ねもっちゃん 1,(連れション)




 中学2年の根本聡実(ねもとさとみ)は東京の西、日野市の静かな住宅街に住んでいた。
どちらかというと物静かで、あまり目立たない聡実だったが、東京都主催の読書感想文コンクールで入賞したことで、にわかに注目を集めてしまい、そのことがきっかけとなって、後期生徒会役員の書記に選ばれていた。
後期役員は、全員が2年生と1年生で構成される。
 11月中旬の土曜日、聡実は多摩地区中学校生徒会連絡会議に出席することになり、午後1時に学校から顧問教師の車で、会場の立川市民会館に向かった。
当時はまだ隔週の土曜日が休みの頃である。
同乗者は生徒会長森島晃と、副会長の八田裕介。
 多摩川を超えて30分ほどで会場に到着し、第一会議室で会議が始まった。
各中学から2〜3名ずつ出席しているので、定員90名の第一会議室はほぼいっぱいであった。
女子はかなり少なめで、聡実を入れて10人ほどであった。
 特に大きな議題があったわけでもなく、淡々と進行されていく連絡会議。
その進行を記録しながら、聡実は次第に尿意を感じだした。
会場は暖房が入っていなくて、制服のスカートから出ている足が寒くて鳥肌が立っている。
そのせいでお昼に飲んだペットボトルのお茶が作用してきたようだ。
もちろん出発前にトイレは済ませていた。
 それから40分ほどで連絡会議は終了した。
(ああトイレ行きたい!)
そう思いながら筆記用具の片づけをしていると、
「君が根本聡実さん?」
と、ロマンスグレーの上品そうな男性から声を掛けられた。
「あ、はい。」
その男性はN中学の国語教師で、先の読書感想文コンクールの審査委員であったという。
聡実の感想文がよく書けていたと誉めてくれ、他にはどういった本を読んでいるのかなど、いろいろ聞いてきた。
聡実はトイレの事が気になっていたが、審査委員だった人から声をかけられたことがうれしくて、顧問や生徒会長らに目で合図を送って、しばらくその教師と話し込んでいた。
 5分ほど話していたであろうか、やがて係の人が入ってきて照明を消し、施錠するから出るようにと告げた。
「や、時間を取らせて悪かったね。またいい感想文を期待しているよ。」
その教師はにこやかにそう言うと、聡実を外に促した。
「ありがとうございます。」
丁寧に挨拶して廊下に出る聡実。
(はあ、トイレトイレ!!)
廊下は室内よりも更に寒く感じられ、聡実の尿意は一気に高まった。
しかしその教師はまだ話しかけながら、聡実と並んで歩いてくる。
(えー,もういいよぉ。ひとりにさせてよっ!)
階段脇にトイレを見つけたが、ずっと話しかけている教師を振り切って入ることが出来ず、聡実はそのまま階段を降りてしまった。
 玄関ロビーには、まだかなりの中学生たちがたむろしていた。
「じゃあここで。」
階段を降りきると、教師は聡実に手を振って事務室の方へ歩いていった。
(えっと・・トイレ・・)
キョロキョロとロビーを見渡す聡実。
(あれ、ここにはないのかなあ?)
見通せる範囲にはトイレらしきものが見えない。
(あっちの方かな?)
廊下の先にあるのではと、聡実が歩きかけると、
「おい根本、早くしろ!」
顧問教師が玄関ドアのところから声をかけた。
早く車に乗れという催促であった。
「あ、あの・・」
トイレに行きたい事を言おうとした聡実だが、
「もうみんな乗って待ってるぞ!」
そう言われてしまい、今更トイレに行くことが申し訳ないのと、恥ずかしく思えたことで、聡実は渋々教師に従った。
表に出ると、11月中旬にしては寒い風が吹き付け、聡実のスカートをなびかせる。
(おしっこ・・したいなあ・・。)
普段それほどトイレが近い訳でもない聡実は、まだ少し余裕があるように思えて、
(学校まで30分ぐらいだし・・我慢しよう。)
小走りで教師の車に向かい、助手席に乗り込んだ。
やや日差しがあったおかげで、車内はそれなりに暖かく、冷えていた聡実の脚の鳥肌も消えていった。
(よかった。これなら我慢できる!)
そう思って一安心していたが、いざ走り出すと走行の振動が伝わってきて、決して安心できる状況ではないことを思い知らされた。
聡実は顧問教師の目を気にしながら、膝の上の通学鞄で隠しながら、スカートのポケットに手を入れ、そっと下腹部を触ってみた。
(やばっ!もうパンパンじゃん!) 気持ちの上ではまだ我慢できるが、聡実のおなかは結構膨らんでいた。

 多摩川のそばまで戻ってきたとき、
「先生、野球部の試合、もう終わったかなあ?」
生徒会長の森島が後ろの席から言った。
「おう、そう言えば立川のH中とやってるんだったな。」
顧問がうれしそうな顔をして返す。
聡実はいやな予感がして緊張した。
「ちょっと覗いてみるか!」
顧問の声に
「イエーイ!」
森島と八田の2人は気勢を上げる。
予感は的中してしまった。
「エー、私やだよぉ!」
思わず否定的に言う聡実。
「なんだよ根本、お前冷たいぞ!」
「だって・・もう終わってる頃じゃない?」
たしかに夕暮れが近くて薄暗くなりかけている。
「終わってるかどうか、行ってみないとわからないだろ!」
「だって・・」
言いかけて聡実は口ごもった。
トイレに行きたいから早く帰りたい。
そう言いたい聡実だが、男3人を前にしてそれは言えなかった。
ブラウスの上にブレザー、短めのスカートに素足、ハイソックスという制服だけの姿では、やはりかなり冷えたのであろう、聡実の膀胱は満タン状態に近づいていた。
 聡実が困っていることも知らず、顧問教師は車を新奥多摩街道から河川敷の方へと走らせていた。
「どこでやってるんだ。立川公園の野球場か?」
「そんないい所じゃないよ。河川敷公園の方だったよ・・」
生徒会長も自信なさげに答えていた。
(お願い、もう帰ろうよぉ!)
聡実は気が気ではない。
刻一刻と膨らんでいく膀胱を、そっとさすりながら聡実は泣きそうになった。
「あ、先生ほらあそこっ!」
後ろの席から生徒会長が叫んだ。
「おう、もう終わって帰るところだな。」
先の方の簡易グラウンドから、野球部員たちがゾロゾロと堤防道路の方へあがり、銘々自転車に乗ろうとしているところであった。
「勝ったのかなあ?」
「ああ、ちょっと降りて聞いてみよう。」
顧問はそう言って、野球部員たちがいる途中に車を停め、降りていくとキャプテンに声をかけた。
森島と八田も降りていく。
試合はどうやら勝ったようだ。
森島たちの気勢を上げる声が聞こえてきた。
「根本、お前も降りてこい。勝ったぞ!」
顧問は、うつむいて黙りこくっている聡実に降りるように言った。
(もぅお、おしっこしたいのにぃぃぃ!!)
聡実は仕方なく助手席のドアを開けた。
川風が吹き付け、聡実の短いスカートに入り込んで、裾を持ち上げてしまう。
めくれあがらないように、聡実はスカートを押さえながら降りた。
それはちょうど女の子を押さえる役目にもなった。
(はやく帰ろ、もうおしっこしたいよっ!)
聡実は、肩を抱き合ったりして喜んでいる顧問や生徒会長たちを、恨めしそうに見ながら体を震わせていた。
(トイレ行きたいよ。おしっこしたいよ!)
頭の中に出てくる言葉はこればかり。
(あ、あれトイレ!?)
下の方に目をやると、部員たちがあがってきた石段の横の方に、仮説のトイレらしき建物がポツンと見える。
周辺には数人の子供たちが遊び回っていた。
顧問教師を囲んで騒いでいる連中は、誰も聡実のことを見ていないようだ。
聡実はこの際、恥ずかしくてもいいからそこへ駆け込もうと思い、ポケットの中のティッシュを確認して、ゆっくりと石段に向かって歩き出した。
「ねもっちゃん!」
野球部のマネージャーをしているクラスメイトの千秋が、その石段の下から声をかけながらあがってきた。
思わず立ち止まる聡実。
聡実は友達から「ねもっちゃん」と呼ばれている。
ジャージの上下姿で、寒そうに駆け上がってくる千秋は、
「ねもっちゃん、パンツ見えてるよ!」
下から見上げるようにしてそう言った。
「あ・・うん。」
聡実はあわててスカートを押さえた。
「ねもっちゃん、あの車・・先生の?」
「あ、うん、生徒会会議の帰り。」
「そうなんだ。よかったあ!」
「え?」
「ね、私も乗せて帰って!」
「え、だって先生に・・」
「うん、自分で言う。」
千秋はそう言って顧問の所に走り、なにやら耳打ちした後、今度は野球部のキャプテンのところに走った。
そしてまた何かを話して戻ってくると、
「さ、早く乗ろ!」
と言って聡実の肩を押した。
「先生ーはやくぅ!」
顧問にも声をかけている。
聡実は何がなんだかわからない。
仮説トイレでもいいからと思っていた矢先に、また車に戻されてしまった。
顧問に促されて森島と八田も戻ってきた。
「ごめん、私前に座らせてね!」
千秋は言うが早いか聡実のカバンを取り上げると、助手席に座り込み、そのカバンを聡実に手渡した。
もうめいっぱいおしっこがしたくてたまらないのに、聡実は狭い後部座席の男の子二人の間に座らされてしまった。
森島がスカートの裾をお尻で踏みつけているのか、そちらに少し引っ張られるような体勢になって動けない。
「先生、早く早く!!」
千秋が訴える。
「どうしたってんだ?」
森島が聞くと、千秋は少し間をあけてから
「あはー、恥ずかしいんだけどさ、トイレに行きたいのー!」
「え!?」
聡実は千秋の言葉に耳を疑った。
「え・・だってトイレあったじゃない?」
「ああ、あそこねえ、戸が壊されてて丸見えなんだよー。」
「え・・」
千秋によると、試合が終わってトイレに行こうとしたが、ドアが閉まらず、周辺で遊ぶ子供たちが気になって、どうしても入ることが事が出来なかったという。
「もうどうしようかと思ったよー。」
「でも千秋・・自転車じゃないの?」
聡実が聞くと、
「うん、私は野球部の関岡先生と一緒に車で来たの。」
「え・・でも先生は?」
「白石君が捻挫してさ、先生の車で病院に行っちゃった。」
「ああ・・」
「でさ、私は誰かのチャリに乗っけてもらうつもりだったけどさ・・」
「・・・」
「このままじゃあお漏らししちゃうところだったよ!」
千秋はケラケラと笑いながらしゃべっていた。
「先生がいてくれて助かったー!」
あっけらかんと話す千秋がうらやましい聡実。
自分と千秋、どちらが限界に近いおしっこを堪えているのかわからないが、こうやって話せる分、千秋の方が精神的に楽であろう。
「でも先生急いでね。もうタンクが爆発しそうなんだ!」
千秋が言うと
「爆発じゃなくて破裂だろう!」
森島がつっこむ。
「どっちでもいいじゃん。もうほんとに限界なの!」
千秋の言う「限界」という言葉に、聡実は身震いした。
じっと座っていると、おしっこの波が押し寄せてくる。
両サイドを男の子に囲まれて、身動きがとれないほど窮屈な聡実は、その視線も気になって、脚をすりあわせたり手で押さえたりが出来ない。
「ああっトイレトイレ!」
千秋は何度もそう言いながら体を揺らしている。
 マネージャーという立場の千秋は、試合中はスコアカードをつけるため、寒い河川敷にずっと立っていたそうだ。
そのために聡実以上に体が冷えていることは想像できる。
その尿意を紛らわそうとしてか、千秋はしきりにしゃべり続けていた。
その姿を後ろから見ながら、聡実も小刻みにふるえが来た。
(どうしよう・・我慢できるかなあ・・?)
両隣の男子のことが気になりながらも、やがて聡実もモゾモゾと体を動かしだした。
少しでも気を紛らわせたい。
千秋はなおもしゃべっていた。
「男子はさ、何人か土手でやってたよ。ずるいよねー先生!」
「あ、ああ・・。」
急に振られた顧問は言葉に困っていた。
「あーあ、私も男だったらなあ!」
千秋の言いたいことはわかっている。
(立ったままで出来るもんね・・)
聡実もそう考えていた。

「詰まってるなあ・・」
ポソっと言う顧問教師の言葉に、聡実は前方を見やった。
土曜日の夕暮れ、あたりはかなり薄暗くなっていて、ヘッドライトをつけている車もちらほら出てきており、それが全然流れていない状況が目に飛び込んできた。
(渋滞っ!?)
またブルっとふるえが走る聡実。
左折する日野橋のあたりから渋滞しているようだ。
「やだーっ、先生私やばいよー!」
千秋が言う。
(私だってもうやばいよーっ!)
聡実は心の中で叫んでいた。
 それから5分もしないうちに、あたりはすっかり暗くなってしまった。
その暗さが心細くなって尿意を加速させる。
(どうしよう・・どうしよう・・)
聡実に恐怖にも似た不安が襲いかかってきた。
千秋も同じであろう。しきりに体を揺すっていて、口数が減っていた。
 そのとき聡実の左に座っている八田が体を大きく動かした。
その振動が聡実の膀胱を直撃する。
思わず漏らしてしまいそうになった聡実は、
「ちょっとぉ、動かないでよ!!」
きつい口調で言ってしまった。
「ごめん・・ちょっとケツが痛くて・・」
八田は聡実の剣幕に驚いて、口ごもるように言った。
そう言いながら、それでも座り心地が落ち着かないのか、八田はまた大きく体制を入れ替えるように動いた。
「ちょっとぉ、やめてったらっ!!」
普段大きな声を出したことのない聡実が、つい声を荒げる。
「ご・・ごめん・・」
両足をぴっちりとじ合わせて、全部の神経を一点に集中して耐えている聡実にとって、横から体を揺すられることは耐え難い。
キリキリと鈍い痛みを伴ってきた膀胱が、揺すられた刺激に耐えきれずに収縮しそうになっている。
聡実は思わず両手でスカートの上から押さえてしまった。
暗い車内ではあっても、ふたりの男子にはその行為が目に入ったかも知れない。
「どうした?」
顧問教師が聡実の声に驚いて振り返った。
「あ、いえ別に・・」
八田が困ったような声で言った。
何も言えない聡実の目には、わずかに涙がにじんでいた。
「八田君、ねもっちゃんにエッチなことしたんじゃないの?」
千秋が前を向いたままからかうように言った。
八田が必死で否定している。
聡実はそんな会話はどうでもいい。
ただただ、早く学校についてほしいと願うだけであった。
 立川の市民会館を出てから40分が過ぎている。
学校を出る前にトイレを済ませた聡実だが、それからもう4時間以上トイレに行っていないことになる。
昼食で飲んだ500ccのお茶は、汗になることもなく、そのすべてが小さな膀胱の中に入り込んで聡実をいじめていた。
(ああ・・もう我慢できない・・我慢できない・・)
聡実は弱気になっていた。
(もうここで降ろしてもらおう!)
そんなことまで考えた。
しかし車を降りたところでトイレがある訳でもなく、仮に河川敷に降りて隠れる場所を探そうとしても、すっかり暗くなってしまっているので怖い。
もし誰か変な人がついてきたりしたら・・・。
そう考えただけで体がよけいに震えてしまう。
(先生に言って・・ついてきてもらったら・・)
  一番現実味がある選択かもしれないが、野ションをするというのに、まさか男の先生についてきてもらうほど恥ずかしいことはない。 
(千秋と一緒なら!)
しかし千秋が学校まで我慢すると言ったら、自分だけが恥ずかしい思いをしてしまうことになり、もっと我慢が効かなくなってしまう。
(ああ・・私もトイレに行きたいって言っておけばよかった・・)
女の子二人の緊急事態なら、先生もなんとか協力してくれるかもしれない。
(だって八田君も森島君も、今は千秋に同情してるもんなあ・・)

 日野橋を過ぎると国道20号線はウソのように車の流れがよくなった。
が、聡実の膀胱はすでに限界を超えかかっている。
そんなときに
「先生、俺ここらで降ろしてよ。」
八田が言った。
家の頼まれごとがあるので、モノレールの甲州街道駅から高幡不動の京王ストアに行くと言う。
 八田が降りたことでシートが広くなり、聡実は少し楽になったが、交通量が多くてなかなか走り出すことが出来ない車は、つぎに信号が赤になるまで待たされて、またよけいな時間を取ってしまった。
「あー、もう限界限界!!」
千秋がしきりにその言葉を繰り返している。
「お前、漏らすなよ!」
森島が冷やかした。
「漏らさないけど限界ー!」
この状況でそう言うことを言える千秋は、果たして本当に限界なのか、聡実にはわからなかった。
「あー、こんなに我慢したの初めてーっ!」
千秋の言葉はそっくり聡実にも当てはまった。
これまでに何度かトイレを我慢した経験はある。
思い出さなくてもいいのに、聡実はついつい過去を振り返ってしまっていた。
 けっこうやばかった小学校の修学旅行のバスの中・・
あのときは聡実の他にもたくさんの子が我慢していて、お互いに励ましあったり出来たからよかったのかもしれない。
 プールで体が冷えてしまい、次の授業中ずっと我慢していた。
あのときは教室がトイレから近かったことで間に合った。
 よみうりランドから帰るときの交通事故渋滞・・・。
あのときは母も弟も我慢していて、結局ファミレスに入った・・・。
必死で我慢したあとのおしっこが、とても気持ちよかった事まで思い出してしまった聡実は、それによって集中力が鈍くなり、一瞬のうちにチロっと漏らしてしまった。
(ひっ大変!!)
あわててギュっと力を入れ、必死になって耐える聡実。

 それから5分。
学校の建物が聡実の目に入った。
(よかったあ、これなら間に合うぅ!!)
必死で尿意と戦ってきた聡実に安堵の気持が走った。
「あ!」
それがいけなかった。
一点に集中させていた緊張が解けかかり、シュッと、今度は先ほどよりも多い量をおちびりしてしまった。
森島の目を盗んで、通学鞄で隠しながらスカートの中に手を入れて、それ以上の流出を止めた聡実。
入れた手に湿った下着の感触があった。
スカートにシミが出来ていないか心配だが、それ以上に
(どうしよう、もう漏れちゃう!)
感覚的に、次の流出がすぐそこに迫っていることが感じられ、聡実は焦った。
森島に見られているかもしれないが、もうかまっていられない。
「先生、ここで降ろして!」
千秋の声で聡実は顔を上げた。
ちょうど学校の横手通用門の所である。
ここだと一番近いトイレまでかなり距離があるが、ぐるっと回って駐車場まで行ってしまっては、もっと距離が出来る。
途中の正門はもう閉まっているからここしかない。
車が停まると同時に千秋が、
「漏れちゃう漏れちゃう!」
と言いながら、荷物を放り投げるように飛び降り、前屈みになって走り出した。
聡実もあわてて体を動かし、
「わたしも降りる!」
そう言ってドアを開けようとしたが、手に力が入らない。
一点の力を抜かないように、膝をすりあわせながら必死でドアを開け、左の足を地面に着いた途端に、またシューっと吹き出すおしっこを感じた。
「!!!」
もう恥も外聞もない。
聡実も鞄を座席に残したまま、千秋の後を追うようにヨチヨチと歩きだした。
全力疾走したいが、それは決壊を意味する事を聡実は理解していた。
「おい根本、カバン!!」
森島が車の中で叫んでいるが、もう引き返せない。
 通用門をくぐって車からの視界が無くなると、聡実は両手を脚の間に大きく入れ、持ち上げるような格好で急いだ。
 校舎の入り口で千秋が立ち往生している。
「ちょっとぉっ!」
ドアノブをガチャガチャさせてながら叫んでいる。
「ちあきぃ!」
聡実が半泣きの声で呼びかけると、
「ねもっちゃーん、カギかかってるよー!」
千秋も半泣きだ。
「職員室の方なら開いてるよ!」
聡実はそう言いながら、今度は千秋より先に(ヨチヨチと)走り出した。
「ねもっちゃんも我慢してたのー?」
聡実の仕草を見て、千秋が後ろから声をかける。
「お昼からずっとぉ!」
「私と一緒だ〜!」
「もうだめなの〜!」
「私も〜!」
 角を曲がって、ブロック塀と校舎の間の暗い前庭を通りかかった時、聡実は小さな小石につまずいた。
「ひっ!」
バランスを崩した聡実が叫んだと同時に、シュルルと、堪えてきたおしっこがあふれ出してきた。
「あっだめっ!」
聡実はそう叫ぶと同時に、まるで神業のような早さで下着をおろし、ブロック塀に向かってしゃがみ込んだ。
同時にジュシューという音を響かせ、地面にたたきつけたおしっこが、勢いをつけて塀まで飛び散っていった。
追いついた千秋が、
「私もここでする!」
と言って聡実の横に来たが、
「あ・あれっ」
足をくねくねとさせながらもがいている。
ジャージのひもがほどけないようだ。
「あんもぅおぉっ!」
やっとゆるめる事が出来たのか、千秋はジャージとパンツを一緒に下ろし、聡実の横に並ぶようにしゃがみ込んだ。
そしてジャロロロ・・という激しい音を響かせた。
「はぁ気持いぃ!けど・・あぶなかったあ!!」
千秋は明るい。
その明るい千秋に押されて、聡実も気が楽になって
「少しチビちゃったよ。」
まだ終わらないおしっこを続けながら、告白するように言う聡実。
実際は少しではなく、かなかりの量をチビっていたが・・。
「あははぁ、私もぉ!」
千秋が笑いながら言った。
「千秋も?」
「うん、さっき・・カギがかかっているの知ったとき、気が抜けちゃって!」
「そうなんだ!」
「こういうの連れションっていうのかな?」
「えー、どうなんだろう?」
「ちょっと違うのかな?」
「緊急連れションだね!」
「あはは、緊急連れションかあ。」
聡実が終わり、しばらくして千秋のおしっこも終わって、後始末をした二人は、お互いのスカートやジャージのお尻が濡れていないかどうか、手で探り合って確認し、たいしたことがないとわかると、今度は誰かに見られていなかったかと、急に恐くなってキョロキョロと周辺を見渡した。
暗い前庭に人影はなく、校舎からも誰も見ていない。
とにかくここを離れようと、手をつないで走り出したふたり。
「あ、ティッシュ置きっぱなしにしちゃったね。」
聡実が気になっていうと、
「いいじゃん、知らなかったことにしようよ!」
千秋があっけらかんという。
「そうだね・・なかったことにしよう!」
聡実も気が大きくなって、笑いながら駐車場に向かっていった。
 駐車場に出る前に、二人はどちらが言うでもなく立ち止まった。
そして漏れてくる明かりで、もう一度お互いのスカートやジャーが濡れていないかを目で確認し、無事であることがわかると、また手をつないで笑いながら顧問教師の車に向かった。
お互い、パンツが冷たくて気持ち悪いことは・・口にしなかった。


つづく
 

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