ねもっちゃん 3,(野ション1)




 日野市内の都立高校に進学した聡実は、特にクラブ活動に力を入れることもなく、ごくごく平凡な毎日を送っていた。
 友だちの影響を受け、スカートはウエストで折り曲げてかなり短くしていたが、家に帰るときは元の長さに戻して親の目をごまかしていた。
はじめの頃は恥ずかしくて、中学で使っていたブルマーを重ね履きしていたが、周りからやぼったいと言われて履くのをやめていた。
身長が165センチまで伸びた聡実がスカートを短くすると、かなりきわどくなってしまい、階段の上り下りの時など、よく男子からパンチラを狙われていたようであった。
 つきあっていた八田とは、エッチを拒み続けた事で溝が出来てしまい、中学卒業と同時に別れていた。
その八田は私立高校に進学したために、顔を合わせることが無くなったことで、聡実は気が楽であった。

 2学期の中間試験が終わったある日曜日、図書委員をしていた聡実は学校の図書館に用事を思い出し、午後4時過ぎに家を出た。
翌日が振り替え休日であったため、この日の内に用を済ませておきたかった。
制服を着て。通学用のリュックを背負って出かけた聡実。
 1時間ほどで用事が終わり、肌寒くなった風の中を歩き出すと、校門を出たところで聡実の横にワゴン車が停まり、
「ねもっちゃん!」
クラスメイトの咲子が助手席のウインドウから顔を出した。
知らない男の人と一緒の車にいる咲子。
「あれぁ咲ちゃん。どうしたの?」
聡実が聞くと、
「彼氏とドライブの帰りなんだ!」
咲子は得意げにそう言った。
「わ、いいな!!」
「ねもっちゃん学校に用事だったの?」
「うん、ちょっと忘れ物があってね。」
「そうなんだ。ね、送っていこうか?」
「え、いいの?」
聡実は正直ありがたかった。
 いつも通学は自転車を使っていたが、この日は弟が乗っていたので仕方なく歩いて学校に来ていた。
歩くとおよそ20分ほどかかる。
聡実は「すみません」と彼氏にお礼を言いながら後ろのシートに乗り込んだ。
 聞くと咲子の彼は大学生だとわかった。
夏休みの頃から交際しているという。
聡実が後ろに乗っている事などお構いなしに、二人はベタベタしていた。

「ねもっちゃん、ちょっと寄り道するけどいいよね!」
咲子が言った。
乗せてもらっているので断ることも出来ず、聡実は気軽に「いいよ」と答えていた。
 しばらく走った先の小さなマンションの駐車場に入ると、
「彼氏のうちなんだ。ねもっちゃんもおいでよ!」
咲子が言った。
「え、いいよぉ私は・・・」
人の彼氏のうちなどに行きたくもない。
「じゃあすぐ戻るから待っていてね!」
咲子はそう言って彼氏と車を降り、なにやら荷物を取り出して、手をつないで建物の中に消えていった。
(いいなあ・・)
後ろ姿を見送りながら、聡実はうらやましく思っていた。
 エンジンを切ったワゴン車の中で、ひとりポツネンと待っている聡実。
秋のつるべ落としとはよく言ったもので、二人が姿を消して数分もすると、あたりはすっかり暗くなってきた。
しかし10分が過ぎても咲子と彼は戻ってこない。
(もぅお、なにやってんのよぉ!)
これなら歩いて帰った方が早かった。
(もぅおぉ!!)
エンジンを切った車内は寒くなり、じっと座っている聡実の脚を冷やしてしまう。
実は学校を出るとき、少し尿意を感じていた聡実であった。
家まで歩いて20分だし、わざわざトイレに寄ってから帰るのも面倒だと思い、聡実はそのまま学校を出た。
そこへ咲子たちの車が来て、送ると言われたことで安心していたのだが、こうして冷えてきた車内で待っていることで、聡実の尿意は急速に高まってきていた。
(どうしよう・・トイレ行きたいなぁ・・)
暗くなってきたことで不安も募り、尿意に拍車をかけている。
このまま黙って降りてしまおうかとも考えたが、せっかく声をかけてくれた咲子に悪い気もする。
(ここからなら・・家まで走ったら10分ぐらいかなあ・・?)
そこがどのあたりであるのか、おおよその見当はついていた。
(あと1分待って来なかったら、書き置きを残して・・走って帰ろう!)
聡実がそう決心して、リュックからメモ帳を取り出そうとした時、遠くから聡実を呼ぶ声が聞こえた。
咲子が彼氏と、もうひとり知らない男を引き連れてこちらに向かっている。
(え?)
誰だろうと思っているうちに、彼は運転席、咲子は助手席、そしてその男は聡実の横に乗り込んできた。
「ごめんねえ、遅くなっちゃったね。」
悪びれる様子もない咲子。
「あ、うん・・」
聡実はなんと言っていいのかわからない。
「俺さ、慎司っていうんだ。よろしく!」
聡実の横に座った男は、軽いノリで声をかけてきた。
咲子の彼と同じ大学で同じマンションに住んでいて、聡実に紹介したいから連れてきたという。
(もぉ、よけいなことぉ!)
そう思いながらも、聡実は笑顔を返していた。
「じゃあさ、ちょっとドライブでもしようよ。」
咲子が言った。
「え、だめだよ。すぐに帰るって言ってあるから・・」
聡実はあわてた。
「いいじゃん。ちょっと友達と会うって電話しなよ。」
咲子はそう言いながら、彼氏の携帯電話を取り出して聡実に手渡した。
「でもぉ・・」
聡実は困った。
尿意のこともあって早く帰りたい。
しかしどういって断ったらいいのか迷っていた。
「私・・使い方わからないよ・・」
携帯電話を触った事がない聡実は、それを理由にしようとしたが。
「じゃあ私がかけてあげるよ。何番だっけ?」
咲子が電話を取り上げて言う。
「でもぉ・・」
躊躇している聡実。
「いいじゃん。せっかくだから慎司くんもいるんだしさ!!」
咲子に「せっかく」と言われてしまうと、確かに断りづらい。
「うん・・少しだけなら・・」
雰囲気に押されて、聡実は家の番号を伝えた。
すぐに聡実の母親が出たようで、咲子が先に事情を説明し、平山城跡公園で夜景を見てから送り届けると伝えている。
(平山城跡公園!?)
そこは小高い丘の城跡公園で、夜景がきれいなスポットで有名だ。
聡実の家からは確かに近い。
電話を代わった聡実は、咲子が言った言葉を繰り返して、夕食までには戻ると伝えた。
(平山城跡公園なら・・まあいいか!)
聡実は割り切ってそう思っていた。

 鈴かな住宅街の一角の空き地に車を停めた。
そこには数台の車が止まっていて、やはり夜景を楽しむ人であろうか、そばの階段を昇っていくカップルの姿も見えた。
 車外に出ると肌寒さを通りこえ、もう冬の到来を思わせるような冷たい風に見舞われた。
咲子はジーンズ姿であるが、スカートの聡実には堪える寒さだ。
その風にさらされ、聡実の尿意は一気に高まった。
(上にトイレってあったっけ・・?)
子供の頃、何度もここには遊びに来ていた。
家から近かったので、おしっこがしたくなると家に帰っていたために、上にトイレがあったのかどうかを思い出せない。
(やっぱりここで帰ろうかなあ・・)
聡実はそう思ったが
「早く行こうよ!」
咲子に腕を捕まれ、引きずられるように階段を昇っていった。
背負っているリュックのおかげで、背中だけは少し暖かい。
あたりはすっかり暗くなり、住宅から漏れてくる明かりだけが頼りであった。
「ねえ、慎司君のこと、どう思う?」
男二人の後を追うように階段を昇りながら、明子が小さな声で話しかけて来た。
「どう思うって・・・」
会ったばかりで、まだ自己紹介ぐらいしかしていない。
息を弾ませながら聡実が返事に困っていると、
「いい男だよ。つきあってみたら?」
「え、そんな急に言われても・・」
「けっこうイケメンでしょ。エッチも上手だってさ!」
「咲ちゃん!!」
「あれぇ、ねもっちゃんてば・・まだだったっけ?」
「知らないよそんなこと!」
「だったらいい機会だよ。ねもっちゃんも大人になったら!」
「もぅお、いいよそんなの!」
慎司と会わせたのはこういう魂胆があったのかと、聡実は気が重くなった。
同時に、尿意もかなりきつくなってきて、聡実はますます気が乗らなくなる。
かといって、今更引き返すことも出来ず、聡実は重い足取りで階段を昇っていった。

 そこから見る夜景はかなりのもので、北は八王子方面、東は立川東京方面。
空気が澄んでいる時などは、東京タワーまで見えるときがある。
おしっこはしたいが、それでもしばらく夜景に見とれていた聡実であった。
しかし時々強い風が吹き付けて。短いスカートの裾を持ち上げてしまう。
それは素足の聡実の体を冷やし、尿意を加速することになる。
(やばっ、もうトイレに行かないと・・)
そう思って振り返ると、たった今までそばにいたはずの咲子の姿がなく、代わりに慎司が立っていた。
「え・・」
見ると、ずっと向こうの暗がりの中に咲子と彼らしい姿がある。
(あちゃー、やられちゃったあ!)
咲子は気を利かせたつもりなのであろうが、膀胱に爆弾を抱えている聡実にとって、この状況は厳しい。
「ねもっちゃんてさ、名前の方はなんて言うの?」
慎司がすぐ横で話しかけてきた。
「あ・・さとみです(トイレ行きたい)」
「さとみちゃんか。いい名前だ。」
「・・・(トイレ行きたい)」
「制服姿もかわいいね。」
「あ・・ありがとうございます・・(トイレ行きたい)」
「そんなに堅苦しくならなくていいよ。」
「あ・・はい・・(トイレ行きたい)」
「はは・・まじめなんだね。」
「あ・・いえ・・(おしっこしたい!)」
「よかったらさ、これを機会にさ・・」
「・・(おしっこ・・)」
「俺たちつきあってみない?」
「は・・ぁ・・(あぁ行きたい・・)」
来るべき言葉がやはり来た。
聡実は何も答えられずにいる。
モジモジと体を動かし、足をすりあわせていた。
「はは・・けっこう純情なんだね。」
聡実が恥ずかしがっているとでも思ったのか、慎司は見当違いのことを言っている。
「どう?」
その慎司が聡実の手を握った。
(!!)
おしっこがしたくてたまらなくなってきた聡実は、この状況をどの様に脱出すればいいのかわからない。
「あ・・あの・・」
うつむいてモジモジするばかりであった。
咲子に助けを求めたいが、その姿は暗闇の中に消えてしまっている。
「あ、あの・・」
言いかけて口ごもる聡実。
また吹き付ける風にスカートが翻った。
「・・すぐに返事しろって言うんじゃないからさ。」
慎司はそう言いながら、握っていた手をいったん離し、聡実の肩をそっと抱き寄せるようにした。
(ひっ!)
驚いた聡実。
激しくなってきた尿意と緊張で、体が小刻みに震え出す。
それが慎司にも伝わったのであろう、彼はニコっとしながら、
「ふるえてるね。緊張してる?」
と聞いてきた。
「あ・・いえ、寒いんです・・」
風で舞い上がるスカートを押さえながら、聡実はそう言って答えた。
「はは・・寒いからか。じゃあちょっと歩こう。」
慎司は言いながら、聡実の肩を押すようにして歩き出した。
たしかにじっと立っているよりも、歩いている方が尿意は紛れる。
それでもおしっこがしたくてたまらないことに代わりはない。
 所々にカップルが寄り添っている。
そのすぐそばを通り、聡実は慎司に肩を抱かれて歩いていた。
(トイレ行きたいよぉ!)
聡実は後悔しはじめていた。
あのとき、咲子には悪いけどやっぱりすぐに帰ると言うべきだったと。
慎司の事がイヤではないが、今の自分の状況ではまともに話しをするすことも出来ない。
かといって、初めて会った男の人に向かって「トイレに行きたい」などと言えるはずもない。
言ったところでトイレの場所もわからない。
この暗い空間を、ひとりでトイレを探して歩く勇気もなく、かといってついてきてもらうほど恥ずかしいものはない。
(でも・・もう・・)
 聡実は午後の2時過ぎにトイレに行った。
それから4時間になる。
尿意を感じ始めてから1時間以上過ぎている。
おまけにこの寒さ。
聡実の体は冷えてしまい、体中の水分が膀胱に集まってきていた。
(だめだ、もう帰らないと!!)
聡実はその時、すっかり忘れていた八田との初デートの事を思い出していた。
我慢を重ねて、とうとう家の玄関で漏らしてしまい、両親や弟に見られてしまった醜態。
あんな恥ずかしかった事は二度としたくない。
(今ならまだ間に合う!)
急いで帰ったら、ここからなら10分もあれば家に着く。
(もう今しかない。帰るって言おう!)
聡実はそう決心した。

「・・という事なんだよ。」
慎司がなにか話していた。
全く聞いていなかった聡実。
「え・・?」
「あれえ、聞いてなかった?」
慎司は聡実の顔をのぞき込むようにして言った。
「あ・・あの・・」
たった今決心した言葉を出せずにうろたえる聡実。
「そんなに俺のこと警戒してる?」
慎司が聡実の顔をのぞき込む。
「あ・・いえその・・」
「はは・・大丈夫だよ。そんなにワルじゃないからさ!」
「あ・・違うんです・・」
「ん?」
「あ・・もう帰らないと・・」
「えー、まだいいじゃない。もう少し話そうよ。」
「え、でも・・」
「せっかく知り合えたんだしさ。」
「・・・」
咲子から「エッチも上手」と聞かされていて、確かに聡実は少し警戒していた。
「もう少し君のこと知りたいよ。」
優しそうに言うその言葉に、聡実は申し訳なく思った。
しかしいったん帰ることを決心したために、聡実の膀胱は収縮する準備段階に入ってしまっている。
立ち止まった事も加わって、背筋がゾクっとするような尿意の波が襲ってきた。
(!!)
あわてて前屈みになり、きつく足をとじ合わせる聡実。
「寒い?」
慎司がまた優しい声で聞いてくる。
「・・はぃ。」
声にならない聡実。
「そうだね、その格好じゃあ寒いな・・。降りようか?」
「はい・・」
降りるのはいいが、一緒に降りていったのでは、またトイレに行く時間が先送りになってしまう。
「ちょっとあいつらを探そう。」
慎司はそう言いながら、咲子たちの姿を求めて暗闇の中を見渡した。
「あ・・の・・やっぱり帰ります。」
すぐ先に昇ってきた階段を確認した聡実は言った。
「え、ちょっと待ちなよ、あいつらを・・」
「ごめんなさい、もう・・」
「ん?」
「あ・・父が帰ってくるから・・」
「お父さん?」
「今なら間に合う・・」
聡実は漏れだしそうなおしっこの事を、自分の父親に置き換えて言った。
「そうか。じゃあ早くあいつらを・・」
慎司がそう言って歩き出した時、
「ごめんなさい。また今度・・」
聡実はそう言って暗い階段へ走り寄った。
「ねもっちゃん・・さとみ!」
うしろで慎司の驚いたような声がする。
「ひとりじゃ危ないよ!」
そう言いながら追いかけてこようとする。
「大丈夫です。もう来ないで!!」
思わず叫ぶような声を出してしまい、聡実は少し恥ずかしくなった。
慎司は慎司でその言葉に驚き、階段の上で止まってしまった。
「ごめんなさい・・また・・」
振り返り、取り繕うように言い直し、聡実は階段を降りていく。
月明かりと、遠くからの薄明かりでしか見えていない足下。
その階段を降りるという動作は、パンパンに膨らみきった膀胱を、これでもかと言うほど強く刺激する。
(ああ・・ああ・・)
聡実は左手を股間に入れ、右手でバランスを取りながら、必死で階段を降りた。
もしつまづいたり転んだりしたら、もう一気に漏れてしまう。
自分でそれがわかっているだけに、暗い足下に気を配り、できるだけ衝撃を加えないようにそっとそっと、焦る気持ちを抑えながら降りていった。
(はあ・・もう漏れる・・漏れる!!)
しかし衝撃は想像以上に強く、一段ごとに膀胱を思い切り揺すられるような感覚になり、聡実の股間に少しずつ熱いものがにじみ出てくる。
(いや、いやぁ!)
こんなところでお漏らしなんか出来ない。
目に涙をにじませながら、聡実は渾身の力を込めて、暗い階段を降りていった。

 乗ってきたワゴン車が目に入った。
他にも数台の車が止まったままの空き地。
ようやくそこまで降りてきた聡実だが、
「あ・・だめだぁ!」
思わず声が出てしまった。
膨らみきった膀胱は、頭の中では「我慢!」と指令を出していても、階段を降りきった安堵感が後押しして、排尿スタンバイの体勢に入ってしまった。
走れば2〜3分で家に着くであろう。
だがすでに押さえている手にまであふれ出してきているおしっこは、もう堰を切ってしまいそうで、とても堪えられない。
(あっぁ・・どうしよう・・)
前屈みになり、両手を股間に入れ、足踏みするように両足をバタつかせて、その場でうろたえる聡実。
静かな住宅地の、さほど大きくない空き地。
周囲を歩く人の姿はない。
(いいよね、もういいよね!?)
だれに問いかけるでもなく、聡実は意を決した。
(仕方ないよね!!)
あふれ出したおしっこの量が増し、太ももを伝ってルーズソックスにまでしみこんでいる。
 乗ってきたワゴン車以外の車はみなセダンであった。
聡実はその後ろに回り込んだ。
住宅のブロック塀との間に50センチほどの隙間がある。
そこへ入り込むと、もう一度振り返ってあたりを確認し、一気に下着を降ろし、スカートをお尻の上までたくし上げてしゃがんだ。
シュワゥィーという複雑な音を立て、聡実が精一杯堪えていたおしっこが勢いよく飛び出し、ジョロロロと、アスファルトの地面にたたきつけだした。
静かな住宅地に、聡実のおしっこの音が響く。
(あ・・あぁ・・)
背中にゾクゾクするような感覚が走り、聡実は思わず声を出す。
「えっ!!」
車が近づいてくる音が路地に聞こえて来た。
(え、いやんっ!)
どうしよう!見られてしまう!と、聡実に恐怖が走った。
その瞬間、あれほど勢いよく出ていたおしっこがピタっと止まる。
「くん・・」
気持ちの悪い違和感をおなかに感じ、それでもその姿勢のまま固まっている聡実。
(お願い、来ないでぇ!!)
徐行しているのか、ゆっくりと近づいてくるエンジン音。
そのヘッドライトの光がブロック塀に反射し、しゃがんでいる聡実の周辺が一瞬明るくなった。
(いやあ!!)
しゃがんだままの姿勢で、聡実は頭を抱え込んで目をつぶった。
平山城跡公園に行こうとしている人の車なのか、それは聡実が隠れているワゴン車の向こうで停まった。
(やだっ、こないでぇ!!)
ガタガタと震え出す聡実。
が、その車はすぐに走り出し、また聡実の周辺は暗くなった。
ホっとした聡実。
その瞬間、止まっていたおしっこがまた勢いよくあふれ出してきた。
自分の意志に関係なく、それは後から後からあふれ続け、暗いブロック塀との隙間に、大きな水たまりを作り出し、塀に向かって川のように流れて出していった。
「ふぅ・・」
ようやく勢いが弱まり、聡実はため息をつく。
しかしゆっくりしているわけにはいかない。
こんな所を誰かに見られたら・・・。
そう思い、聡実は制服のポケットに手を入れた。
(あ、しまったっ!)
ちょっとした用事で出かけただけの聡実は、ポケットにティッシュを用意していなかった。
背中のリュックに入っていることはわかっている。
(もぅお!)
しゃがんだままの姿勢で、聡実はリュックを降ろそうとした。
(!)
そのとき降りてきた階段の方から人の話し声が聞こえてきた。
(誰か降りてきた!)
こんな姿を見られては!と、焦る聡実。
声の主はどうやら咲子たちのようだ。
(たいへん!)
聡実は一刻の猶予もない。
後始末することをあきらめ、そっと立ち上がってスカートを直し、階段とは反対側の隙間を抜けて、いったん立ち止まった。
おしっこのしずくが足に伝ってきた。
しかしそんなことを気にしている余裕がない聡実は、周辺の様子をうかがい、まだ誰の姿も視界にないことを確認して、階段を背にして通りへと走り出した。
聡実の家は階段の向こう側であった。
しかし階段を横切ると咲子たちと顔を合わせてしまうかも知れない。
聡実はそう思い、反対側下と走り出していた。
(はあ・・とんだ遠回りだよ・・)
後始末できなかった為に下着が濡れて、肌に張り付いて気持ちが悪い。
しかし今の聡実は、それをどうすることもで出来ずに走るだけであった。
(あ〜。もう最悪〜〜!)
聡実はひとりつぶやきながら家に急ぎ、家族の誰とも顔を合わせることなく自分の部屋に飛び込んだ。
大急ぎでルーズソックスと下着を脱ぎ、タオルで体をきれいにして着替え、ベッドに勢いよく寝っ転がった聡実は、
「はあ・・野ションしちゃったよぉ!!」
天井を見つめながらつぶやいていた。

 あのあと咲子たちに、おしっこの痕跡を見つけられずに済んだであろうか、慎司は私のことをどう思ったであろうか。
あさって、学校で咲子になんて言おうか・・・
あれこれ考えて、なかなか寝付かれない聡実であったが、その結果は、取り立てて言うこともなく、咲子は「縁がなかったんだね!」と、慎司とのこともそれっきり口にしなかった。
(はあ・・おしっこで恋まで流れちゃったあ・・・)


つづく
 

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