3月末に事業本部から出頭命令があって、電車に乗って久しぶりに本部の門をくぐったら、そのまま会議室に通されて待たされること1時間。
周りはかすかに顔ぐらい知っているかな‥程度の、(たぶん)中堅管理職らしい人を含めて15人ほどいて、不安と不快な気分でおとなしく待っていると、ゾロゾロとお偉いさんたちが入ってきて、待たせた事に対して何のお詫びもないまま、すぐに本題に入っていったのね。
初めのうちは会社の展望とか組織の再編なんかの話で、私には無縁な内容で、なんでここに呼ばれたんだろうって場違いな空気がのしかかって来てね、とても息苦しかったんだよ。
そしたら次の話でビックリ!
4月1日から5日間行われる新人研修会に世話係として出なさいってさ。
新人研修会かぁ‥私が受けたのはもう何年前だったろうね。(忘れた。)
東京本部はつくばだったけど、こちらは神戸六甲山の研修センターね。
悪い表現をするなら、どちらも車がないと逃げ出せないような環境になっているのよさ。(笑)
研修に関係する人だけ残って、スケジュール表とかメンバー表を渡されたらね、なっなんと!!、その中に優里亜がいるのっ!
今回から途中採用者も一緒に研修を受けることになったんだって。
あは‥いやだなぁって思っていたのにさ、優里亜が一緒なら‥‥っていろんな悪いこと(?)が頭に浮かんできてさ、なんか急に楽しくなってきた私だったの。
4月1日午前10時、本部の大会議室で合同の入社式が行われて、その足で貸し切りバス2台に分乗していざ六甲山!!
今年度は病院部門が拡充しているので、メンバーの7割ぐらいが看護師とかコメディカル関係みたいでね、総勢80名もいたんだよ。
私はバスの中でも案内役をやらされて、
「えっと‥後ろの方の方、私のこと‥見えますかぁ?」
って、わざと身体をかがめたりしてさ、クスクスって笑いを誘ったのね。
みんな緊張した感じで静かに座っているから、気持ちをほぐそうと思ったのね。
関西では会話がボケとツッコミで成り立っているから、とにかくまず笑わせることから始まるのよさ。
ほんとは私の足は震えていたんだけど、あ〜ちゃんから仕込まれた冗談なんかも交えて、なんとか和ませようとしたんだけど、まぁ‥‥半分以上はスベってしまったのよさ。
やっぱり笑いのセンスがないあ〜ちゃん仕込みはダメだあっ!
その頃は私も元気よかったんだけど、30分ぐらい走ったあたりでおしっこがしたくてたまらなくなってきたのね。
まぁ‥ほんとはバスに乗り込むときから少し尿意はあったんだけど、私は朝早くから本部に詰めて、やれ式の準備だ手配だお茶だって走り回っていて、そのままバスに乗り込んだもんだから、起きたときに行ったきりおしっこしてなかったわけ。
この日は小雨まじりの肌寒い日だったから、それも影響してる‥‥。
ちょうどそんなときに前を走るバスから連絡が来て、このまま直行するけれど、もしトイレ休憩の希望があれば申し出てくださいって事になったのね。
私は内心ホッとしてたのに、だ〜れも手を挙げない!!
入社式のあとすぐに出発してるから、トイレに行きたい人がいてもいいはずなのに。
‥‥そうなんだよね。
私が研修を受けた何年か前のあの時も、知らない人たちとバスに乗っていて、不安と緊張ですごくおしっこしたかったのに、どうしても自分からはその事を告げられなくて、目的地までずっと我慢してた‥‥。
木下朋美も同じようなことを言っていたなぁ。(朋美の場合1参照)
きっとこのバスの中にも、ほんとはおしっこしたいのに、恥ずかしくてそれを言い出せない人がいるんだろうな。誰かが言ってくれるのを待っている人がいるんだろうな‥‥、私自身が今そうだから。
そう思ってそ〜っとみんなの顔を見て回ったけど、別段せっぱ詰まっているような感じの人はいなかった。
ひとりポツネンと座っている優里亜と目があったけど、彼女は私のことを冷やかすように笑っていたなぁ。
「こちらは大丈夫です。」
前のバスにそう告げた私。もう我慢し続けるしかないもんね。
あと30分ちょっと‥‥。
12時少し過ぎた頃に研修センターに到着して、ロビーで部屋割りの説明と、これからのスケジュール表なんかを配っていったん解散したらね、あは‥やっぱり先にロビーのトイレに並ぶ光景があったよぉ。大きな荷物を持ったままね。
私はなぜかひとり部屋だったからそのまま大急ぎで直行して、無事に午前中のおしっこを済ませることが出来たとさ。
食堂で遅い昼食を済ませた新人たちは、バスの中と比べると少し和んだ雰囲気になっていてね、あちこちで小さな会話が生まれていた。
それから最終日の5日夕方まで、彼らは朝の8時から5時まで、ビッシリと厳しい研修を受けるのね。
中には六甲山中のマラソンまであったよ。
優里亜と私は立場上、昼間は全くの他人を装っていたけど、夜の自由時間になったら同室の21歳の臨床検査技師、あかねちゃんを連れて私の部屋にやってきたりしてた。
優里亜の部屋は4人部屋で、うち2人が看護師なので、他の仲間たちの居る部屋に行ってしまって、優里亜とあかねちゃんは浮いていたみたいだよ。
今年度の検査技師はひとりしか採用していないようだから、このあかねちゃん、優里亜がいなかったらほんとにひとりぼっちだったかもね。
んで、悔しいんだけどさ、なんて言うのかなぁ、彼女、若い頃の浜崎あゆみみたいな、バービー人形みたいな、すっごくかわいい子なのね。
優里亜もけっこう美形の方だけど、あかねちゃんはお人形みたい。
私と優里亜に流れる(おしがまの)血が彼女にあるのかどうかは、この時点では分からなかった。
最終日の夜は庭に出て鉄板焼きとバーベキューね。
私が研修を受けた時もそうだったけど、最終日の夜はお酒が解禁になるのね。
ただこの日はすっごく寒くてさ、私は事務服にカーディガンだけで、おまけに生足だから寒い‥‥。コンロ係の人が逆にうらやましかったよ。
職務上の特権を使って優里亜とあかねちゃんがいるテーブルに陣取って、寒さに耐えながらまずはビールで乾杯!!
‥‥この最終日、私は優里亜と密かに交わした約束っていうか、目的行動があったのね。そう‥‥それはおしがま競争。
暗黙のうちに直前にしっかりとトイレに行って、出来るだけ同じようにビールとか飲んでいって、どちらが先にトイレに駆け込むかって言う‥‥、周りの人が知ったら、きっとバカじゃないのって言うような競争‥‥。
優里亜たち研修生はみんなジャージ着用なので、その下に何を着ているか分からない。
事務服で生足ハイソってとっても不利な気がするけど、気候のせいなんかにしたくない私は、威勢よくビールをあおったりしていたのよさ。
数少ない男の子たちはホスト役になって、入れ替わり立ち替わり女の子たちにビールを注ぎに来たり肉を取り分けたり、私にも愛想を振りまいていたなぁ。
あかねちゃんもけっこう飲んでいたみたいだよ。
30分ぐらい過ぎた頃からおしっこしたい感じがフツフツとわき上がってきて、たぶんそれは優里亜も一緒なんだろうけど、お互いに牽制しあいながら、またビールを口に運んだりして‥‥、とにかく先にトイレに行くのだけはイヤだって念じながら、表面上はごく普通にお話なんかしてたんだけど、寒いからかなぁ、なんかいつもよりかなり早い段階ですっごくおしっこしたくなってしまって、さぁどうしたもんかなぁって思っていたら、あかねちゃんが席を離れようとしてるのに気がついたのね。
「あかねちゃん、どこ行くの?」
私よりも先に優里亜が声をかけた。
「え、あ、ちょっとおトイレ‥‥」
聞くまでもない返事が返ってきたんだけど、そしたら驚いたことに優里亜のやつがすごい意地悪な言葉をぶつけたんだよね。
「なに言ってるの。由衣先輩がまだ行ってないのに先になんてダメだよっ!!」
「え‥?」
「えっ!?」
私まで思わずそう口にしていたよぉ。
あかねちゃんは困ったような顔で私の方を見たけど、私はその時どういうリアクションをすればいいのか分からなくて、
「ん‥えっと、そ、そうだよ。何事も先輩からって研修で習わなかった?」
なんて訳の分からないことを言ったら、
「ほらね。まず先輩に先に行ってもらってからだよ。」
って、優里亜が私を促すのね。
そっかこいつめ、うまいこと言って私を先にトイレに行かせようとしてるんだ。
それがわかった私は、その手には乗らないぞって思ってさ、あかねちゃんには悪いけど
「う〜ん、私はまだ行きたくないなぁ‥」
って言ってのけたのよさ。
あは、優里亜は見破られたぁって感じで苦笑いしてる。
あかねちゃんもそれが冗談だと分かっているようで、ケラケラ笑うのね。
それだったらふたりに追い打ちをかけてやろうって、そばにいる男の子たちに、
「ほらぁ男子たち、ふたりのお嬢さんのグラスとお皿が空いてるよぉっ!!」
なんてけしかけてやったんだわさ。
たちまちふたりは複数の男子たちに囲まれてビールを注がれ出した。
隣の席からも男子がやってきたりしてね、さっきまでは他よりも静かな一角だったのに、急ににぎやかなテーブルになってしまってさ、そのあおりで私まで次々に注がれる事になって、結果的にやぶ蛇になってしまった‥‥。
おかげで私も優里亜もあかねちゃんも、トイレに抜け出すタイミングがまったくなくなってしまったわけ。
もうね、ほんとにじっと立っていられなくて、自然に足がソワソワしてしまうぐらいおしっこがパンパンになっているのにね。
私がそんなだから、たぶんおしがま経験が少ないだろうあかねちゃんは、きっと死ぬ思いで我慢していたんだろうね。
顔はけっこうニコニコしていたようだけど、人よりも低い視線でふと見るとさ、暗い人陰に紛れるようにして、左足はかかとを浮かせてヒザをクネクネ回してるし、手はおへその周りをしきりにさすってるのね。
(あかねちゃん、もうやばいんじゃないかなぁ‥‥?)
相手が優里亜だったらさらに追い打ちをかけるところだけれど、かわいい新人をそこまでいじめちゃいけないもんね。
なんとか助け船を出そうと思った優しい由衣ちゃん。
けど‥こんなときに顔を出さなくてもいいのに、視察に来ていた本部長までが、
「お、ここは盛り上がってるなっ!」
なんてノコノコやってきたりなんかして、その取り巻きたちもがゾロゾロついてきて‥‥もう最悪!!
私自身がおしっこしたくてたまらないのに、あかねちゃんがこれ以上耐えられるなんて思えないじゃん。
人の隙間から様子をうかがうと、やっぱりもう笑顔はなくなっていて、身振りは小さいけど完全におしっこダンスしてる‥‥。
何とかしてあげたいけど、私も誰かお偉いさんに話しかけられていて、
(ひぇえ〜、おしっこちびる〜〜〜〜!!)
なんてほんとにそう思いながら、上の空で生返事してる状態だったのね。
ビールでパンパンになったおなかがさすっごく重たく感じて、じっとしてたら蛇口が一気に開いてしまいそうなんだもん。
すっごく長く感じていたけど、実はほんの1分ほど過ぎた時にね、私に話しかけていたお偉いさんに電話がかかってきてね、そこで話がとぎれたもんだからこれ幸い。
私はすぐにあかねちゃんのところにすり寄って、男の子に囲まれている間に入り込んで、
「ごめんね、あかねちゃんちょっといい?」
って、さも用事があるような感じで声かけて、何も言わずに手をつないで玄関に向かって歩き出したのね。
早くおしっこしたくて走りたいんけど‥走れない。
もどかしくてたまらないけど、とにかくできるだけ身体に刺激が伝わらないように、すり足のような感じでロビーに入っていったのよさ。
そこへ優里亜も追いついてきて、
「ずる〜い。ふたりで抜け駆けするな〜!」
なんて、少し酔ってるのかな、けっこう大きな声でそう叫んでた。
まぁとにかく‥おしっこしたくてたまらない美女3人が、必死の思いでロビーのトイレを目指して駆け込んできた訳だけど、圧倒的に女子が多い今回の研修なもんだから、案の定、そこの女子トイレは外にまで4〜5人の列が出来ていた〜!!
たしか個室は2コしかなかったと思うのね。
中に少なくとも3〜4人はいるから、今から並んでもおしっこ出来るまでにかかる時間は‥‥なんてもう考えてられなくて、事実あかねちゃんは身体を丸めてうずくまるような感じになっていて、もうとても無理みたい。
「由衣ちゃん、大会議室の奥(のトイレ)は?」
3階の部屋まで駆け上がろうかと思っていたら、優里亜がとっさにそう言ってくれて、私は返事をする前にもう歩き出していたのよね。
廊下の一番端まで行かなければならないけど、たしかにそこは穴場だ‥‥ったのに、やっぱりみんな考えることは同じみたいで、そこも2個ある個室の外に3人いたっ!!
けどもうここしかないじゃん。
私は最悪ズラしょんでなんとかなるけど、優里亜もあかねちゃんもジャージだから面倒だろうなぁ‥って思って、ハッと気づいたの。
「あかねちゃん。ジャージのひも!!今のうちにっ!!」
もうしっかりと手をおまたに挟んでいるあかねちゃんに、そうアドバイスしてあげたんだわ。
あかねちゃんは言われて初めてそれを認識したみたいで、おしりを後ろに突き出すような格好でひもと格闘を始めたのね。
もちろんそれは優里亜も一緒。
ふたりともかなり焦っていたみたいだけど、特にあかねちゃんは真っ青になっていたよぉ。
やっと片方の個室が空いて、私と優里亜はあかねちゃんにそれを譲ったのね。
ヨロヨロと個室に入ったあかねちゃん。
バタン‥ガサゴソガサゴソ‥ジュビッ‥ジュビ‥ジュババババ‥‥って感じで、あかねちゃんのおしっこの音がトイレ全体に広がったよぉ。
それを聞いたら痛いぐらいに膀胱がシクシクしてきて、もうたまらない。
次が空いたら、もう優里亜に負けを認めて飛び込もうかって思ったんだよね。
けど優里亜に、
「由衣ちゃんごめんっ、わたし先行かせてっ!」
って思い切り身体を揺すりながらそう言われたもんだから、イヤだって言えないじゃん。
あかねちゃんのおしっこがまだ終わらないうちに、もう片方の個室が空いて、優里亜はそこへ飛び込んでいったのね。
はぁ‥試合に勝って勝負に負けたって言うのはこのことだよね。
並んでいる人が誰もいなくなってトイレで、私はふたりのおしっこの音を聞きながら、おもいっきり手でおさえつけていたもんね。
で、まぁズラしょんしてなんとか事なきを得て、廊下に出たらふたりがニコニコしながら待っていてくれた。
「あかねちゃん、大丈夫だった?」
「あ、はい‥なんとか‥。」
「ごめんね、むりやり我慢させちゃったね。」
「あ、いえ‥けど、こんなに我慢したのって中学生のとき以来かなぁ‥」
「へぇ、中学生の時そんなことがあったんだ!?」
「あはは‥今思い出しても恥ずかしいですよぉ。」
「ふ〜ん‥」
由衣ちゃんの触覚がうずき出したのは言うまでもない。
絶対にそのお話を聞き出すぞ〜!!
それはさておき、新人研修はこうして無事に(?)終わって、みんなそれぞれの部署に配属になっていったのね。
優里亜はあれ以来、あかねちゃんと仲良くやってるのね。
私も今度一緒に遊びに行く予定だから、うふ‥またいいお話が‥紹介出来るかなぁ?