高校を卒業した聡実は都内の短大を経て、小原由衣と同じ会社に就職した。
社会人になって初めて念願の一人暮らしを始めた聡実。
5月下旬のある夕暮れ、聡実は由衣とふたりで、駅前の喫茶店にいた。
総務課の由衣と営業二課の聡実が、会社で顔を合わせることは滅多にない。
それが昨年暮れ、由衣が起こした書類配布ミスを、真っ先に気づいた聡実がフォローしたことで親しくなり、時々こうしてお茶する関係になっていた。
聡実は由衣よりも1歳年上。学年で言えば2学年離れている。
「けどさぁ、あのときはほんとに恥ずかしかったよぉ。」
由衣が微笑みながら言うと、
「緊急事態だったからね。」
聡実はちょっと開き直ったような口調で答えていた。
「うん、でもまさかねもっちゃんから言い出すとは思わなかった。」
「まあ・・私が一番深刻だったのかもね?」
「ううん、(木下)朋美もね、もうギリギリだったみたい。」
「そうなんだ。で、由衣はどうだったの?」
「私?、私は余裕だった。」
「うそぉ、そうは見えなかったなあ。」
「あは、ひょっとしてバレてた?」
「青い顔してたくせに!」
ふたりは声を潜めながら笑いあった。
ふたりが話しているのは、5月の連休に行った信州旅行での、あるとんでもない出来事の思い出であった。
今年の5月2日、職場で仲がよい聡実たち男女各6名は、車2台に分乗して中央道を走り、霧ヶ峰の一角にあるロッジへと向かった。
そこは会社が保有する福利厚生施設のひとつで、職員は予約することによって自由に使うことが出来た。
由衣は彼・松本篤史と同じ車に乗っていた。
木下朋美も彼・村田と一緒に由衣の車に乗った。
(いいなぁこいつら・・・)
特に職場でつきあっている男性がいない聡実は、その他と一緒に別の車に乗り込んでいた。
あちこち寄り道をしながらロッジに着いた聡実たちを待っていたのは、まず大掃除であった。
管理会社が定期的に回っているが、掃除まではしていない。
ほこりだらけの室内にハタキをかけ、掃除機をかけ、ぞうきんがけをして、やっと落ち着いた頃には、あたりは薄暗くなっていた。
庭でバーベキューの準備をする男たち。
女の子たちはキッチンに立ち、諏訪で買い込んだ食材を切り分け、大皿に盛りつけて、大急ぎで庭に運び出した。
5月に入ったばかりの信州の夜はかなり冷え込んでいる。
それでも聡実たちは、まるで童心に返ったかのようにはしゃぎ回り、飲んで歌って騒いでいた。
部屋からの明かりと、庭にわずか一カ所だけある照明で照らされたそこは、白樺林の一角にポツリと建てられたロッジで、隣接する建物もないことから、かなり大きな声で騒ぐことが出来た。
盛り上がった中で聡実は、系列会社の立て直しで出向している経理の松本が、実は小原由衣と婚約中で、来月にも入籍する予定だと知らされた。
「えー、そうだったのぉ由衣!?」
うわさには聞いていたが、まさかそこまで進んでいるとは知らず、聡実は驚いた。
「でもさ彼・・2年ぐらい向こうにいるんでしょ?」
由衣に聞く聡実。
由衣は少し寂しそうな表情を見せたが、すぐに顔をあげ、
「うん、けど太い愛情でつながってるから平気!」
と、ノロケるように言った。
「はいはい、ごちそうさま!」
聡実は少しバカらしくなって、由衣の頭をコツンとたたくと、
「じゃあここでふたりの簡易結婚式やろう!」
と提案した。
皆が盛り上がる中、恥ずかしがって後ずさりする由衣と彼を引きずり出し、
「ではまず誓いのキスを!」
いきなりそう言う聡実。
「うっへぇ、ずいぶん省略してるなあ!」
「いきなりかよ!」
口々に冷やかしの声が出る中、聡実は照れるふたりに「早くしろ!」と、まるで脅しをかけるかのように言うと、やがて松本が由衣を抱き寄せ、かなりかがんでキスを交わした。
一斉におきる拍手と冷やかしの口笛。
「は〜い、ふたりはもう結婚しました。おわり〜!。あーバカらしい!」
聡実が投げ出すように言うので、みなは笑いだし、ますます盛り上がって、何度も乾杯が続いた。
(あ〜あ、私も結婚したいなあ・・・)
聡実はみんなから祝福されている由衣がうらやましい。
つきあっている男性はいるが、結婚の話などしたこともない。
(私たちって・・これからどうなるんだろう・・?)
冷やかされ続けている由衣と松本を眺めながら、聡実はふっとため息をついていた。
ロッジには2人用と4人用の寝室がそれぞれ2部屋ずつあり、他に10畳の和室もあった。
浴室は5〜6人が一度に入れるほどの広さがあり、男性陣が出た後、女性陣が一度に入る。
脱衣場にカギがないことから、酔った男たちが覗きにこないかと、常に目を光らせながらの入浴であった。
「由衣、今夜は彼と一緒の部屋で寝る?」
湯船に浸かりながら聡実が言うと、由衣は顔を真っ赤にして否定した。
朋美や他の子たちもけしかけたが、それでも由衣は断った。
「なんなら彼をこっちに呼ぼうか?」
「もうお、いいってばあ!」
恥ずかしがる由衣をいじると楽しい。
聡実を振り切って湯船から飛び出した由衣。
「彼氏とのこと、今夜ゆっくり聞かせてね〜!」
後ろ姿に声をかけると、
「いや。今日は朋美と一緒に寝る!」
由衣はあっさりと聡実を拒否した。
「あ、お姉さんの申し入れを断るとは無礼者!」
聡実はそう言いながら、由衣めがけてお湯をかけた。
「あああもうおぉ!!」
怒った由衣がシャワーを湯船に向けたので、他の子たちまでお湯がかかり
「こら小原!」
と、お湯を掛け返しはじめ、まるで小学生の修学旅行のような騒ぎになってしまった。
空気が澄んだ星空の下、ロッジだけがにぎやかな霧ヶ峰の夜が更けていった。
翌3日は白樺湖から始まってビーナスラインを走り回り、牧場で乗馬をしたり、搾りたての牛乳を飲んだりして、聡実たちは信州の遅い春を楽しんだ。
薄曇りの天気ではあったが、それほど風もなくて過ごしやすい気候であった。
清里まで足を伸ばし、しゃれたオープンカフェで休憩していると、由衣の携帯電話が鳴った。
友達が近くにいるという。
しばらくすると、由衣と同じぐらいの身長の女の子が男連れで現れた。
茶髪のその子は真理といい、由衣の短大時代の同級生だという。
由衣が信州に来ることを知っていて、甲府からデートをかねて清里に来ていたらしい。
お互いの彼を紹介しあってはしゃいでいるその姿を見て、聡実は思った。
(こいつらまるでミニモニだ・・・)
真理は明るい子で、すぐに聡実たちとも親しくなり、まるで以前からの知り合いであったかのような存在感を出していた。
真理「(ジャン・フランソワー)ミレーの絵画展やってるよ。」
由衣「え、どこで?」
真理「甲府で。」
由衣「え〜、観たいな!!落ち葉拾いも出てるの?」
真理「落ち葉じゃねぇよ。落ち穂拾い!」
由衣「おちぼって何?」
真理「ああもぅお!」
漫才のような二人の会話を聞きながら、聡実もミレーの絵に興味がわいて、観に行こうと提案すると、甲府まで足を伸ばすのであれば、東京へ帰る5日にしてはという意見が出たが、ロッジの片づけなどを考えると時間的な余裕がなくなると言うことで、明日にしようとまとまった。
(ずいぶん行動範囲が広い旅行になっちゃった・・・)
聡実は自分が提案したことによって、信州〜甲州旅行に発展した事がおもしろかった。
5月4日、あいにくの曇り空の中を、聡実たちは中央道を東に走った。
甲府昭和インターで降りると、昨日の真理が待っていてくれた。
彼女が運転する軽四輪を先導に、芸術の森公園へ向かう聡実たち。
県立美術館はかなりの人でにぎわっていた。
ミレーの絵画展は「種をまく農夫」を中心に、その修復課程も紹介されていて、エックス線像で見ると、下絵がまるで別の物であることまでがわかって、聡実にとって興味深いものであった。
絵画を見終わった聡実たちは、真理の提案で昇仙峡まで足を伸ばすことになった。
しかしそのころから降り出した雨が激しくなり、せっかくの景観を楽しむことが出来なくて、聡実はがっかりした。
そこから中央道の韮崎(にらさき)インターまではすぐであったが、まだ昼食を摂っていなかった聡実たちは、真理のすすめでいったん芸術の森公園まで戻り、そのそばの小作という店に入って「ほうとう」を食べた。
1時間ほどゆっくりした聡実たちは、そこで真理と別れ、雨の中を霧ヶ峰に向かって走り出した。
あちこち走り回った昨日と違い、距離こそあるものの、今日はゆっくりとした時間が過ぎていく。
ミレーの絵画を見たり、ほうとうを食べたりと、わざわざ甲府まで足を伸ばした甲斐があったと聡実は満足していた。
雨はいっこうにやむ気配がなかった。
今夜の食事の用意をしていなかった聡実たちは、ついでだから外で済まそうと言うことになって諏訪市内の居酒屋に入った。
幸い・・と言っては申し訳ないが、メンバーの中で全くお酒が飲めず、しかも運転免許は持っているという都合のいい男女が各1名いた。
営業一課の宮田という男と、経理の順子(よりこ)。
その二人にロッジまでの行程を預けて、聡実たちは最後の夜を盛り上げてかなり飲んで騒いだ。
午後9時過ぎ、小雨になった道をロッジに向かって走り出す。
しかし聡実が乗っている車は、ワゴン車の運転は初めてという順子。
雨と濃霧のせいもあって、かなりノロノロと走っていた。
前を行く由衣たちの車を運転している宮田も道に不慣れで、ビーナスラインに向かう道を間違えたりして、相当時間がかかっていた。
他の者は酔っぱらい、誰ひとりとして適切なアドバイスも出来なくて、運転手同士が携帯電話でやりとりしながらの走行であった。
順子が運転するというので、聡実は助手席に座っていた。
その聡実は、さきほどから尿意を感じ出していた。
居酒屋を出る前にトイレは済ませた。
しかしかなり飲んだビールが作用しているのか、店を出てからまだ30分と経っていないのに、その尿意は急激に膨らんで下腹部がうずき出した。
(やばっ、ビール飲み過ぎたなあ!!)
峠道にさしかかり、あたりは真っ暗で建物など何も見えない。
(あちゃあ・・これは持たないぞぉ・・)
不慣れな運転で速度が遅い。
この調子で走ると、とてもロッジまで我慢できないと聡実は思った。
(困ったなあ・・どうしよう・・?)
後ろを見ると、中央の座席に座っている女性2名も、それなりに尿意を感じている様子で、何となく落ち着いていないように見えた。
何もしゃべらず、しきりに暗い外の景色ばかり見ている。
その後ろの席にいる男二人も同じであろう。
誰ひとり眠るでもなく、そして誰ひとりしゃべるでもない。
(みんな・・おしっこ我慢してるんだろうなあ・・。)
運転している二人を除き、ほかのメンバーはかなり飲んでいた。
それなりに尿意を催していても不思議ではない。
聡実は自分ひとりではないことに安心したが、それでも解決したことにはならない。
(ああ・・やばいなあ・・)
うずいている下腹部は、キリキリと痛みにも似た感覚まで走っている。
(やばいっ、ほんとにやばいっ!)
ジーンズの上からでもわかるほど、聡実のおなかは丸く膨らんでいた。
(どうしよう・・・??)
どうしようもないとわかっていても、聡実は同じ事を繰り返し考えてしまう。
おしっこをしてしまわない限り、この苦痛からは逃れられない。
それがわかっていても(どうしよう・・?)と・・・。
外は雨。
あたりは木々もまばらにしかない高原の道路である。
(隠れるところもないじゃん!!)
いくら暗いと言っても、体を隠しきれない木陰で、ジーンズを降ろしてお尻を出す勇気はない。
事実上「排尿」行為ができない環境である。
しきりにモゾモゾと体を動かす聡実。
しかし運転している順子は必死になって前を見ているために、その様子に気づいていない。
(だめ・・・もう我慢できない・・)
聡実はせっぱ詰まってきた。
痛みを伴った下腹部は、これでもかと言うほど丸くなり、きついジーンズは張り裂けそうになっていた。
(ちょっと・・もう・・)
聡実は少し前屈みになり、Tシャツの裾から手を入れてジーンズのホックをそっとはずし、ファスナーも少しだけ降ろした。
(はぁ・・ちょっと楽になった・・)
きつく押さえられていた下腹部に、わずかな余裕が出来たことで、尿意は一瞬和らいだように思われた。
(これで・・もうすこし我慢できそう・・・)
断崖絶壁の縁から一歩だけ後ずさり出来たような安堵感があった。
諏訪の居酒屋を出てから1時間になろうとしていた。
小雨と濃霧で視界が悪い高原の道を、2台の車はノロノロと走っていた。
行き交う車も滅多になく、後続から迫ってくる車もない。
さきほどジーンズをゆるめたことで、尿意が少し楽になったはずの聡実は、額に脂汗を浮かばせていた。
利尿作用は意地悪で、少し容量に余裕が出来た聡実の膀胱めがけ、まるでダムが放流を始めたかのような勢いで、腎臓から更に大量の尿を送り込んできたのだ。
聡実の安堵感はものの2分でかき消され、前よりも増した膨らみに苦しめられて、ジーンズのファスナーは下まで降ろされていた。
Tシャツで隠す事が出来なければ、とても人前では出来ない恰好であった。
「はあ・・」
つい口から大きなため息が漏れる。
後ろの席に座る女子二人も、先程からゴソゴソと体を動かしている。
聡実ほどではないにしろ、どちらも相当我慢しているのであろう。
その後ろの男たちも含め、誰ひとりとして「トイレ」と言う言葉を口にしない。
聡実が乗る車の中に、おかしな緊張感が漂っていた。
きっとだれかが「トイレ休憩」を訴えるのを待っているのであろう。
(ああ・・これまでで最高の我慢だろうなあ・・・)
何度もおしがま経験がある聡実だが、社会人になったプライドからか、これまでにないほどの強い尿意との戦いを繰り広げていた。
しかしその戦いの旗色は悪く、まもなく「敗北宣言」が出されようとしていた。
(だめっ・・もう・・我慢・・)
両手を足に挟んで、しびれてしまっている女の子を押さえている手までもが震えだした聡実は、もうここで覚悟を決めて車を降りようと思った。
(でも・・)
ガスがかかっているものの、やはり身を隠すほどの大きな木立など見あたらない。
同じ職場の男性が6人もいるのに、どうやって!?
そう思うと、聡実はどうしても車を停めてという言葉が出ない。
いたずらに時間ばかりが過ぎてしまい、何度も何度も尿意の波と戦い続け、もう意識そのものが遠ざかり駆けていた。
(もういいっ!、もう車の陰でやっちゃうっ!)
もう数分・・いや1分もしないうちに、聡実は「おもらし」してしまうかも知れない。
自分でそう悟った時、
「あれ、なんだろう?」
運転している順子が声を出した。
見ると、前の車がウインカーを出して路肩に停車しようとしていた。
窪喜もその後ろに着ける。
前の車から宮田以外の男たち3人が飛び出し、傘も持たずに反対車線の方へ走っていく。
道路よりも一段低いところに側溝でもあったのか、男たちはそこへ飛び降り、
「立ちション」を始めた。
聡実たちの車から見ると、ちょうど腰の高さぐらいから下が隠れるような場所であった。
「おう、俺らも連れション行くかあ!」
「ああ!!」
それを見ていた後部座席の男2人が、待ってましたとばかりに車から降り、先に始めた3人のところへ駆け寄っていった。
「もうお、しようがないなあ!」
お酒を飲んでいない順子の言葉に対し、
「いいなあ男の人は・・」
「ねえっ、私らだって我慢してるのにぃ!」
居酒屋で飲んでいる子たちの言葉はちがう。
音こそ聞こえないが、気持ちよさそうに立ちションしている後ろ姿を見て、聡実の我慢の糸はついに切れてしまった。
「ね、ねえ、私ももう我慢出来ない!」
聡実は叫ぶようにそう言うと、助手席のドアを開けた。
「え、でもねもっちゃん・・どうすんの?」
順子が心配そうに聞いたが、聡実に声は届いていない。
ダッシュボードから懐中電灯を取り出すと、滑り落ちるように車から降りた聡実。
後ろの席にいた女子二人もつられて降りてきた。
霧のような小雨が降るなか、聡実は体を大きく曲げたまま、前に停まっているワゴン車に駆け寄った。
スライドドアが開け放たれたその中に、由衣と朋美がうずくまるようにして座っていた。
その様子からして、この二人もすでに相当我慢していると見てとれる。
車内灯の薄明かりでも、由衣の顔色はかなり悪く見えた。
その奥に座っている朋美の唇は紫色になっているようであった。
「ねえ、私たちもトイレしよっ!」
聡実はそう言って懐中電灯を振り回した。
「ぇ、でもぉ・・」
躊躇している由衣を乗り越えて、朋美が先に降りてきた。
「どこ?、どこで!?」
すでに限界に達しているのか、両手を股間に入れて、屈伸運動のような仕草を繰り返しながら朋美がそう口走る。
「とにかく、行こっ!」
聡実は懐中電灯であたりを照らした。
白樺の木が数本、少し先に立ち並んでいる。
それ以外は膝のあたりまでの雑草群。
聡実たちは一斉にその白樺の木に向かって小走りになった。
遅れた由衣は、
「宮田さん、見たらひどいからね!」
運転席の宮田にそう叫んで聡実たちを追いかけた。
わずか一つの懐中電灯の明かりだけを頼りに、女子5人は走った。
雑草の下はぬかるんでいて足を取られそうになる。
上からは冷たい雨。
それでも聡実は、少しでも車から離れようと走った。
誰もしゃべらない。
ただただ、ひとつの目的に向かって、雑草の中を走った。
一番手前の白樺の木まで来たとき、
「わたし・・もういい!」
朋美がその陰に入って、真っ先にジーンズをおろしにかかった。
直径が15センチほどの細い白樺の木。
スリムな朋美であっても、完全に身を隠す事など出来ない。
それでも朋美は白樺の木を背にしてしゃがみ込んだ。
それが合図であったかのように、皆は2メートルほどずつ離れ、銘々の方向を向いて一斉にジーンズやキュロットをおろしにかかった。
次の瞬間、静かな霧ヶ峰高原に女の子5人の「おしっこ音」が響いた。
かき分けた雑草におしっこが跳ねて、そのしぶきが大腿部を濡らす。
降ろしたお尻に雑草の露が伝う。
足下はぬかるんで、下げたジーンズの裾を濡らす。
霧雨が頭や背中を濡らす。
そんな中で、聡実たち5人はおしっこを続けた。
小柄な由衣は、しゃがむと雑草の中に埋まってしまっていた。
懐中電灯は聡実の手から離れ、雑草の下に潜り込んだ為に、車のヘッドライトの間接的な光だけで、かろうじて手元が確認できる程度の明るさしかなかった。
そんな暗闇の中で、5人のおしっこは長く続いた。
一番はじめにしゃがんだ朋美は、他の4人が終わってもまだ続いていた。
「やぁん、いっぱい出るぅ!」
照れた朋美が甘えた声を出す。
先程は震えていた声も、今は元気な声に戻っている。
「ともちゃんすご〜い!!」
由衣の声にも張りが戻って、朋美のおしっこをからかいだした。
聡実はティッシュを取り出して後始末をしようとしたが、その手が濡れていることと、お尻の周りが雑草の露で濡れていることで、どこまでがおしっこなのか露なのかよくわからない。
とりあえず、ありったけのティシュを使って後始末をした。
雑草の下から懐中電灯を取り出し、みなの身支度が調っていることを確認して、聡実たちは車へと戻っていった。
楽しかった信州旅行の中でも、印象深く残った野ションの思い出。
限界を超える我慢をしていた聡実であったが、結果的には木下朋美の方が、聡実よりも超えた我慢をしていたことがわかった。
「あの時さ、もし私が声をかけなかったら・・朋美はどうなってた?」
「わ〜い、ねもっちゃんったらいじわるだ〜!」
聡実と由衣は、また声を潜めて笑っていた。
ねもっちゃんシリーズ、おわり