さくらい・あやか 2




 意識している男の子の家に、それもたったひとりで入った事、それは彩香に大きな刺激を与えていた。
橘拓はどういう気持ちで私を誘ったのだろうか、好意を持ってくれたからなのか、あるいは単に寒そうにしていたからなのか、それとも何かもっと深い意味があったのか‥と、あれこれ想像しては喜んだり、勝手に恥ずかしく思ったり、彩香は落ち着かない気持ちを抑えることが出来なかった。
 さらに、14年間生きてきた中で、おそらく最大と思われる[おしがま体験]をした事で、そのことを知られたくない彩香は、なんとなく橘拓と顔を合わせる事に恥じらいを感じるようになっていた。
しかし生徒会役員の仕事がある以上、それは避けて通ることは出来ず、彩香は極力目を合わせないようにして、それでも素っ気なくしていると思われないように、それなりに気をつけながら仕事をこなしていた。
 そんな彩香は時として橘拓と二人きりの状態になると、まるで条件反射のように強い尿意を感じる事がしばしば起こり、それでも気を紛らわせながら平静を装っていたが、時には尿意から発生するむずがゆいような感覚にたまらなくなって、橘の目がこちらにない時を狙って、スカートの上からおしっこの出口あたりをさすったりすることがあった。
初めの頃は不快だったそれらの現象が、日を追うごとに変化していき、いつの間にか彩香はそれを(なんか気持ちいい‥)と感じるようになっていた。
しかしそれは[快感]と呼ぶにはほど遠い、かゆいところに手が届いた的な感覚でしかなかったようだ。
 あの日を境に橘は、彩香にかなりタメな口調で語りかけるようになっていたが、彩香は素直にうれしさを表に出す事ができず、どうしてもぎこちない態度になってしまって後悔する日が続き、不完全燃焼のまま3学期が終了していった。

 春休み中は特に生徒会の行事はないが、新学期には入学式準備から始まって、生徒会主催の新入生歓迎会、各クラブの予算折衝、行事日程調節、生徒総会と、かなり忙しい日々を送ることになる。
橘の采配は手際よく、特に大きな問題もなく行事は進行していったが、クラブの予算折衝だけはかなりもめた。
どのクラブも予算の獲得に躍起で、堂々巡りを繰り返し、生徒総会を3日後に控えた時点でも解決の糸口が見えないほど緊迫していた。
毅然とした態度で各クラブ代表と渡り合っている橘。それを少しでもフォローしたい彩香であったが、ただオロオロするだけでなんの役にも立てない。
橘が指し示す事柄に、その関連書類や参考物品などを提示するので精一杯だった。
 生徒会顧問の神代が介入し、ようやく沈静化したのは下校時間を遙かに過ぎた午後6時頃であった。
「お疲れさま。んと‥なんの役にも立てずにごめんね‥」
 彩香は自分でもビックリするほど素直な気持ちで、橘拓にそう語りかけていた。
「いやあ、桜井がちゃんと書類を揃えてくれていたから助かったよ!」
 拓は頭をかきながらそう言って微笑んだ。
「そうだな。なかなかいいコンビネーションだった。」
 顧問の神代がそう言うと、会計係の高杉佳世が
「ほんと。桜井さんいつの間にあれだけのモノを用意してたの?」
 と、感心したように言った。
「さすがは副会長!、気配りがサイコーだったよ。」
「ああ、オレたちが見落としてるモノまで揃えてたもんな。」
 紅林啓吾と吉野公司も口々に彩香を褒め称えた。
恥ずかしそうにうつむく彩香に拓が、
「やっぱりな。桜井が副会長で、ほんとオレはよかったよ!!」
 そう言いながら軽く肩をポンと叩いて後片付けを始めだした。
みなもそれに従い、暗くなった校舎玄関に連れだって出た時は6時半を回っていた。
別れ際に彩香は、
「‥私でも役に立った?」
 と、念を押すかのように拓に聞いてみた。
「もちろん!!オレはラッキーだよ。これからも頼むぜ!!」
 拓はそう言いながら手を振って微笑む。
「うん‥私‥がんばるね!」
 なぜか嬉しくてたまらない彩香は、また自然にそういう言葉を出していた。
「おう!!」
 そう言いながら後ろ手を振り去っていく拓。
その姿を見送っている彩香は、あの日以来ずっと胸の奥でズーンとつっかえていた重い気持ちが、いつの間にか晴れて感じなくなっている事に気がついた。

 翌日の放課後、生徒会役員は総会に向けての準備に入った。
しかし予算案の細かい収支が合わず、膨大な書類の見直しに時間が掛かって、何も仕上がらないまま下校時間になってしまった。
「困ったな。じゃあ続きはオレんちでやろうか!?」
 拓が唐突にそう言った。
確かに総会を明後日に控え、今の内に片付けておかないと間に合わなくなる可能性も出てくる。
拓の家が学校から一番近いと言うこともあって、役員の男3、女2の計5名は、それぞれ家人に遅くなると連絡を取ってから学校の裏門を出た。
 彩香は拓の家には2度目の訪問になるが、そのことは誰にも話していない。
(ああ‥このあたり‥必死でおしっこ我慢してたなあ‥‥)
 あの時と逆のコースを歩きながら、彩香は苦しくて恥ずかしかった出来事を思い出しながら、ひとり顔を赤くしていた。
(きょうは‥大丈夫‥かなぁ‥!?)
 彩香がそんな不安を持ったのは、学校を出るときから少し尿意を感じていたからであった。
放課後、新しくなったクラスのホームルームで時間を取られ、彩香はトイレに行くことなく役員室に急いだ。
昼休みに行っていたので特に気にもしていなかったが、それから4時間が過ている。
一抹の不安を抱えながら、それでも彩香は2度目の訪問となる事が自慢に思えて、ひとりでワクワクしていた。
 彩香達は2階の拓の部屋で作業することになった。
初めて目にする拓の部屋。彩香はすぐに座ることが出来ず、8畳ほどある広い室内をそれとなく見回していた。
(アイドルの写真とか‥貼ってないんだ‥‥)
 彩香の部屋はジャニーズ系のポスターで埋まっている。
それに比べ、拓の部屋はむしろ殺風景と言っていいほど、なんの飾り付けもされておらず、かつ整然としていた。
広いと言ってもベッドが置かれたその部屋は、男女4人が入るとそれなりに手狭で、男二人はベッドに腰を下ろしていた。
拓の机の前に立ち、その上においてある参考書などを観察しながら、さりげなくイスにすわりかけた彩香は、下の階から拓に呼ばれて、あわてて立ち上がると階段を駆け下りていった。
「悪いな。先にこれを持って上がってくれよ。カップはオレが持って行くから。」
 拓はそう言って、紅茶が並々と入った大きなティーポットを彩香に手渡した。
「うんわかった!」
 彩香はそれを受け取って階段を5〜6段ほど昇りかけると、
「あ、それと‥」
 と、拓がまだ何か言おうとしたので、片足を上げた状態で立ち止まった彩香。
寄ってきた拓の目が一瞬ギョッと見開いて、
「あ‥やっぱいいわ。オレが持って行くから‥」
 と、目をそらせるようにして言いながら後ろを向いた。
「なぁに‥?」
 いぶかしげに問いかける彩香に、
「あの‥桜井‥‥パンツ見えてるぞ!」
 拓は少しはにかんだような口調でそう言った。
「やんっエッチィ!!」
 突然の拓の言葉に驚いて、彩香はとっさに片方の手でスカートのお尻を押さえた。
「スカート‥短くしすぎだよ。」
「もうおぉ、見ないでよぉ!!」
「まあ‥オレは好きだけど‥‥ほかの男に見られるなよ!!」
 拓は少し照れたようにそれだけ言うと、サッとリビングの方に身を返していった。
カッと顔が熱くなる彩香。
下着を見られてしまった恥ずかしさで、しばらくそのまま動けずにじっとしていたが、上から高杉にどうしたのと声を掛けられ、なんでもないと取り繕って拓の部屋に戻り、テーブルの上にポットを置いた。
その時も、カーペットに座るときも、彩香はスカートの裾が気になって、普段よりもゆっくりと動作していた。
(えっでも‥今日の下着って‥新しいのじゃなかったしぃ‥汚れてなかったよね!?)
 今さらながらそう思う彩香は、拓がカップやクッキーを持って入ってきた事にも気づかずにボーッとしてしまっていた。
[まあ‥オレは好きだけど‥‥ほかの男に見られるなよ!!]
 拓が言ったその言葉も気になってならない。
軽く空腹を満たしてから作業に入ろうと拓が提案し、彩香の横に座った。
目を合わせることが出来ないまま、彩香は拓が勧めるままにクッキーをほおばり紅茶をすすったが、何も味を感じる事が出来なかった。

 それから1時間ほどが過ぎ、一つ一つの細かい洗い直しをしたことで、ようやく予算案の収支を合わせることが出来た。
原因は学校から手渡された決算書のミスプリントによるもので、それを見つけたのは彩香であった。
解決したことでみなは安堵し、口々に歓喜の声を上げている。
彩香も同じように大きな声を出して騒いでいたが、内心、さきほどから感じている下腹部の膨満感が気になってならなかった。
クッキーなどを食べながら作業していたので、空腹感は全く感じていなかったが、それでも午後7時になろうとしている今、彩香の膀胱は完全にふくれあがっていて、すでに危険信号を発する状態にまでなっていた。
「紅林、吉野、高杉くん、今日は悪かったな。ありがとう!」
 拓がそう言ってみなに頭を下げている。
(え‥なんで私には言わないのぉっ!?)
 自分の名前が言われなかった事に、不満と不安を抱いた彩香に、
「そして、やっぱり今日も桜井に助けられたよな!!」
 拓がそう言って彩香の手を取って上に挙げた。
みながヒューヒューとはやし立てる。
それをきっかけに場は雑談へとなだれ込み、教師の悪口などで一気に華が咲きだした。
(おしっこ‥したいけど‥そんな空気じゃないしなぁ‥‥)
 尿意が迫ってきている彩香は、早く家に帰りたいと思っていたが、今はとても切り上げる雰囲気ではないと感じて困惑していた。
(おしっこ我慢してるの‥私だけなのかなぁ‥?)
 拓の家に来てから、いや生徒会室を出る段階から、彩香の知る限り誰もトイレに行っていないように思う。
(高杉さんも‥トイレ行きたくないのかなぁ‥?)
 仮に同性である高杉佳世がトイレを借りたとしても、彩香にはそれが出来ない。
そのことを自覚している以上、早く家に帰り着くことしか尿意から解放される道は残っていなかったが、それでもみなの空気を壊さないようにと、彩香は努めて明るく振る舞って,また[いい子]を演じてしまっていた。
「さてっと、おい、そろそろ引き上げないとまずくないか?」
 切り出したのは紅林であった。
「そうだな。もう7時半じゃないか。」
 吉野もそれに同調し、ようやくお開きの気配が見えて彩香は少しホッとした。
「じゃあ、えっと‥吉野が高杉くんを送って行けよ。」
 拓がそう言うと、
「わっ、ありがとう。私、男の子に送ってもらうの初めてだよ!」
 高杉は大げさな素振りでそう言って笑っていた。
学校を中心とした時計の針で表すなら、拓の家はおよそ6時。吉野と高杉は9時方面で、紅林は3時の方角になる。そして彩香ひとりが12時の方角だ。
「桜井はオレが送るよ。」
 拓がにこやかに笑いながらそう言ったことで、部屋の中で立ち上がったみんながヒューヒューとはやし立てた。
「あ、いいよぉ、私ひとりで大丈夫だから‥‥」
 この前と同じように、おしっこがしたい彩香にとって、拓と一緒にゆっくり歩いて行くよりも、ひとりで走って帰った方が気が楽である。
そうは思ってみたものの、すっかり暗くなっている住宅街をひとりで帰る不安は確かに感じていた彩香であった。
「桜井さん、こういうときはね、意地を張らずに送ってもらうのがいいの!!」
 高杉がまるで諭すかのような口調で言った事で、みなが笑う。
彩香も苦笑いしながら立ち上がり、そっとスカートを払った。
ズンと一気に下腹部が重く感じられる。
(つぅ‥‥やっぱりおしっこ‥‥すごくしたい‥‥)
 ここから歩いておよそ15分近く‥‥それまで我慢できるのかと、彩赤は自分に問いかけながら重い足取りで皆に続いて部屋を出た。

 4月半ばになっているとはいえ、強い尿意に迫られている彩香にはかなり寒い外気であり、雨が降る前兆なのか、空気が湿っているように感じられた。
玄関先でそれぞれの方角に別れ、拓は自転車を押しながら彩香と一緒に歩き出した。
(ひゃ〜、これじゃまるでこの前と同じパターンだよぉっ!!)
 拓と二人きりになったことで、一気にこみ上げてくる尿意。
それは例の条件反射から来るものなのか、あるいは本当に極限に近いものであるのか、それは彩香にも判断できなかったが、おしっこがしたくてたまらないという現実だけは否定できない。
あの時のように学校で用を足す事が出来ない今、いやでも家まで我慢するしか方法はなく、彩香は不安でならない。
通学カバンを自転車のカゴに入れろと言われ、今日はおなかを隠す物さえなく、唯一の救いはスカートのポケットが、自転車を押す拓の反対側であるという事で。彩香は気づかれないようにそっとポケットに手を入れ、その中で指を伸ばしておまたを押さえながら歩くことが出来た。
それでもそんな気休めで尿意が治まることはない。
(おしっこしたい!!したい!!したい!!)
 どうしてもそういった感覚が頭から離れない彩香。
学校のグラウンド沿いに正面玄関の方へとやってくると、ここからはいつも彩香が通学しているルートになる。
それは時間にしておよそ10分。
(あと10分!!あと10分だけ我慢すればいいんだぁっ!!)
 およそ6時間半以上にわたって溜まってきたおしっこを、あと10分したら出すことが出来るのだと、彩香は気を強く持って自分に言い聞かせていた。
 前回も、そして今回も、彩香が必死におしっこを我慢していることなど知らない拓は、のんきにいろんなことを話しながら歩いていた。
彼の話は時としてスケールの大きな内容の時がある。
誰にでも分かる上手な話しぶりで、聞き入った彩香は未知の世界に引き込まれてしまい、それが彼の事を好きになったきっかけでもあった。
しかし今はそのスケールの大きさが彩香にとっては邪魔者の何者でもない。
およその内容は頭に入らず、尿意を紛らわせるのに役立っていない。
(なんか‥もっと楽しい話をしてよぉ‥‥)
 とにかくおしっこがしたい彩香は、少しいらだっていた。
そんなとき、ふと話がとぎれてしばらく沈黙する拓。
(え‥なに?,どうしちゃったの‥!?)
 会話がとぎれたらとぎれたで不安になる彩香。
拓はしばらく沈黙した後、思い詰めたような感じで彩香の方を向き、
「なあ、話は変わるけどさ‥・」
「え‥?」
「桜井ってさ、今だれかとつきあってるの?」
 拓が聞いてきた内容、それはあまりにも唐突なものであった。
「え‥‥ま、まさかぁ‥‥」
 そうしか答えることが出来ない彩香。
「ふーん、そっかぁ‥‥」
「‥‥」
「じゃあさ、オレたちつきあってみない!?」
「え!!?」
「オレさ、桜井ならいいなって‥‥前から‥」
「ぁ‥‥」
 彩香は声にならなかった。
拓の言葉はずっと待っていたとても嬉しい言葉である。
しかし今、パンパンに張ったおなかを抱え込んでいる彩香にとっては、それはあまりにもバツの悪いシチュエーションといえる。
(こんな‥こんなときに、そんな大事なこと言われてもぉ!!)
 妄想の世界で、彩香はこう告られたらこう答えようなどと、いくつかのパターンを思いめぐらせていた。
しかしおしっこがしたくてたまらない時のシチュエーションなど考えたこともなく、どう対応していいのか分からなくて、彩香は焦ってしまった。
なんの反応も示さない彩香に、
「‥オレじゃダメかなあ‥?」
 拓が催促するように聞いてきた。
「ぁ‥ち‥ちが‥ぁ‥そうじゃなくて‥ぁの‥」
 自分でも何を言っているのか分からなくなり、更に焦ってしまう彩香。
心を開いてくれた拓に答えたい。
そう思って何か言おうとするが、言ってしまうことで気が緩んで、おしっこがあふれ出してしまいそうな、そんな恐怖にも似た感覚も覚えていた。
(もうおぉっ、おしっこのバカバカバカっ!!)
 ポケットの中で押さえているおしっこの出口の辺りが、先ほどからムズムズとしている。
彩香は無意識のうちにその手を動かしていた。
「ああ‥悪い。なんか無理なこと言っちゃったかもな!?」
 拓が少し冷静になったような口調でそう言った。
「ぁ‥だからちがう‥‥そうじゃなくってぇ‥私だって‥‥」
「え?」
「あのね、あのね‥‥その‥私だって前からずっと拓くん‥‥」
 思わず[拓くん]と言ってしまったことで、彩香は極限に近い恥ずかしさを感じてしまった。
しかし今さら後には引けない。
「だから‥その‥‥‥好きっ!!」
 そう言うのが精一杯の彩香。
そう言ってしまったことで、張り詰めていた気持ちが一気に解放され、足から力が抜け落ちていくような錯覚にとらわれかけた。
それは閉じ合わせているおしっこの出口にも作用して、今にも開いてしまいそうな感覚までも呼び起こし、彩香は思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
(言っちゃった!!どうしよう‥言っちゃったぁっ!!)
 自分の顔が真っ赤になっているであろうと感じる彩香。
それと同時にしゃがみ込んだパンツの中に熱い物が溢れてくるのを感じ取っていた。
(だめぇっ、まだ出ちゃダメだってばぁっ!!!)
 ポケットの中の手で更に強くグッと押さえつけ、すべての神経をそこに集中させ、
(はぁぁ‥少し出ちゃったよぉ‥‥)
 そして強い排尿感の波が治まるのを待つ彩香。
拓は立ち止まって彩香を振り返り
「大丈夫か?」
 と、優しそうな声で聞いてきた。
「だ‥大丈夫じゃないよぉ‥恥ずかしいから‥少し‥先に行っててぇ!!」
 彩香は顔を覆い隠すようにうつむいたままそう言った。
ポケットに手を入れている不自然さも知られたくない。
(はぁ‥はぁ‥こんなシチュエーション‥最悪だぁっ!!)
 ロマンチックな告白シーンばかりを妄想していた彩香にとって、おしっこが絡んでくるとは夢にも思わず、悲しくなって涙がにじんできた。
その涙目でそっと様子を見ると、拓は次の角あたりまで歩いていき、そこで自転車を止めて彩香を待っているように見えた。
 しばらくするとおしっこの波も少し治まったように感じられ、拓をいつまでも待たせられないと、彩香はふらつきながら立ち上がり、力の入らない足取りで歩き出した。
パンツの中が冷たく感じられ、それがさらなる尿意を呼び起こそうとしている。
(もうおぉ、おしっこしたくてたまんないっ!!)
 誰にも当たる事が出来ず、彩香は自分自身に当たり散らしながら拓の元へ歩いていった。
もう家は近い。もう少しの辛抱だから開き直ってやろう。
彩香はそう思って、あえて見上げるようにして拓の顔をのぞき込んだ。
「あれ‥オレ‥泣かせちゃった!?」
 涙目になっている彩香の顔に、拓は思わずそう口走ったが、彩香は開き直っているために
「うん。嬉しくて少し‥泣いた‥‥」
 と、わざと口をとがらせるような感じでそう言って答えた。
「あは、それってオレ、喜んでいいって事だよな!?」
 拓は嬉しそうに微笑んでいる。
彩香はそれには何も答えず、まっすぐに前を向いていた。
拓との間に産まれた[両思い]の嬉しい感情と、おまたの周りのムズムズする不思議な感覚と、ジンジンと伝わる強い尿意がすべてシンクロし、いたたまれない気持ちになっている彩香は、もしすぐそばに拓がいなかったら、もしここが住宅街でない野原なら、思いきり叫び出したいと、そんなふうに思っていた。

 それから数分でふたりは彩香の家にたどり着いた。
ちょうどその頃からポツリポツリと小雨が降り出し始め、拓は間に合って良かったねと、自分の帰り道のことなど気にせずに優しく言っていた。
やっとの思いでたどり着いた安心感から、彩香のおしっこはあふれ出しそうである。
しかし拓は名残惜しいのか、まだ彩香を解放しようとはせずに話し続けていた。
(はやくぅ!!おしっこ出ちゃう!!もぉおしっこ出ちゃうよぉ!!)
 じっと立っていることが出来ない彩香は、体を左右に揺らしながら耐えていた。
拓にヘンに思われるかも知れないが、もうそれどころではない。
(出ちゃう!!出ちゃう!!出ちゃう!!出ちゃう!!出ちゃう!!出ちゃう〜ぅ!!)
 あと数歩で玄関であり、その先数歩で待望のトイレがある。
それが分かっている彩香は今にも気が緩んでしまいそうで、いっそう体を揺すってしまっていた。
(もう‥トイレ行きたいって言っちゃおうっ!?)
 そうまで思った彩香であるが、嬉しそうに話しかけている拓の顔を見ると、どうしてもそれは言えなかった。
(でもぉ、ほんとにもう漏れちゃうんだってばぁっ!!!)
 そう叫びたくなっていた彩香に、
「そういえばさっき‥オレのこと拓くんって‥?」
 彩香にとってはこの上なく恥ずかしいことを拓は蒸し返してきた。
「え‥そ,そんなこと‥ぃ、言ってないよぉっ!!」
 とぼけるしかない彩香に、
「じゃオレは‥桜井のこと[あや]って呼ぼうかな〜!」
 拓は小雨の降る夜空を見上げるようにしながらそう言った。
「ぅ‥ん‥」
 そう答えた瞬間、また彩香のパンツの中に熱いものが広がりだした。
両足をピッタリと綴じ合わせ、ありったけの力を入れて神経を集中している彩香。
(もう‥もうダメだよ‥この次は‥もうないよ‥‥)
 自分で限界だと悟った彩香である。
「ごめんな。引き留めて‥」
 拓はようやく彩香を解放しようとした。
「ううん‥」
 言葉足らずとは思うが、それが彩香には精一杯の返事で、気づかれないようにポケットから手を出すと、自転車のカゴから通学カバンを取り出し、そそくさとポーチを開いてその中に入り込んだ。
そしてそれを閉めながら拓の方を振り向くと、そこには
「じゃあな!!」
 と言う拓の顔が目の前に迫っていた。
「え!」
 ポーチ越しに、拓の暖かい唇が彩香の唇に重なってくる。
「!!!」
 父親以外の男性からキスされたのは生まれて初めての彩香である。
拓の唇のぬくもりを感じたとき、彩香はうれしさと驚きと恥ずかしさが一気に爆発しそうになり、心臓が急にドクドクとうなりだして、ガクッと体の力が抜けそうになってしまった。
ジュ‥‥
それを合図にしたように、彩香のおしっこの出口は開いてしまった。
それは閉じ合わせている足をツ〜と伝い落ちていく。
必死に力を込めているために勢いは押さえられたが、もう止められない。
拓の唇が離れたとき、彩香は涙が溢れてくるのを止めることが出来なくなっていた。
それは、拓から受けたキスのうれしさと、そんな大事なときにおしっこを漏らしている情けなさが入り交じった、複雑な涙であった。
「じゃっまた明日な!!」
 何も知らない拓はそう言って手を振りながら自転車にまたがって走り出す。
その後ろ姿を涙目で確認しながら、彩香はサッとブロック塀の方に体を移動させ、カバンを放り出すとサッとスカートをめくり上げ、同時に勢いよくパンツをズリ下げながらその場にしゃがみ込んだ。
ジュシュィ〜バチャバチャ‥‥‥
ずっとずっと我慢を重ねてきた彩香のおしっこは、今ここで一気に解放され、激しく庭先の地面にたたきつけだし、更に勢いをつけて目の前のブロック塀にまで飛び散っていった。
もし今だれか訪問客があったら、もし今両親が玄関の戸を開けたら、あるいはベランダを開けてしまったら、彩香が庭先でしゃがんでおしっこをしている所を見られてしまう。
いや、もし今表を誰かが通りかかったら、それだけでもおしっこをしている音を聞かれてしまう。
そんな不安に彩香は押しつぶされそうになっていたが、それでもおしっこはもう止めることが出来なかった。
それは気が遠くなるほど長い時間であったように彩香は思った。
(恥ずかしい‥‥恥ずかしい‥‥早く終わってっ!!‥‥けど‥気持ちいい‥‥)
 小学3年の時に親戚の庭先でしてしまって以来、彩香は外でおしっこをしたことがなく、中学3年になった今、それは言い表すことが出来ないほど恥ずかしく思えるものであった。
 彩香のおしっこが終わりを告げようとした頃、それを待っていたかのように雨が勢いよく降り出してきた。
自転車の拓も雨に打たれているかも知れないが、今はそれどころではない。
彩香は後始末をすることも出来ず、すっかり濡れてしまったパンツを
(つめた〜っ!!きもちわる〜!!)
 と思いながらそのまま穿き、スカートを直して何事もなかったかのように玄関の戸を開けた。
そして大きな声で「ただいま〜!!」と告げ、クツを脱ぎながらおしっこが染みこんだハイソックスも同時に脱いで、それで足の裏などを拭きながら、
「ママ〜,先に着替えるね〜!」
 とまた大きな声でそう言って2階の自分の部屋に駆け上がると、スカートとパンツを脱ぎ去って、バスタオルを取り出すと濡れたままになっている部分をきれいに拭き取っていった。
初めてのキス‥‥その衝撃での漏らし‥‥
一瞬の出来事ではあったが、彩香の心臓はこの時点でもまだドクドクと高ぶったままであった。

 頭が混乱してパニックになってしまっていた彩香は、その夜はなかなか勉強が手に着かず、遅くまで起きていた。
あれから一度もトイレに行っていないため、尿意を感じていた彩香であったが、キリがいいところまでやり遂げたくて、ずっと足をモジつかせながら頑張っていた。
 やがて一区切り着くと、彩香はまたぼんやりと拓の顔を思い浮かべていた。
(拓くんもまだ‥勉強してるのかなぁ‥?)
 そんなことを考えていると、いつもそうであるように、おしっこの出口のあたりがムズムズとした感覚に包まれだし、彩香はパジャマのズボンの上からそこを指でさすっていた。
「え!?」
 いつもになくパンツの中に熱いものを感じた彩香。
(え‥やだっ、また漏らしたっ!?)
 驚いた彩香は、おもむろにパンツの中に手を入れてみると、
(えっ‥えっ‥これ‥)
 そこには指に絡まるようなヌルッとしたものが溢れていた。
(これって!?)
 もう中学3年になった彩香である。
それが何であるかすぐに分かったが、なぜそうなっているのかが分からなかった。
(え‥やだ‥拓くんのこと考えていたから!?)
 何となくいけない事をしているような罪悪感を感じながら、それでも恐る恐るそれをなぞるようにしてそっと指を動かす彩香。
(ぁ‥なんか‥なんか変な気持ち‥ぁ‥でも‥気持ちいい!!)
 これまでにない不思議な感覚が彩香を取り巻きだしていた。
(ぁ‥でも‥こんなことしてたら‥ぁ‥でも‥どうしよう‥私‥)
 誘惑に負けてしまったような、そんな罪悪感は消えないが、彩香はその指を止められなくなっていた。
(でも‥こんなこと‥拓くんに知られたら嫌われちゃう!!)
 なにげに拓の顔を思い浮かべた彩香は、本能がそうさせるのか、自分の意思に反して更にその指の動きを速めてしまった。
(やだ‥どうしよう‥おしっこしたい‥おしっこ出ちゃいそう‥)
 自分の指で尿道口を刺激してしまい、彩香はたまらなくなって、
(やめなきゃぁ‥おしっこ漏れちゃう‥‥)
 お漏らししてしまいそうな感覚に、彩香はそれが怖くてパンツから指を抜き去り、足音を忍ばせるようにして階段を下りてトイレに向かった。
リビングに明かりはなく、両親はもう眠っているようである。
下着を降ろして便器に腰かけた彩香は、また恐る恐る指をなぞっていった。
(‥どうしよう‥こんなこと‥もしクセになっちゃったら‥)
 そうは思いながらも、ついついその指を動かしてしまう彩香。
その指が刺激で敏感さを増していた一点に触れた時、
「ひっ!!」
 体にビリビリッと電気のような刺激が走り、彩香は思わず叫ぶような声を出してしまい、ジュワッとおしっこを漏らしてしまった。 (やっやぁんっ!!?)
 あふれ出したおしっこが指に絡まる事も気にせず、彩香はそのまま指を動かし続けてしまう。
 初めて体験する刺激に頭が混乱してしまい、彩香はもう平常心ではいられなくなってしまっていた。
(ぁぁ‥私‥いけないことしちゃってるよぉ‥)
 精神的にまだ幼かった彩香が、一気に大人の階段を昇り始めた、そんな出来事がいくつも重なった4月のある日であった。


つづく

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