それぞれの出航(たびだち)4




 狭いバスルームの中で、由衣は体を震わせて身もだえしていた。
香織も真理もおもしろがって、由衣が便器に腰を下ろすのを待っている。
たしかに由衣には「おしがま癖」がある。
しかし見せびらかすような趣味はない。
何度も篤史に見られているが、それはすべてを託した愛情と信頼関係がさせるもので、決して平気で見られていたわけではなぃ。それなりに顔を真っ赤にして恥ずかしがっていた。
女同士であっても、気を許しあった旧友であっても、今のように興味半分で見られようとしている事は耐えられない。
バタバタと足ふみを繰り返し、小刻みに体を揺らしながら、由衣はふたりに出て行くように哀願した。
それでも香織と真理はドアを閉めようとはしない。
由衣の許容量は、ずっと前から限界を超えていた。

由衣「もうやだよ〜こんなのぉ!」
香織「だからあきらめてやっちゃいなよ。見ててやるからさ。」
由衣「あ〜っもうぉお!」
真理「あれ・・?」
香織「ん、どうした?」
真理「いやさ・・なんかオイラが元彼にされた時とおんなじ光景だ。」
香織「ああ、そういえばこんなふうな展開だったな。」
真理「どうだ由衣、無理やり見られる気持ちは?」
由衣「ひどいよぉ、絶対にイヤだよぉ!」
真理「だろ!、」
香織「でも真理は結局しちゃったじゃないか?」
真理「オイラは由衣ほど辛抱できないもんな。」
香織「うん、たしかに普段から由衣は我慢の訓練してるわけだ。」
由衣「おねがい、もうダメだよぉ!」
香織「じゃあ早くしゃがめ!」
由衣「あああああ、もう知らない〜!!」

いかにおしがま好きな由衣であっても、希美の二次会の会場を出る頃から感じていた尿意に加え、700ccもの缶ビールを飲んでいては、これ以上耐えられるはずがない。
意に反して下着の中に熱いものがあふれ出してきたのを感じ、由衣はどうすることも出来なくなって、真理から借りて履いている短パンに手をかけ、下着を同時に引き下ろしながら、便器に素早く腰を下ろした。
「もうバカ〜、見るな〜!」
由衣は狭いバスルームに響き渡る声でそう叫んでいた。
思い切り溜め込んだ由衣のおしっこは、シュイ〜・・というような音を立てながらあふれ出し、激しく便器に打ち付けて、ジャボジャボと水たまりに跳ねる音まで響かせていた。
「もうぉお・・あれ・・?」
ふと由衣が顔を上げると、ドアこそ開け放たれたままだが、香織と真理の姿はそこから消えていた。
(なんだ見られてなかったんだ。よかった・・)
由衣はホッとした気分になり、それなりに緊張していた体の力をゆるめると、それまで以上に激しい音を立てて、由衣のおしっこは流れ出していった。
「やっぱすごく元気がいいなあ!」
「便器を壊すなよ!」
香織と真理の笑い声がドアの向こうで聞こえた。

 体が軽くなった由衣が部屋に戻ると、香織と真理はソファーに向かい合って座っていた。
その傍らのベッドに腰を下ろす由衣。

香織「なあ由衣は・・小説に書いてるように見られているわけだ。」
由衣「・・おしっこ?」
香織「ああ。」
由衣「・・うん。」
香織「それってさ、恥ずかしいとか思うわけ?」
由衣「いつも恥ずかしいよぉ!」
香織「だったらなんで見られても平気なんだ?」
由衣「それは・・・」
真理「そこのところがさ、オイラたちに理解出来ない部分なんだ。」
由衣「・・・・」
真理「見られたいのか?」
由衣「ちがうよぉ、見られたいんじゃない!」
香織「だろ!、だったらなぜ見せるんだ?」
由衣「・・ちょっと違うよぉ!」
香織「なにが?」
由衣「私・・見られたいとかお漏らししたいとか思ったことないもん!」
真理「ああ、でも現実には見られてるわけだろ?」
香織「その矛盾点をさ、究明したいわけさ。」
由衣「・・・うん。」
香織「真理の元彼が早合点した原因もさ、わかるかも知れないしさ。」
由衣「・・うん。」

由衣はふたりに促されて、今日に至るまでの経過を話し出した。
元々が恥ずかしがり屋であることから、男の子の前でトイレに行くことが出来なかったこと。
そのために、初めてのデートで我慢出来なくなり、トイレで恥ずかしい音を聞かれてしまったこと。
そのことがオクテだった性への目覚めのきっかけになったこと。
おしがま状態でエッチをしてしまい、言いようのない感覚を知ったこと。
わざとおしがまさせられたとき、恥ずかしさとうれしさの両方の気持が沸いてくること。
その延長線上でのおしっこは、見られていてもうれしい気持がある事は事実であること。
そしてなりよりも、篤史が自分のおしがま趣味を充分に理解してくれていること・・・。

香織「なるほどな、一種のマゾヒストだな。」
由衣「マゾ・・?」
香織「ああ、いじめられることが快感ってやつ・・。」
由衣「いじめられるの・・いやだよ・・。」
香織「ソフトにいじめられるのが好きなのさ。」
由衣「そうかなあ・・?」
真理「っていうか、自分を悲劇のヒロインみたいに演じてるんだよ。」
由衣「悲劇のヒロイン?」
香織「ああ、そういう面もあるわな。」
真理「いつもかわいく見られていたいって気持ち、あるだろ?」
由衣「・・・うん・・」
真理「だからしっこも我慢してます。でももう我慢出来ませんって。」
香織「かわいいって言ってくれる貴方にだけは見られてもいいって?」
真理「そのことでまたかわいがられる。」
香織「そうそう。」
由衣「はあ・・・」
真理「感心するなよ、お前のことだぞ。」
由衣「だって、そんなの考えたことないもん!」
香織「そりゃまあそうだろな。」
真理「考えてやってたらさ、まるっきりのプレイじゃん。」
香織「はは、ほんとだな。」
由衣「・・やっぱり私って・・ヘン?」
香織「いや、ヘンじゃないよ。そういう性癖があるだけさ。」
由衣「せいへき?」
香織「ああ、由衣はいい彼氏に出会ったのさ。」
真理「そういうことだな。」
香織「ってことで・・真理の元彼だけど・・」
真理「ああ、ちょっとかわいそうでもあるなあ。」
由衣「・・・ごめん・・」
真理「いや、謝ることはないけどさ・・」
香織「ただ元彼の勝手な思いこみがそうさせたのさ。」
真理「けどさ、こういう事ってなかなか相手に告白できないだろ?」
香織「そうだろうなあ・・。」
真理「由衣だって告白した訳じゃないもんな。」
由衣「うん・・。」
真理「旦那にそういう性癖があったようでもないもんな。」
由衣「・・たぶん・・。」
香織「由衣の演じ方がよかったんだよ。」
由衣「演技なんかしてない〜っ!」
香織「そうじゃなくてさ、振る舞いとか仕草だよ。」
真理「ああ、オイラたちから見ていてもさ、お前と希美は・・」
香織「あはは・・確かにかわいい仕草してるよなあ。」
真理「ぴょんぴょん跳ねたり飛んだり・・」
香織「はは・・そう言うのに旦那はハマったんだろうな。」
由衣「・・なんかそれって・・あ〜ちゃんの悪口に聞こえる。」
真理「ちがうよ。お前が旦那を射止めた要因のひとつだってことさ。」
香織「それは言える。」
由衣「そうなの・・?」
香織「まあ旦那も少なからず興味はあったと思うけど・・・。」
由衣「え?」
香織「だってそうだろ。排泄に憎悪感を持つ人だったらさ・・」
真理「ああ、逆に嫌われるよな。」
香織「ましてエッチの最中にやっちゃったら最悪になるよ。」
真理「言える!」
由衣「はぁ・・」
香織「お前は気にしていなかったかも知れないけどさ、」
由衣「・・」
香織「こういう性癖を持つ人たちはさ、きっとうらやましがるぞ。」
由衣「そうなんだ・・。」
真理「由衣が旦那を育てたっていう見方もできるだろ。」
香織「ははは・・それもありだなあ。」
由衣「わ〜い、そんなことないよぉ!」
真理「はは・・ところでのの(希美)の旦那もそういう人なのか?」
由衣「え・・さあどうだろう?」
真理「ののもしっこが近いからさ、似たようなことあるんだろうな。」
由衣「うん、けっこうあるみたいだけど・・」
真理「やっぱり由衣は聞いているんだ。」
香織「こいつのことだ、そのうちまた小説にする気だろう。」
真理「はは・・って、待てよオイッ!」
香織「どうした?」
真理「って事はだなあ・・このことも書く気だろう!?」
由衣「・・・」
香織「なるほど。これはいいネタになるわな!」
真理「おいおい・・」
由衣「だめかなあ・・やっぱり?」
真理「・・・・・・・・・・・・・・・いや・・」
由衣「いいの?」
真理「ああ。この際・・発表したほうがいいのかもな?」
香織「いいのかよ?元彼もきっと読むぞ。」
真理「ああその方がさ、オイラの気持をもっとわかってもらえるよ。」
香織「元彼は傷つかないか?」
真理「幸いにさ、あいつの名前は本名じゃないし・・」
香織「うん、戸倉圭吾じゃあ本名はわからないな。」
真理「それにオイラたちの事を知っている人は少ないんだよ。」
香織「仮に由衣の小説を読んでも、人物の特定にならないってか?」
由衣「でも甲府って書いた・・。」
真理「たしかに地名は出されたけど、それだけだろ。」
由衣「ミニモニ仲間って・・」
香織「甲府にだってちっこい子はいっぱいいるさ。」
由衣「・・うん。」
真理「仮にわかってもさ、同類項の人たちが読むんだろ。」
香織「ああ、今更ヒミツもないってか!」
由衣「いいのかなあ・・・?」
真理「許す!。その代わり正直に書け!」
由衣「でもさ・・元彼が怒らないかなあ?」
真理「大丈夫。オイラが保証するよ。」
由衣「けどぉ・・」
香織「あくまでも小説としての架空の話だからな。」
真理「そう言うこと。」
香織「それに今更何も言えないだろうってか?」
真理「ああ、お互いにもう済んだことだからな。」
香織「はは・・あもしろくなってきたなあ。」
真理「まあな、」
香織「ところで真理・・」
真理「ん?」
香織「そういうふうに考えてくるとだな・・」
真理「なんだよ?」
香織「軽井沢の帰り道でさ、元彼が道を間違えたってあっただろ?」
真理「ああ、高速を降りて山の方に走ったことか?」
香織「あれって元彼・・ほんとに間違えて走ったのか?」
真理「え・・!?」
香織「意図的にって事はなかったんだよな?」

香織はそう言いながらソファーから立ち上がり、バスルームに向かった。
缶ビールを手に持ったまま、真理はしばらく考え込む。
「ふふん・・まあ真剣に間違えた事にしておくか・・。」
やがて真理は自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。
バスルームから香織が用を足す音がかすかに聞こえてきて、しばらくすると、
「悪い。先にシャワー使わせてもらうよ。」
と、脱いだ洋服や下着をドア越しにベッドの上へ放り投げた。
「オイラもトイレ使いたいから・・早くしろよ!」
真理が缶ビールを飲み干しながらそう言った。
聞こえていたかどうか、香織は無言でドアを閉めてシャワーを浴びだした。
「さてっと・・オイラは先に着替えてようかな・・」
真理はゆっくりと立ち上がると、由衣に背中を向けるようにして服を脱ぎだし、備え付けの浴衣を羽織った。
「あは・・やっぱり真理っぺには大きいね。」
由衣がその姿を見ながら笑う。
「うるせえ!、お前とオイラの身長差は1センチだけだろ!」
真理は浴衣のひもを結びながら答え、脱ぎ散らかした洋服などを片づけだした。
由衣は立ち上がり、窓のカーテンを少し開いて暗い外を眺めていた。
赤坂で夜を迎えるのは初めての由衣。
やがて真理が、
「うーっ香織ぃ、早く出ろよー!」
と、やや落ち着かない様子でウロウロしだした。
ホテルの部屋に戻ってきてからかなりの時間になる。
その間、真理も同じように缶ビールを飲んでいたから、相当尿意を感じているのであろう。

由衣「真理っぺ、おしっこしたいの?」
真理「ああ、香織に先をこされたよ。」
由衣「いいじゃん、入っちゃえば?」
真理「えへ、オイラはそう言うことできないなあ。」
由衣「恥ずかしいの?」
真理「まあ・・それもあるけど、エチケットだしな。」
由衣「真理っぺにエチケットって言葉、似合わないね。」
真理「うるせい。オイラももうレディーだしな。」
由衣「じゃあその『オイラ』っていうのも直さないとさ。」
真理「ああ、そうだなあ、由衣たちといるとさ、つい出てしまう。」
由衣「我慢できる?」
真理「あは・・正直ちょっと辛いわ・・」
由衣「じゃあかなり前から我慢してたんだ。」
真理「ん・・由衣がしっこする頃にはオイラもしたくなってた。」
由衣「わっ、じゃあもうおなかパンパンだね。」
真理「ビールはきついよなあ。」
由衣「真理っぺは普段・・そんなに我慢しない方だよね。」
真理「まあな・・」
由衣「立っているよりも座っている方が楽じゃない?」
真理「まあそうだけど、もう香織が出てくるだろうし・・」
由衣「あの時とどっちがきつい?」
真理「あの時って?」
由衣「軽井沢からの帰り道とか・・」
真理「ああ・・似たようなもんだなあ。」

真理は落ち着きなく、部屋の中をゆっくりと歩いていた。
シャワーの音に混じって、香織の鼻歌が聞こえてくる。
「ちっ、香織のやつのんきに鼻歌なんか歌ってるよ。」
真理は少しいらだってきたようだ。
バスルームのドアをノックして
「香織ぃ、早くしてくれないかあ!」
やや甲高い声でそう言った。
「え、なんか言ったか?」
シャワーに混じって香織の声が聞こえた。
「早く出てくれって言ってるんだ!」
真理はかなりせっぱ詰まっているようである。
香織の、すぐに出ると言う声が聞こえると、ドアの前で前屈みになって、浴衣の上から前を押さえだした。
「つぅ・・きついなあ・・。由衣はこんなのが気持ちいいのかよ?」
顔をゆがめながら由衣の方を見た。
「気持いいっていうか・・なんかドキドキしない?」
由衣は窓際から離れて真理のそばにやってきた。
「ドキドキなんかしないよ。辛いだけだなあ。」
真理は体をくねらせて言う。
浴衣ごしに見える真理の下腹部は、かなり丸みを帯びているようである。
「今さわったらどうなる?」
由衣はいたずらっぽい口調で言いながら真理に近づいていった。
「わっ、バカッよせよ!!」
真理は引きつった顔になって、由衣の接近を阻止しようと右手を伸ばした。
その腕をつかんだ由衣は、浴衣の裾に手を入れ、軽くなぞるように真理の肘から二の腕にかけて指をはわせていった。
「ひっ!やめろバカッ!」
真理はあわてて腕を引っ込めようとしてもがく。
「なんだよ由衣、さっきの仕返しか?」
真理は半分泣き出しそうな顔になっていた。
「ううん、そうじゃないけどさ、こういう時の刺激って気持よくない?」
由衣の問いかけに、真理は首を振りながら、
「全然よくない!、漏れそうになるじゃんか!」
と言った。
「うん。それをグッと堪えるのがね、いいみたい・・・。」
由衣はそう言いながら、再び真理の腕を取ろうした。
真理はあわてて身を固め、入り口のドアまで後ずさりしていった。
「由衣っ、オイラはお前と違うからな!!、さわるなよっいいかっ!!」
更に前屈みの角度を深くし、真理は右手を大きく振り回していた。
「うんわかった、もうしないから・・」
由衣はそう言って真理に背中を向けた。
「はあ・・汗びっしょりになったじゃんか・・」
真理は浴衣の襟元をはたきながら、左手で額の汗を拭っていた。
ノドまで乾いたと、真理が冷蔵庫を開け、前屈みのままで缶入りのウーロン茶を取り出した。
「それが飲めるならさ、まだ余裕あるじゃん?」
由衣がいたずらっぽく言う。
「余裕じゃねえよ。必死こいてんだぞ!」
真理はややきつい口調で言いながら、ウーロン茶を一口ほおばった。
「くわー、上を向くとモロにおなかに来るなあ!」
ゴクリと飲み干すと同時に、真理は再び体をくの字仁曲げていた。
「なんだって由衣はこんなに辛いことが好きになったんだろうな?」
お茶の缶をテーブルの上に置き、真理はつぶやくように言った。
「・・自分でもわからないよ・・。」
由衣はソファーに座り直して言った。
「ふーん、お漏らしとかしてないのか?」
「あ〜ちゃんの前でなら・・したことある・・。」
由衣は少し恥ずかしくなって下を向いた。
「ふーん、エッチしてる時は?」
体をくねらせながら聞く真理がこっけいである。
由衣はその姿を見つめながら、
「あるよ。」
やや自信げに答えた。
「わざと・・しっこしたい時にエッチするんだろ?」
「うん・・そう言うときもあるし、途中でしたくなる時だってあるし。」
由衣は思い出をたぐるようにして、そうなった状況を頭に巡らせながら言った。
「はあ・・オイラには絶対無理だあ。絶対に漏れちゃう。」
真理はそう言いながら、いよいよ限界になったのか、床の上に横座りになってしまった。
「真理っぺ、もう限界?」
由衣が立ち上がって聞くと、
「見ろよこのおなか!」
まん丸くふくれあがった下腹部を手でさすって見せた。
「わ〜い。すごいね。さわってもいい?」
由衣がまたいたずらっぽく聞く。
「バカ、また押さえたりする気だろう!?」
危険を感じて真理が身を固くする。
「そんな意地悪、もうしないよ。私と比べるだけだもんね。」
由衣は言いながら自分の下腹部を撫でて見せた。
「あん、由衣もまたしっこか?」
「うん、だってビール、真理っぺよりもたくさん飲んでるもん。」
由衣はおなかをさすりながら真理の横に座り込んだ。
「ね、ちょこっとだけ触るね。」
由衣は甘えるように言うと、真理の手を払いのけるようにして、そっとその下腹部に手を置いた。
確かにパンパンに膨らんで、石のように固くなっている真理のおなかである。
「すご〜い、パンパンだ〜!」
由衣はそう言いながら、わずかではあるがその手に力を入れていた。
「わっ、バカやめろぉ!」
真理は顔をこわばらせて由衣の手を払いのけた。
「いま・・かかと押さえしてるでしょう?」
由衣はなおもいたずらっぽく聞く。
「おまえ・・押さえたりしないって言ったじゃんかっ!」
「押さえたりしてないよ、ちょっと固さを調べたんだよ。」
「バカヤロウ・・もう・・」
「あ、漏れちゃった?」
由衣が真理の顔をのぞき込む。
「ばっ・・お前なあ由衣!!」
言いかけた真理が言葉に詰まり
「ああ・・もうしっこしたいっ!」
本音でそうつぶやいた。
 この部屋に来てから、由衣は700ccのビールを口にしていた。
先程トイレに行ってはいるが、また第二弾が押し寄せてきている。
しかし真理のおなかには、現時点で由衣よりもたくさんのおしっこが溜められているようである。
由衣は、限界近くまで尿が溜まると、あんなにもおなかが固くなるものだと、改めて思っていた。
「お待たせ、なにを騒いでいるんだ?」
長い髪をアップにし、バスタオルに身をくるんで、香織がバスルームから出てきたのはそのときだった。
「香織ぃ・・おせえよぉ!」
真理が口をとがらせながら言い、ベッドの脇に手をかけて立ち上がろうとする。
しかし限界までおなかが膨らみきっているためか、その動作は遅い。
まだ余裕のある由衣は、スッと立ち上がると、
「ごめ〜ん、先に行くね〜!」
と言って、さっさとバスルームに飛び込んでいった。
「てめえ由衣っ!ぶっ殺すぞーっ!!」
悲鳴にも似た真理の声が響き渡った。


つづく

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