大阪から中国自動車道を西に走り、福崎インターで播但(ばんたん)連絡道を北上。
和田山で国道9号線に入り、しばらく走ったあたりで、典子はずっと我慢していた尿意のピークを迎えていた。
3月下旬のこの日、典子は合格した大阪S大学に通うため、アパートの入居手続きをしに、森田理絵と共に大阪に来ていた。
理絵は別の大学であるが、お互いの大学からそんなに遠くないところに部屋を借りて共同生活をしようと、理絵の兄・英樹を通じて世話をしてもらっていた。
そこは6畳2間とキッチン、ユニットバスが付いており、典子と理絵がふたりで住むには十分な広さであった。
「ほんとに二人で住むのか?」
英樹が聞いた。
「だって、その方が心強いもんね。」
「うん・・」
「大学が違うから、時間とかバラバラで大変だぞ!」
「それがいいのよ。お互いにプライバシーさえ守ればね!」
「うん・・」
「そんなもんかねえ、まあそのうち一人で住みたくなるだろうけどな。」
「そのときはそのときよ。ね、テンコ!」
「うん・・」
典子は理絵の兄・英樹の前で言葉数が少ない。
初めて英樹と出会ってから、およそ2年になる。
その出会いが、おしがま→隠れておしっこという、とても恥ずかしい出会いになってしまったが、それ以来典子は、日に日に英樹のことが気になりだし、ことあるごとに理絵にその心境を話していた。
理絵は、兄はスケベだ、いじわるだと、あまりいいことを言わなかったが、それでも典子が好きでいることを否定はしなかった。
夏休みや冬休みなどで、
「アニキ、明日大阪から帰ってくるよ!」
と、理絵が教えてくれると、典子は会いたい一心で理絵のうちに遊びに行ったりしていた。
しかし実際には話をすることなどほとんどなく、ただ近くで見ているだけの典子であった。
日焼けした英樹の白い歯がまぶしく、ひとつひとつの動作がかっこよく見え、まるで、今で言うキムタクでも見るかのように、典子の目は輝いていた。
典子は、英樹が通っている大阪S大学を受験した。
理絵は驚いていたが、これはあくまでも偶然であった。
4月から、英樹は経済学部の4回生(4年生)典子は文学部の1回生(1年生)になる。
手続きをすませ、近くのファミレスで遅い昼食を摂った3人。
そこで英樹が、
「俺も今日、田舎に帰るから車で送っていくよ。」
と言い出した。
典子がうれしくてワクワクしていると、
「あ、でもアニキ、私・・箕面(みのお)のおじさんちに用事があるよ。」
と、理絵が言う。
典子が少しがっかりしていると、
「テンコ、私、泊まっていくかも知れないからさ、アニキに送ってもらいな!」
と、理絵が言った。
「ええっ、そんなぁ!」
理絵が一緒に帰らない事など、事前に何も聞いていない典子。
「そうか、じゃあテンコちゃん、ふたりでドライブデートしよう!」
英樹がにこにこしながら言った。
典子はカーっと赤くなってうつむいた。
「アニキ、途中でヘンなことしたら許さないよ!」
「バカヤロウ!、そこらの男といっしょにするな!」
「アニキだから言ってるのよ!」
「おまえなあ・・」
そんな兄妹のやりとりも、そのときの典子の耳には入っていない。
あこがれていた人と、ふたりだけになるドライブデート・・・
典子はうれしさと恥ずかしさが交差して、心臓が飛び出るかと想えるほどドキドキしていた。
「じゃあ、ちょっと車を取ってくるから、ここで時間つぶしてなよ!」
英樹はそう言ってファミレスを出て行った。
「理絵ぇ、一緒に帰るんだと想っていたのにぃ!」
英樹の姿が見えなくなると、典子は一気にしゃべりだした。
「ごめーん、ちょっと急に用事が入ったの。」
「そんなあ・・私ひとりなのぉ!」
「うん、イヤなの?」
「う・・ううん・・そうじゃなくてぇ・・」
「ちょうどよかったじゃない。アニキとふたりきりになれるよ!」
「だって・・ドキドキしてるよぉ・・」
「ふふ・・チャンスでしょ!」
「・・・あ、理絵・・あんたまさか・・・?」
「ん?」
「その、わざと用事を入れたとか・・してない?」
「さあ・・どうだったかなあ・・」
「あーっひどいよ理絵!」
「ひどくないもん。アニキもまんざらでもないみたいだし。」
「え?」
「言っちゃった!」
「な・・何をよ!?」
「テンコがね、アニキのことカッコイイ人だって言ってるよって。」
「えええっ!」
「好きだとは言ってないからね。」
「もうお、理絵ぇ!!!」
「アニキもさ、テンコのことかわいいってさ!」
「やめてよぉ、恥ずかしくなるだけじゃないぃ」
「いいじゃない。ふたりっきりになったら、思いをぶつけなよ!」
「そんなあ、無理だよぉ・・いきなり・・」
「アニキさ、今のところ彼女いない歴1年だってよ。」
「・・・」
「テンコならいいよ、アニキの彼女になっても。」
「もうお・・りえぇ・・・」
どうやら理絵は、典子が英樹とふたりきりになるように仕組んでいたようだ。
紅茶のお代わりをして時間をつぶし、英樹が迎えに来るのを待った。
小1時間ほどして、英樹の車が駐車場に現れた。
ふたりは会計を済ませて車のそばに行く。
午後3時を少し過ぎた頃であった。
「じゃあアニキ、くれぐれもテンコにヘンなことしないでよ。」
「わかってるよ、うっさいな!」
「テンコはまだバージンだからね!」
「り、理絵っ!」
典子が真っ赤になっていると、理絵は笑いながらドアを開け、典子を助手席へ押し込んだ。
手を振る理絵を後にして車は走り出す。
「テンコちゃんがうちの大学に来るとは想わなかったよ。」
英樹がにこにこしながらしゃべっている。
典子は恥ずかしさと緊張で固まってしまって、返事すら出来なくなっていた。
英樹が戻ってくるまでの間にトイレには行っていた。
しかし緊張しているせいなのか、もう尿意を感じる。
やや不安を感じる典子は、ますます固くなってしまった。
どこをどう通っているのか典子にはわからない。
やがて英樹の運転する車は阪神高速に乗った。
「今日は平日で空いているから・・6時過ぎには着けると想うよ。」
英樹が言う。
「はい・・」
典子の声はかすれていた。
ノドも唇もカラカラに乾いている。
「はっは・・ずいぶん緊張しているなあ。」
「は・・あの・・」
「大丈夫。襲ったりしないよ!」
「あ・・いえ・・はい・・」
「楽しくドライブしよう!」
「はい・・」
そういわれても、典子が緊張を解くまでには相当の時間がかかった。
(もう少しかわいい服で来たらよかったなあ・・・)
フリースにジーンズという、あまりにも普段着っぽい服装であることが恥ずかしくさえ思えていた。
中国道に入ると3車線になり、かなりスムーズに流れ出す。
やがて福崎インターにさしかかり、ここから播但連絡道に入る。
当時はまだ部分開通で、途中から国道312号線を走っていた。
そのころになると、典子の緊張もようやく解け出していた。
高校生活の思い出や、家が民宿をしていて大変であることなどを話し、先輩になる英樹から大学のことをいろいろ聞いたりして、初デートといえるかどうかわからないが、あこがれの君の英樹の顔も、このころになるとまともに見られるまでになっていた。
しかし・・・
国道312号に降りたあたりから、典子に尿意という邪魔者が押し寄せてきていた。
実際には車に乗った時からあった尿意。
それは緊張している為だと思いこんでいて、事実その緊張が少しずつ和らいでいき、話が弾むようになると、いつの間にか尿意は感じなくなっていた。
それがふとした会話のとぎれ目に、待ってましたとばかりに押し寄せてきたのだ。
時計を見ると午後5時少し前である。
ファミレスを出てから、1時間40分ほどが過ぎていた。
年度末の道路工事があるようで、ノロノロ運転が続いている国道。
車の進み具合に反比例して、典子の膀胱は猛烈な速度で下腹部を圧迫し始めていた。
考えてみるとこの日、典子が大阪に着いてからトイレに行ったには、あのファミレスだけであった。
そのファミレスで典子は、スープに紅茶2杯、それに水をコップ半分ぐらい飲んでいた。
それらが汗になることなく、急激に典子の膀胱に集まってきているようだ。
あこがれの君と楽しく話をしているのに、いや、むしろあこがれの君の前だからこそ、高まってきた尿意で典子の頭は混乱しかかっていた。
1,あとどれぐらい我慢できるのか、あるいは我慢しなければならないのか。
2,なんと言ってトイレに行きたいことを告げるのか。
3,そんなにすぐにトイレがあるのであろうか。
4,もし我慢できなくなったら、どうしたらいいのだろうか。
まるで箇条書きのように次々と設定が浮かび上がり、消えていった。
そして何よりも、2年前の恥ずかしい体験が思い出されて典子を包む。
あのときはかおると一緒で、今よりも気が楽だったかもしれない。
死ぬほど恥ずかしいことではあったが、夜の闇に隠れることが出来た。
しかし今は、あこがれの君と1対1。
まして夕方と言ってもまだ明るい国道沿い。
あまりにも状況が違いすぎ、典子の混乱は続く。
ジーンズのベルトが下腹部を圧迫してきた。
出来ることならゆるめたいが、英樹の目があるこの場所でそれは出来ない。
浅いシートに座っていることも圧迫の原因になっている。
典子は少しずつ体をずらせて、なんとか楽になる体勢をとっていた。
和田山町で左折して国道9号線に入った。
(そうだ、和田山駅に寄ってもらおう。あそこならトイレが!!)
駅に用事があるとか言って、トイレに駆け込もう。
そう思った典子だが、いつの間にかバイパスが出来ており、車は和田山の駅のそばを通ることなく進んでいった。
(えーっ、こんな道、いつ出来ていたのよぉ!!)
いったんトイレに行けると思いこんだ典子は、唯一知っているトイレのある場所を通り過ぎたことによって、さらなる不安が覆い被さって、パニックになりかかっていた。
(どうしよう・・どうしよう・・どうしよう・・)
同じ事ばかり何度も繰り返して思い浮かべる典子。
言い出しにくい「トイレ」と言う言葉を、典子は何度も口にしかかり、そして引っ込めていた。
(いつ言おう!?)
(もう言わないと!)
(今言おう!)
しかしその間にも、典子の膀胱は膨らんでいき、さらに5分ほど走ったあたりで、ずっと我慢していた尿意のピークを迎えていた。
(ああっ、もうダメだっ!)
典子がそう思って、大きく体をくねらせたとき、
「お尻が痛くなったのか。ちょっと休むかい?」
英樹が言った。
おそらく、落ち着きなくソワソワしている典子に気遣ったのであろう。
「あ、はい。お願いします。」
典子は恥ずかしさも忘れて、つられるように即答していた。
「よし。あそこに見えるドライブインで休もう。」
「はい。」
助かったと典子は安堵した。
着いたら真っ先にトイレに駆け込もうと、シートベルトをはずし、ポーチを首にかける。
が、
「ありゃ、つぶれちまってる!」
英樹の声に、典子は愕然とした。
車10台ぐらいしか入れないような小さなドライブインであったが、店の入り口には大きく「テナント募集」という張り紙がされていた。
「がっかりだね。次行こうか。」
いったん駐車場まで入っていたが、英樹はすぐに国道に出ようとハンドルを切った。
『これでおしっこできる!』
そう思いこんでいた典子の落胆は大きい。
いよいよ尿意の大きな波が襲いかかっている。
車の流れがとぎれるのを待っている英樹に向かって典子は、
「ま・・待ってください!」
叫ぶような声で言った。
「ん?」
少しとまどっている英樹に対し、
「ごめんなさ・・私ちょっと・・」
口ごもるように言いながら、典子は助手席のドアを開けて外に出ると、一目散に建物の左端の方に向かって駆けだした。
そう、そこには「お手洗い」という表示が見えていたのだ。
建物の一番端にその表示を見つけたとき、典子は何も考えられずに車から飛び出していた。
それほどせっぱ詰まった状態にまで追い込まれていたのであった。
しかし・・・
そんな典子をあざ笑うかのように、トイレの入り口のドアは施錠されていた。
「いやーん、開いてよぉ!」
何度も何度もドアノブをガチャガチャとしてみるが、典子の願いをかなえてくれる現象は起きなかった。
「開いてよ・・おしっこが・・・」
典子はドアノブをつかんだまま、その場に崩れるようにしゃがみ込んでしまった。
一気に気力が抜けてしまったようだ。
「おしっこさせてよぉ・・・」
泣きながら言う典子。
そんな典子の様子が気になったのか、英樹が駆け寄ってきた。
「テンコちゃん、どうした!大丈夫か?」
かがみ込んで典子の顔を見ようとする英樹。
「開けてぇ、トイレさせてぇ!」
典子はパニック状態の中でそう言っていた。
「わかった。ちょっと手を離して!」
英樹は典子の手をドアノブから離させると、力任せに回してみた。
そして勢いよくドアを引っ張ったり押し込んだりしてみた。
しかし施錠されたドアはビクともしない。
「まいったなあ・・」
独り言のように言う英樹。
とその時、突然典子は立ち上がり、英機の横をかすめると建物の一番端まで駆け寄り、さらに回り込もうとしている。
「あ、おいテンコちゃん!」
英機があわてて後を追う。
使用しなくなったレストランのテーブルなどが積み上げられた、そのわずかな隙間に典子が入り込む。
そして建物の裏手に回り込んだ。
そこは敷地境界線までが5〜60センチほどの空間で、その境界とは1メートルほど下がった側溝であり、手すりや垣根などもない不安定な場所だった。
その側溝の先には畑が広がっていて、更にその奥の方には民家も見えいた。
おまけに足下にはホコリをかぶった食器類などが積み上げられていた。
(ここで!)
しかし余裕のなくなった典子はそう思ったのだ。
「あ・・あの・・」
ジーンズのベルトに手をかけようとしていた典子に、英機の声が聞こえた。
「いやーん、向こうに行ってよーっ!」
典子は思わずそう叫んで、その場にしゃがみ込み、両手で顔を覆った。
「あ・・俺、車で待ってるから!」
状況を理解した英機は、あわてたようにそう言うと、サっと引き下がって建物の角を曲がった。
典子は半ば放心状態になっていたが、かろうじて尿道口だけはきつく閉じ合わせる事が出来ていた。
表通りからは見えないと言っても、裏手の向こうの方には民家が見える。
しかし典子には、これ以上尿道口をとじ合わせる力が残っていない。
建物の方に向きを変え、体を90度ほど前屈みにしてジーンズのベルトをはずしにかかった。
(ああああっスカートならよかったのにっ!)
まん丸く膨らみきった下腹部が張っていて、ベルトがはずれにくい。
おなかをへこませると、飛び出しそうな満タンのおしっこ。
典子は(まだよ!まだよ!)と自分に言い聞かせながら、必死になってベルトをはずしファスナーを降ろした。
しかしファスナーが降ろされたことで。膨らみきった膀胱が急にその位置を変えて下がり、それが刺激となったのか、堪えていたものがいっきに押し寄せようと暴れ出した。
「いやあ、待って待って!!」
典子はこの日、スリムジーンズを履いていた。
一気に下ろせないもどかしさを感じながら、腰と両足を左右にくねくねと動かして、必死でジーンズを下げようとする。
やっとヒザの上まで引き下ろしたとき、
<シュルルル・・>
典子の尿道が開いてしまった。
「いやーん!!」
下着の中で渦を巻くようにあふれ出したおしっこが、太ももの内側を伝って流れ出す。
「あああ、もぉぉぉ!!」
典子はしゃがみ込みながら必死でパンツをずらした。
しゃがんでおなかが圧迫されたことで勢いづいたおしっこは、完全に降ろしきれなかったパンツに跳ねて太ももに飛び散り、さらに・・・
<バチャバチャバチャ・・・>
なにか金属製の物に当たる音に変わった。
しゃがんだ足下に置かれたナベなどに、典子のおしっこが当たっているのであろう。
我慢して、我慢して、やっと解放されたそれは、もう今さら向きを変えるほどの余裕すら残さずに、そのまま大きな音を立てながら流れ続けていた。
「はあぁあ・・死ぬかとおもったぁ・・・」
まだ少し寒い春風をお尻に受けながら、典子のおしっこは続いていた。
(やだな・・英機さん・・見てないだろうなあ?)
典子はそのことが不安であったが、どうしてもそちらに目を向けられない。
やっとおしっこを終えた典子は、いったん立ち上がると壁に左手をつきながら、右手でジーンズを脱ぎにかかった。
右足を抜き、今度は手を入れ替えて左足。
そのジーンズを自分の首に巻き付けるようにして、今度はパンツを脱ぎ出す。
すっかりおしっこで濡れてしまったそれは、まだしずくを垂れていた。
ソックスが濡れてしまわないように、そっとそっと引き下ろして、交互に足首から抜いていく。
そしてありったけのティッシュを使い、濡れた太ももなども拭き取った。
このとき典子の格好は、上半身はフリースを着ているが、下半身は丸裸でソックスだけである。
後ろの方の民家から、だれか見ているかも知れない。
そう思うと、典子は怖くて振り返ることが出来なかった。
そして、もしこの場面を英樹が見てしまったら、典子はもう自殺するしかないとまで思っていた。
濡れたパンツをティッシュでくるみ、雑然と置かれている雑貨の中に放り込むと、今度はジーンズを履き出した。
典子は体毛が薄い。
それでもファスナーに引っかけないようにそっと引き上げ、初めて後ろを振り返った。
建物の角に英機の姿はないようだ。
遠くの方に目をこらしても、幸い誰も見ている様子はない。
典子はホっと一安心し、そそくさとその場を離れて英樹が待つ車へと戻っていった。
「おかえり!」
英樹がそういって迎えてくれた。
(あれ・・どこかでこれと同じような・・・)
典子は遠い過去。まだ子供だった頃に、お客さんで来ていた吉野美由紀に言われた言葉を思い出していた。
恥ずかしさで消えたくなっていた典子であったが、それを思い出した事で急に勇気づけられ、
「ごめんなさい。恥ずかしいところばっかり見せて・・・」
と、半ば開き直り気味に言った。
「ああ・・そういえば2回目だったよなあ。」
英樹が言った。
「あー、もう言わないでくださいよぉ、恥ずかしくて死にそうなのにぃ!」
典子は明るい声でそう言った。
先程までは恥ずかしくてたまらなく、トイレという言葉すら出せなかったのに、今は平気で言えるような、そんな気がしていた。
「いつごろから我慢してたの?」
「あ、あの・・ずっと・・」
「ずっと?まさか大阪からずっと?」
「もうぉ、レディにそういうこと聞くもんじゃありません!」
「はい、わかりましたお嬢様!」
「わかればいいです。さ、出発進行!!」
典子は努めて明るく振る舞った。
それから走ること数分で、ふたりは小さなドライブインに寄っていた。
(あーあ、ここまで我慢できていたらなあ・・・)
あんなに恥ずかしい思いはしていなかったのにと、典子は悔しく思っていた。
コーヒーを飲んで軽く休憩し、予定よりも遅くなったと言うことで、すぐに出発した。
しかし典子はまた車の中で落ち着きを無くしてソワソワしていた。
「あれえ、またトイレかい?」
「ち・・ちがいますよぉ!」
「だってソワソワしてるよ!」
「いいんです。気にしないでください!」
「そうかい。ならいいけど・・・」
実は典子のソワソワは、下着を脱いでしまっているために、ジーンズの硬い生地の縫い合わせが股間に食い込み、お尻が痛くなっていたことと、普段は触らない部分が刺激されて、力が抜けそうになるのを必死で堪えていたためであった。
そんなこと、口が裂けても英樹には言えない。
深いシートに浅く座り、典子は耐えながら送ってもらったのであった。
「大学に来たらさ、いつでも会いにおいでよ。」
「いいんですか。」
「ああ、テンコちゃんのようにかわいい子は大歓迎だ。」
「あ、そういう風に言われると・・私、期待しちゃいますよ。」
「期待してていいよ!」
「・・・ほんとですね!?」
「武士に二言はない。」
「じゃあ期待してよっと!」
「うん、では手始めにさ・・」
「?」
「このまま・・・ホテル行こうか?」
<ベチッ>
典子は英樹にデコピンした。
「いってぇー!」
その夜、また典子は寝付かれなかった。
「英樹さーん!!」
モゾモゾと布団の中で動き回って、1秒1秒膨らんでいく英樹への思いに浸っていた。
つづく