由衣の部屋の時計は8時になろうとしていた。
希美がこれまでの(おしっこ)にまつわる思い出を話し始めてから、もう1時間以上が過ぎている。
「そっか、ずいぶんいろんな経験してたんだ!」
「うん・・」
「細かい・・ふだんの我慢ならさ、もっといっぱいあるでしょう?」
「ん・・おぼえてないけどぉ、いつも近いなあって思う・・・」
「やっぱりねえ・・」
「んー・・なんかさ、おうちとかで一人のときは気にならないけどぉ・・・」
「うん」
「みんなといるとね、すぐに行きたくなるみたい・・・」
「やっぱり!」
「やっぱりって、トラウマってこと?」
「うん、たぶんそうじゃないかなあ・・・?」
「函館の時のが原因なのぉ?」
「うん・・そんな気がするよ。」
「そうなのかなあ・・」
「だからさ、智史君と再会したときさ、すぐ行きたくなったでしょ!」
「ああ、あの時はすごい波が来たぁ!」
「ほらね、きっとそうなんだよ。」
由衣はそう言って、思春期の希美が体験した異性への意識と別離と、友達とも別れる寂しさと、そこへ押し寄せた激しい尿意が相乗作用となっているのではないかと話した。
「そうなのかなあ・・治るのかなあ・・?」
希美はポツリとつぶやくように言った。
「たぶんね、治ると思うよ!」
由衣が励ますように言うと、
「どうやって治すの!?」
希美は体を乗り出して由衣の顔を覗き込んできた。
お菓子をほおばりながら話している二人に空腹感はなく、午後8時になろうとしていても気づかずにいた。
希美のおしっこに対するトラウマが、もし由衣の考えているとおりのものであるならば、きっと克服できるだろうと、由衣は言葉を選びながら話つづけていた。
「んとねえ・・ののさ、我慢してるときってさ、気持ちいいと思う?」
「えー、そんなことないよー。つらいだけだよ!」
「うん、つらいんだけどさ、その裏側って言うか・・・」
「由衣ちゃんは我慢してると気持ちいいの?」
「ん〜・・いっつもって言うわけじゃないんだけどさ・・・」
「どういう時ぃ?」
「んとね〜・・デートのときとか・・・」
「えーっ!」
「エッチするときとか・・・」
「ウッソォ!!」
「ん〜・・そういうの、わからない?」
「わかんないよー!!」
「そっかあ・・でもさ・・おしっこしてる時は気持ちいいでしょ!?」
「うん、それはわかる!」
「でしょ。んとね〜・・つながっているんだよ、これって。」
「えー・・わかんないよぉ!」
「ん〜・・なんていったらいいのかなあ・・・?」
「由衣ちゃんは・・その・・エッチする時・・我慢しながらしてるんのぉ?」
「あは・・そういうときもね、あるんだよ!」
「えー、我慢できるのぉ?」
「ん〜・・きわどい感じが・・その・・いいというか・・」
「彼に内緒で!?」
「・・初めのことは・・隠してたけど・・もう知られているよ。」
「ふーん、へんなのぉ・・」
言葉で説明しようにも、希美には通じない。
具体的に何かいい方法はないかと思案した由衣は、意を決して、
「のの!二人だけの秘密を持とうよ!」
と、希美をベッドサイドにあるパソコンの方に招いた。
スイッチを入れる由衣の手は少し震えている。
「なあに?」
興味深げに覗きこむ希美。
[お気に入り]の中から[ROOM水風船]をクリックする由衣。
「?」
希美はキョトンとして画面を見ている。
由衣は秘密の告白室の項目の中から「初めてのおしがまデート」というタイトルをクリックした。
「いい、これ読んでみて!」
席を譲るようにして希美をパソコンの前に座らせた。
「なあに?誰かの小説?」
希美は何も知らずにマウスに手を置いていった。
読み出した希美はやがて、
「えー、かわいそぉ!」「ウッソォ、最悪ぅ!」などと口にしだした。
由衣は黙って後ろから希美の反応を見ていた。
やがて読み終わった希美は、
「すごいね、この(ひろ子)って子、ほんとにいる人なのぉ?」
と、わりとあっさりと由衣に聞いてきた。
「さあね・・じゃあつぎに・・これ読んでみて!」
由衣は「出会い、そしてひろこ・・」を開き、また希美に見せる。
希美は、今度は何も口にせずに読みこんでいった。
「ねえ・・この(ひろこ)って人さあ・・」
希美はそう言いかけて黙ってしまった。
やがて読み終えた希美は、
「由衣ちゃん・・・」
なにか言いたげにしていたが、由衣はそれを制して
「次はこれね!」
と、今度は「初めて・・・」を開いた。
この冒頭には、由衣が以前は(ひろ子)であり、投稿では(チョビ)であり、小説では(小原由衣)であることが記されている。
「由衣ちゃん・・・」
希美は再びそう口にしたが、その後の言葉が出ないのか、じっと画面を食い入るように見つめ、スクロールを繰り返していた。
食い入るように読み続ける希美の後姿を見ながら、由衣は先ほどから我慢していた尿意を解決しようと、そっとそばを離れてトイレに立った。
午後の3時過ぎから行っていないので、かなり下腹部が膨らんでいる。
由衣はわざと水を流さずに用を足した。
トイレから戻ると、希美は読み終わっていたようで、少しほほを赤くしながらうつむいていた。
由衣がそばに座ると、
「ねえ・・もっと見てもいい?」
と、由衣の顔を見る。
「いいよ!全部読んでいいから!」
由衣はウーロン茶をコップに注ぎながら言った。
希美はそのコップを手に持ちながら、次々にタイトルをクリックしていった。
やがて、
「あーっこれぇ!!」
と大きな声を上げた。
見ると「卒業旅行」を読んでいる。
「由衣ちゃん、これわたしーっ!!」
希美は画面を指差しながら由衣に言った。
「うん、ごめんね。勝手に載せたんだ!」
「わあ、ひっどーい!私こんなにおっちょこちょいじゃないのにぃ!」
「はは・・小説だもん。少しは誇張してるよぉ!」
「ふうん・・ふうん・・・かおりんとか真理っぺも出てるんだあ!」
希美は怒る様子もなく読み終えると、さらに次をクリックし、すべての小説を一気に読んでいった。
(※注 この時点では[それぞれの失敗]はまだ掲載されていない)
「由衣ちゃんて・・チョビって言うんだ!!」
「うん。」
「すごいね、こんなの書く才能あったんだあ!」
「はは・・まあね・・」
「これってさ、みんな本当のことなの?」
「うん、全部実話だよ。人から聞いた話とかさ・・。」
「すごいねえ!」
「名前とかは仮名だよ。」
「うん、それは読んでいたらわかる!」
「ん〜・・ねぇののたん・・」
「ん?」
「そんなことよりさ・・どう思う?」
「うん、すごくよく書けてるよ。」
「いや・・そうじゃなくてえ・・・」
話をほぐらかしているのか、それとも本当に小説の内容に対して興味がないのか、希美は天然さを出している。
「んと、どれがおもしろかった?」
由衣は直球勝負よりも変化球の方がいいのかと思い、希美が興味深いと思ったものを聞いてみた。
「うん・・[おしがま旅行]かなあ。」
「へ〜え、どんなふうにおもしろかった?」
「なんかさあ、由衣ちゃんてば・・すごくエッチなことしてるもん!」
「あは・・まあね・・」
希美に指摘され、由衣も少し赤くなった。
「どう、おしがまっていうこと・・少し理解できた?」
由衣は希美の顔を見つめて聞いてみた。
「うーん・・まだよくわかんない。」
「そう・・」
おしっこを我慢することに興味などない希美に、その気持ちを短時間で理解させようなど、実際には無理がある。
由衣は少し焦ったかなと後悔しだした。
「ねえ由衣ちゃん・・私から聞いていい?」
思いあぐねている由衣に希美が言った。
「え・・なあに?」
「その・・由衣ちゃんはさあ・・なんでおしっこを我慢することが・・その・・好きになっていったの?」
言いにくそうな希美。
「あ、ああ・・そのことねえ・・・」
このとき由衣は、自分がおしがまに目覚めていった経過を話せば、ある程度希美にも伝わるのではないかと思った。
「私もさ、はじめからそういのが好きだったんじゃないよ。」
「うん・・」
由衣はパソコンのモニター上に(初めてのおしがまデート)を開いて、そのときの自分の心理状態を説明し出した。
恥ずかしくてトイレに行きたいと言えなくてつらかったこと。
我慢していることを知られる事がもっと恥ずかしかった事。
もし漏らしたらどうしたらいいのかと思って恐怖にも似た感覚を持ったこと。
死ぬほど我慢していたおしっこをすることができて、すごく気持ちよかったこと。
でもそのときの音を聞かれて恥ずかしくてたまらなかったこと・・・。
「うん・・そこまでは私もわかる。」
希美が言った。
「でしょ。でね・・その夜にさあ・・・」
由衣は必死で我慢していたときのことが、後から思うとなぜか忘れられない感覚になってしまったと説明した。
「うーん・・・そこのところがさあ・・私にはわからない。」
希美は首をひねって言った。
「うん、これはね・・人によって感じ方もまちまちだと思うんだ。」
「ふーん・・」
「私の場合はさ・・恥ずかしいけど・・その・・エッチな気持ち・・っていうのかなあ・・なんかゾクゾクするような・・そんな気持ちになるんだよ。」
「エッチになるの?」
「ん〜・・ちょっとね・・」
由衣は話しながら、だんだんと墓穴を掘っていくような気がしていた。
しかし、ここまで自分のことを話してしまった手前、中途半端な形で終わらせると、希美に誤解を待たれると思って必死で話を続けていた。
「だからさ、ののたんにさ、エッチになれっていうんじゃなくてさ・・・」
「うん・・」
「トイレを我慢することがさ、つらいだけじゃないってことをわかってほしいんだよ。」
「うん・・何となくわかるような・・わからないような・・・」
「だよねえ・・私もわからなくなってきた・・・」
「けど・・わかるような気もする・・・」
「えっ?」
「んと・・あのね・・・」
希美ははにかみながら話し出した。
「んと・・明さんとさ・・その・・はじめてしたときにね・・」
「エッチを?」
「やだー由衣ちゃんっ!」
「今更もういいじゃない。」
「うー・・・まあね・・。」
「で?」
「うん、何となくさ、そういうのってわかるじゃない?」
「今日は抱かれるんだって?」
「そう・・その日ね、」
彼の部屋を頻繁に訪れるようになったある日、一緒に買い物から帰ってきた時に、何となくそんな予感がしたと希美は言い出した。
*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*
いつものようにテーブルを挟んで向かい合っていると、
「こっちへおいで!」
福谷が希美を横へ招いた。
ベッドにもたれるように並んで座る希美と福谷。
(ああ・・いよいよなんだ!!)
希美はそう予感した。
つきあいだして、3ヶ月ほどになる。
もちろんキスはしていたし、時々いたずらのように胸を触ったりもしていた福谷であったが、エッチまでは進まなかった。
希美はそのことにやや不安があり、子供っぽい体型であることが原因なのかと悲観していた、そんな時であった。
希美の肩に腕を回し、引き寄せるようにした福谷が、覆い被さるようにしてキスしてきた。
いつもより熱いキス・・・。
舌を絡め合っているとき、
(!!)
希美の左の胸に福谷の手が伸びてきた。
優しく、撫でるように、さらには持ち上げるように、また円を描くように。
そしてその手がセーターの下に入り込み、ブラウスの上から胸に置かれた。
「ん・・」
唇を重ねたまま、希美は吐息を漏らした。
(ああ・・とうとう明さんに抱かれるんだ・・・)
そう思うと、希美の体は熱くなり、全身の力が抜けていく。
息苦しくなり、唇を離した希美の顔のすぐ前に、福谷の真剣な顔があった。
その顔はまるで「いいね!?」と言っているように見え、希美は思わずコックリとうなずいていた。
ずっと抱かれることを夢に見ていた希美は、もうこの時点で舞い上がっており、そのあと何をどうされたか覚えていない。
気がつくとベッドの上に寝かされていた。
いつの間にかセーターは脱がされていて、ブラウスのボタンもはずされていた。
やがてブラジャーのホックもはずされ、福谷の手によって、そのブラジャーは首の方にたくし上げられた。
はじめて見られるCカップの胸。
恥ずかしさがこみ上げて、希美は身を固くしていた。
不安と期待で、自然に体が震えてくる。
(!!)
それと同時に、希美に尿意が起こった。
(やんっ、こんな時にぃ!!)
一緒に買い物に行ってから、かれこれ2時間を超えている。
たしかに普段の希美が尿意を感じる時間であった。
(どうしよう・・我慢した方がいいのぉ!?)
希美は困った。
真剣な顔の福谷に、どう言ったらいいかわからない。
そうして希美がとまどっている間にも、福谷の手は動き、スカートも脱がされていた。
下着だけの姿にされている希美。
恥ずかしさが一気にこみ上げてきて、思わず顔を手で覆ってしまった。
それでも動くことが止まらない福谷の愛撫によって、希美のほてった体は完全に宙を舞いだした。
「あ・・」
福谷の手が、下着の上から大事なところに触れてきた。
と同時におしっこが出そうになる。
「あっ、やぁ・・」
希美の体がこわばった。
太ももを閉じて福谷の手から逃れようとする。
しかしその手は、ますます激しく動き出した。
これまでにない強い快感に、尿道口がこじ開けられるような感覚が混じって、希美は悲鳴のような声を上げた。
しかし・・
なぜかその感覚は苦痛ではなかった。
息を荒くしてうろたえている希美が気がつくと、福谷の手は下着の中に入っていた。
「ひっ!」
直に愛撫される希美。
快感と尿意の波が一気に降りてきた。
「だめえっ。おしっこ出ちゃうぅ!」
思わず口走った希美。
福谷は驚いたように動きを止めた。
「あ・・そっか・・ごめん・・」
少しうろたえたように言う福谷に、
「ご・・ごめんなさい・・」
希美も顔を覆って言った。
優しい福谷は、いったん希美にブラウスを羽織らせた。そして、
「こんなこと聞くと・・いけないんだけど・・」
と、頭をかきながら希美に聞いた。
「希美ちゃん・・その・・ひょっとして・・その・・」
言いたいことは希美にもすぐわかった。
「・・うん・・」
希美は恥ずかしそうに答えた。
「そうだったんだ!!」
希美が初めてであることを知った福谷は、強引にエッチに持ち込もうとしたことを謝り、お互いにシャワーを浴びてきれいな記念日にしようと言ってくれた。
こうして希美は福谷と結ばれたのであった。
*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*
「ひゃ〜、おしがまエッチの一歩手前で終わったんだあ!」
由衣は希美の初体験の話に驚いていた。
「うん・・それでさ・・」
「ん?」
「正直に言うとね、その・・なんて言うのかなあ・・・」
「・・?」
「んと・・あのね・・」
言いにくそうに口ごもる希美。
「あ、わかったあ!!」
「え・・」
「ののさあ、あの時ほんとは気持ちよかったんでしょう!!」
「あ・・ん・・」
「ね、そうでしょ!?」
「んー・・よくわかんないんだけどぉ、ちょと・・」
「うんうん、そういうのってさ、あるんだよ。ほんとに!」
「由衣ちゃんもさ、ああいう感じなのぉ?」
「ん〜、ののと同じかどうかわからないけどね、でもさ・・おしっこが出そうになってさ、それを必死で我慢してるのにさ、そこを触られてて我慢できなくなって、でも我慢してるってさ・・もうそのときの・・」
「由衣ちゃーん、興奮してるよー!」
「あ・・う・うん」
希美が「おしがまエッチ」の入り口に来ていたことを知った由衣は、ついつい興奮してしゃべっていた。
「あの時の感じなんだね!」
希美は納得したのか、時分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。
妙に落ち着いている希美に、由衣は興奮した自分が恥ずかしくなっていた。
「私もね(ROOM水風船)に出会ってからさ、いろんな人がいることを知ったんだよ。」
「ふーん・・」
「だからさ、ののは別に「おしがま好き」にならなくてもいいからさ、」
「うん・・」
「我慢するって言うことはさ、辛いだけじゃなくてさ・・時には気持ちいいときだってあるって言うことさえ知ればさ・・」
「うん」
「だんだんおしっこが近いのも・・変わっていくような気がするよ。」
「うん!」
「でもさ・・・」
「?」
「あの・・トイレ行ったのに・・おしっこしたくなる時ってある?」
「え・・どういうとき?」
「その・・エッチの・・」
「ああ!、それね、そう感じてるだけだって言うよ!」
「そうなのぉ?」
「うん、気持ちよくなってくるとさ、そうなる人が多いって!」
「由衣ちゃんも?」
「うふ・・うん。」
「いつでもそうなる?」
「んとねえ・・私が上の時かな・・」
「やーんエッチ!!」
「ののが聞きたっがったクセにぃ!!」
二人は声を上げて笑った。
この夜二人は遅くまで語り込み、希美は由衣の部屋に泊まっていき、翌朝早くに出勤していった。
果たして希美は本当にトラウマによっておしっこが近くなっていたのか、またそうであったとして、それが今回のことで克服されていくものかどうか、由衣はわからなかった。
それ以後、何度も来る希美からのメールに、驚くことが記されていた。
「おしがまエッチで大失敗!」
由衣は思わず吹き出した。
「あのバカ・・・」
今度ゆっくり聞き出して、また小説のネタにしようと思う由衣にも困ったものである。
おわり