ある日の事・・・




 1月2日の夕暮れ、小原由衣を乗せた車は、見慣れた町並みから少し離れた郊外を走っていた。
運転している高木敦史(あつし)は、楽しそうに語りかけているが、由衣の緊張はほぐれていない。
(・・もうすぐ着くのかなあ・・・)
由衣は高まる緊張を解きほぐす手だてを持っていなかった。

 御用納めの後かたづけをしていたとき、由衣は敦史から突然、1月2日にうちにおいでと言われた。
由衣の勤務先は、正月であっても出入りの業者があるため、この日由衣は日直当番であった。
 就職が決まったとき、実家からの通勤だと1時間以上かかる事から、職員寮に入ることを進められた由衣であった。
 正月を実家で過ごした由衣はこの日、朝早くに実家を出て勤務に就くことにしていた。
そこへ敦史が迎えにくるというものであった。
 つきあいだしてまだ数ヶ月だというのに、彼の両親たちに会わせるという敦史の言葉に、由衣は心の準備が出来ないうちに今日を迎えてしまい、待たせている敦史に気を遣いながら、大急ぎで着替えて車に乗ったのであった。

 かなり小柄な由衣は洋服選びが難しく、7号サイズでも大きいため。あまり多くの服を持っていない。
身体にフィットする服は、ややもするとキッズコーナーの方が探しやすいぐらいの体格であった。
 白いハイネックセーターに紺色のカーディガン。チェック柄のウール地スカート。素足に白いソックスという、まるで高校生の普段着のような格好になってしまった。
(どうしよう・・こんな格好じゃ恥ずかしいなぁ・・・)
 車が進むに連れて、由衣の緊張はますます高くなる。
もうひとつ緊張しているものがあった。
由衣はあわてて着替えたため、出る前にトイレに行くことを忘れてしまっていたのだ。
午後の3時頃に勤務先で行ったきりであったため、敦史の車に乗り込んだ矢先に、軽い尿意を感じだしたのだ。
高まる緊張が、尿意をますます募らせて、由衣の心臓は今にも飛び出しそうなほど、強い鼓動を打っていた。

 配属された総務部で、由衣は慣れない仕事に手間取り、泣きたくなるほどつらい思いをしていたが、そんなとき、いつも優しく指導してくれる敦史に出会った。
敦史は経理課の所属であったが、由衣たちの新人指導員でもあった。
あまり恋愛経験のない由衣は、いつしか敦史に惹かれていく。
 敦史もまた、アンバランスで不思議な雰囲気を持った由衣に興味を持ち、何度かデートを重ねるうちに、これまでにない新鮮さを感じ、7歳年下の由衣に心を奪われていった。
 敦史は家族と同居。由衣は寮生活。
ふたりが体を求めるときは、いつもホテルしかなかった。

 敦史の家は車で20分ほど走った住宅街のはずれに、経理事務所の看板があがった店舗住宅という形で建っていた。
 居間に通されたとき、由衣は崩れ落ちそうに座り込んだ。
両親、敦史の兄とそのフィアンセ。敦史の妹、その5人の視線を一気に浴びてしまったのだ。
 かなり広い和室の居間は、フローリングのキッチンとつながっており、真ん中に大きなテーブルが陣取って、その上には鍋料理の材料やビールが並んでいて、宴の始まりを待っているようであった。
 由衣は震える声で自己紹介すると、気さくな父親が、
「堅苦しい挨拶はいいから、さ、すわってすわって!」
と、由衣を席に着かせた。
それぞれの自己紹介をしながら、しゃぶしゃぶ料理の宴がはじまった。
 由衣は敦史の横ではなく、彼の妹の横に座っていた。
妹と言っても、由衣よりも3歳上の24歳である。
立場がなくて落ち着かない由衣だが、妹が何かと気を使ってくれて、時間とともに少しではあったがうち解けるようになっていった。
 敦史の兄はこの3月に結婚して同居。父親の事務所の跡を継ぐとのことであった。
妹は市内のホテルの経理で働いている。
この家族は経理一家であった。

 かなり広い居間ではあるが、鍋物ということで蒸気がこもり熱くなる。
由衣はついついビールを口にしていた。
 妹が由衣にビールをつぎながら、
「下の兄貴と結婚したら、私は年上の妹になるね!」
と言った。
「え・・・!!!」
唐突な妹の言葉に、由衣はほほが熱くなるのを感じた。
(結婚!!!!)
考えたことがないわけではない。
出来ることなら彼と!!
そう願っているのは事実であった。
しかし、まだつきあいだして数ヶ月のふたり。
結婚などまだまだ先だということもわかっていた。
恥ずかしくて言葉を返せない由衣であった。

 宴も終わり、母親とフィアンセのふたりが片づけ始めた。
「あ、お手伝いします。」
立ち上がりかけた由衣に、
「いいからいいから、お客さんはゆっくりしてなさい。」
敦史の父親の言葉に、母親とフィアンセも、
「ゆっくりしててね。」
と、由衣に気を使うかのように言った。
 由衣は手伝いたかった。
手伝うことで席を立ち、トイレに行くチャンスを作ろうと思っていたのであるが、気を使われたことで、かえって身動きがとれなくなってしまったのだ。
 由衣の尿意はピークにさしかかっていた。
なんとかトイレに行くタイミングをつかもうと、あれこれ考えてみたが、由衣の周りには、敦史とその父親、兄がいるだけであった。
妹は携帯電話を持って、先ほどから姿が見えない。
 初めて訪れた彼の家で、しかも男性陣の前でトイレに立つことは、膀胱が破裂寸前であっても、由衣にはできない。
足もしびれていて、泣きたくなっていた。
 気さくな彼の父親は、由衣にリラックスさせようとしてか、何かとしゃべり続けていたが、由衣は「はい」「はい」と返事するのが精一杯で、会話はかみ合っていなかった。
(おしっこしたい・・・)
由衣はそのことばかり考えていたのだ。
気まずさに拍車をかける尿意。
由衣は焦っていた。

 そこへコーヒーが運ばれてきた。
もうこれ以上水分はとりたくない!
由衣は、しびれた足を組み直して、かかとでおしっこの出口あたりを押さえるような体制に身体を直し、うつろな目でテーブルに置かれるコーヒーを眺めていた。
そのとき、
「俺の部屋見せるよ。」
と、敦史が言って立ち上がった。
由衣はホッとした。
とにかくこの場からは離れられる。
しびれた足をなだめながら、由衣も立ち上がり、母親が差し出したお盆に二人分のコーヒーカップを乗せて、両親たちに軽く会釈をすると、彼を追うように居間から出た。
 暖かな居間から出ると、廊下はひんやりとしていて、由衣の尿意は一気に高まった。
しびれが完全にとれきっていない由衣は、階段を上る足下がおぼつかない。
コーヒーをこぼさないように、さらには、おなかに力が加わらないように、そろりそろりと階段を上っていった。

 和風な感じの一階と違い、二階は洋風作りになっていて、彼の部屋は八畳ほどのフローリングで、壁一面の本棚に難しそうな本や天体関係の本がぎっしり並んでいた。
机の上は、デスクトップパソコンと散乱した雑誌の山で、さわれば崩れ落ちそうなほどであった。
ベッドはなく、マットレスが敷かれている。
由衣はそのマットレスに腰を下ろし、小さなガラステーブルにコーヒーを乗せたお盆を置いた。
マットレスが低いため、膝の高さよりもお尻が沈み、ミニではないが、膝が少し出るぐらいの丈のスカートは大きくずり上がった。
身体をくの字に曲げるような格好は、膀胱を強く圧迫する。
由衣はあわててフローリングの床に座り直した。
 エアコンを入れたばかりの部屋は寒い。
冷たいフローリングが、素足の由衣には辛かった。
ゾクッとふるえがくる。
(ああ・・おしっこしたいよぉ・・・)
敦史の家族からは解放されたものの、ふたりきりになると意識してかえってトイレを口にしにくくなった由衣。
敦史は散乱した机の上から何冊かの雑誌を取り出し、由衣に語りかけてきた。
(ねえ、おしっこしたいよ。気づいてよぉ・・・)
由衣は敦史が気づいてくれることを祈るかのように身体を揺らしていた。
その弾みで、肘がコーヒーカップに当たり、ガチャッという音とともにひっくり返してしまった。
幸いカップは割れたりすることなくテーブルの上にとどまっていたが、コーヒーはこぼれ落ちて、床と由衣のスカートを濡らしてしまった。
「あっ、やけどしなかったか!?」
あわてて敦史がティッシュの箱を渡してくれた。
由衣は熱さよりも恥ずかしさが勝っていて、半泣きになりながらティッシュの箱を受け取った。
「大丈夫か!?」
「ごめんなさい・・・」
「やけどは!?」
「ううん、大丈夫。」
「ほんとか、ちょっと足出してみろ!」
「大丈夫。やけどしてない。」
床にこぼれたコーヒーの量は多く、ティッシュでは拭き取れない。
ちょうど膝の上あたりにこぼれたコーヒーは、素足の由衣を直撃していたが、さほど熱いとは思えなかった。
スカートにコーヒーのシミが広がっている。
敦史が階下にダスターを取りに降りて行った。
残された由衣は、自分の落ち着きのなさが情けなく、彼の家での失敗が恥ずかしくて、あふれてくる涙を止めることが出来なかった。

 敦史の妹が部屋にやってきた。
「スカート、シミになるから脱いで!私の貸すから。」
「え、あ・・はい。」
「私の部屋においで!」
妹は由衣を向かいの部屋に導いた。
由衣はあわてて涙を拭き、妹の後についた。
 妹の部屋は、敦史のそれとは違い、柔らかなオフホワイトの壁に包まれて、ウサギのぬいぐるみが所狭しと並んでいた。
大きいものは由衣の背丈ほどのものもあった。
妹はクローゼットからデニムのスカートを取り出すと、
「ちょっと大きいと思うけど、我慢して!」
と、由衣に手渡して廊下に出た。
 濡れた部分が冷えたスカートを脱ぐと、両方の膝の少し上あたりが赤くなっている。
今更になって、少しヒリヒリとした感じがしてきたが、由衣はそれどころではない。
ハプニングで一瞬忘れかけていた尿意が、大きな波となって襲いかかってきた。
スカートを脱いだ下腹部は、自分でも驚くほど丸く膨らんでいて、思わずその場にしゃがみ込みたい衝動を、必死の思いで抑えていた。
 手渡されたスカートは、確かに大きく、ホックを止めてもずり落ちそうで、思わず手で押さえてしまう。
背の高い妹にはミニなのかもしれないが、由衣には、ちょうど膝が出るぐらいの丈になった。
(あぁ・・おしっこしたいっ!!もうガマンできない!!) 由衣はあわてた。
 そっとドアを開けると妹と敦史が待っていた。
「あは、やっぱり大きかったねえ!」
妹が笑いながら由衣の脱いだスカートを受け取ろうとした。
「あ・あの・・トイレに・・・」
由衣は敦史に聞こえないように。そっと妹に耳打ちした。
「ああ!!」
妹は軽く首を縦に振ると、こっちと、階段を降りるように促した。
由衣は敦史に、
「あの・・ちょっと行ってきます。」
と伝えると妹に続いて階段を降りた。
さほど急な階段ではないが、膀胱が破裂寸前まで膨らんでいる由衣には、一段一段が恐怖の連続である。
ずり落ちないようにスカートを押さえている手が、いつしか前の方に回ってしまった。

 トイレにつくと、まるでお決まりのようにそこは使用中であった。
敦史の父親である。
「ありゃあ、親父だよ。長いし臭いからなあ・・・」
由衣はめまいを起こしそうになった。
最後にトイレに行っってから、もう5時間もたっており、その間にかなりのビールとお吸い物などを飲んでいる。
やっと解放できると思ったのに、まだ我慢しなければならないとは・・
自宅ならお風呂にでも駆け込める・・・。
前屈みになり、足を小刻みにすりあわせている由衣を見て、察知したのか、
「事務所のトイレ行く?」
と妹が言った。
「え、あ・・はい・・」
洗濯かごに由衣のスカートを入れると、妹は手招きして事務所につながる廊下の方へ歩き出した。
(よかった!!もう一つトイレがあるんだ!!)
由衣は安堵の表情を浮かべ、そそくさと妹の後についた。

 ひんやりとして人気のない事務所に明かりをつけると、いくつかの事務机が並んだその奥に、給湯設備と並んでトイレがあった。
「すみません・・・」
恥ずかしさも忘れて、由衣は前屈みのまま、片手で前を押さえながらトイレのドアを開けた。
 冷気がいっそう尿意を高めて、今にもあふれ出しそうな恐怖と戦いながら、由衣はデニムのスカートの裾を一気にまくり上げ、ショーツを膝の下まで下げて洋式便器に腰を下ろした。
 ひんやりとしたホーローの冷たい感触が大腿部に伝わり、ビクッとふるえ、ずっとこらえていた熱い流れがあふれ出し、おしりの方へ伝った。
次の瞬間、シィーという、かすれたような音が狭いトイレの中に響き、その流れは一気にシャラララ・・と便器をたたき出した。
冷えた身体からあふれ出す勢いは強く、由衣に開放感をもたらす。
由衣はこの感触が好きであった。
背中がゾクゾクするような、ジーンとしびれてくるような、そんな感触に酔いしれていた由衣。
ふと我に返った。
ドアの外には妹が待っている。
音消しもせずにおしっこしている自分が恥ずかしくなった。
が、今更どうする事も出来ない。
 いつ終わるともしれない流れがようやく勢いをなくし、ポタポタといくつかのしずくを便器に落とした。
音の出るものがなくなったそこは、ウソのように静まりかえった空間であることに、改めて気がつく。
そのまま後始末を終えて水を流し、手を洗っておそるおそるドアを開けると、やはり妹はドアのすぐそばに立っていた。
照れ笑いをする由衣に、
「そんなに我慢してたんだ。すごかったよ!」
と笑って言った。
女同士でも、こればかりは恥ずかしい。
由衣は、
「緊張しちゃって・・・」
と、はにかみながら妹のあとについて母屋に戻っていった。

 居間では母親とフィアンセが、ミカンを食べていた。
事務所の方から入ってきたふたりに、母親が怪訝な顔で聞いた。
「あら、どこに行っていたの?」
「トイレ!由衣ちゃん、ずっと我慢してたみたいでさ・・。」
あっけらかんと言いながら、妹は母親たちの向かいに腰を下ろした。
由衣は照れ笑いしながらその横に座った。
「ああ、気がついてあげられなかったわね。ごめんなさいね。」
母親が気の毒そうに由衣の顔を見ながら言った。
「あ、いいえ・・・」
由衣はそれだけ応えるのが精一杯であった。
「そういえばさあ、私も面接の時さ・・・」
妹がミカンの皮をむきながら話しだした。
「そうねえ、私も・・そういつだったか・・・」
母親も思い出したようにしゃべり出すと、フィアンセもまた、いくつかの話を披露した。
 妹は就職の面接で待ち時間が長く、寒い控え室で冷えてしまって辛いおしがまをした事。
母親は、婦人会のバス旅行で渋滞に巻き込まれ、立ち寄ったパーキングエリアの女子トイレがいっぱいで、男子トイレを女性陣で占領した事。
フィアンセは学生時代、スキーバスが雪に埋まり、女の子数人で遙か向こうの林まで、2回も行った事。
みなそれぞれにおしがま経験があることを言い合って、笑いながら盛り上がっていた。
 由衣は親近感を持った。
(みんなおしがましてるんだ。よかった!)

 由衣が初めておしがまに目覚めたのは、中学を卒業した春、先輩との初デートの時であった。
思春期の由衣は異性の前でトイレに行くことが出来ず、辛い思いをしたのである。
幼い頃からいつも女の子とばかり遊んでいた由衣は、外でおしっこすることに違和感を持っていなかったが、そんなある日、
「男の子に見られたら恥ずかしいよ!!」
と姉に言われたことで異性に目覚め、立っておしっこできる男の子とは違う自分を意識してしまったのであった。
そんな由衣が、先輩の前でトイレに行けるはずもなく、死ぬほど恥ずかしく辛い我慢をしたわけだが、そのことがきっかけで、トイレに対して意識過剰になってしまったのであった。
 敦史とつきあいだした今でも、彼のことを好きになればなるほど、由衣はトイレに行く事が出来ない。
ついつい我慢してしまい、恥ずかしいおしがまを見られてしまっていた。
「由衣ちゃんも外でトイレ我慢したことあるでしょ?」
敦史の妹に語りかけられたとき、由衣はまさにそのことを思い出している最中であった。
思わず敦史とのことをしゃべってしまいそうになって、あわてて気を取り直し、小学校の遠足の時などの、ごくありふれた経験をしゃべっていた。

 そのころ敦史は、自室で賃貸住宅の雑誌を広げて、由衣が戻ってくるのを待っていた。
しかし20分たっても戻ってこないので、どうしたのかと不審に思っているとき、階下から女性陣の大きな笑い声が聞こえてきた。
(なにやってるんだよ、あいつ・・・)
兄が結婚し、二階部分に住むことになったので、敦史と妹はこの家を出ることになった。
妹は去年の暮れに部屋を決め、あとは引っ越しするだけになっていたが、敦史はまだ何も決めていなかった。
由衣と一緒に部屋探しをしようと決めていたからだ。
だが、まだ由衣には何も言っていなかった。
今日、そのことを言って驚かせようと思っていた敦史だが、由衣が居間で談笑している事を知り、すっぽかされたような気分でおもしろくなかった。
しかし、母親や妹たちと楽しそうに笑っている様子を感じて、
「ま、今度にするか!!」
と、雑誌を放り投げ、自分も参加しようと階下に降りていった。

 居間の戸を開けると、すでに敦史の兄と父親も座っており、母親がお茶とビールの用意をしていた。
由衣の横に座った敦史は、食事の時のような緊張した顔ではなく、ニコニコして話に聞き入っている由衣を見て、
(この娘は笑ってる顔がいちばんかわいいなあ・・・)
と満足げに思うのであった。

 再び始まった小宴会は、とりとめのない話やバカ話が次から次に飛び出し、男兄弟がいない由衣にとって、ひと味もふた味も違った家族の楽しさを実感させるものであった。
 しかし、敦史と由衣のつきあいに関する内容は出てこなかった。
由衣にしてみれば、なれそめなどを聞かれるものと思っていたのだ。
まったくそのような話にならなくて、少し寂しくもあった。
もっとも聞かれたら聞かれたで、それは恥ずかしいのだが・・・。

 いつの間にか11時を回っていた。
気がついた由衣が、
「あの、私そろそろ・・・」
と敦史に言うと、
「今夜は遅くなったから泊まって行きなさい。」
父親が驚くことを言った。
「そうねえ、みんなお酒を飲んでるから車では送れないし・・」
母親も同調するような言い方をする。
「あ・・いえ、明日また実家に帰るので・・・」
由衣は小さな声で断りを入れる。
「でも、タクシーも無いかも知れないし・・・」
母親がなおも言ったとき、
「泊まっていって兄貴とエッチしたら?」
妹がとんでもないことを言った。
ここの家族はビックリすることを、割と平気で口にする家族である。
「これ! 下品な事を!!」
叱っている母親の顔も笑っていた。
由衣は真っ赤になりながら敦史の顔を見たが、敦史も笑っていた。
 考えてみたら、何度も外泊をしている敦史である。
その時由衣が一緒であることは、もう誰もが知っている訳で、そう思うと、由衣はさらに恥ずかしくなり、早くその場を抜け出したくなった。
「国道に出たらタクシーも拾えるから!」
敦史が助け船のように言ってくれ、ようやく帰る方向に話がまとまり、
「俺、タクシーまで送ってくるよ。」
と言って席を立った。
由衣は両親の方に向いて正座し直し、
「今日はありがとうございました。とても楽しかったです。」
と、お礼を言った。
「ああ、またいつでもいらっしゃい!」
父親が目を細めて返してくれた。
「スカート、クリーニングに出しておくわね。敦史に持たせるから。」
母親が言った。
「あ、すみません・・・」
スカートのことを忘れかけていた由衣は、あわててお礼を言った。
「会社でクリーニングしたスカート渡したら、みんな驚くよ!!」
妹の言葉に、全員が苦笑して、玄関がにぎやかになった。

 外に出ると、暖かかった室内との気温差が身にしみる。
妹から借りているスカートが大きいため、コートの上から押さえながら歩かなくてはならない。
車での移動しか頭になかった由衣は、素足であることを悔やんでいた。
と言うのも、敦史の家を出た瞬間に強い尿意を感じてしまったからだ。
(あ、やばっ! トイレ行きたい!!)
あれからまたお茶を飲んだりしていた。
楽しいおしゃべりに時間も忘れていたが、尿意のことも忘れていたのだ。
(どうしよう・・トイレ借りようかなぁ・・・)
(でも・・・今更言うのも恥ずかしいなぁ・・・)
(だけど・・ガマンできるかなぁ・・・・・)
由衣は、引き返してトイレを借りたいぐらいに尿意が高まっている事にうろたえてしまった。
 振り返ると、もうすでに50メートルほど敦史の家から離れていた。
玄関先で母親がまだ手を振っている。
由衣は何度もおじぎを繰り返し、やはり今更言えないと感じ、敦史の腕にしがみつくように、暗い住宅街を歩き出した。
(でも・・・ほんとにやばいなあ・・・おしっこしたいぃ!!)
(あ・・出ちゃいそう!!)
由衣の不安は広がっていく。
 百メートルほど前方に、かなり大通りらしき車の流れる道が見える。
仮にすぐにタクシーが見つかっても、それから寮まで約20分。
(そんなに我慢できるかなあ? もしすぐにタクシーがなかったら・・!?)
素足の由衣をいじめるかのように、時々冷たい風が通り抜ける。
そのたびに由衣はブルッとふるえながら、しがみついている腕に力を入れた。
「寒いか?」
見下ろすように聞く敦史に、
「うん、すごく・・・」
力無く応える由衣。
敦史は着ていたジャケットを脱いで、由衣の肩に着せた。
「あ、ありがとう。でも・・寒くないの?」
「イヤ、寒いけど、君よりましかもね。」
敦史の優しさが伝わってくる。
「ありがとう・・でも・・・」
「ん、でも?」
「寒いのは足のほう・・・」
「ああ、生足だからな。」
「素足の方が好きって言ったじゃない!!」
「ああ、」
「だから素足でいるんだよ。」
「ああ、いい子いい子!!」
身長差が30センチ近くあるため、敦史はよく由衣の頭をなで回すことがあった。
今もそうやって、右手で由衣の頭をなで回した。
「ちょっとぉ、そういう子供扱いしないでよぉ!」
尿意に耐えている由衣は、ちょっとの振動でも辛い。
子供扱いの動作に対して反発したいが、今はそれどころではなかった。
コートのポケットに左手を入れ、スカートを押さえるような仕草で、実はしきりに下腹部を押さえていたのだ。

 大通りに出て左に曲がると、前方にミスタードーナツの明かりが目に入った。
由衣は思わず叫ぶような声で言った。
「ねえ、あそこでコーヒーブレイクしていかない!?」
「えっ・・いいけど・・時間大丈夫か?」
「うん、5分でいいから・・・」
「え、5分!?・・・ははあ!」
「・・・」
由衣が尿意に耐えていることを敦史は悟った。
由衣は急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
今まで我慢していたことを知られてしまったのだ。
「ひょっとして・・やばいのか?」
「・・・ん・・」
「うちで済ませてくればよかったのに!」
「だって・・・先に出たくせにぃ!」
「トイレ行くって言わないからさ!」
「だって・・・聞いてくれなかったじゃないよぉ!」
「子供じゃないんだからさぁ!!」
「だって・・・」
店が近づいてくると、かなりの人が店を出入りしている様子が見えた。
「満席だったりして!」
「ちょっとぉ、そういうこと言わないでよぉ!」

敦史の意地悪な発言は当たっていた。
狭い店内は、テイクアウトの客も含めて混雑しており、順番待ちの人が数人、店先で固まっている。
(うそぉ、これじゃあトイレだけ借りることも出来ない!!)
由衣は身体の力が抜け落ちそうになった。
「どうする、並んで待つ?」
「・・ううん、行こ!」
「え、でも大丈夫なのか?」
「・・ん・・・」
「ほんとに?」
「・・・ん・・コンビニとかファミレスとか・・・ないの?」
「ないよ、このあたり。」
「え・・・?」
あたりを見渡した。
国道沿いのそのあたりは、中古車センターや夜は無人のビルが立ち並んでいて、店舗らしき明かりはほとんどない。
わずか一軒、セブンイレブンの明かりが見えていたが、それは遙か向こうの、しかも反対側であった。
道路は中央分離帯があり、交通量も多いから横断できない。
信号まではかなりの距離があるようであった。
「・・・・!」
由衣を恐怖がおそった。
(ああ・・どうしよう・・もうガマンできそうにないのに・・・)
店先で躊躇している間に、別の客が数人店内に入っていった。
 国道の広い空間に出たことで、風はいっそう強く感じられ、鳥肌が立っている由衣の素足をいじめてくる。
じっと立っていることが出来ない由衣は、しきりに足をすりあわせていた。
(どうしよう・・恥ずかしいけど・・トイレだけ借りようかなぁ・・)
途方に暮れた由衣に、
「あ、そうだ、この先に公園があるけど!」
敦史が助け船のような事を言った。
「えっ、どこどこ!行く行く!!」
もうすでに限界近くまで尿意をこらえている由衣にとって、この際公園でも交番でもよかった。
歩き出す敦史の腕に、両方の手でしがみつく。
借り物のスカートが脱げ落ちそうになった。
あわててウエストあたりを押さえながら、
「ねえ・・遠いの・・?」
由衣は気が気ではない。
敦史のうちで一度トイレに行ったとはいえ、あれからもう3時間以上も経っており、その間にお茶を飲んだりしている。
おまけにこの寒さの中を素足である。
由衣はまた、左手をポケットに入れて、前を押さえる事になった。
「次の角を曲がったその先!」
敦史の言葉に由衣は『もう少しでトイレに行ける!』
そう思った時、急に大きな波におそわれて立ち止まってしまった。
「くぅ・・・」
声にならない声で小さく叫んで、敦史の腕に回した右手に力が入る。
「大丈夫か?」
「・・・ん・・」
もし彼がいなくて、しがみつくものがなければ、由衣は今の大きな波に負け、その場にへたり込んでいたかもしれない。
由衣の息づかいが荒くなってきた。
吐く息が白い。
再び歩き出すふたりだが、由衣の足取りは重く、敦史に引きずられるような感じになった。
「お・・お願い、もっとゆっくり・・歩いて・・・」
焦る気持ちとは反対に、由衣は歩く事が苦痛になっていた。
一歩一歩が限界までふくれあがった膀胱への刺激となって伝わってくる。
すり足のような歩き方に変わっていた。
「はぁ・・・はぁ・・・」

 路地を左に曲がりしばらく行くと、表通りの騒音が嘘のように聞こえなくなり、住宅が建ち並んでいる。
その前方に小さな公園らしき木立が薄明かりの中に見えた。
「あ、あそこね!!」
「ああ。」
幸いトイレらしき建物は、公園の手前側にあった。
公園の周りは低い柵で囲まれていて、その周辺は植え込みがある。
入り口は少し離れたところにあるようであった。
由衣には入り口まで歩いていく余裕がない。
柵をまたいで乗り越えようとした。
が、足を上げようと開いたとき、
「!!!」
下腹部に熱い何かを感じた。
(うそぉ!!)
許容量いっぱいの膀胱から、足を開いたその瞬間に、わずかではあるが飛び出してきたものがあった。
由衣は思わず両手で股間の奥を押さえ、前屈みで立ち止まってしまった。
敦史は何も言わずに手を差し出した。
由衣は気を落ち着かせ、波が去るのを待ってから、ようやく公園の植え込みの中へと足を踏み入れることが出来た。
「ね、誰もいないかなあ?・・怖くない?」
薄暗い明かりがついた夜のトイレは怖い。
せっぱ詰まった尿意の由衣でも、警戒なしに飛び込むことは出来なかった。
「見てきてやるよ。」
敦史が由衣から離れて、小走りにトイレに向かった。
両手で前を押さえながら由衣がヨロヨロと続く。
トイレの中を見回した敦史が顔を出して、
「大丈夫、誰もいない・・けど・・・」
「・・けど!!?けど・・なあに!!?」
屈伸運動のような仕草で、由衣は荒い呼吸をしている。
「うん、個室の電気が切れてるよ。」
「え、つかないの?」
「ああ。」
「使えないの?」
「いや、電気が切れてるだけだから・・・」
「いい、もうガマンできないもん!!」
ピョンピョン跳びはねるようにしながら由衣は言った。
「おねがい、ちょっと離れていて、そばに来ないで!」
由衣は叫ぶように言うと、敦史が肩にかけてくれたジャケットを放り投げるように返し、トイレの中に駆け込んだ。

 そのトイレは、男子用の便器が二つと、個室が一つの小さなもので、それなりに清掃が出来ており、汚いイメージではなかった。
個室のドアを開けると、よく目にするホーロー製の白い便器ではなく、新幹線のトイレような金属製の和式便器が薄暗い中に見えた。
が、確かにドアを閉めると、真っ暗に近かった。
ドアの下に出来た、ほんの数センチの隙間から入る光は、個室内を照らすには全く役に立っていない。
天井にも隙間はあるものの、少し離れた手洗い場にある蛍光灯の光だけでは、うっすらと天井の梁が見える程度であった。

 由衣は再び恐怖に襲われた。
(こんなところではイヤ!!)
自分が便器に対してほどよい位置にいるのか、それすらも確認できないほど暗かった。
とまどっている由衣。
靴に砂が着いたために、足をすりあわせるたびにジャリジャリとコンクリートの床に音が響く。
頭の方はすでに排尿準備が完了しており、今にも膀胱括約筋をゆるめようとしていた。
(あああっっまだよ!まだよ!!)
あわてた由衣は決心し、ショルダーバッグを背中の方に回すと、コートのすそと一緒にスカートを持ち上げた。
厚手のコートを着たままの状態でするトイレはやっかいである。
たくし上げても、重みですぐに垂れてくるし、コートの丈が長いので、かなり上げなければならない。
なんとかコートをたくし上げることができ、ショーツに手をかけようとしたそのとき、外にバイクの音が迫ってきた。
トイレのすぐそばで徐行したようだ。
ドキッとした由衣は、一瞬手が止まってしまった。
(やだっ!誰かくる!!!)
四つ角での徐行であったが、由衣にはそれが恐怖に感じら、すりあわせていた足も止まってしまった。
一気に心臓がドキドキと高鳴る。
が、その衝撃が引き金となってしまい、こらえ続けてきた熱いものがあふれだしてしまった。
あわてた由衣は、一気にショーツを引き下ろし、真っ暗なトイレの中にしゃがみこんだ。
 我慢しすぎたためか、それとも恐怖のためか、ちょろろ・・ちょろろ・・
と小刻みに垂れ、お尻の方に伝うだけで勢いが出ない。
縮まろうとする膀胱が痛みを伴ってきた。
おしっこしたいのに、スムーズに出せない・・・。
はがゆくなった由衣は気持ちを落ち着けようと、スッと息を吸い込んだ。
それを待っていたかのように、シュルルルルルという音とともに、勢いのある本流が流れ出した。
ドロロロロ・・・
由衣のおしっこが金属の便器にはねる音が響いた。
時々横に飛び出すのか、ピチャピチャとコンクリートにはねる音も聞こえる。
左の靴のあたりである。
しぶきであろうか、ソックスごしに熱いものを感じた。
由衣はあわてて、しゃがんだままで少し体を右にずらした。
ジャリジャリと、コンクリートに靴を引きずる音がした瞬間、今度は便器の前にある水たまりに、勢いよくはねるジョボボボ・・・という音が響いた。
真っ暗な個室のため、自分の位置すらわからない。
そう、水を流したいが、水洗のレバーすら見えないのだ。
 ふとコートが気になって、背中に手を回してみた。
幸いコートは垂れ下がることなく、おしりの上にとどまっていた。
呼吸によって勢いが変わるのか、由衣のおしっこは時々音色を変えながら、水をたたく音と金属製の便器をたたく音が交互に響き、背中がゾクゾクする感覚に包まれていた。

 どれぐらいの時間が過ぎたのであろう。
ずいぶん長かったように思う。
ようやく勢いがなくなったおしっこは、小さくドロロロ・・と由衣のお尻の下の金属に当たる音に変わり、やがて無音状態になった。
「はああ・・・」
由衣は思わず大きなため息をついた。
 こんなに落ち着かないトイレをしたのは初めてかもしれない。
由衣は開放感も味わえないまま、背中に回したショルダーバッグをたぐり寄せ、中からポケットティッシュを取り出そうとした。
手探りである。
後始末をして、ショーツに手をやると、やはりかなり濡れていた。
さらにティッシュをつまみだし、とりあえず水分をしみこませようとしたが、持っていたティッシュがなくなってしまった。
備え付けのペーパーを手探りで探してみた。
左の壁でカランとホルダーが手に当たったが、ペーパーは空であった。
仕方なく由衣は立ち上がり、濡れたままのショーツを履くと、冷たい感触がお尻全体に広がって身震いした。
 暗闇の中で身支度をして、そっとドアを開け、わずかに入る光で便器の周りを見回してみた。
やはりしゃがむ位置が少し左寄りだったのか、便器の左端のコンクリートの床におしっこの水たまりを作ってしまっていた。
ふと足元を見ると、左の靴が少しぬれている。
ソックスも少し湿ったような感触であった。
 水洗レバーは便器の前ではなく、やや左前方に、横向きで備わっていた。
水を流したあと、ドアを全開にし、手洗い場の方を向くと敦史が立っていた。
「42秒!!」
「え??」
「すごい勢いだったね。42秒もかかったよ。」
「え、やだ聞いてたのぉ!?」
「聞こえたんだよ。」
「そばに来ないでって言ったのにぃ!!」
「聞こえたんだって。こんな静かなところだし。」
「じゃ・・何でトイレの中にいるのよぉ!!」
「バイクが走ってきたろ。だから・・思わずさ・・・」
「だからって・・なんで時間まで計るのよぉ!!」
「水風船博士だって計ってるじゃないか!」
「あっくんは博士じゃないもん!、変態!!」
「おおっ!そういうことを言う!?だったらもう送ってやらない!」
「人でなし!こんな夜中にレディーをひとりにする気!!」
「レディー? どこにレディーがいる?」
「目の前にいるじゃんかぁ!!」
「おおっ、小さくいて目に入らなかった!!」
「小さくても立派なレディーだよ!」
「へへん、作りは子供並だよ!」
「ぁ・・・・」
「・・え・・??」
「・・・」
ハンカチで手を拭いていた由衣の動きが止まった。
敦史も固まってしまった。
二人の間に、しばらくの間、冷たい空気が流れた。
由衣は涙目になって敦史を見つめている。
「ごめん・・言い過ぎた・・・。」
バツ悪そうに敦史は、由衣のそばに寄ってきた。
「やっぱり子供っぽい身体はイヤなんだね・・?」
吐き捨てるように言う由衣に、
「いや、そうではなくて・・・」
敦史は言葉に詰まってしまう。
「なあ、機嫌直せよ。俺が言い過ぎた!」
「・・・」
「な!」
「私って美人?」
「はあ!?」
「美人?、きれい?」
「いや・・美人というよりも・・」
「美人じゃないんだ!」
「んー、かわいいって言うか・・・」
「きれいでもないんだ!」
「いや、だから・・・かわいいっていうか・・・」
「かわいいって、子供ってこと!?」
「あ、いや、だから・・・俺にとってかわいいという・・・」
「あっくんにとってかわいいの?」
「ああ、ちょび・・・」
「え?」
「ちょびっと・・・」
「なによそれぇ! ちょびって・・ちびってこと!!??
「いや・・ちょっと美人っていうか・・・その・・」
「もうっ あっくんキライ!!」
「さっきからあっくんあっくって・・」
「え・・・?」
「俺はおまえより7歳も年上だぞ!」
「おまえおまえって言わないでよ。名前で呼んでよ!」
確かに由衣は今日まで、敦史のことを名前で呼べなかった。
いつも「ねえ、」とか「ちょっと」であった。
どさくさに紛れて、いつの間にかあっくんと言っていたのだ。
同時に、敦史にも「由衣!」と呼んでほしかった。

くだらない言い合いをしながら歩いていると、
「そんな小さな体のどこに貯まるんだ、あれだけ!?」
と、また敦史がおしっこの話を蒸し返してきた。
「エッチ!!」
「別にエッチじゃないだろ! 医学的に・・・」
「スケベ!!」
「あのなあ、あの公園につれて行ったのは俺だぞ!」
「・・・・」
「あっこにに連れて行かなかったらどうなってた?」
「・・・・」
「今頃はもう・・・」
「わあ!! 言わないでぇ!!」
「おもらししてるぞ、また。」
「あ・・またって・・・」
暮れの忘年会の後、由衣は敦史のいたずらで、お漏らしさせられていた。
「私に・・おもらしさせたい・・・の?」
「いや・・それはない!!」
「ん。よかった・・・」
「今度は博士のように量をはかってやるよ。」
「やだ!!絶対イヤ!!!」
「なんで?」
「何でもイヤ!!」
「一度だけだよ。」
「死んでもイヤァ!!」

 大好きな敦史に、おしっこの音を聞かれ、おまけにその時間まで計られて、由衣は恥ずかしくてたまらなかったが、その恥ずかしさが実は、由衣にはある意味で快感になっていた。
おしっこを我慢しながら甘える自分。
いつしか由衣は、そんな自分に酔っていくのであった。

 この夜ふたりは、タクシーに乗ることなく、由衣の寮まで1時間半ほど歩き続け、その間ずっと、くだらない言い合いをしていたのであった。
歩き疲れて寮にたどり着くころ、由衣はすでに3目の尿意におそわれていたが、敦史は気づくことなく別れた。
高木敦史が帰宅したのは、午前2時を回っていた。


つづく・・・の?

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