さくらい・あやか 3




 生徒総会や主な行事日程が滞りなく終わって、連日のように集まっていた役員も姿を見せなくなった生徒会室で、拓と彩香はいつしか二人だけで話しをするようになっていた。
ふたりの家が全く逆方向にあるため、ここが唯一のデート場所と言える。
下校時間ぎりぎりまで二人きりで話をし、別れ際にそっとキスを交わす。
そんな毎日が続いていく内に、以前は二人きりになると条件反射のように感じていた強い尿意も、いつしか気にならなくなっていた彩香であった。
それでも日によっては途中でトイレに行きたくなる時があったが、やはり彩香は拓と一緒にいる間はそれを我慢するようになっていた。
 そのころから二人のウワサが立ち始める。
決定打は修学旅行で、自由行動の時に拓が彩香を誘い出して行動したことだ。
その話はすぐに学校中が知るところとなり、同じ生徒会役員までもが一目置くようになって、エリートカップル・ベストカップルとして誰もがそれを認識し、やがてウワサは自然に消滅していった。
 二人はお互いを [あや!],[拓!]、と呼び合うようになっていた。
夏休みが近づいた7月頃になると、拓は彩香にキスをしながらそっと胸を触ってくるようになった。
薄いブラウスの上から触られると、その形や大きさを知られてしまうので、それが恥ずかしくてたまらなかった彩香であったが、それでも拓がそう望むのならと、特に拒否することはしなかった。
 夏休みに入ったある日、ふたりはJR宝塚駅で待ち合わせて大阪に向かい、水族館やスカイタワーからの景色を楽しんだりと、初めて学校外でのデートをした。
拓に合わせてアイスティーや缶コーヒーを飲んでいた彩香は、トイレの事を気にしていたが、それらのほとんどは汗になって出てしまったようで、夕方4時近くに大阪駅北口の家電量販店に立ち寄った時、少し尿意を感じだしたが、あと2時間ほどで家に帰る事を思えば、それはさほど気になるものではなかった。
拓もこの間トイレには行っていない。
 ふたりはその量販店で、拓の兄とその彼女に偶然出会った。
まだ人見知りが克服できていない彩香は、拓の影で小さくなってしまう。
 拓の兄は神戸の大学に通っているが、通学に不便だからと言う理由で、つい先日家を出て乗換駅になる尼崎にアパートを借りていた。
彩香と拓は荷物を運ぶ手伝いを兼ねてそのアパートへ行く事になった。
 そこは6畳ほどのフローリングワンルームで、ソファーベッドとわずかな本、それに小さなテーブル以外はテレビすらなく、引っ越し直後で生活感が感じられない殺風景な部屋あったが、タイマーが掛けてあったのかエアコンがほどよく効いていて、汗ビッショリになっていた彩香は気持ちよく感じていた。
 備え付けの冷蔵庫から缶入りの飲み物を出され、喉が渇いていた彩香は拓に促されてそれを口に含むとと、それは缶チューハイであった。
拓の兄はそれしかない。すぐに汗になるからバレないと言ってのけ、炎天下を歩き回って火照った体に、少し刺激のある口当たりが喉の渇きを癒してくれるような感じがして、彩香は罪悪感を感じることなく、兄の言葉を受けてそれを飲んでいった。
それは拓も同じであったようだ。
 兄は部屋の証明器具を取り付けたり、換気扇のフィルターを交換する作業を拓に手伝わせ、あっという間に30分ほどが過ぎていったが、その頃になると汗も引き、喉の渇きもすっかり落ちついた彩香は、逆に尿意が気になって来ていた。
一度気にし出すとエアコンが少し寒いようにまで感じてしまう。
 そんなときに兄が「さてと、ぼつぼつ‥」と立ち上がり、彼女と一緒に荷物を取り上げたので、つられて立ち上がりかけると、ふたりはもう少しゆっくりしていたらいいと、思わぬ言葉が返ってきて驚く彩香。
話を聞いてみると、兄の彼女はこの近所で親名義のマンションに住んでおり、拓の兄はその彼女と半同棲生活を始めているという。
通学に不便だからと家を出たのも、どうやらそういう事情があったようで、親の手前、名目上の部屋だけをここに借りたという事のようであった。
拓もそのことは初めて聞かされた様子で、口をあんぐりと開けて呆れたような顔をしていた。
 兄は口止めの代償だと言わんばかりに、自由に使っていいぞと言って、部屋のカギを一つ拓に渡すと彼女と連れだって部屋を出て行った。
拓は「なんかさ、秘密基地みたいな感じになっちゃったな!!」と、呆れかえりながらも、まるで子供の頃を思い出したかのような笑顔でそう言っていた。
学校以外で二人きりで過ごせる秘密の場所になるのかなと、彩香も同じような気持ちになったが、それよりも尿意がかなり気になり始め、5時半近くになっている事を理由に帰ることを提案すると、拓も快くそれに同意してくれて、ふたりは部屋を出ることにした。
拓が「その前にちょっとトイレ!!」と、玄関脇にあるユニットバスに入っていく。
かなりおしっこがしたい気持ちになっていた彩香は、あっさりとトイレに行ける拓をうらやましく思ったが、水音に紛れて拓のおしっこの音が聞こえて来ることに気がつくと、逆なら拓に聞かれてしまうのだと思ってしまい、たった1枚のドアだけで仕切られたそこへ入る勇気はわいてこなかった。
 飲み慣れないアルコールが入った事で、強い尿意を抱えたまま帰宅することになってしまったが、それでも以前のような極限状態にまではならずに済んで、汗をかいている事に感謝していた彩香であった。

 その日をきっかけに、ふたりは学校外デートを重ねるようになっていったが、そのほとんどは宝塚市内で、図書館に行ったり、手塚治虫記念館に行ったりと、あの部屋を利用することなど全く無縁のデートが続いていた。

 2学期が始まり、体育祭や文化祭の大きな行事が無事に終わって11月になると、生徒会役員選挙が行われて彩香たちの任期は終了し、高校受験への追い込みが本格的になってくる。
 このころから二人の進路は別れだし、彩香は大阪にある某大学の附属を、拓は神戸のN高を受験することになり、土日は二人とも大阪市内のそれぞれの進学塾に通うようになって、それをきっかけに彩香は拓から例の部屋の合鍵をもらい、塾帰りに2時間ほどそこで勉強したり、拓と楽しく語らったりするようになっていった。
 彩香の方がいつも先に着いていたので、トイレを済ませてから拓を待つことができ、そこで時間を過ごす事で、受験ストレスを発散させるいい環境を作っていた。
もちろん時には拓に抱き寄せられ、服の上から胸を触られたりすることもあったが、それでも拓はそれ以上を望むことはなかった。

 冬休みに入ると進学塾は連日開講され、彩香と拓もそれに併せて毎日その部屋で会い、やがて大晦日を迎えた。
年が明けるとふたりは最後の調整に入るため、この日が受験前最後の秘密基地デートになる。
 拓はソファーベッドに座っている自分のヒザの上に彩香を引き寄せた。
ちょうど拓に対して直角に座るような恰好で、大腿の上に腰を下ろしていくと、身長差が一気に縮まって彩香の顔のすぐ右側に拓の顔が迫っていた。
拓の両腕が彩香の腰に回されて抱き留める。
初めて拓の大腿に座ったことで、それだけでも充分に恥ずかしい彩香は、どうしていいか分からずにただ黙ってうつむくしかなかった。
 しばらくそのままでいた拓が、やがて彩香の肩を引き寄せて顔を正面に向かせると、いつものようにそっとキスをしてきた。
初めてのシチュエーションに、彩香はうっとりとなって目をつぶる。
これまでのように唇を合わせるだけのキスではなく、この日の拓は舌を重ねようとしていて、彩香は拓の動き回る舌に自分の舌を合わせるのが精一杯で、
(息が苦しいよ‥‥いつ息をしたらいいの!?)
 と、心地よさの中に苦しさを感じていたが、拓の荒い呼吸が伝わってくるのを感じ取ると、やがてそれに自分の呼吸も合わせる事が出来るようになっていった。
 拓の手が彩香の左胸を触り出す。
(え!?)
 いつもと違い、やや冷たい手の感触を受けた彩香。
どうやらブラウスの中に手を入れて、ブラジャーの上から触っているようだ。
(やだ‥‥恥ずかしいよぉ‥‥)
 これまではそっと手を置くだけであったのに、拓のその手がゆっくり胸を押さえるようにして動き出すと、
(んく‥‥っ!)
 初めての感覚が彩香の体に走り回り、思わずそんな声にならない声が出てしまう。
円を描くように動かされると胸の奥がジーンとなって、体の力が一気に抜け落ちてしまいそうになり、
(ぁ‥ぁ‥なんか‥なんか‥気持ちぃぃ‥‥)
 刺激を受けて乳首が硬くなっていくのが自分で分かる。
拓もそれに気づいたのか、ブラジャーの上からそっと指でつまむようにして、さらにその指を動かしていった。
「ぁっ‥‥」
 今度は思わず声が出てしまう彩香。
恥ずかしくてたまらないが、それでも拓の手を拒むことは出来ず、脱力した体は右に傾いて拓に寄りかかるようになっていた。
(え‥!?)
 密着している彩香の右腸骨あたり、冬用の厚い生地のスカートごしに、拓の硬くなったモノの存在が伝わってきた。
中学3年になった彩香には、それがどういう事かは分かっている。
(拓‥‥私で感じちゃってるんだ‥‥)
 恥ずかしさとうれしさが更にこみ上げてくる彩香。
そう思うとまたジーンと痺れたような感覚が体中を支配していき、下腹部がジワッと熱くなっていくのを感じて、拓の指が動くたびにハァハァと荒い呼吸を押さえることが出来ない彩香であった。
 どれほどの時間が過ぎたであろうか、やがて拓は彩香の胸から手を離し、ブラウスからもその手を抜き去って、ニコッと微笑んだ。
(大事にしてくれてるんだ!!)
と、彩香は嬉しく思ったが、その反面、実はブラジャーの中に手を入れられる事までは覚悟していた自分がいて、そう思っていた事が恥ずかしくてたまらなくなり、
「拓のエッチ!!」
 と、立ち上がってブラウスの裾をなおしながら、照れ隠しでそう言う事しか出来なかった。
「あや、寒いんだからもう少しスカート伸ばせよ!!」
 ウエスト部分を何重にも折り込んで短くしている彩香である。
「ほかの奴にパンツ見られるぞ!!」
 拓も照れ隠しであったのかも知れない。吐き捨てるような感じでそう言いながら、彩香に背中を向けてズボンを直していた。
その姿を目で追いながら、彩香はふと
(拓‥きっと我慢してるんだろうなぁ‥あっ‥ひとりエッチって‥するのかなぁ‥?)
 と思ってしまった。
してほしくないと単純にそう思う彩香。
しかしあの夜、自分がひとりエッチしてしまったことを思い出して、矛盾している感情を打ち消す事が出来ずにうろたえてしまっていた。
 いつしか彩香の心の中には、
(二人とも志望校に受かったら‥‥!!)
 と、その日を記念日にしたいという、そんな気持ちが高まっていた。
あるいは拓も同じようなことを考えているのかも知れない。
それがお互いの励みになっているのではと、彩香はそう解釈していた。
 偶然にもふたりの合格発表は同じ日である。
「ふたりとも合格したら、発表の後ここで会おう!!」
 そう約束して追い込みに入っていった二人であった。

 2月の中旬、大阪市内にも雪が舞う寒い日、彩香は志望高に合格した。
一緒に発表を見に行った他の2人も合格し、駆けつけた進路副担任がお祝いしようと、近くのファーストフード店に彩香たち3人を誘った。
彩香は拓の事が気がかりでならず、親から借りてきた携帯電話をずっと握りしめて、今か今かとその連絡を待っていたが、それから30分ほどしてやっと拓から着信があり、合格したことを知ってホッとすると、今度は一刻も早くあの部屋に駆けつけたくてたまらなくなり、
「すみません。ちょっと寄る所があるので‥‥」
 と、副担任や他の女子生徒にそう言って店を後にし、親にはみんなでお昼を食べてから帰ると連絡を入れて、一目散に尼崎へと向かった。
(拓とお祝いだあっ!!)
 ファミレスで食事しようか、それとも何か買い込んで部屋でお祝いしようか!?
どっちにしても早く拓に会いたい。
はやる気持ちを抑えきれない彩香は、足早にいつもの改札をくぐり、小雪が舞う中を駆け抜けて秘密基地にしている部屋にたどり着いた。
拓はまだ到着していない。
エアコンのスイッチを入れると、今のうちにトイレを済ませておこうと、彩香は脱いだコートをソファーベッドに放り投げてユニットバスに入り、体が冷えた事で高まっていた緊張を解いていった。
 用を済ませてドアを開けたちょうどその時、拓が勢いよく入ってきた。
トイレから出てきたところを鉢合わせし、だらしなくコートを脱いでいる事まで知られてしまって、彩香は恥ずかしくてたまらなかったが、拓はまるで気にしていない様子で、
「イエ〜イッあや、合格おめでと〜うっ!!」
 と、ややオーバーリアクションぎみに両手を大きく広げて、彩香を迎え入れようとした。
「拓も‥合格おめでとう!!」
 急に涙が溢れそうになって、それ以上は何も言えなくなってしまった彩香は、そのまま拓の腕に飛び込んでいき、しばらくの間、立ったままで抱き合っていた。
 その時また玄関の戸が開く気配がし、あわてて離れるふたり。
「よっ!!ふたりとも合格おめでとう!!」
 と、拓の兄が威勢の良い声を出しながら入ってきて、彼女がお祝いの用意をしているからマンションの方に来いと言った。
拓と二人きりでお祝いするつもりでいた彩香はとまどったが、断る理由もなく、誘われるままにコートを着ると、兄が運転する車に乗せられて半同棲生活をしているそのマンションへと向かった。
 豪華なリビングに通されると、そこにはお祝いのケーキをはじめ、デリバリーされたピザやフライドチキン、彼女お手製だというサラダ類がローテーブルいっぱいに並べられていた。
拓からの連絡を受け、急いで用意をしたとのことであるが、おそらくは合格することを前提に、あらかじめ準備されていたのであろう。
 拓と並んで座り、シャンパンで乾杯をする。
彩香はそれが酒だと認識していたが、夏に飲んだチューハイもそうであったように、抵抗なく口にすることが出来た。
アルコールに強い体質なのかも知れない。
 まだうち解けていないため、彩香は初めかなり緊張していたが、遠慮なく食べろと勧められ、拓にも促されて徐々に手を伸ばしていき、時間と共に少しずつ話をする事が出来るようになって、やがて拓の兄やその彼女から [あやちゃん!!] と呼ばれる心地よさを感じるようになっていた。
それは一人っ子で育った彩香にとって、兄や姉からの優しい言葉のような親しみを感じるものであった。

 午後1時半を少し回った頃、彩香と拓はマンションを後にすることになった。
兄もその彼女もアルコールが入っており、車では送れないと言われたので歩いて帰るしかない。
雪は降り止んでいたが代わりに北風が強くなり、体感的には午前中よりも寒く感じる中を歩き出すと、彩香に強い尿意がのしかかってきた。
(ぁぁ‥トイレ行きたぃ‥‥)
 おなか一杯ごちそうになり、それと共に下腹部に充満してくる違和感を感じ出したのは、訪問してから1時間ほど過ぎた頃であった。
まだ拓の兄や彼女の前では気後れしてトイレに立つことが出来ず、ましてや拓に対しては、先ほどあの部屋でトイレから出てくるところを見られているだけに、また行くのかと思われるのがイヤで、それからずっと我慢していた彩香であった。
 暖かい部屋の中ではそんなに強くは感じられなかったが、寒い外に出た事で一気にふくれあがって来た尿意に彩香はとまどっていた。
このまま家に帰るにしても、あの部屋に立ち寄るにしても、拓の前でトイレに行かなければ我慢できそうにない‥と。
「ちょっと部屋に寄って休んでいこうか!?」
 そんなときに拓がそう言った。
元々あの部屋でお祝いをしようと話していたので、今さらそれを断る理由がない。
彩香は少し元気がない声でいいよと応えるしかなかった。
 途中コンビニに寄り、ポテトチップスやジュースなどを買うふたり。
店のコーナーに[お手洗い]という表示が見える。
いっそここでトイレに行ってしまおうかとも思ったが、ここでトイレを借りると言うことは、もうすぐ着く部屋まで我慢できないのか、それほど我慢していたのかと、拓にそんな風に思われてしまうと考えてしまって、彩香は行く事が出来なかった。
(もうおぉ‥‥なんでこんな急におしっこしたくなるのよぉっ!?)
 それは彩香が思っているほど急な事ではない。
彩香はこの日いつもと同じように登校し、受験仲間と一緒に発表を見に行った。
15分ほど早く着き、小雪が舞う中で発表を待っていたために体が冷え、さらに、ファーストフードでのホットココア、マンションでのシャンパンや紅茶など、かなりの飲み物を摂っていて、あの部屋でトイレに行ってからすでに2時間半が経過している事を思えば、冷えた体に尿意が迫ってきても当たり前の事なのであった。
(どうでもいいから早くトイレ行きたいよぉっ!!)
 これからあの部屋でふたりの合格を祝って語らう、そんな楽しさよりも、今はトイレに駆け込むことしか頭にない彩香であった。

 出かけるときにエアコンを切り忘れていた事が幸いし、北風の中をたどり着いたその部屋は暑いと思えるほどになっていた。
早く暖めようと、彩香は[強暖房]にしていたようである。
コートをソファーベッドの背もたれに掛けて腰を下ろすと、少し胸が大きくなってきせいか制服のブレザーが窮屈に感じ、カーディガンだけでも充分だと思った彩香はそれを脱いでヒザに掛けた。
本当は早くトイレに行きたくてたまらないが、部屋に入っていきなりでは恥ずかしく思い、少しタイミングを見計らってからにしようと思っていたのである。
「その制服とももうすぐお別れだな。」
 拓が小さなテーブルにポテトチップスなどを並べながら言った。
言われてみて、改めてブレザーを見直す彩香。
「今度の高校の制服はどんなだい?」
 拓はジュースを注いだコップを彩香に差し出しながら、その横に座ってそう聞いてきた。
「うん‥今度はね、けっこうスカート長いよ。大阪って長いのが多いみたい‥‥」
「そっか、じゃぁ安心だ。もうあんまり短くするなよ。」
「‥うん‥‥」
 そんな会話から話は新しい高校生活の事へと発展し、拓はいろいろと将来の構想などを語り出した。
それを黙って聞く彩香。
 部屋の中は暑いほどだが、カーペットが敷かれていないフローリングでは足下まで暖まることはなく、ソックスのつま先はまだ冷たいままで、その冷えている足先から尿意が刻一刻と伝い上がってきているように感じられ、彩香は落ち着けない。
(早く‥早くトイレに行きたい‥‥おしっこしたいぃ‥‥)
 スカートの上からでもその存在が浮き出るほど、彩香の膀胱はパンパンに膨らんで来ていたが、すぐ横に座って話している拓に対し、どう言って席を立ったらいいのか、どのタイミングでそう言えばいいのか、それが彩香には分からなくて、いたずらに時間ばかりが過ぎていった。
(ああ‥‥こんなだったら部屋に戻った時にすぐ行けばよかったなぁ‥‥)
 後悔しても始まらないが、迫ってくる尿意の波に押されて、ついそんなことまで思ってしまう。
(早くおしっこ‥‥もう漏れそうだよぉっ!?)
 そうは思っても、肩が触れあうほどそばにいる拓に向かって「ちょっとトイレ‥」と言う事は、彩香にしてみればとてつもなく勇気のいる事であった。
拓の手前、足をモゾモゾと動かしたり腰を揺すったりも出来ず、ヒザをピッタリと閉じて彩香は我慢していた。

 拓が彩香の持っているコップを取り上げるとテーブルに戻し、左手で肩を抱き寄せて背もたれへと押しやると、覆い被さるようにして唇を重ねてきた。
そして右手がまた胸に置かれる。
(やんっ!!今はそんなの無理だよぉっ!!)
 もう今にもおしっこが出てしまいそうな状態になっている彩香は、いつものように拓を受け入れることが出来ない。
かといって、どういう風に言ってやめてもらえばいいのか、それさえも思い浮かんでこなかった。
ふたりとも一緒に合格すれば、ここで思い出を作る事を夢見ていたのも事実で、今日がその日であったが、彩香は予期していなかった強い尿意という現実に呑まれて、それさえも忘れてしまっていたのだ。
 どうしよう‥どうしようと、パニックに陥っている間に、拓はカーディガンとブラウスのボタンを外していて、気がつけばブラジャーがあらわになっていた。
「ゃあん‥恥ずかしいじゃん‥‥」
 もっと大事なことを告げなければならないのに、彩香の口から出た言葉はそれであった。
 「あや‥‥触ってもいいよな!?」
  そんな彩香の言葉を無視するかのように、拓がそう聞いてきた。
彩香にしてみれば、いつも触っているのに今さらと思ったが、それはブラジャーを引き上げて胸を直に触ると言うことであった。
あっ!!と思ったその時、肩を抱いている拓の左手がブラをたくし上げ、右手が柔らかい胸を包み込むようにして当てられていた。
「あふ‥‥」
 冷たい拓の手の感触が胸の奥にまで伝わってくる。
更にその手が円を描き出すと、これまで以上に痺れるような感覚が体中に伝わりだし、それがふくれあがった膀胱を刺激したのかおしっこが飛び出しそうになって、彩香はヒザに掛けているブレザーの中に左手を入れて、スカートの上からおまたをギュッと押さえ上げていた。
 乳首がとがってくる。
それを押さえ込むようされると、痛いようなむずがゆいような感覚が走って、彩香は体の力が入らなくなって拓にもたれかかってしまった。
拓はそのまま彩香の上体をソファーベッドに横たえて、自分は床に腰を下ろすと、彩香の両足を無造作にソファーの上に持ち上げて伸ばし、掛けていたブレザーをはぎ取った。
あわてておまたを押さえていた手を離す彩香。
その拍子に指でスカートの裾を引っかけてしまい、少しめくれ上がってしまったように思ったがどうすることも出来ない。
(拓‥エッチするのぉ‥!?)
 自分自身もこの日を記念日にしたいと思っていた彩香である。今さら拓にそんなことを確認する必要はなかったが、今はそれよりもおしっこがしたくてたまらないために、彩香は逃げ腰になっていた。
しかしこれまでずっとエッチを我慢してくれていた拓の事を思うと、その願いを叶えてあげたいと言う気持ちに変わりはない。
ならばおしっこを我慢したままでも拓にあげたほうがいいのか、でももし途中で我慢できなくなったら、拓がその気になっているのに中断させるのはかわいそうだと、拓の事が好きでたまらず、それ故に[あげたい!!]と[おしっこしたい!!]の相反する感情がぶつかり合って、彩香は収拾が付かなくなってしまっていた。
「あや!!、すごくきれいな胸だっ!!」
 そうこうするうちに、拓が彩香の胸のすぐそばまで顔を持ってきて感嘆の声を上げ、その口が硬くとがっている彩香の乳首をそっととらえた。
「きゃふっ!!」
 それは15歳の彩香にはあまりにも刺激が強すぎた。
体中にビリビリと電気のような衝撃が走り、奥の方からグワ〜ンと何かがこみ上げてくるような錯覚を覚え、次の瞬間パンツの中がジワ〜っと暖かくなってきたのを感じとった彩香。
今の刺激でおしっこが少し漏れだしてしまったようで、あわてた彩香は
「たっ‥たくぅっ‥‥」
 かすれた声でそう呼びかけながら少しもがくようにして拓から逃れようとした。
しかしその体には全く力が入らない。
拓はなおもその舌で刺激を続けながら、硬くなっている乳首を吸い上げた。
「ぁ!!」
 鈍い痛みのような新たな刺激が加わって、またパンツの中に何かが広がっていく。
「ぁっぁっ‥‥待って‥拓‥ちょっと‥ちょっとだけ待ってぇっ!!」
 もうこれ以上はどうしようもないと彩香は悟り、精一杯の声を上げて拓に訴えた。
「どうした?」
 彩香の必死な声を感じたか、拓が顔を上げる。
彩香は涙をにじませながら
「拓‥‥お願い‥今‥今はダメ‥‥」
「え??」
「ぁ‥の‥私‥拓にあげたいけど‥ぃ‥今はダメ‥なの‥‥」
 彩香はそう言うのがやっとであった。
「あ、あぁごめん。あやの気持ちがまだそうじゃないんだったら‥オレ‥」
 拓は一方的に始めてしまった事が申し訳ないといった感じで、静かにそう言った。
「ぁ‥そぅじゃ‥そぅじゃなくて‥ぁの‥‥」
「ん??」
「あのね‥笑わないで‥聞いて‥‥」
「え?,ああ。」
「ぁ‥その‥ト‥ィ‥わたし‥ト、トィレ行きたくて‥ぁの‥‥」
「トイレ!?」
「‥ぁぁの‥さ‥さっきからずっと‥我慢して‥て‥ぁの‥」
 彩香はそこまで言うと、両手で顔を覆ってしまった。
言ってしまったことで張り詰めていたものが吹っ飛んだような感じになり、精神力だけで耐えていた尿意の波に押しつぶされそうになって、彩香は思わず両足をすりあわせてしまっていた。
拓は「ああ悪い悪い!!」と言いながら、彩香の首に手を回して抱き起こしてくれた。
「ご‥ごめんね‥‥」
 恥ずかしいという気持ちよりも、拓に申し訳ないという気持ちが先行し、彩香はそう言って謝りながら、たくし上げられたブラも、広げられているブラウスやカーディガンもそのままで、体に余計な力が加わらないようにと、ソファーに手をつきながらゆっくりと立ち上がったが、想像以上に下腹部が張り詰めていて、それをかばうために体を大きく前屈みにしてしまった。
スカートを短くしているために、座っている拓からはパンツが丸見えになっているかも知れないが、それさえも構っていられない。
(お願い!!パンツのシミだけは気づかないでっ!!)
 今さらながらそんな事を願いつつ、彩香はソロリソロリとすり足でユニットバスに向かい、ようやくそのドアノブに手を掛けた。が、
「え〜っ!!」
 思わず大きな声を上げてしまった彩香。
拓がどうしたのと近づいてくる。
「カ‥カギが掛かってるよ〜っ!!」
 彩香はそう言うと、ノブを握ったままその場にしゃがみ込んでしまった。
「え、どういう事だよ。さっきあやが使ったばかりじゃん!!」
 拓はそう言いながらドアノブに手を掛けて回してみたが、彩香が言うとおり確かにロックされている。
「ね‥ねぇ‥ここのカギって‥ど、どこにあるのぉ!?」
 彩香は体を左右に揺すりながら泣き声で拓に訪ねた。
「え、トイレのカギって‥さぁえっとぉ‥」
拓も困っているようだ。
「お願い助けてぇ、もぅ‥もぅ‥」
 彩香は声をふるわせながらそう訴えかける。
「ちょっと待てよぉ、今探してみるから‥‥」
 拓はシンクの引き出しや備え付けの吊り戸棚などを開けて、その中を引っかき回していたが、それらしき物は見あたらないようであった。
トイレの入り口まで来ておきながら、入ることが出来ないという絶望感に、彩香の体はブルブルと震えだして「ぁぁあ漏れちゃう‥‥漏れちゃう‥」と、うわごとのようにそう口走っていた。
 確かにこのドアをロックしてしまったのは彩香自信であった。
さきほど、用を済ませて出てきた時、いきなり拓が入ってきたのに驚いて、無意識のうちにロックボタンを押したままドアを閉めてしまっていたのだ。
そう、これは内側のドアノブにプッシュボタンが着いた簡易ロック式のもので、表からはマイナスドライバーかコインで開けることが出来るものであった。
「あや、ちょっといいか!?」
 彩香が握りしめているドアノブをもう一度確認すると、拓はようやくそのことに気づいて、ジャケットから百円硬貨を取り出し、それで簡単にロックを外し、
「さ、早く入んなよ!!」
 と、彩香の脇に手を掛けて抱え起こしてくれた。
拓に見られていても、もう押さえている手を離すことが出来ない彩香は、よろめくようにその中に足を踏み入れながら、
「お‥お願い‥閉めてっ!!」
 そう言うのがやっとで、自分でドアを閉める余裕すらなくなっており、便器の前でなんとか体制を作ると、足をバタバタさせながら片手でスカートをめくり上げ、押さえている手を離すと同時にパンツをズリ下げた。
同時にジュバッ!!という表現がピッタリのような、そんな勢いでおしっこが飛び出し、あわてて尻餅をつく様な感じで便座に腰を下ろした彩香であったが、すでにパンツはかなりの量のおしっこを浴びてしまっていた。
 ジュイ〜〜と、かすれたような音が続き、それがビチャビチャと便器に跳ね、さらにはジョボジョボと溜まり水にも跳ねて、それらの音が混ざり合って狭いユニットバスの中に響き渡っていたが、半ば放心状態になってしまった彩香は、もうその恥ずかしい音を消すための動作も忘れて、ただぼんやりと足の間から流れ続ける自分のおしっこを眺めていた。

 1分近く彩香のおしっこは続いた。
冷えた体にはそれほどの量がため込まれていた事になり、かなり我慢していた事が覗える。
  ようやく気持ちが落ちついた彩香であるが、相当に濡れてしまったパンツはどうすることも出来ない。
まさかノーパンで帰る事も出来ないと、とりあえずペーパーで吸い込ませるだけ吸い込ませ、冷たくなったそれを穿き、折り返しているスカートを伸ばしてからトイレを出た。
拓はソファーベッドに寄りかかってジュースを飲んでいたが、ショボンとした彩香の姿を見て、
「間に合わなかったの!?」
 と、笑いながら聞いてきた。
「もっもうおっ、拓のエッチィ!!」
 彩香は恥ずかしくてたまらなくなり、その頭をペチペチとたたき回る。
「イテテ、やめろバカッ!!オレのせいじゃないじゃん!!」
 拓はなおも笑いながら彩香の手を防いだ。
「もうっもう今日はナシ!!、もうエッチさせてあげないんだからぁっ!!」
 恥ずかしさを通り超した彩香は、思わずそう口走ってしまったが、
「‥‥いいよ。楽しみは次にとっておくから!!」
 急に拓がまじめな顔をしてそう言ってきたので、
「‥‥うん。」
 彩香も拓の目を見つめてそう返していた。

 まだ大人の世界に入るのは少し早かったふたりである。
しばらくして仲良く家路についたが、外に出ると湿っているパンツはよりいっそう冷たくなり、それがまた新たな尿意を引き起こして、彩香はまたおしっこを我慢しながら拓との会話に華を咲かせていた。
(拓とエッチするの‥いつになるんだろうなあ‥‥!?)


つづく

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