中学生




「はい、1年生はバーレッスン続けて!2年生は集合!!」

 中学に入ってすぐ、ダンス部に入った。とっても華やかな印象に引かれて。でも実際は筋トレ、柔軟、一時間以上踊り続ける・・とってもハードなものだった。ダンスの発表会では華やかな衣装を着るが、普段は学校指定のジャージでの練習。それでも友達との練習はとても楽しかった。

 頃は11月。
 優しかった3年生も引退して、5人の怖い先輩、2人の穏やかな先輩、1人の優しい先輩が残った。2年生の先輩に対してはどうしても怖さが先立ってしまい、なかなかなじめなくって。2年生の先輩のほうも私たち1年生との関係をうまくつかめず、あせっている様子だった。
楽しいゲームを取りいれてくれたりなど努力はしてくれてても、どうしてもついていけないこともあったり・・・
おもいっきり天井にむけて足をあげながら友人・和実が「なんの話してるんだろうね」と声をかけてくる。
 私はふと2年生の集団に目を向ける。ラジカセの周囲に集まりなにやら相談をしているようだ。
いつもはふざけあっている先輩がなにやら真剣に話し合っている。
次の曲のことかな??なんて私は和実に返事をしたけど、和実の視線はもうすでに自分の上がりきった足に注がれていた。
 和実はお互いに親友だと言い合っているけども、こういうところが時々寂しくかんじてしまう。
たとえば、友達同士4人で職員室に行って先生に相談しに行った時、他の先生が話しかけてくれ4人で話しているときに、お目当ての先生が来ると一人で抜けて話をしにいこうとする。
しっかりしていて、自分をしっかり持っているんだと思うけど。
バーレッスンも終わり、もう一度整列する。今日は土曜日の午後、たっぷり踊りたいなぁとわくわくする。2年生の先輩たちはまだ話をしている。整列している私たちに気づき
「休憩10分、帰ってきたらすぐ基礎ダンスしてて」と。
わいわい。
ホールからでて水を飲みに行く。

 久美、加奈が
「2年だけずるいよ、何もせずに話してるなんて!!!」
と叫ぶ。反抗期丸出しの二人だ。
 和実がたしなめる。
「聞こえるって、なんか大事なこと話してるんじゃないかなぁ」
 綾は「綾もあの話し合いはいりたいなぁ」
いつも2年生にかわいがられている綾らしいせりふだ。
私たち1年生は12人今日の練習参加者は8人。たしか、2人は塾だっけ・・・。2人はサボり魔だ。
 昇降口にある水のみ場で8人は仲良く順番を待ち水を飲む。はじめに飲んだ4人は久美、加奈、綾、貴美 四人は連れ立ってそのまま近くのトイレに行った。
貴美が「うち(貴美ちゃんはこういうのです)トイレいっとこ、寒くなった」といってついていった形で。貴美ちゃんは相変わらず近いんだなぁ、となんとなく思う。貴美ちゃんは小学校から一緒だけど、一度だけ一緒のクラスになった。一年間のうち4回おもらししたことを、クラブの中で私だけが知ってる。違うクラスになって高学年からも図工の時間、書道の時間に水道であったときに「おしっこしたい!!」て叫んでいるのを見た。
 後から水を飲んだのは和実、芙由子、麻紀、沙智(私)。クラブの中ではしっかりした反抗しないおとなしいさんで通ってる4人。
「沙智!!雅也先生きたよ!!」と綾。
雅也先生は私の憧れの先生、今思えば初恋だったのかとも思うけど。とにかく話が出来るのが嬉しくって。話しかけに行った。ジャージばかり着ている先生の中でいつもこぎれいな格好をしている雅也先生は特別な感じだった。
「あれ〜今日クラブなんかぁ・・・そっかそっか、オレとこはやってないけど」
「先生とこ写真部何の活動してるの??」
「それはな、カメラを構えるための腕の位置のため筋トレと・・・」
「うそ〜」
なんでもない話でも嬉しくって顔が赤くなってしまう。そばで綾は先生にくっついている。うらやましいけどできないなぁ。そんな私たちを久美と加奈がつつきあって見ている。

「さっち、もう行かないと」と和実。
気がつくと和実、芙由子、麻紀はハンカチを手に廊下の先に行っていた。あ。さっきの間にトイレ行ったんだ・・・いつもダンスを思い切りするために休憩ごとにトイレに行く習慣があったんだけど・・・。雅也先生の前でトイレに行く恥ずかしさとなにより先輩たちの言いつけの10分を破るのが怖くてやめておいた。
 急いで、みんなで階段を上る。
「あぁ〜まだ2時半だよ、どれくらい踊るのかなぁ」と久美。
4時くらいまでかな?と私は考えてた、もう一回休憩あるかなぁ・・1時間半くらいだったらないかな、でも私、トイレ近くないし。むしろ遠いくらいだし。普段の授業ではお昼休みまで行かないこともしばしばだし。なにしろここは学校だし行きたくなったらすぐそばにトイレあるし・・・。ビュン!!急に風が階段に吹き込んできた。「うわ!!寒い寒い」「早く行こう!!」広い平野の広がる町にあるこの中学あたりは冬は自転車がこげないほど風が吹く。そろそろその季節だ。

「遅い!!5分もこえてる!!」
きつ!!古田先輩だ。一番コワイ先輩、綾だけが仲良くしている現状。
「もう休憩とらないから」とも。
うわ。最悪と私たちは顔を見合わせる。
「基礎ダンスして」副部長の沢川先輩。ありゃ?島尾先輩がいないよ。島尾先輩は部長さん、一番優しいのに・・・だから他の先輩怖さパワーアップしてるよ。
みんなそろそろと整列しダンスを始める。
基礎ダンスは5分間、何回も何回も繰り返す。楽しいダンスなんだけど・・・10回以上繰り返しているとさすがにきつい。
みんな少し息が切れてきた。足を上げる高さがどんどん下がっていく。
「座ってていいよー」
やっとお許しかな?
冷たいホールの床に座る。「うわ、冷たい」
柔らかな床だけど、11月の冷たい空気にふれてそれはずいぶん冷えていた。1時間も踊って汗だらけの体だ。体育すわりだから余計におしりの辺りに寒さが・・・。
あ。やだな、やっぱりさっきトイレいっとけばよかったな。
汗が急に冷えて、体の芯までとどきそう・・・なんだかトイレいきたいかも。でも、私、いつもこれくらいだったら知らないうちに我慢してるもんね・・・
 2年生の先輩たちがラジカセのスィッチをいれる。夏に発表した曲だ、この曲大好き。
「はい、みんな立って」
全員でまた踊り続ける、あ、CDエンドレス設定してある、恐るべし。
踊っている間にさっき感じた下腹部の心もとない感じがなくなる。
いっぱい汗をかき、4時になった頃先輩たちが
「ちょっと残ってくれるかな?」
と言った。
 円になって座る。あ。また冷えてきた。ごそごそみんなでくっつきあって座る。
さっきより日が翳って暗くなったからと電気をつけに古田先輩が立つ。
え・・・そんなに長く話すの??
「あんたらさ、3年抜けたからって気楽にやりすぎと違う?」座りながら古田先輩が言う。
きた。
女子部恒例の後輩しつけ。
1年全体固まる。
またかと久美があきれた顔をした。
「ちょっと安田さん(久美のこと)さっきの聞いたよ、ずるいって、あんたらのことどうするか考えていたんよ」
久美の顔がひきつる、他の子だったら泣いていたであろうその言葉に久美は泣かずに目をそむける。
「3年とあんたらが仲良かったのも知ってるけど・・・これから一緒にやっていくのに・・」
一年生黙って話を聞き始めた。
・・・ぅ。急に冷えてきたのと緊張できゅうっとおなかの中が縮んだ。
体育すわりがきつくなって正座に直す。
「いいよ、楽にして聞いてて」
といわれたけど。体育すわりはなんだか不安で。
しばらく沈黙が続く。
誰も何も言わない。
やだなぁ・・・早く終わってよ。
私、やっぱりトイレ行きたい・・・だってお昼から一回も行ってないし。さっきすごくのどが渇いてたからいっぱい飲んだ。うわ。意識したらなんだかまた、きゅうっと責め立てるような尿意。正座のまま足を何度もさする。なんか足しびれてきた・・・さむいなぁ。
ブルッ!!
急に寒気のようになって身震いをした。
私、どのくらいまで我慢できるのかな?貴美ちゃんがおもらししたときのように教室の中で歩きながらもらしちゃうような我慢できないときが私にもいつかくるのかな?

 みんな下を向いたまま、ときどき話しかける2年生の声を聞いていた。
「なんか意見ないの?」おもむろに古田先輩が言う。
「私・・・」
綾が口を開いた。とたんに泣き出す。
「綾、おしっこしたいぃぃ」
いきなりのことに場は騒然となった。
美香先輩が
「ちょっと西本さん(綾のこと)大丈夫?まだ出てない?」
その言葉に綾がうなづく。
「行っておいで、ほかの人も行きたかったら行っておいで」
急に優しく先輩たちが言う。
貴美ちゃん、久美、加奈がはじかれるように立った。

 ・・・っ。そんな急に言われても足がしびれちゃって立てない。立てない・・・、
なんか今たったら「ずっと我慢してました」って言っているようなものじゃない。恥ずかしいよ。今立ったら多分すごいよたよた歩きになっちゃう。すごく我慢してたみたいじゃんできないよ。でも、行かなきゃ。美香先輩の「まだ出てない?」の言葉が おなかに響く。今は我慢できても、もしかしたらここで我慢できなくなっちゃうときがいつか来るかもしれない。
決意をしたときに、ホールの扉が閉まって3人が出て行ってしまい、先輩たちがこっちに向き直った。
「あ」しまったぁぁぁぁ行きそびれた。私も行きたかったよぉぉぉ。私もおしっこしたいよ・・・。綾が気楽に「おしっこしたい」と言えることを心底うらやましく思った。行けない・・・もう行けないよ。どんどんおなかの中で水分が暴れだす。正座したまま、手を太ももに押し付けてその暴れているのを何度もそらそうとしていた。まだ、我慢できる、きっと。でも、その決心は床から上ってくる冷気にくじけそうになった・・・
隣に和実がいた。和美は何も言わず、先輩たちのほうを見ていた。どうしようもなく和実を頼ってしまった。
「どうしよう、和実私トイレ行きたい、お願い先輩に言って、私怖くて言えないよ」

和実は「さっち・・・」といったままだった。
3人が戻ってきた。3人ともさっぱりとした笑顔だった。
うらやましくって涙が出ちゃう。
「さっき行けばよかったのに」といわれたけど「お願い」と頼んだ。

 しばらくしてまた話し合いの雰囲気に戻った。私はもう、和実に言ってしまったこととか、自分の決断の遅さに恥ずかしく悲しくなりながら、しっかり出口に力を入れて座っていた。
和実が
「あの・・・」と切り出した。
言ってくれるのかな?
美香先輩が
「またトイレとか言うんじゃないでしょうね?」と笑う。
あぁぁあ。なんてこと。
和実も一瞬間があって「先輩たちと仲良くしたい・・・」みたいなことを話していた。少し期待した自分が恥ずかしくって和実を少しうらみながら(八つ当たりだけど)もぞもぞと我慢を続けてた。あぁ・・・もう・・・苦しいよう。壁を隔てた向こうにはトイレがあるのになんで行けないんだろう。部活って先輩との上下関係ってつらいなぁ。
正座をしたり女の子座りをしたりしながら我慢するしかなかった。

 ややあって、「今日は解散」となった。
和実に「さっち、トイレ行っておいでよ」と言われたけどなんだか悔しくって。
「そんなに行きたくないから大丈夫」
なんて言いながら帰り支度をした。
 おなかが張っているのがわかる。だけど自転車で15分すれば家に帰れる。何よりも和実の前でトイレに行くのが恥ずかしくって出来なかった。普段友達同士でもトイレに行きたいなんて言えない私。どうしても「すっごく我慢していて、すぐにでもトイレに行きたい」なんて思われたくなかった。

 部活の後は集団で帰る。友達同士二手に分かれて・・・川を越える方面と駅に向かうほう・・・私は駅に向かうほう。貴美ちゃんと久美と一緒。
「ばいばい!また月曜ね〜」って別れる。
ビュン!!!自転車が揺れる。
すごいきつい風だ〜
・・・風に押されるようにおなかに響く。
うぅ・・・寒気が走る。
おしっこしたい・・・こころのなかで叫ぶ。
貴美ちゃん?貴美ちゃんもこんな気持ちだったの?
泣きたくなるような苦しさ、不安。
 私の心の問いかけも届かず貴美ちゃんと久美は先輩の悪口で盛り上がっている。
自転車には風が強すぎて乗れなくて押して歩いている。
あぁん、もうこんなじゃ家まで我慢できないよ。
時々、足をこすり合わせながらそろそろと歩き続けていた。
風が目に入るせいか、どんどん涙が出てきてた。
「さっち、なに泣いているの〜?」と久美。
「風がすごいから〜」なんて。
ひとりで帰りたいなぁ。思いっきり自転車こいで・・・。
でも、風が強い・・・し。いつも一緒に帰ってるし・・・。
あぁ・・・でもだめだ。
強い風に押されてどんどんおしっこが下におりてきてる感じがする。
もう我慢できないかも・・・。
「私一人で帰る・・・」言いかけたとき、久美と貴美ちゃんが私を見た。
「今からくみくみ(久美)のとこ行くの、私のところの母さんがくみくみとこのおばちゃんの化粧品買いにいくから一緒に行くんさ、さっちどうする?」
「わ。私は帰るね」
「そう、またねバイバイ」
よかった。
急いで自転車にまたがって、走り始める。
しばらく押して歩いたせいか自転車はすいすい走り始めた。
早く帰れるのはいいけど、ひとりになったとたん、おしっこしたい波がどんどん押し寄せてくる。
「トイレいきたいよ〜」
「おしっこしたいよ〜」
小声で叫びながら自転車をこいでた。
人前じゃ絶対いえないけど、そのときの私はそれくらい言わなくちゃ、耐えられそうも無かった。
踏み切りはあいていた、信号も青だった。
一度も止まらずに家までたどり着いていた。
どこかで止まっていたら、私は道端でしゃがんでしまいたい衝動に勝てそうに無かった。
サドルにぐぅ〜ッと押し付けて泣きそうになりながら、泣きながら家まで帰った。
おしっこしたい・・・。
この気持ちだけでこんなに涙が出ることをはじめて知った。

 家に帰ると母親と妹がいた。
「あれ〜すごい風だったなぁ、なけちゃうねぇ」と母。
妹はトイレの中にいた。
本当はすぐにでも入りたいけど。
ここでも中学生のプライドがすぐにドアをたたいて妹に「出て」とお願いするのは出来なかった。
自分の部屋のいすに腕をつき、中腰の姿勢で一生懸命我慢していた。
「うぅ・・・」
何度も力を入れる足を変えながら我慢の姿勢をしていた。
妹がトイレから出てくるのを聞いて、平然とした振る舞いを装ってゆっくりとトイレに行った。
中ではとっても急いで脱いでバタバタしちゃったけど。
初めはちょろちょろっとしか出なくてその後たくさん出た。
「ふぅ〜」安堵のため息をついた。
ペーパーに手を伸ばしたけれど、まだ出続けていることに気づいてびっくりした。
今度からちゃんとトイレに行こう、恥ずかしがらずに・・・。とも思ったのだが、トイレからでたあと、妹の「お姉ちゃんすごい音だったね、我慢してたの?」という言葉に顔が真っ赤になって怒ってしまった・・・やっぱりトイレに行くのは恥ずかしいと思った。

 けれど、その気持ちが大人になっても消えずにもっと恥ずかしいことをやらかしちゃうことを知るのは、このあと7年ほどたってからのことだ。


☆     ☆     ☆  

♪はじめて書いたのかな??よろしくお願いします。
私にしてはおしっこなんて恥ずかしい言葉もちゃんと書くように努力した作品です。
中学生の頃を思い出して書きました、残念ながら授業中とかじゃないんですけども。
結構事実に忠実に書いちゃったから、部活の内容とか違いますけども・・・もしも同級生が読んでたら恥ずかしいなぁ・・・ この頃の私は、一人でトイレ行くのが恥ずかしかったりと色々恥ずかしがり屋さんエピソードを残しています。
ではでは。ぜひご感想を、嬉しくって続編書いちゃうかも。

♪さち♪
 

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