二人の軌跡 8(ユーミンなんて大嫌い)




(注)この章より告白形式の表記ではなく、三人称表記でお送りします。

※  ※  ※

 大好きな翔太にブーツを買ってもらい、寒い外でのお漏らし姿を見られ、そして激しく愛し合ったあの夜から2週間が過ぎ、ミカが心待ちにしていたクリスマスの苗場スキー旅行の日がやって来た。
その日はたぶん高速道路が混むだろうと、翔太は前の日からミカをアパートに泊め、朝5時に起きてスキーを車に積み込むと、まだ真っ暗な中を走って首都高から関越道へと車を走らせた。
 スキーに行くと言うのにミカの服装は、上半身こそ厚手のセーターであったが、下はヒラヒラのミニスカートにナマ足姿で、翔太がプレゼントしたブーツを履いていた。
(まあ・・ホテルで着替えるからいいけど・・)
 雪山に向かうという事を、ミカがどう理解しているのか翔太は少しいぶかしく思ったが、あえてそのことは口に出さなかった。
「翔ちゃん、コーヒー飲む?」
 ミカは助手席に深々と座って、出かける前にドリップしたコーヒーをカップに注ぎながら翔太に言った。
「なあミカ・・家の人にはなんて言ってきたんだ?」
「うん、友達グループ7人で行くって。」
「7人って・・、やっぱりウソついて出てきたんだなあ・・」
「あれぇ、だって翔ちゃんと二人きりなんて言えないも〜ん!」
「そりゃそうだけど・・」
「大丈夫。夕べは女友達のうちに泊まったことになってるから!」
「あ、うん・・」
「運転は遠藤さんだから心強いよって言っておいたよ〜。」
「はは・・」
 翔太はもうひとつ、果たしてミカの両親が男友達と泊まりがけでスキーに行く娘をどう思って送り出したのか、夕べはどこに泊まると聞かされていたのか、そのこともずっと気になっていた。
しかし聞くのが少し怖いようにも感じられ、夕べはそのことには振れずにいた。
(まあいっか、一応オレと一緒だという事だけは事実なわけで・・)
 男女複数人での行動で、その中に自分も含まれていると告げられていることに、翔太は後ろめたい気持ちと安心感が交叉する複雑な感情を覚えていた。
 二人を乗せた車は順調に走り、3車線ある真ん中をずっと維持できていた。
同じようにスキーをルーフに積んだ車が何台も雪山を目指している。
「ミカ。これから先、凄い渋滞になるかもだから、トイレに行きたくなったら早いめに言うんだぞ!下手するととんでもないことになるからなっ。」
 翔太はミカに気遣ったつもりでそう言ったが、
「あん!大丈夫!もうぜったい失敗はしないからぁ。もうぉ意地悪ぅ〜」
 ミカは少しすねたような口調で言い返していた。
(まあ・・オレの取り越し苦労であればそれでいいんだけど・・)
 翔太に一抹の不安がよぎる。

   群馬県に入って3車線が2車線になる頃、翔太は一度PAに寄ってそこでトイレ休憩を入れた。
翔太が先に用を済ませて車で待っていると、ほどなくして寒そうな恰好のミカが小走りで戻ってきた。
車が増えて来たから先を急ごうと走り出すと、しばらく走った赤城ICあたりからチラつきだした雪で車の速度が落ちてきて、ここから水上ICまではずっとこのまま渋滞するのではと、イヤな予感が翔太の頭をよぎった。
BGMを中断してハイウェイ情報のチャンネルを選ぶと、雑音に紛れて途切れ途切れに水上出口付近は大渋滞を起こしている様子がうかがえた。
「あちゃ〜、やっぱり大渋滞みたいだよ。どうやらオレたち渋滞の最後尾かもね。」
 翔太は半ばあきらめの境地でミカにそう言うと、窓の外をボンヤリと眺めているミカは、気のない返事を返してきた。
「これじゃあ脱出するのに1時間以上かかるかもな!」
「うん・・そんな感じだね。」
「まあスキー場は逃げないけど、苗場に着くのはお昼を過ぎちゃうなぁ・・」
「うん・・仕方ないね・・。」
「?」
 いつもなら「え〜早く着きたい〜!」とか「楽しむ時間が減っちゃう〜!」などと、必ずグズグズ言うミカであるのに、返ってくる言葉が少ない。
そういえばスピードが落ちてきた頃から、ミカの口数が極端に減ってきていたなと翔太は思った。
「ミカ!」
「・・・」
「なあミカ、コーヒー飲んでたし、またおしっこ行きたいんじゃないのか?」
「・・・」
「大丈夫か?このままだとかなりヤバイ展開になるんだけど・・。」
「・・・」
「ミカ!ハッキリしないと困るのはミカだぞ!」
「・・・ふにぃ〜〜〜〜、あのね、うんとね・・・ちょっと危ないかもぉ〜」
 やはり翔太の予想どおりミカは尿意を堪えている様子であった。
「え〜〜!だから、そうなる前に教えなって言ったじゃん!我慢できるのか?」
「うんとぉ・・さっきはおトイレ行ってないしぃ・・」
「え、済ませたんじゃなかったの?」
「だってぇ、凄く並んでいたんだよぉ。」
「そんなに混んでたのか・・」
「・・そしたら翔ちゃんが車に戻るの見えたしぃ・・」
「え・・だからっておしっこせずに戻ってきたのか!?」
「ふにぃ・・」
「なにもそんなに急いで戻ってこなくても・・」
「だぁってぇ〜、翔ちゃん待たせるのイヤだしぃ・・それに着くの遅れちゃったらスキーの時間が少なくなるしぃ・・・」
 翔太はしまったっと思った。ミカのやりそうな事だ。車に戻ってきた時にちゃんと聞いてやれば良かったと・・。
エアコンは入っていてもミニスカートにナマ足で、おまけにコーヒーを飲んでいたミカは、もう5時間もトイレに行っていない事になる。
「あっちゃ!そんなことよかミカ・・あとどのくらい大丈夫?」
「ん・・10分・・5分かなぁ・・あ〜ん、ほんとはおなかパンパンなのぉっ!」
 ミカはそう言いながら左手でおなかをさすりだしていた。
「ハァ〜やれやれ・・やっぱ用意してきて正解だった。ミカ、後の席のバッグから茶色いラッゲージ取ってくれる。その中に携帯トイレが入ってるからさ、それ使うといいよ!」
 翔太はこんなこともあろうかと、昨日カーショップで携帯トイレを買ってきておいたのだ。
ミカはブーツのまま助手席に膝をつき、お尻をフロントガラスに向けるような恰好になって後部座席のバッグをガサゴソとあさり出した。
「あ!こら!ミカってば!外からお尻丸見えになっちゃうぞ!」
 そう言って翔太は、あわててミニスカート姿のミカのお尻を手で押さえた。
「きゃ!エッチ!」
 そう叫んだミカは、前屈みの姿勢をサッと伸ばした。
「あ・・」
 そのとっさの行動がミカの張り詰めた膀胱に刺激を与えてしまい、一瞬の緩みが生じておしっこがチロっと漏れてしまった。
(ああん、だめぇ〜!!止まれぇ〜!!)
 幸いにしておチビリはほんの数滴で止まり、ミカはホッとして翔太の言うバッグを引っ張り出し、体を反してシートに座り直した。
「も〜翔ちゃんたらぁ〜、いきなりお尻触んないでよ〜エッチ〜」
「あのな、スキー行きにミニスカートが悪いって訳じゃないけど・・」
「だぁ〜てえ〜、可愛いし、それにフライも履きたいしぃ!」
「さっきの格好だとパンツ丸見えだったぞ〜!きっと見られたな!」
「え〜〜〜!も〜知らない!翔ちゃんのエッチ!」
「俺かよ!見たのは外の車だぞ!・・そんなことより、まだ大丈夫か?」
 まさかチビったからもう少し持ちそうだとは言えず、ミカは
「う〜ん、ちょっとだけ収まったかも・・」
 と答えていた。
「またすぐに我慢できなくなるんだから、早いところそれにしちゃえって!」
 翔太にそう言われてミカはその通りだと思った。
おチビリしたパンツが冷たくなって、それがまた強い尿意を誘っている。
ミカは緊急トイレと書かれたパッケージを開けて、男子用、女子用と書かれた使い方の図解通りに女子用のアダプターをセットし、しばらくそれを凝視していたが、
「だめぇ〜翔ちゃん!こんな恥ずかしいこと出来ないよぉ〜」
 そう言って泣き言を並べはじめた。
「なに言ってんのさぁ〜、漏らしちゃうよりマシだろ〜?」
「無理無理ぃ!車の中でお尻出してなんて出来ないよぉ〜、恥ずかしいもんっ!」
「いあや・・だから・・」
「さっき翔ちゃん・・外の車から丸見えだとか言ってたじゃん!!」
 翔太の車はスポーツタイプのクーペで、確かにセダン型より多少低めの視界だ。
「あのなミカ、さっきのは前屈みでお尻をつき出したからで、座席の下の方なんて見えないんだよ。試しに他の車のドアから下が見えるか外を見てごらん。」
 そう言われて、ミカはノロノロ運転を続ける隣の車を覗いて見た。
確かに運転している人は腕のあたりまでしか見えないし、助手席も胸のあたりまでであった。
しかし、こちらが少し流れてワゴン車の横を通り抜けた時、運転している若いお父さんらしき人と目が合ってしまった。
向こうは完全にミカを見降ろしている。おそらくシートに伸びたミカ太ももあたりまでは見えているであろう。
後部座席にいる子供達は、そんなミカに対して無邪気に手を振ってきた。
「ダメ!絶対ダメなんだから〜っ!」
 ミカは今ワゴン車から見降ろされたことを口早にしゃべった。
「いいか、そんなの一瞬だよ。向こうは見ていないことだってあるんだしさ。」
「いや、いや!絶対いや!」
「じゃあ、どうすんだよ?車の中でお漏らしするのかぁ〜?」
「も〜翔ちゃんの意地悪ぅ〜〜〜何とかならないのぉ?」
 そんなやり取りをしているうちに、ミカは我慢の限界に達してしまったのか、涙ぐみながらうつむいてしまった。その肩は小刻みに震えている。
翔太も一呼吸置いて考えると、男なら座ったままでも何とかホースを引っ張り出し、恥ずかしければジャケットで隠して出来るけれど、さすがに女の子ではまずいかなと思った。
小さな子ならまだしも、大人のミカにとっては深刻な問題だ。
「判った、ミカ、じゃあこうしよう!」
 翔太は必死で考えたアイディアをミカに話した。
1,まず後部座席に移動する。
2,翔太のバッグにあるハンガーにふたりのジャケット掛けて、後部窓と左側の窓のフックにそれぞれ掛けて目隠しを作る。
3,右側車線を走るから、それで右側は何もしなくとも死角になる。
 これで後部座席は即席の個室になるというものであった。
ミカは判ったような判らないような素振りで聞いていたが、決壊はそこまで迫っているために、
「うん判った、やってみる。その代り・・翔ちゃん音楽のボリュームあげてよ!音聞こえちゃうのいやだあ〜」
 ミカは助手席のバックレストを倒し、ゴソゴソと後部座席に移動して行った。
しかしパンパンに張り詰めたミカの膀胱は、そのわずかな動作さえも刺激として受け取ってしまい、ミカをしつように責め立てる。
(あ、あ、あ、間に合ってぇ〜〜・・・まだ、出ちゃダメぇ〜〜)
 ミカは左手をおまたに挟みながら、翔太のバッグからハンガーを取り出すと、それにジャケットを着せて窓のフックに掛けた。
その間にもおしっこはどんどんミカの出口に集まりだして「もう行くぞ!」と言わんばかりの勢いでこじ開けようと暴れ出している。
ミカは後部座席にお尻をほんの一部だけ乗せた格好で、
「翔ちゃん・・できたよ・・・」
 絞り出すような声でそう伝えた。
その声を聞いて今度は翔太が慌てた。
「ちょっと、もう少し我慢しろな、今車線変えるから!!」
 翔太は先ほど空いた左側車線に移っていたため、再び右側車線に戻ろうとウインカーを出していたが、渋滞時の人間の性であろうか、そこは翔太の車の侵入を阻もうとするかのように車間が詰められていた。
「え〜、ダメ、ダメ〜早く早くぅ〜〜〜」
 いざおしっこをしようと決めたミカにとって、待たされることは地獄の苦しみだ。
「ごめん、もうチョットだからな!ミカ頑張れ!」
「翔ちゃん!早くぅ〜〜〜〜〜、もうダメぇ〜〜〜」
 ミカの声に押されて、翔太は強引にハンドルを切って車を加速させた。
「よし!ミカいいぞ!」
 翔太のその言葉が号令となる前に
シュシュゥ〜・・・
まだパンツを穿いたままのミカからおしっこがあふれ出してしまった。
翔太の強引なハンドル操作で、座席に浅く腰掛けていたミカは本能的にバランスを保とうとして、あらぬ力が入ってしまったのであった。
慌てて緊急用トイレの受け口を自分のワレメに押し当てるミカ。
もうパンツを下ろす余裕など無かった。
「あ、あ、あ〜〜〜ん。出ちゃったよぉ〜・・・」
「ミカ!大丈夫か?間に合った?」
 翔太はジャバジャバジャバっと音がする後部座席を振り返った。
狭いスペースにしゃがみこみ、スカートの下に緊急トイレを当てているらしいミカを確認すると
「おっ、セーフだったみたいだな!」
 と、半ばホッとしたように声をかけた。
水分凝固剤が入っている緊急トイレは、すぐにおしっこをジェル状に固めていく。
説明書では最大600ccと書いてあったが、自分のおしっこの量など計った事の無いミカにとって、溢れ出しはしまいかと気が気ではなかったが、それはなんとか収まったようであった。
「翔ちゃん、終わったぁ・・」
 子供のような口調でミカが言う。
「そうか、良かった良かった。じゃあ、終わったやつフタ閉じてそこのコンビニ袋に入れときな。後で捨ててくるから。」
「うん判った。でも・・・半分失敗しちゃったみたいなの。」
「え?何?失敗?半分ってどういうこと?」
 ミカは翔太の急加速にビックリして漏れだしたので、パンツが脱げずにビショビショになってしまったと「不幸中の幸い」ならぬ「幸い中の不幸」を翔太に告げた。
「ありゃ〜、それで半分失敗ってことか〜。も〜しょうがないなぁ〜。早く脱いで、そこにティッシュあるから拭きな。」
「うん、そうする・・・」
 ミカは下を向き、小さくなってパンツを脱ぐと、それをティッシュに包んで丸め、さっき破いた緊急トイレと書かれたビニールの袋に詰めた。
そしておしっこがこぼれていないかと座席のあたりを確認してみたが、運良くスカートもシートも濡れていない。ただ、フロアマットにはけっこう染みが広がっていた。
「あのね、翔ちゃん、チョットだけ下にこぼしちゃったみたい・・」
「え?こぼれちゃったの?どの位?」
「うん、チョットだけだと思う・・・」
 量は多少ごまかして言ったミカ。
「いいよ、そんなの後で洗えば済むからさ。」
「ごめんね・・・」
 しょげかえるミカは、それでもさらに言葉を続けた。
「あのさぁ〜翔ちゃん、どこかで車停められない?」
「う〜ん、それは無理だな〜。どうした?まだ・・おしっこ出るのかぁ〜?」
「ん〜違うの。私のバッグは後のトランクでしょ?新しいパンツ穿きたいよぉ〜」
「あ、そっかぁ〜。はははは、またノーパンちゃんになっちゃったんだ〜。」
「も〜そう言うこと言わないでよぉ〜」
「これで2回目?ククク〜〜〜」
「あ〜笑ったなぁ〜、もぉ〜バカ翔太!!!これでも食らえ!」
 ミカはさっき濡れたパンティーを詰めた袋を翔太の股間めがけて投げつけた。
「あ!そういうことするかぁ〜!よぉ〜し、絶対トランク開けてやらないぞぉ!スキー場に着くまでノーパンの刑だぁ〜!」
「あ!ごめんなさい。それはいや!お願いどこかで停まって。ねえ翔ちゃん!」
「さ〜あね。ま、しばらくはそうしてな。車の中だからいいじゃん!!」
「もうおっ、あんまり意地悪だと今晩エッチなんかさせてあげないからね〜!」
「どうぞどうぞ!俺ナイター行って疲れて寝ちゃうことにするもん。ミカこそゴロニャンって来たって構ってあげないもんねぇ〜」
「も〜!ああ言えばこう言う!翔ちゃんなんて大っ嫌い!」

 水上ICに着く少し前に、ハイウェイラジオが出口の渋滞は4キロから6キロに変わっていることを告げたのを確認すると、翔太は関越トンネルを越えて湯沢ICから三国峠を逆走するルートを選ぶことにし、水上ICを前に空きだした追い越し車線を疾走した。
車仲間からラリー用のウインタータイヤを借りて付けた翔太のセミ・レース仕様のクーペは、チェーン規制を受けることなくトンネルを突破し、渋滞の無い湯沢ICを通過できた。

 翔太はインターを出てしばらくの所で路肩に車を止めると、トランクを開け、ミカに新しいパンツを出して穿くように言い、自分はビニール袋から濡れて丸められたパンツを取り出し、新雪の中に押し込むとゴシゴシと手揉み洗いのようにして何度も絞った。
ミカは車の後部座席で身支度を整えると、助手席に戻り翔太の様子をうかがった。
(翔ちゃんなにしてんだろ?早く行きたいなぁ〜・・)
 まったくお気楽なミカである。
翔太はトランクから針金を探すと、それをS字フック状に折り曲げてミカのパンツを引っかけて運転席に戻って来た。
「翔ちゃん何してたの?」
「うん?何してたかって?・・・ジャ〜ン!お洗濯でしたぁ〜!」
 そう言ってフックに引っかけたパンツをミカの前で振って見せた。
「いやぁ〜〜ん、恥ずかしいことしないでぇ〜〜〜」
 ミカは翔太の手からそれを奪おうとする。
「あ〜!ちゃんと雪で洗ってきたんだぞぉ!だぁ〜め、言うことを聞かないミカはチョットお仕置きしなきゃ、それにこうしておけば乾きも早いだろ?」
 翔太はそう言ってフックをルームランプの窪みに引っ掛け、ドアを閉めると車を出した。
「だめ、だめ、だめぇ〜こんなの恥ずかしいぃ〜〜」
 必死にフックからそれを外そうとするミカの手を抑え込み、翔太は言った。
「よし、ミカ、飛ばすぞ!シートベルト締めてつかまってろ!」
 ラリーやジムカーナで鍛えた翔太のドライブの腕は確かだった。
雪の三国峠のいくつものカーブを、車を振り回しながら昇って行くと、ミカはまるでジェットコースターに乗ったようにキャーキャーとはしゃいだ。
カーブを切るたびにミカの可愛いパンツがユラユラと揺れていた。
 逆送ルートを選んだ甲斐があって、二人は昼少し前に苗場プリンスの本館前に到着し、ごった返すフロントでチェックを済ませ、荷物はクロークに預けてスキーウェアに着替えると、お昼御飯も早々にふたりはゲレンデに飛び出して行った。

 スキー場ではBGMにいろんな音楽を流す。
ここ苗場スキー場はニューミュージックの旗手、松任谷由美がお気に入りのゲレンデと言うことでライブをやったりする関係か、彼女の「スキー天国」や「恋人はサンタクロース」などの楽曲を延々と流し続けていることだけが参ってしまう。
バンドをやっていたこともある翔太は「俺に選曲させろ!」と思うこともしばしばあった。
 翔太とミカの二人はリフトを乗り継ぎ「筍山」と呼ばれるスキー場の頂上まで辿り着いた。
幸い天気はドピーカンで、二人は顔を見合せて「やりぃ〜」と拳を合わせた。
「よ〜し滑るぞぉ〜、ミカついてこれないだろうから、先に降りな。俺は後を追いかけるから。」
「あ〜ん、今日はゆっくり一緒に滑ろうよぉ〜」
 翔太はモーグルをやっているから、普通の滑りでは満足しないことは判っているが、今日ぐらい私に合わせても良いじゃん!と言うのがミカの気持ちだった。
「ああ、判った判った。斜面が緩くなったら一緒に滑るから安心してろ。」
「約束だよ!絶対だからね」
 そう言って、ミカは頂上から先陣を切って滑り出した。
なかなかどうして。ミカの滑りはそこらの男には負けていない。
多少は後傾姿勢だが、見事なウェーデルンで雪煙を上げながら斜面を駆け降りる。
ただしコブは苦手らしく、深いギャップに煽られると「キャー!」と逃げ腰になる。
 筍山を降りると、直線のなだらかな斜面で一息つける。
ここで二人は合流すると、トレインと言われる直列に並んだ滑りを始めた。
翔太が前に出て、途中でスピンをいれるとミカも真似してみる。
周りを滑っている人達が、二人の息のあったトレインに「ピュー」と口笛を鳴らすほどであった。
 ドピーカンの天気と、一緒に滑れる楽しさにミカはご機嫌で、途中で休憩を入れ、お茶をしたりしながらラブラブな気分で滑りを楽しんでいだ。
 しかし山の天気は急速に変わる。
午後4時を迎える頃、筍山の頂上は相当風が吹き出してブリザードのような横殴りの雪が顔を打ちつけるようになってきた。
眼下を見下ろすとガスも出てきたようだ。すでにゲレンデにはナイター照明が灯されていた。
「ミカ、そろそろ上がろうか?ガスっちゃってはぐれると困るし。」
「う〜んそうだね。チョット早いけどそれがいいね。」
 そう応えたミカではあったが、実はこのときミカは少し尿意を催していた。
3時前の休憩でトイレには行ったが、その時飲んだ紅茶がミカに作用し始めていたのであった。
「よし!じゃあ大斜面前まで一気にいくぞ!俺後ろから追うから。」
「判った。転んだら助けてね。」
「大丈夫!ちゃんと見てるよ。」
 視界の悪い斜面をミカが先に滑りだし、そのルートをなぞって翔太も続いた。

「ふぅ〜さすがに一気に来ると疲れるな。」
「はぁ、はぁ、そうだね。私、膝が笑っちゃいそうだった。」
「でも、大斜面は空いたみたいだな。みんな天気悪くなって降りたかな?」
「そうだね〜。何かまばら〜って感じ〜」
 その時、後方からパトロール隊がやってきて早目の下山を呼び掛けてきた。
ミカはここでトイレに行きたいと言おうと思ったが、
「う〜ん、下山組で混むから今がチャンスだな。この下まで一気に行こうぜ!」
 翔太にそう言われると、たしかに混んできて滑りにくくなるよりも、いま降りた方がいいかもと思い、トイレは後にしようと思った。
 下山には複数のルートが選べる。
比較的やさしい斜面が続くコースと、大斜面並みのコブが並ぶコース等だ。
翔太はスキーポールで簡単なコースの方を示した。
「ううん、こっちのコブの方行こう!」
 ミカはポールで逆のコースを指した。
緩やかなコースは距離が長い。そして初心者で混み合っている。
最短でホテル前に行くためには一気に滑り降りたい。
今はそれほどではないが、ホテルに着いてからトイレに行く時間やスキーウェアを脱いだりする事を考えると、今は少しでも時間を短縮しておいた方がいいと判断したミカであった。
「お!ミカやる気満々だねぇ〜」
 翔太はそう言ってミカを誉めた。
「うん!だってさっきコブの滑り方コーチングしてもらったもん!腕を見てよ!」
「よぉ〜し、それじゃ行くぜ!!」
 二人は勢いよく急斜面を滑りだした。
途中ミカは2回ほど転んだが、尻もち程度でスキーが外れることも無く、二人は一気にホテル前のなだらかな斜面へと滑り降りてきた。
ホテル前ゲレンデは雪こそチラついているが、上と全く違い風も無く穏やかだった。
「ふ〜!さすがに疲れるなぁ〜」
「はぁ、はぁ、そ、う、はぁ、はぁ、だねぇ〜」
 背中に薄っすらとかいた汗がそのハードワークを物語っていた。
「ねえ翔ちゃん、今夜は楽しくお食事しようよぉ〜。クリスマスだよ〜」
 滑っている時は意外にアスリート系になるが、一度素に戻ると途端に甘えた子供に戻るミカ。
「ああ、そうだね。じゃ今晩は飲んで食って・・そしてお楽しみタイムだね!」
「も〜、ロマンチックのカケラも無い言い方しないでぇ」
 頂上から滑り下りてさすがに疲れた二人は、ゲレンデの端にスキーを脱いで立て懸け、ポールをその間に渡して簡易ベンチに腰掛けると、一休みしながらお喋りに興じた。
ミカは早くトイレに行きたかったが、翔太との和やかな雰囲気を壊したくなくて言い出せずにいた。
(あっでも・・ちょっとヤバいかも・・・?)
 汗が冷えて来たことで、ミカの膀胱から危険信号が発っせられた。
そろそろホテルに上がらないとマズい。
「よ〜し、そろそろ上がろうか?それとももう少しここで滑る?」
 ちょうどそんなときに翔太が切り出してくれ
「ううん。もう疲れたし上がろ!」
 ミカはナイスタイミングと賛成し、スキーを履いて準備しだした。
「じゃあ、ここからはまたトレインして行くか?」
「了解!隊長!今度はミカ二等兵が後に続きます!」
 敬礼しておどけてみせるミカ。
翔太が細かくリズムを刻んだターンで滑りだし、ミカもそれに続く。
と、その時、
「キャー!どいてぇ〜っ!!」
 そう叫びながらひとりの女の子がミカの横に突っ込んできた。
ドン!ガチャ!
ミカは翔太の後しか見ていなかったので、それは全く視界に入っておらず、その子とミカはもつれ合う形でゲレンデに倒れ込んでいった。
「きゃ〜!痛ぁ〜〜〜」
「おい!どうした!大丈夫か!!」
 すぐに気付いた翔太が駆けあがってきた。
「あ〜ん、この子がいきなり飛びこんできたぁ〜」
 私は悪くないと言わんばかりの泣き真似でミカが叫ぶ。
たしかにミカに非はないといえるが。
「ごめんなさい、ごめんなさい!初めてで・・・止まれなくて・・・」
 しきりに謝る女の子のゴーグルは飛び、顔は雪まみれだ。
(げ・・めっちゃ可愛いじゃん!!)
 その子の顔をのぞき込んだ翔太は不埒なことを思った。
「二人とも、怪我は無いか?」
 取り繕うように散らばったスキーやゴーグルを集めながら聞く翔太。
「私は大丈夫だけどぉ〜・・・もぉ〜痛かったんだからぁ〜」
 そう言ってミカはぶつかってきた女の子の方を口を尖らせて睨んだ。
「まあ、まあ、そう言うなって。誰でも初心者の時はあるんだから。」
「ま〜そうだけどぉ〜」
 渋々言うことを聞き立ち上がるミカ。
「君は大丈夫?怪我してない?立てる?」
「はい、ごめんなさい。多分だいじょうぶ・・・あ、痛い!いたた・・・」
 その子は立ち上がりかけると、膝を押さえてまた尻もちをついた。
「こりゃ、捻挫かなぁ〜、医務室に行った方がいいかもだな。」
 直感的にそう思った翔太は、
「よしミカ、お前、彼女の板とポール持てるよな?悪いけどそれ持って降りてくれないか?こんな所で救急隊も無いだろうから、俺この子を抱えて降りるから。」  翔太はまるでミカの事などお構いなしのような感じでそう言った。
(え〜〜、私は無事だけど、ぶつかってきた子の道具持ちさせられるのぉっ!?)
 事情は事情であるが、あまりにも優しい翔太にミカは嫉妬した。
「よし君、俺の首につかまって、ちょっと辛いかも知れないけど、抱きかかえるから我慢して。さっ、しっかりつかまってるんだよ。」
 そう言って翔太は自分のポールもミカに投げ渡すと、その娘をお姫様抱っこし、
「ミカ〜、俺医務室行くから、頼むぞぉ〜」
 そう言い残して滑りだした。
「ひどぉ〜い!何で私が道具係であの子がお姫様抱っこなのよぉ!!」
 滑り去る後ろ姿に、聞こえるか聞こえないかの声でミカは言った。
「ちょっと可愛いからって・・鼻の下のばしてぇ・・・バカ翔太!!!!!」
 とも付け加えていた。
ミカは渋々外れた板の金具にスキー靴をセットし、彼女のスキーを重ねて持ち上げると肩に担ぎ、ポールは自分のも含めて3セットを器用に小脇に抱えて
「もう!バカ翔太!」
 と、力を込めて一気に踏み込んだ。
「きゃ!」
 おなかに力を入れたせいであろうが、その衝撃でミカはまた少しおチビリをしてしまった。
(も〜最悪ぅ〜おチビリしちゃうしぃ・・もうおしっこした〜い!)
 ミカはこの時になって、改めて自分が激しいおしがま状態である事を思い知らされていた。
半泣きになりながら、それでも医務室がある方向へと滑って行くミカ。
ゲレンデにはユーミンの♪恋人はサンタクロ〜ス、気の早いサンタクロ〜ス♪と言う歌が耳障りに流れていた。
ミカにはそのフレーズが♪恋人はオタンコナ〜ス、手の早いオタンコナ〜ス♪と聞こえてしょうがない。
「もうおぉっ!ユーミンなんて大嫌いなんだからぁっ!!」
 気が治まらないミカは、流れているBGMに当たるしかなかった。
「もうぉ・・おしっこ漏れそうだよぉ、翔ちゃ〜んのバカァっ!!」



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