典子のエピソード(1)




 昨年旅行した和歌山県白浜温泉。
下柳典子は、そこで3歳年下の小原由衣と知り会った。
旅行から帰ってもメールのやりとりが続き、近いうちにまた会いたいねという話まで飛び出す仲になっていた。
 12月のある日、典子は調べものがあり、自室のパソコンで検索作業をしていた。
その作業中に、典子は尿意を感じだした。
「ああもう、うっとおしいなあ・・」
しばらく我慢しながら作業を進めていたが、尿意に負けた典子はふと「おしっこ行きたい」とキーを打ち、検索ボタンを押してみた。
かなりのヒットがある中で、典子の目を引いた「初めてのおしがまエッチ」と「初めてのおしがまデート」という告白風な文章。
それに興味を持った典子は、初めてROOM水風船というホームページに巡り会った。
「へぇえ、こういうサイトがあったんだ!」
滅多にネットサーフィンなどしない典子が、尿意のことも忘れて読み続ける。
それほど興味深い内容のホームページであった。
「えっ、これっ!?」
典子の目に飛び込んできた「おしがま旅行」という小説。
読み出した典子はこのとき、白浜で出会った小原由衣が、小説の作者チョビであることを悟った。
(そうだったのかあ由衣ちゃんって・・あー、だまされたー!!)
白浜温泉でのことが、まるでつい昨日の出来事のようにこと細かく描かれているその文章を読みながら、典子は由衣の隠された一面を知り、ますます親近感を持つようになった。
一刻も早く由衣に会い、いろんな話をしたい。
典子はそう思い「お正月が明けたら会おうよ!」とメールしていた。

「こんにちはチョビちゃん!!」
新大阪駅に降り立った由衣に、出迎えの典子の第一声がこれであった。
一瞬由衣の顔が曇り、ぽかんと口を半開きにして固まってしまった。
「あはは、ごめんねえ、ビックリした? 読んだよぉ、小説!!」
「ぁ・・」
「もうお、全然教えてくれないんだから。」
「ぁ・・」
「うーん、まいったまいった!」
固まったままでいる由衣の荷物を手に取ると、典子は由衣を引きずるようにして歩き出した。
 新大阪駅そばのWホテルの中にある創作料理の店に入り、ワインを飲みながらいきさつを話す典子。
それを聞きながら、由衣もようやく落ち着きを取り戻したようだ。
「で、これからどっちで呼ぼう。由衣ちゃん?チョビちゃん?」
「も〜、由衣にしてくださいよ〜。」
「あはは、そうなの。チョビちゃんの方がかわいいのに!」
「チョビは・・ネット上の名前ですよ〜!」
「そうなの?、彼もそう呼ぶんじゃないの?」
「最近はもう・・名前で呼んでいます。」
「最近・・? ってことはぁ、前はチョビって呼ばれてたんだ!」
「もう勘弁してくださ〜い。」
まだ伏し目がちに話す由衣が、文章ではかなり大胆な描写まで書けるというそのギャップに、典子はますます興味を持った。
ちょっとエッチなことを聞いたりすると、すぐに真っ赤になる。
典子は由衣の反応がおもしろくて、かなりつっこんだ話などして困らせ、半泣きの由衣をからかっていた。
(へぇえ、ほんとにこの子があんな文章をねえ・・・)

 ミナミの街を一緒に歩き、由衣をあちこち連れ回した典子は、夜11時すぎに部屋に戻ってきた。
「由衣ちゃん疲れたでしょう。先にお風呂入りな!」
典子は遠慮する由衣をせき立てるようにバスルームに連れて行った。
そして頃合いをうかがい、典子も入っていく。
「の、のりこさん!?」
由衣は驚いて、恥ずかしそうに体を丸めた。
「背中を流してあげるね。」
典子はそういうと、タオルにボディーソープを吹きつけ、泡立てながら由衣の背中に座った。
狭いバスルームで二人の肌が触れあう。
タオルで背中をこすりながら、典子は時々いたずらっぽく、その手を由衣の胸に持って行った。
「やっ!」
ビクンとして身を固くする由衣の動作が、典子はおもしろくてたまらない。
「由衣ちゃんて、感じやすい体してるんだね。」
「そんなこと・・ないですよぉ・・」
「そうお、ほーら!」
典子はタオルではなく、素手で由衣の胸に触れた。
「くん!」
ビックリしたように由衣がふるえる。
その先端の小さな突起を、典子は指でくねった。
「あはは、固くなってきた!!」
「も〜、やめてくださいよぉ!」
由衣は体を揺すって典子の手から逃れようとしていた。
「由衣ちゃん、かわいいっ!」
典子は由衣の胸に置いた手をゆっくりと動かしながら、背中越しに抱きしめていた。
「前にも言ったけど、私レズじゃないよ!」
典子の言葉に、由衣は何の反応もせず、じっとしているだけであった。
 狭い湯船に典子が浸かり、その上に由衣を座らせた。
いかに由衣の体が小さいと言っても、二人が浸かったことでお湯が一気にあふれ出す。
それを見ながら典子は、
「あつしくんだっけ、いつも一緒にお風呂入ってるの?」
と、また由衣が困る質問を浴びせかけていた。

 お風呂あがりのビールを飲みながら、二人はとりとめのない話をしていた。
やがて話は「おしがま」になり、ふたりは目覚めたきっかけや経験などを話していた。
そのうち由衣は眠くなったようで、典子の話を聞きながらトロンとしだした。
「由衣ちゃん、もう寝ようか?」
典子が言うと、
「うん・・」
由衣はそう返事しながら、すでに半分眠っているようである。
「おしっこ行かなくていいの?」
そう聞いても返事をしない由衣。
「ビール飲んでるから、おねしょしちゃうよ。」
それでも返事がない由衣。
「もうこの子はっ!」
典子は笑いながら由衣の手を引いて一緒の布団に入った。
すると由衣は典子の方に体の向きを変え、パジャマの中に手を入れてきた。
「え?」
小さな手はちょうどボタンとボタンの間に入り込み、ブラを着けていない典子の胸の上に届いた。
「由衣ちゃん!?」
典子は一瞬驚いた。
その典子に、抱きつくような感じで横になり、足も絡めてくる由衣。
典子の二の腕を枕にし、上目づかいに典子の顔を見たかと思うと、すぐに目をつぶってしまった。
やがて半開きの口から、スースーと寝息が漏れだした。
(あらあ、もう寝ちゃってる。)
その顔はまるで、母親に甘えて眠る子供のようでもあった。
(もう、この子って大人なんだか・・子供なんだか・・)
安心しきったように眠る由衣の顔を見ていると、典子はますます由衣のことがいとおしくなっていた。
(きっと、いつも彼氏にこんな風にされて寝てるんだろうな・・・)
そんなことを考えていた典子も、いつしか心地よい睡魔に誘われだした。
ビールを飲んでいたので、軽い尿意を感じていた典子であったが、気持ちよさそうに眠る由衣を起こすのがかわいそうになり、
「ま、いいかあ!!」
同じように飲んでいる由衣も眠ってしまったことだしと、あきらめ、腕枕をしたまま、胸の上に手を置かせたまま、眠りの世界に入っていった。

※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※・※*・*※

 典子は子供の頃、兵庫県北部の海沿いの町に住んでいた。
家は民宿をしており、夏は海水浴、冬はカニ料理の宿として、たくさんのお客を迎える環境であった。
 小学校4年の2月。
京都からのお客が、城崎(きのさき)まで来たが連絡の列車がなくて困っていると知らせがあり、父親が車で迎えに行くことになった。
「典子、城崎の駅までお客さんを迎えに行くぞ!」
玄関先でひとり雪遊びをしている典子に父親が言った。
「あ、のりこも行くーっ!」
典子はそう言って、タウンエースの助手席に乗り込んだ。
 城崎温泉までは京阪神から特急列車が多いが、そこから先は極端に本数が減る。
父親はこうして出迎えに行くことがよくあり、典子は席に余裕があるときはいつも乗せてもらっていた。
 夕方の5時近くになり、辺りはうす暗くなっている。
また降り出した雪がライトに照らされて、視界を悪くしていた。
「今夜はまた積もるぞ・・・」
父親がポツリと言った。
激しく打ち付ける白い波しぶきが眼下に見える山道を走る。
 20分ほど走ったところで、典子が言った。
「おとうさん・・のりこ・・おしっこしたい。」
雪遊びで濡れた長靴が冷えて、典子は急に尿意を感じだしていた。
「ん?、おしっこか・・・こまったな・・」
父親はバックミラーを見たり、周囲を見渡したりして、
「ここでは停まれないなあ・・」
と言った。
山道の下り込みであり、すぐ後ろにも何台かの車のライトが続いている。
ここで停車するのは危険であると、子供の典子にも理解できた。
「もう5分ほどで着くぞ。駅まで我慢できるか?」
ハンドルを切りながら言う父親に、
「うん、大丈夫!」
典子は明るい声で言った。
たしかに我慢できる程度の尿意であった。
「そうか・・典子はいい子だ!」

 城崎駅前ロータリーのタクシー乗り場の脇に停車させると、
「待合室を見てくる。待っていなさいよ。」
父はそう言って、車を降りて走っていった。
ドアを開けただけで、車内には横殴りの雪が舞い込んできた。
(今のうちにおしっこ行きたいなあ・・?)
ぼんやりとそんなことを思っていた典子であるが、車のエンジンはかかったままである。
だまって車を降りるのはどうかと迷った。
もし父親と入れ違いになると、心配したと怒られるかもしれない。
(はやく戻ってきてよぉ・・)
そう願っている典子の目に、父親に先導されて走ってくる人影が見えた。
「あっ!」
その人たちは毎年夏と冬、典子の民宿を利用している吉野一家であった。
「すみませんねえ、時刻表を見ずに出てきたもので・・・」
吉野のおじさんが後部座席に乗り込みながら言った。
「あら、のんちゃん、こんばんは。元気だった?」
おばさんが言う。
「・・はい・・」
典子は恥ずかしそうに下を向いていた。
吉野一家は3人で、中学2年の娘・美由紀がいた。
典子はこの家族から「のんちゃん」と呼ばれて、まるで娘のように、妹のようにかわいがられていた。
夏は一緒に泳いだり、ボートに乗ったり、冬は一緒に城崎温泉の外湯巡りに連れて行ってもらったり、出石(いずし)に皿そばを食べに連れて行ってもらったりしていた。
そんな典子が去年の夏、お風呂上がりの裸を吉野のおじさんに見られてしまい、それ以来目を合わせることができなくなっていた。
もっともこれは、いつまでも裸でウロウロしていた典子が悪いのであって、ビールの追加を頼みに来たおじさんにしてみれば、不可抗力であったとしか言えない。
「雪が激しいから、急いで行きましょう!」
典子の父はそう言って、勢いよく車を発車させた。
(あ、トイレはっ!!)
典子はのど元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。
(おとうさん、のりこのこと忘れてるーっ!)
そう言いたい典子だが、いくら慣れ親しんでいる吉野一家であっても、お客さんであって、寒い中を待ってもらっていた上に、またここで自分がトイレに行く間を待ってもらうのは、子供心にも気が引けた。
いやそれ以上に、裸を見られてしまった吉野のおじさんを意識してしまい、
『おとうさん、トイレ!』
とは、自分からはどうしても言えなかった。
(もうっ。おしっこしたいのにぃ!)
トイレに行くチャンスをくれなかった父親を、典子はにらみつけていたが、今更どうすることもできない。
 山陰線の踏切をわたり、円山川に沿って車は走っていった。
「のんちゃん何年生だったっけ?」
「今夜も一緒にカニ食べようね!」
「明日また外湯巡りしようね!」
おばさんと美由紀ちゃんが後部座席から話しかけてくる。
初めはそれなりに返事をしていた典子であるが、雪で車がスりップして大きく揺れたりすると、一気に尿意が高まってきて、次第に生返事をするようになってしまった。
かじかんだ手で、しっかりと前を押さえている。
「典子、ちゃんと返事しなさい!」
父親が、いい加減な返事をする典子を叱った。
「・・・」
おしっこがしたくてたまらなくなってきた典子は、ただ黙ってうなだれていた。

 峠を登り切って下り込みになると、雪はやや勢いを弱めてきたものの、道もすっかり白くなって、前を走る車も徐行運転になっていた。
「ちょっと時間がかかりそうですねえ。」
典子の父が言った。
「ええ、急いでいませんから、安全運転でお願いします。」
おじさんが言う。
しかし典子は気が気ではなくなってきていた。
おしっこをしたいと言い出してから、もう40分が超えている。
今のままの速度で走っていくと、どう考えても家に着くまでには30分以上かかる。
(そんなにガマンできないっ)
冷えた体の小さな膀胱は、もういつはじけてもおかしくないほどに膨れあがってしまっていた。
両手で膝小僧をしきりにこすり合わせて耐える。
不安そうに外を見つめるその唇に、血の気がなくなってきて、
(おしっこしたいよぉ、もう出るよぉ!)
何度も心の中でそう叫んでいた。
必死で我慢している典子に気づかない父親は、どうでもいいような世間話をしている。
お客さんを退屈させないためであろうが、幼い典子はおしっこが漏れそうになっていることを気づいてほしくてたまらない。
誰にも気づいてもらえないことが不安をかき立て、激しい尿意の波が押し寄せてきた。
「はっ・・」
ため息のような吐息を漏らした典子。
足に挟んだ手に力を入れ、思い切り押さえることで難を逃れようとした。
やがてすぐに波は収まり、少し安心した典子だが、雪の轍(わだち)にタイヤが乗り上げて揺れたとき、
「あっ!」
再び激しい波におそわれた。
幸い漏れ出すことはなかったが、もうこれ以上我慢できないことは自分でもわかる。
(出ちゃう、出ちゃう。どうしよう・・)
知らないうちに涙が溢れてきていた。

 道が少し平坦になってきた。
しかし雪はまた激しくなり、横殴りで吹き付けて窓の外は何も見えない。
車はワイパーの動く範囲だけの視界になっていた。
雪がライトに反射して何も見えなくなるので、フォグランプに切り替えて走る。
それでも吹き付ける雪の勢いは激しく、
「ちょっと・・危険ですので・・・」
典子の父はそう言うと、道幅がやや広くなっている路肩に車を寄せて停車させた。
「少し小降りになるまで・・よろしいですか?」
「そうですね。危ないですから、待ちましょう。」
大人たちが会話している。
典子は絶望という崖っぷちに立たされてしまった。
必死で押さえていることで、かろうじて持ちこたえているおしっこ。
もうこれ以上の我慢はできない。
(おしっこしたいっ、おしっこしたいっ、おしっこしたいっ!)
何度も何度も心の中でそう叫び、ついに、
「おとうさん・・おしっこ・・・」
涙声で父親に訴えた。
典子の父は、
「あっ、そうだった典子、おしっこ我慢してたんだったな!」
今更思い出したように言った。
「あらあ、のんちゃんおしっこしたかったの?」
おばさんがが後ろの席から声をかけた。
「いやあ、城崎駅でさせるつもりが・・ついうっかり・・」
典子の父は、申し訳なさそうに言った。
典子はブルブルと体を震わせて耐えている。
「仕方ない、外でしておいで!」
父はいとも簡単にそう言った。
「だってぇ・・・」
典子はしゃくり上げながら言う。
外は猛吹雪のように雪が舞っている。
あたりは真っ暗に近く、車のライトだけが明かりである。
そんなところに出て、ひとりでおしっこをするということは、幼い典子には恐怖であった。
「我慢できるのか?」
「できなぁい・・」
「だったら、しておいで!」
「だってぇ・・」
小学校4年生の典子には、タウンエースの助手席は結構高い。
そこを自力で降りること自体、もう不可能かもしれない。
その行動で、一杯にまで張りつめた膀胱が開いてしまうのではないかと典子は思った。
「だってぇ・・・」
動くことで漏れ出しそうな恐怖に、典子は体をくねくねと揺らしながら手で押さえることしかできなかった。
それが父親にはだだをこねているように感じられたのか、
「さ、早くしてしまいなさい。」
ちょっときつい口調で言った。
「・・・」
「どうした、恥ずかしいのか?」
「・・・」
「返事をしなさい。」
「・・こわいもん・・・」
「ん、怖い?」
「・・真っ暗だもん・・」
「おとうさんがそばにいてあげるから!」
「いやっ!」
「じゃあひとりでできるね!?」
「・・・」
「どうした!?」
「だってぇ・・」
「早くしなさい。」
「だってぇ・・動いたら出そうだもん・・」
「そうか、よしちょっと待ちなさい!」
典子の父はそう言うとドアを開け、
「すみませんね、ちょっとこの子に・・させますので・・」
そういいながら車を降り、助手席の方に回ってきた。
そのわずかな時間で、もう父親の全身に雪が積もる。
助手席のドアを開けると、
「すみませんね、さ!」
吉野一家に謝りながら、典子をおろそうと、脇に手を入れた。
「ご主人、私が傘をさしましょう!」
おばさんがそう言って、後ろの席のドアを開けた。
「いやあ、そんなことまで・・申し訳ないです。」
恐縮する父だが、あまりに激しく降る雪に、さすがに典子がかわいそうに想ってか、その好意に甘えることにした。
 涙でぐしょぐしょになっている典子は、父親にだっこされるように車から降ろされた。
左手はしっかりと足の間に入り、押さえたままである。
この日典子は祖母のお下がりのズボンをはいていた。
ウエストがゴムである。
そのことが幸いし、典子は父親が手を離すと同時に両手でズボンとパンツを一緒に下げた。
手を離したことで、典子のおしっこは重力に従ってすでに流れ出している。
下腹部に刺すような冷たさと寒さを感じながら、典子はタイヤの脇にしゃがみ込んだ。
おしりに冷たい雪が触れる。
しかし、ジーーという音を出しながら、おしっこが飛び出してしまったので、もう位置を変えることなどできない。
真っ暗な中で、横殴りの雪の中で、小さな典子はうずくまっていた。
おばさんが、すぐ脇にしゃがんで傘を差しかけてくれた。
そのことが恥ずかしくてたまらない。
しかしずっと堪えていた典子のおしっこは、ますます勢いを増し、典子の足下の雪を溶かしながら湯気を立て、降る雪を白く反射させていた。
「ずいぶん我慢してたのね。かわいそうに・・・」
おばさんが、典子を雪から守ろうと、さらに腰をかがめながら言った。
(はずかしいよぉ。はずかしいよぉ・・)
・・・おばさん、そんなにそばに来ないでぇ!
・・・おじさんも見ているんだろうなあ・・
・・・美由紀おねえちゃんにも見られているぅ。
・・・ずっと我慢していたことを知られてしまったぁ。
・・・いっぱい出るよぉ、止まらないよぉ。
・・・おしっこの音もすごいよぉ。
おしりが冷たいことも、下半身が寒いことも忘れ、典子は恥ずかしさだけを感じて泣いていた。
 30秒以上かかって、ようやく典子のおしっこは終わった。
あまりにもたくさんの暖かいおしっこで、そこは雪が解けて地肌が見えていた。
おばさんが差し出してくれたティッシュを使い、服に積もった雪をはたいて車に乗ると、おじさんは典子の父と話し込んでいて、まるで典子のことを無視しているようであった。
「おかえり!」
美由紀が冗談っぽく言って、後部座席から頭の雪をはたいてくれた。
涙顔の典子は、男たちが自分を見ていなかったことを知って、少し安心した。
「よくがんばったね!」
美由紀に言われると、典子は苦笑いをして見せた。
「ほんとは今ね、私もすっごく我慢してるんだよ。」
「え、美由紀おねえちゃんも?」
「うん、のんちゃんがうらやましい。」
「おねえちゃんもするの?」
「ううん、私は我慢する。」
美由紀は駅の待合室にいるときから我慢しているという。
いつ迎えが来るかわからないので、トイレに行けなかったと言って、
「女の子はさ、こういうことって結構あるからね。がんばれっ!」
まるで自分にも言い聞かせるかのように言って、典子の頭をポンポンとたた
いていた。
(おねえちゃんもおしっこしたいの我慢してるんだ!)
(でもおねえちゃんはもう大きいから、外でできないんだ。)
(おねえちゃん、のりこのおうちまで我慢するんだ。)
(おとうさん、早く帰ってあげて。おねえちゃんがかわいそう。)
おしっこを引っかけたパンツが冷たい。
そんなことも忘れて、恥ずかしかったことも忘れ、典子は自分と同じようにおしっこを堪えている美由紀に心の中で同情していた。
 日本海の厳しい冬の海。
白い波しぶきが打ち寄せる海岸沿いの道を、典子たちを乗せた車はゆっくりと走っていった。

【女の子はさ、こういうことって結構あるからね。がんばれっ!】
美由紀に言われた言葉が、典子の耳から離れなかった。


つづく

目次へ