典子のエピソード(6)




 典子の大学生活が始まった。
理絵と共同生活するアパートもそれなりに片づき、お互いのプライバシーは守り合おうと約束して数日が過ぎていった。
 アパートには電話が引かれていなかったので、典子は理絵に勧められて、関西セ★ラ〜の携帯電話を買った。
当時はまだ通話料も高く、節約しようとしていても、京都の女子大に行った幼なじみのかおるたちとのおしゃべりで、けっこう使ってしまっていた。
 理絵は理絵で、しつこく兄・英樹との交際がどうなっているのかと聞く。
「たまに大学で会う程度だよ。」
と答える典子に、
「そういことじゃなくてさ・・」
と、もうエッチしたのかどうかを聞きたがっていたが、典子はいつもはぐらかして逃げていた。

 4月28日。
典子が所属する放送研究会の新入生歓迎コンパが、梅田の東通り商店街にある居酒屋で行われた。
理絵もこの日、同じようにコンパがあると言って、お互いに帰りが遅くなることを確認していた。
 まだ不慣れな大阪の街を、同じ新入生と二人でさまよって、典子たちは時間ギリギリで店に飛び込んだ。
 総勢20名ほどが集うと、けっこう狭い座敷席はいっぱいになり、肩がぶつかることもしばしばあって、典子は何度か胸に肘てつを食らっていた。
それが故意によるものなのかどうかはわからない。
「新入生は駆けつけ3杯!」
先輩のかけ声で無理矢理飲まされるビール。
典子はあれ以来、何度かビールを口にする機会があり、それなりに飲めるようになっていたが、それでも3杯の一気飲みは出来なかった。
 体育会系ではないので、それ以上無理に飲まされるというような場面は無かったが、それでも先輩たちが勧めると断れない。
それなりに口を付けていると、
「テンコ、おまえはエライ!!」
皆がはやし立て、典子はついつい乗せられてしまっていた。
 宴も終盤になってくると、すでに酔いつぶれる者も出てくる。
典子と同じ新入生の女子がひとり、いっこうにトイレから戻ってこない。
「テンコ、おまえ行って見てこい!」
先輩に言われ、典子は店のトイレに向かった。
実は言われるまでもなく、典子はビールでパンパンに膨らんでしまっている膀胱を、一刻も早くカラにしたくて、この女子が帰ってくるのを今か今かと待っていたのであった。
 ふたつある個室は、どちらもロックされている。
はじめにノックした方からはすぐにノックが返された。
もう片方をノックすると反応がない。
「○●さん、いるの?」
典子はドアに向かって声をかけた。
反応がない。
もう一度ノックしながら、
「○●さん、下柳です。いるんですか?」
少し大きめの声で言ってみた。
そのときとなりの個室から出てきた女性が、
「そこ、さっきからずっと閉まりっぱなしよ。」
と言い残して出て行った。
典子は急に胸騒ぎがして、ドアの隙間から中を覗いてみた。
確かに見覚えのあるセーターの色がチラっと見える。
どうやら洋式便器に顔をつけるような格好でうずくまっているようである。
隙間から目線を下の方にやると、
「!!」
肌色が目に入る。
(え・・まさか・・お尻を出したまま!?)
「○●さん、大丈夫!?。○●さん!!」
典子は何度も大きな声で呼びかけた。
なにか反応があったようにも思えるが、それ以上返ってこない。
典子は困った。
眠っているのかも知れないが、どうやら下半身はさらけ出しているようだ。
(どうやってみんなに知らせよう?)
 とりあえずトイレを出た典子は、女性従業員を捕まえて事情を説明し、一緒にトイレに来てもらった。
それでもやはり応答がなく、結局男性従業員がやってきて、個室の上の隙間から中に入り込み、内から鍵を開けてくれると、その従業員はバツ悪そうにその場を立ち去った。
 それもそのはず、その女子は、小用をしているときに気分が悪くなったのか、下着をおろしたままの格好で、洋式便器を抱え込むようにしていたのだ。
そしてお尻を地べたに着けたまま眠ってしまったようだ。
 一向に帰ってこないふたりを心配して、先輩女子がふたりやってきた。
「あらまあ、なんて恰好なの!」
呼吸はしっかりあるものの、全く反応がない状態の子を、とりあえず個室から脇を抱えて引っ張り出した。
ジーンズと白いパンツはヒザまで降ろされたままの恰好。
(わっ、みじめな恰好だあ!)
典子は思わず目をそらしていた。
「お漏らしはしていないようね。早くジーパン履かせちゃおう!」
先輩に言われ、典子は手洗場の床に横たわるその子のお尻を持ち上げた。
パンツをはかせると、おしっこの始末をしていなかったのか、すぐにシミが広がった。
典子はそれも無視していた。
見たところ服は汚れていないようだ。
「○●さん、起きて!、○●さん!」
先輩がほほをたたいて刺激する。
「ん・・・ん」
その刺激でようやく目を覚ましかけたようである。
「しようがないわね、この子は私たちが送っていくわ。」
先輩がそういった。
「テンコちゃん、みんな二次会に行く用意をしているから、あなたも行って!」
そう促されて、典子はあわてて席に戻る。
「おうテンコお帰り!、さあ次行くぞ!」
かなり酔っぱらった男の先輩が典子に寄りかかってきた。
「あ、はい。ちょっとバッグを・・」
典子はそう言ってその先輩をやり過ごした。
 ゾロゾロと連れだって玄関先に来ると、さきほどトイレで酔いつぶれていた子を、女子先輩ふたりがタクシーに乗せるところであった。
「こいつ送ってから合流するからね!」
先輩はそういってその子と一緒にタクシーに乗り込んだ。
どうやら酔いつぶれた子も目を覚ましたようで、一応安全のために送り届けるのであろう。
(あ、やばいっ!)
一安心した典子は、まだ自分の膀胱をカラにしていないことを思い出した。
思いがけない出来事に遭遇してしまい、気が動転していてすっかり忘れてしまっていた尿意。
「あの・・先輩。次のお店って遠いですか?」
典子に寄りかかろうとしている男に聞く典子。
「んー、ああ曾根崎の♪※だあ!」
曾根崎と言われてもピンとこない。
「歩いてどれぐらいですか?」
「あうーん、そうさな、10分もかからん!」
(10分!、そんなに我慢できない。)
典子はパンパンに張っている下腹部をさすってそう思った。
ジーンズのおなかが丸く膨らんでいることが急に恥ずかしくなり、そっとバッグで隠しながら、
「あ、その・・ちょっとトイレに行ってきますので、先に行ってください。」
そういって店に戻りかけた。
「おうおしっこかっ、ここで待っていてやる。行ってこい!」
酔っているからか、先輩の声は大きい。
典子は先輩をにらみつけながらも、大急ぎで先程のトイレに駆け込んだ。
 洋式便器の便座シートを敷く余裕すらないほど、典子の膀胱は満タン状態であった。
ジーンズをヒザまでズラし、パンツを降ろした瞬間、恐ろしいほどの勢いをつけて典子のおしっこが飛び出してきた。
 この店で2回目のおしっこ。
かなりビールを飲まされ、実は体もふらふらしている。
途中で1度、先輩と一緒にトイレを済ませ、2度目の尿意が来たとき、あの子が戻ってこなくて席を立ちづらくなっていた典子であった。
「ふー・・ビールって効くなあ!!」
典子は膀胱がカラになっていく開放感に浸っていた。

 玄関先で待っていると言っていたはずの先輩の姿がない。
いや、部員だれひとりとして待ってくれていない。
典子はひとり取り残されてしまったのだ。
(ひっどーい!)
まだほとんど大阪の街を知らない典子にとって、この繁華街で取り残されたことは恐怖にも似ていた。
(どうしよう・・・)
ぽつねんとたたずむ典子を、通りすがりの酔っぱらいたちがじろじろと見ていく。
下心むき出しの男が声をかけてきて、典子は怖くなっていた。
そこへ携帯電話が鳴った。
「も・・もしもし・・」
おそるおそる電話に出ると、それは先程の先輩であった。
「おうテンコ、もうおしっこは済んだか!?」
「あ・・はい(バカヤロウ!)」
「おうそうか、で、いまどの辺まで来てる?」
「え、先輩が待ってくれてると思って・・・」
「あぁん!?」
「あの・・まだお店の前・・です。」
「あん・・店の前?、そうかそうか、テンコは先に着いていたのか!」
先輩は完全に酔っていて、典子はもう二次会の店に行っていると勘違いしているようだ。
「あ、いえちがいます。さっきのお店ですよぉ!」
「ああん!?」
「あの・・ここからどうやって行くんですか?」
「あん、商店街を抜けてだなあ、大通りをムニャムニャ・・」
当時はまだアナログ電話が主流で、雑音の中での会話であった。
先輩の語尾が聞き取れない。
「とにかく来たらわかるから。近所まで来たら電話しろ!」
それだけ言うと電話は切れてしまった。
(わからないよぉ・・・)
典子は途方に暮れた。
とりあえずなんとかひとりで行ける大阪駅まで出てみようと、典子は歩き出した。
 歩き出すと、かなりふらつく自分に気づく典子。
それに加え、昼間と夜とでその様子をガラっと変えてしまう繁華街。
道に不慣れな典子にとって、一人歩きは無謀であった。
(阪急梅田駅を通り超えて・・)
と、行き先はわかっているが、今の自分がどこにいるのか、それが全くわからなくなってしまっていたのだ。
(あれえ・・ここはどこぉ!?)
商店街のアーケードを抜けると、寂しい町並みが目に入った。
(やだ、反対方向に来たんだろうか!)
そう思い直し、元の道に戻る典子。
 しばらく歩くと、さきほどコンパをしていた店が目に入り、とりあえず一安心して、お店の人に大阪駅までの道順を聞いた。

   典子は徐々にではあるが、また尿意を感じだしていた。
さすがに夜になるとけっこう冷える。
ビル風も吹き付けて、ブラウスにカーディガンの姿では少し寒く感じる。
 阪急梅田駅(らしき所)に着いた。
(えっと・・あれ、阪急百貨店はどこだろう?・・えっと・・)
典子が一人で歩けるのもここまでであった。
昼間に1度通ったこの道が、この時間になると全く様子を変えている。
いくつも出入り口を持つ駅構内。
ひょっとしたら、昼間とは全く違うところに来ているのかも知れない。
歩いても歩いても、大阪駅に抜ける方向がわからなくなってしまっていた。
(どうしよう・・・)
泣きそうになる典子。
何人かの男が、この時間に一人で歩いている典子に言い寄ってきた。
中には典子の肩に手を回してくる者もいた。
怖くてたまらなくなった典子は、携帯電話を取り出して英樹にかけた。
(お願い、すぐに出てっ!)
祈るような気持ちで呼び出し音を聞いていると、4回目で英樹が出てくれた。
「あ、英樹さん、典子ですぅ!」
「おうテンコちゃん、どうしたの?」
「あ・・あのぉ、道にまよっちゃって・・・」
「はあ!?」
「あの・・怖いんです・・。」
「え、何が怖いって?」
「あの・・男の人が声かけてきて・・・」
「今どこにいるの?」
「あの・・阪急の梅田駅だと・・思うんですけど・・」
「んー、そこから何が見えている?」
「ええ・・と、あのぉ・・」
「何番出口とか乗り場の番号とかさ!」
「あ、えっと・・◆番の券売機・・・」
「よしわかった。15分ぐらいで迎えに行くから、そこ動くなよ!」
「はい、ごめんなさい。」
典子は「早く来て!」とは言えなかった。
申し訳ない気持ちがあるのと、恥ずかしい気持ちが重なっていたのだ。

 それから15分ほどの間、典子はやはり何人かの男に誘われた。
168センチの身長があり、スラっとした足が目を引くのかもしれない。
連れを待っていると言って何とか逃れたが、その足は震えていた。
おまけに尿意もかなりきつくなってきて、その震えを倍増させている。
(おしっこしたいし・・・怖いし・・・)
典子は自分が情けなくなって、涙が出そうになっていた。
トイレの場所すらわからない。
もし英機が来てくれるまでに我慢できなくなったら・・・
典子は不安で不安で、大きな柱の陰で震えていた。
「テンコ!!」
頼もしい声が聞こえたのはそのときであった。
人が往来する中で、英樹の姿だけが浮かんで見える。
「英樹さーん!」
典子は思わず手を振っていた。
「おそくなってごめん。」
「いえ・・こちらこそ無理言って・・・」
「俺はいいよ。それよりクラブのみんなは?」
「あ、もう二次会に・・・」
「そこへ向かう途中ではぐれたの?」
「あ・・トイレに行っている間に・・みんな先に行っちゃって・・」
「あはは・・そういうことかあ!」
「笑わないでくださいよぉ。」
「あはは・・テンコとトイレはつきものだもんな!」
「あ、ひっどーい!」
「はは・・さてと、じゃあ送っていこうか!」
「・・・」
「二次会の店だよ。」
「・・・」
「ん?」
「・・行きたくない・・」
「え?」
「もう行きたくない。英樹さんといたい・・・」
「おいおい、いいのか?」
「うん・・・」
「そんな事言うと・・襲っちゃうぞ!」
「・・いいですよぉ」
「おい、マジかよ?」
「・・・いいもん・・」
「酔ってるの?」
「いいえ。シラフ・・に近いです!」
「はは・・・」
しばらく沈黙して見つめ合うふたり。
「よし、じゃあ今からデートだ!」
「はい♪」
クラブの先輩たちには、気分が悪くなったので失礼して帰ると携帯で連絡し、典子は英樹の腕に捕まり、スキップするような足取りで歩き出した。
「さてっと・・俺も少し飲みたいなあ。」
「あ、いいですよ。おつきあいします。」
「と言ってもな、テンコはまだ未成年だし。」
「だって、もうけっこう飲んだ後ですよぉ!」
「はは、それもそうだな。」
どこまで行くのかわからないが、典子は強烈な尿意が気になって、早くお店に入ってほしくてたまらなかった。
「まだ遠いんですか?」
「ん、もうすぐだけど・・」
「あと何分ですか?」
「んー、何分と言われてもなあ・・ん?」
「・・・」
「あれ、ひょっとしたら・・・」
「・・・」
「また我慢してる?」
「いいんです。早く行きましょうよ!」
「もうヤバイの?」
「もうお、いいから早く!」
「急ぐと酔いが回るよ。ゆっくりだ!」
「もうお、英機さんいじわるっ!」
おそらく中ジョッキ4杯は飲んでいる典子の体は、腎臓がフル稼働状態になり、次から次に尿を作り出してるのであろう。
顔は笑っていたが、典子の膀胱は破裂しそうなほど膨らんでいたのだ。

 英樹は小腹が空いていると言って、しゃれた割烹居酒屋に入っていった。
(ふーん、英樹さん、誰とこのお店に来ていたんだろう?)
ジェラシーのような感情を抱きながら、典子は席に着いた。
典子もあまり食べてはいなかったので、英樹が頼んだものをつつきながら、薄目に作ってもらった酎ハイを口にしていた。

 楽しい時間を過ごしていると、時間はあっという間に過ぎていく。
1時間ほどしか経っていないつもりが、実は2時間半も経っていて、すでに11時半を回っていた。
 店を出た二人は、酔い覚ましだと言って歩き出した。
どちらの方向へ向かっているのか、典子には全くわからない。
しかし典子はこのとき、すべてを英樹に任せていた。
 そろそろ送ろうかという問いかけに、首を振る典子。
妹に気まずくないかと聞かれると、理絵も今日は帰ってこないとまで言ってしまっていた。
「そんなこと言うと、ほんとに襲っちゃうぞ!」
「いいですよぉ!」
「いいですよって・・おまえ・・」
「へへ・・そんな風に言われたら襲えないでしょう!?」
「バカヤロウ、大人をからかうなよ!」
「あ〜っ、私だってもう大人の仲間入りですよー!」
「まだまだ!、まだほんのネンネだよ!」
「ひっど〜い、じゃあ大人にしてよ!」
「おいおい・・」
「へへ・・オ・ト・ナ!!」
「テンコ、かなり酔ってるね。」
「ちがうも〜ん。私はおとなになりた〜い!」
「よし。じゃあ大人にしてやる!!」
「ほんとですかあ?」
「ああ、途中で泣くなよ!」
「ああ、まだ子供扱いしてるぅ!」
「よーし、俺に任せろ!」
「るん♪」
英樹は典子の肩を抱き、人通りがとぎれる方向へと歩き出した。
典子は抵抗する様子もなく、英樹に抱かれるまま、少しふらつきながら歩いていくのであった。

   典子は生まれて初めてラブホテルに入った。
おおよそ話には聞いていたが、見るもの触るものすべてが興味深く、まるで子供のようにはしゃいでいる。
 薄目に作ってもらった酎ハイといってもアルコールには違いない。
英樹と一緒に飲めるといううれしさの勢いで、3杯も飲んでしまっていた典子は、アルコールには強い体質かも知れない。
少しロレツが回らない口調で、しきりに英樹に話しかけていた。
 やがて空気が静かになり、典子はベッドサイドに座る英樹の横に並ぶようにして腰を下ろした。
比較的身長がある典子でも、180センチの英樹と並ぶと、それほど背丈があるようには見えなくなる。
肩を抱かれながら受けるキス。
しばらく見つめあったあと、典子は英樹の胸にもたれかかるようにして目を閉じていた。
幸せな空気に包まれ、心が満たされていくと、アルコールの作用が手伝って、典子はそのまま静かな眠りの世界へと引き込まれていった。

 典子はなにげに目を覚ました。
たくさん飲んだアルコールのため、のどが渇いていた。
「ん、起きたのか?」
英樹の声に、一瞬ビクっとする。
薄暗い照明のそこがラブホテルの一室であることを、典子は瞬時に思い出した。
(やだーっ、私ったら本当に入っちゃってるーっ)
少し酔いが覚めだした典子は、わずかではあるが気持ちが揺らいでいた。
おそるおそる声の方に向くと、そこには肘枕をして典子の顔をのぞき込んでいる英樹がいた。
「・・・」
典子は言葉が出なかった。
「少しは酔いが覚めたかい?」
英樹の声は優しい。
「あ・・はい・・」
「気分はどう、わるくない?」
「あ・・ちょっと・・ノドが乾いて・・・」
「そっか。ウーロン茶でいいかい?」
「あ・・はい・・」
英樹は典子の返事とともに、掛け布団をはねのけてベッドから降り、冷蔵庫に向かった。
そして中から缶入りのウーロン茶を取り出すと、グラスに半分ほど注いで典子の枕元に戻ってきた。
「さ、ちょっと体を起こそうか。」
そういわれて、典子は肘をついて起き上がった。
渡された冷たいウーロン茶を一気に飲む典子。
焼けたように乾ききっていたのどに、心地よく流れ込んでいった。
「!!」
グラスからしずくがこぼれ、それが妙に冷たく感じた典子は、自分の胸元に目をやって驚いた。
(え、カーディガン着てない!)
そればかりか、ブラウスのボタンもはずされていて、ベージュのブラが覗いている
(え・・あっ!)
あわててブラウスで隠す典子。
そういえば、英樹の胸に寄りかかったままで眠ってしまった。
そのあと彼がベッドに寝かせてくれたのであろう。
「!!」
そこまで頭の回路が戻ってくると、今度は自分の足の感触にも気が回った。
「うそぉ、ジーパンも脱がされているぅ!」
そっと片手を布団の中にもぐりこませると、どうやらパンツは履いたままのようだ。
(やだぁ、パンツ見られちゃったぁ!)
だんだんとシラフに戻ってきた典子は、この場になって恥ずかしさまでもが舞い戻ってきた。
(やーん、どうしたらいいのぉ・・?)
空いたグラスを英樹に渡し、典子は頭から布団をかぶってしまった。
 英樹が典子の右側に戻ってきて、静かに布団をはぎ、典子を横たえた。
「気分悪くないの?」
ふたたびそう聞く英樹。
「はい・・ちょっとフラっとするぐらい・・です。」
「そうか。強いんだね。」
「英樹さん・・眠ってなかったんですか?」
「ああ、ずっと君を眺めてた。」
「いやーん・・」
「かわいい寝顔だったよ。」
英樹はそういいながら、典子に唇を重ねてきた。
それを静かに受ける典子。
やがて英樹の手が典子の髪の毛を静かに撫ぜ出した。
くすぐったいような心地よさを感じ、典子の手が英樹の背中に回る。
やがて英樹の手は、典子の耳に触れ、そっとなぞるように動いていく。
「ん・・」
吐息を漏らす典子。
(ああ・・ここで英樹さんに抱かれるんだ!)
その手は次第に大胆に動きだし、首筋から胸元へと降りていった。
ブラウスのボタンがはずされている事で、すぐにブラの上に手が届く。
ブラの上から胸を愛撫されると。先程よりも刺激が伝わりやすくなる。
「んん・・」
典子はまた小さな吐息を漏らしが、
「!!」
驚いたことに、英樹の手はブラの下にスルリと入り込んで、じかに胸を触り出した。
(え、えっ!)
ブラのホックまではずされていたのである。
触れるか触れないかの愛撫がしばらく続き、やがて硬くなり出した典子の突起がその手に包まれる。
「く・・」
大きな吐息が漏れ出す典子。
もう目を開けていられない。
静かに英樹の動きに身を任せていると、やがて舌の感触が胸に伝わってきた。
「あ・・」
ゆっくりと硬くなった先端を転がされると、典子の体に電気のような痺れが走った。
一気に体が熱くなり出し、恥ずかしくてこらえている声が漏れる。
動き回る英樹の手と舌の感触に酔わされて、いつの間にか上半身が完全に脱がされていることさえ気づかずにいた。
 さらに英樹の手は下半身へと伸び、典子の太ももの内側を滑って、足の付け根まで届いていた。
「あ・・」
脳天にビーンと刺激が走る。
このとき典子に思考はなく、何もかもが英樹の意のままになっていた。
 しかし、さすがにパンツの中に手が入ってきたとき、典子は身を固くして拒んでしまった。
「どうした?」
「え・・だって・・あの・・お風呂入ってない・・・」
「いいんだよテンコなら!」
「だって・・だって・・・」
アルコールの作用で、もう何度もトイレに行っている典子。
おしっこの拭きもらしがあるかも知れない。
ティッシュのカスがこびりついていたらどうしよう。
そう思うと、典子は身を固くせざるを得ない。
 さらに本当のことを言うと、このとき典子は激しい尿意を感じていた。
さきほど英樹の手が下腹部を滑っていったとき、それは急に沸き起こったかのように現れたのだ。
 今が何時かわからない。
英樹と店を出てから、小1時間ほど歩いてここにきた。
それから眠ってしまって、今がある。
どう考えても典子の膀胱がカラであるはずがなかった。
「だって・・だって・・」
この場をどうしたらいいのかわからない典子を無視するかのように、英樹の手はスルリとパンツをずらし、典子の足首から抜き取った。
典子は完全に生まれたまんまの姿にされている。
薄暗いとは言え、明かりがある中で典子はその姿態を英機に見られていた。
「きれいな体だね、テンコ!」
そういわれて体が熱くなる典子。
ゆっくりと典子の両膝を立てさせた英樹の手が、静かに内股を何度も移動して、再び典子の脚の付け根へと動いてきた。
そして指がどこかに触れた。
<ピチャ!>
水分を含んだ音が聞こえる。
「テンコ、すごいね。もうこんなになっているよ。」
英機が意地悪そうに指をかざして典子の顔をのぞき込んだ。
典子は返事が出来ず、ただ目をつぶっているだけであった。
「あうぅ!」
さらに英機の指が敏感になっている部分に触れた瞬間、典子はかなりの声を上げて身もだえた。
その瞬間、気持ちよさで忘れかけていた尿意が、ここぞとばかりに押し出されようとして暴れだし、典子は焦った。
「あっ、あっ、あ・・・」
体を貫く快感と尿意がいっぺんに典子に覆い被さる。
 英機の指の動きが激しくなってきた。
必死に尿意を堪えていることで、その周辺はかなり敏感になっているのかも知れない。
典子は体中に熱いものがこみ上げてきて、呼吸までもが苦しくなってくる。
「テンコ、きれいだなあ!」
英機がいつの間には、典子の股間に顔を埋めている。
「え・・いやあ、ダメだってばあ!!」
典子はその状況から逃れようと、身をズラした。
しかし両方の太ももをがっしりと捕まれていて、それ以上は動けない。
「やーん、汚いってばあ!!!」
「いいや、すごくきれいだ!」
英機はそう言い終わらないうちに、その舌先を敏感な部分に触れさせた。
「ひゃぁぁぁ!」
表現のしようがない快感が全身に走る。
おしっこ臭くなっているかも知れないそこを、英機の舌が動いている。
そう思うと、典子はますます体が熱くなり、頭の中が真っ白になりかけていた。
しかし当然のように限界を迎えている膀胱は叫び声を上げる。
「ああ・・いやいやいやあぁ!」
典子は体を震わせた。
「ちょと刺激がきつすぎたか?」
英機が顔を上げ、典子をのぞき込んだ。
何も返事が出来ない典子。
ここまできて、今更おしっこがしたいと言えなくなってしまっていた。
 そういうことを何度か繰り返され、快感と尿意が入り交じった不思議な世界にのめり込んでいく典子の意識が、かすかに遠くなりかけたとき、英機の指が典子の中で動き出した。
「ひっ!」
その瞬間、これまでにない尿意の波がおそって来た。
「あああ、いやあ・・おしっこぉ!」
現実に引き戻され、典子は思わず叫んでしまった。
それでも英機の指は止まらない。
「だめ・・だめっ、おしっこ出るっ!」
叫ぶ典子に、
「ほんとに感じやすいんだなテンコは。大丈夫だよ。」
英機は優しくそういって、さらに動きを速めた。
「あ・・ちがうのぉ、ほんとにおしっこっ!」
「いいよ、出そうになったら出していいから!」
やさしい言葉とは裏腹に、指の動きは止まらない。
「あああっおしっこしたい。おしっこしたい、おしっこしたいぃ!」
典子は大きな声を上げてしまった。
「大丈夫、そう感じるだけだからね。」
英樹は明らかに思い違いをしているようだ。
ピチャピチャと音を立てながら指が激しく動き、典子の意識がまた遠くなりかけた。
それは同時に、これまでがんばってきた膀胱が、その辛抱の糸を解きかかることになり、典子は必死になってお尻に力を込めていた。
「いや〜ん、出ちゃうってばーっ、もうおしっこさせてぇっ!」
体をくねらせてもだえる典子に気をよくしたのか、英機はもう片方の手で、小さく顔を出している典子の突起をさすりだした。
「ひゃあうぅ・・」
その刺激でピークになり、典子は完全に目の前が真っ白になってしまった。
「あうぅぅ・・」
小さく叫んだ次の瞬間、ピュっと飛び出す熱いものを感じた。
「あっ出ちゃっ・・」
典子がそう叫びかかったとき、大きく開かれた典子の体を貫く激しい痛みの刺激が走った。
「あ・・あ・・」
英樹が典子の体を割って入ってきたのだ。
それにせき止められたのか、先ほど飛び出したものはそれ以上流れ出さない。
が、内側から膀胱が押さえられて、排尿感が増大する。
「あっあっ・・おしっこ・・おしっこぉ・・」
裂かれるような痛みを感じるものの、それは苦痛ではなかった。
英樹の動きで典子の体も上下する。
「はっはっ・・」
荒い呼吸の典子は、もう何がどうなっているのかわからなくなっていた。
下腹部に感じる快感と痛みと、そして暴れ狂う尿意が入り混じっている。
 ふと英樹の動きが止まったとき、シィィ〜という音が聞こえて、典子の膀胱が勢いよく縮まっていく快感にも似た感覚が沸き起こった。
「ああ、ああ・・」
膨らみきった典子の膀胱が圧力に耐えられなくなり、尿道をせき止めていた筋肉の力が緩んで、英樹と典子とのわずかな隙間を見つけて、ついに本格的に収縮しだしたのであった。
出口が狭いために勢いよく吹き出している典子のおしっこ。
その吹き出し口のわずか上にある小さな突起を、また英機の指が触りだし、彼自身も再び動きだした。
「あうっ!」
ジュワ〜〜・・シュィイ〜・・
英樹の動きに伴って、おしっこの吹き出る音も変化し、典子は気が遠くなるような感覚におぼれていた。

 英機は、典子が初めてであることを知っていて、あらかじめバスタオルを2枚用意していた。
本来の目的とは違うことに使ってしまったが、それでも含みきれないほど典子のおしっこは溢れ、シーツの上に大きな水たまりを作ってしまっていた。
下にラバーが敷かれているのか、布団には吸収されていないようであった。
お尻が冷たい・・・
典子は徐々に意識が戻ってきた。
言いようのない匂いも漂っている。
何よりも、英樹のおなかに思い切りおしっこを漏らしてしまったことが恥ずかしくてたまらない。
下腹部にまだ違和感を感じながら、典子はすすり上げていた。
「テンコ、起きれるかい?」
英樹がシャワーを浴びようと典子に言った。
いつまでもこうしていられない。
典子は手を借りてゆっくりと体を起こした。
お尻はおしっこまみれになっている。
英樹と目が合ってしまった典子は、
「・・おしっこしたいって言ったのにぃ・・」
と、なみだ目でにらみつけた。
「あ・・ごめん・・オレ・・我慢できなくてさ・・」
「我慢できなかったのは・・私の方だよぉ・・」
「あは・・それもそうだな。」
「もうキライ!」
典子はそう言って、英樹の胸に飛び込んでいった。
お尻からおしっこがしたたり落ちる。
「でも、テンコがおしっこ我慢している姿、けっこうかわいかったぞ!」
「もうお、そういうことは言わないでよぉ!」
「いや、ほんとにそう思っているよ。」
「もうぉ!」

 ぬれてしまったシーツの上で寝ることはできない。
ふたりはシャワーを済ませると、バスタオルを使ってしまっているので、小さなタオルで体を拭き、半乾きの体に洋服を着て、シーツを汚してしまったことをフロントに告げて部屋を出た。
そのシーツが、薄くピンク色に染まっているのを典子は見逃さなかった。
(とうとう大人になれたんだ!)
 午前6時を回っていた。
まだ明けきらないホテル街を抜け、ふたりはタクシーを拾って英樹の部屋に行った。
そのままそこでまた英樹に愛された典子だが、まだ膀胱に尿が残っていたのか、あるいは新たな尿であったのか、またおしがま状態で抱かれ、それも英樹に見破られて恥ずかしがっていた。
 そのまま疲れてお昼過ぎまでぐっすり眠り、こんなことだろうと思ったと訪ねてきた英樹の妹・理恵に起こされて、もう深い関係になってしまっていることが発覚してしまった。

 英樹が社会人になっても典子との交際は続いた。
しかし典子が卒業する年、英樹はアメリカに栄転し、やがて典子との交際も希薄になっていった。
 その翌年、彼は現地で結婚すると理恵から聞かされたが、典子は心穏やかに祝福できた。
 典子は卒業後、大阪市内の大手広告代理店に就職が決まり、その2年後、営業中のおしがまがきっかけで、現在の彼・永井修と知り合った。
典子が小原由衣と出会ったのは、その翌年の9月のことであった。


つづく・・・かな?

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