知佳の思い出(1)




 小原由衣のいる会社の寮は、6畳ほどのワンルームマンションであるが、最上階の一室だけが和室の8畳であった。
ここは娯楽室として使われたり、時には会議の場としても使われていた。

 土曜日、この部屋を使って有志がパーティーを開いた。
もちろん由衣も参加している。
姉から衝撃的なおしがま話を聞いて、身体を熱くしていた日からちょうど1週間目であった。
「ねえみんな、修学旅行ってさ、どこ行ったの?」
由衣の投げかけに、みなノッてきた。
地方出身者が多いため、修学旅行の行き先もまちまちで、披露し合うことで盛り上がっていく。
もちろん由衣も、中学、高校の旅行の話を披露したが、おしがま部分は触れずにいた。

兵庫県から来ている梅垣知佳。
彼女の高校時代の思い出話は、由衣にとって印象深いものであった。
由衣がある意味で期待していた「おしがま」な旅行であったのだ。

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 梅垣知佳は神戸にある私立の共学に通っていた。
修学旅行は南九州と東北地方とに別れ、知佳は行ったことがない東北地方を選んだ。
2年生になったばかりの5月下旬、知佳たち150名ほどは、夕方大阪駅に集合し、寝台特急「日本海」に乗り込んだ。
知佳にとって初めての寝台列車であった。
二段式のベッドも新鮮に思え、楽しい修学旅行の始まりであった。
「なんかロマンチックだねえ。」
それぞれ持ち込んだお弁当を食べながら、同じ一角で眠る4人の女子は興奮気味であった。

 金沢を過ぎたあたりで消灯の知らせが来た。
男女入り交じってゲームをしたり騒いだりしていた面々も、渋々それぞれのベッドに散らばっていった。
「梅垣、トイレ行こ!」
仲のよい百合に誘われ、知佳はトイレに向かった。
列車に乗り込んで初めてのトイレであった。
かなり前から尿意を感じていた知佳。
前から意識していた男子が遊びに来ていたことから、気が引けて今まで我慢していたため、かなりの尿意になっていた。
洗面所と向かい合わせに個室が二つあり、その両方に数人の女子が並んでいた。
「え!!」
知佳は驚いた。
列車の走行音に混じって、シャラララ〜と、女子独特の放尿音が聞こえてくる。
(やだ、丸聞こえじゃない!)
幸い男子の姿はない。
それでも知佳はとまどった。
かといって利用しないわけにもいかず、知佳はできるだけ力を入れて、勢いを押さえて放尿しようとした。
しかし揺れる列車のトイレでは、思うように力を入れることが出来ない。
ややもすると左右に揺れてはみ出しそうになる。
(あ、だめだぁ!)
あきらめた知佳は込めていた力を抜いた。
男女兼用のそれは、ちょうどしゃがんだお尻の下あたりに、ゴムで出来た排出口があり、おしっこが当たる部分は金属だけであった。
勢いよく跳ねる音が響いてしまい、知佳は赤面した。
(やだなあ・・・)
まだ恥じらいが抜けきらない知佳の、おしがま旅行は始まったばかりであった。

 翌朝、青森に着いた一行は、バスに乗って下北半島を回り、青森そばの小さな温泉に宿泊した。
男女が入り交じって夜遅くまで騒いでいたが、特に大きな問題もなくその夜は更けていった。

 次の日、知佳たちを乗せたバスは、青森市内を回ったあと八甲田山へと向かった。
その展望台は強い風にあおられ、短いスカートは前を押さえれば後ろが、両脇を押さえれば前後が浮き上がり、女の子たちはなすすべがなかった。
おまけに粉雪混じりの風が体温を奪い、素足でいる知佳たちの尿意も高まっていた。
誰一人としてコートなどを用意している者はいなかった。
 展望レストランで昼食をとり、長蛇の列ができる前にトイレを済ませることができた知佳は、暖かいバスの中で全員が揃うのを待つことが出来たが、それが裏目に出てしまうことをこのときは知らなかった。
 予定時刻を30分近く超え、ようやくバスは走り出した。
目指すは十和田湖。
 いくつかの峠を越え、奥入瀬渓谷(おいらせけいこく)に着いた。
ここから子の口(ねのくち)までは徒歩で散策であった。
「かったるいなあ!!」
「小学生の遠足じゃないんだからさあ!」
あちこちでブーイングが起こっている。
よく晴れた日であったが、渓流添いに歩く遊歩道は木陰に入ると肌寒く、きれいな新緑を堪能することが出来なかった。
そう、知佳はこのときすでにかなりの尿意を感じていたのだ。
八甲田山を出て少し走った頃から、知佳は軽い尿意を感じ始めていた。
展望台で早くにトイレを済ませたため、最後に用を足した子から比べると、すでに30分近く多くの時間が経っていることになる。
冷えた体は、急速に次の尿を作り出していた。
(ギリギリでトイレに行った方がよかったなあ・・・)
(この道、トイレって・・あるのかなあ・・・?)
まだ余裕はあったが、知佳は落ち着かない。
景色を見ているのではなく、知佳の目はトイレを探していた。
しかし渓流の遊歩道には、それらしい建物などはない。
時々吹き付ける風からスカートを守るような仕草で、知佳は下腹部をそっとさすったりして歩いていくしかなかった。

 1時間ほど歩いて、十和田湖畔の子の口にたどり着いた。
限界とまでは行かないものの、知佳は一刻も早くトイレに行きたい。
「船の時間があるから全員直ちに乗り込めっ!」
先頭の教師が怒鳴っている。
元々予定時刻を遅れた知佳たち一行は、奥入瀬渓谷のだらだらした歩みで更に時間が遅れ、遊覧船に乗る時刻までをも狂わせてしまっていた。
「えー、私トイレ行きたいー!」
「私もー」
「俺もー!」
あちこちでトイレ休憩を求める声が聞こえた。
(よかった。私だけじゃない・・・)
知佳は妙な親近感を持った。
しかし教師からは冷たい言葉が返ってきた。
「時間がないんだ。乗ってからにしろっ!」
怒鳴り散らすように教師は言って、到着した者から順に遊覧船に乗せていこうとしている。
どうやら最終の遊覧船時間であったようだ。
知佳は真っ先に乗り込んでトイレを済まそうと思った。
(・・・!!)
トイレの表示は見えない。
(上の方にあるのかな・・・?)
狭い階段を駆け上がり、上のデッキに出てみた。
(・・・!)
さほど大きくない遊覧船。
最上階のオープンデッキ。その下の指定席デッキ。
更に下の座席デッキ。
そのどこを探してもトイレの表示はなかった。
(うそっ!)
知佳は青ざめた。
 二隻の遊覧船に全員の乗り込みが確認されると、船はすぐに出航した。
とたんに風が強まりスカートが舞い上がる。
「ねえ百合、トイレってあった?」
知佳は不安になり、スカートの裾を押さえながら、そばにいた百合に尋ねた。
「あ、それがねえ、私も探したけど・・・」
二人がヒソヒソと話していると、
「先生うそつきーー! トイレないじゃないーっ」
誰かの大きな声が聞こえてきた。
「え、まさかこの船・・・!」
「うん、トイレってないみたいだよね。」
「うっそぉ、どうしよう!」
「梅垣も行きたいの?」
「うん、歩いているときから我慢してたの。」
「私もさあ、もうパンパンなんだよ。」
百合はそう言ってお腹をさすっている。
「せんせいートイレー!」
「40分ぐらいだ、がマンしろっ」
「ひっどーい!」
「トイレ行きたーい!」
あちこちで女子が騒いでいる。
男子が一緒にいるにももかかわらず、こういった声が出ると言うことは、みなかなりの尿意に耐えているということであろう。
多くの女子たちは少しでも寒さを和らげようと、座席デッキに移動していった。
知佳も百合と一緒に移動したが、すでに満席で通路までふさがっており、入ることも出来ないので、ドアのくぼみに身を寄せて風をしのぐことになった。
入りきれない男女がかなりいたようで、船の後方デッキは混んでいた。
遊覧船は波しぶきをたてながら、休屋(やすみや)に向かっている。
女性の声で観光アナウンスが流れているが、誰一人として聞いてはいないようであった。
5月の十和田湖。
短いスカートに素足の女子。
ただでさえ冷えている知佳たちの体に、追い打ちをかけるかのように、冷たい風が吹きつけてスカートに入り込み、おしっこでいっぱいの下腹部を直撃していった。
(どうしよう・・もし我慢できなくなったら・・・)
知佳の顔から血の気が引いていた。
うつむいて下腹部をさすっている百合も、唇が紫色になっていた。

 湖の中央あたりまでくると、湖面の風はいっそう強まり、八甲田山の展望台の時のように、押さえていてもスカートが舞い上がる。
髪の乱れを直そうと手をやると、短いスカートはその役目を果たさずに、ふくれあがっていた。
(つぅ・・おしっこしたい!)
冷たい鋼鉄製のドアにもたれかかっている知佳の体は、寒さと尿意とで先ほどから小刻みにふるえている。
膝をすり寄せ、腰も落ち着きなく左右に揺らしていた。
いや知佳に限らず、傍らでうずくまってしまった百合や、多くの女子たちが、激しい尿意と戦っているようであった。
しゃがみこんでいる子。
ピョンピョン飛び跳ねている子。
ベンチに座ったままうなだれている子。
ひたすら膝をさすっている子。
中には、すでに股間に手をやっている子までいた。
男子も同じで、落ち着きなく動き回っていたが、知佳たちの船には圧倒的に女子が多く乗り込んでいたためか、その行動は控えめでもあった。
しかし
「あーションベンしてえ!」
「一番うしろでやっちまおうか!」
と、男子がそばで言っているのが聞こえ、知佳は身震いした。
(下品なこと言ってぇ、もう!)
そう思いながらも、すでに知佳に余裕はない。
もう男子の目を気にしていられない状況にまで追いやられていた。
(ああ・・もうダメかもしれない・・・)
極力男子に見えないように体の向きを変え、前屈みになりながら股間に手を入れる知佳。
そのときドアが中から開けられようとした。
体勢を崩された知佳は、必死でその場を少し移動した。
うずくまっていた百合も立ち上がって動かざるをえない。
中から青白い顔をしたクラスメイトが3人顔を出し、
「あぁ梅垣、ねえ、どこか隠れる場所ない?」
と聞いてきた。
すでに3人は限界状態なのであろうか、股間に手をやったままである。
「・・ないよ、そんなところ・・・」
知佳が答えると、
「どうしよう、もう我慢できないよ・・・」
「最悪ぅ!」
「漏れちゃうよぉ!」
3人は顔を見合わせて途方に暮れたようにうつむいていた。
(隠れるところがあったら・・私もしたい・・・)
(男子だけ前の方に集めて・・・女子はここでさせてくれたら・・・)
そんな思いをよそに、船は風を切って進んでいた。
「梅垣ぃ・・私ダメかもしれない・・・」
百合が涙声で言った。
体をくの字に曲げて、膝頭をさすっている百合。
つきだしたお尻部分のスカートは風でめくれあがっていた。
「こんなに我慢するの・・生まれて初めてだよ・・・」
「・・わたしも・・・」
知佳にとっても、これほど我慢した経験はない。
法事で家族と田舎に行ったときの渋滞でも、かなり我慢したことがあるが、今ほどの悲壮感はなかった。
知佳の下腹部は、異常なほどパンパンに膨らんでいる。
それはズキズキと脈を打っていた。
「ねえ、みんなで・・ここでしちゃおうか・・?」
百合の言葉に誰も返事をしない。
いや、誰もがすでにそのことは思い描いていたであろう。
しかし男子がいる状況下で、それが出来ることではないこともわかっていたのだ。
なんとか気を紛らわそうと、知佳は他のことを考えようとしてみた。
が、ものの数秒もすると、悲鳴を上げている膀胱の主張に負けてしまう。
(少しだけ・・少しだけ出しちゃったら・・楽になるかな・・?)
(そっとだったら気づかれないよね!?)
(やっちゃおうかなぁ・・・?)
(でも・・途中でとめられなかったら・・・・)
(だめだ・・一気に出ちゃいそう・・・)
(あっ、指定席デッキ・・・だれもいないんじゃ・・・)
(あそこのシートに座って・・・)
(あぁダメだっ、鍵がかかっていて入れないんだった?)
(あ・・もう漏れちゃいそう・・・)
(やっぱり・・・ここでやっちゃおうかなぁ・・・)
(誰か・・先にやっちゃう人いないのかなぁ・・?)
(あ、あそこの救命ボートの中・・・)
(やだ、男子がいる・・・)
(ああ・・おしっこしたいぃ!!)
考えることはすべておしっこのことばかりになってしまっている知佳であった。

「・・皆様お疲れ様でございました。当遊覧船はもまもなく・・・」
アナウンスの声が下船が近いことを告げた。
「やったっ、もう着くんだ!」
あちこちで歓声があがった。
(よかった、まにあったっ!)
そう喜んだ知佳の股間に、急に熱いものがあふれてきた。
(え、いやっ、だめぇ!)
到着を知って気がゆるんだ瞬間をねらって、溜まりきったおしっこのあわて者グループが飛び出してしまったのだ。
必死で足を閉じ、股間を強く押さえつける知佳。
「梅垣・・大丈夫?」
力無く百合が聞く。
「う・・・ん・・」
「私ね・・もう・・少しだけ漏れちゃったよぉ・・」
百合も知佳と同じなのか、うなだれながら言った。
「真っ先に降りてトイレ行こうよ!」
百合はそう言うと、前屈みのまま知佳を促してタラップの方へ移動しようとした。
もうスカートがどうなっていようと気にする余裕は全くない。
男子が見ていようとおかまいなしに体をくねらせ、知佳と百合は接岸を待った。
あっという間に女子が集まってきた。
皆が目指す場所は一カ所。
(はやくはやく!!!)
あせる知佳。いや全員。
接岸し、桟橋が渡されると、知佳たちは一斉に船から飛び出した。
後ろで教師がなにか叫んでいるが聞こえない。
乗船待合室に飛び込んだ一団は、チケット売り場横のトイレにと走った。
先頭を取った知佳と百合は、3カ所ある個室の手前側二つにそれぞれ飛び込んだ。
すぐ後を走っていた子も、ほぼ同時ぐらいにその奥の個室に飛び込む。
あふれ出しかかっている流れを気力だけで押しとどめ、ドアを閉めた知佳は下着に手をかけると全身の力を抜いた。
しゃがむ途中から、しゅーーという音と共に、すごい勢いで飛び出すおしっこ。
「はあ・・」
と、全身に走る電気のような感覚に、思わず出てしまうため息。
その直後に、ドンドンと激しく叩かれるドア。
「おねがい、早くしてーっ!」
その声は叫び声になっていた。
極限を超えるまで我慢していた知佳のおしっこは、いっこうに弱まることがなく、いつまでも「しゅ〜〜」と出つづけ、激しく便器にあたり、しぶきがルーズソックスにまで飛んでいた。
(はあああ・・・・)

知佳が個室から出ると、順番待ちの列は待合室にまであふれていた。
さながらタップダンスの練習場のように、靴音が響いている。
二隻目の船も着いたようで、後から後から駆け込んでくる女子。
「早くしてーっ」
「たすけてー!」
「お願い、先に行かせて!」
「やーよ、私だってもう!」
「ねえ、他にトイレないのぉ!?」
「男子の方・・借りようよ。」
「いやよ、かっこわるいじゃない。」
「向かいとかのおみやげ屋さん行こうよー!」
「そうだ、行こう!」
「待ってっ、もう動けないよぉ!」
「ダメ、もう我慢できないぃ!」
騒がしく叫び、隣接するお店などに駆け出す者。
トイレの中では、
「もうペーパーがないよー!」
「やだー、私もってないー」
「私もー!」
「だれか持ってたら貸してー!」
「私もういいっ、もう限界!」
「えーっ、どうすんのー!?」
悲惨な戦場になってしまった待合室。
知佳は冷たくなってしまったパンツを気にしながらも、真っ先に解放された喜びを味わっていた。
 百合と待合室を出ると、後から着いた船から隣のクラスの女子5人が下りてきた。
教師がしきりに船の係員に頭を下げている。
女子たちも何か謝っているようだ。
そばに来たとき、
「どうしたの?」
知佳が尋ねた。
「あはぁ、やっちゃたあ!」
「え、なに?」
「おしっこ!」
「え・・?」
「船でね!」
「ええっ!船の中でぇ!?」
「うん、一番上のデッキで!」
「漏らしちゃったのぉ?」
「ちがうよ。我慢できないからさ、5人で輪になって・・・」
「わぁっ!」
「みんなが降りるの必死で待ってさ!」
「ふうん・・・」
「でさ、してるところを船の人に見つかっちゃってさ!」
「やだぁ!」
「見つかったけどさ、止められないじゃない。」
「男の人だったの?」
「うん。しっかり見られた!」
「最悪ぅ!」
「だってさ、漏らすよりはいいじゃない!」
「怒られたでしょう?」
「緊急避難ってやつよ。」
「・・?」
「女の子だから許された訳!」
「そうなの・・?」
「でもデッキは水浸しだったよねえ!」
「はは・・・」
「ティシュは持って行ってくれってさ!」
「やあん・・」
そう言って5人の女子は手に丸めたティッシュを見せびらかしながら笑っていた。
「恥ずかしいマネをするなっ」と、教師に頭をたたかれていたが、なおも笑いは消えなかった。

 あとで聞いたところによると、おもらしという悲惨な状態に至った子はいなかったようであるが、この女子5人をはじめ、土産物店の裏手と駐車場の大型バスの陰で数人が青空放尿したとのことであった。
土産物店の奥の林では、数人の女子がしているところに男子が来てしまい、罵声を浴びせられた男子が飛んで逃げたとも聞かされた。
 いずれにしても、知佳のように下着を濡らしてしまった女子は、数え切れない人数に上っていたと思われるが、誰一人としてそのことを口にする者はいなかった。
しかし入浴の際、誰もが隠れるように下着を脱いでいたことから想像しても・・・。

 知佳はこの旅行中、意識していた男子から告白を受け、よりいっそう楽しい旅行になっていたが、その男子の前での「おしがま」がつづき、旅行から帰った時、膀胱炎になってしまっていた。


つづく

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