそう断った。
確かに小さなガスコンロがポツンと置かれただけの質素な台所で、まともに料理が出来る環境ではないことが覗えた。
それでも野菜不足を気にして言うと、
「じゃ、病院へケータイを取りに行くついでにさ、なにかいい物を選んでくれよ。」
 慎吾はそう言って買い物に出ることを告げた。
優里亜は快く引き受け、パジャマを着替えるように言ってコートを羽織った。
 玄関を出ると、比叡下ろし(ひえいおろし)の冷たい風に素足がさらされ、
(ぁ、なんか‥トイレ行きたい感じ‥‥)
 少し尿意を感じた優里亜。
学校の授業が終わると同時にここへ向かった為に、優里亜は3時限目が終わった休み時間にトイレに行ったきりになっている。
それから約3時間が経っていた。
(‥トイレなぁ‥あっそうだ、病院で行けばいいや!)
 そんなことを思いながら慎吾を待つ優里亜のそばを、他の学生数人が興味深げに眺めていった。
男子学生しかいないくたびれたアパートに、コートを羽織っていても短いスカートの制服姿で立つ優里亜の存在は、かなり目立っているようであった。

 歩いて15分ほどの病院に向かう二人。
しかし慎吾は手をつないでくれない。
ひらパーではそうであっても、やはりここでは人目を気にしているのであろう。
肩を並べて歩いていても心許なく、歩きにくくさえ感じてしまう。
手をつなぐと言うことが、すごく安心感と安定感をもたらすのだと、優里亜はこのとき再認識していた。
 病院の受付で慎吾がケータイの件で来たことを告げているとき、優里亜はそこから少し離れた所に立って待合室のトイレを探していた。
それはすぐに見つかったので、慎吾がやりとりしている間に行ってしまおうと一歩踏み出しかけたが、黙って姿を消すのもどうかと思い、仕草でその事を伝えようかと慎吾の方を振り返った。
するともう用件が済んだのか、慎吾は受付の人にお礼を言いながら頭を下げている。
(え、もう終わっちゃったのぉ!?)
 しばらく待つ時間があるだろうと思っていたのに、予想よりも早い展開になってしまって、優里亜はトイレに行くタイミングを逃してしまった。
 そのまま病院を出てスーパーに向かう。
(やっぱりトイレ行っておきたかったなぁ‥‥おしっこしたい‥‥)
 慎吾のアパートを出た時に感じだした尿意は、わずか20分ほどの間にみるみる高まってきて、優里亜に不安がひろがった。
 それでもスーパーに到着すると、慎吾の野菜不足を補うためにと、優里亜は
「お弁当なら、必ずサラダとかほうれん草のソテーとか一緒に買ってね。」
「外食の後はさ、こういった野菜ジュースかトマトジュース飲んだ方がいいよ。」
「ポテサラはね、日持ちしないけどビタミンCも壊れてないし、繊維も多いよ。」
「面倒なときはさ、バナナ1本食べるだけでもいいんだからさ‥‥」
 などと得意げにアドバイスしながら、慎吾を連れて店内を歩き回っていた。
それは強くなってきた尿意をごまかすためでもあったようである。
 いくつかの食材を買い込んでスーパーを出ると、また寒い風を肌に感じて優里亜の尿意は更に激しいものに変わりつつあった。
寒さで体が冷えてしまった事が大きく作用しているようだが、あるいはラーメンのスープやコーヒーまでもが、すでに膀胱を目指していたのかも知れない。
(‥おしっこしたい‥けど、お部屋のトイレって‥なんかやだしなぁ‥‥)
 優里亜は慎吾の部屋のトイレを借りる事に抵抗があった。
恥ずかしいというのはもちろんだが、さきほど部屋を出るときにチラッと確認したユニットバスは、入り口のドアが曇りガラスになっていて、バスタブやその手前にある洋式便器がボンヤリと浮かび上がって見えいたからである。
一人暮らし用の部屋であるため、それほどプライバシーに配慮がされているとは言えない状態であった。
まさか慎吾が覗くとは思いたくないが、ガラスドアに対する抵抗はぬぐいきれない。
 そんなことを思いながら歩いていると、それからものの数分もしないうちに、尿意はまた一段と大きくなって優里亜に迫ってきた。
(なにこれぇっ!?、もうおしっこ漏れそうだよぉ‥‥)
 おなかはすでにパンパンになっていて、今にも漏れ出してしまいそうな恐怖に優里亜はおびえだした。
おのずと歩く速度が遅くなり、慎吾が振り返って気にかけ出す。
「さむいよ〜っ!」
 優里亜は両手をコートのポケットに入れ、それで張りつめているおなかをかばうようにして、体を前屈みにしながら肩をすぼめてカムフラージュしていた。
(も‥もぅダメ‥早く戻ってぉ‥おしっこしたいぃっ!!)
 もうイヤだとか恥ずかしいとか言っている場合ではない。それほどまでに優里亜の膀胱は張り詰めていた。
(ぁあぁ‥おしっこ漏れるぅぅ‥‥)

 ようやくアパートの玄関先まで戻ってくると、そこには数人の学生たちがたむろしていて、
「おっ、慎吾が彼女を連れてるじゃん!」
「おおっ、高校生じゃないか!」
「おいおい、そりゃあ犯罪だぞぉ!」
「へぇえ、慎吾もついに彼女を持つ気になったか!?」
 と、口々にはやし立てた。
慎吾は「ばか言えっ!」と軽く流しながら、それでも悪い気がしないのかニコニコしながら手を振っていた。
(慎吾さん、ついに彼女を持つ気になったかなんて言われてる。)
 漏れ出しそうなおしっこを我慢しながらでも、その言葉だけは聞き逃さずにいた優里亜である。
(よかった、やっぱり彼女はいなかったんだぁ♪)
 嬉しくなる気持ちを抑えきれず、恥ずかしそうに下を向いたまま逃げるようにして慎吾の部屋に入り込んでいった。
 しかしいったん部屋に入ってしまうと、今度はトイレに行くタイミングがつかめない。
慎吾よりも先に部屋に入ったものの、そのままトイレに飛び込んでしまうと、ずっと我慢していたことを知られてしまうし、ガラス越しにその姿まで見られてしまうかもしれれない。
とりあえず優里亜はコタツの上に買い物袋を置くと、マフラーだけ取り去ってコートは脱がずに小さな電気ストーブの前にしゃがんでスイッチを入れ、そのわずかなぬくもりを頼りに、かじかんでしまった手でヒザをさすっていた。
「なにか‥暖かい紅茶でも入れようか?」
 寒そうにしている優里亜に気を遣って慎吾が言う。
「ぁ、うぅん‥いまは何もいらないょ‥‥」
 水分を補給することとは全く逆の欲求に激しく襲われている優里亜である。
(ぁあ‥もうおしっこっ‥‥もう限界だよぉ‥‥)
 わずか1時間ほどの間に、想像を遙かに超える勢いで高まった尿意に、優里亜はうろたえていた。
おしっこがしたくてしたくてたまらない。
なにか言葉を交わして、そしてタイミングを見てトイレを借りようと、優里亜は慎吾に投げかける言葉を探したが、混乱している頭には何も浮かんでこなくて、
「ねぇ‥・ほんとに彼女‥・いないの?」
 あろうことかずっと心に秘めていて、前から聞きたい聞きたいと思っていた事が言葉となって出てしまった。
「はぁ?」
 慎吾は驚いたような声を出す。
もう今さら後には引けなくなってしまった優里亜は、
「さっき‥みんながそう言ってた‥じゃん‥」
 と、玄関で冷やかされた事を持ち出した。
慎吾は、確かに今はつきあっている人はいないと言って笑う。
「‥じゃぁさ、私は‥‥彼女ではない‥の?」
 膝を崩して横座りになり、ストーブに手をかざしながら、優里亜は背中越しにとうとうそこまで聞いてしまった。
「ぁ‥いやまぁ‥その‥」
 明らかに慎吾は答えにくそうである。
それでも優しく、塾の生徒と講師という関係は抜きにして、前から優里亜のことが気になっていて、出来ることならつきあっていきたいという気持ちは持っていた。
しかし17歳という現実の壁があって、それ以上は踏み出せなかった。
それでも優里亜のことをずっと見ていたくて、思わせぶりな態度を取ってしまったのかもしれない。
優里亜が18歳以上になった時、離れていてもその気持ちが変わらずにいたならば、その時は堂々とつきあうことが出来る‥‥。
 慎吾は言葉を選びながら、説くようにそう言った。
それは決してその場を取りつくろったような内容ではなく、慎吾の真心がこもっていると感じられて優里亜は涙ぐむ。
「わたし‥ずっとずっと‥慎吾さんのこと‥あこがれて‥‥」
 そこまで言って優里亜は言葉を詰まらせた。
(ぁっ‥‥おしっこ‥‥)
 もう我慢が出来ないほどの強い排尿感が優里亜に襲いかかる。
自分が言い出しっぺとはいえ、こんな大切な話をしている時でもおしっこは待ってくれない。
(‥ぁぁ、慎吾さんに‥私がおしっこ我慢してるの‥気づいてほしいなぁ‥‥)
 優里亜はふとそんな風に思った。
それは、慎吾の前でこんなにもおしっこを堪えている自分のことを知ってほしいという、説明しようのない複雑な思いであった。
あるいはそれを知ってもらうことで、思い切り優しくされて甘えたいと感じていたのかもしれない。
(慎吾さんだから‥おしっこ‥我慢してるんだよぉ‥‥)
 許されるなら、そう叫んでしまいたい優里亜。
しかしそんな思いをぶち壊すかのように、現実のおしっこはもうあふれ出しそうになっていて、激しく優里亜を責め立てていた。
言うなればもう我慢の限界は超えていて、精神力だけで持ちこたえていると言っても過言ではない状態であった。
 しばらく沈黙した後、
「あのね‥わたし今‥試験週間なの‥‥」
 と、唐突にそう切り出して、
「だから‥もぅ帰るね‥」
 慎吾の顔をまともに見ることが出来ないまま言葉を続け、
「その前に‥‥ちょっと‥トイレ‥」
 ようやくその言葉を出すことが出来た優里亜である。
手早くコートを脱ぎ、コタツに手をついて立ち上がってみたものの、膨らみすぎたおなかが重くて体を伸ばす事が出来ない。
さらに、重力によって膀胱が押し下げられたせいか、おしっこがその出口をこじ開けそうになって、思わず手で押さえてしまいそうになり、ハッと気づいてその手でスカートの裾を直すフリをした。
体をこわばらせて一点だけに力を込め、ゆっくりと慎吾の横をすり抜けようとしたとき、またおしっこが出てしまいそうになって、あわてた優里亜はその場で少しバランスを崩してよろめいてしまった。
とっさに立ち上がった慎吾が、優里亜の両腕をつかんでグッと引き寄せて支えてくれたが、その瞬間、シュ〜っと一筋のおしっこがパンツの中に溢れ出し、
「ひっ!」
 優里亜は思わずそう叫んでしまった。
よろけて力が入ったせいではなく、慎吾に抱き寄せられた事にドキッとし、思わず体が反応してしまったようだ。
その量はかなり多かったのか、薄いパンツ1枚では吸収しきれなかったようで、すぐに優里亜の足に伝い出してきた。
精神力だけでそれ以上の決壊を押しとどめ、優里亜は慎吾の腕からすり抜けるようにして、
「こっ‥絶対に来ないでよっ!」
 早口にそう言いながら体をひねり、ユニットバスに向かって小走りになったが、その振動でまたジュワワッとおしっこがあふれ出す。
先ほどよりは少ない量ではあったものの、もう完全に決壊は始まっている。
(待ってよぉっ!!、まだダメだよぉっ!!)
 声に出して叫びたくなるほどの危機を乗り越え、やっとの思いでドアを押し開けると、勢いよくそれを閉めながらスカートをめくり上げ、パンツを引き下げながら便器に腰掛けた優里亜。
その時はすでにおしっこがはじけ出されていて、バシャバシャと便器の水たまりに跳ねる音を響かせてしまっていた。
あわてて背中に手を回して水洗レバーを引いたが、シュルルルルル‥‥と、冷えた体にこれでもかと溜まりこんだおしっこの音が、水音にかぶさって響いていた。
(はぁぁぁ、やっとおしっこできたぁっ!!)
 もうその喜びでいっぱいになり、他には何も考えられなかった優里亜である。
しかし想像を超えた量を我慢していたために、水洗の水音が弱くなっても、まだシュルルルとおしっこは出続けていて、ハッとその事に気づいたものの、追加の水を流すのも気が引けて恥ずかしいと思い、出来るだけ力を入れておしっこの音を押さえながらペーパーホルダに手を伸ばした。
(えっ、紙が少ししかないじゃん!!)
 残りわずかしかないトイレットペーパーに愕然とした優里亜。
通常の後始末だけならそれで充分かもしれないが、お漏らしで濡れてしまったパンツを処理するにはとても足りない量であった。
しかも足に伝ったおしっこの始末もしなければならない。
使い切ってしまうのは恥ずかしくて気が引けるが、それでも足りない。
(やばいょ‥どうしよぅ‥!?)
 ブレザーやスカートのポケットを探ってみたが、ハンカチしか入れていない。
しかたなく優里亜はトレペで通常の後始末と足を拭き取り、濡れたパンツからしずくが垂れないようにと、その布地にハンカチを押し当てて吸収させた。
そしてそれをナプキンのようにしてパンツに挟み込み、スカートを直してユニットバスから出て行った。
ニオイが出ないか心配であったが、今更どうしようもない。
 慎吾は部屋の奥にあるテレビを見ていたようである。
こういう心遣いがうれしくもあり、かえって恥ずかしくも思った優里亜であった。

 バイクで送っていこうかと慎吾が言う。
短いスカートでバイクにまたがるのは抵抗があったが、バスだと周囲におしっこのニオイを気にしなければならないので、優里亜は素直にその誘いを受けた。
ヘルメットをかぶり、スカートを気にしながら後ろにまたがると、慎吾はしっかり抱きついていろよと促す。
恐る恐る手を回していた優里亜であるが、走り出すとその風圧や振動で振り落とされそうになって、思わずギュッとしがみつくようになっていた。
(胸が‥胸が慎吾さんにあたってるぅっ!!)
 さほど大きくはないが、しっかりと慎吾の背中に密着している事に、優里亜はうれしさと恥ずかしさを感じていた。
 メットをかぶっているとはいえ人目に付くのはよくないからと、やや大回りにはなるが北山通りへ迂回するという。
優里亜はどこをどう走っても、こうして慎吾に抱きついていられるのな構わないと思っていた。
(けど‥寒いよぉおっ!!)
 素足が容赦なく風を切り、優里亜の体はまた一気に冷えていった。
信号待ちなどで止まったとき、風で乱れたスカートを直さなければならない。
 そうして植物園の裏手を超えたあたりまで走って来ると、優里亜はまた尿意を感じだした。
大きく足を開いているために、おまたにも冷たい風が入り込んで、濡れたパンツがさらに冷たく感じられて、それがまたおしっこを誘発しているようであった。
(ひぇえ‥またおしっこしたくなってきたぁっ、早くぅっ!)

もう1話あるよ〜♪

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