それぞれの失敗1




 11月1日の土曜日、由衣は久しぶりに香織・希美・真理の3人と会うことになった。
午後5時半、飯田橋駅西口集合。
しかしその時刻、連休前の華の土曜日にもかかわらず、仕事が長引いた由衣は、大きなバッグを抱えて御茶ノ水駅を出る電車の中にいた。
電車の中ではケータイも使えない。
由衣は満員の電車の中でひとり焦っていた。
 短大卒業後、香織と真理が松本と甲府に帰ってしまったので、4人が集まるのは1年半ぶりになる。
連休を利用して上京して来る香織と真理を歓迎しようと、由衣は希美と連絡を取り、有名なスペイン料理のお店に連れて行こうとしていた。
もっとも、由衣はその店を知っているわけではなく、上司に紹介してもらっての事であった。
真理「おそいぞ由衣!」
希美「由衣ちゃ〜ん!」
香織「おー、相変わらずちっこいな!」
息を切らせて改札を出てきた由衣に、3人が一斉に声をかけた。
長身の香織はセーターからロングスカート、ブーツまで黒一色にまとめ、長い髪をなびかせて、とても大人びた感じである。
真理はブルーのシャツにデニム生地のベストとミニスカートに黒のブーツ。
いつの間にか茶髪になっていた。
希美は淡いピンクのフリフリセーターに紺色のフレアミニ、素足に白いハイソックスと、相変わらずぶりっ子姿である。
由衣はフリースにジーンズ。
(げっ、私だけ普段着だ〜!みんなスカートだあ!)
4人でホテルに泊まるので着替えは用意していたが、まさかみんながおしゃれしてくるとは思っていなかった。
11月に入ったというのに、むしろ少し暑いような夕方であった。
 会ったその瞬間からおしゃべりが始まり、1年半のブランクなど何も感じない4人は連れ立って歩き出した。
が、さっそく地図を取り出した由衣に、
真理「おい由衣、行きつけの店じゃないのか?」
希美「由衣ちゃん大丈夫?」
香織「由衣って方向音痴じゃなかったけ?」
真理「だったよなあ。あ〜、オイラ心配だー!」
香織「言うな言うな、最後は私が何とかする!」
希美「かおりんは相変わらず頼もしい!」
真理「けっ」
由衣「・・・(-_-;)」
皆が指摘するとおり、やっぱり由衣は神楽坂の路地で道に迷ってしまった。
予約時間が迫っていて焦る由衣。
更に由衣は、仕事が長引いた為にトイレに行けずに出てきたので、先ほどから強い尿意に襲われていた。
そのためかどうか、思考回路に変調をきたしている。
おまけに着替えなどを入れたカバンが重く、足取りは遅い。
希美「由衣ちゃぁん、ここさっき通ったよぉ。」
真理「だよなー。オイラもそう思う。」
香織「あーもう、貸してみろ!」
由衣「・・・(-_-;)」
希美「ねえ、私トイレ行きたい〜。」
真理「またかよ。近いくせに短いスカート履くからだ!」
香織「真理っぺも短いじゃない!」
真理「オイラはまだ大丈夫だい!」
香織「まだ大丈夫って事はさ、少しはってことよね!?」
真理「まあな、寒くはないけど、ずっと由衣を待っていたしさ!」
由衣「ごめんねえ・・・」
香織「まあいいさ、着いたらすぐに行けるよ。」
真理「けっ、香織もかよ!」
香織「まあね。」
真理「まあホテル着いてから2時間ぐらい行ってないもんな。」
香織「そうだよ。」
由衣「あの・・私もトイレ・・・」
香織・真理・希美「げっ!?」

香織が目的の店を見つけてくれ、4人は時間ギリギリで席に着くことができ、オーダーの前にまずトイレの順番を決めるジャンケンとなった。
真っ先に飛び込みたい由衣も加わらざるを得ない。
くじ運の悪い由衣はジャンケンが嫌いだ。
この日もお決まりのように最後になり、午後の3時過ぎからため込んで膨らみきっている膀胱をカラにするまでの間、由衣は泣きそうになっていた。
希美「へえ、スペイン料理にもパスタがあるんだね。」
真理「んなもの、どこにでもあるんだろ。」
由衣「スペインのパスタってどんなだろうね?」
香織「おまえらなあ!」
真理「なんだよ?」
香織「パスタじゃないだろ、タスパッ!!」
真理「あん?」
希美「タスパってな〜に?」
由衣「スペイン風のパスタ?」
香織「あ〜もぉっ!」
真理「なんだよお!?」
香織「これだから○大学のミニモニって言われるんだ!」
真理「うるせえ、オイラもう卒業してるよ!」
希美「そだよ。今は高橋愛ちゃんが入ったんだよ。」
香織「もぉ!、現実のミニモニと一緒にするなーっ!」
由衣「香織が言い出したんじゃない!」
香織「だからぁ・・保育科のミカがいてさ、由衣が亜依だったら・・・」
真理「おい待てよ!そのセリフ、前にもどこかで使ったぞ!!」
希美「うん、私も覚えてる〜!」
由衣「あっ、阿蘇山だっ!」
香織「あ〜あ、こんな3人をまとめるのはつらいわっ!!」
真理「けっ、まるでリーダー気取りだ!」
さほど広くない店内で、他の客が聞き入るほどにぎやかな4人のおしゃべりが続いた。

スペインワインに酔いしれて、思い出話に花が咲き、気分も上々の4人は新宿に向かった。
チェックインしているホテルへ戻るには時間が早すぎる。
4人は中央口を出て、居酒屋でしゃべろうと言うことになったが、連休前の土曜日の夜でどの店も混み合って、新宿3丁目あたりをあちこち歩き回ってしまった。
希美「ねえ、トイレ行きたいよ−。」
真理「またかよ、ののはもうっ!」
希美「だってぇ・・・」
香織「そうだよね、早くどこか入らないと・・・」
真理「かおりも行きたいのかよ?」
香織「まあね、人並みに・・・」
真理「けっ」
黙っている由衣の膀胱も悲鳴をあげかけていた。
スペイン料理店で飲んだワインが激しい勢いで膀胱に溜まってきていた。
一人重いカバンを抱えている由衣は、それだけでも重力がかかり、力配分が難しくなってきていた。
ままよと飛び込んだ居酒屋★民。
あと10分ほどで席が空くといわれて待つことになる。
じっとしていられない希美が由衣の手をつかんで揺らす。
その振動は由衣にとっても辛いものがあった。
(げっ、希美ったら私よりも背が伸びてるっ!?)
履いている靴のせいかもしれないが、希美は確かに由衣よりも少し背が高かくなっているようであった。
(わ〜ショックゥ!!)
それでも真理よりは1センチほど高い由衣。
それだけで優越感を感じる由衣であった。
大学の実務実習で同じ班になり、それで意気投合した4人であるが、香織以外の3人は背が低く、146センチ前後であった。
香織は160センチあり、4人が連れ立って歩くと、騒いでいる保育園児3人と、それを引率している保育士さんのようにも見えてこっけいであった。
真理「ののっ、先にトイレ行ってこいよ!」
香織「そうしな。いかにも我慢してますってミエミエだよ。」
希美「だってぇ・・・」
トイレに行っているうちに席に案内されたら、希美は広い店内で迷子になると言って渋っていた。
由衣も同じ理由で我慢していた。
しかしいざ席に案内されようとすると、香織も真理もブーツを脱ぐのに手間取って、希美をイライラさせた。
由衣も同じ理由でイラついている。
やっと席に着くと、希美はバッグを放り投げ、
希美「あの、おトイレどこですか??」
係A「あちらの隅でございます、お客様!」
係B「足下滑りやすいのでお気をつけください、お客様!」
飛び出した希美は、磨かれたフローリングの床を滑るように走っていった。
希美を待つ間に適当にオーダーをする3人。
言葉の最後に「お客様」とつける係の言い回しが耳について違和感が残る。
それから5分ほどが経っても希美が戻ってこない。
真理「あいつ・・もらしちゃったんじゃないのか?」
香織「はは・・まさか・・」
由衣「私・・ちょっと見てくる!」
真理「由衣もほんとはパンク寸前なんだろ!?」
由衣「え・・あ・・うん。」
真理「やっぱりな。さっきからソワソワしッ放しだ!」
香織「いいよ、先に行って様子を見てきて!」
由衣はトイレの方向に足を向けたが、ソックスが滑りやすく歩きにくい。
破裂寸前の膀胱を抱えた由衣は、ソロリソロリと歩くしかなかった。
 突き当たりを右に曲がったところにトイレがあり、ちょうど希美が出てくるところであった。
由衣「ののたん!大丈夫!?」
希美「あ、由衣ちゃぁん・・ちょっとチビったぁ!」
由衣「え!!」
希美「混んでてね、待っているあいだにぃ・・・」
由衣「ありゃ・・」
希美「ね、スカートのうしろとかシミてない?」
由衣「ん、あ・・どうもないみたいだよ。」
希美「よかったぁ!」
由衣「パンツ・・どうしたの?脱いだの?」
希美「やだ!ちゃんと履いてるよぉ!」
由衣「そっか。なら気にしないで席に戻りなよ!」
希美「うん!」
そんなヒソヒソ話をしている間にも、3人の女性がトイレに入り、由衣は待たされる事になる。
(わっやばいよぉっ!)
希美の二の舞だけはしたくない。
必死で我慢する由衣の後ろにも人が並んで、規模の割に個室が少ない女子トイレは大盛況であり、由衣が出てくると表に香織が待っていて、更に席に着くと真理も飛び出して行った。

ビールや酎ハイを飲み、話題は当然のように男性の話に向かう。
香織は松本と東京の遠恋をしていて、時々八王子に住む彼の所に来ているという。
真理は甲府で新しい彼ができ、いい感じでつきあっているという。
希美はごく最近になって会社の先輩とつきあいだしたとはしゃいでいる。
由衣も負けじと敦史とのことを披露した。
しかし9月に南紀白浜を旅行した事など、細かい内容は触れずにいた。
真理「ののと由衣もついに女になったのかー!」
由衣「ちょっとぉ、そういう言い方・・」
希美「私、初めから女だよ。」
真理・香織・由衣「・・・(-_-;)」
わかって言っているのか、それとも本当にわからずに言っているのか、希美はいつもこうだ。
真理「あのなあ・・・んー・・まぁいっかー!」
香織「そうだよ。ののはまだネンネなんだから・・・」
希美「私、もう大人だよぉ。」
真理・香織・由衣「・・・(-_-;」
希美の言うおとなとは何を意味するのか、このときは誰もそれ以上聞こうとはしなかった。

 話が尽きないうちにラストオーダーになり、4人は追い立てられるように★民を後にした。
香織と真理がチェックインしておいたホテルSルートに向かう。
真理「えっと・・どっちだっけ?」
香織「とりあえず新宿駅の南口へ向かって・・・」
由衣「駅ってどっち?」
香織「えっと・・あっこが紀伊国屋だから・・・」
希美「はやく行こうよ、トイレ行きたい!」
久しぶりで会った4人は、盛り上がった勢いでかなり飲んでいたので、香織も真理も方向感覚が鈍っている。
由衣に元々方向感覚はない。
希美はしきりにトイレに行きたいと訴える。
騒がしい4人は、ウロウロしながら何とか甲州街道にあがり、新宿駅の南口に出ることが出来た。
希美「ねえ、もう我慢できないぃ!」
香織「ここまで来たらすぐだから我慢しな!」
希美「だってえ!」
真理「じゃあ手で押さえてろよ!」
希美「いやぁん!」
そう言いながらも、希美はしきりに下腹部をさすりながら歩いていた。
相当我慢している様子がうかがえる。
由衣も決して人ごとではなかったが、希美と比べると余裕があり、せっぱ詰まっている希美をハラハラして見ていた。
 ホテルのフロントでキーを受け取るとき、由衣も希美もサインを求められ、ふるえながらペンを握り、つきだしたお尻をクネクネと揺らしている希美の姿は、誰の目にもトイレをこらえていると映ったであろうほどせっぱ詰まって見えた。
 エレベーターが古いのか、かなりの衝撃を感じる。
その衝撃に、希美は叫び声を上げて手で押さえていた。
部屋の前に来たとき、どうペアになろうかという話になり、ジャンケンで分けることになった。
その結果、香織と真理、由衣と希美がペアとなり、キーを受け取った由衣は希美よりも先に部屋に入りトイレにのドアを開けた。
「あーっ、由衣ちゃん待って、わたし先に行かせてっ!」
希美は必死である。
ミニスカートの裾を持ち上げ、しきりに足をくねらせている希美の姿が、とてもかわいく見え、由衣は意地悪してみたい衝動に駆られていた。
(あーちゃんもこんな風に私を見てるのかなあ・・?)
しかし半泣きの希美に余裕がないことは見ただけでわかる。
かわいそうになって譲ってやると、希美は由衣がドアを閉める直前に、激しい放尿音を響かせ出した。
(えへ・・ちょっと意地悪だったかなあ・・?)

交代でシャワーを済ませ、冷蔵庫からウーロン茶を取り出して飲んでいると、希美がまたトイレに立った。
由衣「ののたん、ほんとにおしっこ近いねえ!」
希美「うん・・」
由衣「そんなだと・・いろいろ困るでしょう?」
希美「うん・・」
由衣「仕事中とか・・大変じゃない?」
希美「うん、今は受付じゃなくなったから・・まだマシだよ。」
由衣「そっか。入った頃は受付に座ってたもんね。」
希美「事務所の方だとね、すぐに行けるから楽だよ。」
由衣「うん。けどまさか・・失敗とか・・ないよね!?」
希美「え・・うん・・」
由衣「えっ・・あるんだ!?」
希美「・・・」
由衣「あらら・・どうしたの?」
希美「・・・恥ずかしいよぉ・・」
由衣「大丈夫。言っちゃったらスッキリするよ!」
希美「・・・・誰にも言わない?」
由衣「うん、約束する。言ってごらん!」
希美「・・うん・・」
なぜか希美の前だとお姉さん口調になる由衣は、冷静さを装いながらも内心ドキドキしながら希美を自白へと追い立てていた。
希美は言葉を選びながら、おしっこでの失敗を話し出した。

*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*

 7月下旬の土曜日、希美の勤める会社のビアパーティーがあった。
働きだして1年半近くになる希美は、にじみ出る天然さがかわいらしさを呼び、職場ではマスコットのようにかわいがられていた。
このパーティーでも、希美は男性社員に囲まれて楽しく飲んでいた。
冷夏のせいで、むしろ薄着では肌寒い日であった。
 それほど大きい会社ではないので、和気藹々の中を二次会へと移動し、飲み慣れない水割りを飲まされ、お開きになった頃は11時近くになっていた。
「のぞみちゃん、どうやって帰るの?」
希美が密かにあこがれを持っている仕事の先輩・福谷明が、足下ががおぼつかない希美を抱きかかえるようにしながら聞いた。
「あん・・王子まで行って・・タクシーに乗ります・・」
「そっか。じゃあ王子駅まで一緒に行こう。」
赤羽の方に帰る福谷は、皆に希美を送ると言って、肩を抱きかかえるようにして新橋駅に向かった。
当然のように、このときの希美の膀胱は破裂寸前まで膨らみきっており、駅に着くやいなや、
「あん・・すみません・・ちょっとトイレ・・」
と言って福谷から離れ、ふらつきながらも用を足すことができた。
戻ってきた希美の顔色は悪い。
「大丈夫かなあ?、ちょと飲み過ぎたかい?」
「あ、ううん・・大丈夫です。」
確かにかなりのアルコールを飲んでいる希美。
気分が悪い訳ではないが、足下がふらつくことと、モノがまっすぐに見れない状態、つまりかなり酔っぱらった状態であった。
「コーヒーでも飲んで・・少し休んでいくか?」
「あ・・ううん、帰ります・・・」
福谷ともう少し一緒にいたい気持ちはあるが、こんな姿をずっと見せているのは辛いと思った希美。
 京浜東北線のホームに立つと、7月下旬とは思えないほど冷たい風が希美の素足に吹き付け、ミニのキャミワンの裾に入り込み、身震いしてしまう。

この時間になると電車の本数も減っている。
しばらく待っている間に、希美はまた尿意を感じ始めていた。
 乗り込んだ車内は混んでいて、小柄な希美は福谷の腕にぶら下がるようにして立っていた。
これまで何度も仕事帰りの電車が一緒になり、いつしか好意を寄せるようになっていた希美であったが、今日はアルコールのおかげで少し大胆になっている。
初めて福谷の腕をつかんだ喜びが希美にはあった。
しかし素足の膝をしきりにこすり合わせている希美でもあった。
 膨らんできた尿意に負けそうな希美は、王子駅で福谷と別れたらすぐにトイレに行こうと思っていた。
ところが、
「のぞみちゃん、心配だからうちまで送るよ!」
と言われてしまい、
「あ、いえ・・そんな・・大丈夫ですぅ・・」
思いもよらない展開になりかかり、しどろもどろになる希美。
その舌足らずな言い回しを聞いて、福谷はますます希美のことが心配になったようで、
「いや、やっぱり心配だ。僕のことは気にしなくていいから!」
と、足取りの重い希美を引っ張るようにして改札を出てしまい、トイレに行きたい希美はチャンスをつぶしてしまった。
何度か「トイレ」と言おうかとも思ったが、つい20分ほど前に行ったところなので、さすがに気が引けてしまっていたのだ。
 タクシーはいない。
何人かの人が待つ列に並び、希美は足を交差したり体を揺らしたりして我慢するしかなかった。
その動作を見て福谷は、
「大丈夫か、かなり回ってるみたいだよ。」
と、ちょっと的はずれな心配をしてくれた。
まさか希美の膀胱が、もうそんなに膨らんでしまっているとは、ふつう気がつかないのも当然であろう。
 10分ほど待って、いよいよ希美の辛抱が辛くなってきた頃、ようやくタクシーの順が回ってきた。
覚悟を決めてトイレに行こうかと思った、まさにそのときであった。
福谷が先に乗り込み、希美を招き入れる。
「あん・・西新井本町まで・・」
声を出すのも辛くなっている希美は、それだけ言って前屈みになった。
「大丈夫か?、吐きそうになったらすぐ言うんだぞ!」
福谷は心配そうに希美の肩に手を置いた。
「ううん・・ちがうんですぅ・・」
トイレに行きたいなどと言える訳もない希美は、そう言うしかなかった。
 刻一刻と希美の膀胱は膨らんでいき、やがて警戒水位を超えそうな状態になってきた。
普段からトイレが近く、あまり我慢をしたことがない希美には、他の人ならもう少し我慢できる状態でも限界になる。
かなり飲んだアルコールのせいで、自制が効かなくなっているのも事実だ。
しっかりと手で押さえたいが、福谷の目があってそれもできない。
足を組んでみたが、かえって膀胱が圧迫され、すぐに戻してしまった。
持っていた手提げ袋で隠して、そっとワンピースの上からおなかをさすり、必死で耐える希美であった。
「えーと、本町のどのあたりですかねえ?」
運転者が聞いてきた。
「あ・・ローソンの・・・」
「えーっ,ローソン・・何かほかの目印はありませんかねえ?」
運転手はこのあたりの地理に弱いようだ。
「あ・・西新井病院・・わかりますか?」
「ああっ!、そこをどう行きます?」
病院まで行くと少し遠回りになるが、希美はそれでもいいから早く着いてと祈っていた。
 ようやく希美の住むマンションに到着し、福谷が料金を払う。
しかし希美は自分で降りることが出来なくなっていた。
・・・動いたら漏れてしまう!
様子に気づいた福谷が運転席側のドアから降りて、希美に手を貸す。
引きずり出されるようにしてタクシーから降りたものの、福谷の腕にしがみつくしか出来ない。
「のぞみちゃん・・大丈夫か?」
「・・・」
「吐きそうなの?」
「・・・ううん・・」
「ん、じゃあ歩けるかい?」
「・・・ん。」
「よし、じゃ行くよ。もう少しがんばれっ!」
福谷は希美を抱きかかえるようにしてオートロックのドアの前まで来た。
「えっと・・番号は?」
「あ・・ぁ・・」
福谷に支えられながら、震える指で番号を押し、さらに抱えられるようにしてホールに入る希美。
「部屋まで行くよ。ご両親には僕から言ってあげるから!」
福谷はどこまでも優しい。
 エレベーター脇に管理人用のトイレがある。
それが目に入った瞬間、限界まで膨らんだ希美の膀胱が収縮を始めた。
「ごめんなさ・・もうっ!」
希美はそう叫ぶと、福谷の腕を払いのけてそのトイレに飛び込んだ。
しかし希美の我慢もここで息切れる。
激しくドアをしめた瞬間、じゅわ〜っと吹き出したおしっこが、あっという間に勢いをつけ、希美の両足を伝って流れ出し、さらに勢いづいた流れは薄い下着を通り抜け、足の間から直接タイルの床にたたきつけて、バシャバシャと音を立てて跳ね返った。
「あ・・あ・・」
希美は無意識のうちにキャミワンの裾を持ち上げていた。
表にいる福谷に音を聞かれているであろう。
・・・やだっ恥ずかしいぃ!!
そう思った瞬間、流れが止まった。
尿意は完全には消えていない。
おそらく精神的な要因で止まってしまったのであろう。
しばらくボーゼンとする希美。
しかし今更あわてても、もうどうすることも出来ない。
開き直った希美は濡れてしまったパンツを脱いで、洗面台できつく絞って紙袋の中にしまい込んだ。
ホルダーの音がしないようにトイレットペーパーそっと引き出し、何度も何度も両足やミュールを拭いた。
幸いそこは掃除用の排水溝の上であったので、希美がこぼしたおしっこは、思ったほど広がらずに流れていた。
手を洗い、キャミワンのお尻の方を鏡に映してみたが、濡れてはいないようでホッとする希美。
そっとドアを開けると、少し離れたところで福谷が待っていた。
「や・・ごめん。トイレ我慢してたのか?」
「・・・」
「悪かった。気づかなかったよ。」
「・・・」
「のぞみちゃん・・?」
「・・・だれにも・・言わないで・・」
「え、どうかした?、オレは何も知らないよ!」
あれだけ派手な音がして気づかない訳がない。
希美は福谷の優しさに涙ぐんでしまい、その胸に飛び込んでいた。

*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*・*※*

由衣「ふ〜ん、そんなことがあったんだ!」
希美「もう最悪だったよ!」
由衣「見られずに済んで良かったじゃない!」
希美「うん。けど・・音を聞かれてたと思うよ。」
由衣「まあね・・でも誰にも言いふらしたりされてないんでしょ!?」
希美「うん。そんな人じゃないもん!」
由衣「あれ、ひょっとして・・今の彼氏!?」
希美「うん!!」
由衣「なんだ、そっかぁ。よかったね!」
希美「うん!!」
由衣「それからは失敗してないよね?」
希美「うん。けどトイレ近いから恥ずかしいよぉ。」
由衣「いいじゃない。それがののたんだもん!」
希美「やだよーっ!デートのたんびにトイレは?って聞いてくるもん!」
由衣「あは・・いいじゃない。かわいがられてるんだ!」
希美「もうおとなだもん!」
由衣「・・まさか・・大人になったのも・・その人?」
希美「・・・うん・・」
由衣「そっかあ!よかったね!」
希美「うん!」
由衣「初エッチでさ、漏らしてないよね!?」
希美「してないよーっ!ちゃんとトイレ行ったよーっ!!」

おしがまが好きな訳でもない。希美は単におしっこが近いだけなのだ。
由衣はそんな希美がかわいく思えて、肩を抱き寄せ、頭をナデナデしていた。
(へへ・・・こんな妹がほしいなあ・・・)


つづく

目次へ