ねもっちゃん 2,(我慢)




 生徒会の書記に選ばれたことで行動範囲が広がった聡実は、自分にも自信を持つようになり、バレンタインデーには初めて本命チョコを手作りし、それを手渡すことが出来た。
 その本命から、ホワイトデーを待たずにお返しがあり、有頂天になっていた聡実は、誘われるままにこの日、親には女友達と出かけると告げて2人だけで東京に遊びに出ていた。
 その本命とは、生徒会副会長の八田であった。
クラスは違ったが、生徒会の仕事で毎日顔を合わせているうちに、聡実の小さな胸の中に、八田の存在が大きく幅を利かせるようになっていた。
 かわいく見せようとおしゃれをし、八田は京王線で、聡実はJR線で新宿まで行き、そこで待ち合わせをしたふたり。 まだみんなに知られることが恥ずかしいからと別々の電車で出かける、そんな時期であった。
そんな時期だから、聡実はふたりでいる間、恥ずかしさとうれしさが交差して、時には息苦しさを感じたりもしていた。
八田の肘が胸に当たり、ジーンとするような痛みを感じた時など、思わず叫びそうになって真っ赤になっていた。
 初めて手をつないだとき、言いようのない感覚に包まれて、心臓がドキドキしていた。
 そんな聡実がなにより困った事、それはトイレであった。
風が強くて寒い日であった。
ダッフルコートを着ていても、下半身から冷えてくる。
おしゃれして、かなりのミニスカートを履いていた聡実の体は冷えしまい、待ち合わせの新宿に着いた時には、すでに尿意に悩まされていて、トイレの場所を探し回り、遅れてごめんと、今着いたばかりのようなことを言いながら、待っている八田のところへ駆け寄っていた。
 だが、すぐにまた尿意を感じだした聡実。
お昼にしようと入ったマックまでの約1時間半、聡実は必死で我慢していた。
 デートというものが初めてだった聡実は、大好きになった八田に向かって
「トイレに行きたい!」という言葉を出せないでいた。
どうしよう・・どうしようと思いあぐねて、それでも言えなくて、やがて歩くことも辛く感じるほどパンパンにおなかが膨らんでしまい、それでも必死で堪え、我慢していることを八田に気づかれないように、あえて明るく振る舞ったりしていた聡実。
 ふたりだけで出かけるという秘密の行動がうれしくて、前の夜は寝付かれないほどに胸が高鳴っていた聡実。
朝食もノドを通らず、コーヒーだけを飲んでいた聡実。
トイレのことなど気にもしていなかった聡実。
だが2人きりになると意識してしまい、トイレに行くと言うことがとても恥ずかしく思えて、さらに我慢をしてしまっていた。
 マックに入り、チーズバーガーをほおばる聡実の手は震えていた。
やがて八田がトイレに立ち、戻ってくるのを必死で待って、
「私も・・行こうかなあ・・」
などと平静を装って、八田の視界から消えた途端に走り出していた。

 二人の乗った電車が秋葉原駅に着く頃、聡実はふたたび尿意を感じた。
(あーん、またトイレ行きたくなってきたっ)
つないでいる手に、力が入ってしまう聡実。
(コーラなんか飲むんじゃなかったなあ・・)
八田につられて、マックで飲んだコーラが効いてきたようだ。
 電気街口の改札横にトイレがあるのが目に入った。
(あっトイレがある。行こうかなあ・・)
聡実はそう思ったが、つい1時間ほど前にマックで行ったばかりなのに、また行くのかと思われることが恥ずかしくて、素通りしてしまった。
(もう少し我慢して・・どこかで行こう!)
まだせっぱ詰まった状態ではないので、聡実は自分に言い聞かせるようにして、八田の手を握り直して歩いていった。
 多少コスプレに興味がある聡実は、アニメおたくの八田とは意見が合い、いくつかの関連ショップを見て回った。
セル画やフィギアを見たり手に取ったりして、そのことに話がはずんでいるときは、不思議と尿意のことを忘れてしまっていた聡実。
しかし次のゲームショップに向かう途中に、表通りの冷たい風がスカートに入り込み、突然大きな尿意の波が襲ってきた。
(あっ、やばっ!)
忘れていた、いや、忘れようとしていた尿意が一気に襲いかかってきて、聡実は一瞬立ち止まってしまった。
「どうした?」
突然立ち止まった聡実に驚いて、八田がのぞき込む。
「あ、ううん、なんでもない!」
必死で平静を装う聡実。
だが、体はくの字に曲げていた。
 秋葉原に着いてから、まだ1時間も経っていない。
なのに尿意は急速に高まってきている。
(どうしよう・・トイレって言おうかなあ・・)
とはいっても、このあたりにトイレがあるのかどうかわからない。
次のショップで借りるのも恥ずかしいし、それにトイレを借りることが出来るのかどうかさえわかっていない。
(どうしよう・・どうしよう・・)
再び聡実の迷いが始まった。
だんだん落ち着かなくなり、キョロキョロと周囲ばかり気にしてしまう。
歩いていても、どうしてもすり足になってしまい、八田との歩調が合わない。
八田の問いかけにも、うわの空の返事をするようになってしまった。
(だめだぁ、おしっこ我慢できないよぉ!)
今日に限って、尿意はあっという間に大きくなる。
そんなに水分を取った訳でもないのに、みるみる膨らんでいく膀胱。
(もうだめだよぉ、トイレに行きたいよぉ!)
歩行者天国になっている中央通りの真ん中で、聡実はブルブルとふるえていた。
「寒いのか?」
八田が優しく声をかける。
「うん・・」
寒いのも事実だ。
聡実はそう答えて八田の手を握りなおした。
何かにすがりたい・・・。
「じゃあ・・もう戻ろうか?」
「・・うん」
ここに立っていても仕方がない。
聡実は八田に促されるままに歩き出した。
(つぅ・・おしっこ漏れそう・・)
冷たい風がスカートに入り込み、聡実の尿意も極限状態になっていた。
一歩一歩の歩みですら大きな衝撃になってきて、自然と聡実の歩調はまた遅くなり、八田が心配そうに振り返る。
「どうしたの?」
遅れ気味に歩く聡実を気遣って、八田が立ち止まった。
「あ・・ううん・・」
聡実は本当のことを言い出せず、何でもないよというそぶりをした。
しかしとても辛い。
許されることならスカートの前を押さえたい。
そんな衝動に駆られていた聡実は、支えになるものがほしくて、八田の左腕にしがみついた。
聡実の、さほど大きくない胸に八田の腕が密着する。
「!!」
八田は聡実の大胆な行動に、かなり驚いたような顔をしていたが、うつむいている聡実が、実は恥ずかしがっているのだと決め込んだようで、やがてゆっくりと歩き出した。
その八田が少し前屈みになり、カタログなどを入れた紙バッグを体の前に垂らして歩いていた訳など、そのときの聡実は全く気づかずにいた。
(早くぅ、トイレトイレッ!!)

 生徒会役員である聡実は、役員会や打ち合わせの仕事が多く、暖房が入っていない生徒会室に長時間いたり、隣の中学校に出かけていったりと、常に八田や会長の森島たちと行動を共にしていた。
 聡実は、昨年の生徒会連絡会議の帰りに、死にそうなほど尿意を堪えていた事がトラウマになっていて、あれ以来いつも早め早めにトイレに行くように心がけていて、八田や森島の前でも平気で席を立っていた。
それだけに、初めて二人きりになったということだけで、トイレに行く事への抵抗感が、まさかこれほど大きいとは思ってもいなかった。
(なんでこんなに恥ずかしいんだろう・・?)

 やがて二人は秋葉原駅まで戻ってきた。
アキハバラデパートの入り口前では、聞き覚えのある声の実演販売が行われていて、かなりの人だかりが出来ていた。
(はあ・・おしっこできるぅ!)
そう思って安心した聡実に、
「そこの喫茶店で暖かいものでも飲もうか!」
八田が予期しないことを言って、突き当たり右の方を指さした。
「え、でもぉ・・」
あわてる聡実。
今すぐにトイレに駆け込みたいのにと、思わず口に出しそうになる。
「寒いだろ?」
「うん・・でもぉ・・」
組んでいた腕を放したことで、支えが無くなった聡実は落ち着かず、クネクネと体を揺すっていた。
「あのね・・」
また限界を超えかかっている尿意に、聡実はもう耐えきれない。
恥ずかしいからと耐えてきたが、これ以上の我慢はもっと恥ずかしい事を引き起こしてしまう。
聡実はそう覚悟を決め。
「あのね・・トイレ・・」
「え?」
実演販売の声や周りの騒音で、聡実の小さな声が八田に届かない。
ややかがむようにして聞き直してきた八田に、
「ごめん、ちょっとトイレ・・」
聡実はやっとこれだけ言えた。
「ああ、中にもトイレあるよきっと。」
八田にそう言われ、聡実は真っ赤になりながら、うん・・とだけつぶやくように言って、八田の腕をつかんだ。
 しかしその喫茶店は混んでいて、二人が座る席がなかった。
「どうする。少し待つ?」
八田がそう言うと同時に、
「いやっ、もうトイレ行きたい!」
聡実は吐き捨てるように言った。
「うん、じゃあ・・」
八田は聡実の状況を理解してくれたようで、あたりの様子をうかがっている。
きっと駅のトイレを探そうとしているのだ。
「改札入ったところ・・」
「え?」
「改札の中にあるの・・」
「あ、そうか。じゃあ切符おれが買ってくるよ!」
そう言って券売機に走っていく八田。
待っている聡実は、人目を気にする余裕もなく、柱によりかかりながら脚をすりあわせ、ソワソワと体を揺らしていた。
 電車を降りたときに見ていた改札横のトイレ。
2時間も経たずに、聡実はそこに入る事が出来た。
が、午後になって人が増えてきたことと、一向に気温が上がらない影響か、女子トイレは混んでいて、聡実は泣きそうな顔で列に並ぶしかなかった。
わずか2人の待ち時間が、聡実にとっては地獄の待ち時間であり、永久におしっこが出来ないのではと思えるほど長く感じられ、コートの上から前を押さえ、小刻みに脚をすりあわせ、腰をクネクネとさせて耐えていた。
(おねがいっ、早くしてーっ!)
何度も何度も、その言葉を口に出しそうになり、必死で飲み込む。
 やっと順番が回ってきた聡実は、ドアを閉めると同時に下着を降ろしながらしゃがみこんだ。
スカートがミニであったため、コートと一緒にめくリあげることができ、下着を降ろすまでの時間が短くてすんだ聡実。
すぐに勢いよくおしっこが飛び出し、大きな音を立てて便器に跳ねる。
あまりの勢いに、そのしぶきがクツやソックスにまで跳ねていた。
「あ・・ふぅ・・」
我慢に我慢を重ねて、やっと解放することが出来た快感に、聡実はそこが公共のトイレであることも忘れて、大きなため息をついてしまっていた。
午後2時半を少し過ぎた頃であった。

 山手線に乗って渋谷に着いた二人。
東京都の住人であっても、聡実が渋谷に来たのは初めてであった。
1時間ほど歩き回っているうちに、あまりの人の多さとにぎやかさに驚き、聡実は少し疲れを感じて、どこかで休みたいと言い、ちょうど目の前にあった公園通りのミスタードーナツに入った。
 温かいコーヒーが冷え切った体を温めてくれて、聡実は一息入れていた。
そのコーヒーを飲み終わった頃、
「トイレ行ってくる。」
八田が席を立った。
聡実は内心ホっとしていた。
実は先ほどからまた尿意を感じていたからだ。
それほど強い尿意ではなかったが、これから先のことを考えると、今のうちにトイレに行っておきたかった。
「私も行ってくるね。」
八田が戻ってきたと同時に、はにかみながらそう言って、聡実は席を立った。
見送る八田の顔が「え、また行くの?」と言っているように思えて、聡実は恥ずかしくてたまらない。
トイレが近い子だと思われてしまったかもしれない。
そのことが気になってならなかった。
いつもはそんなことないんだと釈明したいが、それが出来るなら苦労はしていない。
(もう最悪ぅ。これっきり絶対トイレ行かない!!)
意地になって、聡実はおかしな誓いを立てていた。

 午後5時すぎ。
夕食までには帰ると約束していたので、そろそろいい時間になっていた。
聡実と八田はミスタードーナツを後にして渋谷駅に向かい、山手線に乗った。
 新宿から日野までJR中央線快速で約50分弱。
実際に降りるのは日野の次の豊田駅である。
朝は別々の路線で来たが、今はまだ一緒にいたい気持ちが強くて、どちらが言うでもなく、ふたりはJR線に乗った。
日曜日の夕方であるために、ホームは人であふれかえり、入ってきた快速もすし詰め状態で、聡実はつり革を持つことが出来なくて、八田の胸にしがみつくような格好になった。
発車まぎわ、さらに乗り込んできた人たちに押され、聡実の体は八田と真正面から密着してしまった。
胸が押さえつけられて少し息苦しくなり、そして八田にその存在が伝わっていることが恥ずかしい。
八田も、何度も体を動かして空間を作ろうとしてくれていた。
(!)
そんなとき、聡実はあることに気がついた。
(やだ、八田君・・立ってる!?)
中学2年生の聡実である。ある程度の性知識は持っていた。
先ほどから聡実のおへそのあたりに感じていた異物感が、実は元気になっている八田のモノであることがわかって聡実は困惑した。
(ああ・・だからずっと体を動かしていたんだ!)
おそらく固くなった自分のものを、聡実に気づかれないように体から離そうとしていたのであろう。
(私の胸が当たったから感じてるのかなあ?)
それなりに興味がある聡実。
電車の揺れに併せて、聡実はわざと強く体を密着させたりし、八田の反応を見ていた。
八田はごく普通の顔で「混んでるなあ!」などと言っていたが、少しバツが悪そうにしているのを見逃さなかった。
お互いにコートを着ている。
その上からでも八田の固くなったモノが感じられる事に、聡実は驚いていた。
(どんなになってるんだろ・・?)
興味がわいてくると同時に、聡実は女の子として、とても恥ずかしいことを感じているのではと言う、羞恥心にも似た感情も沸いてきていた。
(やだぁ、私ってけっこうエッチになってるよぉ)

 吉祥寺を過ぎたあたりで電車が止まった。
アナウンスによると、三鷹駅でホームに人が転落したためという。
(あちゃ〜、遅くなっちゃうのかなあ?)
門限を決められているわけではないが、初めて男の子とふたりだけで、それもナイショで出かけていることへの後ろめたさがあって、聡実は少し落ち着かなかった。
そして同時に、
(あれ・・またおしっこしたいような・・・?)
まだはっきりとした尿意ではないが、女の子の部分がムズムズするような違和感を感じていた。
 数分で電車は動き出した。
しかしダイヤが乱れているのか、少し走って停まり、また走り出すという不快な走行が続き、10分ほどで三鷹駅に到着した。
そこでかなりの人が降りていき、ふたりはやっと並んで座ることが出来た。
 それでも電車は軽快に走ってくれない。
本来ならもう多摩川を渡っている時刻になっても、まだ国分寺にも到着していなかった。
車掌は前の電車がつかえているからと、しきりにお詫びのアナウンスを繰り返していた。
 やがて聡実の尿意が本格的に高まってきた。
不安を感じながら、それでも努めて明るい声で八田と話していた聡実だが、国分寺を過ぎたあたりから、かなり激しい尿意へと変わっていき、聡実はますます落ち着かなくなる。
(やだあ・・なんでぇ!?)
 腕時計を見ると午後6時半を少し回っていた。
新宿でこの電車に乗ってから1時間。
渋谷のミスタードーナツでトイレを済ませてから1時間半以上が過ぎていた。
(コーヒー飲んだからかなあ・・?)
いくら体が冷えたからといって、こんなに何回もトイレに行きたくなるなんて・・と、聡実は自分の体がおかしくなったのではないかとまで思っていた。
ノロノロと走る電車の速度に反比例するかのように、聡実の膀胱はハイスピードで膨らんでいく。
(ああ・・早く着いてよぉ!)
八田の話し声が耳に入らなくなり、返事も上の空になりつつあった。
(まだ我慢できるけど・・駅に着くまであと何分かかるかなあ?)
(駅に着いてからどうしよう?)
(八田君の前ではもうトイレに行きたくない。)
(でも・・バスに乗って帰るなんて・・絶対我慢できない!)
(じゅあどこでトイレに行けるの?)
(やっぱり八田君とは駅で別れてトイレに行こうかな?)
(でも・・なんて言って駅で別れよう?)
 多摩川の鉄橋を渡るころ、激しくなった尿意に不安を抱きながら、聡実の頭の中は先のことばかり考えて、その考えがまとまらず、同じ事を繰り返し繰り返し思い浮かべてしまって、かえってイライラしてしまっていた。
(ああ・・ほんとにおしっこしたいよぉ!)

 およそ30分の遅れで、聡実が乗った電車は豊田駅に到着した。
八田に手を引かれて立ちがると、想像以上に下腹部が重く感じられ、体をまっすぐに伸ばすのが辛い。
(やだっ、もうおしっこ漏れそうっ!)
左手をコートのポケットに入れ、そっと下腹部をさすってみると、丸く膨らんだ膀胱を感じてしまう。
(どうしよう・・やっぱりトイレ行こうかなあ?)
聡実が混乱した頭を整理しようとしていると、
「遅くなったからタクシーで帰ろう!」
八田が言った。
「え、なに?」
よく聞こえていなかった聡実。
「タクシーで帰ろうよ。」
ここで理由を付けて八田と別れ、トイレに飛び込もうかと思っていた聡実は、まだこの先も八田と一緒にいる事への不安もあり、
「でも・・そんなお金持ってないよ・・」
そう言って少し渋ってみた。
「大丈夫、俺が出すから!」
「でもぉ・・」
「かなり遅くなったろ。バスだともっと時間かかるぞ!」
確かに夕食までには帰ると約束していた。
もう7時を回ろうとしている。
きっと両親も心配しているに違いない。
尿意のことばかりに気を取られていた聡実は、そのことまで頭が働いていなかった。
「・・そうだね、じゃあタクシー代出してね。あした返すから!」
「いいよ、俺のおごり!」
「・・・ん」
本当は今すぐにでもトイレに行きたいが、タクシーなら10分もかからない。
それなら何とか我慢できるだろうと思い、聡実は激しい尿意を抱いたまま、八田に続いてタクシーに乗り込んだ。
 シートに座ると少し尿意が楽になったような気がしたが、走り出すと振動が伝わり、丸く膨らみきった膀胱が悲鳴を上げかけた。
(ああ・・もうすぐだからあ!!)
聡実は自分に言い聞かせ、八田に見えないようにそっとコートの隙間から手を入れて押さえていた。
(あのときと一緒だよぉ・・・)
去年の生徒会連絡会議の帰り、必死でおしっこを我慢していた状況が思い出され、聡実は身震いしていた。
(おねがいっ、間に合ってぇ!!)

 それから10分、車の振動に必死で耐えながら、聡実は先にタクシーを降りた。
八田に手を振って別れを告げ、タクシーが走り出すと同時に、聡実も走り出す。
薄暗い街灯の下を、体をくの字に押し曲げて、コートの合わせ目から手を入れて、女の子の部分を必死で押し上げながら、聡実はとにかく家を目指した。
人の目を気にする余裕など全くなかった。
(やだぁ、漏れちゃう漏れちゃうぅ!)
家がすぐそこだと言うことで気がゆるみ、もうあふれ出しそうになっている。
いや、すでにタクシーを降りるとき、少しチビってしまっていた。
 路地を曲がって3軒目が聡実のうちだ。
「あっだめぇ!」
門柱が見えたとき、聡実の気がまたゆるんで、押さえている手に暖かい感触が広がってきた。
半泣きの聡実は、それでも必死で押さえて走った。
 幸い家の門扉は開けたままになっている。
鉄扉を閉める余裕もなく、聡実は玄関ドアに手をかけた。
鍵はかかっていない。
そっとドアを開けるとガチャっという大きな音がして、奥の方から
「聡実か!?」
父親の声がした。
聡実は震える声で
「・・ただいま」
と言い、靴を脱ぐためにかがもうとした時、またジワ〜っとあふれ出してくるおしっこを感じて固まってしまった。
ツ〜っと太ももをおしっこが流れていく。
(ぁ・・ぁっ・・)
玄関先でオドオドしている聡実に
「ちょっとここへ来なさい!」
父親のややきつい口調の声が聞こえた。
「・・ぁ」
声が出ない聡実。
母親が心配そうにリビングから顔を出した。
「聡実!?」
左手を股間に入れ、右手は下足棚に寄りかかってモゾモゾと震えているその姿を見て、母親はおおよその察しが付いたのか、
「おとうさん、ちょっと待ってやって!」
と言いながら、聡実に手をさしのべてきた。
その温かい手を握った瞬間、ずっと我慢を重ねてきた緊張の糸がプツンっと切れてしまい、聡実の体からシューという音が出て、両方の足を伝っておしっこが流れだした。
「ぁ・・ぅ・・」
声にならない声を上げる聡実。
その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
次の瞬間、ジューというにごったような音に変わり、両足の間からまっすぐに落ちる太いおしっこの流れが現れ、ビチャビチャと激しく玄関の床をたたきつけだした。
「や・・ぁあ・・」
母親にしがみつき、その胸に顔を埋めて泣く聡実。
その間も、めいっぱい溜め込まれたおしっこは溢れ続けていた。
「かわいそうに。ずいぶん我慢してたのね・・」
母親は叱りもせず、聡実の頭を撫でていた。
「男の子と一緒だったの?」
すべてを見抜いたかのように聞く母親に、
「・・うん・・」
聡実は正直に答えた。
「そう・・」
それ以上は何も言わない母親に、
「・・ずっと我慢・・してたの・・」
多少のウゾはあるものの、聡実はしゃくりあげながらそう言った。
「恥ずかしかったのね。いいのよ!」
母親はそう言って、また聡実を抱き寄せた。
 いつの間にか父親と弟も顔を出していて、聡実は恥ずかしい現場を見られてしまった。
しかし父親は何も言わず、はやし立てようとした弟に軽いビンタをして、リビングに引き戻ってくれた。
聡実は母親の手を借りてクツとソックスを脱ぎ、汚した玄関は気にしなくていいからと言われ、そのままお風呂に入ることになった。
 暖かいお湯に浸かって、ようやく平常心に戻った聡実の体に、また尿意が芽生えた。
先ほどのお漏らしで出きっていなかったのか、それはすぐに強い尿意となり、とてもお風呂から上がるまで我慢できそうになかった。
(パパ、ママ・・ごめんなさい!)
聡実は洗い場にうずくまり、シャワーを出しながら、勢いよく残っていたおしっこをしていた。
(はあ・・最悪だよ〜・・)

 おおよそのいきさつを聞いた父親は、あまりきつく聡実を叱りつけることをせず、自分の体を大事にするようにとだけ言って、聡実の頭をポンとたたいて書斎に消えていった。
弟は、それ以上何も言わなかった。

 玄関でお漏らししてしまった聡実だが、そのショックは家族の暖かさで和らいで、翌日は元気に登校した。 しかし
「ねもっちゃん、きのう八田君と一緒だったんだって?」
「ねもっちゃん、いつから八田君とラブだったの?」
やはり誰かに見られていたのか、教室に入った途端、数人のクラスメイトに囲まれてしまった。
(や〜ん・・はずかしいよぉ!!)


つづく
 

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