香織「真理、早くしゃべらないと由衣がほんとにお漏らししちゃうよ!」
真理「なんだよそれ。笑える脅迫だなあ!」
由衣「もうトイレ行くぅ!!」
香織「だめだめ、真理の話がすんでから!」
由衣「あ〜もうおっ、真理っぺぇ早くぅ!!」
真理「やれやれ・・おかしな展開になったもんだ・・」
由衣「んなこといいからさあ、もうおぉ!!」
真理「はいはい。じゃあゆっくりと聞いてもらいましょうか!?」
由衣「ゆっくりはイヤッ、早くぅ!」
正直言って、由衣の膀胱ははちきれそうな状態になっていた。
いくらおしがま好きと言っても、二次会の会場を出るときから尿意を感じていた上に、成り行きで缶ビールを2本も飲んでしまった為に、由衣はすでに限界に達していた。
(おしっこしたいぃっ、もう出したいよぉ!!)
そんな由衣の気持ちも知らず、真理はゆっくりとした口調で話し出した。
真理「オイラ・・今年の初めに前の男と別れたんだ・・」
香織「戸倉圭吾と別れたんだな?」
真理「念を押すなよ。ん・・1年ちょっと続いたんだけどな。」
香織「ちょっと変態っぽかったって言ってたよな?」
真理「ん・・まあそう言う言い方も出来ると思う・・・。」
香織「それが原因で別れたってわけか?」
真理「まあそうだな・・。」
香織「具体的にさ、どんなことがあったんだよ?」
真理「うん・・まあその・・なんだ・・」
由衣「もういいよぉ、トイレ先に行くぅ!」
香織「もうちょっと辛抱しなよ!」
由衣「だめだってばあ!もう出ちゃうってばっ!」
香織「我慢我慢!、で?」
真理「うん、あいつさあ・・オイラのな・・」
香織「・・(ゴク・・)」
真理「オイラの・・トイレ覗こうとするんだ・・」
香織「はあっ!?」
由衣「!!」
予想もしなかった言葉が真理の口から飛び出した。
あまりの驚きに、由衣は激しい尿意を一瞬忘れ、次の言葉に聞き入った。
真理と戸倉圭吾がデート出来るのは月に数回程度であった。
昨年の5月、一緒に軽井沢に行った事がきっかけとなり、それから彼は会うたびに体を求めるようになり、真理を自室に連れて行こうとしていた。
真理は、若い男の人はこんなものだろうと割り切って、体調が優れないとき以外は、ほぼ彼の欲求に応じていた。
秋、由衣たちと東京でミニ同窓会をした次の日曜日のことであった。
この日もデート帰りに、彼は真理を部屋に誘った。
朝から河口湖方面へドライブし、その帰り道が渋滞していたために、真理はかなり尿意をこらえていたが、もうすぐ着くからとドライブインによる事もせずに我慢し、部屋に入ってすぐにユニットバスに飛び込んだ。
ホッと一息ついてペーパーに手を伸ばそうとしたとき
(!)
正面に位置する扉が少し開いていることに気がついた。
かなり焦っていたので鍵をかける余裕はなかったが、扉は閉めたはずなのにと真理は思った。
(やだな、いつ開いたんだろ?・・まさか・・圭吾が開けた!?)
ジーンズをおろすのに手間取ってバタバタしていて、そのあとはじっと下を向いていたので、真理はまったく気がつかなかった。
(なんかやだな・・)
後始末をすませてそっと扉を開けると、戸倉は何事もなかったかのようにテレビを見ている。
(私の勘違いだったのかな?)
急いで閉めたために、その反動で開いたのかもしれない・・真理はそう思って気を取り直していた。
その後は何事もなく過ぎていき、12月末の土曜日、真理と戸倉の会社の忘年会がそれぞれあり、ふたりは連絡を取り合って合流し、ショットバーで少し飲んだ後、歩いて戸倉の部屋にやってきた。
そこでまたワインなどを飲んで楽しく過ごしているうちに、真理は睡魔に襲われて、戸倉の肩に寄りかかるようにして眠ってしまった。
むずがゆいような、くすぐったいような、そして強い尿意を感じた真理が目を覚ますと、戸倉が背中から手を回して真理の体を触っていた。
「あ、ごめん・・眠っちゃった・・。」
真理が顔を上げて言うと、戸倉は耳元でささやくように
「しようか!」
と言った。
真理はコックリとうなずいたものの、かなり尿意があったので、先にトイレを使いたいと言って立ち上がろうとした。
が、一歩踏み出す足に力が入らず、ふらつきながら戸倉の膝の上に座り込んでしまった。
カクテルやワインを飲んでいたために、足を取られてしまっていた真理。
戸倉の手を借りて、抱きかかえられるようにユニットバスまでたどり着き、フラつきながらスカートの中に手をやって、そこでふとドアの方を見た真理は息をのんだ。
そこにはドアを全開にして戸倉が立っていた。
「え、ちょっとぉ、閉めてよぉ!」
足ふみしながら言う真理に、戸倉は
「見ててあげるよ。」
と言った。
「ひ・・ひとりで大丈夫だからあ!!」
スカートの中に手を入れたまま、体を揺らしながら言う真理。
「いいよ。見ててあげるから!」
戸倉はそう言って、いっこうにドアを閉める様子を見せず、むしろユニットバスの中へ体を入れようとまでした。
「やだよぉ。出てってよぉ!」
真理は必死で言う。
「いいからいいから!」
戸倉は一方的に決めつけるような言葉を繰り返して、体をくねらせている真理のことをおもしろがっているようだ。
かみ合わない言葉の応酬を繰り返していたが、足に力が入らない真理は立っているのが精一杯の状態であり、戸倉を追い出してドアを閉める余裕はなかった。
さらにアルコールで自制が効かなくなっている真理の体は「待て!」の命令を無視してしまい、押し問答をしているうちに発射態勢に入ってしまった。
「ああぁもうぉ!」
どうしようもなくなって、真理は戸倉の目の前でショーツを下ろしてしまった。
かなり溜まっていたことと、自制が効かない体のせいで、意識に反して勢いよく便器に当たるおしっこに、真理はたくしあげたスカートで必死に前を隠すのが精一杯で、顔を上げることも出来ない。
「もうおぉ・・やだよぉ・・もうぉ嫌いだあ!絶交だあ!!」
あふれ出る音を響かせながら、真理は何度も同じ言葉を口走っていた。
なんとなく気まずくなってしまった真理。
先にリビングに戻った戸倉が
「真理ちゃん、かわいいな!」
と、ニコニコした顔でいう。
「バカッ!なに言ってるのよっ!」
謝るのかと思ったのに、おもしろがっているような戸倉の態度に、真理は怒りがこみ上げてきた。
「サイテーだよっ!」
真理は戸倉の顔をにらみつけた。
「あれえ、ひょっとして真剣に怒ってる?」
戸倉はなおも冗談めいた口調で言う。
その言い回しに、真理はキレてしまった。
お酒のせいだと割り切ろうと思っても、心が落ち着かない。
「今日は帰る・・」
と言って、ふらつく足で立ち上がった。
戸倉も空気を察してか、
「悪かった。表まで送るよ。」
と、無理に引きとめようとせず、真理がタクシーに乗るまでエスコートしてくれた。
なんとなく落ち着かないまま新年を迎えた真理。
約束していた初詣には一緒に出かけたが、当たりさわりのない会話だけが進み、あえて二人とも「あの事」には触れないという、ぎこちない時間が流れ、真理は息が詰まりそうになって「親戚が集まるから」とウソをついて途中で帰ってしまった。
別に戸倉のことを嫌いになった訳ではない。
ただ一言「あの時は酒が入っていて調子に乗りすぎた。悪かった!」と言ってほしかった。
あえてそのことを避けるかのように、ありきたりの世間話ばかり繰り返す戸倉に対し、真理は悔しさに似た感情を持っていたのだ。
(きちんと言ってくれたら・・許せたのになあ・・)
「男らしくない」と真理は言いたかった。
それから1週間後の夜、真理は連絡を入れずに戸倉の部屋を訪問した。
「散らかってるよ。」と、戸倉はさほど驚いた様子もみせずに真理を迎え入れ、コンビニ弁当などのカラを片づけながら、コーヒーを沸かし出した。
しばらくたわいもない事を話し、会話がとぎれたその時に、
「ねえ圭吾・・」
真理が意を決したような重い声で口を開いた。
「あのさ・・」
言いにくそうな真理の表情は見て取れる。
戸倉は真剣な顔になって真理を見つめた。
「あの・・もし私がまた・・その・・トイレに行ったらさ・・」
戸倉の顔色が変わった。
「あの・・また覗くの?」
真理は吐き捨てるようにそう切り出した。
真理を見つめていた戸倉が一瞬目をそらし、困ったような表情をして
「ん・その・・やっぱり真理はイヤなんだな?」
と、まるで開き直ったかのように言い出した。
「あっ・・あったりまえでしょ!」
予期していない戸倉の言葉に、真理は声を荒げていた。
「そんな・・トイレ覗くなんて変態だよっ!」
言い切って、真理は大きく息をのんだ。
うつむいていた戸倉がゆっくり顔を上げ
「そうか・・変態か・・」
低い声で言った。
「なに開き直ってんのよっ、どういうつもりなのよぉ!?」
テーブルに身を乗り出すようにして、真理はなおも続ける。
「いつだったか・・そうだ河口湖から帰ってきた日だっ、あのときも覗いてたでしょうっ!?」
「・・・」
「わたし・・知ってるんだからねっ!」
「・・・」
「黙ってないでなんとか言いなよっ!なんでそういうことするのっ?」
真理はまくし立てるように言い放った。
戸倉はうつむいたまま沈黙していたが、真理が息切れして深呼吸をしたときにゆっくりと顔を上げ、
「そうか・・俺の勘違いか・・・。」
と、真理から目をそらせて独り言をつぶやくように言った。
「はあっ、勘違いぃ!?」
謝るどころか、まるで他人事のように言う戸倉の態度に、真理の怒りは加速されてる。
「勘違いってどういう事よ。圭吾の事を言ってるんだよ!」
思いあまった真理はテーブルを拳でたたきつけた。
ガチャッと音を立ててカップが揺れ、コーヒーが少しテーブルの上に飛び散った。
もう何を言ったらいいのかわからない。
圭吾が何を考えているのかわからない。
こぼれたコーヒーをダスターで拭きながら、真理は言葉を失っていた。
やがて戸倉が低い声で口を開いた。
「・・てっきり真理も理解者・・というか、仲間だと思っていたんだ。」
「理解者!?仲間?」
真理は何のことかわからない。
「トイレを覗かれることの理解者だっていうの!?」
詰め寄るように戸倉を見つめて言った。
「ああ、でも・・どうやら俺の早とちりだったわけだ。」
「・・なにを言ってるのかわからないよ。どういう事なの!?」
真理は泣き出しそうな顔になっている。
「うん・・口で言うのは難しいけど・・・」
戸倉は説明に困っているようだ。
あいまいな言い回しの戸倉に対し、真理は詰め寄って説明を求めたが、納得できる言葉が返ってこず、ただ「変態ではない!」などと、自分を弁護する言葉だけが繰り返され、戸倉が何を早とちりしたというのか、何の理解者、何の仲間だというのかの説明がされなかった。
「もう・・わたし・・ついて行けない・・・」
思いあまった真理が、ついにその言葉を出した。
沈黙が続き、重い空気が流れていく。
「帰るね・・」
真理は静かにそういうと、ゆっくりと立ち上がって玄関に向かった。
戸倉が何かメモ書きをしている。
ドアを閉める直前に、
「言い訳してもわかってくれないだろうから・・」
と、そのメモ書きを真理に手渡した。
「何これ?」
「検索かけてさ、そこを見てほしい。そしたら俺の言っていること・・」
「わかるっていうの?」
「いや・・そうあってほしいけど・・・」
「・・・うん、わかった。」
真理はそれだけ言うと、重い足取りで戸倉の部屋を後にしていった。
戸倉が手渡したメモ書きには「ROOM水風船」という言葉が走り書きされていた。
家に帰った真理は、しばらく何も手につかずにいたが、気乗りしないままにパソコンの電源を入れ、その言葉の検索をしてみた。
真っ先にヒットしたページを開く真理。
(え・・なにこれ!?おしっこのこと!?)
やっぱり戸倉はこういう趣味があったのか!
真理はそれ以上見るのをためらったが、それでも見ないことには戸倉が何を考えていたのかわからないと思い、気が進まないままクリックしていった。
読み進むうちに、はじめ描いていた「変態の集まり」という先入観は消えつつあったが、それでも真理に共感を覚えるものはなく、理解しづらい内容の話ばかりであった。
(おしっこの我慢って・・何がそんなにいいんだろう・・・?)
(圭吾も私に我慢させたかったってこと・・?)
(これを見て・・何をわかれっていうんだよぉ・・)
BBSやCC日記に目を通しても、何が戸倉と結びついていて、自分がどこで「仲間」だと思われていたのかが理解できない。
やや疲れてきた真理は、最後に「図書室」を開いた。
興味のない真理にとって、文字が並ぶ小説はうっとおしく感じられ、流し読みのようにページを進めていった。
(体験談風小説って・・ほんとかよ。作り話じゃないの?)
いくつかのタイトルをクリックし、斜め読みを繰り返していた真理は眠くなってきて、もうおしまいにしようと開いた「卒業旅行」で
「はん!?」
睡魔が吹っ飛ぶような衝撃を受けた。
(ええ、えっ・・これってひょっとして・・オイラのこと!?)
登場する人物の名前こそ微妙に違っているが、真理の記憶にある当時の情景が、交わした言葉のやりとりまで細かく描かれていて、まるでアルバムを見ているかのようによみがえってきた。
(これって・・由衣って・・チョビって・・!!)
一気に読み終えた真理は、いいようのない複雑な思いのまま、さらにページを進めていった。
そして「それぞれの失敗」で、再び自分が登場し、戸倉とのお泊まりデートや野ションのことが描かれていることに苦笑した。
(あいつ・・こんなの書いてたんだっ!)
真理「・・というわけなのさ。」
香織「なるほどなあ。前の男は由衣の小説を読んでいたんだな。」
真理「ああ。これ読んだらさ、オイラだってこと十分わかるよな。」
香織「たしかに!だからおまえも由衣と同じお仲間だと思われた。」
真理「そういうことになるんだよな。」
香織「もともとそういう性癖を持っていたんだな、彼は。」
真理「そうなんだ。」
由衣「おねが〜い、トイレ行く〜っ!」
香織「それがいやで別れたんだな?」
真理「いや・・そうじゃなくてさ・・」
香織「なんだ、ほかにも何かあるのか?」
真理「そういうのオイラには理解できないけどさ、まあいいとしよう!」
香織「?」
真理「たださ、トイレを覗いたりさ、勝手な思いこみしてたのがさ・・」
香織「ああ、おまえの性格では許せないわな!」
真理「変態・・とかじゃないって思いたいけどさ・・」
香織「コソコソと陰でされると・・そう思えるわな。」
真理「そうなんだ。だからさ・・」
由衣「ああああ、トイレ行かせて〜!」
真理「由衣の小説読んでからさ、ずっとそう言う目で見てたわけだろ?」
香織「たぶんそうだろうな。」
真理「そう思うとさ、なんていうか・・・」
香織「ああ・・わかるような気がする。」
真理「だろ!、それが許せなくてさ・・・」
香織「そうか、由衣が別れさせたようなもんなんだ。」
由衣「ごめ〜ん!トイレ行かせて〜!」
真理「いや・・由衣のおかげかもな・・・」
香織「ん、そう思うのか?」
真理「ああ、小説のおかげでさ、あいつの性癖がわかったわけだし・・」
香織「なるほど。で、もう彼のことは許してるのか?」
真理「すんだことだよ。オイラとの周波数が合わなかっただけさ。」
香織「で、今度の彼にはそういうクセはないのか?」
真理「いや・・まだそういうのは知らないけど・・・」
香織「もし同じような趣味を持っていたらどうするよ?」
真理「そうだなあ・・はっきりと言ってくれたら・・・」
香織「協力してやるのか?」
真理「おいおい・・それはなあ・・・」
香織「また別れる?」
真理「いや、協力できるかどうかはあれだけど・・」
香織「・・・?」
真理「はっきり言ってくれた方が理解できると思う。」
香織「ふぅん、おまえも成長したなあ。」
真理「なんだよそれ!?」
香織「一皮むけたってことさ。新しい第一歩だってこと。」
真理「もうすぐ23歳になるもんな。」
香織「背は伸びないけどな。」
真理「よけいなお世話だ!」
由衣「お願い、もう許して〜!」
真理「おいおい、由衣が脂汗出してるぞ。」
香織「そうか。由衣、真理っぺのお許しが出たぞ。」
香織はバタバタと暴れ回る由衣の体を抱きかかえるように持ち上げると、バスルームの方へ歩き出した。
「おろして〜っ!」
叫ぶ由衣に
「私たちの肖像権侵害をつぐなってもらうからな!」
香織は由衣を抱きかかえたままそう言って、バスルームのドアを開けた。
そして由衣を便器の前でおろし、
「さ、由衣大好きなおしっこ、私たちの前でしてごらん!」
と、長い髪をたくし上げながら由衣の前にかがみ込んだ。
真理も横から身を乗り出す。
「え〜っやだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
由衣の声が狭いバスルームの中に響いた。
つづく