由衣の独り言 35(居眠りの代償)




 ROOM水風船研究所の研究者ならびに実習者の皆様、聴講生の皆様、そして興味があって見学されている皆様、新年あけましておめでとうございます。
助手を務めるチョビこと松本由衣です。
 昨年は私事で手を取られて、ずいぶんご無沙汰をしてしまいました。
こんな私ですけれど、もういいよっ!って言われるまで、もうしばらく参加させていただきたいと思っています。
ご期待にはあんまり添えないかもしれませんけれど、どうか今年もよろしくお願いいたします。

2011年元旦

チョビ


 で今、ある資格を取るために勉強しているんだけど、去年の秋からそれに関する実習が始まってね、はじめ軽い気持ちで考えていたんだけど、いざ始まったらさ、もういったい何をやっているのかチンプンカンプン。
事務職で入った私がいきなり医療の一部分に挑戦している訳だから、余りにも分野が違いすぎて、いきなり言葉の通じない外国に放り出されたようなものなのね。
放送大学で受講していた予備知識なんて、現場では全く通用しないんだもんなぁ。
そんな環境の中で毎日遅くまでヘトヘトになるまでしごかれているのよさ。
 実習中はおしがまとは無縁になるだろうなって思っていたのにね、それが全く逆でさ、出勤(?)してから夜9時ごろに開放されるまで、12時間もトイレに行けないでがんばってた日もあるくらいなんだよね。
この時はねえ、お昼に実習先の地下にあるコンビニでサンドイッチと缶コーヒーを買って食べただけだったから、夜の7時ぐらいになったらさ、もうお腹がすいて胃がペッタンコになっているのに、その下にある膀胱はパンパンに張ってしまってさ、身体のバランスっていうか重心がおかしくなってしまってたよ。
そんなだからおしがまに気を取られてさ、全然思考力もなくなったりしてた。
 まあ最近は少し要領を得てきたので、なんとかトイレには行けるようになったけど、それでもあるかないか分からないお昼休みぐらいにしか行けないのね。
だからいつも実習が終わったらトイレにまっしぐら。
日によって終わる時間がまちまちだから困ったもんだわさ。
 んでね、おしっこし終わって実習先を出てバスを待っているとね、また急におしっこがしたくなってくるのよさ。
だから乗り換えの地下鉄のトイレに走ったこともあるんだよ。
ん〜、連日のようにおしがまちゃんしてるから、膀胱の機能がおかしくなっているのかもしれないよね。
けど、おかげさまでまだ膀胱炎にはなっていません。

 そんな毎日を送っていたけど、やっと暮れの28日で前半の実習課程が修了してさ、その日は教授なんかも混じって教室の打ち上げ会があったのね。
銀閣寺そばの料理屋さんのお座敷だった(らしい)。
 その教室での実習生は私ひとりなもんだから、一番すみっこの方で小さくなっていた訳だけど、みんなお酒が入り出すとね、ふだん顔をしかめて難しい話をしている人たちなのにさ、すんごく盛り上がって騒ぐんだよね。
私の横に座ってくれた事務の女の人も、普段はほとんどしゃべらないのにね。
 そんな勢いにつられて私もそれなりにビールなんかを飲んじゃって、取り分けてもらったお料理なんかも少し食べたりしていたんだけど、ここで事件発生!!
なんかね、中ジョッキを空けたあたりからかな、ちょっと気分がフワフワした感じになって、少し酔ったのかなって思っていたんだけど、普段ならこれぐらいでは酔わない量じゃん。
なのにすごく睡魔が襲ってきてね、けどまさか教授までいる前で寝てしまうなんてありえないでしょ。
テーブルの下に投げ出している足を思い切りつねったり、無理して話に入り込もうとしたりして、そりゃあ努力したんだよ、私なりに。
けど‥その甲斐もなくてさ、だんだんとみんなの声が遠くの方に離れていくのね。
(だめっ!、こんなところで眠っちゃ!!)
 なんて自分に言い聞かせるんだけど、身体の方はもう完全に雲の上にいる感じで、おめめも上下のまぶたがすっかり仲良しになっちゃって‥‥‥
はい、私はとうとうその場で居眠りをしてしまったのであります。
ああ‥・**

「松本さん起きて!、お開きよ!!」
 隣に座っていた事務の女の人に揺り起こされて目が覚めたのは、それから1時間も過ぎてのことだったのよさ。
私は座椅子にもたれかかって、うなだれたような状態でグッスリ眠っていたらしい。
風邪ひかないようにって背中からコートまで掛けられていた‥‥。
「よく寝てたねぇ。」
「かなり疲れていたんだよな。」
「実習の緊張が一気に解けたんだよ。」
 みなさんそんなことを言って、恥ずかしがっている私を気遣ってくださった。
教授の姿はすでになかったけど、疲れているようだからお開きまで静かに寝かせてやれって言ってくださったらしいよ。
はぁ‥‥最悪だぁっ、恥ずかしいったらありゃしない!!
「けど君は将来大物になるよ。」
「身体は小さいけど大物だな。」
「うん、それは言える。」
 なんてちょっと冷やかされもしたよ。
そりゃそうでしょうよ。教授の前で居眠りする人なんてぜ〜ったいにいないもん。
 いつまでも恥ずかしがっていられないからって、立ち上がろうとしたんだけど、身体の方がまだ完全に起きてないらしくてさ、なんかフラフラするのね。
うん、酔ったんじゃなくて完全な寝起き状態‥‥。
女の人ふたりに支えられながら階段を下りていったのね。
んでお店の表に出て冷たい風に当たった途端、
(えっ‥おしっこしたい!!)
 そのときになって初めてすごっくおしっこしたいことに気づいたのよ。
そりゃそうだよね。
中ジョッキ1杯とちょっと飲んですぐに居眠りしてしまったから訳だから、お店では全然トイレに行っていない訳だし、もっと言ったら、実はお昼の休憩の時に行ったきりだったんだよ。
だから眠っている間に全部おしっこなって膀胱に集まっていたんだわさ。
 けどもうお店の外に出てしまったから、今さらトイレなんて行けないし、ただでさえ恥ずかしい思いをしてるのに、その上トイレなんて絶対無理!!
けど‥ほんとにすごくおしっこしたかったのよ。
「みんな二次会に行くけど、君はどうする?」
 って聞かれたけど、とにかく恥ずかしいから早くみんなと別れたかったし、おしっこしたくてたまらないから、
「あ、いえ私は‥帰ります。」
 って断ったのね。
「じゃあ気をつけてね。よいお年を!!」
「また来年もがんばれよ!!」
 なんてみなさんあっさりとその場を離れだして、私はどうしていいか分からなくて困ってしまったのよ。
だってそこがどこだか知らない場所だし、京都駅に向かうのもどっちの方向かも知らないんだもん。
かろうじて事務の女の人を捕まえて道を聞き出したのね。
京都駅に向かうのは反対車線だった‥‥。
 んで急いで道路を渡ってタクシーを待ったんだけど、そんなに交通量が多くない裏通りだから車が走ってないのね。
風が冷たくてコートを着ていても足から冷えてくるし、おしっこはますます私に迫ってくるし、もう泣きそう‥‥。
じっと立っていると我慢できなくなってくるので、私はゆっくりと歩き出したのね。
車の気配がするたびに後ろを振り返りながら‥‥。
けどなかなかタクシーは来ないの。
 もうコンビニでトイレを借りようかとも思ったんだけど、悲しいことに表通りじゃないからコンビニも見あたらない。
辺りは暗いし寒いし、それが少し恐怖にも感じて、ますますおしっこがしたくてたまらなくなって、もう恥ずかしいけれどさっきのお店に戻ってトイレを借りようかと思ったそのとき、やっとタクシーが走ってきた!!
私は小躍りするみたいに大きく手を振って合図してたよ。
 で、やっと乗り込んでシートに座ったんだけど、今度は車の振動が膀胱に響き出すのね。
それぐらいもうパンパンなわけなんだけど、タクシーに乗れたことで少し落ち着いたらからかな、それまで以上におしっこがしたくなってきたのね。
なんか‥‥このままお漏らししてしまいそうな‥感じ。
 眠っている間は少しずつ生成されていたおしっこだけど、身体が起きた事で一気に製造工程がフル稼働を始めたみたい‥‥。
何度も経験しているおしがまだけど、おなかはもう膨らみきってカチンコチンに固くなっているのね。
背筋を伸ばす事も、前屈みになることもしんどいくらいに‥‥。
(おしっこ‥おしっこしたいぃぃぃっ)
 コートのポケットに手を入れて、運転手さんに気づかれないようにしっかりと栓をしながら、私はおしっこと戦いだした訳。

 京都駅のタクシー降り場からトイレまでは、私の記憶ではかなり距離があったように思うのね。
今のこの状態で果たしてチョコチョコ歩いて駅のトイレまで行けるか、もし行けたとして、人が多くて並んでいたりしたら‥‥、いっそのことおうちまで走ってもらった方が賢明じゃないのかって、私は身体を硬くしながら必死で究極の選択をしていたの。
そんなとき、川端通り四条の交差点で信号停車したのね。
ふと見るとさ、そこに公衆トイレが有るじゃない。
もうここで降ろしてもらおうかって思った私。
けどタクシーは歩道側じゃなくて中央車線だったから降りられない・・。
もうね、何もかもが私をいじめる状況なの。
 ここの交差点を越えたらあとは比較的スムーズに流れるから、あと5分ほどで京都駅に着くかもしれないけど、今も考えていたように広い京都駅の中を歩くのは絶対に無理だって思って、私は決心して運転手さんに行き先変更を言ったのね。
(あ〜あ、おしっこのせいですごい出費になるよぉ!!)
 実習中だからお給料が出なくて、今の私にはすごい負担なんだよね。
けどそんなことよりも早くおしっこがしたくてたまらない。
んでもう運転手さんに気づかれても仕方ない。
私はじっと座っていられなくなって、身体をクネクネ、足をスリスリしながら、ほんとにもう必死でおしがましてましたとも。

 やっとマンションの玄関に着いたらさ、料金は4千円近くになっていた‥‥。
5千円札を出しておつりをもらう時間がすごく長く感じられて、
「もうおつりはけっこうです!!」
 なんて言って飛び降りたかったけど、そこはさらに我慢を重ねてさ、震える手でおつりを受け取ったわさ。
そして思い切り前屈みの格好で、しかもすり足状態で、ポケットにつっこんだ手で栓をしながらマンションに入っていく私。
幸いなことにエレベータは1階に停まっていてくれた。
思わずエレベータさんありがとうってお礼を言いたくなったよ。
んで自分の階まで誰とも会わずに戻って来れて、廊下にも人影がないからって、もうポケットから出した手はしっかりとコートの中に入れてスカートの上から押さえ込んてたよぉ。
(あぁ‥あ〜ちゃんに電話してドアを開けてって頼んでおいたらよかったあっ!)
 バッグから部屋のカギを取り出すのがもどかしくて、身体を揺すりながら、足踏みしながらだから、なかなか取り出せないのね。
やっとの事でカギを取り出したんだけど、手が震えているからうまく鍵穴にさせなくて開けられないの。
そんなことでモタモタしているもんだから、もうおうちに着いたと思いこんで安心したんだろうね、水門の番人が少し栓をゆるめちゃったみたいで、ジュ‥‥ってあふれ出してしまったの。
(やべえっ!!)
 なんて叫びそうになって、思わずその場にしゃがみ込んだ私。
靴のかかとでその水門をしっかりガードして、さらなるあふれ出しと必死に戦う由衣ちゃんはけなげだったよぉ!。
 んでなんとか波が収まるのを待って身体を起こして、もう夢中で鍵を開けたのね。
ドアをガチャガチャやってたから、中にいたあ〜ちゃんが不審に思ったのか玄関先まで来ていた。
「おぅお帰り。早かったなあ。」
 何も知らないあ〜ちゃんはのんきにそんなことを言っていたけど、そのときの私はそれに答える余裕なんかまったくなくて、
「ごめんおしっこぉっ!!」
 って叫びながら、あ〜ちゃんを押しのけるようにして中に飛び込んでいったのね。
もちろんショートブーツなんか脱いでいられなくて土足のまま。
廊下にバッグを勢いよく放り投げて、コートとスカートを一気にめくり上げながら右手にあるトイレのドアを勢いよく開けたのね。
「!!!」
 なんでこんなときに限って便座のふたが閉めてあるのよぉつ!?
もうおしっこは出始めているのに、ふたを開けなければ‥‥腰掛けられないよぉ!!
‥‥けどその動作は私にはもう無理‥‥だった‥‥。
バシャバシャ‥‥ってトイレの床におしっこが跳ね出してしまったんだもん‥‥。
パンツ穿いたまま、立ったままでおしっこが出ちゃったんだよぉ!!
それでも今さらだけど‥ふたを開けて、おしっこしながらそこに腰掛ける私。
パンツを通しておしっこはだんだん勢いを増しながら、ジュイ〜って変な音と一緒にどんどん出てくるのね。
「はぅう‥」
 私ったらそんなため息をついてたみたい。
ドアを開けっ放しだったもんだから、あ〜ちゃんには一部始終を見られていたし、パンツは台無しになるし、トイレ掃除はしなければならないし、もうさんざん‥‥。
教授のいる前で居眠りしてしまった代償がさ、ずいぶんなものになってしまったよ。

 そんなこんなで相変わらずのおしがま由衣ちゃんでありました。
けど、おうちまで我慢できてよかったよぉ‥‥。



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