MOTOKA 第17章




 3月16日土曜日。
 月曜日に卒業式も無事に終わって、今日は待ちに待った「O.G.クラブ」の初総会。
 両親が旅行で留守な加代子の家で卒業パーティーだ。
 まだ3月の半ばだというのに、東京は昨日、桜の開花宣言がされた。
 なんでも観測史上異例の早さらしい。

 日本に来てから、そろそろ1年。
 そういえば、去年は4月初めに桜が咲いていた。生まれて初めて見た日本の桜がすごく綺麗だったのを、よく憶えている。
 あれから1年かあ、、、
 いろいろあってとっても楽しかったし、とっても濃厚な1年間だったような気がする。
 何といっても優里という大親友が出来た。優里みたいに何でも話せる友達は初めてだ。
 2学期の後半からは、休みの日に麻依と加代子と優里とで、何度か一緒に渋谷や原宿に遊びに行った。
 今思うと、優里と出会えて本当によかったと思う。人生の中での経験値がすごく上がったような気がする。
 ちょっとエッチな事もいろいろ体験しちゃったけど、、、
「オシッコ・ガマン・クラブ」通称「O.G.クラブ」の結成にはびっくりした。
 日本に来るまでおしっこの事は、わたしの中では完全にタブーな事で、決して他人に話すようなものではなかった。けれども、優里みたいにおトイレに関する話題をまったくオープンに話せる親友が出来た事で、おトイレに関するタブーな考え方が少し変わった。でも、今でもやっぱり人前でおトイレに行くのは恥ずかしいし、わたしはきっと無意識のうちにいつもこっそりと我慢をしちゃってるんだろうと思う。
 けれども「O.G.クラブ」のメンバーはちょっと違った。
 おおらかというか、何というか、とにかくとってもオープンだった。何がって言うと、おしっこの話題に関してなんだけれど。
 みんなは、わたしが学校ではおトイレに行かないようにしているのを知っていて(優里が話しちゃったみたい)今日は何時間目まで我慢出来た、とかいう事を報告しあって盛り上がったりしていた。
 2月になってから優里がネット上に「O.G.クラブ」専用の掲示板を作った。わたし達4人の、内緒の連絡ボードだ。学校では話せない事を、みんな時々書き込んで遊んでいた。
 3月1日。期末テストの最終日。
 たしかその日の夜の「O.G.クラブ」の秘密の掲示板は、なんだかとっても話題満載だった。
 加代子が掲示板に今日の事をカキコんでいた。16日は加代子の御両親が留守の予定なので、みんなで卒業祝いのパーティーをしたらどうかって。
 加代子の「卒業祝いパーティー」の提案のすぐ後に、優里が「オシッコガマン大会」のアイデアを出してきた。
 そしたら、そのあと麻依の「本日のおしっこ我慢大失敗!」の報告があったりして、、、
  (「O.G.クラブ」BBS過去ログ)

 夕方、加代子の家があるJRの駅の改札でみんなで待ち合わせた。
 駅ビルのデパートの食品売り場のデリカテッセンで今夜の宴の御馳走を調達することにして、4人でワイワイと地下の食品売り場に繰り出した。
「せっかくだから今日はみんな食べた事が無い物に挑戦してみようよ」
 と優里が提案して、わたし達は輸入食料品のコーナーで缶詰めやレトルト食品などのパッケージを見ながら、食べた事ないけど美味しそうな海外の物を、特に東南アジアの物が多かったけれど、とにかくカゴいっぱいに詰め込んだ。そして優里の定番、900mlのアイスコーヒーのペットボトルを4本。
 わたしも含めて、みんな何だか小学校の遠足の前みたいにはしゃいでいた。
 加代子の家に着いて、早速パーティーの準備をした。加代子と優里がキッチンで、買ってきた御馳走をレンジや鍋で温めてお皿に盛り付けをしている間、麻依とあたしはテーブルのセッティングをしたり、リビングの棚のCDラックに収まっている加代子のお父さんのCDを物色したり、エスニックなスパイスの香りが漂ってくるキッチンの様子を覗きにいったり、日が暮れてだんだん暗くなってきたリビングの照明を調節したりした。
 一通り料理の用意が出来て、お皿に盛った御馳走やグラスをみんなでテーブルに運んで、乾杯をする前に優里が
「じゃあ、みんな今一回トイレに行っておこうよ」
 と言って、順番におトイレに行った。
「それでは、卒業記念パーティー、アンド、第一回おしがまクラブ、おしっこ我慢大会を始めます〜!ではカンパ〜イ!」
「カンパ〜イ!」
「カンパ〜イ!」
 みんな900mlのアイスコーヒーのペットボトルを、1本ずつ自分で自分のグラスに注いで、ゴクゴクと飲み干していった。テーブルの上の料理をつつきながら、わたしも30分程で自分のペットボトルをカラにした。
 加代子と優里は
「今日は特別の日だから、ちょっとだけいいよね」
 と言って、冷蔵庫から緑色の小さなビンに入ったビールを出してきた。わたしも少しだけグラスに注いでもらって飲んでみたけれど、苦くってあんまり美味しくなかった。大人達はなんでこんなに苦い物を、あんなに美味しそうに飲むのだろう?それでも加代子についでもらったビールをコップ半分ほど飲むと、頭の中がポワッとしてきて何だか楽しい気分になってきた。部屋の中は、インドネシアとかタイとかの香辛料の効いた料理の香りで充たされている。

 みんなの予想通り、最初におトイレに行きたくなったのは麻依だった。パーティーが始まってから1時間ちょっと経った頃だろうか。
 わたしも少し尿意を感じ始めていたけれど、麻依はもう結構我慢しているみたいだった。
 優里が提案した今日の『おしっこ我慢大会』は2チームに別れての対戦方式だった。優里ったら、よくこんな変な事を考えつくものだ。わたしと麻依、そして優里と加代子が一緒のチームだ。優里の話では、この組み合わせだと、おしっこを我慢出来る量の合計が、かなりいい勝負になるのだそうだ。本当かなあ、、?何だかわたしには「エッチチーム」VS「まじめチーム」みたいに思えるんだけど。
 足を組みながら、椅子の上でモジモジし始めた麻依を見て加代子がちょっと意地悪そうに言った。
「ねえ、麻依、オシッコしたくなってきたんでしょう?」
「えっ、うん、少し、、、」
「あんまり我慢しないでいいよ!」
「えー、だって負けたらどうせ罰ゲームで、加代子たちにエッチな事されちゃうんでしょー」
 今度は優里が嬉しそうに反応する。
「きゃー、麻依ったら、エッチな事なんてとんでもない!わたしとカヨで麻依と素香を天国へ連れていってあげるだけだよー!」
 加代子と優里のテンションは、もうすでにかなり上がっている。
 麻依の顔が少し赤くなって、目が合ってしまった。
 なんとなく解ってはいたけど、負けたらやっぱりエッチな事をされちゃうんだ。それも優里だけじゃなくって加代子も一緒だってゆうわけ?それはちょっと恥ずかしすぎて、かなり抵抗がある。
 おしっこを我慢している麻依にはちょっと悪いけど、チームメイトとして今日はなるべく我慢してもらわなくては。
 笑顔ではしゃいでいる加代子と優里が、だんだん史上最強のエッチコンビに見えてきた。なんとか麻依の我慢を手助けするいい方法はないものだろうか。もし勝負に負けたら、わたしと麻依はあの史上最強エッチコンビの生贄になってしまう。
 加代子がニコニコしながらキッチンから透明なサラダボールを持ってきて、テーブルの隅に置いた。
「麻依、ガマン出来なくなったら、いつでもこれにしてね」
「ええ〜っ、こんなのにオシッコすんのー」
「そーだよ!これにしてから測定するんだから」
「ええ〜っ、マジー?」
「そうそう、だって『O.G.クラブ』のいろいろな研究も兼ねないとね!」
「ぃやダア〜〜、、、」
 麻依が恥ずかしそうにモジモジし始めた事で、加代子と優里は更に盛り上がっていった。

 短いスカートから伸びている麻依のスラッとした太股が、椅子の上で固く交差されている。
「麻依がオシッコガマンしてるの見てたら、なんか悶々とした気分になってきちゃったよー!」
 と言って加代子が椅子から立ち上がった。
「ねえねえ、麻依、踊ろー。じっと座ってるより気がまぎれるよ」
 と言って麻依の手をとって椅子から立ち上がらせた。
 少し困った顔をして立ち上がった麻依を、加代子はいきなり抱き寄せた。
「麻依、かわいい〜〜」
 と言って、麻依の唇にキスをした。
 リビングには、たぶん加代子のお父さんのCDだろう、少しエスニックな感じのクラブ風の音楽が、静かではあるけれど、しっかりとした心地よいビートを刻んでいる。
 二人はそのまま抱き合いながら、リビングの中央でゆっくりとリズムに合わせて体を揺らしていた。麻依の方はおしっこを結構我慢しているせいか、腰が引けて落ち着きがない。
「きゃー、カヨと麻依、なんかラブラブ〜〜〜」
 優里が椅子から立ち上がると
「ねえねえ、わたし達も踊ろうよ」
 と言って、わたしの手をとった。
 あまりにも急な展開にあっけにとられながらも、優里の言うままに一緒に立ち上がった。
(優里にキスされちゃうのかなあ、、、)
 優里がわたしの背中に両手をまわして、抱いてきた。けれどもキスはしてこないで、そのままわたしの右の首元に顔をうずめた。優里の両手の温もりが背中から脇にかけて伝わってくる。わたしも優里の背中に手をまわして、ゆっくりと音楽に合わせて体を動かした。さっき少しだけ飲んだビールのせいだろうか、頭の中が火照って、ポワンとしている。
 優里はわたしの首筋に鼻をつけて、クンクンと匂いを嗅いでいる。
「素香、いい匂い」
 へんなの。優里ったらまるで動物みたい。
 優里の胸がわたしの胸に当たって、ゾクッとした。少しくすぐったいような、気持ちいいような、妙な感じ。
「ああ〜〜ん、オシッコ、、、」
 後ろから麻依の切ない声がした。
「麻依、もうオシッコする?」
 と加代子がやさしく問いかける。
「いや〜〜ん、まだガマンしなくちゃ、、、素香に悪いし、、、」
「まだ我慢できるの?」
「ダメー、もうダメかもしれない、、、」
「じゃあ、オシッコしちゃいなよ。チビッちゃったらその分計れないから、もったいないよ」
「でもまだダメ〜〜、、、」
 麻依は右手でスカートの上からあそこを押さえて、音楽に合わせて足踏みをしている。
「ああ〜〜ん、素香たすけて〜〜」
 どうすればいいんだろう。
 何とかしなくちゃ。
 でも何にも出来ない。
「麻依、出来るだけがんばって!後はわたしが何とかするから」
 言葉で励ます事しか出来ない自分がもどかしい。
「ねえ、麻依、いつでもオシッコ出来るようにココに置いとくね」
 と言って、加代子が笑顔で麻依の足元にサラダボールを持ってきた。
 麻依の足踏みがだんだん激しくなってくる。
「麻依、はやくオシッコしなよ!もれちゃうよ!」
「そうだよ、そうだよ、チビッったらもったいないよ!」
 わたしはとにかく麻依の事が心配だったけど、加代子と優里はさっきからものすごく楽しそう。
 それでも必死に我慢している麻依の脇腹を、加代子がいきなりコチョコチョッとくすぐった。
「きゃ〜〜〜、ハハハ、、ハハ、、ダメーーーー」
 と言って、麻依が腰をよじらせながら、フロアーの上に踞ってしまった。おしっこを我慢してる時にそんな事されたら、わたしだってチビッちゃうかもしれない。
「ああー、加代子だめだよー、そんな事ー、ずるいよー」
「ゴメン、ゴメン、ちょっとやってみたかっただけ。あはは。もうしないから」
「ねえねえ、体に触らないで笑わせるのはOKでしょ?」
 と優里が言って、加代子と一緒に麻依の目の前で、今度は志村けんの『アイ〜〜ン』を始めた。
 あまりの可笑しさに、思わずわたしも声をあげて笑ってしまった。
「やめてよ〜〜ハハ、ハハハ、ヤダーー、お願い、素香たすけて〜〜〜、、、」
 スカートの上からあそこを両手で押さえて、麻依が涙目でこっちを見ている。
「麻依、見ちゃダメだよ!目をつぶって!」
 笑いながらそう言うと、麻依は目をぎゅっと閉じて下を向いた。
 加代子と優里だって、きっとおしっこがしたくなってきているに違いないのに、まるで自分達のおしっこの事を忘れるために、異常なテンションでおどけているみたい。それにしても2人とも可笑しすぎる。笑うとおしっこが溜っているところにモロに響いてくるけど、わたしも笑いが止まらなかった。
 今度は加代子が麻依の耳元で、学校の国語の教師の物まねを始めた。
「イヤだあ〜〜、ハハ、ハハハ、、、加代子ヤメテ〜〜〜」
 その直後だった。
「ああ〜〜〜、もうダメ〜〜〜、素香ゴメンなさい〜〜」
 と言いながら、麻依が慌てて下着を降ろしてサラダボールの上に跨がった。

 麻依のおしっこが、ガラス製のボールに当たる音がした。
 優里と加代子が、嬉しそうにその中を覗き込んでいる。


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