典子のエピソード(3)




 典子は中学生になった。
小学校は歩いて7〜8分で通えたが、中学は自転車で通う。
平坦な道ばかりであったが、それでも20分近くかかっていた。
 中学生になると制服を着るようになる。
制服は紺色のセーラー服で、幼さの中に一歩一歩大人へと近づきつつある典子は、とてもよく似合っていた。
 しかし典子はストッキングやタイツをはくことが嫌いで、よほど寒い日でない限り、ほとんど生足に白のハイソックスだけで通っていた。
 中学に入った当時は150センチだった身長が、2年生になる頃からグングンと伸び出し、秋頃には164センチになっていた。
はじめ膝丈だったスカートが、まるでミニスカートだったかのようになってしまい、当然男子の目を引く。
狭い農道を自転車で通学していると、男子生徒がいたずら目的でわざと勢いよく寄ってきて、バランスを崩した典子は、何度か田んぼや畑に落とされたことがあった。
「テンコのパンツ白パンツ!!」
はやし立てる男子に、
「アホぉ、スケベッ!!」
典子は土や石を投げてつけて応戦していた。
典子以外にも、何人かの女子生徒が同じ被害にあっているようであった。

 典子は放送クラブに入っっていた。
田舎の小さな中学なので、設備もろくに揃っていなかったが、それでもアナウンスすることに興味を持ち、2年生になると校内放送はもちろん、町の運動会や文化祭などのイベントにも協力して、持ち前の明るさを生かし、大人顔負けの進行役をこなしていくようになっていった。

 典子が中学3年の11月。
隣町との合併10周年記念文化祭が、町の公会堂で2日にわたって行われた。
記念イベントとあって、初日は大阪から吉本の漫才や、落語家桂●朝の記念講演があったりと、800人ほど入る公会堂は満席になっていた。
 典子たちがお手伝いをすることになったのは2日目。
2日目は毎年恒例のノド自慢や、婦人会のコーラス。実業界の寸劇、各学校の合唱やブラスバンド演奏と、盛りだくさんのプログラムがあり、スムーズに進行させるために、典子たちはマイクスタンドの設定や音響の調整、果ては楽屋への伝達などの裏方の仕事を手伝っていた。
司会進行は町役場の女性がつとめ、典子は補助的にしゃべる程度であった。

 この日は木枯らし一番が吹き付ける寒い日だった。
公会堂に暖房設備はなかったが、中は人の熱気で寒さなど感じるどころか、むしろ汗ばむほどであった。
 バタバタとあわただしく走り回って、美辞に午前中のプログラムが終了し、典子たちは舞台下手(しもて)の袖で弁当を食べていた。
役場から支給された弁当は、料亭から取り寄せた豪華な内容であったが、お酒のあてになるものがほとんどで、男子からは満腹にならないと不評であった。
「テンコちゃん、ちょっと無理を聞いてくれるかな?」
進行係の中年男性が典子に声をかけてきた。
「はい、何ですか?」
箸を置いて振り返る典子。
「いやね、午後からの照明がね・・・」
「?」
「上手(かみて)の照明係がね、午後から都合つかなくなって・・・」
「はあ?」
「テンコちゃんたちで誰か・・お願いできないかな?」
フロントサイドスポットライト(客席左右上部にあるライト)の係を手伝ってほしいと言うことである。
「私たちでも出来るんですか?」
「ああ、特に難しい事はないよ。」
「でも・・スポットライトでしょ?」
「通常はスポットではなくて舞台を照らすだけでいいし・・・」
「はい・・」
「スポットの時は下手から指示するから大丈夫だよ。」
「何人ですか?」
「いや、狭いところだしひとりで十分だ。」
「あ、だったら私やります!」
典子は部長の特権とばかりに、喜んでそう言った。
「そうか、助かるよ。」
男性はにこにこしながらそう言って、
「じゃあ食べ終わったら上手に来てくれよ。」
と、手を振って去っていった。
典子は大急ぎで食事を済ませ、午後からは照明の方に行くことを進行役の女性に断って、緞帳(どんちょう)が降りているステージを横切って上手へと向かった。
他の部員も興味津々でついて来る。
「やあ、急がせて悪いね。」
先ほどの中年男性が待っていた。
「じゃあさっそく見てもらおうか。」
と言いながら、
「あ、でもスカートだなあ・・・」
男性は典子の服装を見て困った顔をした。
その場所は、壁に打ち付けられた鋼鉄製のハシゴを登ったところにある。
高さはおよそ3メートル近くあった。
典子たちは全員学校の制服だった。
特に背の高い典子は、ミニに近いスカート丈になっている。
「じゃあ先にあがるから・・気をつけて登っておいで!」
男性はそう言ってハシゴを登っていった。
「みんな、上を見たら殺すよ!」
典子はきつい口調で言って、特に男子たちが覗かないようにクギを刺してよじ登っていった。
「テンコ、丸見えだよ!」
かおるが、下で大きな声で言った。
典子が気になって下を見ると、男子はかなり離れたところに押しやられていたが、かおるだけが真下から見上げて笑っていた。
「すけべっ!」
先に登っている男性に手を借りて典子は登り切った。
 その場所はたたみ1畳もないほどの小さな暗いスペースで、いくつかのライトが設置されている以外は、小さなイスと手元用ライト、インターフォンがあるだけの粗末なところで、典子の身長では中腰にならないと頭を打つほどの天井高である。
ふたりでは確かに狭い。
典子は下から覗かれないように、できるだけ奥の方に身を寄せた。
客席を見下ろすとかなり高い位置にある。
4人がけの木製ベンチシートは、お昼を食べながら午後の部の開演を待っている人たちで、ほとんどが埋まっていた。
「ちょっと練習してみるかい?」
男性はインターフォンで下手に連絡し、ライトの電源が入った。
「ここを操作すると・・・こうなってね・・・」
緞帳に向かってライトが動く。
「で、スポットはここを・・・焦点はこう・・・」
典子は教えられる通りに操作していった。
「電源の開閉は下手でやるから、テンコちゃんは操作だけでいいからね。」
「はい、がんばります。」
典子は照明用の進行表を受け取った。
「都会のホールだと、みんなリモコン操作で出来るそうだよ。」
「そうなんですか?」
「うん。ここはもう古いからねえ。」
「でも私、ここ好きですよ。」
「ははは、まあそれなりの設備はあるしね。」
「はい。」
「じゃあライトを切ろう。下手にそう連絡してごらん。」
促され、典子はインターフォンに向かって下手の係に挨拶し、電源を落としてもらった。
「じゃあ悪いけど頼んだよ。」
中年男性は典子の肩をポンとたたき、ポケットから缶入りのお茶を取り出して置いていった。
(よーし、がんばるぞー!!)
典子はそのお茶を口に含み、手元ライトをつけて進行表を確認する。
(えっと・・まず老人会の民踊か・・早速スポット使うんだ!)
典子に緊張感が走った。
(あっと・・その前にトイレ行っておかないと・・・)
朝の8時過ぎから準備を手伝い、進行に追われていた典子は、この会場に来てからまだ一度もトイレに行っていなかった。
お昼が終わったら行こうと思っていた矢先に、ライトを頼まれたのであった。
有頂天になって、すっかり尿意のことを忘れてしまっていた。
時計を見ると、後わずかで午後の部が始まる。
(早く行ってこないと遅れちゃう・・・)
典子はあわててライト室から降りようと身を乗り出した。
「え!?」
下には民踊の次に出番を待つ商工会の人たちがたむろしていた。
通常は下手がメインになるが、進行の都合上、交互に待機してもらうことになっている。
(やーん、人がいっぱい・・・)
ミニっぽいスカートの典子は躊躇した。
(やだなあ・・パンツ見られちゃう・・・)
誰にも気づかれずにハシゴを降りるのは難しい。
典子が困っていると、
「おう典子ちゃん、今度はライト係かい?」
一人の青年が典子に気づいて、見上げるように声をかけた。
毎年、民宿の確定申告の時にお世話になっている人であった。
典子は恥ずかしくなり、会釈だけすると身を引いて小さくなっていた。
(困ったなあ、降りられないよ・・・)
典子は仕方なく我慢することにして、誰もいなくなるまで待つか、下にいるのが女の人だけの時をねらって降りようと思った。

 午後の部が始まり、典子は一気に緊張した。
下手からの指示に従って、ライトを動かしていく。
「青い着物の人をスポットで追って!ゆっくりね!」
「いいよ、その調子。」
「はい、スポットの範囲を広げて!」
次々と聞こえてくる指示に、典子は尿意を忘れて操作していた。
「OK!、次の曲は何もしないよ!」
何曲目かでやっとライトから手を離すことができ、緊張していた典子はお茶を飲んだ。
ホっと一息入れると、忘れている尿意がよみがえる。
公会堂の中は熱気に包まれていても、外は木枯らし一番が吹いている。
ライトの放射熱で顔は熱いが、足下はけっこう冷えており、どこからか冷たい風が入ってきて、素足にハイソックスという典子の足を冷やしていた。
まだ持ち場を離れることはできないが、典子はそっと下の楽屋を覗いてみた。
そこにはやはり大勢の人が出番の打ち合わせなどをしている。
先ほどよりも人数が増えたようにも思えた。
(・・いつトイレ行けるかなあ・・・?)
典子は一抹の不安を感じ、スカートから顔を出している膝を、ライトの余熱で熱くなっている手でさすっていた。
 老人会の民踊が終わると、さっそく商工会のコントへと舞台が変わった。
特にライト操作が必要でない演目であったが、上演時間が未定となっており、いつ終わるか知れないので離れられない。
(やばいなあ・・何もしてないとおしっこしたくなるぅ・・)
会場は爆笑の嵐になっているが、典子は舞台を見る気になれなかった。
(あーあ、ちょっと調子に乗りすぎたなあ・・・)
今更にして、典子は喜んでライト室に来たことを後悔し始めていた。
(やっぱり先にトイレ行っておけばよかったなあ・・・)
(えっと・・どれぐらい行ってないんだっけ?)
(え・・もう6時間ほど行ってない!!)
(お茶とか・・けっこう飲んでいたもんなあ・・・)
(わっ、おなかを押さえたら漏れそう!)
冬服のスカートの上から、そっと下腹部を押さえてみた典子は、実はけっこう膀胱が張っていることを再認識した。
(なんか私って・・・よくおしっこ我慢してるなあ・・・)
たしかに典子は、これまでからおしっこに悩まされることが多かった。
小学校の卒業式では季節はずれの小雪が舞い、寒い講堂でかなり長い時間我慢させられていた。
(あの時はみんなよく我慢できたなあ・・・)
中1の夏休み、民宿のお客さんとボートで釣りに出た時も、帰ってくるまでずっと我慢していた。
(コーラを飲んだ後だったもんなあ・・・)
雪が積もった学校帰り、自転車を押しながら歩いていて、ギリギリで家に着いたこともあった。
(あは・・あの時は・・パンツ脱ぐ前に漏らしてたっけ・・・)
舞台のコントは目に入らず、典子はそんなことばかり思い浮かべていた。

 プログラムが進み、それなりに照明をこなしていた典子であったが、下腹部で感じる違和感は時間を追うごとに強くなっていき、その存在を主張していた。
 進行表の先を見て、特に手をかけなくてもよい演目の時にトイレに行こうと考えていた典子であったが、いざ降りようと思うとハシゴの周りに人がいて、下着を見られる恥ずかしさから、どうしても降りることができなかった。
(どうしよう・・・おしっこしたいのに・・・)
どこから漏れてくるのかわからない足下の冷たい風が、時として典子の膀胱を刺激していた。
 ライト操作に慣れてきた典子は、片手操作だけよい時になると、スカートの上から前を押さえるようになっていた。
すきま風から逃れるように、しきりに足の位置を変え、少しでも暖めようと、その足をこすりあわせたりもしていた。
 ライトの熱で顔は熱い。
しかし足下はすっかり冷え、尿意をいっそう強くする。
持ち場を離れてはいけない責任感と、仮に離れることができても、ハシゴを降りる時に下着を見られてしまうかも知れない恥ずかしさがあって、典子は耐えていた。
(誰か・・ズボンを持って来て交代してくれないかなあ・・・)
しかし放送クラブの誰かに頼もうにも、連絡手段がない。
下手の係の人にインターフォンで頼めば、誰かに連絡してくれるかもしれないが、いかにも「トイレに行きたい!」ということを告げることになるので、それは典子にとって恥ずかしくて出来ないことであった。
 舞台では小学生の鼓笛隊演奏が始まっていた。
ライト操作はほとんどない。
典子の左手はスカートの中に入り、じかにパンツの上から押さえていた。
「はぁ・・・」
ため息が出る典子。
押さえている左手を両方の太ももで強く挟み込んでいた。
(どうしよう・・我慢できないかも知れない・・・)
もしここで漏らしてしまったら、公会堂の人に知られてしまう。
床の隙間からおしっこがどこかへこぼれていくかも知れない。
(そんなの絶対ダメダメッ!!)
典子は自分に言い聞かせるようにして、更に強く太ももに力を入れた。
(ああ・・でもしちゃいたいよぉ!)
尿意の波がおそってきて、典子はこすり合わせている太ももに力を入れ、押さえている指を更に奧に押し込むようにしていた。
「・・え・・?」
典子は股間に熱いものを感じた。
「え・・やだ、漏らしちゃった??」
パンツにも少し湿った感触がある。
典子はそっと足の力を抜き、おそるおそる左手をパンツの中に入れていった。
おなかを押さえないように、そっと下の方に指を滑り込ませる典子。
お風呂とトイレ以外では触ったことがないそこに、典子は初めて自分の意志で指をはわせた。
大人へと成長しかかっているわずかな証。その先にあるワレメに指をはわせる典子。
(え・・なに!?)
奥の方に、あきらかにおしっこではないヌルっとした感触が感じられた。
その指の刺激を受けて、再び激しい排尿感の波が襲ってきた。
「いやっだめぇ!」
思わず小さな声を上げた典子は、太ももに力を込めて指ごと挟み込んだ。
「!!!」
ビーンと、背中から頭にかけて電気のような感覚が走った。
同時に脱力感のようなけだるさも走る。
(え・・え!?)
両足をすりあわせると挟まれた指も動いて、またビーンとした感覚が走る。
「あぅっ」
学校で一通りの性教育は受けていた。
しかし、具体的に体がどう反応して、どういう状態になるかまでは教わっていない。
体はどんどん成長していたが、精神的にはまだ幼い典子。
激しい尿意を堪えることと、初めて体験する神秘的な感覚に包まれて、叫び声を上げそうになっていた。
(ああ・・おしっこ漏れそうだけど・・これって・・・)
指で直に尿道口あたりを押さえ、指の関節を小刻みに動かしてしまっていた。
(あっ・・あっ・・おしっこ出ちゃうぅ!)

 「テンコ、生きてるかー!?」
誰かが下の方から呼ぶ声に、典子は我に返った。
気がつくと小学生の鼓笛隊演奏はすでに終わり、ライトは消されていた。
「テンコー!」
再び呼ぶ声に、典子はあわてて下着から手を出し、スカートを直して身を乗り出して見た。
中学校のブラスバンドクラブの生徒たちが、ライト室を見上げている。
「テンコー、俺達をしっかり照らせよー!」
「俺のソロも頼むぞー!」
「私もスポット当ててねー!」
みんなが好き勝手なことを言いながら典子に手を振っている。
典子も手を振って引きつった顔で笑って見せた。
次は典子の中学校のブラスバンド演奏だ。
そのあと中休みに入る。
演奏中は、特にライトの操作は指定されていない。
放送クラブの仲間がステージの設定を終えると、ブラスバンドの面々が定位置に着き、演奏が始まりだした。
その演奏は力強く、音は会場の壁に大きく反響して典子の足下にまで響いてきた。
「つぅ・・」
めいっぱい堪えている典子には辛い振動だ。
(だめ、もう我慢できない!)
典子はもうどうしようもなくなって、身を乗り出した。
「あ、誰もいない!!」
次が中休みにはいるためか、上手の袖に人影はない。
典子はもう一度進行表に目をやった。
ブラスバンドの演奏は3曲。
およそ10分ほどであろう。
「今しかない!!」
典子はそう決心して、後ずさりするような格好でお尻を突き出し、手すりにつかまりながら鋼鉄製のハシゴに足をかけた。
(お願い。誰も来ないでー!)
そう祈りながら一段一段と足を下ろそうとするが、限界近くまで膨らんでいる膀胱が気になって、足に力が入らない。
先ほど体験した初めての感覚の余韻も残っていて、手にも力が入らない。
おまけに一段の間隔が30センチほどあり、大きく脚を伸ばしたりすると漏れ出しそうになる。
(まだダメーっ!)
泣きたくなるほど辛い体制で、典子は気が遠くなりかけた。
とそのとき、力が入らない手が滑り、典子の体がフワっと宙に浮いた。
「ひっ!」
あと一段と言うところで、典子は落下してしりもちをついてしまった。
しかしそこには足音を押さえるために敷かれたカーペットがあり、典子の受ける衝撃を吸収してくれ、かろうじてお漏らしするまでには至らなかった。
(ああ・・アブなかったぁ!!)
めくれあがったスカートを直し、典子は立ち上がって走り出した。
 暗い楽屋を一気に廊下に向かう典子。
左手はしっかりと前を押さえていた。
下着に冷たい感触がある。
それが落下の衝撃で少し漏らしたものなのか、あるいは先程のヌルっとしたものによるせいなのか、典子にはわからなかった。

 楽屋口の扉を開け、廊下を曲がったところにあるトイレに走った典子。
「うっそぉ!?」
思わず声を出して叫んでいた。
先程演奏を終えた小学生も含め、女子トイレは廊下まで人が並んでいる。
(いやーん、どうすんのよぉ!)
よく見ると。男子トイレにもおばさんたちが出入りしている。
それでも個室にたどり着くには、数人待たなくてはならないようだ。
熱気に包まれているとはいえ、やはり木枯らし一番の寒さが影響しているようである。
(だめっ、そんなに待てないよぉ!!)
もうほとんど気力だけで堪えている尿意と、演奏が終わるまでに戻らないといけない時間の切迫感で、典子はうろたえた。
(どうしよう・・どうしよう・・・)
典子は屈伸運動のように体をくねらせながら途方にくれた。
「あ・・ぅ」
いよいよ典子の我慢が利かなくなってきた。
冷たい下着に、熱い感触が走る。
トイレに行けると思った安堵感で、頭からの指令を無視した括約筋がゆるみだしている。
(やっやだっ、ちょっと出ちゃった!!)
あわてた典子は、どうすることもできないまま楽屋口へ戻った。
(出ちゃう、出ちゃうぅ!!)
スカートの前をめくりあげ、パンツの上から思い切り両手で押さえる典子。
舞台道具などが雑然と置かれている暗い楽屋の中を小刻みに飛び跳ねていた。
 ブラスバンドの演奏が3曲目に入ったようだ。
残された時間はわずかしかない。
(どうしよう・・出ちゃうぅ!)
もうすぐみんなが戻ってくる。
こんなところでお漏らしはできない。
典子はせめて人目につかないように隠れようと、サブ舞台などの大道具が積み上げられた隙間に身を入れた。
奥行きわずか2メートルほどの隙間だが、もうここに隠れるしかない。
(ここでしちゃおう!)
ここなら、しゃがんでしまえば周りからは見えないであろう。
振り返ってみても誰もいない暗い楽屋の隅。
(でも・・・)
床をおしっこで濡らしてしまったらと思うと、典子は気が気ではない。
通り道になっている方に流れていくかもしれない。
(ああっ、もう出ちゃうっ!)
立っていることが辛く、体が崩れ落ちそうになるのを堪える典子。
積み上げられた大道具で体を支えようと伸ばした右手の先に、ホコリをかぶった新聞紙の束があった。
肩で呼吸をしながらそれを見つめていた典子は、
「いいよね、いいよね!!」
自分に言い訳をしながら、震える手でその新聞紙の束をつかみ、厚さにして1センチほどを引っ張り出すと、バサっと自分の足下に広げた。
小刻みに足ふみしながらそれをまたぐようにして立つと、一気にパンツをずり下げてしゃがんだ。
「ごめんなさい!」
誰に謝るでもなく、典子は口走った。
シュシュィシュワシュィジュイーー・・・
それと同時に複雑な音を立てながら、典子のおしっこが勢いよく飛び出してきた。
ドボドボと新聞紙にたたきつけられたそれは、しぶきを上げて広がっていく。
50センチほど先の壁まにまで届いていた。
かなり大きな音であろう。
しかし幸いにもブラスバンドの演奏で消されている。
「はああ・・やっとおしっこできたぁ!」
ゾクゾクする電気のような感触を背中に感じながら、典子はこれまでにないほどの気持ちいい開放感を味わっていた。
が・・・
(いやーん、早く終わってよぉ!)
膀胱の許容量を超えるほどに溜めていたおしっこは、ブラスバンドの演奏が終わりかかっているにもかかわらず、まだ出つづけている。
(早く、はやくぅ!)
途中で止めようと何度かお尻に力を入れてみたが、勢いよく出ているおしっこは全く止まる様子がなく、角度は少し変わる程度にしかならなかった。
(あーん、終わってよぉ!)
30秒ほどしてようやく典子のおしっこが勢いを無くし、ポタポタとしずくになったとき、ブラスバンドの演奏もクライマックスのシンバル音が鳴っていた。
典子はスカートのポケットからティッシュを取り出すと、あわてて後始末をし、パンツをあげながら立ち上がって、別の新聞紙を引っ張り出し、おしっこで濡れた上に重ねて染みこませ、一気に元の場所に跳ね上げた。
おしっこを含んだそれはずっしりと重く、ビチャっという音を出して大道具の上に乗った。
新聞紙を敷いたおかげで、床はそれほど濡れていないようである。
奧の壁にまで飛び散ったしぶきは無視しよう。
典子は後始末をしたティッシュを新聞紙の間に挟み込み、
「ごめんなさい!」
もう一度そう言ってお辞儀をし、とって返してその場を離れた。
シューズにしぶきがかかっている。
ハイソックスも所々冷たい感じがする。
しかし今はそれどころではない。
暗い楽屋をそそくさと走り抜け、軽くなった体で一気にハシゴを登った。
それはちょうど演奏が終わって、拍手に送られたみんなが上手に引き上げて来る直前であった。
(ふぅう、危機一髪・・・)
額の汗を手でぬぐいながら、典子はほっとした。
(あぶなかったよぉ・・・)
時計を見ると3時になろうとしていた。
(ひええ、8時間近くも我慢してたんだあ!、ごめんねえ。)
典子はおなかをさすりながら膀胱に謝っていた。
 少し漏らしたので下着が冷たい。
典子は誰からも見えない場所をいいことに、イスからお尻を浮かせてそっとパンツをずらした。
残っているティッシュを濡れた部分に押し当てると、ヌルっとしたものも下着に着いていた。
(・・・・・)
もうおしっこはしてしまったのに、典子の部分にはまだ熱い感触がある。
そっと指をはわせると、またおしっこではない液体がにじみ出していた。
(私って・・・エッチな気持ちになってる・・・!!)
まだまだ幼さが残っている典子が、また一歩大人への階段を上り始めた日であった。


つづく

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