朋美の場合(2)




 朋美と由衣はよく競争をしていた。
単なるお遊びのようなものであったが、同い年で同期、研修、配属、机の並びまでが一緒になり、よきライバル的な感覚がそうさせたのかもしれない。
その競争というのは、早食い、早飲みに始まり、果ては早歩きまでと、ごくくだらない者であったが、ふたりでキャーキャーと騒ぐその様子は、まるで無邪気に遊ぶ子供のようで、総務課長から、
「仕事も競争でやってくれ!」
と、小言を言われるまでになっていた。
 研修で、お互いのおしっこ姿を見られてしまったことが、共通の秘密を持ったような感覚になり、それが一因であったのかもしれない。

 自宅通勤の朋美は、親から離れて寮で自由にできる由衣がうらやましく、寮生活の由衣は、自宅から通える朋美がうらやましかった。

 秋になり、結婚退社の人が出たり、総務課と経理課の間で人が入れ替わったりと、脱皮を繰り返すかのように月日が流れ、いつの間にか朋美にも仕事のおもしろさがわかり、充実した日々が続いていた。

 暮れの忘年会。
朋美の課の女子は余興の出し物で高校時代の制服を着て踊った。
朋美は身長が165センチあり、長身でミニの制服姿という刺激的な格好に、ステージの下には男性陣が集まって、ヤンヤの喝采を送っていた。
高校当時はパンツを見られても平気だったのに、いざ社会人になると、ヒダが多いミニの制服はさすがに恥ずかしい。
先輩の女性たちはそれなりのスカート丈で、ストッキングも履いていた。
しかし朋美と由衣はミニで生足、ルーズであった。
朋美は高校の時のブルマーをまだ持っていた。
履いて踊ろうかと思ったが、由衣が履かないというので、負けたくない気持ちから生パンで踊っていた。
恥ずかしくて、はじめは動作が小さかった朋美であったが、
「見えたっ!」とか「もっと足を上げて!!」
とはやし立てられると、いつしか恥ずかしさを通り超えて、気分は高校生に戻り、優越感にも似た快感に乗って、何度か足を上げてしまい、かなり見られてしまっていた。
何度も光るカメラのフラッシュが快感に結びついていた。

 二次会のカラオケルームで、朋美のケータイが鳴った。
村田俊幸からである。
研修で再会して以来、時々連絡を取って会っていた。
村田の電話は、近くまで来ているので会おうというものであった。
朋美は困惑していた。
(会いたいけど・・この格好じゃなあ・・・)
皆の薦めにのってしまって、何人かの若手女子は制服姿のままで二次会に出ていた。
(そうだ、由衣も誘っちゃおう。ふたりなら恥ずかしくないもん!)
朋美は、照れ隠しに由衣を連れ出そうと思った。
その由衣は、はやし立てられる喜びからか、かなりハイテンションになっており、ソファーの上にあがってミニモニのひなまちゅりを歌いながらオーバーアクションで踊っていた。
スカートに伸びてくる酔った男性陣の手を払いのけながら踊っていたが、バランスを崩してしりもちをつき、丸出しになっていた。
(ふふ・・由衣もパンツ白だ!)

 ところが、お開きになり玄関先でたむろしている間に、由衣は経理課の高木敦史の傘に入り、さっさと雨の中に消えていってしまった。
(そっか、由衣もデートだったんだ!)
あきらめて振り向いた朋美の後ろに、
「き、木下、その格好!!!」
驚きの声を上げる村田が立っていた。
「や〜ん。見ないでよぉ!」
恥ずかしくてうずくまる朋美。
コートを羽織る前に村田に見られてしまった。
「驚いたなあ、その制服・・・」
村田はニコニコして朋美をまぶしそうに見つめていた。
「懐かしいなあ・・・」
「恥ずかしいよぉ!」
「いやあ、刺激的だなあ・・・」
村田は目を細くして、うずくまる朋美を見つめていた。
 12月にしては珍しく降り続ける激しい雨の中へ、女子高生の格好をした21歳の女と、スーツ姿の23歳の男の影が消えていった。

ふたりがどこに向かったのか、未だにはっきりとした情報は入っていない。

 月曜日、朋美が出勤してくると、ロッカールームに由衣がいた。
「あれからどこに行った?」
と、由衣に聞きたかったが、そのためには自分も報告しなければならない。
朋美はそのことには触れずに着替えていた。
みると由衣はストッキングを履いていない。
「由衣、生足で仕事するの?」
「うん、若いもん!」
そう聞いて朋美も負けてはいられない。
「ふ〜ん、じゃ私もそうしよっと!」
朋美は由衣に背中を向けると、ストッキングを脱ぎだした。
「ともちゃん大丈夫?風邪ひくよ!」
「あんただって!それより何で急に生足になる気に?」
「う・・ん・・若いもん!」
「ははあ・・・」
「な、なによぉ!」
「あのあと高木さんに何か言われたな!」
「あのあとって・・?!」
「カラオケのあとでさ!」
「いっ」
「生足が好きとか!?」
「え・・・」
朋美の言葉が図星であったのか、由衣が赤くなっていた。
(この子、ほんとにわかりやすい子!)
朋美は由衣がどぎまぎするそぶりがおもしろかった。

 こうしてふたりの生足競争が始まった。
総務課の部屋は南向きの窓からの日差しで暖かかったが、なにかと雑用で出歩く事が歩い。
ブラウスにベスト、膝よりも少し短いスカートだけの格好で生足になると、かなり寒い。
しかし高校生の頃は雪が降っても生足であったことから比べると、それはまだまだ軽いものであった。

 朋美は、由衣が言い出したもうひとつの競争に困惑していた。
始業前に飲むお茶。
10時に飲むコーヒー。
由衣と競争しながら飲んでいたが、ある日由衣が、
「トイレ、どっちが我慢できるか競争ね!」
と言ったのである。
挑戦を断ることは出来ない。
しかし朋美には誤算があった。
由衣のトイレ回数など気にしたことがなかったからだ。
体格にかなりの差があることもあり、楽勝だと思っていた。
しかし、同時にお茶を飲み、同時にコーヒーを飲み、由衣を牽制しながら仕事をしていても、お昼近くになると朋美は落ち着かなくなっていた。
今更にして思うと、由衣は朋美よりもトイレに行く回数が少ないようだ。
(まずったなあ・・・由衣を甘く見てたよ・・・)
ふだん、それほどトイレを我慢することがない朋美には、かなりきつい競争であることを認識せざるを得ない。
(ああ、おしっこしたいっ、由衣のやつ、まだ平気なの?)
隣の席で、由衣は平然と入力作業をしているように見えた。
暖房は効いている。
しかし制服のスカートは、座るとかなり上までずりあがり、膝掛けすらしていないふたりの足は冷える。
落ち着いて仕事ができなくなった朋美は、
「由衣、今日は私の負け!」
そういってトイレに向かおうと席を立つと。
「やったあ!」
由衣の勝ち誇ったような声がした。
振り向くと、由衣も席を立って「どうぞ」というように朋美を促した。
ほぼ並んでトイレに向かうふたり。
「ともちゃんが先に言ってくれて助かったあ!」
歩きながら由衣が言う。
「え・・由衣・・」
「もうね、お腹パンパン!!」
由衣は言いながら下腹部をさすっていた。
(くやしいっ由衣のやつも限界だったんだぁ!!)
あと数分我慢していれば勝ったかもしれない。
朋美の闘志に火がついてしまった。

 体に悪いからと、毎日おしがま競争をすることはやめにして、比較的仕事に余裕がある木曜日を選んで、この日だけの競争と言う協定まで結んだ。
朋美は当日、朝から水分を控えていたが、それでも始業前のお茶、10時のコーヒーは飲まずにはいられない。
むしろ由衣よりも多く飲む事で優越感を持っていた。
慣れてくると、お昼休憩までは我慢出来るようになり、五分五分の勝敗にまでなっていた。
寮から通う由衣と比べて、朋美の方が通勤時間などの差で不利であるので、始業前にお互いにトイレを済ませることまで実施していた。

 2月に入った雪が舞う木曜日、10時のコーヒーを飲んでいると、
「木下君、小原君、君たち二人も行ってくれ!」
と、総務課長が声を掛けた。
系列会社に届ける資料の山を、男性社員と一緒に運べというものであった。
「あ、はい!」
二人は立ち上がり、カートに書類を分散すると、制服の上にカーディガンを羽織って、カートを押しながら地下の駐車場に向かった。
「さむ〜い!」
さすがに外は寒かった。
ワゴン車に書類を積み込んでいる間にも、冷たい風が吹き付ける。
薄着にカーディガン、ややミニのスカートに生足、ハイソックスは履いていても、とても真冬に外に出る服装ではない。
朋美はさすがに尿意を感じたが、すぐに出発するというので仕方なく車に乗り込んだ。
由衣の表情も硬かった。
(由衣もおしっこしたいんじゃないのかなあ・・・?)
今日こそは由衣に勝ちたいと、おかしな闘志を燃やしていた。

約20分ほどで着く予定が、雪のためか渋滞している。
都会はこの程度の雪でも交通をマヒさせる。
「由衣、あんた大丈夫?」
「なにが?」
「とぼけて!!」
「平気だよ。ともちゃんこそギブアップ?」
「じょうだん!!」
「ふ〜ん・・・」
お互いを牽制するふたりであった。
とはいえ、エアコンを入れたばかりの車内は寒く、短くずり上がったスカートを引っ張りながら、ふたりはしきりに膝の上あたりをさすっていた。
男性社員が、バックミラーでその様子を見ているようでもあった。

1時間近くかかってようやく先方に着いたとき、朋美の尿意はかなり激しくなっていた。
車から出ると、痛いような冷気が襲う。
広い駐車場に吹き付ける雪まじりの風は邪魔になった。
書類が濡れないように、風で飛ばされないようにしながらカートに積み替えるので、かなり手間どり、積み込みよりも時間がかかっていた。
一刻も早く建物に入ろうと焦っている朋美。
由衣も負けじと作業している。
二人とも無言であった。
「あの・・ふたりとも・・ケンカしてるの?」
その様子に男性社員が怪訝な顔をして聞いた。
ふたりは申し合わせたようにその男性をにらみつけていた。
「あ・・いや・・・」
男性はコソコソと作業するしかなかった。

先方の総務課でコーヒーを出された。
体を温めたいが、今は飲みたくない。
それよりも「出したい」のである。
由衣も同じであろう、口を付けていない。
ソファーに座って、わずかに膝をすりあわせているようであった。
雪で服が濡れ、暖房が効いている室内であっても寒さが消えない。
湿ったソックスで足が冷たい。
(由衣、もう限界なんじゃないの?)
朋美は、由衣がここでトイレを借りることを願っていた。
 先方の総務課長と男性社員がなにやら打ち合わせをしている。
ただ待つだけの二人にとって、長い時間であった。
時計を見ると12時近くになっていた。
(もう、早く終わってよ!)
待っている朋美は気が気でない。
由衣もこわばった表情をしている。
(もう・・トイレ借りようかなあ・・・)
何度か訪れている系列会社であったので、トイレの場所は知っていたが、利用したことはない。
(でもコソコソ出て行くのもカッコ悪いなあ・・・)
そう思ったとき、ようやく話が終わって引き上げることになった。
ホッとした朋美であったが、男性社員と3人で歩き出すと、さすがに、
「ちょっとトイレに!」
とは言いにくかった。
うつむいて歩いている由衣が、先に悲鳴を上げるだろうと願っていたが、そのまま駐車場に出てしまった。
(えっ、由衣・・顔色悪いのに・・・)
あきらかに由衣はそうとう我慢しているのであろう、肩をすぼめ、前屈みになりながら歩いていた。
(これからまた1時間ぐらいかかるのに・・・大丈夫なの?)
朋美は自分にも問うようにつぶやいていた。

車が走り出し、もう我慢地獄からは抜け出せない。
後部座席で、女ふたりは無言で居た。
運転する男性社員は、ただならない雰囲気を感じていたのであろうか、なにかと話しかけてきたが、女ふたりに応える余裕は無かった。
渋滞するオフィス街。
ノロノロ走る事しかできない。
(あああ、おしっこしたい!)
朋美は叫びたかった。
始業前に行ったきり、この真冬に3時間以上トイレに行っていない。
お茶を飲み、コーヒーを飲み、生足で体が冷え、朋美の膀胱には想像を超えるおしっこがため込まれていた。
(あああ、おしっこっ!)
膀胱あたりに鈍い痛みまで感じる朋美であった。

「はぁ・・・」
由衣がため息を漏らした。
みると、半開きの口から漏れる呼吸も荒いようである。
しきりに体を左右に揺すって、膝をさすっている。
表情は消え、涙目のようでもあり、化粧をしていないせいか、唇の色もなくなっていた。
(由衣も限界なんだ!)
人のことを思う余裕は朋美に無かった。
「つぅっ!」
車がマンホールのフタを踏んで、わずかにバウンドし、雪のためにスリップして車体を振った。
その刺激が朋美に激しい排尿感を与えた。
(ダメッ!)
朋美は全神経を一点に集中させて、思い切り体をこわばらせて耐えた。
かつて研修会で、村田先輩とテニスコートを見に行ったときの我慢よりも、遙かに大きな我慢を強いられている。
(こんなに我慢するの初めてだよ・・・)
(由衣と競争するんじゃなかったよぉ・・・)
(あああ・・もうだめかも・・・)
弱気になった朋美。
それを待っていたかのように、また激しい波が襲ってきた。
「いやっ!」
思わず声が出てしまった。
「え?」
運転している男性が振り向いた。
「どうかした?」
「な、なんでもありません!」
必死で耐えて、朋美は答えた。
「んー、混んでるねえ。どこかで食事でもして行こうか?」
男性社員が言った。
たしかにお昼を回っており、空腹感はある。
しかし空っぽの胃の下にある臓器は、満杯状態で悲鳴を上げている。
「帰りますっ!」
「帰りますっ!」
女二人が同時に言い放った。
「あ・・ああ、わかった・・・」
男性は恐れをなしたようにハンドルを握りしめていた。

朋美は「帰る!」といったものの、ファミレスにでも寄ったほうがよかったと後悔していた。
(そしたら・・おしっこできたのに・・・)
そう思うと、気持ちがゆるんでしまい、襲ってきた大波に飲み込まれそうになった。
(いやいやいや、ほんとにもうだめ!)
手を持っていきたいが、男性の目がある。
自分でも怖くなるぐらいお腹がパンパンに張って、セミタイトのスカートがぷっくりと膨らみきっている。
呼吸することさえ苦しくなっていた。
寒くて体は震えているのに、額には脂汗がにじんできた。
朋美は気が遠くなりそうで、
「・・由衣・・私・・だめ・・」
由衣につぶやくように言った。
「わたし・・も・」
由衣が半泣きの顔で振り向いた。
その額にも汗が光っていた。
「どうしよう・・・?」
「・・しらない・・・」
由衣は吐き捨てるように言うとドアに半身をもたれかけさせた、明らかに由衣も限界を超えているようで、しきりに膝の上あたりをつねって必死で耐えているようであった。
(このまま出ちゃったら・・・どうしよう・・・)
朋美を恐怖が襲った。
(明日から会社に来れない!)
(ああ・・でも出ちゃいそう・・・)
(ああ・・もう出したいっ!)
交差点での減速や加速さえもが、朋美にとって、いや、女ふたりにとっては死ぬほど辛い刺激になって伝わっていた。

由衣が両手をシートについて、体を持ち上げるような仕草をしている。
朋美もつられてやってみた。
なるほど、深く座っているときよりも膀胱への圧迫がゆるむのか、少し楽になるような気がした。
しかしそれも一瞬のことで、手に力を入れたことで、必死で閉じている部分が開きそうになる。
よけいな動作をしたことで、かえって我慢が効かなくなってきた。
(はあ・・だめだ・・・もう我慢できない!)

「!!」
前方にコンビニが見えた。
朋美はそこで停めてもらおうと思った。
しかしいざ口にしようとすると声が出ない。
(なんと言って停めてもらおう・・・?)
そうこうしている内に、オアシスに思えたコンビニは過ぎてしまった。
(あああ・・言えなかったあっ!!)

由衣がカーディガンを脱ぎだした。
(え、どうするの?)
朋美が見ていると、由衣はそれを膝の上にかけた。
(今更そんなことしたって・・・)
朋美が突き放すように見ていると、由衣は片手をそのカーディガンの中に入れだした。
(!?)
朋美は悟った。
由衣は明らかにカーディガンで隠した下で股間を押さえている。
(由衣・・・)
朋美もつられてしようかと思ったが、狭い車内でカーディガンを脱ぐには、やや前屈みになり、体をすぼめなければならない。
比較的大柄の朋美には厳しいものがあった。
その動作をする反動で、こらえているものが一気にあふれ出しそうな、そんな恐怖があった。
小柄な由衣ならではの行動であったのだ。
(ああ、由衣がうらやましい・・・!)

絶望的な我慢の世界が続いていた。
お腹をさすったり、膝頭に爪を立てたり、太ももをつねったり、思い浮かぶ限りの動作をして、苦痛に耐えていた朋美だが、
(え!)
かすかに朋美の下腹部に熱いものが感じられた。
漏らしてはいない。
(え・・なに!?)
もうろうとしかかった意識の中で、朋美は混乱していた。

 ようやく会社の建物が見えてきた。
地下の駐車場に向かおうとしている男に、
「ここで降ろしてっ!」
朋美は叫ぶように言った。
「私もぉ!」
由衣も叫んでいた。
訳がわからない男性社員は、玄関に車を横付けした。
停まり切らないうちに左側から由衣が、右側のドアから朋美が飛び出した。
ポカンと見とれている男を尻目に、ふたりは前屈みの姿勢で会社の中に駆け込んでいった。
由衣は脱いだカーディガンを丸めて振り回している。
昼休みに入っているために、ロビーにはかなりの人影があった。
人目を気にする余裕などない二人は、なりふり構わずに一目散で走った。
目的はエレベーター横にあるトイレ。
行き交う人とぶつかりそうになった朋美は、由衣に後れをとった。
いくつかの個室が並ぶ女子トイレ。
一歩先にそこへ入った由衣が、化粧台にカーディガンを放り投げると、片手でスカートに手を掛け、持ち上げながら一番手前の個室に飛び込んだ。
そのドアが閉まると同時ぐらいに、由衣の放尿音が聞こえた。
遅れた朋美が二つ目の個室に入ってドアを閉めたとき、由衣の放尿音が激しさを増した。
「!」
その音に挑発された朋美の尿道口は、その時点で完全に開いてしまった。
「いや〜ん!」
叫びながらしゃがむ朋美。
大急ぎで降ろした下着であったが、かなりひっかけてしまった。
隣の由衣は、水を流さずに激しい音を響かせている。
朋美も水を流すことさえ忘れ、背中に感じる寒気のような感覚と、膀胱が縮まっていく痛いような感覚と、しびれるように全身を包む開放感を同時に味わって、
「はぁぁあ・・・」
思わず大きなため息が出てしまった。
(やだっ、なんか気持ちいい・・・なんで・・・?)
朋美は初めて経験する訳のわからない快感にとまどいながら、いつまでも続く自分のおしっこに酔っていた。

どれくらいの時間が過ぎたであろう。
隣の個室から、由衣がゴソゴソとなにかをしている様子が伝わってきた。
しばらくボーッとしていた朋美も、次第に現実に戻りだし、濡れてしまったパンツをどうしようかと考えた。
ひっかけたのは少しだと思っていたが、さわってみると、クロッチからお尻の部分にかけて、かなり濡れてしまっていた。
言ってしまえばおもらし状態と変わらない。
とても履く気にはなれない。
(脱いじゃお!)
換えのパンツをロッカーにおいている事を思い出し、脱ぐことにした。
トイレットペーパーにくるんで汚物入れに捨てようとしたとき、隣の個室でも同じよう物音が聞こえた。
(由衣もひっかけたんだな!!)
朋美はなぜかうれしく感じ、口元がゆるんだ。

先に個室を出たのは朋美であった。
由衣が放り投げたカーディガンを横にずらし、手を洗っていると、少し落ち着きのない由衣が出てきた。
目があってニンマリと笑うふたり。
手を洗う由衣の動作がぎこちない。
朋美が口火を切った。
「由衣、あんたパンツは?」
「えっ?」
ビックリしたような顔で朋美を見上げる由衣。
「パンツにひっかけたでしょう?」
「・・・」
「言いなさいよ、今パンツ履いてないでしょ!?」
「・・・」
「言わないとスカートめくるよ!」
「いやっ」
「じゃあ白状しろ!」
「・・・」
「言いなさいよぉ!」
「・・・・笑わない?」
「笑わないよ。私も少しひっかけたもん!」
「ともちゃんも?」
「うん、気持ち悪いから脱いじゃった。」
「え」
「今ノーパン!」
朋美は言いながらスカートのお尻をポンッと叩いた。
「由衣は?」
「・・・全部・・」
「え?」
「・・全部・・」
「!?・・全部・・って・・パンツのまましちゃったのぉ!?」
「・・・」
「ねえ!?」
「・・・うん・・・」
「って・・間に合わなかったってこと?」
「・・・」
たしかに由衣は、個室のドアを閉めると同時に音がしていた。
ハイソックスに濡れたような跡は見られないので、しゃがむことは出来たようだが、パンツを降ろす余裕がなかった事になる。
朋美は一瞬固まったが、次の瞬間大声で笑い出した。
「笑わないって言ったのにぃ!」
由衣が泣きそうな顔で朋美に詰め寄った。
「ごめん、そのことじゃなくてぇ・・・」
「え?」
朋美は笑いながら
「この勝負、私の勝ちだあって!!」
「え・・な、なんでよぉ!?」
由衣が口をとがらせて不満を表した。
「だって、先におしっこしたのは由衣だし!」
「・・・」
「間に合わなかったのも由衣だし!」
「・・・」
「私は少しだけだし・・」
「・・ああ、そだね・・」
「でしょ!」
「うん、私の負けだぁ!」
堅い表情だった由衣も笑った。

競争好きのふたりが、残り半日をノーパンで過ごし、机の下でギリギリまでスカートをめくり上げたり、足を開いたりして、スリルを味わう競争をしたことは、今日現在まで誰も知らないことであった。


おしまい

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