姉のおしがま(3)




 夜が更けるのも忘れて、由衣と麻衣は布団の中でしゃべっていた。
途中、のどが渇いたと言って、二人は冷蔵庫から缶ビールを二本盗み、部屋に持ち帰ってさらに話し込んでいった。

「中野さんとは今でもおつきあいしてるの?」
「うん、いい感じだよ。」
「ふ〜ん、よかったね。」
「ちょっとスケベだけどね。」
「はは・・大阪の人って、みんなスケベに見える!」
「そうかもね。明るいスケベだけどね。」
「どんな風にスケベ?」
「ん・・とねえ・・」
麻衣は言い出した言葉を止めた。
「ま・・いろいろあるけど・・・」
「聞かせてよ。」
「由衣、あんたほんとにエッチになったねえ。」
「そんなことないよぉ!」
「前はそんなこと聞きもしなかったのにね。」
「だからあ、鍛えられたの!」
「彼に?」
「ん〜、うん。」
二人は両親に聞こえないように声を潜めて笑い合った。
「おねちゃんこそ、前と変わったよ。」
「そうお?」
「うん、ノリがよくなってるもん。」
「彼のせいかな?」
「だよね。」
「影響・・受けてるのかなあ・・・?」
「で、どんなふうなスケベ?」
「しつこいね由衣。」
「いいじゃない、聞かせて。参考にするし・・・。」
「もう、この子はぁ!」

※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※

 4月、麻衣は中野に、
「高知に行かないか?」
と誘われた。
皿鉢料理を食べに行こうと言うのである。
 うまく二人の休みを合わせ、中野の運転で出かけることになった。明石海峡大橋から淡路島を抜け、讃岐うどんを食べたりしながら、高知に着いた。
 さすが旅行代理店の営業マン。
すてきな民宿で、二人は皿鉢料理を堪能し、すてきな夜を過ごした。
翌日は四万十川まで足を伸ばし、小舟で鮎釣りまで楽しんだ。
 夕食が終わった後、中野が高知の友人に会うというので、一緒について行った麻衣。
 中野の大学時代の友人が2人、居酒屋で待っていて、そこへ連れて行かれた麻衣は、さんざん冷やかされ、中野は友人たちに頭をこつかれたりして、楽しく時間が過ぎていった。
 店を出て帰り道、
「あー、膀胱が破裂しそう!」
麻衣が言った。
奥の席に座っていた麻衣は、気が引けて席を立てず、ずっとトイレをガマンしていた。
中野の腕に捕まりながら、必死で民宿にたどり着き、玄関横のトイレに飛び込んで出てくると、
「相変わらず勢いがいいなあ!」
中野が表で立っていた。
 慰安旅行の一件以来、中野は麻衣がトイレに立つとき、時々ついてくるようになった。
見られることはなかったが、その音を聞いて楽しんでいるようである。
「もうっ、ほんとにスケベ!変態!」
音を聞かれることは、麻衣にとっては屈辱でもあった。
しかしなぜか中野に対しては許してしまう麻衣であった。

「瀬戸大橋って見たことある?」
三日目、帰路につく車の中で中野が聞いた。
「ううん、見たことない。」
「遠回りだけど、そっちから帰ろうか?」
「うん。」

 四国の高い山並みを縫うように走る自動車道。
4月下旬にしては暑い陽気の中を、二人の車は軽快に走っていた。
お昼すぎ、与島にあるフィッシャーマンズワーフという大きなサービスエリアに着いた。
「ビール飲みたいな!」
中野が言った。
夏を思わせる陽気である。
「飲んでいいの?」
「しばらく休んだら大丈夫だから・・・」
海産物のバーベキューコースを食べ、ビールを飲んだ。
カントリーアンドウエスタンを歌う男女のグループが各テーブルを回り、リクエストを受けて生演奏していた。
その歌声を聞きながら、おいしいバーベキューをほおばり、麻衣はとても幸せな気分に浸っていた。

 展望室に行って瀬戸大橋を眺めたり、巨大な海産物コーナーでおみやげを物色したりして、ふたりはビールが抜けるのを待った。
汗ばむ陽気。
出発前に飲む冷たい缶コーヒーは、ビールによるのどの渇きを心地よくいやしてくれた。

 初めて渡る瀬戸大橋。
その巨大さと長さに、麻衣は歓喜の声を上げていた。

 山陽道に入ると、予想を裏切るほどスムーズに車は流れ、一瞬にして兵庫県まで入っていった。
「いい調子だな、このまま大阪まで突っ切ろうか?」
「うん、いいよ。」
「おしっこ大丈夫か?」
「もおっ!」
確かに今トイレにしゃがめば、少しは出るかもしれないが、この陽気である。
麻衣は気にすることなく中野に同意した。
 しかし姫路あたりから流れが悪くなり、神戸付近までくると、それは全く動かなくなってしまった。
「事故」と電光掲示板に表示されていた。
「動かないねえ・・・」
麻衣がポツンと言った。
停車していると、車内は暑くなってくる。
中野はエアコンのスイッチを入れた。
ここちよい涼風が汗ばんだ肌に気持ちいい。
が、この時期にエアコンは早すぎる。
すぐに麻衣の素足は冷えてきた。
「ちょっと寒い・・・」
「そうか・・・。」
中野はしぶしぶスイッチを切った。
FMで交通状況を聞く中野。
どうやら事故処理は終わったようだが、動き出す気配は感じられない。
「動かないねえ・・・」
また麻衣が言った。
「ああ、眠くなってきたよ。」
中野もウンザリしたように言った。

「・・きたいなあ・・・」
FMから流れる音楽を聴きながら、なんとはなしに会話していた二人であったが、やがて麻衣が小さな声で何かを言った。
「ん?」
聞き取れなかった中野が気聞きただすと、
「行きたい・・なあ・・・」
「どこへ?」
「・・トイレ・・」
「え・・!」
「トイレに行きたいの!」
エアコンのせいもあるが、麻衣はすでにかなりの尿意を感じていた。
正直に言うと、姫路を超えたあたり、ちょうど車の流れが悪くなってきた頃からから違和感を感じていたのだ。
やはりお昼のビールと、出発前に飲んだ缶コーヒー。
ここに来て、それが意地悪を始めてしまっていた。
「ふう・・・」
ため息をつく麻衣。
フレアのキュロットの裾を引っ張っていた。
「ガマンできないのか?」
中野が少し心配そうに聞いた。
「ん・・まだ大丈夫だけどぉ・・」
言いながら麻衣は下腹部をさすっていた。
先ほどよりも強くなってきた尿意。
トイレに行けない不安感が、尿意を拡大させているのか、麻衣に不安がよぎってきた。
「でも・・行きたい・・」
「そうは言ってもなあ・・・」
たしかにこのあたりにサービスエリアはないようだ。
先を急いだ車が、路側帯まで詰まっている。
まだ大丈夫と言ったものの、麻衣の膀胱は、まもなく限界点に達そうとしていた。
「そういえば俺もしたくなってきた。」
中野が軽く言った。
「あとどれぐらいかかるかなあ・・・?」
「さてねえ・・・」

 4時半を少し回った。
与島を出てから2時間。
麻衣はいよいよ追いつめられていった。
足を組み替えたり、下腹部をさする動作が頻繁になってきた。
「大丈夫か?」
「ん・・」
「シート倒して横になるか?」
「いい、このままで・・・」
落ち着きなく窓の外を眺める麻衣であった。
「悪いな、携帯トイレ積んでないよ・・」
「いい、あっても使えないよ・・・ここじゃあ・・」
麻衣たちの車は、大型トラックとワンボックスカーに囲まれていた。
車にカーテンはついていない。
「そうだな・・・」
幸い4ドアである。
最悪、ドアの間に隠れて・・・とも思ったが、周囲にギッシリと車が詰まっていては、それもかなわない。
途方にくれる麻衣であった。
中野の目を気にしていた麻衣だが、たまらなくなってキュロットの上から股間に手をおいた。
じっとしていられない。
「大丈夫か?」
中野は、そう言うしかない。
「ん・・」
力無く麻衣が答える。
「・・・・・」
中野がなにか言いたそうにしたが、飲み込んでいた。
「ごめんね・・・」
麻衣が言う。
「え、なにが?」
「もし・・シート汚したら・・ごめんね・・・」
「ああ・・そんなこと・・」
麻衣は追いつめられた。
キリキリと痛みを感じだした膀胱。
今気を抜けば、一気におもらししてしまう。
麻衣は気が遠くなるような恐怖に陥りかけた。
その時、ゆっくりではあるが前の車が動き出した。
「おっ、動いたぞ!」
中野がうれしそうに声をかけた。
「・・・」
額に汗をかいている麻衣も、少し助かったような気持ちになった。
しかしこの先、サービスエリアまでどのくらいあるのかわからない。
仮にすぐにあったとしても、トイレは混雑しているだろう。
そう考えると、やはり麻衣は暗くなった。
ズキンズキンと膀胱が脈を打っているように感じる。
今押さえたら、確実に吹き出す状態にまで追い込まれていた。
 (もう・・どうでもいい!!)
そうあきらめかけたとき、
「ようし、降りるぞっ!」
中野が言った。
すぐ先が神戸北インターであった。
指示器を出し、強引に左に車を寄せ、中野は出口に向かってくれた。
 無人の料金所を抜け、ループを降りて北に向かうと、すぐ左前方に、フラワーパークのホテルが見えた。
「麻衣、あそこまでがんばれよ!」
中野が励ますように大声で言った。
「・・ん」
麻衣は声を出すのも辛い。

ホテルの玄関を少し過ぎたところで車を止め、中野は飛び降りると助手席側に回って、外からドアを開けた。
「さっ!」
手を出す中野。
麻衣はゆっくりと姿勢を入れ替えようするが、シートに埋もれるような格好をしていたために、なかなか降りることができない。
力を入れることができないのだ。
股間に手を入れていた事で、キュロットはシワだらけになっていた。
「さっ」
再び中野が声をかけ、引っ張り出すように麻衣の手をつかんだ。
やっと左足を地面につけることができ、手を借りた状態で上半身を車から出した。
そのままくの字に身体を曲げ、手を引かれるままに玄関へ。
右手は股間に置かれていた。
「すみません、トイレ貸してやってくださいっ!」
中野が大きな声でフロントに向かって言った。
火が出るほど恥ずかしい。
しかしそれを気にする余裕はない。
ロビー奥にあるトイレは目の前であった。
麻衣は中野から手を離し、もたつきながらその中に消えていった。

 ホテルのカフェで、ふたりはコーヒーを飲んでいた。
あわただしくトイレに駆け込んでくる人たちが後を絶たない。
それを眺めながら麻衣はほほえんでいた。
「麻衣もさっきはあんなだったぞ!」
「もう、言わないで!」
「んでさ・・・。」
「え?」
「今・・パンツ履いてるの?」
「え・・なんで?」
「いや・・その・・おもらしとか・・さ!」
「スケベッ!」
「気がゆるんでさ・・・」
「もうっ、今日は大丈夫だったっ!」
「ん、今日は!?」
「・・・」
「さては前にも・・・!?」
「知らない、変態っ!」

 ここで降りたついでだと、ふたりは車を北に走らせ、六甲山をドライブした。
麻衣にとっては初めての六甲山。
途中レストランで食事して、車をおいたまま散歩し、少し藪を入った景色のよいところまで来て神戸の夜景を眺めていた。
「きれい・・・・」
神戸の街がこんなにもきれいに見える。
麻衣はロマンチックなムードに酔っていた。
あたりには誰もいない。
はるか向こうの道を、時々車が行き交うだけであった。
「ね、こんないいところ、よく知ってるね。」
「ああ、よく来たもんなあ・・・。」
「へ〜え、だれと?」
「え?」
「だれとよく来ていたの?」
「あ・・いや・・ひとりで・・・」
「うそばっか!!!」
「・・・」
「でもいい。私を連れてきてくれたから!」
「・・・」
木の根っこに腰を下ろして、二人は抱き合ってキスを交わした。
しばらくして、
「ねえ、もう行きましょ!」
麻衣が言った。
実のところ、麻衣にはきつい尿意があった。
レストランに入る前にもトイレに行っていた。
しかし食事が終わった頃、また尿意を感じていたが、あまりにも頻繁にトイレに行くのが気恥ずかしくガマンしていたのであった。
渋滞のガマンのあとから、膀胱のガマンが聞かなくなってしまったのであろうか?
4月下旬の六甲の風は思ったよりも冷たく、ブラウスにカーディガン、ミニのキュロットに素足の麻衣は、かなり堪えていた。
「もうちょっと・・・」
中野は麻衣の手を離さない。
しぶしぶ麻衣は従って、体育座りした。
そして膝を抱え込み、寒さに耐えた。

 時々雲が月を隠し、あたりは真っ暗に近い状態になる。
強い風ではないが、じっとしていると辛い。
中野の話を上の空で聞いていた麻衣の胸に、いきなり中野の手が触れてきた。
「ちょっとぉ!」
「いいだろ、ちょっとだけ!」
「もう、この変態っ!」
この言葉は、麻衣が中野に浴びせる常用語になりかかっていた。
キスしながら胸を触られ、むずがゆい感覚がおこりつつあった麻衣であったが、やはり尿意が気になってその気になれない。
というか、もうガマンするのが辛いほど、それは一気に押し寄せてきていた。
 (膀胱炎になったのかなあ・・・?)
そんなことを思っていたとき、中野の手が股間にのびてきた。
「あっ、ちょっっ」
モゾモゾと指を動かそうとしている。
麻衣はしっかりと足を閉じ、それ以上の進入を防いだ。
中野の手に力が入り、麻衣の膀胱も押さえられてしまう。
「ダメ、待ってっ!」
言うことを聞かない中野。
「だめ、ちょっと待ってってばっ!」
麻衣の唇がふさがれた。
それをイヤイヤをするように首を振り、
「ね、おねがい・・おしっこしたいの!」
麻衣は言った。
「え、また?」
あきれたように中野が麻衣を見つめた。
「うん・・ごめん・・もうガマンできない・・の。」
「あれからそんなに時間たってないのに?」
「ん・・ちょっとヘン・・・」
「そっか、悪かった、行こう!」
中野が立ち上がって、麻衣の手を引いた。
ジワ・・
力を入れた瞬間に少しあふれてきた。
「あ」
麻衣はあわててしゃがみ込んだ。
「どうした?」
中野が見おろしている。
「・・・」
麻衣は焦った。
 (ガマンできないっ!!)
「おい・・」
中野がふたたびしゃがみ込んできた。
「お・・ガマンできないの。あっちへ行ってっ!」
「え・・?」
「お願い、早くあっちへ!!」
「おい・・まさかここで・・??」
「おねがいよぉ、早くぅ!!」
麻衣はそれだけ言うと、必死で腰を浮かせ、キュロットとパンツを一気に下げて全身の力を抜いた。
それと同時に、月の光にキラキラ光る熱いものが麻衣からあふれ出す。
自然な水音だけが響いていた。
「ああ・・もう最悪ぅ!」
麻衣は恥ずかしさを取り繕うように言った。
おしっこ姿を、これで2回も見せてしまった。
そっと横を見ると、中野はすぐそばで麻衣を見下ろしていた。
「もお、スケベッ!」
「そ・・そうはいっても・・」
たしかに中野が遠ざかるのを待っていられなかった麻衣である。

 ガマンできなかったわりに、それは短時間で終わった。
後始末しているところまで中野に見られている。
立ち上がった麻衣は、中野をにらみつけた。
「麻衣、俺さ、君を大事にするから・・・。」
抱き寄せられて、麻衣は熱いキスを受けていた。

※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※

「ひゃ〜、おねえちゃん、すごいことになったんだ!」
再現ドラマを見ているかのように、その情景が目に浮かぶ由衣。
その息づかいは、もう誰もが気づくほど興奮したものになっていた。
それほど由衣の身体は、完全に反応してしまっていた。
「由衣、あんた・・」
麻衣は由衣の変化に気づいていた。
「・・・」
由衣は恥ずかしそうに布団で顔を隠す。
「ふふ・・」
「な・・に?」
突然笑った姉。
由衣はおそるおそるおそる顔を出した。
「ううん、いいの!」
麻衣は、妹が大人になったんだなと、ひとり満足そうに笑っていた。

 明け方の5時。
麻衣と由衣の二人は、眠気も忘れて語り合っていた。
似たもの姉妹が・・・。


おしまい

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