二人の軌跡 17(ミカ大ピンチ!)




(ミカのつぶやき)
 翔ちゃんの転勤を知らされた次の週、私たちは名古屋に居ました。
そう、翔ちゃんの住むところを探しに来たんです。
「いいよ、俺一人で探すから。それに一人暮らしなのに二人で不動産屋に行ったらおかしいだろ?」
 翔ちゃんは少し迷惑そうに言っていましたけど、
「え〜、だけど翔ちゃんの住む所は知っておきたいしぃ、それに私がお泊りに来た時の使い勝手ってものがあるでしょ。いいじゃん!!」
 なんか凄いこじつけみたいな言い方になっちゃたけど、本当はエッチなビデオ屋さんが近くにないかとか、お隣さんが美人OLさんではないかとか、そういった事をチョット監視しておきたい気分になっていた私でした。
 あらかじめネットで情報を仕入れていた翔ちゃんは、通勤のことを考えて地下鉄東山線で7つ目の、覚王山と言う駅の近くの物件を3つほどリストアップしていました。
連絡してあった不動産屋さんに顔を出すと、若い女性の担当者さんが対応してくれました。
「ご連絡ではお一人暮らしと仰っていましたけど、新婚さんでしたか?」
「あ、いや、これ妹です。旅行気分でついてきちゃったんで‥‥。」
(も〜っ妹ってなによぉ、ちゃんと彼女って言えばいいじゃん!!)
 にわかに不機嫌になる私。
「あらそうだったんですか。ふふふ、可愛い妹さんがいていいですねぇ。」
 ありゃ、こりゃ完璧に見透かされているかなって、そんな感じがしないでもない応対です。
 翔ちゃんの会社は家賃を相当負担してくれるらしく、ワンルームかなって思っていたら最初に見て回ったのは対面式キッチンリの1LDKでした。
LDKだけで10畳以上あって、もう一つの寝室は8畳くらいありそうでした。
もちろんバスとトイレは別々。
7階建ての4階でしたけど、結構見晴らしが良くて、
「わあきれいっ!、ねえもうここにしなよ!!」
 なんて、私は勝手なことを言っていました。
翔ちゃんは、組み込まれたクローゼット等を開けたりしながら、お部屋の確認をしています。
私は一人ベランダに出て、この見知らぬ土地の風景を眺めながら、ここに来るまでの事を思い返していました。
そう‥、ちょっとおしっこがしたくなっていたんです。
(えっとぉ、翔ちゃんちの朝食でコーヒーを2杯飲んでぇ、あ、新幹線の中でウーロン茶のペットボトルを全部飲んでいたっけ!!)
朝起きたときに行ったきりで、もう4時間ほどトイレに行っていませんでしたから、おしっこがしたくなっても当然だったんです。
このお部屋のトイレを借りようかと思ったけど、使っていいのかどうかも判らなかったから、私はそのまま我慢することにしました。
「さあ、ミカ次行くぞ!」
 ちょうどそんなとき、ベランダにいる私は声をかけられました。
「はぁ〜い、翔‥‥お兄ちゃん‥‥」
 危ない危ない!!,翔ちゃんは私を呼び捨てでいいけれど、私はやっぱりお兄ちゃんと呼ばないと、さっきのシチュエーションに合いません。
(も〜、だから彼女だって言えばいいのにぃっ!!)

 次に連れて行かれたのは駅の反対側へ歩いて10分くらいの、まだ工事中の10階建てマンションでした。
少し内装工事が残っていて3月末の完成になるとのことで、私たちは1階にあるモデルルームを兼ねた販売センターに通されました。
分譲と賃貸が混じっていて、家族向けの大きな部屋は全て分譲、ワンルームや独身向けが賃貸になっているそうです。
 この日はポカポカ陽気の日で、歩くと少し汗ばむほどだったので、私はノドが乾いていました。
だから大きなコップで出された烏龍茶を、何も考えずにゴクゴクって飲み干してしまって、それを見た担当者の方が「どうぞ!」なんてまた並々と注いでくれました。
それをまた半分ほど喉に流し込んで
(あっやばっ、おしっこしたかったんだっ!!)
って思い出したノンキ者の私です。
販売センターの中をグルリと見渡して、トイレらしき存在を確認していました。
 一通り説明を聞いた後、翔ちゃんは部屋を見てみたいと言いましたけど、今日は仕上げの内装屋さんが入っているので無理とのことでした。
「お仕事の邪魔はしませんから、せめて雰囲気だけでも!!」
 と翔ちゃんは頼み込んでいます。
モデルルームとさほど変わらないと言っていた担当者さんも、
「‥そうですか。では申し訳ありませんがヘルメットを被っていただけますか?」
 と、根負けしたような感じでそう言って、真っ白なヘルメットを二つ手渡してくれました。
被ってみると、ブカブカで頭が重たくて首からフラフラする感じがします。
鏡に映すと、なんだか私も翔ちゃんもサマにならなくて変な感じ‥‥。
それがおあかしくて一人でクスクス笑ってしまいました。
 エレベータで1LDKタイプのフロアに案内されると、あちこちで壁紙を貼ったり掃除をしたりしています。
「気を付けて下さいね!」
 そう注意されながら、ヘルメットで重い頭をふらつかせてヨチヨチ歩きのようにしてついて行く私。
 いくら陽気が良いと言っても、日陰に入るとまだ寒さは残っています。
それにマンションの階段やいろんなところから吹き抜ける風がミニのスカートに入り込んで、それが足元を冷やすから、またおしっこの感覚を呼び戻されていた私。
だんだん不安になってきて、入ったお部屋でトイレを使おうかと思いましたけど、内装工事の男の人がいる中でトイレになんか入れないし、それに音なんか聞こえたらと思うと恥ずかしく思えて、やっぱり言い出せないでいました。
 翔ちゃんは工事の人達に「申し訳ありません」と言いながら、部屋の中をゆっくりと眺めています。
工事の人達は私達のことを怪訝そうに見ていましたけど、その中で一番若い職人さんが、私のミニの足元をジロジロ見ているような気がしました。
「彼女!、そこ壁紙張ったばかりだから寄りかからないでね。そうだなぁ、廊下は物が通るから‥なんならこっちのトイレの所で彼氏さん待ってるといいよ。」
 その若い職人さんが言いました。
私が壁のすぐそばで体を揺すっていたのを見て、その人は声をかけてきたんです。
ジロジロ見られて嫌だなと思ったけど、私の行動が仕事の邪魔になっていることに気付いて、それで怒りもしないで、優しく声をかけてくれたのでした。
言われるままにトイレの入り口付近に移動したんですけど、でも‥そこで待つってすごく大変な事です。
だってトイレを見たら条件反射のように尿意が湧いてくるでしょ。
でも今は入れない‥‥。
(あぁ‥おしっこしたいよぉ‥‥けど我慢しなきゃ‥‥)
 何もすることが無く、気を紛らわせるための会話も無い状態でトイレの前に突っ立っているなんて、もう地獄です。
おしっこしたいぃぃっ!!って臨場感みたいなものばかりがどんどん迫ってきます。
内装工事で接着剤とかいっぱい使うからか、ベランダの窓もドアも開け放ってあるので、風が思い切り良く通って、パンツの中までスースーしてきます。
素足にハイソックスだけなので、その風は寒いほどに感じていました。
薄いスリッパ越しに、冷たいコンクリートの感触まで伝わってきます。
(ねぇ早くぅ‥。おしっこしたいよぉ〜‥)
 心の中で翔ちゃんに念を送ります。
ちょうどその時、奥から翔ちゃんと担当者さんが戻ってきました。
「あれえミカ、そこにいたのか?」
「ふに〜。もう終わったのぉ?」
「ああ、もう1つ見て終わりだからね。」
 まだ見に行くのぉっ!?って叫びたくなっていた私。
「もう1件はここから歩いて5分くらい戻ったところですけど、どうされます。すぐに行かれますか?、それとも下で少し休まれますか?」
 と担当者さんが言いました。
「そうですねぇ、ちょっと疲れちゃったからやすんでからにします。」
 翔ちゃんは私のことなんか気にならないのか、そう言って背中を押します。
これは後で判った事なんですが、翔ちゃんは私がトイレのところにいたから、もうおしっこを済ませていたんだと思ったらしいのです。
(も〜っ、私があんなシチュでトイレなんかできっこないじゃないぃっ!?)

 エレベーターで1階に戻ると
「寒かったでしょう。暖かいコーヒー入れますね。」
担当者さんはそう言って私たちをテーブルに促しました。
出されたコーヒーに躊躇していると、翔ちゃんは
「せっかくだから頂きな。ミカはコーヒー好きだろ!」
 なんて呑気なことを言います。
私がさっきからずっとおしがまちゃんになっているのに、全く気づいてくれません。
仕方なく口をつけたコーヒーは意外なほどおいしくて、冷えた体を温めるにはちょうど良かったんですけど、おしっこはもうあまり余裕が無い感じがして、それが気になって半分くらい残していました。
 担当者の人は、家賃も大差なく新築のこの物件がいかに掘り出し物か、そして賃貸は今の1室が最後だから決めるなら急いだ方がいいと翔ちゃんに説明しています。
なんでもこの近くには大学がいくつかあって、中には医大もあるとか。
そんなお坊ちゃま達は比較的高額な部屋でも綺麗なところを選ぶから、すぐに借り手がついてしまうとか言っていました。
 私はそんなことより、販売センターを兼ねているこのモデルルームのトイレを使わせてもらおうかどうかを迷っていました。
テーブルに隠れたところで足をぎゅっと閉じて、スカートの上から添えた手はシッカリと割れ目の辺りを押さえていました。
「では次の物件に行きましょうか?」
 担当者さんがそう行った時、
(え〜どうしよう‥‥おトイレ借りなきゃ‥今言わないと!!)
 私は少し焦って、切り出すタイミングを探りました。
それなのに翔ちゃんは、お願いしますなんて言って私に立つよう促します。
「では外で待っていてください。私はちょっと準備をしてすぐ参りますので。」
 担当者さんはそう言って他の女性になにやら耳打ちすると、なんとモデルルームのトイレと思わしきドアに消えていきました。
(あ〜いいな〜。自分だけぇっ!!、絶対あれはおしっこだよぉ〜!!)
 そう思いましたけど、翔ちゃんは行くぞ!!なんてもう外に出ようとしています。
体に力を入れて立ち上がると、それだけでフライングしてしまうような感じがして、私はそ〜っと椅子から立ち上がって、心もち内股気味で歩きながら翔ちゃんに付いていきました。
 外に出ると日差しが暖かく体を包んでくれたので、ミニスカートの素足でも寒さを感じなくて、チョッピリおしっこから守ってくれているように感じました。
それでもじっと立っていると、やっぱりおしっこがしたくなってしまうので、足の付け根あたりに力を込めて、ワレメをギュッと閉じるようにして自然に体を少し揺すっていました。
おなかがパンパンでズ〜ンと重く感じていますけど、でも今はどうすることも出来ません。
ここから5分位という距離と時間、そしてその後のことを考えると
(向こうへ着いたら真っ先におトイレ借りよう!!)
 そう意識を切り替えて我慢しました。
いつもなら翔ちゃんと腕を組んで歩くんですけど、今日は兄妹という設定なので、私は翔ちゃんの少し後ろを歩きました。
担当者さんがその先を歩いています。
これは返って好都合で、時々体をくの字に曲げたり、スカートの上からこっそりワレメを押さえたりして、なんとか尿意を紛らわせることができました。
でも‥‥、朝からいっぱい水分を摂っていたこと、4時間以上もおしっこしていないこと、体が冷えたことなんかで、私のおしっこはすでに限界近くまで来ている事を認識してました。
 目的の物件は静かな住宅が並んだ中にある5階建てのマンションでした。
お目当ての部屋は最上階の5階で、セットバックとかいう工法で得られた空間が大きなベランダになっている、そんな眺めの良い角部屋でした。
間取りも広くて、最初に見たお部屋よりも少しリビングが広いみたいです。
おまけにオーナーさんが独身者用に考えたらしく、冷蔵庫や洗濯機などの家電は全部備え付けになっていました。
「いいですねぇ〜。ここにしようかなぁ。なあミカ、いいと思わないか?」
「ぅ‥うん‥‥ぃいね‥‥」
 おしっこがしたくてたまらない私は、そう答えるのがやっとでした。
また寒い部屋に入り、おまけに窓も玄関も全開で冷たい風が素足を冷やすので、私のおしっこはもうカウントダウンのような状況になっていたんです。
こうなったらこのお部屋のおトイレ借りちゃえっ!!って思って、翔ちゃんと担当者さんがベランダに出た隙を見計らって、私はサッとトイレのドアを開けました。
「えぇえっなにこれぇ〜っ、ここトイレじゃないのぉっ!??」
 なんとそこにあるはずの便器が無いんです!
あわててドアを閉めて隣のドアを開けると、そこは比較的広いバスルームでした。
隠れておしっこをしてしまおうと一大決心をしたのに、それを裏切られたという反動が大きくて、頭ではダメだって判っているのに、私の膀胱はすでに発射準備に取り掛かってしまって、もう漏れそうです。
翔ちゃんは担当者さんとベランダに出て指差しながら、地理の説明を聞いているようです。
私は途方にくれてスカートの上からワレメをギュッと押さえて
「ダメよっ今はダメッ!!我慢するのぉっ、ここを出たらコンビニでも何でも行くんだからぁ〜っ!!」
 声を出しながら自分にそう言い聞かせて、体をクネクネさせていました。
そこへふたりがベランダから戻って来たので、私はクネクネを見られたくないって思って、とっさに対面キッチンのブースに飛び込んで、思いっきり足を交差させてギュッと固まってしまいました。
「よしミカ。下の駐車場見をに行くぞ!」
(ひぇえっ!、もうそんなの無理だよぉっ!!)
 コンビニまでと思っていたのに、更に駐車場を見に行くなんて‥‥、それじゃあこのマンションを出るのはもっと先になるわけで、今すぐだったら間に合うかも知れないおしっこは、もうそんなに待ってはくれません。
「あ、翔ちゃ‥お兄ちゃんだけ行って来てよ。私もベランダからの眺め見たいし。」
 体をくの字に折り曲げて、交差させた腿をさすりながらそう答えるのに加えて
「それにさ、ここで待ってたらなんだか寒くなっちゃったからさ、お日様にあたりたいし‥‥」
 そんなこじつけのようなことを言うのが精一杯の私でした。
「そんなこと言ったって、もう部屋を閉めちゃうんだぞ。」
 私の状況も知らないで、翔ちゃんはまるで死刑宣告みたいなことを言います。
「あららいいですよ。また戻ってくればいいですから。はい、すぐに戻りますからどうぞご覧になってて下さい。眺めは最高ですからね。」
「しょうがないなぁ〜。じゃあ大人しく待ってるんだぞ。」
 優しい担当者さんの言葉に比べると、翔ちゃんはまるで意地悪なお代官様みたいです。
部屋を出て行く前に担当者さんはお風呂とトイレのドアを開けて、それらの説明をしています。
新しいウォシュレットを備え付けるとかで、トイレに便器が無かったのはそのせいだって判りました。
(それより早く行けぇっ!、もうお風呂でおしっこしちゃうんだからぁっ!!)
 もうおしっこが漏れ出しそうな私はそう決心していて、シンクの陰でワレメを押さえながら、二人が部屋を出て行くのを待ちわびていました。
その二人がやっと出て行き、玄関のドアが閉まるのを確認してホッとすると、安心した私の限界が秒読みを始めました。
(あ‥あ、まだダメだよぉっ、お風呂までガンバレッ!!)
 誰にも見られていないからって、スカートをめくり上げながらヨチヨチ歩きでお風呂までたどり着くと、勢いよくドアを開けて排水溝に向かってしゃがもうとしました。
「え〜っ!!??」
 そんな私にまた気が遠くなってしまうような事実を突きつけられました。
【清掃済み】
 そう印字されたシールのような貼り紙で排水溝が塞がれていたのです。
「なにこれぇっ!?どうすんの!?‥どうすんの!?、おしっこぉっ!!」
 悪いことだけど、いったんそれを剥がしておしっこをしてしまった後に、また元通りに貼り付けておいても良かったのかも知れません。
でもあわてている私はそんな事も思い浮かばなくて、
「どうしよう‥?」
 と、オロオロしてしまって、いったんしゃがみかけた腰をソロソロと起こしていきました。
両手でワレメを押さえながら、他に水が流せる場所は!?ってバスタブの中を見てみましたけど、そこにも【清掃済み】のシールが!!
おしっこをする体制になりかかっていたもんだから、もう私の膀胱は収縮を始めようとしています。
(そうだっキッチンのシンク!?)
 とっさにそう思い浮かべましたけど、きっとそこも清掃済みシールが張ってあるでしょうし、第一おしっこが漏れ出しかかっているこの状況で、どうやってシンクによじ登る事ができるでしょう?
もうおしっこをする場所がどこにもありません。
ジワ‥‥と、パンツの上から押さえている手に暖かい感触が広がってきます。
(もうダメェ〜!!)
 うろたえている私をいじめるかのように、またジュワ〜とおしっこが溢れ出てきます。
「ダメ〜止まれぇ〜〜っ!!」
 叫びながら、私はめくり上げたスカートと半分下ろしかけたパンツのまま、ドタドタとベランダに飛び出して行きました。 せめてお部屋だけは汚さずにしたかったんです。
担当者さんが戸を開けたままにしてくれていたのが幸いでした。
隅の方に排水溝らしき目皿があて、そこは【清掃済み】がありません。
(ここだぁっ!!)
 私は辺りをキョロキョロと見回す余裕もなく、おかしな恰好のままその場所に駆け寄って、しゃがみ込みながらパンツをグイッと横にズラしました。
それと同時にシュ〜っと言うかすれたような音がして、すぐに排水の目皿におしっこが命中するジャバジャバと言う音が響き出しました。
「やった〜っ!」
 決して間に合ったとは言えないかも知れないけど、とにかく私は今おしっこしています。
遠くの高い建物から誰かが見ているかも知れません。
それでも今はそんなこと構っていられません。
駐車場を見に行った2人がいつ戻ってくるか判らないので、気が気ではなかったのです。
でも‥、こんな時にかぎっておしっこはなかなか終わってくれません。
焦って途中で止めようと何度もおしりに力を入れてみましたけど、もうマヒしてしまっているのか、いったん開いてしまった尿道は閉じてくれませんでした。
とその時、
「カァア〜!」
 すぐそばでカラスの大きな鳴き声がしました。
それにビックリした私は、とっさに立ち上がりけて、パンツを引き寄せている手まで離してしまいました。
やっと終わりかかっていたおしっこが、そのパンツにジワ〜っと染みて、足にまで伝い落ちてきます。
けれど今はそれをどうする事も出来ません。
スカートはめくり上げたまま、私は走るようにして部屋に戻ると、キッチンのシンクの上に置きっぱなしにしていたバッグからポケットティッシュを取り出して、おしっこが伝った腿を拭きました。
ソックスにも少し染みていましたけど、無視できる範囲のようです。
ついでに何枚かを重ねて折りたたむと、それをパンツの中に入れて即席のシートを作って当てました。
濡れたティッシュは丸めてハンカチに包んでバッグにしまい込み、おしっこの痕跡を見つけられないようにと、大急ぎでベランダの戸を閉め、鍵を掛けてやっと落ちついた時、突然玄関のドアが開いて2人が帰ってきました。
スカートを降ろして身繕いが出来たのとほぼ同時です。
「ただいま。あれぇミカ、ベランダで暖まってるんじゃなかったの?」
「ううん。もう終わり。それに風も冷たくなってきたし‥‥」
「それじゃあ、販売センターの方に戻りましょうか?」
 そう言って担当者さんがベランダの施錠を確認しに行った時、私は心臓が飛び出るのではと思うほどドキドキしました。
(やばいっ、おしっこしたのがバレちゃうっ!!)
 排水溝の周りはおしっこの広がりで濡れたままです。
けど‥幸いその担当者さんは施錠を確認しただけで、特にベランダまでは目をやらなかったようです。
ホッとした私は思わず足の力が抜けそうになってしまい、思わず翔ちゃんにしがみつくような感じになっていました。
そん像はまだバクバクしています‥‥。

 翔ちゃんは最後の物件に決めたという事で、申込み手続きをしてからその店を後にしました。
でも‥、私はこの後チョッピリ恥ずかしい告白をさせられることになったんです。
それは‥‥、
戻る地下鉄がガラ空きだったのにずっと立ったままでいる私を見て、翔ちゃんはなんで座らないんだって聞いてきたんです。
はじめははぐらかしていた私でしたが、どうしても答弁が不自然になってしまって、それを突かれているうちに、とうとう私は事の一部始終を話すことになってしまって、スカートに染みては困るからって事まで言わされてしまいました。
「もう〜しょうがないなぁ。そっと耳打ちでもしてくれればどうにでもするのに。」
「だぁってぇ〜。翔ちゃんたらお部屋のことで頭が一杯だったじゃない!」
「ははは、俺が入居するよか先にさ、ミカがマーキングしたことになるな!」
(人の気も知らないで、マーキングだなんて‥、私は犬ですかぁっ!?)
 そう反発しようと思いましたけど、言っていることは事実なわけで、恥ずかしさもあって、ただ口を尖らせて翔ちゃんの胸を小突くだけの私でした。
「それよか新しいパンツ買わないと、おしりが冷えて風邪引いちゃうぞ。」
 翔ちゃんはそう言って駅地下のランジェリーショップに入りました。
「こんなお店入って恥ずかしくないの?」
「知らない所だしさ、誰に見られることもないから意外と大丈夫!!」
 そんなことを言いながら、翔ちゃんはすごく高いシルクのパンツを買ってくれました。
遅いお昼を食べたお店のトイレでそのパンツに履き替え、おしっこが染みこんだパンツは捨てようと思いましたけど、それを誰かに見つけられるのは恥ずかしかったので、シルクのパンツが入っていた袋に詰めてバックの底に忍ばせました。

 これが名古屋へお部屋探しに行った時の一部始終です。
翔ちゃんの転勤は2〜3年だそうですけど、東京へ戻った時にこれまで住んでいたマンションのような、好条件の所は見つからないかも知れないと言うのことなので、ちょうど一人暮らしを始めたかった私が、そのまま部屋を引き継ぐことにしました。
 一人っ子の私ですから両親は始め猛反対してましたけど、それもまた人生経験だなんて、むしろパパの方が意外すんなりと許してくれました。
(家賃も半分みてくれるって‥‥キャハッ!!)
 本当は、翔ちゃんが東京に出張で戻ってきた時に、二人でラブラブになれる部屋がほしかっただけなんだけど‥‥。
ごめんねパパ♪



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